よみもののきろく

(2005年2月…094-101) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
094. 「セレンゲティ アフリカの動物王国」     岩合 光昭
2005.2.05 写真集 87P 4800円 1984年11月発行 朝日新聞社 ★★★★★
自然と野生動物の素晴らしさを伝える写真集


先月読了させて頂いたエッセイ「アフリカポレポレ」の著者の夫の写真集。
つまり、あのエッセイの書かれた著者一家の、
1年半のアフリカ滞在中に撮られた写真の集大成、ってことですね!
エッセイが大変面白かったので、ちょっと見てみたくなりました。


【100字紹介】
 大自然の中に長期滞在することで、通りすがりの旅行者ではない目で
 ファインダーを覗いた著者が、「食物連鎖」を作品として展開。
 密漁や砂漠化などの様々な問題を憂いつつ、
 自然と野生動物の素晴らしさを伝える写真集 (100字)


迫力ですねー。
菜の花、写真集なるものを見た経験が乏しいので比較ってものが出来ないんですが、
少なくとも菜の花が撮るような、素人写真とは格が違いますねw(当たり前だー!)

色々な写真があります。
ただ立っていたり、座っていたり…そんな生易しい写真だけじゃなく、
闘っていたり、交尾していたり、殺され喰われていたり…。
生物種も様々。ライオン、ハイエナ、チータなどの捕食者もいれば
シマウマ、ヌー、トムソンガゼルなどの草食動物も。
絶滅危惧種のクロサイも…。
勿論、動物だけでなく様々な自然の姿もそこには映し出されています。
実は菜の花的に一番気になったのは植物でした…。
しかも何ともマニアックなことだと本人も思うのですが、
最後の方にあった鮮やかな赤色をした地衣類の一種、というのに
相当、心ひかれた…というか、びっくりしました。あんな色の地衣類がいるとは。
ってか、一体何の色素の色が出てるんだろうな?
光合成する生き物を見ると、とりあえず光合成色素が気になるのはある意味、職業病。
そーゆー研究者の卵ですもんでね。何かあやしいなー。
いやいや、いやいや、そんなもの見てる場合ではない。
もっともっと見るべきものがこの写真集にはありますぞ!

現代日本にお疲れの貴方、この写真集の世界に浸って、大自然に触れてみて下さい。
弱肉強食、食物連鎖。これは単なる別世界の出来事ではありません。
我々も同じ動物で、この連鎖の中に組み込まれた仲間だということ、
忘れてはいけない、でも忘れてしまっているに違いない事実を
色々と教えてくれる一冊…になるかもしれません。



095. 「暗黒館の殺人(上)(下)」     綾辻 行人
2005.02.06 長編 654,646P 各1500円 2001年9月発行 講談社ノベルス ★★★★+
中村青司を巡る旅「館」シリーズ最大の大作


長かった…。分厚いよ、これ。すでに文庫のレベルを超えているさ。
何しろ1冊1500円もする文庫なんざ、聞いたこともないさ。
あ、これって文庫じゃなくって新書か?
講談社ノベルスって、びみょーな大きさだよね。



【100字紹介】
 外界から隔絶された湖の小島に建つ暗黒館。
 光沢のない黒一色に塗られた浦登家の屋敷に
 当主の息子・玄児に招かれ訪れた学生・中也。
 ダリアの日の奇妙な宴、続発する殺人事件の無意味の意味、
 謎の海を視点が飛び巡る! (100字)



恐ろしいほどの長さでしたが、結局読まずにはいられない感じでした。
元々連載していたものをまとめたもの。
いやでもこれは、連載でリアルタイムに読んだらとんでもなく大変そうです。
伏線があちこちに散りばめられていますので、
全体を通して読まないとこれに気付かない可能性大。
しかも、キャラクターは「焦らすつもりはない」と言いつつ、
あからさまに事情説明が焦らされてるし。
よーく事情を知っているキャラが目の前にいて、しかも必ず説明するよ、
と「私」に述べているにも関わらずちっとも明かされない。
早く言えー!と掴みかかりたくなったのは菜の花だけではないはずだ!!
筆者の言葉に、無駄に長い訳じゃないからご安心を、とありましたが
この辺、どーなんですか!?焦らすのはやめて下さいよ!
無駄に長い、って言っちゃいますよ!!!
…でもよかったんだなー、この作品。
すごく浸れるんだな、この世界に。

このシリーズではおなじみキャラである河南さんが冒頭、
霧の中を抜けるシーンがあり、彼はここでまるで異世界にでも迷い込むような
不思議な感覚を味わうことになるのですが、読者もまた、
このシーンによって「暗黒館」の奇妙な空間に浸りきるための
切り替えがなされるのですね。読んでいる期間中、何をしていても
頭の片隅に「暗黒館」的世界が巣食っているような、
微妙に「とりつかれた」状態であったような気もします。
それだけ、世界を完全に構築してしまっている作品であるとも言えるでしょう。
非常識的な人物や、思想が現れてもこの世界なら受け入れられてしまう、
そんな奇妙な空間が目の前に現出するのです。


さすがに長いだけあって謎も一筋縄では行きません。
沢山の独立した謎が絡み合います。語り方にそのまま如実に現れている
「最大の謎」はしかし、比較的分かりやすいものでもあります。
散りばめられた伏線が多いからですが、一度気付けば大したことではありません。
ただしこのようなことが起こること自体が大変な謎ですけどね。
それについては作者も解き明かしてはくれませんが。

しかし抽象的に言うならば、完全に階層構造の中に
取り込まれてしまった謎に関しては、大変に難しいものです。
ここでいう階層構造とは、時間的なものです。
この物語は、同じ空間を共有する別の時間の事件が重なり合っているのが
最も大きな特徴となっています。

<ダリアの日>とは?<惑いの檻>とは?
<ダリアの日>の宴で供される料理の正体は?
18年前の事件の真相は?

などなどなど…、館や浦登家に関連する謎だけにとどまらず

彼の正体は?

など、なかなか面白い謎が満載です。
さてさて、あなたはこれらの謎がどれくらい解けますか?
菜の花は2つしか分かりませんでしたよ…。
謎に挑戦したい方、どうぞお試しあれ。



おまけ。
全然余談なんですが、本作の浦登 玄児と「私」こと中也君のカップリングが
つい最近読んだ「人買奇談」の天本森&琴平敏生とやたらかぶりました。
どことなーく、キャラがかぶってなくもない上に、玄児のところに中也が居候、
ってあたりの状況も(と言ってもそうせざるを得なかった事情は全然違いますが)
すごーくよく似ている気がしてしまいまして。何か変な感じー。

ついでにもうひとつ。読後感が宮部みゆきの「蒲生邸事件」に似てる…。
同じようなものだから???でも蒲生邸とは違って、フォローがないんだよなー。
この辺が男女の違いかなー、なんて思ってみたりもするのです。





菜の花の一押しキャラ…浦登 玄児 「中也君」と「私」を呼んでくるシーンが何か好き 「分らないのか。分ってくれないのか。」(浦登 柳士郎) わかれよ、わかってやれよ!
トリック技巧 :★★★★★  事件自体のトリックは問題ではない
動機の妥当性 :★★★★★  綺麗だけど、やりすぎな気もする
リアリティ :★★★★★  導きと言いつつも偶然が多すぎる〜
本格度 :★★★★★  普通です
緊張感 :★★★★★  これだけの長編で緊張感が持続するとは
読みやすさ :★★★★★  視点が飛ぶので慣れないと辛い
真相の意外性 :★★★★★  片方は途中で気付くことは気付くけどさー
読後感 :★★★★★  哀しいよー哀しいよーしかも微妙に闇

総合評価 :★★★★+  最後がもっと爽やかだったらなあ
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096. 「海[Kai]ちゃん ある猫の物語」     岩合 光昭、岩合 日出子
2005.2.06 写真集 174P 560円 1984年講談社、1997年11月発行 新潮文庫 ★★★★
写真家の愛猫・海ちゃんの一生を追う写真集
セレンゲティ」に引き続き、岩合光昭氏の写真集2冊目です。
「セレンゲティ」は野性味あふれるアフリカ動物と大自然の写真集でしたが、
一転して本作は可愛らしい猫の横顔が表紙になっております。


【100字紹介】
 海ちゃんは動物写真家岩合光昭・日出子夫妻の長女。
 とびきりの美人で雄猫たちの人気者。
 6回の出産、真面目で一生懸命な子育て、
 でもその美貌は少しも衰えない。
 愛情あふれる写真と文で海ちゃんの素敵な一生を追う。 (100字)


海ちゃんは品川のお寺から岩合夫妻に貰われてきた雌猫。

「はじまりに prologue」
「おしまいに epilogue」

の2つの文章のみの章と

「いたずらざかり growth」
「冒険で広がる世界 adolescence」
「プロポーズの群れ maturity」
「真面目な子育て motherhood」
「愛のある暮らし tranquility」

の各年代別の写真と文章による5章から全体が成っています。

「はじまりに」では海ちゃんが貰われてきたお話、
その名づけのエピソードなどが紹介されており、
「おしまいに」では海ちゃんと、岩合家のその後が描かれます。
ちょっと感傷的に終わっているかも?


圧倒的な可愛さを誇るのが「いたずらざかり」。
海ちゃんのお姉ちゃん猫・類ちゃんとのじゃれ合いの様子は
猫好きじゃなくっても思わず「可愛い〜っ」の一言がもれること請け合い。
特に海ちゃんが床にころん、と転がって類ちゃんを見上げている表情!
愛くるしいなんてものじゃない、この可愛さ。
また、ちょっと珍しいかもしれない、顔のアップの写真数枚。
色々な表情のものを各種取り揃えております。
猫ってこんなにも表情豊かだったんですね。

しかも海ちゃんは元々すごい美人さんなのですが
それだけじゃなくってまた写真写りがとびきりいいみたいなのです。

「海の暮らしはカメラと切っても切れない毎日です。
 カメラを構えると海の気合いの入れ方がちがってきます。
 視線がぴたりと決まります。そう、子ネコの海の職業は
 モデルです、といってみてもいいくらいの働きぶりです。…」

すごい…!もはや猫とは思えないこの職業意識(笑)。
どの写真もみんな可愛いし、それに海ちゃんの気持ちが
ひしひしと伝わってくるような、そんな心地がします。
これはやはり、猫の目線でとらえたという写真と文章のお陰でしょうか。

海ちゃんという猫の一生を、温かい視線で眺めることにより、
単なる「猫の写真」で終わらない、
私達への何かのメッセージを感じられる作品です。



097. 「3000年の密室」     柄刀 一
2005.02.12 長編 355P 1600円 1998年7月発行 原書房 ★★★★
3000年の密室と現代の事件の謎を解く!


柄刀一の長編デビュー作です。
何かタイトルがドキドキするよね。
密室だって!しかも3000年だって。意味分かんないよね。
何か3000年の…ときたら「孤独」って繋げたくなっちゃう、
自称詩人(?)の菜の花なのです。


【100字紹介】
 密室状態の洞窟で発見された片腕のミイラは、
 3千年前の「殺人事件」の被害者だった!
 調査が進められる中、発見者の一人が変死した。
 時空を超えて開かれた密室の彼方に、一体何が見えたのか?
 柄刀一の長編デビュー作 (100字)



一言で言えば、大変、学術的。
でも、噛み砕いた感じだから別に難解すぎて
ちんぷんかんぷん!という訳ではありません。
ちゃんと分かるし、しかもエキサイティングで面白いのです。
本当にこのミイラ「サイモン(作中でのミイラのニックネーム)」が
発見されたりしたらこんな感じで調査され、世間を賑わすんだろうなあ!
と十分納得の出来るほどのリアリティが漂っています。
「サイモン」について解き明かしていこうとするこの過程は
「アカデミック・ミステリー」とでも呼べばよいのでしょうか。
本作ではこれが秀逸。★を堂々5つ、つけたいところ。

反面、殺人事件としてのミステリーが、やや弱く感じます。
過去の事件、現在の事件含め、真相を見て「あ!」と驚かされるほどでは
ありませんでした。それでも過去の事件、すなわち3000年前の
「サイモン」殺人事件は、大きな発見という華があるのですが、
現在の事件は他にフォローするものもないため、寂しいと言わざるを得ないでしょう。
しかも、「アカデミック・ミステリー」に力を注ぐ余り、ちっとも事件が起こりません。
「本格ミステリー」だと思って本作を手に取った読者にとっては、
歯がゆいとしか言いようがありません。
しかも作者が本当に描きたいところが分からなくなるほどの平板さ。
この辺りにもう一工夫をして頂けるとよろしかったのに、と思いました。


しかし興味を持って読んでみれば、とにかく「サイモン」検証は面白い!です。
やや理屈っぽく、字ばっかり!と思われそうですが(まあ、元々小説は字ばっかりですけど)
これは少し我慢して読んでみるのがよろしいでしょう。
特に時代検証大好きなお方には、何をおいてもこれを読んで下さい!とお勧め致します。





菜の花の一押しキャラ…佐々木 晶 空想世界では時々いますが、実在しているのは見たことないタイプ 「入れ墨の傾向などから、何かを類推できますか?」 「まあ、そう、ええと、ありませんな」        なんじゃそりゃ。                 (議長+金原 洋造+「私」による地の文) 金原せんせい、ひとしきり語った後の言葉。   あんだけ語っといて何にも無しかい!みたいな。 いいね、このノリ。             
トリック技巧 :★★★★★  現代の事件が、微妙。過去は努力賞
動機の妥当性 :★★★★★  兎に角、説明をつけたって感じ
リアリティ :★★★★  あまりない、が、ここまでしてくれるなら
本格度 :★★★★★  まあ、普通?
緊張感 :★★★★  悪くない
読みやすさ :★★★★★  理屈が多いイメージ
真相の意外性 :★★★★★  へー、そうなんだ、って感じ
読後感 :★★★★★  どことなく明るめ

総合評価 :★★★★  アカデミックミステリーが面白い
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098. 「泣赤子奇談(なきあかごきだん)」     椹野 道流
2005.02.15 中編 233P 1997年7月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★+
天本&敏生のオカルトノベルシリーズ第2作


さて、椹野道流の2作目です。
そして、このシリーズの2作目でもあります。


【100字紹介】
 追儺師・天本森とその助手・琴平敏生に舞い込んだ依頼は、
 女子高で赤ん坊の泣き声とともに起こるポルターガイストを
 鎮めること。現場の理科室では3ヶ月前に女生徒の
 割腹自殺があったばかり。犯人は一体誰なのか!? (100字)


もう少し補足しておきましょう。
メインキャラは、デビュー作をいきなり30万部売ったという小説家の天本森と、
美大浪人生で人間と蔦の妖精のハーフである琴平敏生。
いわゆる攻め系キャラの森(しん)と受け系キャラの敏生という、
まあ、女の子受けしそうな組み合わせ。
今回の依頼は女子高の事件ですから、二人は女子高に
それぞれ教師と学食の皿洗いバイトとして潜入。

あ、ちなみに余談ですけどこの作者の椹野道流は、
「ア○ジェリーク」ファンだそうです。さもあらん。


2作目ということでメインキャラ二人の馴れ初め(?)の説明がなくなった分、
本編自体の長さが確保されて、前作よりストーリーのひねりが増えました。
ただ、まだストーリー展開にぎこちなさのようなものがあります。
次作に更なる期待。





菜の花の一押しキャラ…琴平 敏生 「早川の本業を忘れたわけじゃあるまい。               あいつは客をまるめこんで高い外車を買わせるのが商売の男だぞ?」 (天本 森) セールスの人を、悪意的に表現するとこんな感じ 椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
099. 「捩れ屋敷の利鈍」     森 博嗣
2005.02.19 長編 173P 700円 2002年1月発行 講談社ノベルス ★★+★★
保呂草潤平&西之園萌絵競演のスペシャル版

眠いです。連続35時間稼動で徹夜実験のあとの、
びみょーにハイな気分での書き物です。
ちょっとイっちゃった文を書いてても、
ああ、疲れてるんだな、って笑って許してやってください。
明日には期限だから図書館に返しに行かないといけないので
少々焦っているのですよ。書かなきゃ!って。


【100字紹介】
 秘宝「エンジェル・マヌーバ」が眠る捩れ屋敷。
 密室状態の建物の内部で死体が発見され、
 秘宝も消えてしまった。さらに完璧な密室に第2の死体が。
 招待客は保呂草潤平、西之園萌絵。
 講談社ノベルス20周年書き下ろし (100字)



今回はVシリーズではあるのだけれど、
S&Mシリーズでもあるって感じです。
まあ、Sの犀川せんせが例によって怠惰なことに登場しないし、
Vである紅子さんもいませんけどね。妙に中途半端な。
探偵役は…勿論、あの人です。
でも解く謎は、何だか軽いですけどね。
そうそうそう、忘れてはならない御方が登場していました。
そうです、我らがヒロイン(?)国枝桃子先生です。
もう助手じゃないです。助教授です。いい味出してます。
やっぱこの人がいないと駄目ですな。


あらすじとしては、このシリーズでは何度か名前の登場している
「エンジェル・マヌーバ」という美術品を手に入れた
熊野御堂さんというおじいさんが、メビウスの輪の形をした
奇妙な屋敷「捩れ屋敷」を建設させ、これを招待客の
西之園萌絵と保呂草潤平に見せるのですが、その夜のうちに
密室状態になっていた「捩れ屋敷」で別の招待客の、
そして異なる趣向をこらしたというやはり密室のログハウスで
熊野御堂氏本人の他殺体が見つかる、というもの。
しかも「エンジェル・マヌーバ」もない!はてさて?


2つの独立密室のうち、1つは「あ、そうなんですか」という感じ。
もうひとつは大変テクニカル。パズルっぽくて悪くはありません。
こちらは、考えれば解けそう!です。興味がある方は是非チャレンジ。
でも例によって例の如く、シリーズを通して読んでいないと
キャラの動きが読めないかもしれません。





菜の花の一押しキャラ…国枝 桃子 珍しいことに、でずっぱり。 「貴女ね、口で言ってることと行動が分裂してる」(国枝 桃子) 国枝先生も、困った学生を持ったものです。
トリック技巧 :★★★★★  あんまりトリックって感じではない
動機の妥当性 :★★★★★  動機に関して記述殆ど無し
リアリティ :★★★★★  リアリティはないですね
本格度 :★★★★★  ファンブックっぽい
読みやすさ :★★★★  読みにくくはない
真相の意外性 :★★★★★  ふーん
読後感 :★★★★★  特に爽やかでもないが不快ではない

総合評価 :★★+★★  これで無駄が省ければさらに○
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100. 「八咫烏奇談(やたがらすきだん)」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.02.20 中編 267P 1998年1月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
天本&敏生のオカルトノベルシリーズ第3作


さて、椹野道流の3作目です。
そして、このシリーズの3作目でもあります。


【100字紹介】
 追儺師・天本森とその助手・琴平敏生に
 森の旧友である龍村から舞い込んだ依頼は、
 熊野の古い旅館の若女将が、連夜悩まされる悪夢に
 関するものだった。現地に向かう途中、
 敏生が八咫烏に襲われる。悪夢の正体とは? (99字)


ホラーです、この作品。めっちゃ怖いし。
まあ、菜の花の「怖い」って他の人とちょっとずれてるらしいですが…。
あの「ロード・オブ・ザ・リング」の映画を見に行って
「怖かったよ〜」と訴えてるくらいですので…(^ ^;)。
本作がどれくらい怖かったというかと申しますとね…、
解決する前に寝るのが怖くって(悪夢見そう〜)、
仕方ないので全部一気にお布団の中で読んじゃったという。

元々、椹野道流ってちょっと怖い系です。
何が怖いって本職が監察医だからか、妙にグロいところがありますです、はい。
前作の「泣赤子奇談」でも確か、自殺した女子学生の遺体検案書が出てきますが
ふつーの女の子向けな小説では絶対に書かないような詳細な報告が…。
怖いよ、怖いってば。本作では悪夢が怖いね。


敏生くん、今回ズタボロです。酷い扱いだな。
負傷につぐ負傷。他の奴等は無傷だというのに。
本人が弱いってゆーか、どっちかというと作者の好みなのか!?ってゆーか。
とりあえず、さすがにちょっと怪我しすぎ。
作中、ずっと死にかけてますが?
そのせいで、全体がやや平坦になりがち。
怪我をさせるのはいいですが、元気なところとのギャップを
大きくつけた方が、作品としてはメリハリがきいていてよいかと思います。
その辺、失敗かと。



そういえば、この作品でついに「よみもののきろく」もナンバリングが
100に到達いたしました。よくぞここまで…。
駄文の積み重ねながら、100もよく書いたなあ、と自ら感心。
しかし、すべてを読んだのは恐らく世界中で1人じゃないかなあと。
もちろん、その1人は菜の花本人です。てへへ☆
何しろ、このサイト自体が殆ど外部とリンクしていない
隠しページ的存在の上、たまに訪ねてくるリアルの友人達にすら
「量が膨大すぎて、全部読む気にならない」
と駄目だしされたし。だっはっは。そんなこと言われても困ります。
もう書いちゃったもんねー。駄文だけど。
最初に比べて、少しはましなことが書けるようになったなあ、と
思うこともあり、うわっ、新しい記述の割に駄目駄目だよ〜、
ってゆーか、手ぇ抜きすぎ?…みたいな文章もあります。
でも何事も続けることが大事だと思いつつ、これからも
がしがしと駄文を生産し続けていこうかなあという所存。
さてと、そろそろ図書館に本返しに行ってこようっと。






菜の花の一押しキャラ…琴平 敏生 「これは凄い。こんなに出来のいいミイラを見たのは、初めてだ。」 (龍村 泰彦) いやあ、ミイラにいいとか悪いとかって…(^ ^;) 椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
101. 「朽ちる散る落ちる」     森 博嗣
2005.02.27 長編 302P 840円 2002年5月発行 講談社ノベルス ★★+★★
土井超音波研究所での、もうひとつの事件!

この作品、Vシリーズの第9作目にあたります。
そろそろ終わりが見えてきた???

このお話は既刊である「六人の超音波科学者」に続くお話。
また「六人の超音波科学者」はさらに古い「地球儀のスライス」の
短編と繋がっているのですが、本作はその短編とさらに密接に関わっています。
むしろ、読んでいないと意味が分からない、と言っても過言ではないでしょう。


【100字紹介】
 土井超音波研究所の地下、出入りが絶対に不可能な完全密室で、
 自殺に見えない奇妙な状態の死体が発見される。
 数学者小田原長治の示唆で、事件の謎に迫る瀬在丸紅子が
 正体不明の男達に襲われた!?Vシリーズ第9弾! (100字)


今回は裏表紙の紹介文には

「地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていた。」
「前人未到の宇宙密室!」

のうたい文句がありましたが、菜の花的紹介からは省かせて頂きました。
あんまり面白くなかったので…。だって、ねえ?
読んでみれば菜の花の感想、分かって頂けると思います。


メインは、土居超音波研究所の地下の事件。
こちらは完全な密室。絶対に誰にも出入り不能だ、というのは
菜の花も保証しましょう(笑)。どれくらい無理かと申しますと、
まず、地下にいくためのエレベータが1個しかなくて、
土井教授の私室に隠されているし、
そのエレベータを使うには、ある条件を満たさなきゃいけなかったし
(詳細は「六人の超音波科学者」参照)、
エレベータの出口は塞がれてたし、
鉄扉が内側から閂かけられてたし、
しかもハンドルは鎖で繋がれていたし…、
しかも地下室への入口はハッチになっていたけれど、
地下へは梯子でもなくては下りられないから、
もし飛び降りたならハッチを閉めることが出来なかったはずだったし…。
ま、そんなわけであとは物理的に頑張って考えましょう、ってところです。
ちなみに実現性は極めて低いトリックかと。
「これは可能かな?」と考えるよりも、
「ま、お話ですからね」というノリで考えることをおすすめ致します。
パズルみたいに考えて正解、でしょうか。
事象を説明するには大変面白いトリックであるかと思います。
というか、普通はこんなこと考えないよなあ…。
さすが理系作家、というところでしょうか。




菜の花の一押しキャラ…小鳥遊 練無 デートが面白かった…。ある意味お似合い!? 「混沌とした話をしているね。もっと抽象的にいいなさい」(小田原 長治) ふつー、逆だよね。具体的に話すべきっしょ。さすが数学者!
トリック技巧 :★★★★★  純粋に物理的
動機の妥当性 :★★★★★  やや不自然に感じられた
リアリティ :★★★★★  リアリティはないですね
本格度 :★★★★★  これは物理の問題だ
読みやすさ :★★★★★  読みにくくはない
真相の意外性 :★★★★★  特になし
読後感 :★★★★★  特に爽やかでもないが不快ではない

総合評価 :★★+★★  どちらかというと物理パズルっぽい
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