よみもののきろく

(2004年9月…026-049) もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
026. 「パーフェクト・ブルー」     宮部みゆき
2004.9.01 長編 356P 1989年初出、1992年12月発行 創元推理文庫 ★★★★★

さて、久し振りにみゆきちゃんの現代ものの長編。
ちなみにみゆきちゃんの長編デビュー作☆です。

さて今回からはもうちょい、司書の卵らしいことをしようかと
思っております。それはね。ブックトーク。
その本が読みたくなるように、その本の魅力を伝える、
ってやつです。ただし、文章は短く。
40字とか100字とかその程度らしい。
これってつまり、裏表紙とか見返しとかについてる
「あらすじ紹介」みたいなやつのことですね。
これがちゃんと書けるようになるのも、
専門職・司書に必要な能力なんだってさ。知らなかったねえ。
じゃ、練習しとこうかと殊勝にも思ってみたのです。
って訳で…。とりあえず、れっつごー?


【40字ブックトーク】
元警察犬のマサが探偵事務所調査員加代子と、
高校野球界エース殺害事件の真相に挑む! (40字)


【100字ブックトーク】
高校野球界のスターが全身にガソリンをかけられ、
焼かれるというショッキングな事件が起こった。
俺−元警察犬のマサは、現在の飼い主、蓮見探偵事務所
調査員・加代子とスターの弟・進也と共に事件の
解明に乗り出す! (100字)


【200字ブックトーク】
諸岡克彦は私立松田学園高校野球部のエース。地区大会
ではノーヒットノーラン試合を達成、夏の甲子園大会出場
が期待されている高校野球界のスーパースターである。
その克彦が殺害され、ガソリンをかけて燃やされてしまう
という凄惨な事件が発生した。現場に出くわした克彦の弟
進也、蓮見探偵事務所調査員の加代子、そして俺−元警察犬
で今は蓮見家の一員であるマサ−は、事件の真相を追い始めるが…。
宮部みゆきの長編デビュー作。 (200字)


実は、ちょっとずるいことしました。ほほほ。
すでに裏表紙とかに書いてあるブックトークを
勝手に切り張りしちゃってるんですな。
ま、そこにあるんだからいーじゃん!って…駄目?
練習にならんって?
いやあ、何事も模倣からスタートするものですよ。


まあ、いいでしょう。これであらすじは分かって頂けたかと。
早速ですが感想と評価を。
そうですね、、、何だかこれぞみゆきちゃん、
って感じがあんまりなくってびっくりです。
さすがに処女長編だけあってですね、途中まで
「え?まさかこれだけ?」
って心配になっちゃったくらいです。
真相がずっと見えてるみたいに感じるんですよ。
でも、まあ…最後の最後でやってくれます、
そりゃもう、みゆきちゃんですからね。
ってゆーか、あれでやってくれなかったら
推理小説としては2流どころか4流、5流ですよね。
そこはそれ、宮部みゆきは宮部みゆき。当然と言えば当然。
そして確かに「ほう、なるほど!ぽん(と手を叩く)」
ではありました。でもそこまで行くのが辛いんだなあ。
もう少し、隠してくれてもいいのに。
と菜の花的には思ったんですけどね。
ああ、でも見え見えだからこそ、そこに、
「何かあるに違いない!」って期待感が
生まれるのかもしれません。で、つい読んじゃう。
それもひとつの手なのか!うわっ、やられた!


文章は。一人称が基本的に犬のマサ君なんですが、
ふむ。犬としては上出来。なんだそりゃ。
まあ、よくしゃべる犬だこと。って。
でもみゆきちゃん作品としては、あんまり一人称は
秀逸な作品がない気がするのは気のせいかしら。
悪くないけど、よくもない。そんな感じ。

なおこの作品、続編が出ているようですね。
「心とろかすような」という作品の模様。
次に図書館に行ったら、是非借りてみようと思います。


菜の花の一押しキャラ…諸岡進也 (大活躍!の天下無敵の元気少年!) 宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOP
027. 「笑わない数学者 MATHEMATICAL GOODBY」     森博嗣
2004.9.02 長編 484P 1996年初出、1999年7月発行 講談社文庫 ★★★★

恒例・森博嗣の犀川&萌絵シリーズ3作目です。
いつも市の公共図書館の分館であるT図書館で本を借りるのですが、
この本、どうやらT図書館にはなかったらしく、予約しておいたら
A図書館のラベルが貼ってある本が取り寄せられてきました。
何故シリーズ物で1冊だけ置いてないんだろう、
何だか不思議だ、T図書館。


では、ブックトークから参りましょう。


【40字ブックトーク】
数学者は、巨大な像を消してみせた。
像が再び現れたとき、2つの死体が発見され…!? (40字)


【100字ブックトーク】
偉大な数学者・天王寺博士の住む「三ツ星館」でのパーティ。
席上、博士は庭にある巨大なオリオン像を消してみせた。
再びオリオン像が現れた時、2つの死体が発見され…。
犀川と萌絵が館の謎と殺人事件の真相を探る。 (100字)


【200字ブックトーク】
偉大な数学者・天王寺翔蔵博士の住む「三ツ星館」は、
オリオン座を模した前衛的なデザイン。内と外が逆に
なった不思議な世界だった。館で開かれたパーティの
席上、博士は庭にある巨大なオリオン像を消してみせる。
一夜明けて再びオリオン像が現れたとき、内と外に
それぞれ死体が発見され…。それは外への出口はなく、
内への入口もない奇妙な2つの密室だった!
犀川助教授と西之園萌絵の理系コンビが館の謎と
殺人事件の真相を探る。 (200字)


うう、微妙に疲れるな。
200字は次からやめようかな…。


さて、評価。
ああ。。。何だか疲れましたよ、菜の花は。
って訳でむしろノーコメントで通したいですが、
ここまで書いたんだ!書くしかあるまい!


一言。
トリックが面白くない。
というか、簡単すぎる。あんまり簡単なのでみゆきちゃんの
「パーフェクト・ブルー」みたいに何かあるのかと
結構期待して最後まで読み通しましたが、別に何もなかった…。
残念この上なし。こういう期待の裏切り方は酷い!
実際、著者自身も本作はトリックが簡単で、
「トリックが面白くないから、この作品は面白くないという読者がいる」
と思いっきり言及しています。まさに菜の花のことですか!?

評価は相当、悩みました。
トリック以外のところは嫌いでもないんですよね。
この妙に論理的でインテリな文章、嫌いじゃないんですよ。
思わず、にやり、とすることも多々あってですね。
…だから悩んじゃうんですよね。

森博嗣は理系作家で、論理的思考が売りの作品を書く人ですが、
本作は推理は微妙でした。あんまり議論が面白くない!
こうやって考えると前作の喜多助教授は、相当重要なキャラかも…
って思えてきましたよ。だって彼がいると議論が論理的で面白くなる…
気がする。気がするだけかもしれないけど。

ミステリはトリックがすべてじゃない、
と主張する著者の意見を聞いてると、確かに
菜の花がかたくなに「ミステリ」という型にはめこみ、
その型の中で正当でない評価を下しているような気がしてくるのです。

どうしようか悩んで悩んで、悩んだ結果、結局★1つで。



菜の花の一押しキャラ…諏訪野さん (空から登場するのが素敵だった…) 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
028. 「詩的私的ジャック JACK THE POETICAL PRIVATE」     森博嗣
2004.9.04 長編 330P 1997年1月発行 講談社 ★★★★★

犀川&萌絵シリーズの4作目です。
直前の「笑わない数学者」があんまり面白くなかったので
こちらはどうかなあ?と期待と疑念とが入り混じる気持ちで拝読。

まずはブックトークから。


【40字ブックトーク】
女子大生連続殺人事件!犯行現場はすべて密室?
西之園萌絵が、論理的思考で謎に迫る! (40字)


【100字ブックトーク】
女子大生連続殺人事件が発生した。犯行現場はすべて密室!
被害者の肌には意味不明の傷跡が残されていた。犯人は何故
傷跡を残し、密室に異様に拘るのか?理系女子大生・西之園
萌絵が、論理的思考で事件の謎に迫る! (99字)


【200字ブックトーク】
大学構内での女子大生連続殺人事件が発生した。犯行現場は
すべて密室!被害者の肌には意味不明の傷跡が残されていた。
捜査線上に上がった容疑者は、N大学工学部助教授・犀川
創平が担任する学生で、人気ロック歌手の結城稔だった。
被害者は彼の熱狂的なファンであり、また彼の作る曲の
歌詞と事件が奇妙に類似していたのだ。犯人は何故傷跡を
残し、密室に異様に拘るのか?理系女子大生・西之園萌絵
が、論理的思考で事件の謎に迫る! (200字)


何か、ブックトークって言うよりも、単なるあらすじ紹介な
気がする今日この頃。まあいいや。それもまた一興(謎)。


この事件、久々に派手です。
ってか、派手派手です。何人殺された?
ってゆーか、N大学、殺人事件起こりすぎ。
相当物騒だぞ。そしてどの建物の辺りで事件が起こったのか、
見えてくるあたりがまた、怖いといいますか、愉しいといいますか。
ローカルネタって結構、にやり、って感じかもしれない。
だから、ついつい読んじゃうんですよね。
今回はN大学どころか某私立女子大まで題材にされてましたね。
前を通ったことは幾たびもあるから場所は分かるけど、
中までは入っていないから、建物がどうなっているか
知らないので、これもやっぱり実際の配置とリンクしてるかは
ちょっと分かりかねますね。S女子大出身者って知人にもいないし。
しかし、いいの?N市の3大お嬢学校を殺人事件に巻き込んでも!


さて、雑談はおいといて。というか、この感想自体、
雑談以外の何物でもないんですが。。。そこはそれ。ね?


評価。あー?うーん?犀川先生が海外出張しちゃってて、
殆ど議論に加わって下さいません。面白さ、半減。
というか、論理的推理の議論が少ないなあ。
なのに、事件と関係ない部分の論理的思考は盛り沢山。
さすがにちょっと、おなか一杯って感じ。
犀川先生、全くやる気がないし。
密室の謎はあまりにあっさり解けてしまうので
(とても簡単なトリックだった)、
あとはHow?ではなくWhy?にすべての推論が移行。
しないといけないのに、遅々として進まない。
ただただ事件だけが進んでいく。と。
結局犯人が捕まるのは、全部終わってからかよ!って。
警察って、当てにならないなあ。探偵っていないんだなあ。
そんな感じ。また、犯人の動機は分からないでもないけど…
やっぱり何か分からないなあ。何であの人を殺したんだろう?
と、思ってしまう部分もあるし。。。
少なくとも普通の人にはまったく理解されないぞ!

まあ、事件の派手さに引っ張られて、★3つで。

ところで何で結城寛は白衣を着ているんだろう…。
研究内容からいくと恐らく彼は物理学科の人だと
考えられるんですが、物理の理論系で白衣を着るような
研究室はないと思います、はい。実験系でも相当レア。
よく「理系」と言うと何故か皆さん「白衣着るの?」って
仰るんですが、実際は物理の人が白衣を着ることはありません。
着るとしたら「防寒具」代わりくらいかな。



菜の花の一押しキャラ…国枝桃子 (この人も恋をするんだろうか…) 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
029. 「夢幻戦記A 総司地獄変(下)」     栗本薫
2004.9.04 続き物 209P 1998年4月発行 ハルキノベルス ★★★★★

初トライ。続きものの1冊です。
図書館で見た限りでは13巻くらいまで出てるみたい。
続き物で感想って変な気がするけど、まあいいや。
折角ですからね。

ちなみに第2巻。何故か?それはね。
第1巻が貸し出し中だったからですよ!
で、何を思ったか2巻、しかも1巻との関係が「下巻」
というとんでもなく中途半端なところからスタートしてみた。
はっきり言いましょう。ちっとも話が分かりませんでしたよ。
なら読むなよ!みたいな感じですが…。
だってだってだって!
この1巻、半月待っても返却されていないんだもん!
思わず、2巻から読んでしまうのも致し方あるまい!
(いや、そんなことはないだろう…)

とにかく、いきなり途中から読みました。
ブックトーク?もういいよ。やめようよ。
続きもので書きたくないよ。
図書館でもね、ストーリーマンガなんかは完結するまで、
購入しない決まりなんです。知ってました?
完結しないとそのマンガの価値が評価できないからなんだってさ。
まあ、何事も例外はありますから、完結してなくても
購入してる図書館もあるとは思いますけどね。


代わりに簡単なお話の説明を。
沖田総司がSFになった話です。何故にSF?
キャラクターはちゃんと、お馴染みのものです。
2巻では総司の年齢が16歳です。
出てくるキャラと言えば…

永倉新八   山南敬介
近藤勇    近藤周助
原田左ノ助  藤堂平八 
土方歳三     などなど…

でした。ちなみに土方さんは2巻で初登場なんですって。
なんつーおしゃべりな土方さんだろう…。イメージが違う。

オリジナルなキャラとして、秋月修羅王とか、
サキ・ローランドとか変な人が出てきます。
って、サキ・ローランドって何だ!?
何でカタカナの名前なんだ!?
あからさまに意味が分からない…。


評価?うーん、評価。
別に文章が下手だとか、そんなことは言いません。
何しろ、かの有名な栗本薫ですからね。
菜の花が読んだことのある栗本作品は
「グイン・サーガ」くらいですが、
あれは相当有名だと思いますよ。面白くなくもない。
ただねえ…、この人の小説って無駄に長いんだよね。
これってさあ、もっと短く出来るだろ?みたいな。
「グイン・サーガ」は100巻出す!って気合いがあったから、
まあ、仕方なかったのかなあと思っていたんですが、
あれだけじゃないんだね。本作も同じことでした。
無駄に長い…。
その分、内容がうすく感じるのは致し方ないでしょ?
同じ内容を、別の作家なら半分以下のページで
綺麗に収めてくれるよ、きっと!と言いたい。

でもそれでも、続きを読むかいな…と気分になるのは
やっぱりこの作家が巧いんだろうか…そうなのだろうか。
そうなのだろう。そうじゃなかったら、とっくに消えてるでしょう。
作家なんて人気商売ですからね。
売れるってことは、やっぱりすごい人なんでしょう。
かく言う菜の花も、続きをちゃんと借りてくるつもりです。
毒されているというか、はまっているというか。
何だかなあ。よく分からないんですよ。
別に文章が上手い!とは思えないんだってば。
なのに下手!って訳でもないんだなあ。ふうむ。



菜の花の一押しキャラ…沖田総司 (単に、この人が好きなだけ) よみもののきろくTOP
030. 「陰陽師」     夢枕獏
2004.9.05 連作短編 333P 1988年文藝春秋
1991年2月発行
文春文庫 ★★★★★

このきろくでは毎度お馴染み、陰陽師です。
やっとのことで第1作です。
今まで、第2、3、4作まで読んだというのに、
何故かこんなに遅くになって第1作。
どうせ連作短編なので、順番はどうでもいいのですけれどね。


さて、今回の収録作品は…


  ●玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること
	この時代、物の怪あやかしは人と共に都に潜むものだった。
	陰陽師・安倍清明はその道に通じ、式神を自由に遣う。
	彼の元に親友の武士・源博雅が訪ねてきた。
	帝の御物である「玄象」という琵琶が盗まれたのだが、
	その音が夜毎、羅城門から聴こえてくるというのだ。

	<一言感想>
	清明&博雅コンビデビュー作!
	紹介文がごちゃごちゃしてて読みにくい!(T-T)


  ●梔子の女
	博雅の友人で出家した寿水は、般若経の写経を思い立った。
	ところが百日余り過ぎた頃、夜半に目が覚めるようになる。
	そして廊下に出ると、口のない女のあやかしが出るという。
	物言いたげなその女の正体とは?

	<一言感想>
	ささいなことながら面白い1作かと思います。


  ●黒川主
	鵜匠の賀茂忠輔の孫娘・綾子のもとに、夜毎訪ねる男が
	いるという。男は黒川主。化生のものだった!
	朝になると綾子は何も覚えていない。しかし
	綾子が孕んでしまい、忠輔は方士に相談する。
	首尾よく黒川主を捕まえた方士だったが…

	<一言感想>
	こくんと頷く獺が、妙に可愛い。


  ●蟇
	応天門は、どこも悪いところがないのに
	雨漏りがする。あるとき修理の大工が誤って、
	貼ってあった真言の書いてある札を破ってしまった。
	それから門には子供のあやかしが出ると言う。
	百鬼夜行の中を潜り抜け、清明と博雅は出かける。	

	<一言感想>
	何のために彼らが百鬼夜行を通り抜けたかは
	分からなくもないが、何か恣意的に感じるなあ。


  ●鬼のみちゆき
	牽くものもいない牛車が夜中、都を駆けるという。
	1日ごとに八条大路、七条大路、六条大路…と
	7日かけて内裏まで向かうと牛車に乗る女は言う。
	最初にその牛車が現れた日、博雅は不可思議な
	文と、竜胆の枝を受け取った。これらに何の関係が?

	<一言感想>
	結局、鏡魔法って何だったんだろう…正体不明。


  ●白比丘尼
	ある雪の夜。博雅は清明に呼ばれて酒を酌み交わしていた。
	清明は、酒の肴とともに人を何人か切り殺したことのある
	太刀を持ってくるようにと言った…。待つことしばし、
	雪の庭に現れたのは若い女。一体、何が始まるのか?

	<一言感想>
	「人を何人か斬ったことのある太刀」ってのが、
	相当、いい感じに効いてますね。思わず「何!?」
	って乗り出しちゃいますからね。


菜の花的に最も衝撃的だったのは…
清明&博雅って初登場からすでに30代後半かよ!
ってことだった…。そんなおん歳とはつゆ知らず。
もっと若いと信じてましたよ…。
ってかこの時代で40とか言ったら、
もはや相当のおじいさまでは?
ってことは30代後半って、いいおじさんか!
しょーっく!!!


文章。最初の作なので、何やら落ち着きがないですね。
説明的文章が多すぎるし、話があちこちに飛んで
あまり整理された感じがない。それがいいところかも
しれず、でもうるさい感じといえなくもない。
好みの問題でしょうか。菜の花的には微妙。
むしろ、第2作以降の方が、さらりとした感じが
爽やかに感じられたのでよろしいかと思います。


漫画、よかったなあ。今度、古本屋で見つけたら
買ってしまうかもしれません。
お話自体は好きなんです、このシリーズ。



菜の花の一押しキャラ…蝉丸 よみもののきろくTOP
031. 「まどろみ消去」     森博嗣
2004.9.06 短編集 380P 1997年講談社
2000年7月発行
講談社文庫 ★★★★★

森博嗣、初めての短編集です。
全11篇です。

今回もめんどいし、ブックトークなしで。
(だんだんいい加減になっていくなあ。)


感想とか。今回、何と珍しく★5つもつけちゃった。
何故か?うーん、実は結構悩んだんです。
★は4つかなあ?それとも5つかなあと。
ちょっと微妙な5つで。ほんとのところは4.5って感じ。
作品によって、差があるから。です。


	ちなみに菜の花のお気に入りは
	「虚空の黙祷者」
	「真夜中の悲鳴」
	「やさしい恋人へ僕から」
	「悩める刑事」


	何となく分かるような気がするのが
	「純白の女」
	「キシマ先生の静かな生活」


	ふーん、ってのが
	「ミステリィ対戦の前夜」
	「誰もいなくなった」


	あんまり好きじゃないけど、巧いんだろうなあってのが
	「彼女の迷宮」


	ちょっとわかんないのが
	「何をするためにきたのか」
	「心の法則」


こんな感じです。
子供だましの使い古された手なのかもしれないけど、
あっさり騙された!って感じのものが多かったかな。
長編に比べて、変な理屈が少なかったので、一般的に
読みやすいんではないかと思います。
その分、森博嗣の一流のアクが少ないかもしれないけど。
でもたまにはいいんじゃないかな。
別に犯罪でも何でもないものも混じっていて、そういうのもいいな、と。
意外に推理小説よりそっちの方が向いてたりして、この作者。
S&Mシリーズも、何だか恋愛要素が、徐々に多くなっていくような
気がしてきたんですよね。別に取り入れ方も表現も下手じゃないけど、
ちょっと何だかなあという気がしないでもないですね。
やっぱりミステリーはミステリーの面白さで売って欲しい!
ってのが、ミステリーファンの希望じゃないかなあ。
恋愛物との抱合せ販売はちょっとね…と思う読者もきっといるはずだ!
少なくともわたくし、菜の花はそんなことを思うのだ!
まあ、単なる個人の好みの問題なんですけど。
その意味で、この短編集は比較的好ましかったかな。
短い分、あれもこれも、と言う感じで1つの話に
複数ジャンルの「詰め込み」ができないから、読みやすい。
それでいて、ちゃんと理系人間も出てきていて、
そういうのも好ましかったりする。


ただ萌絵が出てくると、短編はいまいちですね。
彼女は論理的思考が売りだから。
短編みたいな短い紙面では全くと言っていいほど
本領が発揮されていない!何というか、量子的。
ぽんぽんと飛んでしまうというか。うーんと。
まあいいや。とにかく、いまいちでした。


ところで「純白の女」を読んで思ったんだけど…
森博嗣って…案外少女漫画とか好きだったりして。
いや、何となく。この夢みる調の文体に。
そんな嗜好があったりしてーとか、思っちゃったり。
違ってたらすみません、先生。



菜の花の一押しキャラ…阿竹スピカ 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
032. 「ジュリエットの悲鳴」     有栖川有栖
2004.9.07 短編集 282P 1998年実業之日本社
2001年8月発行
角川文庫 ★★★★

久し振りの有栖川有栖、初めての短編集拝読です。
短編集ですので、ブックトークはやめます、辛いんで。
どんどんやらない癖がついていく…よろしくないな。

収録作品は
「落とし穴」
「裏切る眼」
「Intermission 1:遠い出張」
「危険な席」
「パテオ」
「Intermission 2:多々良探偵の失策」
「登竜門が多すぎる」
「Intermission 3:世紀のアリバイ」
「タイタンの殺人」
「Intermission 4:幸運の女神」
「夜汽車は走る」
「ジュリエットの悲鳴」
の全12編です。


簡単な感想でも。

「落とし穴」は犯人視点のミステリー仕立て。
でもほんとはブラックユーモアなのですね。それなりに面白い。
しかし菜の花の好みとしては、この手の話は好きではない!
だって、読んでる方が辛くなってくるじゃん!爽やかでない!
ありえないような偶然をうまく使って、綺麗にまとまってはいますね。

「裏切る眼」は最後まで読んでもタイトルの意味が最初、
分からなかった…。あ、なるほどね!と思ってしまえば
何故分からなかったが分からなくなるのに。不思議だ。
こういう話は嫌いではない。事情の明かし方も悪くない。

「Intermission 1:遠い出張」は「へ?」って感じだった。
当然ってゆーか、なんてゆーか、あんまりひねりがないというか。
素直って言うべきなのか。でもこの短さだからね。
巧いもんだ、ってことなのかな?

「危険な席」はありえないだろ!と思うんですが、
これも別にミステリーに主眼を置いてないわけですね。
微妙な心理戦なのか。この短編集はそういうのが多い。

「パテオ」は…、落ちがいいかな。これが命って気もする。

「Intermission 2:多々良探偵の失策」
はこの短さでクイズ(?)形式に仕立ててあるのが面白い。

「登竜門が多すぎる」は、完全なギャグなのね。
何か裏があるかと期待しつつ、素直にギャグだったので
これはこれで楽しめた。でも技術的にありえなすぎたので
騙される(?)主人公は馬鹿かと思った…。
みゆきちゃんが「面白かった!」とわざわざ葉書を寄越した
そうだけど、こういうのが好きなのね、彼女。

「Intermission 3:世紀のアリバイ」は…うまい!
この短さで、本格ミステリですよ(?)。
最初「へ?」って思っちゃったけど。これ、面白いよ。

「タイタンの殺人」も面白いね。宇宙人と交流して、
木星の衛星にまで植民しても、人間ってやっぱ殺人事件なんだ。
いや…宇宙人による犯罪か。まあ、いいけど。
何だか童心に返ったようで(…殺人事件な童心って、やだな)
なかなかよろしゅうございました。クイズだ!って感じで。

「Intermission 4:幸運の女神」もいい。こういうの、好きだな。
このIntermissionシリーズの様に短いのに面白いものが書ける人って
天才じゃないかと思う。才能だなあ。

「夜汽車は走る」は何だか「おもひでぽろぽろ」みたいだった。
でも不穏だね。最後に結局犯罪に繋がる辺りが、
さすがミステリ作家!って感じですね(笑)。

「ジュリエットの悲鳴」は、何だか悲しくなるなあ。
作者独自の考え方みたいなものが伝わってくる部分が結構、
興味深かった。



とりあえず、有栖川有栖の才能を確認した一冊でしたよ。
感想ばっかで何の説明もないですが、これくらいで。



菜の花の一押しキャラ…トモコ 有栖川有栖著作リスト よみもののきろくTOP
033. 「夢幻戦記B 総司斬月剣(上)」     栗本薫
2004.9.08 続き物 207P 1998年8月発行 ハルキノベルス ★★★★★

栗本流総司の第3巻です。
しかし表紙が派手だね、この本は。
ちょっと恥ずかしくて単独では借りられません。
まあ、最近の菜の花の読書は通俗小説ばかりですからね。
1冊くらい混じっててもいいや、みたいな。

さてと、第3巻の紹介をしときますか。
続きものだしね。あんまりネタバレしないように…。
それは無理さね!…とは思うが、努力はしてみやう。

今回初登場できっと主要キャラになるぞ!…な、
お人はこの人です!ばばん!

斉藤一。

イメージ違いすぎ!
ってゆーか、菜の花の中のイメージが多分おかしいんだろう。
菜の花の斉藤一どんのイメージはすべて、
「るろうに剣心」で成り立ってるんで。
なんだかな。きっとあっちがおかしいんだ。うん。
かと言って、これに出てくる斉藤一が一般的な斉藤だとは
つゆほどにも思えないけど!
斉藤が総司と同い年って史実なのでしょうか?
あんまりそうは思えない。のですが。
土方も相当、イメージが違ってたし!

勝手に碧也ぴんくの「八犬伝」のキャラに例えるならば。
(誰も分からないってばさ。マイナーな。)
斉藤って犬村大角と信じていたのに、ふたをあけてみたら
何故かしんべ(犬江親兵衛)だった!みたいな。
ちなみに土方はもろ犬飼現八だと思ってたのに、
犬山道節だった!って感じです。
とりあえず、イメージが違う!って言いたいだけなんだけど。


さて、評価?
続きもので評価ってどうなの?
変わるとは思えないんだが、ひとつ前の巻と。
まあ、書けるとこまで書くことにしようぞ。

今回は前回提出してくれた「土方VS山南」の構図(?)を
心情的にとっても丁寧に書き込んで、掘り下げてますな。
この辺の設定は大変、よろしい(すごいえらそーな)。
でもやっぱり何だか、冗長です。うん。
よくいえば丁寧。悪く言えばしつこい。
読者は馬鹿じゃないんですから、
そんなに書かなくてもよろしい。と言いたい。
途中で何回、読み飛ばそうと思ったことか!
やっぱりこの作品、半分以下で同じ内容のが書けますよ。ぐったり。

だんだん、事情が明らかになって参りますね。
一体どこを見てりゃいいのか分からなくなる複雑ささね。
はっきり言って疲れます。でもまた続きを借りて来るんだよな。
懲りないな、私は。それが栗本薫の巧いところなのか。



菜の花の一押しキャラ…斉藤一 (何か、よかった) よみもののきろくTOP
034. 「幻惑の死と使途」     森博嗣
2004.9.10 長編 398P 1997年10月発行 講談社 ★★★★★

「この事件は、奇数章だけで語られる。」 (17文字)

何となく、本とかの後ろにくっついている、
1行ブックトークを目指してみたのでした。
今度からこれ、いっとこう。まあまあ楽だし。

つーか、これだけ聞くとなんじゃそりゃ?って感じですね。
いや、読んでもある意味、なんじゃそりゃ?なのかも
しれないけど…いや、そうでもなかったけど。

ではいってみよう!


【40字ブックトーク】
天才奇術師・有里匠幻、手品中に殺害される!
その葬儀中、遺体が棺桶から脱出して!? (40字)


【100字ブックトーク】
あらゆる状況からの脱出を果たす天才奇術師・有里匠幻が、
衆人環視の状況で脱出奇術中に刺殺された。更にその葬儀
中、彼は遺体になってまで、最後にして最大の奇跡を
行なった!?犀川・西之園師弟が明かす驚愕の真実! (100字)


今回はめんどくなったので、200字ブックトークをやめて、
20字にして一番上に置いてみました。


さて、内容はまあ上の通りなんですけど。
犀川&萌絵シリーズの長編6作目。全部で10作らしいので、
やっと後半戦ってとこですか。萌絵もようやく大学院に合格しましたよ。
初登場の頃はまだ初々しい、共通教育時代でしたけどねえ。

今作では、もしかしたらシリーズ初!?かもしれませんが、
萌絵ひとりで謎解きパーティー(?)してます。
最後の最後で、ちょっと犀川助教授が付け足ししてますが、
基本的には萌絵ひとりで、いけたかな。
犀川はほんとに、手伝っちゃいない。
この人、何でこんなに何にもしないのに勝手に解いてるんだ?
これだけ推理できる能力がありながら推理に参加して
物語を進行させるという努力…というものをしてくれない
メインキャラは珍しい!と思う。このキャラ、冷めすぎ。
推理小説に登場する資格がないぞ!
推理出来るのにしないメインキャラは!
と、一度怒鳴って差し上げたい…。これが味なのかもですけど、
何かジョーカーみたいで微妙です。
第1作の「すべてがFになる」では、ちゃんと真面目に働いてたのに。


評価です。
今回は、変な試みをしているみたいです。
この本、奇数章しかないんです。1章、3章、5章…みたいな。
幕間で別の事件が進行しているらしい。
それは次作のお楽しみ!らしいけど。
そっちは偶数章しかないみたい。
この試みについては、評価のしようがないですね。
両方読み終わってみないことには、片手落ちってことになりかねない。
でも、1章で意味ありげに出てきた萌絵の友人・杜萌ちゃん、
以降、殆ど出てこないさね。どうやら偶数章のお楽しみらしい。
何だかな。1作としてはどうなのか?と言われると微妙に謎。
多分、2冊で1冊なんだ…。そう思おう。じゃないと、変だ。
まあ、手品師がいっぱい!な事件は、これだけで終わりみたいだけど。

葬儀で遺体が脱出奇術!ってのは、なかなかショッキングで
面白い事件だと思いましたね。やや単純に見えなくもない
実際の殺害の方より、むしろインパクトがあったなあ。
この事件のお陰ですごくうまく、盛り上がったと思うけど、
イベント以外の部分でテンポが遅く、折角の盛り上がりが
上手に生かされてないんじゃないか、という印象が残りました。
その辺が残念。ついでに手品のネタが、いまいちでした。



菜の花の一押しキャラ…国枝桃子 (今のところ、離婚の予定はないらしい。) 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
035. 「東京下町殺人暮色」     宮部みゆき
2004.9.11 長編 303P 1990年光文社、1994年10月発行 光文社文庫 ★★★★★

「13歳の順が、バラバラ殺人事件に挑む!」 (18文字)

今回も、20字ブックトークからスタート。
はいな、バラバラ殺人事件です。著者はみゆきちゃんです。

では、もう少しだけ詳しいブックトークからいきましょう。


【40字ブックトーク】
殺人事件の噂が流れ、実際にバラバラ死体が発見され…
刑事の子八木沢順が事件を追う! (40字)


【100字ブックトーク】
13歳の八木沢順は、刑事である父・道雄と東京の
下町に移り住む。その頃、町内では「ある家で人殺し
があった」という噂で持ちきりだったが、実際に
荒川でバラバラ死体の一部が発見されて…。
現代社会の怪異を描く。 (100字)


こんな感じでございます。
バラバラ死体かあ。何だかわくわくどきどきです。
お昼ごはん食べながら読んだのでちょっと気持ち悪かったけど。


評価。
いつものことながら、キャラがよろしいです。
主人公・八木沢順は勿論ですが、
画伯・篠田東吾とか、
その秘書で「ニンジャのオヤブン」みたいな才賀とか、
従順で武装したという家政婦のハナさんとか、
ちょっと間抜け、でも実直素直な順の親友・慎吾とか、
「マリエンバートで会ったわね」という言葉を残して
走り去った謎の女とか。
脇役でもきっちり、その人のこれまでの人生の背景を
背負っている、と感じさせてくれる、人物の描き方の丁寧さ。
これはみゆきちゃんの美徳ですね。
でも、この前何かの評論を読んでいたら
「事件と関係ない部分で饒舌なのがこの作家の悪いところ」
と書いている人がいました。
誰だか忘れましたが、多分、文芸評論家。
菜の花はこの意見には反対だなあ。
事件に関係ある部分だけ描かれたって面白くないさね。
まあ、ミステリとしては、関係ない部分を切り捨てるべき
なのかもしれないけれど…それってほんとに、単なるパズルだよね。
それこそがミステリだ!って言われたら何も言い返せないけど。
でもでも、やっぱりみゆきちゃんのこの技法は、
ミステリを描きながらも、これを単なるミステリに
とどめないものがあると思うのです。
ミステリを、ひとつの芸術作品にまで高めていく可能性を
秘めていると思うんですよね。なんて。

幕切れに関してなんですが、一部、よく分からないなあ。
それは最初の殺人の動機。これ、本気で分からない。
その辺がちょっと消化不良でした。

全体としては、あんまりミステリっぽくない。
扱ってる事件は「バラバラ事件」と、思いっきりミステリ風味
な訳ですが、視点が刑事である順の父親・道雄と
授業と部活と折り合いをつけて何とか捜査をしようとする
中学生の順の間で取り合い(何だそれは)になっており、
何というか、事件を追うぞ!という感じよりもむしろ
人と人のつながりとか、そっちの方がメインっぽい。
現代のお子様の心の病み具合(?)も上手に描かれておりましてね、
そのせいで余計にその感が強くなりますね。
それにしても順君はいい子やね。ほんとに。
将来が楽しみです。こんな旦那さんがいいなあ。



菜の花の一押しキャラ…八木沢順 (やっぱり少年は賢くて瞬発力がないとね) 宮部みゆきの著作リスト よみもののきろくTOP
036. 「夏のレプリカ」     森 博嗣
2004.9.12 長編 350P 1998年1月発行 講談社 ★★★★★
事件は、「偶数章」だけで語られる。


すみません、上の20字ブックトーク、超手抜きです。
前作「幻惑の死と使途」をコピって1文字変えました♪
ま、いいさ。この方がきっと分かりやすいさ!ほんとかよ!


【40字ブックトーク】
豪邸に忍び寄る仮面の誘拐者と、奇妙な幕切れ…
冷徹なる論理は夏の狂気を裁けるのか? (40字)


【100字ブックトーク】
帰省した大学院生杜萌の前に現れた仮面の誘拐者。
誘拐が奇妙な結末を迎えたとき、盲目の詩人の兄が
施錠された部屋から失踪?朦朧とする夏の日に
起きた事件、裏に隠された過去とは?
事件は前作と裏表をなし進展する! (100字)


上のブックトーク、何だかいまいちな感じ。
ちっとも内容が伝わりませんね。

いやむしろ…何だ、この事件?みたいな。
殺人事件なのに、ちっとも殺人事件らしく盛り上がらないし。

主人公は、杜萌…なのかな?微妙に謎。
でも探偵役は…萌絵…なのか?
全然、謎解きがない。論理的思考が推理に生かされていない。
単なるインテリのたわごとになっている。


評価は相当、悩ましい。
★1つか2つか迷っちゃった。
迷っちゃったけど、事件そのものは一応ひねってあった(のか?)し
2くらいつけとこうかな、どうしようかな、という微妙なところ。

…うーん、あの、今回、めっちゃネタバレしていいですか?
文句が一杯あるんですよ。
…いいですか?
じゃあ、白文字で書くんで、反転させて読んで下さい。
あの、これをまだ読んでなくて、
でも読む予定のある人は飛ばして下さい。


この作品で一番「へ?」って感じなのはやっぱり、杜萌の兄であり
盲目の詩人・素生くん。このキャラ、嫌いじゃないタイプのはずなんですけど。
事件の最初から少しずつ、どんなキャラか明らかにされていくのに、
ちっとも本人は出てこない。
誘拐事件のあとも「失踪した」ってことで、それなりに周りを騒がせてくれるが、
最終的には「実は関係ありませんでした」ってことに(多分)なってる。
杜萌の記憶からいくと、素生くんは杜萌ちゃんに殺されてしまったことに。
なんつー悲劇。最初から死んでたのか!あんなに頑張って紹介されたのに。
残念残念。そう思うのですが、まあ、事件には直接関わっていないけど
杜萌の深層心理に働きかけて、事件を誘発したんだ!って解釈すれば
かわいそうではあるけど、まあ事件に貢献(?)してるし、仕方ないよね!
と許されるキャラであった…はずなのに!
ラストのラストでめっちゃ普通に、カノジョさん(?)と
東京の街中で遊んでるところ(?)を萌絵に目撃されてしまうという、
何ともいえない幕切れ。何だそりゃ。
確かにね、実は最初から死んでました、はあまりに哀れなだとは思うけど。
思うけどね…、だからって事件に何の関係もなく、しかも変な謎だけ残して、
のこのこラストに出てくるなよ!って言いたい。ひどいぞ。
結局、この人の失踪って何だったんだ!別件も別件、全っ然、
まーったく、関係なかったんですか?みたいな。
しかも杜萌の家族は一体、何をそんなに必死に隠してるんだ?
まったく、意味が分からないぞ。事情も不明なままだぞ!と怒りたい。
これで評価が一気に下がりましたね。

ついでに言うと、ミステリとしてもあんまり面白くありません。
主な主人公が杜萌な訳ですが、杜萌は犯人だから推理らしい推理が少ない。
森博嗣の持ち味である論理的思考が推理に生かされず、
無駄にあちこちで放電しているから読みづらいばかりでちっとも面白くない。

面白くないと言えば、素生ってあれで詩人ですか?
何だか理屈っぽくて、ちょっと変な感じ。
それに素生の設定は視覚障害者。
そういう詩人なら、漢字とか見た目の文字の形とか、
そういうものって分からないし気にしなさそう。
その分、きっと音律にとてもこだわるんじゃないかしら?
何だか、そんな風には感じられないんですよ、中に出てくる詩。


トリックというか、真相は別に悪いとは思わないですけど、
だからといってあの程度の仕掛けで、これだけ分厚い1冊をひっぱるのも
どうかと思うんです。小品のネタで交響組曲を書くみたいな感じ。
これ、書いてるうちに評価を1に下げるか否か、
本気で悩んできました。ううむ。

まあいいや。今回は探偵不在で、
ちっとも一本筋が通った感じがしませんが、
あまり萌絵が出てこないのは嬉しいですね。
彼女が現れるたびに、杜萌は萌絵のどこがいいんだ?
と問い詰めたくなりましたですよ。
ますます嫌いになる萌絵ちゃんです。


今回は国枝先生があんまりご活躍されなかったのが残念。
少しは出てきたけど。今回の一押しキャラはちょっと悩んで、
珍しく国枝先生以外の人(たち)を選んでみました!
この兄妹の今回の会話は、ちょっとだけほんわか(?)和みましたよ。
犀川先生にも、人の子らしい感情が一応あったのね!って。



菜の花の一押しキャラ…犀川創平&儀同世津子兄妹 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
037. 「陰陽師 生成り姫」     夢枕 獏
2004.9.14 長編 381P 2000年4月発行 朝日新聞社 ★★★★★
清明と博雅の陰陽師シリーズ、初長編!


という訳で、連作短編ばかりだった陰陽師シリーズ、
初めての長編を拝読させて頂きました。
ではまずはブックトークからどうぞ〜。


【40字ブックトーク】
陰陽師シリーズ、初長編!
十二年前、源博雅に芍薬の枝を差しだして去った謎の姫とは? 
(40字)


【100字ブックトーク】
十二年前、源博雅に芍薬の枝を差しだして去った謎の姫…。
一度離れた心は、戻らない。
その理が分かっていても切なさは人を自ら鬼にする。
安倍清明は人の心に住まう鬼をいかにおさめるのか?
陰陽師シリーズ、初長編。 (100字)


今回は珍しくあんまり既成の紹介文に頼らなかった!
なので、すんごい分かりにくくなってる気がする。
いいさいいさ、何でもいいさ。私が分かってればいいさ。
どうせこんな雑文、読んでるのは菜の花以外は約1名さ。
もしかしたら奇跡的に2名くらいいるかもしれないけど。
それでも菜の花はその読者の固有名詞を挙げられるよ、多分。
大体、この隠れ家的サイトは殆ど宣伝ってものをしてないんだ!
リンク張ってもらってるとこも少ないしね。
すいません、話がそれました。


さてさて評価とか。
連作短編のファンの皆様なら、
あれれ、この話、何回も読んだよ?みたいな気分を味わえます。
いや、みたいじゃなくって、まさにその気分を。
そうなんですよ。殆どのエピソードが短編の切り張り。
いや、それも違うな。全部のエピソードって言っていいかも。
メインの事件は「陰陽師 付喪神ノ巻」にある「鉄輪」という話。
一応、色はついてます。短編のときとは違って、
過去の話が絡み、心理戦(?)の演出も増してるかな。
それについては文句を言うまい。
でもねえ…そこに至るまでが辛い!ただでさえ漫画でも読んでるので
(それは私の勝手だけど)、同じエピソードを何度も何度も繰り返し
提出されていて、結構だるい。しかもエピソード部分ってさ、
夢枕獏の「作者の語り」なんですよね。これ、つまんない。
陰陽師シリーズが菜の花のお気に入りになったのは、
「作者の語り」部分ではなく、「清明+博雅の何気ない会話」なんです。
これは結構繰り返されても耐えるんだけどね。普通のおしゃべりと一緒さね。
でも同じ講義を何回も聞いてられないぜ!ってのと同じで、
作者の語りは1度聞けばもうよいんです。結構なんです。
まあ、特に続き物ってわけじゃないから、ある程度の人物説明とか
必要なのはわかるんですが、、、だからって短編のを貼り合わせないでよ…
めっちゃ手抜きっぽいんですが。この長編、新聞連載だったらしいから
作者もお疲れだったのかもしれないですけどね。

と、散々毒を吐いてみるみる。

でも陰陽師が嫌いな訳じゃないんだよ。
だから★3つでいっときます。



菜の花の一押しキャラ…源 博雅 「しかし、納得できぬからこその鬼ぞ。            なりたくなかったとしてもなってしまうからこその鬼ぞ―」 (安倍 清明) よみもののきろくTOP
038. 「心とろかすような マサの事件簿」     宮部みゆき
2004.9.15 連作短編 284P 1997年11月発行 東京創元社 ★★★★★
俺の名はマサ。蓮見探偵事務所の用心犬!


というわけで、みゆきちゃんです。何だか久し振りな気がするな!
4日ぶりのみゆきちゃんか。ふむふむ。全然久し振りでもないじゃないか!

短編集では初の試み、ブックトーク。では、いってみよう〜。


【40字ブックトーク】
蓮見探偵事務所とその周りの人々が遭遇する5つの事件を、
用心犬マサが語る短編集! (40字)


【100字ブックトーク】
蓮見探偵事務所の所長、その長女で調査員の加代子、
次女糸子とその周辺の人々が遭遇する5つの事件。
様々な人間達の実像にあくまで真っ向から
立ち向かおうとする彼らの活躍を、
用心犬マサの目を通して語る短編集! (99字)


これはみゆきちゃんの長編デビュー作
「パーフェクト・ブルー」の続編に当たる短編集。
前作を読んでいなくても、無問題に読めます。
知ってる方が「え!?この人が!?」っていう
ちょっとした楽しみもあるかもしれませんが。
収録作品は以下の通り。


  ●心とろかすような
	深夜、路上駐車された車のトランクに隠れる女の子を
	目撃してしまった進也と糸子。直後に彼らは襲撃されて!?
	加代子はマサとともに、調査に乗り出す。


  ●てのひらの森の下で
	毎朝、定刻の加代子とマサの散歩道。
	いつものように公園を歩いていると、男の死体が。
	しかし加代子が通報しに離れた隙に、死体が消失して?

	
  ●白い騎士は歌う
	雪と共にやってきた依頼者は、弟の借金の使途の調査を
	して欲しいという。彼女の弟は行方不明。
	しかも社長殺しの容疑者であるという。


  ●マサ、留守番する
	蓮見探偵事務所が台湾に社員旅行!
	留守番を仰せつかったマサだったが、
	留守中に事務所玄関前にウサギが置き去りにされた。
	小さなその事件を調査中に今度は殺人事件が…!中編小説。


  ●マサの弁明
	依頼者は新人推理小説家・宮部みゆき。
	依頼内容は、丑三つ時になると彼女の仕事部屋に
	つっかけサンダルの足音が近づいてくる!という
	とても馬鹿馬鹿しい(!)もの。しかし事件の裏には…。
	もちろん、フィクションですよ!(笑)


評価。うーん、派手さがないのは短編だから。
でも、だからと言って飽きて放り出したくもならない。
その反面、徹夜でも読みたくなるほどでもなかったけど。
安定した実力者だなあ、と言えばよろしいんでしょうかね。
うん、そうだな。そういう感じの作品でした。

この中で実際に殺人事件がリアルタイム(?)で起こるのは
2作だけ。だから、物語のけじめのつけ方も、
あっはっはっは。と笑えるものもある。
その分、殺人事件のあったお話は、とっても深刻な気分になれますね。
山があるから谷は深くなる、と言いましょうか。
それを考えると、この配列もなかなかよいな、と思ったり。
やはり、そういうところにも気を遣うものでしょうね、作家さんは。
CDと違ってランダム再生する人もいないですからね、本は。
(皆無じゃないかもしれないが、あんまり聞いたことがない。)



菜の花の一押しキャラ…ジュンコさん 「今度は、あの人が友恵さんの白い騎士になってくれるんじゃない?」 (蓮見 糸子) 宮部みゆきの著作リスト よみもののきろくTOP
039. 「夢幻戦記C 総司斬月剣(下)」     栗本薫
2004.9.16 続き物 208P 1998年10月発行 ハルキノベルス ★★★★★

続き物、いきます。
ってか、そろそろ書くことのネタも尽きてきたな、この話。

お話としてはまだ、江戸。総司17歳。
今回の初登場重要人物は芹沢さんかね。
ってか、この人、人間じゃないんですけど。
ひどい扱いだな、おい。結構、新撰組を取り上げた作品って、
芹沢さんって扱いが酷いのが多い気がするんですけど気のせいですか?
勝てば官軍ですか?芹沢氏は権力争いに負けたので、これなんですか?
何だか、この人物にやや同情したくなってくるくらいですね。
散々ですね。例えば明智光秀だって「ひどい裏切り者だ!」って話と
「あれは仕方なかった…哀しい運命に弄ばれた男よ…」としてる話、
どっちもちゃんとあると思いますけど。忠臣蔵とかも。
しかし、未だかつて私は芹沢さんをいい人に描いた作品に
出会ったことがない。それは私が単に新撰組ものを読んでないから
母集団が小さいからかもしれないけど。
いやでもそれだけでなく、ついに化け物にまでされてしまったこのお人。
哀れな…。


まあいいや。
全体として謎は深まるばかり。です。
一番困っちゃったのは、どうも第1巻の回想から想像できる部分が多いらしい
ってことですね。第1巻だけ、読んでないんだよ。話が分からーん。
今度、読むかねえ。でも今更って感じだよね。うーむ。


もうひとつの出来事と言えば、ついに総司、労咳発覚ですか。
まだ周りには広まってないけど。でもさ、いいのか?
労咳って飛沫感染しますけど?こんな人を普通に集団生活の中に
ほっぽいといていいんですかい?周りが全員倒れても知らんぞ、みたいな。
まだ発病はしてないらしいから、いいのかね。

しかし、話すすまんなあ。今回物理的に起こったことは、
「総司、退院」
「総司、道場に帰る前に秋篠御前にお礼伺い」
「道場で本復祝い、途中で抜け出して総司夢を見る」
「起きたところを紫苑の君に話しかけられる」
「土方と総司、茶飲み話」
以上。話がすすまーん!


ところで評価が前回から1段階下がりましたが、他意はありません。
そろそろ飽きた。それだけ。というか、最初ははかりかねたので
何となく★3つにしたけど、ようやく読めてきたってところかな。
あんまり面白くないって事が。でもだからって途中でやめないのが
菜の花が菜の花たる所以なんですけどね。



菜の花の一押しキャラ…紫苑の君 「なんだ、お前か、道場破り」(土方 歳三) 斉藤一に向かって一言。すごいあだ名だな。 よみもののきろくTOP
040. 「陰陽師 瘤取り清明」     夢枕 獏-文   村上 豊-絵
2004.9.18 短編 154P 2001年10月発行 文藝春秋 ★★★★
清明と博雅、百鬼夜行!フルカラー絵物語。


今回は陰陽師初の「絵物語」ってやつです。
内容的には短編。でも挿絵というより、絵本チックに
絵が沢山入っている、というものです。フルカラーってあたりがすごい。
何だかとっても高くつきそうな。


【40字ブックトーク】
鬼達相手に清明と博雅が大活躍する絵物語。
妖しく恐ろしい平安の闇が今ここに広がる。 (40字)


【100字ブックトーク】
頬に大きな瘤をもつ双子の薬師・平大成と中成が、
薬草取りに山へ入ったところを鬼の宴に出くわし、
そこで踊ることに!?鬼達相手に清明と博雅が
大活躍する絵物語。妖しく美しく恐ろしい平安の闇が
今ここに広がる。 (99字)


清明&博雅のいつものお決まりパターン…なんですが、
今回は何だか、ふわっとあったかくなる読後感が気に入りました。
誰も死んでないし…多分。いや、死んでるのか?
ってか、食べられてたかもしれないけど。
お話の土台は昔話の「瘤取り爺さん」って奴ですね。
あれをちゃんと救ってくれるお話。
菜の花大好きの博雅殿が大活躍!なので
ちょっとご機嫌よく★4つつけてみました。
すごいぞ博雅!これで自分のすごさの自覚があればなあ。
って感じですが…ああ、でも自覚しないからこその博雅なんだよね。
その博雅に「共に死ぬる覚悟ある」と言われて思わず
「好い漢だなあ、博雅は」と清明が言ってしまうのも無理からぬところ。
そんな清明も大好きですけどね、菜の花は。


他の短編に比べてまとまりがきれいに出来ておりました。
これで1冊にするつもりだったからかもしれません。
それとも新しい巻だから、作者が上達したのか。

絵に関しては特に何も。
何か、日本昔話って感じですね。
朱呑童子、可愛くないです、顔が(苦笑)。


この話、オールスターって感じでした。
今までの短編で登場した懐かしの妖物、続々登場!って。
ファンにはちょっとにやり、な1冊です。



菜の花の一押しキャラ…源 雅博 「これほどの笛を奏ずることのできる者と言えば、  源博雅どの以外にこの世にあると覚えず」    (朱呑童子) よみもののきろくTOP
041. 「陰陽師 1-3/7-9巻」     岡野 玲子   原作:夢枕 獏
2004.9.17 漫画 - 1999-2000年発行 白泉社 ★★★★
岡野玲子流、漫画版陰陽師。


久々に漫画、いってみようと思います。
というか、ついに買っちゃったので(一部)、それを書こうかと。
そして何とも奇妙なことに全12巻のうち6冊だけで
しかも続き巻でないという謎の買い方をしてしまいました。
だってだって、古本屋で安かったのだけ、買ったんだもん。
1冊105円、6冊で630円。
これって、定価の1冊分(800円程度)以下の値段なんです。
分かるでしょ、ついついこういう風に買っちゃう気持ち!(笑)


さて、評価など。
絵に関して。怜悧な絵です。少女漫画でも少年漫画でもない。
ああ、大人向けだなあという感じ。というか、うまい。この人、巧いよ。
やや女性の顔の見分けがつかないという難があるものの、非常に巧い絵です。
何だか、美術的。人物の書き込みも大変丁寧。
こんなに綺麗に、しっかりと平安の装束を、連載するという
時間の制約の中で描ける人がいるとは思わなかった…。
よほどよい資料をお持ちで、デッサン力にも優れているとみた。
また、カラーの人物が美しい。
本当にこの人は単なる漫画家じゃないんだな、と思わされる。

話に関して。
第1巻は、基本的には完全に原作にのっとった感じ。
ちょっとだけオリジナルも入りますが。
例えば第1話の百鬼夜行で菅原道真を印象付けるとか。
これは後の伏線なわけですね。
2巻以降、原作の中にオリジナルを交えながら描いていきます。
原作は短編なので、派手さが足りない、だから漫画にしたとき
そのまま描いてしまっては映えないから、ですかね。
実際、岡野流陰陽師は、いかにも漫画に映えるストーリーです。
オリジナルキャラの真葛も、画面映えのためのキャラかと
思われますが、どことなく違和感があるものの、
それほど浮くというほどでもないかな。
7巻ではオリジナルキャラの菅公(道真)と真葛を使うことで
短編を1冊分にまで膨らませており、
8・9巻は殆どオリジナルのストーリー展開。
このまま12巻までいったら、清明は世界を支配できるんじゃないか?
くらいにスケールもやたらに大きくなります。うん、漫画らしい。
ちょっと、わざとらしいほどに大きくなるのが
鼻につかないでもないけれど、面白くなくはない、かな。


絵を中心に色々と参考になることも多い作品かと思います。
ああ、あと6冊かー。どこかで安く手に入らないかなー。
定価で6冊買っちゃうと相当高いんだよ。是非、古本屋で探そう。



菜の花の一押しキャラ…源 雅博 「山が…山が燃えている            あんなことがあったのに…何もできなかった  どうにも止められなかったのだよ、清明」  (源 博雅) 内裏、炎上後に愛宕山の一面の紅葉の下で よみもののきろくTOP
042. 「今はもうない」     森 博嗣
2004.9.20 長編 381P 1998年4月発行 講談社 ★★★★★
嵐の別荘地で起きた、2つの密室殺人事件!

森博嗣です。後半戦に入ってます。
S&Mシリーズ、8作目。ようやく。


【40字ブックトーク】
嵐の別荘地。隣接する2つの密室に双子のような
美人姉妹が一人ずつ遺体で発見された! (40字)


【100字ブックトーク】
電話が不通になった嵐の別荘地。隣接する2つの密室で、
双子のようによく似た美人姉妹が別々に遺体で発見される。
部屋では死者に捧げるが如く、映画が上映され続けていた…。
犀川&萌絵シリーズ第8作長編小説。 (98字)



読み疲れです。しかもこの微妙な不満や怒りや不快感の
やり場に困ってしまっている菜の花。
はっきり言って、森作品、もうおなかいっぱいです。
もういーらないっ!と、読むのをやめたいんですよ。
でもあと2作で犀川&萌絵シリーズが終わるので
ここまできてしまった以上、読みきらないとそれはそれで気持ち悪い。
って気分な訳です。面白くない…と言いつつ、グインサーガを
50冊以上も読む羽目になった菜の花ならではのことですね。


このシリーズの何がそんなに嫌かといいますとね、
メインキャラである西之園萌絵が嫌いなんです。
この人が出てくると嫌悪感を抱くのです。
今作でも、萌絵嫌いを強く、再確認致しました。
いや、半分くらいは彼女が悪い訳じゃないんですけどね、
読者が勝手に考えているんだってことくらい分かるんですけどね
(最後まで読めば、この言葉の意味は分かる)…。
でもとにかく「むかつく!」の一言に尽きる主役って
ある種、凄くないですか?「こいつ、悪い奴だな!」
って笑って見守る気も起きないくらい、
嫌なんですよ、このキャラ。


森作品、当初はそんなに嫌いではありませんでした。
ミステリとして、面白いかも、と思っておりました。
でもシリーズが進むにつれて、ミステリ小説であることを
どんどん捨てていっているように感じます。
面白い部分を捨てて、代わりに欠点だな、と
思っていた部分がどんどん膨らんでいく感じ。
まあ、人の好みの問題でしょうけど、以前にも書いたとおり、
菜の花はミステリのふりをした恋愛小説は嫌いです。
ミステリ仕立ての恋愛小説はいいですけど、
ミステリと銘打って売り出しておいて、
中身はミステリとしてはお粗末で、恋愛小説がメインだなんて
昔あった「ブレンド米」販売よりもたちが悪いです。
勝手に混ぜんな!みたいな。許せない…。
また、論理的思考・推理が売りであるこのシリーズですが、
最初の作に比べると、事件がシンプルすぎるから
理屈が目立つばかりで、話は遅々として進まない、
という印象が強すぎる。無駄な講釈も多いのも気に入らない。


何て、毒吐きまくりですね。ごめんなさい。


全体の評価としては★1つに限りなく近い★2つでいっときます。



菜の花の一押しキャラ…諏訪野VS滝本 上品と上品が対決しているような構図であった。 (笹木氏が1人称の、地の文) ―諏訪野VS滝本の執事対決に言及する一文。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
043. 「陰陽師 首」     夢枕 獏-文   村上 豊-絵
2004.9.21 短編 127P 2003年10月発行 文藝春秋 ★★★★★
陰陽師シリーズ、フルカラー絵物語第2弾!


さて、陰陽師シリーズの絵物語の2作目です。
ちなみに絵物語1作目は「瘤取り清明」です。

【40字ブックトーク】
清明のもとに賀茂保憲がやってきた。
首塚の封印を解け、夜な夜な首が宙を飛ぶという… (40字)


【100字ブックトーク】
清明のもとに賀茂保憲がやってきた。
首塚の封印を解いた者の元に、夜な夜な
首たちが襲いに来るという。首が飛び交い、
生肉を喰らう恐ろしい話ながら、
絵本の美しさ、可愛らしさも兼ね備えた
陰陽師シリーズ、絵物語。 (100字)


ストーリー自体は、「陰陽師 龍笛ノ巻」のうちの一話らしいです。
まだ菜の花は読んでないので初読みのお話でした。

表紙からして呪われております。生首だもん。
こわー。牙、はえてるよ。もはや人間でなし。
でも帯に「怖い。けれど美しい。」って書いてある。
う…美しいっすか。そうっすか。もはや何も言うまい。
どっちかというと可愛らしいってやつだとは思うけど。

中身も、ひえー、絵のほのぼのさ(?)の割に
相当エグいお話だと思うんですけど。気持ち悪いぞ。
一件落着、と終わる訳ですが、何だか結局救われたのは誰?みたいな。

昔、お話の作り方のサイトを読んだことがあります。
あんまりはっきり覚えてないけど、菜の花的に理解したところを
書いてみましょうね。
お話というものは、+、0、−の3状態があると思って下さい。
いや多分、状況は大体この3状態に分けられると思うんですけど。
混沌とした話は知りませんよ、でも単純に分けるとこんな感じね。
で、これらの状態の変化でお話は形作られていく訳です。

例えばね。
@人がいました。友人が誘拐されました。助けるために頑張りました。
 ようやく友人を助けました。そして友人とは末永く、仲良しでいました。
 めでたしめでたし。
…というお話があったとしたら、まずは初期状態が「0」、
誘拐事件が「−」、終状態はハッピーエンドで「+」って具合。
つまり、「0」→「−」→「+」。


他には…
A狐の子だ、と近所の子供にいじめられる男の子がいました。
 ある日、彼の能力に気付いた男が、彼を弟子にしました。
 男の子は成長して誰もに恐れられるすごい陰陽師になり、
 帝の信頼もあつく、陰陽師としては異例の高官位につきましたとさ。
…というお話だったりすれば、最初はいじめられてるんで「−」、
その後、平状態になって「0」で、最後は大成功で「+」です。
つまり、「−」→「0」→「+」。


いわゆる悲劇ってやつは最後が「−」になります。
Bロミオとジュリエットなんかだと、最初は「0」、
2人知り合って恋が芽生えて「+」、ラストが「−」です。
つまり、「0」→「+」→「−」
一気に転落。


ちなみに、このとき「+」→「−」、「−」→「+」など
落差を激しくすればするほど劇的となり、
人の心に訴えかけるんだってさ。
その意味では@とBは及第だけど、Aみたいなのは
もっと細かいエピソードで「+」と「−」をはっきりと、
そしてうまく演出しないと面白い話にはならないってことね。


で、これに当てはめて考えてみよう。
陰陽師はシリーズものなので、基本的にはスタートは常に平状態
でありますので、「0」ですね。この話はラストも平状態だから「0」。
ってことは、中間部にきっちり「+」「−」の演出が必要ってこと
になりますね。
で、みてみると…ああ、何だか「−」なことが続くぞ?って。
あれ、「+」な部分がないやー、ってことに。
ふうむ。ううむ。何というか…いいとこ(「+」)ないじゃん!
それで心浮き立つような感じがないのか。淋しいぞ。
ついでに言うと、陰陽師シリーズはこの手のつくりが多い。
キャラがいい人たちだから、もっているようなものだ、
というのが菜の花的意見。でも「瘤取り清明」はラスト部分に
大きな「+」があって、とても印象的なよいつくりをしていたと思います。
やれば出来るのにやらないのか、この作者は…ずるいな。



菜の花の一押しキャラ…源 雅博 「あの、あさましい姿が人の本性と思えば、あれはあれで、        妙にまた哀しく、そして愛しい光景でもあったような気がするのだよ」 (源 博雅) よみもののきろくTOP
044. 「夢幻戦記D 総司夢幻行(上)」     栗本薫
2004.9.23 続き物 206P 1998年12月発行 ハルキノベルス ★★★★★

ええ、ついに5巻です。しかしすごいペースだね。
普通の週刊連載漫画と同じように2ヶ月に1度の刊行。

ほんとに書くことが、尽きました。
とにかく話が進まないしな。
あ、でも今回はずいぶん進んだ方だな!

ついに時代小説でなくなったのです。
これはすごい進歩だ!
時代小説じゃなくなって、じゃあ何になったかって?
それはね、SFかな…いや、あんまりサイエンスでもない。
ファンタジーかな。
SFファンタジーって、確か銘打ってた気もするしな。
いやあ、やっとか。ってゆーか、今までがエセ時代小説だったから、
ずいぶん往生際が悪いっていうか、何だよ、それは!雰囲気ぶち壊しだろ!
みたいな場面が頻出していらいらさせられたものですが、
それもこれも、時代小説なんかじゃないんだよ、ってことになれば
俄然、気にならなくなってきました。何でだろう。
何というか、小説を読むときの姿勢が変わるっていうかさ。
肩透かしをくわないで済むようになった、ってこと。かな。
これまで時代小説だと思って読むから「看板に偽りあり」な
気分を味わっていたけれど、そうでないなら、これはこれで
別の愉しみ方をしようという気分に切り替われるのですよ、ええ。
例えるならばね…緑茶だと思って飲んだら砂糖が入っていて
「うわあ!」って感じになったけど、別の飲み物だ、
って割り切って飲むと意外に美味しかった、みたいな
(うちの後輩が、タイ旅行したときの実話)。


そんな訳で、今までよりは少しは愉しんで読める気がする今日この頃。


ところでよくわかんないけど、斉藤一が総司の舎弟(半分嘘)
になってしまいました。何てこった!斉藤一ファンが怒るんじゃないか?
私は別に熱烈的なファンでないので構わないけど。
土方さんの役目がよく分からなくなってきたし
(それに伴い、彼の存在感も大変薄くなっていく…)。



菜の花の一押しキャラ…斉藤 一 「都合のいい夢だったら、信じるよ。」(土方 歳三) 楽観主義な、土方の一言。 よみもののきろくTOP
045. 「今夜は眠れない」     宮部みゆき
2004.9.23 長編 270P 1992年初出、1996年10月発行 中央公論社 ★★★★★
平凡な僕の一家に突然、五億円の遺産が!?


みゆきちゃんです。
さてさて、今回は何をやってくれるでしょうか?
まずはブックトークから。


【40字ブックトーク】
放浪の相場師が、何故か母さんに五億円の遺産を残した。
平凡な一家にたちこめる暗雲。 (40字)


【100字ブックトーク】
放浪の相場師と呼ばれた男が、何故か母さんに
五億円の遺産を残した。平凡な僕の一家にたちこめる暗雲。
壊れかけた家族の絆を取り戻すため、中学一年生の僕は、
親友で将棋部エースの島崎とともに調査に乗り出した! (99字)


というわけです。
あー、珍しく殺人事件じゃないよ。
ミステリだからっていつもいつも人が死ぬ訳じゃないらしい。
あ、でも発端は「放浪の相場師」さんが病死したせいだから、
やっぱり人は死んでるんだけど…、いや、でも死んでないけど。
でも事件は起きてるけど…、まあ、死んでないや、直接は。


評価、いっとく?
えーと、まずはですねえ、文章とか?
一人称ですね。少年ですね。ちょっとひねくれてて、でも素直。
可愛いねー。誰だったか、
「少年を書かせたら、宮部みゆきの右に出る者はいない」
とか言っていたような、いなかったような。
ちなみに関係ありませんが、
「少年役をやらせたら高山みなみの右に出る者はいない」
とも言いますね。あれ?言わない?おかしいなあ。
でも菜の花、高山みなみのおねえさま系(?)も大好きですよ。
それにしてもCDブック「るろうに剣心―明治剣客浪漫譚」の弥彦役は
相当のはまり役でしたよねえ。あの悪口をあれだけ軽妙に演じられるのは
彼女をおいて他にないと確信致しましたよ。うんうん。
…え?話がマニアック?これは、失礼をば。
誤解のないように言っときますけど、菜の花、おたくじゃないんで。
ええ、もう、こんなのは昔取った杵柄…
違う、それじゃ昔、おたくだったことになるじゃないか!
とにかくですね、当時はお子様でしたから熱心にアニメを見たものですが、
今となってはアニメなど、とんと見ないんで。
いやいや、それは全てでないな。むしろTVを持ってないので
どんな番組もみることが出来ないんですが。
うう、話が完っ全に、完っ璧にずれてしまった。すみません。

とにかく、一人称。そう一人称。
その話だよ。ってか、何をそれてるんだ。

子供の一人称というお話は世の中に数多けれども、
対象読者が大人であるものは結構、少ないと思います。
ティーンズ向けの小説の多くは、若い主人公の一人称で語られますが、
これらは同年代の少年少女向けであるものが殆どで、
読者との年齢的なギャップをなくすことで、読み手を引き込み、
スムーズな感情移入を促すというものでありましょう。
しかし、この作品においては、それは主目的ではありませんね。
じゃ、主目的は何なんだろう…と思うと特にこれだ!という答えは
私にはご用意できないんですけれど、まあ、事件を比較的客観的に
見られる位置でありつつ、でも思いっきり渦中の人、
という位置を狙ったら、子供になっちゃった、ってことなのかしら?
と思わなくもありません。それだけの理由ではないと思いますが。

ミステリ小説に別に限る訳ではありませんけど、
特にミステリ小説や恋愛小説では「視点の位置の選択」というのは
大変に重要なものであります。一人称というのはどうしても、
その視点の人の主観が入り込むわけですし、
知識や思考法則にも制約を受けます。
その人物が知らない事実や概念は伝えられない、ということですね。
勿論、その人物が考え付けないことも語られません。
これは大変なデメリットですよね。事実自体も、その人物の
「フィルター」を通してしか、読者には知ることが出来ないのです。
しかし反面、知らないことを知った場合にその人物が「成長」するさまを
読者が目の当たりに出来るというメリットもあります。
このメリットゆえに作者はこの方式を選ぶ場合、多くの場合、
成長する余地のある人物、すなわち相当の若年者が選ばれるでしょう。
特に思春期付近が多いかと思われます。成長しやすいですからね。
と考えると、この作品もこれが当てはまるのかな。

他の可能性も考えてみます。この作品の場合、一人称で語る場合に
他に考えられる主人公キャラとしては…
「母さん」「父さん」「弁護士さん」「親友の島崎」
などがあげられます。この辺、それなりに主要キャラ。
ラストの事情から、「母さん」はどちらかというと除外した方が
よろしいのではないかと思うので他のキャラクターで考えます。
以下、ややネタバレ含みます。

「父さん」…これは、何だかドロドロした話になりそうですね。
奥様のことを疑った挙句に家出しなきゃなんないし、
浮気もしちゃってるし、しかも振られたりと忙しいし、
おまけに妻も息子も誘拐されにゃならんし。
最後はドジって怪我して入院だし。
まあ、波乱万丈。この方の場合は主人公することは十分可能です。
かなり恋愛色が強くなり、ミステリ小説とは呼べなくなるかと思いますが。
ジャンルが変わることを恐れなければ、それはそれで別の魅力ある
(かもしれない)ストーリーにはなるかもしれません。
ただし、この作品とはまったく方向性が変わります。
殺人事件こそ起こってはいないのですが、やはりこれは
「ミステリ」なんだろうなあと考えられるからです。
ミステリを目指す以上、「父さん」が主役はありえないのです。
	…恋愛小説目指すなら「父さん」を主役に!

「弁護士さん」…これは、微妙な心理戦には向かないかもしれません。
事件等の動きの部分はありますが、あんまり波乱(?)の中心には介入せず。
しかも基本的にはこの人、何だか悟ってしまっているようで、
もはや成長の余地がなさげ。彼を主役にするには、一人称は向かないかも。
しかももう少し別の事件を用意した方がよろしいかも。

「親友の島崎」…これは、大いにありそうではありませんか?
「僕」とは同級生であるゆえに十分成長の余地はあるはずだし、
頭も切れるようなので、論理的思考で謎に迫れるかも。
ただし、渦中の人、とは必ずしも言い切れないので、
事件の中心にいる「僕」のような心理的な動きは少なくなるでしょう。
その分、純粋に推理を愉しむ人にはよい主人公になるのではないでしょうか。
やはりこの作品の方向性とは、ややずれそうですが。
ただ、この歳にしては妙に悟りすぎているので
脇役としては色をつけるのにいいかもしれませんが、
主人公としてはやや、不自然なキャラクターになる恐れがあります。
	…純粋ミステリ(論理的思考)目指すなら「島崎」を主役に!

以上のように考えてみると、やはり「僕」が主人公に選ばれたのは
ゆえあってのことなのだということが確信されます。
主人公により、物語の方向性が変わる訳です。
つまり、作者はこの「僕」を主人公にした場合の、
このお話を指向していたということになります。
作者の書きたかったものは何か?ということが、
ここに見えてくることになるのですね。
作者が書きたかったもの…それはやはり、純粋ミステリではなく
家族の絆とかそういう心理的な微妙な動き、なのでしょう。
あー、人情話ってことね、平たく言えば。
みゆきちゃんの小説はとにかくこれが多いです。
むしろ「人情ミステリ」という新分野の名称を打ち立てたくなるくらい。
そして菜の花は、こういうのが好きなんですよね。

さて、もっと別のことにいきましょう。語り口に関して。
軽妙。というか、自由で子供らしい。というか、何かうちの弟みたいだ。
…これは褒めているんだよ、弟よ。
統一されない語尾。とてもGOOD。

次。ストーリー展開に関して、参りましょう。
展開は、この作者のいつもの展開と同じく、遅い。
ずいぶん、ゆったり。まあ、事件らしい事件が起こらないから
緩急のつけようもないのかもしれないけど。やや退屈にならなくもない。
最後のどんでん返しについては、うーん、悪くないけど、
どちらかというともっと「あっ」と言わせて欲しかった。
ある種、単調に進んできて、淡々と終わっていったという感じ。
その辺がちょっと評価を下げますね。

全体を通しては、展開の遅さの割に
途中で投げ出したくなるようなことはありませんでした。
つまり、安定した何かがあるということ。
一部は「宮部みゆきなら何かしてくれる」という、
宮部ブランドへの信頼からくるのかもしれないけど。
でもそれがすべてではない。
やはり、続きが気になる、という安定した魅力が
文章の中に散りばめられているのだ、と思う。
ただし、後半部はその吸引力が弱かった。
以前から思っているのだが、どうもみゆきちゃんは
冒頭とラストが苦手のように見える。
というか、中間部が際立って巧いことが多いから、
そう感じるだけかもしれないとも思うけど。

というわけで、★は3つでお願いします。



菜の花の一押しキャラ…島崎 俊彦 「べつに。ただ、ちょっと悲しいだけだよ」(島崎 俊彦) 「僕」もまだ気付いていない、「僕」の一家の危うい絆の崩壊が始まることを予感しての一言。達観。 宮部みゆきの著作リスト よみもののきろくTOP
046. 「数奇にして模型」     森 博嗣
2004.9.25 長編 499P 1998年7月発行 講談社 ★★★★★
密室の中には、死体も容疑者も入っていた。

それは、密室って言わないんじゃない?
…と思わずツッコミを入れたくなるのですがね、
上の20字ブックトーク。そういうこともあるさ!

森博嗣の犀川&萌絵シリーズ、9作目。
あと1作で終わる!やっと!


【40字ブックトーク】
モデルの首無し死体発見。
その密室で昏倒していた容疑者は、
別の密室殺人の容疑者!? (40字)


【100字ブックトーク】
模型交換会場でモデルの首無し死体が発見された。
死体と共に密室の中で昏倒していた容疑者は、
同じ夜に起きた密室殺人、女子院生絞殺事件の容疑も
かけられていて?犀川と萌絵が事件に挑む、
シリーズ9作目! (96字)


何だか単なるお話紹介に成り下がっているのが気になる
今日この頃のブックトーク。あ?最初からだって?
それは辛い。ぐふう。


結論から言いますと、森ミステリの中では比較的面白い作品に
久し振りに出逢ったわね、という感じであります。
動きがあるからね。どっかに緊張感が保たれている、というのは
ミステリにとって、大変によろしい。
このひとつ前に読んだ、宮部みゆきが動きが少ない作品だった分、
やるだけやってくれたこの派手さが、なかなか爽快。
いやいや、そう簡単にここまでやれませんぜ、
普通の市内の殺人現場で炎上事件とか。
そういえば、シリーズ第6作である「幻惑の死と使途」でも
最後の現場は炎上してなかったっけか?
…したした、めっちゃ同じ市内でしてたぞ。
派手だねえ。派手好きだねえ、森センセ。
那古野市内をあんまり破壊しないでね。
そして、この市内の大学で院生をばしばし殺すのも不穏ですよ。
森センセ、欲求不満がたまっているんでしょうか、学生に対して。
それはさておき。

文章に関して。
少しだけ、無駄理屈が少なめに感じました。悪くない傾向。
というか、事件に無関係な理屈部分を斜め読みするという、
癖がついてしまっただけなのかもしれない。それはそれで悲しい。
陰陽師読むときは一生懸命、斜め読みにならないように
心の中で音に直して読んでますからね。
そうしないとどんどん飛ばし読みしていってしまう習慣が、
どうやら最近ついてしまったらしいので。
陰陽師は短いから、ゆったり読まないと勿体無し。
ちなみに栗本薫作品のときは、森作品と同様、どんどん飛ばし読みします。
というか、流し読み?一応読んではいるけど、
内部で音として再生はされないので
完璧には脳内にOUTPUTされないという状況。
イメージはカセットテープの頭出し。何だそりゃ。
そうだね、菜の花にとって読書というのは、目からのINPUT情報を
メモリに一時格納、計算後に出力をハード(記憶)に書き込み、
という作業をやっている感覚なんですけど(普通そうだよね?)、
そのときのハードへの書き込みをしないのが流し読みです。
一時記憶(メモリ)の片隅には残像のように残っているので
読み進めていってそれなりに重要だと判断された部分は
あとからハードにOUTPUTされます。
ので、時々判断が遅れることも。とりあえず速読していると
周りが見えなくなりますね。メモリが占有されているからね。
と言っても、別に驚異的な速読でもないけどね。所詮、この程度。
昔の方が明らかに速かったよなあ。高校の頃は行きの電車の中で100P、
帰りの電車で100P、とかそんなペースだったから
さくさく本が読めたものな。お陰で図書館の常連。
多分、あの頃の方が脳内のアクセス速度が速かったんだ。
ああ、また関係ないことを。この話はここまでだ!


展開に関して。
上にも書いたように、事件が中途でまた起こるので、
緊張感の持続があります。こういうのって好きだなあ。
でも、書き方によってはもっともっと強く張りつめた
ぎりぎりの感じを出すことが出来そうに見えるんだけどねえ。
今回は関係ない理屈は比較的少なかったけど(でもあった)、
その代わりなのか、関係ないエピソードが多くて、
緊張感を緩和させてしまうようなことがありました。
そのエピソード自体が気を抜かせるってわけじゃなくて、
何というか、他にリンクしない断片を散りばめられたせいで
ストーリーの流れに一貫性がなく、断続的なイメージがついてしまった
ということなのだと、菜の花は思います。
集約していかないエピソードを混ぜることでより現実味を出そうと
試みた可能性はありますが、少なくとも成功しているようには見えません。
それよりは論理的思考ミステリで売ってるんだから、
もっと本格派を目指して無駄を省いて欲しいな、と思うんだなあ。
何しろこのページ数ですしね。いつものことながら、長いわ。

ストーリーに関して。
最後の幕切れに関しては微妙です。
一応、どんでん返し的なおまけ(?)もありますが、
帯に偽りあり、と言いたくなる微妙さです。ううむ。
まあ、そういうのもいいと思うんだけどさー。まあ、いいか。


とりあえず、そんなこんなで★3つだo(≧▽≦)o!



菜の花の一押しキャラ…筒見 紀世都 「君、お風呂に入ると溶けちゃう人?」(筒見 紀世都) 一瞬、物理的に溶ける人を想像…怖い。この無邪気な物言いが好き。 森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
047. 「陰陽師 龍笛ノ巻」     夢枕 獏
2004.9.26 連作短編 247P 2002年1月発行 講談社 ★★★★★
連作短編の「陰陽師」シリーズ、第5作。


陰陽師シリーズ参ります。
ではでは、一話ごとに簡単な内容と感想をば。

  ●怪蛇
	藤原鴨忠の屋敷に仕える小菊という女の足に
	大きなできものができた。どうしてもとれず
	困ったところに白髪の老人が現れ、そこから
	蛇を取り出して除いてくれた。橘好古の身にも
	同様のことが起こった。蛇の正体とは?

	<一言感想>
	毒見役って大変だ!
	そして橘好古さん、お疲れ様でした。


  ●首
	「陰陽師 首」を参照のこと。
	シングルカットされた、ってところですかね。


  ●むしめづる姫
	橘実之の娘・露子は常の女性とは違い、
	虫を好んで飼い、眉も抜かず、歯も染めないという。
	特に烏毛虫が好きなのだが、ある日彼女は
	とんでもない虫を飼い始める。
	困りきった実之が、清明をおとなうが…。

	<一言感想>
	古文で出てくる「むしめづる姫」です。
	彼女の賢さ、そして純粋さが伝わるお話でした。
	もしかして道満さんにも認められてるのか?
	露子姫、おそるべし。


  ●呼ぶ声の
	琵琶の名手・藤原伊成が夜中に山中の桜の木の下で
	琵琶を奏でていると、どこからともなく声をかけられた。
	あやしみつつ、返事をしてしまった彼は、
	その朝自宅に戻ってから奇行を行なうという…。

	<一言感想>
	保憲、再び登場。というか、ちゃんと陰陽師な仕事も
	したことあるのね、このお人。漫画では結構頼りなさげ
	な御方でありますが、小説では結構すごい人かも。
	事件前の清明と博雅の会話がとてもよいです。


  ●飛仙
	最近宮中に、身の軽いあやかしが出ると評判になった。
	同じ頃、友則の娘・頼子が病に冒され、
	兼家からもらった薬を飲ませたところ、
	今度は気ふれになってしまったという。
	何か関係があるのだろうか?

	<一言感想>
	あやかしに、「妖殿(あやしどの)」と呼びかける
	清明って一体。いや、まずあやかしに
	訪問されちゃう方が変な人なのか。


いやあ、いいなあ。清明&博雅。
何だかますます博雅が、おっとりのんびり超天然系になってく気がする。
そんな博雅が大好きなので、ストーリーが暗かろうが、
起伏がなかろうが、多少のことは気になりません。
相変わらず会話文の調子が素晴らしい!



菜の花の一押しキャラ…源 博雅 「困る」(安倍 清明) 「博雅よ。そういう真っ直な眼で人を見るものではない」 と言われ「見ると、困るのか」と博雅が問い詰めたときの答え。 「おまえにはかなわぬ」。博雅は清明を調伏できる唯一の人。 よみもののきろくTOP
048. 「夢幻戦記E 総司夢幻行(下)」     栗本薫
2004.9.28 続き物 207P 1999年4月発行 ハルキノベルス ★★★★★

総司君フォンタジー、第6巻です。
今回は斉藤一どんと一緒にお出掛けした上巻の続きで
目的地に着いてからの波乱万丈(?)を描いております。
ちなみに上巻との間は4ヶ月でした。ペースが落ちたな!
何か別のものでも書いていたのか、正月休みと春休みを
たっぷりと取っていらっしゃったのか。
まあ、別の仕事だろうとは思うけど。


さてさて、文調とかはそう簡単に変わるものではないので
評価ってのも変わるものじゃないんですけど、
それなりに書かせてもらいましょうか。

えーとね、展開に関して。
今回はちゃんと終わったぞ!って感じがしました。
下巻だから、ってこともあるのかもしれないけど…
でも今までのことを振り返ってみると、下巻だからって
必ずしもきっちり終結してたとは全く言い切れなかったしな。
でも、この巻はどうやら「序幕」の終結でもあるらしいです。
って、6冊使って序幕かよ。やりすぎだろ。
次の巻ではいきなり総司が21歳になってるし。
(今回は17歳かな。)

それは置いといて。
とにかくですね、ちゃんと終わってはいたんです。
これは快挙。
何でも教えてくれそうなおぼーさまには会うわ、
敵の黒幕みたいなのとタイマンはって、斬っちゃうわ、
ほんとに思う存分、色んなことを教えてくれる変な存在にも出会うわ、
敵の正体が露になるわ、自分の正体も露になるわで、
もはや無理矢理終わらせたとしか思えない、唐突な展開。
思いっきり、ゆるゆるだらだら時間をかけて広げた
(しかもイライラするほど、とろく)大風呂敷を
読者が自分を投影するだろう主人公の探求によって
判明させるのではなく、とにかく面倒になったし
もう紙面もないからこれでいいや、えいや!…と
いきなり提出してしまったような状態。

何だかもう、数学の問題集を解いていて
ちっとも分からないから答えを見ちゃえ!
って思ってページをめくったら、
いきなり最後の答えだけどーんと書いてあって、
解答法とか手順とか一切なしだったみたいな微妙な気分。
明解ではあるんだけどさ。
これはこれでいい気分かもしれないけどさ。
もやもやが一挙に晴れちゃうんだもんね。
必ずしも悪い気分じゃあないとは思うよ?
でもねえ。。。
推理小説常連読者はこういう展開に慣れないので
ちょっと愚痴ってみただけです。ふっ。



菜の花の一押しキャラ…月心 (マイナーどころで攻めてみました) 「おかしな人ですね。とまりたければとまればよいでしょう」(弥勒) そりゃそーだ。 よみもののきろくTOP
049. 「夢にも思わない」     宮部みゆき
2004.9.30 長編 318P 1995年初出、1997年10月発行 中央公論社 ★★★★★
僕の大好きな女の子の従姉が殺された!?

さて、みゆきちゃんの作品です。
これはシリーズ2作目に当たるそうです。
ちなみに1作目は「今夜は眠れない」です。
ふむ。おやすみなさいシリーズか?

これを読んだ理由は、おすすめされたから。
まあ、そうでなくとも必ずいつかは読んだけどね。
みゆきちゃん制覇を目指しているので。
さて、ブックトークから行くぞ!


【40字ブックトーク】
僕の大好きな女の子の従姉が殺された!
彼女のため、僕は親友の島崎と調査に乗り出す。 (40字)


【100字ブックトーク】
秋の夜、虫聞きの会で殺人事件が。殺されたのは僕の
同級生のクドウさんの従姉。被害者は少女売春組織と
関わりがあったらしい。大好きな彼女のため、僕は
親友の島崎と調査に乗り出した。
中学生コンビの推理の行方は? (100字)


ってわけです。
さて、評価ですが。
前作に引き続きの1人称。
「僕」は決して馬鹿じゃないけど、天才でもない中学生。
で、傍にやたらな天才・島崎がいるんだよねえ。
前作より更にパワーアップしてる気がするぞ、この男。
しかも実は運動神経もよさげなことが判明したし。
5面指しが出来るくらいの将棋の猛者だし。
その島崎が、僕を助手にして推理をするなら
結構ありがちな形式なんだけど…、
この場合は島崎、どんどん壁をつくってゆくんだよね。
主に恋愛とかそういう複雑な、心理的要因によって。
この辺はうまいなあと思う。
壁を作るのはうまかった。でもそのせいで真相解明が
ちょっとあっけなかった気もする。島崎がもう答えに
到達してしまっていたから、ある程度の推理が成立した時点で
あとは答えあわせが今まで殆ど出ていないキャラの口から
語られてしまう…というのがやや違和感。
語られる内容自体は、別によくあることなんだよね。
推理小説では追い詰められた犯人はよくしゃべるし、
しゃべんないで消えていった場合でも、警察とか事情を知る人が
話してくれたりはするけど。。。
でも今まで殆ど画面に現れなかった、でも話をすっかり
語って聞かせてくれる超重要人物がいたんだよ、
しかも島崎はその人物と…ってことになるとさ、
ちょっと嫉妬ってゆーかね、なんてゆーかね…
ずるいじゃん、それ!!!って思っちゃったりした。。。
うーん、面白い試みだとは思う。でも…。

これと平行して「僕」の恋愛話が進行していて、
必ずしも「僕」は推理をしてるわけじゃなくって、
普通に日常的に、生きた人間だ、ってのがよく描かれている。
ここは、大変にみゆきちゃんらしい。
そして最後の最大の山場もやっぱり心理戦。
ああ、うまい。しかしなあ…後味は、爽やかでもないかもしれない。

それにしても、ちょっと島崎、天才すぎやしないか?
絶対、こんなやつはいないと思う…と前回も思ったけど、
今回は更にそれに磨きがかかった気がするよ。
ちょっと頂けないかなあ。
でも、みゆきちゃんのキャラとしては非常に珍しいタイプだ。


微妙な減点の結果…そうだなあ、やっぱり★3つくらいに
なってしまうかもしれない。理由は、菜の花の好みである
「全て円満ハッピーエンド」にはならなかったから…かな。




菜の花の一押しキャラ…カナグリさん 「ところでうかがうが緒方雅男君。君は犯人かね?」(村田警部) 僕への一言。すごい警部だ。素敵過ぎる。 宮部みゆきの著作リスト よみもののきろくTOP
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