よみもののきろく

(2004年12月…076-086) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
076. 「司馬遼太郎全集3 竜馬がゆく一」     司馬 遼太郎
2004.12.05 長編 566P 1972年9月発行 文藝春秋 ★★★★
幕末の風雲を駆けた坂本竜馬を活写した名作

ずいぶん読了に時間がかかりました。忙しかったのもあるけれど
なかなかに分厚い一冊だったので。でもまだ3分の1なんですよね。


【100字紹介】
 物語は竜馬が江戸の千葉道場へと旅立つところから始まる。
 まだ若く、思想も野望も持ち合わせないまっさらの竜馬が
 出会ったのは黒船来航、鎖国一部解禁、そして世間に高まる
 攘夷思想。竜馬はどこへ羽ばたくのか!? (99字)


名作の前3分の1です。全集では「竜馬がゆく」は全3巻なので。
この巻では竜馬の旅立ち、黒船来航、武市の野望、脱藩、勝海舟との出会い、
までが描かれています。

元々は新聞の連載だった模様で、5年くらいやっていたみたいです。
すごいなあ。長いなあ。

文章としては重いけど軽い。って感じです。
しっかりした骨太な文章の割に、万人受けしそうな会話文が入ります。
至極、読みやすい作風です。読書に慣れない人でも楽しめる、
でもただ軽いだけじゃない文章。

新聞連載であり、しかも実際の歴史に即した歴史小説だけあって、
大きな波はそれほど劇的でもないのですが、細かなさざなみに満ち溢れています。
実際の竜馬の生涯自体がとても魅力的なものなので、
その手の物語は史料にひきずられてしまいがちですが、
司馬遼太郎の描く竜馬は、完全に司馬遼太郎の竜馬なのだなあ、
と感じます。すべての史料は一度、司馬遼太郎に飲み込まれ、咀嚼され、
新たな竜馬が彼の中から生まれだしてくるかのようです。
生き生きと描かれた竜馬は、まさに「竜馬がゆく」という
現在進行形のタイトルにふさわしく動き回るのです。



菜の花の一押しキャラ…坂本 竜馬 やっぱり魅力的なこのお方。 「わしの腰はいつでもくだけている」(坂本 竜馬) 勝海舟を討ちに出た際、同行する千葉重太郎に「腰がくだけたか」と尋ねられて一言。 よみもののきろくTOPへ
077. 「魔剣天翔 Cockpit on Knife Edge」     森 博嗣
2004.12.06 長編 306P 840円 2000年9月発行 講談社 ★★★★★
飛行中、後部座席の人物が後ろから射殺!?


シリーズ最高難度の密室殺人事件らしいです。
ところで森博嗣って、長編で密室以外のトリックって
書いたことあったっけ?菜の花の記憶する限りでは殆どないかと。
密室好きなのね。というか、本の裏表紙にある紹介文には
いつも「衆人環視の中」という言葉が入っている。
もう少し工夫のないものか。


【100字紹介】
 航空ショーでアクロバット演技中、二人乗りの
 後部座席に座っていたパイロットが射殺された。
 しかし、撃たれたのは背中から。
 犯人は同乗していた女性記者なのか?
 空中の完全密室の謎を、瀬在丸紅子が解き明かす。 (98字)


今回は小鳥遊練無の過去が少しだけ明らかに!?みたいな。
まあ、大したことはなかったんですけどね。
同じネタでも書き方によってはもっと面白くなると思うんだけど、
微妙に生かされていないようにも見えました。

殺人は2件。でも2件目はあまりにも単純。
というか投げやりな事件に見えました。
何でお前が拳銃を持ってるんだよ!?とか、
その拳銃をそんなに堂々と持ち出すんですか、君は!?
とか、ツッコミどころ満載です。
殺人の動機も結局、はっきりとは明かされないしな。
犯人の独白もない。むしろ大きな謎は別のところにある、と。


このような諸々の理由から、物語の主眼は殺人事件ではありません。
ミステリファンにとっては「騙されたー!」ってとこでしょうか。

保呂草さんの逃走劇とか、画伯の正体とか、
登場人物たちの中でシリーズ中に蓄積してきた
もやもやとした心理戦とか。
この辺がお話の中心ですかね。
やっぱり森博嗣はミステリを書く気がないとしか思えません。
だけど、小説としては成立しているんですね。
むしろ恋愛小説という分類に放り込んで差し上げたい。

正統派ミステリファン以外のいわゆる小説好きさんには
まあ、お勧めしてもいいかなあ的、一冊。



菜の花の一押しキャラ…小鳥遊 練無 前半はよく歩き回りましたね。でも後半は結構大人しいね。 「たまには人生、振り回されてみたいものなんだ」(祖父江 七夏) ジェットコースターの魅力を語る七夏(笑)。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
078. 「スイス時計の謎」     有栖川有栖
2004.12.08 連作短編 253P 800円 2003年5月発行 講談社ノベルス ★★★★+
火村+有栖川の、4つの純粋論理の推理短編

有栖川有栖です。
最近、すごーくいいんじゃない?と、はまりかけです。


【100字紹介】
 ダイイング・メッセージ、首なし死体、密室、そして犯人あて。
 趣の異なる4つの作品が、純粋論理により構築されている。
 臨床犯罪学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のお馴染み名コンビが、
 これらの謎に迫る! (98字)


火村&有栖川の連作短編ですね。
典型的なテーマのミステリを4つ集めた、
本格好きのための、本格短編集です。

まず、1篇目が「あるYの悲劇」。
これはダイイング・メッセージもの。
インディーズ・バンドのギタリストが、自宅マンションで
自分のギターで頭を殴られて殺害される。
自らの血で彼が壁に書き残したのは「Y」の文字…?
というお話。
元々、講談社文庫が企画した「Yの悲劇」にちなむ
「Y」に関するアンソロジーの中の一編だそうです。
推理はダイイング・メッセージの読み取りに集中するわけですが、
最終的な答えは「ああ、なるほどね」と納得はいきます。
でも、この被害者って結構単純な思考してるんだなー、
とよく考えてみると、にやり、と笑えてくるのは私だけ?
また、被害者や証言者の親子関係や、ご近所づきあいに関する記述など、
現代人の心の機微も描かれていて、推理パズルのように
軽い短編のようでいて、ただのパズルでもない重さが
スパイスされている好編だと思います。


そして2篇目が「女彫刻家の首」。
これは首無し死体ですね。王道だー。
でもちょっと普通と違うことは
被害者の首が彫刻の頭部とすげかえられていること、ですね。
女彫刻家がアトリエで殺されて…、容疑者は被害者と衝突しがちだった
隣人と、不仲が噂されている被害者の夫。
容疑者は少ないですから、その分「何故首はすげかえられたのか?」が
一番の読みどころです。僅か35Pながら、十分な面白さです。


3篇目「シャイロックの密室」はその名の通り、密室もの。
高利貸しの男の死体が密室で発見される。
傍らに拳銃が落ちているが、自殺にしては妙な点が…。
この物語は犯人視点と、有栖川視点が混在する。
勿論、密室の謎はちゃんと最後まで残されているのでご安心を。
やや理科系のトリックになるので、トリックがなかなか
分からない人は、最後まで分からないかも。
この犯人、頭が回るようでかなり適当な計画しかたてていないように見受けられます。
こんなので研究者にはなれないだろう!みたいな。
特に食べ物に関する犯人のミスはユーモアたっぷり。
この現実味のなさが、むしろパズル性を上げているのかもしれません。


4篇目は表題作「スイス時計の謎」。
犯人は何故か被害者の腕時計を奪っていった…。
同じ時計をもつサークルのメンバー4人が容疑者に!?
というお話。
ばりっばりの犯人当てです。しかも、論理論理論理。
連鎖する論理です。犯人は「賢いぞ!」という前提のもとに
成り立つ論理でもあります。そう、この容疑者達は
誰も彼もみんな「論理的」であり、不合理な行動はしない、
というミステリパズル的お約束があるストーリーです。
皆で解きにかかりたい、秀作です。



菜の花の一押しキャラ…沢口 彩花 「雨の中の庵」というコンセプトの部屋に住まう女の子 「もういい。リズム・セクションは黙って  私の即興演奏についてきたらええんよ」 (沢口 彩花) 有栖川有栖著作リスト よみもののきろくTOPへ
079. 「三月宇佐美のお茶の会 アリア系銀河鉄道」     柄刀 一
2004.12.11 連作短編 409P 629円 2000年講談社ノベルス
2004年4月発行
光文社文庫 ★★★★
時空を超えた、詩情あふれる連作ミステリ


このきろくでは初めて取り上げさせて頂きます、柄刀一です。
一応、彼の作品「ifの迷宮」は既読なんですけどね。


【100字紹介】
 紅茶を深く愛する科学者、宇佐美博士の前に突然、
 人語を話す白猫が現れ、時空を超えた旅に博士を誘う!
 2億年前の地球でノアの方舟に乗り、銀河鉄道で星空を巡る
 …そこで出会う謎の数々を博士が解き明かしてゆく。 (99字)


詩情あふれる短編集です。
というか、ミステリというより幻想小説。
夢みがちなイメージ。女性に受けそうな感じです。

本作は6人の作家による解説が収録されているという、
やや変則的な文庫です。大変面白い試みだと思いますが。
そこでも大変高く評価されています。まあ、当然か。
悪く言う解説を入れるはずがないですものね(^ ^;)。
まあ、その辺りは差し引くとして、全般にどの解説者も
共通して言っていることがあります。
まとめると、「柄刀一は夢想家(ロマンティスト)」
ということです。まさに。その通りかと。それはこの作品を読めば一目瞭然。


●言語と密室のコンポジション
 人語を操る不思議な白猫に導かれ、
 宇佐美博士がやってきたのは地の分の言葉が実現する世界。
 美しいものに「目を奪われ」ては危険だし、
 「雷に打たれたように」ひらめいたら命に関わってしまう!?
 この世界で起こった密室殺人事件の謎を宇佐美博士が解き明かす!

 <解説>
 普通ではありえないシチュエーションの密室殺人事件。
 もちろん、真相も普通の世界では通用しません。
 特殊な推理パズルのための幻想世界でのお話。
 でも、説得力は抜群。非現実的なのに論理的な秀作。


●ノアの隣
 博士は2億年前の地球へ!?
 ノアと出会い、彼の方舟に乗って博士の旅が始まる!

 <解説>
 寓話的。だと思う。もしかしたら作者が一番書きたかったのは
 そっちではなく(当然、これも書きたかったのだろうけど)
 進化とか、科学系のお話の方だったのかもしれないけど…。
 科学系とは言いじょう、むしろ哲学的であるかもしれません。
 哲学的SFファンタジーとでもいえばよいのか…。


●探偵の匣(はこ)
 宇佐美博士の知人である吉武博士が、死に直面していた。
 彼の妻は殺害され、彼自身も毒を盛られて余命いくばくもない。
 死ぬ前に何とか事件の真相を知りたい、という吉武博士は、
 尊敬する宇佐美博士に協力を求めてきた。

 <解説>
 推理につぐ推理。論理派にはたまらない一編。
 しかもそれだけにとどまらず、ラストでも思わぬ
 どんでん返しを用意する辺りが心憎い演出。


●アリア系銀河鉄道
 宇佐美博士の友人である天文学者であり詩人の
 鶴見未紀也が殺された!?彼の娘マリアとともに
 事件について考える宇佐美博士。
 彼の残した謎の言葉、謎の楽譜…、
 そして事件の真相は!?
 思考の始まりとともに、迎えにきた空飛ぶ鉄道。
 宇佐美博士とマリアの、銀河鉄道の旅!

 <解説>
 論理的な思考とともに、次々と車窓の向こうで
 繰り広げられる幻想風景の兼ね合いが見事。
 読者を、論理と幻想の異空間に誘います。
 もちろん、ラストも素晴らしい。
 思考の末に現れたこの意外なハッピーエンドには
 思わず拍手を送りたくなるでしょう。


●アリスのドア〜Bonus Track〜
 ふと気付くと、宇佐美博士は密閉されたような
 部屋にいた…。そこに現れた2本足で立つうさぎ。
 部屋には小さな扉つきの窓が4つ。
 机には「私を飲んで!」という薬びんが2つ。
 さて、博士は部屋を脱出することが出来るのでしょうか?

 <解説>
 不思議の国のアリスのパロディ風であり、
 推理としては小ネタ。でも、ぴりりと辛い。
 大変科学的であるのは、宇佐美博士の
 キャラ設定のなせるわざ。
 裏返せば、博士の設定がよく効いていると言える。
 その中に、やはり寓話的な要素を多分に含んでいる。
 これが柄刀作品の特徴かもしれない。


基本的に文体はしっかりしたもの。
幻想小説としては、やや硬めではあるが、
主人公の設定が科学的素養のある者、としているので
その思考法などに対してはこの文体で違和感がない。
また、文章が硬めであるにも関わらず、内容としては
大いに笑いを含んだりもしており、読みにくいということはない。

解説者は口をそろえて「ロマンティスト」と言いますが、
菜の花的には「インテリ」なイメージの方が先に来るかもしれません。
いや、正確に言うと「インテリロマンティスト」。多分。



菜の花の一押しキャラ…大佐(カーネル) プレゼントがさいこーだった!リボンまでつけるとは…。 「博士、雷に打たれたようにひらめくのは     おやめになったほうがよろしいと思いますよ」 (ボオン) 地の文が実現する世界にて。 ハンマーに殴られたように、も危険らしい。 よみもののきろくTOP
080. 「ト短調の子守歌」     赤川 次郎
2004.12.12 長編 382P 552円 1987年新潮文庫
2002年7月発行
角川文庫 ★★★+
芸能界を描く、サスペンス・ミステリー


タイトルだけに惹かれたこの作品。
著者は人気作家の赤川氏。さて?


【100字紹介】
 人気絶頂のアイドル・小松原麻子の通うN高校に、
 ライフル男が立てこもった。男の要求はただひとつ、
 麻子と二人きりで会って話をすること。
 さもなくば一時間に一人ずつ、
 人質のクラスメートを殺していくという…。 (99字)


何でそんなことするんだよ!
ひっかきまわさないでくれよ!
もうちょっと長い目で見てみろよ!

…と叫びたくなる場面の連続。
とても非論理的な行動の上重ね。
きっとそれこそが、一般人が騒動に巻き込まれたときの、
ごく自然な行動なのだと思う。
論理的で冷静な行動ばかりとるキャラばかりの方が
むしろずっと不自然な状況なのだ。
本作のキャラクター達ときた日には、本人としてはいたって真面目に、
深く考えて出した最良の結果だと信じてやまない愚行の数々を披露してくれる。
同じ場面におかれたら、自分でもやっちゃうかも、という
妙なリアリティがあったりもするのが不思議。

こういう、個々人の訳のの分からない行動の積み重ねが
比較的単純なはずの事件を、どんどん混迷させるのが面白い。
主人公がアイドルスターという設定は、
ますます沢山の人間が巻き込まれていくことの妥当性を増し、
アイドルを偶像化する一般聴衆の心理などがうまく描かれている。


文体は、軽め。と言っても、文章自体が崩れるほどではなく、
型にはきっちりはめている。ごく、自然な感じ。

ただ事件自体の描き方は大変面白いと思うが、
主人公と準主人公である犯人、のどちらも描き方が甘く感じる。
主眼が主人公側なので、犯人が甘いのは仕方がないかもしれない。
犯人は「私は犯人」と大書きした紙でも顔に貼っているみたいだ。
それだけの者として描かれている。ある意味、潔いほどの切り方。
この割り切りはすがすがしくすらあるかもしれない。
ただ、最初は麻子を殺そうとした割に、殺さないよ、と言ったり、
やっぱり心中しようとしたり、ちっとも行動に一貫性がなく、謎は残る。

が、主人公はしっかり描いているようで、そうでもないような。
彼女の心理は、ちょっと単純すぎはしないだろうか?
もう少し複雑で深い感情を前面に押し出しても悪くないと思う。
エンターテイメントだけを目指すために、その辺の描写も単純にした、
ともとれなくはないが、それにしては中途半端に感じた。


それにしても麻子の友人たちは、いい人すぎません?
これが青春かなあ?(笑)



菜の花の一押しキャラ…原島 知美 足が速いらしい。怪我をして残念! よみもののきろくTOP
081. 「マジックミラー」     有栖川 有栖
2004.12.15 長編 355P 590円 1990年講談社ノベルス
1993年5月発行
講談社文庫 ★★★★
時刻表トリックと大どんでん返し長編推理!


本格派の名をほしいままにする有栖川有栖。
さて、本作はどうでしょうか?


【100字紹介】
 双子の兄弟が殺人犯?しかし兄の妻が余呉湖畔で
 殺されたとき、兄は博多、弟は酒田にいてアリバイは完璧だった。
 やがて第2の殺人。兄弟のどちらかが被害者らしいが、
 死体からは頭と手首が失われていた!? (95字)


すみません、ブックトークまた手を抜きました。
めちゃくちゃ裏表紙の紹介文そのままだ(- -;)。
その分、20字ブックトークで頑張ったから許して。。。


双子。ミステリでは大人気でもあり、使い古されたネタでもあり、
ある意味何でもありの様相を呈しがちでもあり、
実は結構難しくもあるこのネタを用いた本作は、
それだけにとどまらず、何と時刻表トリック、首無し死体、
そしてアリバイ講義までついてくるという特典つき!
大ライスを頼んだら、大きな茶碗に
さらにてんこ盛りで出てきたくらい、盛りだくさん。


前半の事件は、大変ゆるやかな進み方。
ある意味、とても平穏とすらいえる。
やや退屈と言えなくもない。
犯人の細かいアリバイはいかにもあやしく、
しかし大変緻密で、これを崩す場面は緊張感あふれる。
驚くのはこのアリバイトリック、前半で解かれてしまうこと。
ところが何だ、事件は終わりか、と思ったところで
またどーんと、謎が提示される。
その謎がまた、首無し死体と大変、ベタ。


つまり前半は主に加害者に双子を利用した時刻表トリック、
後半は被害者に双子を利用した首無し死体。
まさに「双子」が、1粒で2度美味しいってやつで。
大変贅沢なつくりをしておりますな。


登場人物の中でも非常にいい味を出しているのは
編集者・片桐さんだと思います。
このキャラは、推理作家である空知が
非日常的キャラとして浮いてしまうのを防ぐだけでなく、
殺人事件と発生という殺伐とした雰囲気の当事者達から
一歩離れた位置に配置されることで、
直接事件に関係ない世界を垣間見せてくれます。
それだけでなく、キャラ自体が大変、面白く魅力的ですけどね。


真相は…、ああ、騙されてしまいました。巧い。。。
この作品、巧いです。でも、菜の花的には後味が悪い感じ。
ラストのモノローグの中で、ぽつん、ぽつんと発せられる台詞は
どれもひどく哀しいのです。取り返しがつかない、ということが
過去と未来の違いなんだろうな。



菜の花の一押しキャラ…片桐 彼の台詞はどれも面白い! 「人生、部分的に義理堅いね、片桐さん」(空知 雅也) これに対する片桐の返答は「義理堅いをひっくり返して、片桐というくらいですから」。 トリック技巧:★★★★★ 動機の妥当性:★★★★ リアリティ :★★★★★ 読みやすさ :★★★★ 読後感   :★★★★★ ----------------------- 総合評価  :★★★★ 有栖川有栖著作リスト よみもののきろくTOP
082. 「8の殺人」     我孫子 武丸
2004.12.18 長編 291P 460円 1989年講談社ノベルス
1992年3月発行
講談社文庫 ★★★★★
8の字形屋敷で起きた、不可解な連続殺人!


島田荘司氏によって「本格ミステリー宣言」を書かせたという
大型新人の一人らしいです。さて?


【100字紹介】
 8の字形屋敷で起きた、不可解きわまる連続殺人!
 速水警部補と推理マニアの彼の弟・慎二と妹・いちおの
 3人組が挑戦するが、真相は二転三転、また逆転。
 本格派、しかしユーモアあふれる、筆者の長編推理デビュー作。 (100字)


さて、本格派ですよ。最近、本格が多い気がするな。

トリックはミステリを読みなれている人間ならすぐに分かるが、凝ってはいます。
真相解明への道筋…推理もしっかりしたもの。
ユーモア性は高いが、作り自体が甘いわけでは決してありません。
語り口は大変に軽く、ミステリ初心者が王道を読みたいと
思ったときに最初に手にするには大変向いているでしょう。

作風はどことなく、有栖川有栖を髣髴とさせると個人的には思います。
同じ本格派だからでしょうか?
ただ、あまりに「笑い」に執着しすぎている感があります。
いかにも狙った感じは、人により好みが分かれるところかと。
菜の花的にはややファール!…すみません。


全体にユーモアを通すがゆえにリアリティはありません。
その分、この奇妙なトリックの世界観に入り込みやすいのでしょう。
パズル性十分な、非常にミステリらしいミステリです。




菜の花の一押しキャラ…佐伯 和男 真面目な秘書。 「確か『荒城の月』だったと思います。」(佐伯 和男) 面白くない男、と評された佐伯さんがカラオケで歌った曲目。
トリック技巧 :★★★★★  やや使い古された感あり
動機の妥当性 :★★★★★  あってなきもの
リアリティ :★★★★★  非常にミステリらしいミステリ
本格度 :★★★★  推理は高水準
真相の意外性 :★★★★  悪くない。というか、ベストかも
読みやすさ :★★★★  エンターテイメント性抜群
読後感 :★★★★  明るいラスト

総合評価 :★★★★★  ユーモアミステリ
よみもののきろくTOP
083. 「今夜はパラシュート博物館へ The Last Dive To Parachute Meseum」     森 博嗣
2004.12.21 短編集 264P 800円 2001年1月発行 講談社 ★★★★★
森博嗣の短編集、第3段!


短編集です。ブックトークはなしで。
代わりにそれぞれのお話で軽く紹介と解説を。


●どちらが魔女(Which is the Witch?)
 西之園家で恒例のTMコネクションの会合?が行なわれた。
 参加者は萌絵、萌絵の叔母の睦子、犀川、喜多、大御坊安朋、
 大御坊の大学のサークル仲間の女性。今回のお題は大御坊から。

 <解説>
 いつの間にか、森短編集で定着してしまった感のある、
 TMコネクションの推理談義のための夕食会。本作で3作目か?
 前半は犀川からの提示で、有名な美術の話題。
 後半は大御坊からの提示で、オリジナルの話である。

 前半は、睦子も萌絵もこの話を知らない、ということに
 やや驚きを隠せない。大変、有名な話に思われるのだが。
 後半は真相としては何も面白いことはない。
 ミステリ談義としての華もなく、1つの作品としては評価できないが、
 犀川&萌絵シリーズ読者にとっては、
 あっと驚くことが用意されており、面白いと感じられるだろう。
 
 評価:★+★★★



●双頭の鷲の旗の下に(Under dem Doppeladier)
 犀川と喜多、萌絵と国枝桃子はそれぞれ、有名建築家の講演会目当てに
 中学校の文化祭に来ていた。そこで見つけたのは穴のあいた2階の窓ガラス。
 すり鉢状に内側に向かって穴の径が小さくなっているが、
 パチンコなどで外から撃ったわけではなさそうだ。
 一体、誰がどうやってあけたのか?

 <解説>
 純粋に物理的な真相。解説もクイズの答えのよう。
 別に殺人事件でもなければ強盗事件でもない、
 いたって平和なストーリーでもある。
 中学生の名古屋弁にはちょっと苦笑。
 でもまあ、きっとこんな感じ。きっと忠実。
 しかしこの話で最も見るべきは国枝先生でしょう!
 これは国枝ファン必見の一編!!

 評価:★★★+



●ぶるぶる人形にうってつけの夜(The Perfect Night for Shaking Doll)
 小鳥遊練無と香具山紫子は、大学のキャンパス内に出没するという
 噂の怪談「ぶるぶる人形」を追跡する会に参加した。
 そこで出会ったフランソワと名乗る謎の美少女。
 彼女はぶるぶる人形のトリックを見破ると言うが…?

 <解説>
 ぶるぶる人形とは一体何なんだ!?…という感じで、
 とりあえずつかみはOK!ってところ。
 トリック自体は大して面白いわけではない。
 (勿論、それなりの工夫はあるが。)
 むしろ本作の読みどころは、お化け屋敷的なこのドキドキ感。
 本当のところはどこに?というのを推理するというより
 味わうべき一編でしょう。

 評価:★★★★★



●ゲームの国(The Country of Game)
 名探偵・磯莉卑呂矛は助手とともに一之大島という離島に
 呼ばれた。まだ起きていない事件を何とかして欲しいという。
 すでに死刑になった30年前の大量殺人鬼が残した
 「人情と立法の狭間に、我は甦る」という言葉。
 捜索して欲しいのは行方不明になった殺人鬼の孫。
 そして起こった殺人事件…!
 
 <解説>
 一瞬、本格か?と錯覚する文体だが、読んでみると
 中身のギャップに驚くだろう。低級とすら思えるほどの
 コミカル小説だが、それでいて端々にひそむ小ネタは
 十分にインテリジェンスというこの不思議な取り合わせ。
 森博嗣ならではとも言える一編。

 評価:★+★★★



●私の崖はこの夏のアウトライン
 (My Cliff is the Outline against this Summer)
 私は崖が怖い。そんな私がやってきたのは、海風の吹き上げる
 断崖絶壁の上の駐車場。私は車から降り、絶壁にある
 手摺つきの階段を下っていく…。そして私は若者に出会った。

 <解説>
 ひとつ前とはうってかわって、ホラー的作品。
 幻想と幻影と現実と。ゆらぎの中にある真実。
 落ちは森博嗣らしい。まとまりがよい一編。

 評価:★★★★★



●卒業文集(Graduation Anthology)
 子供達がそれぞれ満智子先生について書く、
 小学生の卒業文集。

 <解説>
 素直に読めば、子供の拙い文章が可愛らしいな、
 で終わってしまいそうな作品。森博嗣だから、きっと
 どこかにひっかけがあるぞ!と心してかかっても、
 最後のページまで何がひっかけか分からないかもしれない。
 (私は分かりませんでした…。)
 ラストの段落で「あ、そうだったんだ」と思わず
 もう一度前から読み直してしまうこと請け合い。

 評価:★★★★★



●恋之坂ナイトグライド(Gliding through the Night at Koinosaka)
 僕と彼女は昨日出会ったばかり。けれど明日には
 彼女は外国へ行ってしまう。最後の夜を楽しく過ごすために、
 噂になっている恋之坂でのトリップに出掛けることにした…。

 <解説>
 少年少女の、とても危険な匂いのする出だし。
 恋之坂では何日か前に不審の残る凍死事件があり、
 警察が調べていたという情報…、否が応にも高まる緊張感。
 そして起こる不可解な事実。途中から「あれ?何かおかしい」
 と気付くだろうが、最終段落で殆ど種明かし、
 最終行で落としてくれる。つい騙されてしまうかもしれない。
 まあ、騙す気で書いているのは明白なんだけど。
 落とされてみると何でもない話ではあるが、
 ここに至るまでの、本筋とは必ずしも関係ない細かい描写
 (だが、少しはヒントになっているだろう)が、
 大変面白いと個人的には思う。

 評価:★★★★★



●素敵な模型屋さん(Pretty Shop of Modeks and Toys)
 僕は模型が大好き。けれど近所にはいい模型屋さんがない。
 近所の文房具屋や本屋でプラモデルを買うことから始まって、
 雑誌で見た飛行機や地下鉄でなければ行けないデパートにある
 鉄道模型に憧れ…、模型雑誌を読んでは夢みる少年の物語。

 <解説>
 模型好きが高じていく様を細かく、リアリティ豊かに
 表現している。もしかすると、作者本人の実体験に
 基づいているのではないだろうか?(森博嗣は模型好きである。)
 落ちは、いまいち。幻想的な雰囲気はあるが、納得はいかない。

 評価:★★★★★




菜の花の一押しキャラ…国枝 桃子 「いや、素直な方が君らしくなくて素敵だ」(犀川 創平) 国枝助手への言葉。失礼な(笑)! 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
084. 「夢幻戦記K 総司乱菊抄(下)」     栗本 薫
2004.12.26 続き物 206P 705円 2003年2月 ハルキノベルス ★★★★★
神剣か、魔剣か!?名刀・菊一文字との邂逅

20字ブックトーク、帯からそのまま取りました…。失礼。


【100字紹介】
 酷暑の夏、京の町を奇怪な噂が飛び交う中、
 総司は菊一文字をついに手に入れた。
 斉藤一は名刀に心奪われる総司を不安に思うのだが…。
 そして度を越す芹沢の凶行に、芹沢派閥と試衛館派閥に
 大きな溝が!緊張の12巻。 (100字)


このシリーズでは珍しく…いや、初めてかな?
100字ブックトークを書きました。
まあ、案の定というか何というか、帯から殆どそのまま
とってるんですけどね。ってゆーか、やっぱこれも著作権の侵害かな?
コピーライターさんの作ですよねえ、きっと。
すみませんすみませんすみません。
まあ、本の宣伝になるから許してくれますよね?

そんなこんなでもう12巻。
しかし下巻なのに上巻との刊行時期の開きは一体…。
きっと栗本薫はすごい多忙なんだ…。
それはいいけど、よくこんなに期間をあけて、
ちゃんと続きが書けますな。
まあ、彼女の場合はグイン・サーガという前例があるからいいのかしら。


ストーリーは芹沢一派と試衛館一派との緊張感が最高潮です。
しかしここまでやらかすまでお咎め無しな芹沢一派、謎です。
ちょっとやりすぎでは…?(^ ^;)

そして気になっているのは土方さん。
初期と人格が違ってませんか?( ̄▽ ̄;)
しかもめっちゃお偉いさんだし。というか、
これが本来な気はするけど、最初がヒドイ扱いだったような。
とりあえず、土方さんがカッコいいことはよいことなので、
文句は申しません、はい。賢いし。


何だかさ、夢幻戦記の感想ってさ、いつもすごい駄文だよね。
どっちかっていうと「ざつぶんにっき」っぽいな。




菜の花の一押しキャラ…沖田 総司 「俺は、変わらんのだよ、残念なことにな。               …というか、変わる方法がないんだ。俺は、俺だからな。」(斉藤 一) カッコいいー…でも何だか、哀しいのは何故? よみもののきろくTOPへ
085. 「そして二人だけになった」     森 博嗣
2004.12.29 長編 417P 2000円 1999年6月発行 新潮社 ★★★+
連続密室殺人事件の末、生き残った二人は…

森博嗣としては初めて、講談社以外の出版社の作品を読みました。
ハードカバーだし、何だか高級。ってゆーか2000円!?高っ!


【100字紹介】
 海水に囲まれ完全な密室となった建物の中で、
 次々と不可解な殺人が起きる。最後に残ったのは、
 盲目の天才科学者とアシスタントの二人。
 この密室で一体何が起きたのか?
 そして、二人を待ち受けているのは―? (96字)


表面的には生き残りの二人は天才科学者とアシスタントですが、
実際のところは「天才科学者の偽者」と「アシスタントの偽者」
という設定(このことは冒頭で語られる)。
これにより、話がまたややこしくなってます。
しかも語り手がこの二人の間で次々と交代していくので
一人称が「僕」「私」と交互に変化。大変複雑で、読みにくい。

内容としても複雑にからまっているように見えます。
殺人事件は、最初に提示された状況からは不可解そのもの。
素直に読んでいくと、これは解けないとしか思えません。
まさに不可能犯罪か?と期待が高まる展開。
ゆえに多少の読みにくさは棚上げしてもよいかと思われます。
一気に読まずにはいられないこと請け合い。
この長さで、この緊張感の持続は巧いとしか言い様がありません。


ただ、真相は本格好きの人にとってはブーイングもの、
森博嗣ファンなら拍手喝采ものかと思われます。


どんでん返しは大きく2回。
この真相を見ると、思わずもう一度そういう目で読み直したくなります。
これはやっぱり巧いのかな。それとも菜の花が見る目がないのか?

このようにして読み返すと、大体はいいのですが後半はちょっと不可解。
どうも真相をすっきりと受け入れがたく感じました。


森作品では章の始めに何かの本の一節を引用する、というのが
慣例になっているのですが(大抵は意図が読み取れないので
菜の花的にはこれは外見的装飾以外の何物でもないと評価)、
今回は興味深く読ませて頂きました。本作の引用作品は
アインシュタインの「相対性理論」。なかなかいい味出してます。
また章末に勅使河原潤(天才科学者のキャラクター名)のインタビューが
挿入されており、これもなかなかいい感じに仕上がっています。
本としての構成はかなり高評価してもよいでしょう。


一言で言えば本作は大変、森博嗣らしい作品です。





菜の花の一押しキャラ…勅使河原 潤 やっぱ賢くって2枚目って最高じゃない? 「ではそのお友達に、あなたが死んだら私は困る、と言ってあげなさい」 (勅使河原 潤) 自殺をしようとしている友人を助けたいときどうしたらいいか?という質問に答えて。 自殺はいけない、というように自分の意見を1つに絞ったり、自殺が善か悪かを議論  する必要はどこにもない、個々の死についてそれぞれ自分がどう感じるかをその時々で 判断したらよい、という。なるほどね、と思いましたね。             
トリック技巧 :★★+★★  これってトリックと言えるのか…?
動機の妥当性 :★★★★★  あってなきもの
リアリティ :★★★★★  リアリティはないですね
本格度 :★+★★★  一見本格、でも真相は本格らしからぬ
読みやすさ :★★★★★  謎が謎を呼ぶ系なので一気に読める
真相の意外性 :★★★★  どんでん返しは複数回
読後感 :★★★★★  きっと読者の頭の中は「?」の嵐

総合評価 :★★★+  緊張感を楽しみたい人にお勧め
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086. 「我らが隣人の犯罪」     宮部みゆき
2004.12.30 短編集 253P 448円 1990年文藝春秋、1993年1月発行 文春文庫 ★★★★★
宮部みゆきデビュー作他、5編の初期短編集

宮部みゆきは、本短編集の表題作でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、
デビューを果たしました。記念碑的短編集ですね!


●我らが隣人の犯罪
 僕、三田村誠、中学1年生。両親と妹との4人家族。
 僕達は念願のタウンハウスに引っ越したが、隣人の飼う
 犬のミリーの鳴き声に終日悩まされることになった。
 僕と妹は、家によく遊びに来る叔父さんと組み、
 ミリーを「誘拐」したのだが…。

 <解説>
 殺人事件でもないし、傷害事件でもない。
 誘拐されるのは犬。きっかけだって尋常じゃないと
 いえども犬の騒音。犯人だって子供2人と若い叔父さん。
 やっていることも…簡単…ではないかも?とても巧妙。
 こんな小さな可愛らしい事件を、この巧妙さで
 読ませてしまうのだから、通り一遍の巧妙さじゃない。
 小粒ながら、これはすごい新人が現れたのかも…!と
 予感させるには十分すぎるトリック。
 結果はこれだけ大きい!のに、「僕」の周りは
 とてもさらり、としたもので、小さな変化だけ。
 本当に、こんな隣人くらい、いるかも?と思わせる、
 視線の低さ…というか、ありそうな、でもありえないお話。
 読後感も爽やか。

 評価:★★★★★



●この子誰の子
 嵐の夜、僕が一人で留守番をしている我が家に、
 赤ん坊を連れた女の人がやってきた。彼女は父の愛人で、
 赤ん坊は僕の妹だと言う。信じていない僕だったが、
 彼女の強引さに一晩泊めてあげることに…。

 <解説>
 こんな初期の頃から宮部みゆきは宮部みゆきなのだ、
 と思わずにはいられない、細やかな心理描写。
 ストーリーとしては何だかつかみどころがない、と思ったが、
 後半で真相が明らかになると、すとんと腑に落ちる。
 明るい未来を予感させる、温かなラスト。

 評価:★★★★



●サボテンの花
 6年1組の生徒達は、「サボテンには超能力がある」と
 言い張り、それを卒業研究の課題にするという。
 担任はじめ、多くの保護者がこれに猛反発。
 この年を最後に定年退職する権藤教頭は
 彼らを擁護するのに忙しい。そしてやってきた研究発表会で…。

 <解説>
 コミカルな語り口で読みやすい。ユーモア豊富だが、
 散りばめられる正論・教訓・皮肉にリアリティ。
 個々のキャラは短編とは思えないほどしっかりと確立されている。
 どうにも奇妙なことばかりが起こるように見えるのだが、
 そのどれもが、パズルの一片であったことが
 ラストで明らかになる。すべての疑問が氷解するとはこのこと。
 感動的な終焉には思わず涙がにじむほど。

 評価:★★★★★



●祝・殺人
 妹の披露宴に出席した駆け出し刑事・彦根和男は
 披露宴のエレクトーン奏者に相談を持ちかけられる。
 それは捜査が難航する「晴海荘バラバラ殺人事件」に
 関するものだった…。

 <解説>
 謎解きの会話で物語の殆どが進行する。
 殺人事件が何故それほど難航しているのかは謎に思えるほど、
 さらさらと事実が紐解かれていくのは大変心地の良いもの。
 長編小説のラストの推理部分という、おいしいところだけを
 切り取ってきたような作品。まるでパズルが
 綺麗にはまっていく様を見ているようだ。

 評価:★★★★



●気分は自殺志願(スーサイド)
 海野周平は推理作家。近所の公園を散歩するのが健康法。
 彼が歩いているといつも同じベンチで座っている紳士がいる。
 ある日、紳士は海野に話しかけてきた。自分を殺して欲しい、と。

 <解説>
 これまた大変コミカル。本人はいたって真面目なのだが、
 あまりに真面目すぎて、可哀相なのに何故か面白い。
 非常に辛いがんじがらめな状況を、するりと抜け出した
 この妙案に思わず嘆息。夢をかなえた紳士の笑顔が眩しい、
 明るいラストに思わず拍手。

 評価:★★★★+






菜の花の一押しキャラ…権藤教頭 夢は「この世にひとつしかない酒を飲んでみたい」というナイスな先生 「僕たちはサボテンだ」(稲川 信一) 僕たちみんな、サボテンだ。誰にも剪定されないからだ。 宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOPへ
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