よみもののきろく

(2004年10月…050-062) 中段は20字ブックトーク。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
050. 「夢幻戦記F 総司征西譜(上)」     栗本薫
2004.10.4 続き物 208P 1999年10月発行 ハルキノベルス ★★★★★

さて、前巻よりさらに発行ペースが落ちて、
半年後に出版になってしまったシリーズ第7巻です。

序章が終わり、ようやく新徴組が出来て
京都に出発さ!ってところです。
まだ歩き出したとこだけど。
とにかく、細かに出発までの成り行きが
描かれております。この辺の細かさは
他の書籍にはなかなかないものだなあと感心。
ちょっと読んでみたかった細かさでもあります。
でもまあ、お陰でいつもどおり、ちっとも話が
進まないのさ。こういう作風なんだね。うん。
でも人気があるのはやっぱり、
こうやって遅々として進まなかろーが、
もっとマニアックに、細かく読みたい!って
凝り性な人(?)が世間には意外に多いってことかしら。
かく言う菜の花も、はまりこみな人間のひとりか。ふむ。


ところで土方さん、鈍いのか鋭いのかちっとも分からない。
普通は小説のキャラってのは、鈍いのはとことん鈍いし、
鋭いのはとことん鋭いものだと思うんですけど…。
実際の人間は確かに、鋭い部分もあれば
見当はずれなこともやったりする、それが普通なんでしょうけど。
小説のキャラですからね、それじゃ人がつかみにくいから
普通は極端に描写されるのでしょう。
それをあえて実際に即そうというのは
リアルな試みで結構なことだと思うんですが
これって心理描写の道に相当長けてないと
十分な成果をあげられず、
中途半端になりがちなことですから、ちょっと微妙。




菜の花の一押しキャラ…猫の黒 「そんな、ぬれぎぬです。ひどい。」(藤堂 平助) 何となく。 よみもののきろくTOP
051. 「四季 夏 The Four Seasons - Red Summer」     森 博嗣
2004.10.5 長編 262P 2003年11月発行 講談社 ★★★★★
13歳の天才少女・四季が起こした事件。

さてさてさて、森博嗣デビュー作「すべてがFになる」で
大活躍(?)の真賀田四季の少女時代のお話をまとめる
「四季4部作」の第2作目を読ませて頂きました。
実は菜の花、「すべてがFになる」では
ヒロインらしき萌絵などより、
圧倒的に真賀田四季がお気に入りキャラでありました。
いや、むしろ四季ファンと言っても過言ではないくらい
彼女にははまりました。ほんとに。

という訳で期待の高まるこの4部作ですが、
またも第1作から読んでないのは、図書館で
すでに他の人に借りられていたから、という
代わり映えのしない理由であります。この辺、痛いなあ。

ではブックトークから参ります。


【40字ブックトーク】
真賀田四季13歳。
「すべてがFになる」で触れられなかった真相が今、
明らかになる! (40字)


【100字ブックトーク】
米国から帰国した真賀田四季は13歳。
すでに、真の天才として世間に知られている。
再会、誘拐、そして…。孤島の研究所で何が起こったのか?
「すべてがFになる」で触れられなかった真相が今、
明らかになる! (97字)


そんな訳で、四季の13歳のときの「あの事件」の真相が
語られちゃいます。「すべてがFになる」読者なら
ほーう、と思ってつい読みたくなる一品かもね。

さて、評価。
突然ですが、毒吐きますよ?

これ、1つの独立した作品としてはつまんないです。
だって起承転結ってものが殆ど感じられないんだもん。
ほけーっと始まり、ぼけぼけなまま進行し、
ラストでどーんと来て、おしまい。
どんでん返しとか、別に何も用意されてないし、
推理のかけらもない。恋愛小説としても読めない。
一体、何のジャンル?と聞かれても答えようがない。

結局、何が書きたかったんだ?と考え込み、
単にこの作品は以前の作品の裏事情を説明し、
その時間的・空間的ギャップを埋めるためだけに
存在しているのだな、としか思えない。

ちょっと感じが栗本薫に似ている。

まあ、とりあえず、四季ちゃんのことは分かりました。
理屈っぽさがちょっと微妙だった。
その割に感情に流されているようないないような、
微妙な状況がちょっと不本意でした。
まあ、彼女も一応、人間だったってことか?


とにかく、四季好きには、絶対外せない1冊。



菜の花の一押しキャラ…各務 亜樹良 「うーん、私をエラーから守ってくれます」(四季のスタッフ) 四季に、持っていたお守りが何を守るものか?と尋ねられて。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
052. 「ステップファザー・ステップ」     宮部みゆき
2004.10.7 連作短編 360P 1993年初出
1996年7月発行
講談社文庫 ★★★★
泥棒と双子の中学生の、奇妙な擬似親子生活

みゆきちゃんの連作短編7編です。
軽いタッチのコメディ系です。
何気なく読める辺りがよろしいですね。
ではまずはブックトークから。


【40字ブックトーク】
プロの泥棒の俺が、双子の中学生の家に落っこちた!
拾われた俺は双子の擬似親父に!? (40字)


【100字ブックトーク】
プロの泥棒の俺は、両親がそれぞれ駆け落ちした
遺棄児童である双子の中学生の家に落っこちてしまった!
双子は俺を拾って擬似親父に仕立てることにしたらしい!?
次々と起こる7つの事件にユーモア溢れる3人の会話。 (100字)


ということです。
いかにも面白そうでしょ。面白いよ。
軽いから、さら〜っと読めるのもとっても嬉しいですね。
連作短編だから時間がないときでもきりよく読めちゃうしね。

文章としては、1人称。。。
だけど、第1話は「俺」という人称代名詞すら出てこない。
主人公は間違いなく「プロの泥棒」である「俺」だけど、
淡くぼかしてあって読者自身が「俺」であるかのような
引き込みを試みていると思われます。
第2話以降は「俺」が使われていくのですが、
導入部分ですでに引き込んでいるから
それほど苦労してぼかさなくてもよいということでしょうか。
(人称代名詞が使えないと小説ってめちゃくちゃ書くのが
 大変なんですね。書いてみると分かります、きっと)。

内容ですが、著者本人も対談で言っている通りでした。
ライト。謎解きもライト。
ラスト1ページで解ければいいや、なノリらしいです。
書きたかったのはもっと別のところ。
前半部の無駄話や前振り。
まさに。いつものみゆきちゃんらしい一作です。

絶対にありえなさそうな突飛な設定。
これがまた面白いんだな。
絵でも写実だけでなく抽象画も尊ばれるわけで、
それがリアルか否かは小説でも問われないのですね。
大切なのは「書きたい何か」があって、
それを「読みたい誰か」がいることかもしれません。
みゆきちゃんの描き出そうとすることは、
菜の花にとっては、大変好ましいものです。
技術とかじゃなくって、書き出したいものの方向性が
何より大切なのかもしれないなあ。




菜の花の一押しキャラ…画聖 「国土を汚したくない」(双子) 俺を何故拾ったのか?と問われたときの双子の答え。 俺はゴミと同レベルなのか!?(笑) 宮部みゆきの著作リスト よみもののきろくTOP
053, 「有限と微小のパン The Perfect Outsider」     森 博嗣
2004.10.8 長編 604P 1998年10月発行 講談社 ★★★★
あの天才が帰って来た?死体消失の謎!

ついに犀川&萌絵シリーズ10作の最終作…だと思います。
ようやくここまで来たか…。そして何だ!この分厚さは!
元々これ、ふつーの文庫じゃないんだよ。
2段組のレイアウトでこの分厚さ。
って、文庫になったら一体どんな恐ろしいことになるのやら…。
では、まずはブックトークから。


【40字ブックトーク】
日本最大のソフトメーカの経営するテーマパークで、
萌絵たちに不思議な事件が続発…? (40字)


【100字ブックトーク】
日本最大のソフトメーカの経営するテーマパークに訪れた萌絵たち。
そこでは半年前に死体消失事件があったという。
彼女らを待ち構えていたかのように事件は続発。
背後に見え隠れするのは、あの天才・真賀田四季!? (99字)


さてさてさて、すごい事件の連続です。
死体消失に密室殺人×2。。。
で、あちこちに四季ちゃん出没。
この人、実はストーカー…?

ってゆーか、この事件、フィナーレにふさわしく、
明らかに解けそうにもないとんでもない事件ばっかり。
いや、最初の事件はまだ解けるか?
だが、謎が謎を呼ぶ、謎だらけのお話。
なかなかドキドキさせてくれます。
一体、どんなすごいマジックを使ってくれるんだ!?みたいな。

相変わらず萌絵ちゃんは嫌なキャラだし
(こんな主人公でよくぞここまでシリーズがもったものだ!
 …と叫びたいくらい、菜の花の嫌いな人です、彼女は。)、
ぶちぶち訳の分かんない理屈っぽいこと考えてるし、と
マイナスな面も含みつつ、なかなか謎解きが楽しみになるような
悪くない事件の連続。事件のペースが速いのもよい。
分厚いですけど、読むのはそれほど苦痛じゃないやね。
展開が速くて魅力的な謎が提出されていれば、
分量は問題でないということを再確認させられました。

で、謎の方なんですけどねー。
思わずなんだとー!と叫びたくなる菜の花でした。
いや、いいんだけどさー。いいんだよ?
まあ、これも答えでしょ。納得納得〜、でもさあ。
期待してたんだけどなあ。ちょっと逃げっぽい気もしなくもない。
まあ、現実的か…な。うん、納得はいくよ。

いやしかし何だって犀川は、これだけで解けてるんだ?
ってのも疑問でなくはないが…。このキャラが一番謎。
納得できないキャラ。
国枝助手なら許すんだけどね。
殺人事件があったという土地でもふつーにやって来てしまったり、
そんな土地柄なのに暗い中、独りでジョギングに出掛けたり、
死体をじーっと見た後に、そのジョギングを再開したり、、、
まあ、何してもいいですよ、このお方は。許す。
何しろ脇役ですから。デコレーションですから。装飾ですから。
…ちょっと超越してるけど。
ああ、四季VS国枝が見てみたかった!ほんとに。面白そう。


そんな国枝とも、もうお別れ…なのかな?
シリーズはこれで終わりだと、多分思う。。。
他のシリーズでも出てくるのかもしれないけど。




菜の花の一押しキャラ…国枝 桃子 あ、でも今回は島田文子も捨てがたいなー。 「もともと別々だったんだから、しかたないわね」(国枝 桃子) お正月でも夫は奈良へ、妻は長崎に別々に帰省するらしい、この夫婦。さすが! 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
054. 「四季 春 The Four Seasons -Green Spring」     森 博嗣
2004.10.10 長編 265P 2003年9月発行 講談社 ★★★★★
天才少女・真賀田四季が密室殺人に遭遇?


さて、真賀田四季が主人公(かもしれない)
「四季4部作」の第1作目の「春」です。
この作品では四季ちゃんは…5歳くらいから10歳くらい…かな。
年齢は書いてあったような気もするけど、探すのが面倒なんでやめときます。
いやいやいや、、、それにしてもこんな子供は嫌だなあ。


【40字ブックトーク】
真賀田四季の叔父・新藤清二の病院で密室殺人が起こった。
唯一の目撃者は透明人間!? (40字)


【100字ブックトーク】
「すべてがFになる」の天才科学者・真賀田四季の少女時代。
叔父・新藤清二の病院で密室殺人が起こった。
唯一の目撃者は透明人間だった!?
彼女を取り巻く多くの人々。
其志雄は孤独な天才を守ることが出来るのか? (99字)


何だか変なブックトーク。まあ
とにかく分からない話だったからね。
4部作のうち第2幕である「四季 夏」はすでに読了ずみですが、
これと同じようなことがいえるかもしれない。
これ1冊で、完全ではない。ってこと。
4部作の1作だから仕方ないのかな。
まあ、夏よりはずっと起承転結があってマシでしたが。
でも一人称が交錯していて(それが売りなのだろうけど)
ほんとに訳が分からないんだな。
これ、1冊分を一気に読まないと把握できない。
それもこれも一人称の交錯のせいだろう。
読者に事情を知らせないままに進んでいく。
こういう狙いなんだと思うけど、ひどく読みづらい。
隠されたからってあんまりどきどきしないしなあ。
それほど成功しているようには思えないけど、
確かにこれを素直に書いちゃうと、もっとつまんないんだろう、
とは思う。元の内容は、大変単純なのだ。
それをこういう表現の仕方を使って、ややこしく
ものものしく書いて見せているだけだ…と思う。
…ひどく毒舌かな。

ラストのおまけみたいなのが、不必要だった。
犀川&萌絵シリーズへの布石なんだ、つなぎなんだ、
とは思うけど、全く必要ないと思う。
むしろ、「何で?」って疑問符が激増するばかりで、
しかもかなり唐突な印象を与えられた。びみょーだ。



菜の花の一押しキャラ…其志雄 19歳の方ね。 「私たちは子供です。」(真賀田 四季) そう思ってるなら、もう少し子供らしくしないんですかい?(笑) 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
055. 「地球儀のスライス A Slice of Terrestrial Globe」     森 博嗣
2004.10.12 短編集 312P 1999年1月発行 講談社 ★★★★★
森博嗣の短編集・第2弾!


何だか最近、森博嗣ばっかり読んでる気がする。。。
たまたまなんだけどね。たまたま。

さて、森博嗣の短編集第2弾です。タイトルの意味は不明。
何なんだ、このタイトルは?謎。
表紙のスライスされた地球儀が、妙にハムっぽい。


収録作品は以下の通り。

小鳥の恩返し The Girl Who was Little Bird
片方のピアス A Pair of Hearts
素敵な日記 Our Lovely Diary
僕に似た人 Someone Like Me
石塔の屋根飾り Roof-top Ornament of Stone Ratha
マン島の蒸気鉄道 Isle of Man Classic Steam
有限要素魔術 Finite Element Magic
河童 Kappa
気さくなお人形、19歳 Friendly Doll, 19
僕は秋子に借りがある I'm in Debt to Akiko


計10作。


一個一個感想とか書くかどうかちょっと悩んで、結局やめてみる。
何故なら、あんまり面白くなかったから。
前の短編集の方が断然、よかったなあ。
今回の収録作品は、意味・落ちがいまいち分からないものが多い。

比較的面白かったなあ、というのは
謎がそれなりに用意され、綺麗に解けるタイプである「小鳥の恩返し」。

対して、落ちがまったく意味が分からなかったのが「僕に似た人」。
でもこれは、一概に駄作ともいえない変な作品だ。
何かしらの「真実(?)」めいたものが、どこかに散りばめられているような、
もしかした錯覚かもしれない奇妙な思いにとらわれる。

「河童」「有限要素魔術」は
結局、何だったんだ?何が言いたかったんだ?と
首をひねるところが多い。何だったんだろう。

「片方のピアス」は悪くないかもしれない。
結局真相をうやむやにする終わり方もなかなかうまい。

「素敵な日記」はキーとなる情報を隠しておくことで
読者をあっと言わせる試みに見えるが、「ふーん」という程度で
終わってしまった。あまり成功しているように見えない。
けれど、同じようなことを繰り返す手法は生かされていた。
落語などでこの手のつくりをしたネタをやるときは、
演者の技術が直接的に問われるらしいと訊いたことがある。
繰り返すので後になるほどネタが割れていくからだ。
それを考えると著者の腕前はさすがにプロというか、
相当高い、と評価はされるだろう。

キーとなる情報を隠しておくタイプの話は、
森博嗣はことに多く書いているように見える。
犀川&萌絵シリーズの「夏のレプリカ」「今はもうない」、
四季4部作の第1作「四季 春」などが、さっと頭に思い浮かぶ。
まあ、ミステリなんて大抵、犯人は結構近くにいたりして、
彼らは何かを隠しているのだから、
そういうタイプの話に収束していくのは当然だろうけど…、
それにしても、何というか、
あからさまに読者を騙そうとする意図が見えすぎた文調というものがあって、
この著者の作品はそういう印象がことのほか強いような気がするのだ。
これが鼻について嫌だ、という人と、
歓迎する人がいるだろう…ということは想像に難くない。
かく言う菜の花は微妙です。
嫌いじゃない。好きだけど、あんまりあからさまなのもちょっと。
もっと気持ちよく騙されたい。というのが読者の本音じゃないでしょうか。

「石塔の屋根飾り」「マン島の蒸気鉄道」は懐かし(?)の
犀川センセが出てくる。どちらもクイズを出して解いてる感じ。
まあ、諏訪野がいればそれでいいや、って思った菜の花は
生粋の(?)諏訪野ファンです。こんな執事が欲しいなあ。

「気さくなお人形、19歳」は心理描写の充実を狙った作品。
正直に告白しますと、森博嗣はあんまりその手の描写に
向いているとは思えません。別に下手じゃないけど、
どこかごつごつとして、魅力的でないな。
書いている内容自体は巧いと思う。ただ、それを表現する文体が
ごく初期からの彼の売りである「論理的思考」には向くけれど
繊細な心理描写には、やや違和感がある、ということが問題。
導入は森博嗣らしさがあって、大変興味深かったが、
それに続く部分、落ちなど、物語の作りが単純に過ぎる。

「僕は秋子に借りがある」は何を狙ったかよく分からなかった。


結局、一作ずつの感想を書いてしまった。。。
おかしいなあ。書くつもりなかったのに。




菜の花の一押しキャラ…諏訪野 やっぱ最強の執事でしょう。 「その一番右で、三脚とカメラを担いでおりますのが…、私でございます」(諏訪野) 写真の中の諏訪野さんはまだ若いのだ。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
056. 「夢幻戦記G 総司征西譜(下)」     栗本薫
2004.10.19 続き物 208P 1999年12月発行 ハルキノベルス ★★★★★

前巻から2ヶ月のインターバルで発行されましたね、この作品。
まあ、考えてみたら下巻なんだからそりゃそーよね。
下巻が半年後とかって、さすがにあんまりですものね(^ ^;)。


さて、この巻では司馬遼太郎大先生の「新選組血風録」にも取り上げられていた
(ということは有名な史実なんだろうか…、にわかには信じられないけど)
「近藤勇、ミスって芹沢先生を無宿者にするの巻」を収録(勝手に命名)。

しかし、とことんやな奴です、芹沢先生。
この扱いのひどさは、ちょっとかわいそう。


で、他にも色々あったよーな、いや、実は何にもなかったような、
よく分かりませんが、何とか京都には到着。
壬生村にも入りました。やっとか。
長かったよーな、短かったよーな。

しかし京都、やりますね!
魔都ってゆーかさ、すごいことになってますが。
あの、少しでも霊感のある人って、むっちゃ生きにくくない?
これだけあっちこっちに派手な置物(空に浮いてる鬼)やら
タペストリー(壁に浮き出てる顔だけの化け物)があるわ
半人半獣(もののけにとりつかれてる人間の皆さん)やら
ちょこまか動き回るこもの(びんの化け物とか)もいるわで、
賑やかで騒がしくって、落ち着けないこと間違いなし。
となると、魔都に住める人間って霊感のない人?
…みたいな、一見逆説的な推論が成り立つ気も微妙にしつつ…。
あ、いや、もはや気にしなくなっているってことか。
調伏しようもないし、どーでもいいや!って感じ?


そんなこんなでようやく次巻からは京都ですよ。
まだ新撰組じゃないけど。新徴組だけどね。



菜の花の一押しキャラ…動いてしゃべるびん(少将殿) 「何をいったところで、              ボクはもう1千年と50年も生きてるんだし、   おまけにみかど様から従5位の下をたまわった、  由緒正しいびんなんだからね。」  (少将殿) 由緒正しいらしい。 よみもののきろくTOP
057. 「黒猫の三角 Delta in the Darkness」     森 博嗣
2004.10.20 長編 330P 1999年5月発行 講談社 ★★★★★
一年に一度、ルールに従って起きる殺人事件

さて、森博嗣の新シリーズスタートです。
「すべてがFになる」から始まる犀川&萌絵シリーズ10作は完結し、
何の関係もなさげな、でもきっちり同じ生活圏内の人々が登場する本シリーズ。
この前立ち読みした「森博嗣読本」(だっけ?)では確か、
Vシリーズ、となってましたけど、一体何がVなのか謎。
ちなみに犀川&萌絵シリーズはS&Mだった…そのままっすね。
ってことは…何だいな…べにこさんのV?それならBか?

まあいいや、とりあえず本のご紹介から。


【40字ブックトーク】
一年に一度、数字にこだわって起きる殺人事件に、
アパート阿漕荘の面々が挑む! (37字)


【100字ブックトーク】
アパート阿漕荘の住人・保呂草探偵に
連続殺人鬼の魔手からガードして欲しいという
依頼が持ち込まれた。地域内では一年に一度、
数字にこだわった一定のルールで起きる殺人事件で、
すでに3人の被害者が出ていた…! (99字)


って感じです。
主な登場人物を紹介してみよう!

<主人公格>
-------------------------------------
●保呂草 潤平 Horokusa Junpei
 探偵(便利屋)
 阿漕荘の住人
 大変、頭がよろしい

●小鳥遊 練無 Takanashi Nerina
 国立N大医学部2年生
 阿漕荘の住人
 女装が趣味(しかも少女趣味)
 空手の達人
 頭の回転がとても速い

●香具山 紫子 Kaguyama Murasakiko
 私立大学生
 阿漕荘の住人
 関西弁
 好奇心旺盛
 比較的普通の人間かもしれない

●瀬在丸 紅子 Sezaimaru Beniko
 阿漕荘大家の居候
 科学者
 やたら賢い(別作では真賀田四季に評価されたことも)
-------------------------------------

何てゆーかさ、賢い人多すぎだろ。
巻頭についている「登場人物」紹介でも
学習塾講師・数学者・大学助手・哲学者・科学者・大学助教授
などなど、インテリ系で埋まってたりします。
ああ、森らしさがあふれたキャストです。
しかし何より気になるのは彼らメインキャラの苗字。
何で3文字名前ばっかなんだ。しかもレアなのばっか。
下の名前の方も「ねりな」なんて読めないぞ!
「むらさきこ」なんて名付ける親、顔が見たいわ!

そうそう、前作の「地球儀のスライス」の紹介文が
「森作品の過去と未来」とか書いてあったんですが、
やっと意味が分かりました。
つまり短編の中の一作に、未来に書かれる予定だった…つまり本作の
キャラクターが登場してるわけですね。なるほど。

キャラについて。
紅子さん、まるで

((萌絵の悪いところ)+(四季の嫌味なところ))÷2+α

って感じです。つまり嫌いってことか、個人的に。
でもめちゃくちゃ嫌いではない…というのは、
多分、恋とか愛とかに(あんまり)流されている描写が
ないから、かな。あれが入ると救えないね、人間って奴は。

(本筋の)謎解きの過程について。
まあいいか。こんなもんでしょう。特に文句なし。

展開について。
謎が残りすぎです。駄目だ。ほっとかないで下さいよ。
例えば東尾さんと小田原姉弟の動き。分からなくはないけど
説明がまったくないものがあったりする。これってひどいなー。

真相について。
それほど文句は言わない。けど、この手記(?)の書き手については
一言、言わせて下さいな。。。4人のうちの1人だと!?あっ、そう。


ところで紅子さんの息子、「へっ君」ってひどい呼び名ですね。
っつーか小6でプリンキピアって、いっちゃってますね。
ところでついでにタイトル、一体何だったんだろう。
いつも適当に雰囲気でつけてるんじゃないかしら、この作者。
しかもクロネッカーのデルタ。何と、駄洒落ですか…。



菜の花の一押しキャラ…小田原 長治+黒猫のデルタ 老人と黒猫って絵的に素敵だ… 「私ね…保呂草さん、大嫌いなの」(瀬在丸 紅子) はっきり言っちゃう人っていいね。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
058. 「かさねの色目 平安の配彩美」     長崎 盛輝
2004.10.21 解説書 327P 1996年11月発行 京都書院 ★★★★★
平安の雅、かさねの色目をカラー図版で解説

久々に小説じゃないものを読みました。
というか、あんまり読むところはないんだけど…。
カラー図版が中心ですからね!

とりあえず、ブックトークをしてみよう〜。


【40字ブックトーク】
平安のかさね色目をカラー図版で解説。
平安人の繊細な美的感覚と配色の妙を楽しめる。 (40字)


【100字ブックトーク】
平安の「重」と「襲」の色彩配合、
かさね色目をカラー図版で解説。
平安人の「季」に対する繊細な美的感覚と、
配色の妙を楽しもう。
併せてトーン分類一覧表や参考文献も多彩に収録。
色彩に興味のある方は必見の一冊。 (100字)


って訳で、必見ですぞ!
カラーコーディネーター及び志望者の皆様!
これは素晴らしかった。ほんとに、溜息が出るくらい素敵でした。
あ、でも色に興味のない方にはそこまでじゃないかも…。


それぞれの配色の解説が丁寧で、
文学作品などでの所見状況も書かれており、
平安当時にどんな色目が流行っていたのかも分かってしまいます!
かさね色目は季節や自然の事物に深く関連するので、
それらに関する話題も豊富で、それだけでも十分楽しめます。
色自体に興味がない人でも、面白いんじゃないかと思います。
また関連する和歌も沢山取り上げられており、
とっても雅な気分に浸れます。


また、基本となる色自体にも解説がなされております。
掲載されている日本の古色(と言っていいと思う)の
PCCSやマンセル記号への対応表がついているのも嬉しい。
是非是非手元に置いて、辞書のように使いたくなるのです。


とりあえず、買うか!と思った菜の花です。
図書館で借りたんですけど。これは欲しいね。
いつも「これだー!」と思った本は「本やタウン」で注文して
大学の生協で買うもので、今回もそのつもりで調べていたら
何と絶版!在庫なし。でした。何てこった!まじっすか。
新しく、同じようなタイトルのものが発行されていて、
それは一応あるらしいです…。どうしようかな。




菜の花の一押し配色…一重梅(薄様色目) 上白,中倍淡紅,裏蘇芳。華やかなのにしとやかな感じ。 よみもののきろくTOP
059. 「フリークス」     綾辻 行人
2004.10.22 連作中編 337P 1996年初出、2000年3月発行 光文社文庫 ★★★★★
夢と現、狂気と正常が交錯する連作推理小説


久し振りの綾辻行人です。
あ、でもこの記録を書き始めてからは初めてかも。
ということは、初出の作家さんかな。

ブックトークはどうしようかなあと思ったけど、
中編だしー、めんどいしー。今日はやめときます、はい。


内容としては3編の中編小説が収録されています。

●夢魔の手―三一三号室の患者

●四〇九号室の患者

●フリークス―五六四号室の患者

まあ、タイトルを見れば明らかなんですけど、
どれも精神病棟の患者さん…という形を取ってるんですな。
あんまり書くとネタが割れるから、書きにくいなあ。


評価。
文章。特に光るものは感じられませんが、普通のプロの作家さん。
という感じかな。素人じゃないのは明らか。
でもあんまり引き込まれる感じがしないのは、
決して内容のせいだけじゃない気がします。
でも具体的に何が悪いって訳じゃないんだよね。
何故なんだろう…。よく分からないな。


落ち。
微妙だ…。ありがちだけど…うーん、ありがちだ。
さすがによくあるパターンすぎて、この手の落ちは
すぐに見えてしまうようになってしまった…。


展開。
落ちが見え見えなのに、展開はちょっと凝っている。
そういう風に作っているわけね。
でもそれなら折角なわけですしね、
落ちももう少し凝ったものにしても
いいんじゃないかなあと思ってしまう。
だって、終わりよければ全てよし、ってゆーじゃないか。

二転三転する展開は目新しいと言えば目新しいほど
ぐるぐる回っていく。

3編とも「日記」「独白の文書」が出てくる。
これがこの一連の小説の特徴となっているのですね。
つまり、日記や独白の書き手にとってはリアルタイムの
出来事なのに、それを読み手になった人々
(第3者?だったり、読者だったり、本人だったり)
にとっては、そこに書かれたことはすでに過去の出来事で
終わってしまった、事実なのだということ…。
これは面白い入れ子形式の書き方だと思う。
別にこの3編のネタがかぶっているわけではない。
3編それぞれの「読み手」はすべて異なった立場。
それゆえに、何かの表現をここに感じたりする。
こういう「作り」がなかなか興味深い。


ところで最初、フリークスのタイトルの意味が分からなかった。
畸形たちって意味か。そうか。
3編目は確かにフリークスだ。
でもそれ以上に、この1冊を象徴する巧い命名だと思う。
このタイトルの巧さは、某N大助教授作家さまなどでは
及びもつかないところ…なんではないだろうか(酷)。




菜の花の一押しキャラ…特になし あえて言うなら桑山 智香子で。 「僕たちはみんな畸形(フリーク)なのさ。」(探偵) そうなんだろうなあ。 よみもののきろくTOP
060. 「役小角仙道剣」     黒岩 重吾
2004.10.26 長編 523P 2003年4月発行 新潮社 ★★★★★
古代最大の呪術者・役小角を描く巨匠の遺作


初めて読ませて頂きます。
古代ロマンの巨匠、黒岩重吾大先生です。
2003年3月…今から約1年半前にご逝去された方の遺作です。

読むきっかけとなったのは、公共図書館の閉館のせいです。
整理期間で2週間も!閉館してしまうことになり、
その間に読むものがなくなるような気がしたので、
少しでも分厚い本を借りようかと思ったのですね。
そのとき、最近よく読ませて頂いてます「栗本薫」のすぐ下の段に
「黒岩重吾」があったわけです。
おお。こりゃ分厚い。じゃ、借りるか。
…と、何ともいい加減なきっかけであります。

…うう、キーボードが打ちにくいぃぃぃ。
腱鞘炎がきいてます…。
そう、菜の花、重度の腱鞘炎におかされ、現在右手が不自由な状況なので、
あんまり気合い入れてこの文章を綴る気はございません。手が痛い。



【40字ブックトーク】
律令政治の暴虐に敢然と立ち向かった
古代のスーパースター役小角の活躍が現代に蘇る。 (40字)


【100字ブックトーク】
7世紀後半の大和。役行者とも呼ばれた伝説の男の半生を、
古代ロマンの巨匠が描く。深山で修業を積み
超人的な力を身につけた小角は弟子らと共に、
律令制の下で苦しむ民衆を救うため、
政治の暴虐に敢然と立ち向かう! (100字)


こんな感じの本です。
中心は…政治の暴虐…かなあ。何か、そこがすごい。
権力が嫌いなんだ!この作者は。と思う。
もうひとつの話の中心は、悟るってこと?
あんまりそっちは、ぱっとしなかった。…と思ってしまった。
すみません、ごめんなさい、すごい大先生を捕まえて。


文章は、かたい方。その分しっかりしているとも言えるのか。
全体の流れとしては、やや平坦な感じ。
緊張感は常に低く漂ってはいるけど、何故か盛り上がりが少ない。
小さな山は幾つかあるんだけど、大きな流れは暗いし、
小さなうねりに流されているように感じる。
実際の歴史を下敷きにすると結末などを制限されるから
折り合いが難しいのかなあとも思った。

人々の権謀術策は生々しい感じでよろしかった。


最終的にあんまりハッピーエンドじゃないなあ、と。
そりゃそーだよな。小角は改革者じゃないんだから。
歴史がそうなっちゃってるんだから。
…何だか悲しくなりました。


ちなみに。タイトルは「えんのきみのおづぬ せんどうけん」
と読みます。小角はおづぬと読むのね。



菜の花の一押しキャラ…特になし どのキャラも生々しくてあんまり憧れられないなー 「前鬼よ、後鬼がヤマメの無念を晴らした」(小角) 小角らしくない一言。何となく、感動的。 よみもののきろくTOP
061. 「人形式モナリザ Shape of Things Human」     森 博嗣
2004.10.29 長編 282P 1999年9月発行 講談社 ★★★★★
衆人環視の舞台の上で、行なわれた殺人!

さて、保呂草・練無・紅子・紫子の4人組のシリーズ
第2弾であります。Vシリーズってもしかして4人だから!?
まじでそーかもしんない。


【40字ブックトーク】
「神の手の殺人」から2年後、
人形の館の舞台の上で衆人環視の中、行なわれた殺人! (40字)


【100字ブックトーク】
私設博物館「人形の館」の舞台で、衆人環視の中
「乙女文楽」の演者が謎の死を遂げた!
被害者の一族では、2年前にも
悪魔崇拝者だった新婚の青年が
「神の白い手」に殺されたのだと、
若き未亡人が証言していた! (97字)


さて、珍しく学歴の表記されない人々の中で
事件が起こりました!
森先生の作品では、もしかしたら初めてかも!
珍しい珍しい。
で、この落ちか!これか!
そりゃ学はいらんですな。
いつもは犯人が賢くないと出来ないよーな、
ひねくれたトリック(ひねりをきかせた、ではなく)が多いからね。
今回は、学も何もいらないってわけですか(酷)。

まあ、たまには許すか…。許せるか?
いいことにしとく。
手が痛いからもういいや。これで(妥協)。



菜の花の一押しキャラ…小鳥遊 練無 こいつくらいしかまともなキャラがいない…いや、彼もまともじゃないが。 「お酒につけておけば、汚れが取れるし、   あとで眼にも良いんだって主張していたけど」 (保呂草 潤平) 紫子にコンタクトの行方を尋ねられて。 彼女は酔ってボトルの中にコンタクトを入れたらしい。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
062. 「蒲生邸事件」     宮部みゆき
2004.10.31 長編 686P 1996年初出、2000年10月発行 文春文庫 ★★★★
平成の受験生が、二・二六事件の只中に!?

日本SF大賞受賞作。

です。
すごいぞ!これは心してかからなければね!
この分厚さにも驚いたけど…。
気合い入れていきましょう!


【40字ブックトーク】
受験の為に上京した孝史が、
雪の降りしきる二・二六事件の東京へ紛れ込んでしまった? (40字)


【100字ブックトーク】
受験の為に上京した孝史は二月二十六日未明、
ホテル火災に見舞われた。間一髪で
時間旅行の能力を持つ男に救助されたがそこは何と、
雪降りしきる二・二六事件の只中にある帝都・東京だった!
「歴史」を描くSF長編! (100字)


SFでした。なるほど、さすが日本SF大賞受賞作。
ミステリ仕立てには一応なってるけど、ミステリじゃないんだな。
ミステリとしても面白い展開ではあったけど、
それで売るにはちょっと冗長かな。
でももっと展開を速くすれば十分、ミステリとしても売れると思います。
ただこの場合は主眼がそっちじゃないから、ゆったり展開してるということ。
SFという言葉にも、少し違和感があります。むしろ純文学に近い。
まあ、時間旅行者なんて、いかにもSFチックな言葉と
テーマであって、やはりSFに分類されてしまうのだろうけど。

一番、この作品でみゆきちゃんが語りたかったのは
何だったんだろう、と考える。
「時間旅行者」というみゆきちゃんの得意の超能力者が出てくるけど、
本作の主役には何の能力もない。まあ、他の超能力者ものでも
能力者自身が主人公じゃないものもあるか…あるな。
とりあえず、超能力者…時間旅行者の苦悩は語られている。
他の超能力作品と同じ。だけど、本作は単なる能力者の苦悩、
だけが語られているわけではない。
何しろ、同じ能力を持ちながら満足して生きている人まで
登場してしまうくらいだ。苦悩だけを描きたい訳じゃない。
むしろ「歴史」というものの本質…というか、
そういうものに迫りたい、そういうものを描きたい、
という感じが伝わってくる…気がする。


そして何より、歴史の教科書の中でたった一行で描かれる
(と私も思っているし、多分同じように感じている若者が
 多いのではないかと思うのだが)
二・二六事件という事実を鮮やかに描き出し、
目の前に生々しく…単なる「こうだった」という事実や
「こういう理由のために」という抽象的かつ擬人化された動機で
組み立てた味気ない積み木細工ではなく、
そこに生きた人々を伴った熱や息遣いのあるジオラマを
現出してくれているように感じる。

歴史の教科書には、今、私達が生きているように日常生活をする、
血の通った人間はいない。
そこにあるのは高度に抽象化された思想によって
突き動かされた人形達が織り成す事実だ。
そういう風に、菜の花は感じてきた。
それを「違うんだよ、いつの時代にも人は生きていたんだよ」
と宮部みゆきは笑いかけ、ほら、と鏡に映して見せてくれている…
いや、むしろ自分をその場所へ導き、その只中に置いてくれる、
そんな夢を見せてくれている、気がする。

決して読者にも媚びたりはしない昭和初期を生きた人々。
彼らは彼らの信念をもって生きていると感じさせてくれる。
当然だろう。現代人に何を媚びる必要があるのだろう。
その時代の常識をもって、生きる。それを描く。
現代の常識を美化したり、目指したりはしない。
そういう歴史ものは意外に少ない、気もする。
姿は一度も出てこないけれど、確かにその時代を
必死で生きているのだろう、と思える、ふきの弟も素敵だ。
ふきに宛てた「姉さん、映画を見ませうね」の手紙文が
ラスト近くでもう一度、思い出される場面は
どこか哀切のようなものを感じた。何故かは分からないけれど。


ラストの部分も、自分が期待していた「こうであって欲しい」
という予想というか希望を良い意味で裏切ってくれる。
確かに、こうじゃないきゃいけない、と
読んだあと、すとん、と腑に落ちるような不思議な感じだ。
自分の希望がどんなに浅はかだったかを思い知らされる。
そういうときに宮部みゆきの偉大さを思うのだ。


全体の展開はややのんびりし過ぎていて退屈に感じる部分もある。
そこのところ、もう少しすっきりしてもいいんじゃないかな、
という気もちょっとした。


しかし、人情ものを書かせたら、宮部みゆきはやはりぴかいちだ。
ミステリが終わったあとの道は、どこをとっても感動的。
貴之も、平田も、ふきも、みんな色々と名言を残してくれた気がする。
どの言葉を心に残ったか、と取り上げるのに、本当に迷ってしまった。
結局、洒落に走ったけど。
いや、でも、先にも掲げた「姉さん、映画を見ませうね」も
すごくよかったし、ふきの「兵ニ告グ」の引用から後の台詞も
非常に感動的だった(最後に敬礼していた彼女はとても泣けた)し…。
みゆきちゃんの作品は常々中間部が強い、と言っている菜の花ですが、
本作は中間部より後半部の方が、お気に入りでした。



菜の花の一押しキャラ…葛城医師 すんごい先生がいたもんだ。 「丈夫な頭蓋骨に感謝するといい」(蒲生 貴之) 火かき棒でなぐられて助かった、孝史への一言。確かに。 宮部みゆきの著作リスト よみもののきろくTOP
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