よみもののきろく

(2005年3月…102-112) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
102. 「倫敦奇談(ろんどんきだん)」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.03.01 中編 284P 1998年4月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★+
シリーズ第4作!霧の倫敦で出会った死体!


椹野道流の4作目です。このシリーズの4作目でもあります。
ついに今回は天本&敏生、海外へ!です。
しかも第1作から登場しながら、名前だけが現れていたあの人!が初出演。


【100字紹介】
 追儺師・天本森に倫敦からの国際電話で助けを求めてきたのは、
 彼の元同居人・美代子だった。彼女は公園で死体を発見してから
 幽霊に遭遇するという。何かを語りかける幽霊の真意は?
 美代子の出現に敏生の心が揺れる! (100字)


すごいです。こんなの、少女向けじゃあないっす。
それとも、最近の少女はこんなお話を好むんでしょうか。
それの方が、めっちゃ怖いし。


椹野道流氏の大まかな特徴がようやく掴めて参りましたよ。
第1の特徴。基本的に、グロい。です。さすが現役監察医。
人体(というか死体)について詳しいし、
しかもそれを書くことに全く抵抗感がないように見えます(^ ^;)。
きっと彼女にとって死体とは、すごーく日常的で、ふつーなことなんだろうなあ。
龍村先生とか見てるとほんとにすごいもんなー。
すごい死体(立派なミイラとか、解体死体とか)を見つけると
何だか喜んですらいるように見えるし。
第2の特徴は、「やおい」ってやつですか?
本作のあとがきには
「担当の小林さん。私以上に「やおい」に対しておおらかになっていくあなたが、
 最近ちょっと怖いです(笑)」
だそうで…。駄目ですよ!担当の小林さん!毒されちゃ、やばいっすよ。

菜の花的には、第1の特徴も第2の特徴もどちらも相当、嫌なんですけど
それでも何故か読みたくなるような、微妙な魅力がこの作者の作品にはある…
気がします。多分。別にめっちゃ巧いって感じでもないのになあ。


それにしても本シリーズ4作目にして、ますますグロさに磨きがかかってきました。
登場キャラ設定としては妥当かと思いますが、お話の展開としては
キャラクターを完全に使いこなせていないかも…という気もします。
もう少し、個々のキャラが個性的に動いてもいいのではないかしら。





菜の花の一押しキャラ…龍村 泰彦 「だが、内臓はとりあえず一人前だ。…皮膚と肉も…これだけ        みっしり詰まっとるところを見ると、人間一人分くらいはあるだろうさ」 (龍村 泰彦) 平然とこんなことを言えるこの御方が一番、怖いっすよ(^ ^;) 椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
103. 「平安妖異伝」     平岩 弓枝
2005.03.04 連作短編 280P 2000年6月発行 新潮社 ★★★★★
若き道長と少年楽師が物の怪に立ち向かう!


初めて拝読させて頂きました、平岩弓枝です。
平岩弓枝といえば、「御宿かわせみ」が有名ですね。
何と、菜の花でも知っている!というのがすごいです。
この世間知らずの菜の花が…!(って自分に対する認識がどーよ?)
まあそんな訳でして、平岩弓枝のイメージはやっぱり、時代物!ですね。
菜の花、「御宿かわせみ」は名前だけしか知らないのですが
多分、江戸ものですよね?そうですよね?いや、知らないんですけど。
でも本作は平安。タイトルに入っているからこれは間違いありません!
(当たり前か…)。しかも登場人物が藤原道長ときたもんだ!
いくら菜の花が高校で日本史を履修してない理系人間だからって
さすがに知ってますぜ、この名前。あ、これも当然か。
小学校で習うもんね(^ ^;;;)。



【100字紹介】
 時は平安。西域の血を引く超能力者の少年楽師とともに、
 二十代半ばの若き藤原道長が活躍。どの話にも篳篥、
 琵琶、鞨鼓に狛笛と、次々と雅楽の楽器が登場し、
 物の怪が引き起こす事件の解決に深く関わる。全十篇。 (98字)



「花と楽人」
「源頼光の娘」
「樹下美人」
「孔雀に乗った女」
「狛笛を吹く女」
「催馬楽を歌う男」
「狛麿の鼓」
「蛙人」
「象太鼓」
「春の館」



主人公は、藤原道長。若いです。まだ中納言ですし、兄も健在で、
摂政の息子とはいえ、家督を継ぐような立場でもない、しがない5男。
最初の事件は彼の父・藤原兼家の屋敷で起こります。
これを収めたのが楽所の頭・秦真倉(はたのまくら)の末子、
少年楽師・秦真比呂(はたのまひろ)。
それが縁で道長と真比呂の交流が始まります。

真比呂はとても不思議な少年。西域の血を引き、
父親でも想像のつかない奇行を行なったりもするけれど、
三管三鼓、どの楽器も忽ち自由に奏し、舞も能くする天才。
しかも、道長の出会う様々な怪異を楽器によって鎮め、
彼を窮地から救ってくれるのです。


評定について。
こんな大先生をつかまえて★3つはちょっと失礼かなーとか思いつつ、
やっぱり3つですね。文章は素敵。でもストーリーの作りが平たい。
凹凸に乏しく、「真比呂」という魅力的なキャラクターがいながら
その「力」の出現があまりに唐突、かつ一方的、絶対的すぎて、
危なげもなく、何故そうなるかも謎が多い。
「真比呂」がジョーカー的キャラに陥っているのがやや残念です。


ところで本作の本当の主役はもしかしたら楽器かもしれません。
10篇の短編にそれぞれの怪異が現れますが、
それを収める楽器もそれぞれ用意されています。
中には相当珍しいものも…!
これは知らなかったなー、ってのもあるかもしれませんよ?




菜の花の一押しキャラ…倫子 「美しい楽の音は、代償を求めません。          それを希む人の心にいつでも湧き上がって参ります。」 (秦 真比呂) よみもののきろくTOP
104. 「赤緑黒白」     森 博嗣
2005.03.10 長編 368P 980円 2002年9月発行 講談社ノベルス ★+★★★
Vシリーズクライマックス!塗装死体の謎!

ついにVシリーズもクライマックスの第10弾!らしいです。
10冊1シリーズというのが森センセの信条なんですかね?
S&Mシリーズも10作で一応終わりでしたよね。


【100字紹介】
 マンションの駐車場で発見された死体は、
 全身を真っ赤に塗装されていた。
 数日後、保呂草は被害者の恋人と名乗る女性から、
 事件の調査を依頼される。解明の糸口が掴めないまま
 発見されたのは、色鮮やかな緑の死体…! (100字)


何と珍しく、密室ものじゃありません。
というか、森センセの長編作品で、密室もの以外って初めて読んだかも。
こんなシリーズクライマックス作品で今までと方向性の違うものを持ってくるとは、
もしかして次なるステップへの前振りでしょうか。
このセンセならやりかねないな。
作品同士の結びつきが、他に類を見ないほど強いから。
シリーズというより、殆ど続き巻と言ってもいいくらい。
他作への伏線が多すぎるのは菜の花、どうも気に入らないところ。
だって、ねえ?全部読まないといけないんですよ。大変だよ。あうう。


本作はさすがに「クライマックス」というだけあって、
総まとめ的に様々な人物が入り乱れて登場してきます。
よーく見ていると、S&Mシリーズとの関係が見えてくるかもしれませんね。
菜の花、先に本作よりも後に書かれた作品を読んでしまったせいで
この辺のからくりはすでに知っているもので、
いまいちドキドキ感がないんですよね。ちょっと勿体無いか。
やっぱ、順番通り読めと。そう言いたいんですかね、森センセ(- -;)。

出てくる人物でやはり気になるのは、森デビュー作でも登場のあの人でしょう!
あの人のことが分かれば、2つのシリーズの関係も自ずから明らかになるし。
それは誰かって?…いやあ、それ言っちゃったら楽しみがなくなるでしょう。
殆どこの作品の存在意義って、
「作品と作品の間の謎を楽しむ」ためだけって気もしますしね…。

何しろ、肝心のトリックが面白くもなんともない。
かと言って、動機の謎解きに面白い趣向があるわけでも無し。
この作品単体の評価としては、少なくとも菜の花の好きな本格派ではない。
こういうのって、何て分類するんだろう。って最近思っていたりします。
確かに本格派以外にもミステリーって存在する訳で…、
きっとこういうのを分類する適当な言葉も、世の中にはあるんじゃないかなあ…
きっと菜の花が知らないだけで。まだまだ勉強すること、いっぱいあります。
これだけ本を読んでも、こんなに知らないことが沢山あるなんて、
読書の世界は深いなあ(違)。





菜の花の一押しキャラ…小鳥遊 練無 「ああ、美味しそうだよう」(小鳥遊 練無) 彼が言うと、本気で美味しそう。
トリック技巧 :★★★★★  トリックがほぼ存在しない
動機の妥当性 :★★★★★  まあ、そういうこともあるかもね
リアリティ :★★★★★  リアリティはないですね
本格度 :★★★★★  ふ…
読みやすさ :★★★★  読みにくくはない
真相の意外性 :★★★★★  ふーん
読後感 :★★★★★  他の作品を知らないと謎が多い

総合評価 :★+★★★  読んで損をした気がしなくもない
森博嗣の著作リスト よみもののきろくTOP
105. 「幻月奇談」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.03.10 中編 610円 338P 1998年7月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★+
シリーズ第5作!兼六園で起こった神隠し?


さて、椹野道流の5作目にしてシリーズの5作目。
前作ではイギリスに飛びましたが、再び日本に戻ってきました。
今回は冬の金沢が舞台です。


【100字紹介】
 追儺師・天本森と助手の敏生に金沢に住む老女から、
 神隠しにあった孫の捜索依頼が舞い込んだ。
 手掛かりを求めて兼六園に向かった二人だったが、
 そこで天本が重傷を負って…!?
 敏生は術者として一人だち出来るのか? (100字)


こつこつ読み続けて椹野道流も5作目。
つい先日、本屋さんに行ったらシリーズの最新刊が売っていました。
まだまだ先があるみたいで楽しみです。
しかし、表紙の絵が気になるなー。めちゃめちゃ少女趣味なんですよね。
図書館で借りるのが恥ずかしいっす…。まじで。
最新刊も同じイラストレーターさん(あかま日砂紀)なのに
新しい方がちょっと落ち着いていて少しはましな感じ。
特に本作の表紙はちょっと…、この歳のおねーさんにはありえない絵です(苦笑)。
心なしか図書館司書さんたちの目が冷たい…(笑)。


さて、今回はオカルト系ストーリーなら王道!でもあるでしょう、神隠し!
ついに登場、って感じですね?
行方が知れないのは依頼人の唯一の血縁者である孫娘。
彼女は過去にも2度、神隠しにあっていて…。

本作のみどころ(?)は勿論、

敏生君、ひとりだち!?

ですね。捜査序盤でいきなり天本、戦線離脱!というアクシデントがあり、
その上、種々の事情があって、敏生がすべてを引き継がざるを得ない、
という展開です。これまで役に立ってるのか立ってないのか謎だった敏生。
ここで本領発揮できるか!?…となるわけですね。どきどき。


全体のストーリー展開としては、用意された状況自体は面白いと思いますが
その謎に迫っていく過程がまだ浅いかなあと感じます。
でも初期より少し成長した感じー。
この作品で椹野道流も作家1周年だそうです。
1年間の成長がここに現れているわけですね。


キャラクターのお話。すっかり定番キャラになってしまった龍村先生。
兵庫県の監察医であるはずの龍村先生は、気付けば天本の主治医に…!
というか、天本曰く「死人の医者」であるはずの龍村先生なのに、
最近は生きている人間の医者としても修行中らしいです。
実は一番の成長キャラだったりして。
しかも天本の式であるはずの小一郎は、
龍村先生のどこでもドアですか?くらいになっています…。
最近の小一郎くんのお仕事といえば、
龍村の送り迎えと事件関係者の記憶を消して回ること(笑)。
いいのか、君はそれで?
敏生に嫉妬してる場合じゃないぞ。
今こそ、式としての自己を見直すべきじゃないのか?(^ ^;)
そして天本のエージェントである早川さん。
密かに知足フリークってのが増殖中らしいですが、
今回もしっかり出まくりです。
本業が本当にうまくいっているのか、大変心配です。


そういえば、今回はいつものドロドロ死体がなかった…!
珍しいです。とっても。ってゆーか、少女向け娯楽小説で
何故毎回、でろでろ〜な死体が登場するかの方が不思議なんですが。
というわけで比較的平和と言えば平和でしたな。





菜の花の一押しキャラ…龍村 泰彦 「…君にかかれば、世界の人口の三分の二は『いい人』なんだろうさ」 (天本 森) 多分、そうなんでしょう。 椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
106. 「長い長い殺人」     宮部みゆき
2005.3.12 長編 590円 398P 1999年6月発行 光文社文庫 ★★★+

宮部みゆき、久し振りです。
最後に読んだのは、宮部みゆきデビュー作の
「我らが隣人の犯罪」で、これが年末でした。
3ヶ月弱ぶりかー。


【100字紹介】
 主人公は財布!?刑事の財布、強請屋の財布、
 死者の財布から犯人の財布まで、
 10個の財布が物語る持ち主の行動、現金の動きが、
 意表をついた重大事件をあぶりだす!
 10の短編が1つの長編を形作る異色推理長編小説 (100字)


これは異色作ですね。まあ、みゆきちゃんの作品には多いのですが…異色作。
本作は2つの意味で「異色作」です。

1つ目の特徴は、語り手。
2つ目の特徴は、構成。

どちらももう、上述のブックトークの通りなんですけど。
語り手が無機物、しかも財布!というのは珍しいですね…。
ってゆーか、見たことないし。
しかし財布って言葉が分かるのか(違)。
しかも中身の人格、出来たときから大人(?)だし。
赤ちゃんの時期がない。。。
その上この財布、ひとつじゃなくって沢山出てくるんですが、
みなさま個性豊かでいらっしゃる。
一人称も、持ち主の呼び方も、性格も。
読み終わったあと「私の財布ってどんなやつなんだろ?」
と思わずカバンの中を覗いてしまいそうな気持ちです(笑)。

もうひとつの特徴の構成。こちらは元々このお話が
一話完結の短編として雑誌に収録されていたという事実。
つまり、短編を連ねて1つの長編としているのですね。
面白い試みであると思います。書く方は大変でしょうけど。
それぞれ別の独立した視点でスタートし、別々の事件に巻き込まれて
それが寄り集まっていつの間にか1つの事件に収束していく…、
この収束感は同著者の直木賞受賞作「理由」にも似た感がありますね。
これは非常に心地いいものでありますが、その分核心に迫るまでの
付加的で本質に繋がらない文章が「余分」で「冗長」だと感じる人が
いるであろうことも事実。かくいう菜の花もみゆきちゃんの他の作品だと
あまり気にならないのですが、本作はさすがに、元が短編であるが故、
状況説明のために同じ事件の説明が、繰り返し繰り返し登場するのは
さすがに退屈になりました。。。うーん、仕方ないんだけどね…。


巻末に収録されている解説がミステリ評論家・日下三蔵氏なのですが
(すみません、何となく聞いたことがある気もしますが知りません、この方)
この解説が素晴らしい。みゆきちゃんファンなら「その通りだ!」
と諸手を挙げて大喝采ものです。どうぞご一読下さい。




菜の花の一押しキャラ…沢井刑事 宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOP
107. 「龍泉奇談」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.03.13 中編 570円 310P 1998年11月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★+★★★
シリーズ第6作!東北・座敷童の謎に迫れ!


さて、椹野道流の5作目にして「奇談」シリーズの5作目。
すっかり旅情オカルト(?)になってしまった感のある本シリーズ。
今回の舞台は東北、特に遠野と龍泉洞です。
余談ですが菜の花、鍾乳洞が大好きです(ほんとに余談だ)。


【100字紹介】
 「浄土が浜の兄様に、この文を届けておくれではないか?」
 …謎の言葉とともに消えた座敷童。人探しの依頼で東北へ向かった
 天本、敏生、龍村。行方不明者の足跡が途切れたとき、
 鳴動する大地で遭遇した最強の敵とは? (100字)


座敷童…、これまたありそうなネタではあります。
さて、どう料理してくれたのか?


序盤、大笑いの敏生&小一郎のお留守番。
このエピソードは笑わせます。いや、ファンなら必見だね。
しかもこのどたばた劇に乱入してくる龍村先生あーんど早川知足。
あー、人気メインキャラ揃い踏み。
それから、旅立ち…、面子は敏生&龍村先生。

何と、今回はちっとも姿を見せない天本。
まあ、前作でも早々に戦線離脱してましたがね。
今回は姿すら見せないもんなー。
もう、主人公の座を降りても大丈夫かもよ?なんて。

しかし、龍村先生はこんなことばっかりやってて大丈夫なのか?
本業はどうした、本業は。毎回、気にはなっていましたけどねえ。


ストーリーはあんまり説明しません。
ま、気になったら読んで下さい。
めっちゃ、さらっと読めちゃう本ですので。


ただ今回は評点、低いです。
だって面白くないんだもーん。
何だか、「謎」に流されてるだけみたいな感じです。
作ったお話を、キャラクターがただただ演じているみたいな。
キャラが動いてないんだよね、自発的に。
謎も一本調子で、いまいち深みに欠ける、と。
ちょっと子供向けすぎるな。
でも、あんまり子供には読ませられないな!
何で彼らは、男同士でいちゃついているんでしょうね?
ちょっと微妙。倒錯気味だ。。。
そして引っ張る、天本の過去。
毎回言及される割に、ちっとも語られないし…。
これで菜の花程度の読者の想像通りだったら、怒りますからね。




菜の花の一押しキャラ…龍村 泰彦 「とっとと起きろよ、色男。僕は飲酒後の低血糖で、  早急にブドウ糖補給を必要としているのだ!」   (龍村 泰彦) いいねえ、この回りくどい言い回し。 椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
108. 「マレー鉄道の謎」     有栖川 有栖
2005.03.15 長編 358P 940円 2002年5月発行 講談社ノベルス ★★★★★
マレー半島で遭遇!目張り密室殺人事件!?

有栖川作品、久し振りな気がする〜。本年初かも。
「国名」シリーズ第…5段…かな?
本シリーズ初の、ほんとに外国行きましたー、なお話。
ちなみに見返しの作者の言葉を引用させて頂きますと

「この作品は、マレーシアの時刻表を駆使した鉄道ミステリー
 ではありませんので、ご了承(あるいはご安心)ください。」

だそうです(笑)。いや、ほんとによかった。
一瞬「え!?マレーシアの時刻表って正確なの!?」
って前半だけ読んで不安になっちゃいましたよ。ははは…。


【100字紹介】
 マレー半島を訪れた推理作家・有栖川有栖と
 臨床犯罪学者・火村英生を待ち受ける「目張り密室」殺人事件!
 外部へと通じるあらゆる隙間をテープで封印された
 「完璧な密室」の謎を火村の推理は見事切り伏せられるのか? (100字)



という訳でやってきました、マレー半島。
何故、有栖川&火村が男二人で海外旅行せにゃならんのか?
というのがまず最初に謎でしょ?謎だよね。
別に二人がラブラブなカップルってわけでは勿論、ない。
(もしそうだったら、いやだー!見たくないー!!)

勿論、この二人がそういうあやしい仲なのではなくって、
大学時代の共通のお友達に招かれてきたのですね。
お友達は当然のように、何ヶ国語も出来ます。
そして我らが火村先生も、英語は堪能。
頑張れ、有栖!ファイトだ、有栖!!
思わず応援したくなってしまうほど有栖川氏、
ここでは言葉の問題に往生してます。
ああ、何というか、リアル。
さすがに取材してきただけあるー。
ここで全員が英語ぺらぺら〜だったりしたら、
いかにも作り物っぽいし、わざわざマレー半島くんだりまで
出かけていって殺人事件にかまけてる必要なし!だし。


「国名」シリーズは全体として古典派の香りのする
「本格」らしい「本格」ばかり取り揃えられていますが、
その分、リアリティが乏しいことが多いです。
恐らく、わざとリアリティを消しているのでしょうね、
「常識」にだけとらわれたミステリではなく、
「読み物」として楽しみ、推理できることを目的とするために
不必要なリアリティは削ぎ落としているのでしょう。

しかし本作は、夜の川下りで蛍見学などの、
作者が体験したであろう生々しさのある描写が散見しており、
シリーズ内では珍しくほのかなリアリティが漂う作品になっています。


語り口についてはもう、何も言うことが出来ないほど、面白い!です。
ああ、有栖川節。関西人らしい、このノリ。
例えばね、こんな地の文。

「畜生、不必要に場を和ませてしまった。」
「やるな、マレーシア警察。火村がどうかは知らないが、
 私はそこまでは考えもしなかった。」

なんて感じ。ああ、面白いよ、関西人。
血みどろな殺人事件も、この人にかかると漫才ネタくらいの勢いです。


と、結構お気に入りな感じですが、残念ながらトリックは
荒業だなあ、と思いました。うーん、いいんだけどさ。
本当にうまくいくのかな?とか、考えて練習なしで一発でやる気になるか?
とか、ちょっと考えてしまいます。エレガントじゃないな。
しかも影の支配者(?)な御方、
あの方も「ふつー、そんなこと思いつかないし、思いついても実行するのか?」
という、疑問符がつきまくりなんですが…さて?


でも十分、楽しませて頂きました。うん。



菜の花の一押しキャラ…シャリファ 「有栖川さん、あれは食べられない。求人募集だからね。」(衛 大龍) レストランにて、マレー語のメニューを探して。
トリック技巧 :★★★★★  何か、荒業じゃないー?
動機の妥当性 :★★★★★  ごく普通ではあるか
リアリティ :★★★★★  言語の壁はリアリティあり
本格度 :★★★★  もう少しトリックをエレガントに…
読みやすさ :★★★★★  面白い
真相の意外性 :★★★★★  犯人の動きが…へんな感じ
読後感 :★★★★★  まあまあです。

総合評価 :★★★+  悪くない、がエレガントさが欲しい
有栖川有栖の著作リスト よみもののきろくTOP
109. 「24人のビリー・ミリガン(上)(下)」     ダニエル・キイス、 堀内 静子訳
2005.03.19 ノンフィクション 480P, 504P 各800円 1992年8月早川書房
1999年10月発行
早川書房 ダニエル・キイス文庫 ★★★★★
犯人は、多重人格者だった…!驚くべき実録


珍しく、外国作家もの。
しかも、ノンフィクション。


【100字紹介】
 1977年、米国。連続レイプ犯として逮捕されたビリー・ミリガン。
 しかし彼には犯行の記憶が全くなく、
 彼の中に潜む別人格の仕業だった…!
 多重人格という障害について、
 作家キイスが世に問うたノンフィクション! (100字)


これは、呪われた書です…。
いや、内容じゃなく。ほんとに。
だって菜の花、これまでこの超有名本に何度取り組んできたことか!
そしてそのたびに何度、挫折してきたことか!!

菜の花が比較的、読書家であることはこの「よみもののきろく」を
ご覧いただければお分かりかと思いますけれど、
そんな菜の花がどうしても最後まで読み通すことの出来なかった作品。
それが本書です。

で、今回ついに、数回目のリベンジ!で完読。
もー、菜の花、ちょーうれしい♪…そんな感じ。

読み通してみて、ようやく分かりました。
どうしてこの本に限って、こんなに読み切ることが出来ないでいたのか。
一言で言っちゃえば、この本がつまんないから。
それ以外にない。

とにかく同じようなことの繰り返し、繰り返し、繰り返し。
まるで統計力学の講義でも聞いてるみたいだったわ…。
カノニカル、ミクロカノニカル、アンサンブル。
大きさが違うだけで、基本的に同じことが、ぐるぐるぐるぐる。
そーんな感じ。
え?何?喩えが分からない?それはもう、聞き流して下さい。
どうせ菜の花にも分からない。単位なんて、とっちゃえばこっちのものよ!


内容的には大変、考えさせられるものがあります。
さすがに売れただけある。
アメリカに限らず、日本でも大ブームを引き起こしましたね、この作品。
多重人格という、一般には未だ認知されていなかったテーマを取り上げ、
世界をあっと言わせた作品ではあります。

ビリー・ミリガン逮捕劇、治療にこぎ付けるまでの日々、
その後生い立ちが語られていきます。古い順に並んでいないから重複するし、
彼自身の人生そのものが、似たことの繰り返しでもあります。
別人格の行動に慣れているためか、自分の行動に責任がないように感じます。
だから反省もない。自分には犯罪の覚えがなくとも、確かに犯罪的な面を
本当はどの人格もはらんでいるように見えるのですが…。

書き物というものは通常、主人公側に感情移入するものですから、
読んでいるうちに徐々に
「いいじゃない、自己責任という状態になれなかったのだし、
 それは幼児虐待の被害者であったせいだから、彼自身は加害者というより被害者なんだ」
という気持ちになりかかるのですが、少し冷静になって、
被害者側の立場に立って考え直してみると
「何故、これで無罪に?やったことには間違いないし、
 例え彼の全てが罰を受ける対象でなくとも、中にいる別人格には確実に
 罰が与えられるべきだ。その際、無関係を主張する別人格は運命共同体に
 なってもらうしかないし、嫌なら犯罪が行なわれたときのように
 意識の裏で眠っていればいいんだ!」
と裁判の理不尽さに怒りが湧き上がってくる気分です。
少なくとも自分が被害者で、加害者が
「あれは別人格のしたことで、私は何も知りません。無実です」
なんてしゃあしゃあと言おうものなら
「じゃあやった人格を出せ、あいつを。
 一度くらい、自分でやったことを自分の責任として報いを受けてみろ!」
と叫ぶと思いますね。

精神や神経を病んでいる人や、障害者のすべてが善良な人ではない。
健常者のすべてが善良であるわけではないのと、きっと同じくらい。
犯罪者はどんな状況であったとしても、刑事事件の責任が要求されるのは
仕方がないだろう。だって、無関係の被害者に何にかの代償を要求した責任は
やはりどこかに押し付けられなくてはならないから。
これを被害者だけが抱え込むなんて、絶対間違っている。

…なんて、理想論を述べてみただけでした。
本当のところ、難しいねえ。こういう問題は。





110. 「スナーク狩り」     宮部 みゆき
2005.3.20 長編 619円 396P 1992年光文社、
1997年6月発行
光文社文庫 ★★★★★
散弾銃を中心に、思惑が交錯するサスペンス

表紙が何だかとってもクールな作品です。
モノクロで描かれた無機質な銃に、鮮やかな赤地白抜きのタイトル。
しかもジャンルは「長編サスペンス小説」と明記されていて…。
ああ、どんなサスペンスが繰り広げられるか、
本を手に取るだけで、どきどきしてしまいますね。


【100字紹介】
 釣具店に勤める織口は、鉛板を買いに来た客・慶子が
 銃を持っていることを知り、ある計画を思いつく。
 銃を盗みに行ったその晩、彼女は元恋人の結婚式に
 散弾銃を持って出掛けていた!?
 長い悪夢の一夜を描くサスペンス (100字)


本作は、宮部みゆきが時々使う「カットバック形式」。
独立した複数のグループの人々が、最終的に交錯し、合流し、
ストーリーが綺麗に絡み合ってフィナーレを迎えるというもの。

この作品では主に、関沼慶子、国分範子、織口邦男、佐倉修治、神谷親子、
国分慎介などが自由に、しかしそれぞれ重なり合って動きます。

冒頭から登場する関沼慶子は、元恋人の国分慎介の結婚式に、
散弾銃を持って乗り込む。
慎介の妹・国分範子はその手引きをした張本人。
でも慶子を止めて、話をしたいと言って慶子のマンションに行き、
そこから悪夢の一夜に飲み込まれていく。
織口邦男はひょんなことから慶子が銃を持っていることを知り、
それを盗んで自分の思いを遂げたいと悪夢の一夜を作り出してしまう。
織口の同僚の佐倉修治は、織口の牽制を受けたが逆に彼の思惑を察し、
凶行を止めるために奔走する。
神谷親子は彼らと全く面識がないにも関わらず、
不思議なタイミングでこの事件に巻き込まれてしまう。
事件の本流とは関係がないようで、実はこの事件の発端でもある国分慎介は
結果的には自分で自分の首を絞める行動に奔ってしまう。


これが全部、1冊の中、1夜の内にそれぞれの考えとともに
ごく自然に、流れるように行なわれていきます。
追う側、追われる側、夜の闇の中で一瞬も休まらないように持続する緊張感。
傑作サスペンスの名を冠しても決して名前負けにはならないでしょう。


この狂気の夜を駆け抜けるのが、名実ともに「駆け抜ける」ことに
なっているのも、巧いやり方であります。
つまり追う側も追われる側も東京から金沢へ、高速道路を飛ばしていく
という物理的に駆け抜けることが、精神的に「この夜を駆け抜けること」と
重ね合わされていて、物語に躍動感と緊張感の膨らみが出ているということです。


追う側と追われる側が合流し、ゴールである金沢に雪崩れ込むに至って、
緊張感は最高潮に達します。これがフィナーレ、これがラスト。
それなのに、その行間に漂う哀しみに満ちた空気は何なのでしょうか。
すべてが終わった後訪れた静寂、すべてが暗転した訳ではなく、
プラスになったものもマイナスになったものも混在している、
というのも宮部みゆきらしい最後だと思います。
何か大きなことが過ぎ去った後は、よくもあり悪くもあり、
すべてが同じ符号に反転する訳ではないというのは
大変リアリティのあることだなあ、と。
菜の花としては、全部ハッピーエンド、というのが好きですけど、
まあ、仕方ないのでしょうね。現実は甘くない。
焼け跡の中からもフェニックスは生まれるわけだし、
人間万事、塞翁が馬でもありますよね…。





菜の花の一押しキャラ…黒沢 洋次 さて、この人が誰か分かるでしょうか?(笑) 「ほら、佐倉、おまえも飲め! 裕美、乾杯!」(店長) いいね、このノリ 宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOP
111. 「土蜘蛛奇談(上)(下)」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.03.21 長編 各570円 314, 324P 1999年5,7月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
シリーズ第7作!安倍清明活躍の平安へ!


今回はシリーズ初の時間旅行。
トラブルにより平安時代、藤原道長が天下を謳歌する頃へ
森、敏生、そして森の師匠の河合が飛びます。


【100字紹介】
 追儺師・天本森と助手の敏生に、森の師・河合から
 応援要請がきた。ある少女にとり憑く者を払って欲しいという。
 少女の夢の中に入った3人は、大きな土蜘蛛に襲われる。
 蜘蛛とともに落ちた世界は、平安の都だった!? (100字)


本作はシリーズ初の上下巻!でもあります。
おお、長い。長編だ。それなのにこの軽さは何だ。
どうやら本シリーズの軽さは、分量の問題ではなく
中身の軽さだったらしいと初めて気付く菜の花。
そ…、そうか。中身が軽かったのか。
まあ、若い女の子向けだし?その割にどろどろ死体が多いけど(−−;)。


またも、序盤で森、戦線離脱。最近、このパターンが多いな。
森が強すぎて、最初から活躍しちゃうと話にならないってことかな。
敏生1人になったのはいいですが、この子、ほんとにどうしようもないなー。
危うく野垂れ死にしかける敏生君。助けが皆無な訳ではないのに、
結局、全面的に守られないと生きていけないのか、こやつは。
そこらの女の子より弱いし、一般的知識も少ないし、
大丈夫か?この子?…と森でなくとも心配してしまう。。。
それがまた、女の子のファンにとっては母性本能をくすぐるのかもしれませんが…、
菜の花的には「何だ、こいつ」で終わりです。もっと成長しておくれ、敏生君。
いつまでたってもこんなんだから、男の人としか恋を語れないのだよ。。。


さて、森からはぐれてしまった敏生君を主人公としてお話は展開します。
上巻のラストで月下のもと、再会したと思った森、実は安倍清明だった?とか、
その人から「お前など知らん」的発言をされてしまい、打ちのめされる
敏生と式神・小一郎はまさに親とはぐれた小鳥そのもの。
両方そろってお子様ですか?
…なんてオリジナルキャラたちに、文句を言いつつ、、、
今回は実在キャラ(…と言っても殆ど伝説上の人々ですが、一応)なども登場で
なかなか賑やか、かつ豪華なストーリーになっております。
例えば安倍清明の息子・吉平とか、藤原道長とか、
蘆屋道満とか、中宮定子とか、藤原伊周とか…。
なかなか豪華な顔ぶれではありませんか?
ただ、彼らは表面的には綺麗に描かれていますが、あまり深入りはしていない感じ。
そのせいで全体が軽く見えるわけですが、読者層を考えるとこれが正解なのでしょう。
別にかれらのドロドロを書きたいわけではないのですものね。
ドロドロなのは死体だけ、というのが椹野流らしいです(苦笑)。


そして今回登場の新キャラ!
それは河合さんです。森の師匠!なかなか面白いキャラクターです。
平安の都でしっかり溶け込んで自力で生活していたという適応力の強さ!
そしてこのノー天気そうなキャラクター。
ってゆーか、この人、頼りになるのかならないのか分からな過ぎ。
今後、どう活躍してくれるのか、謎です…。




菜の花の一押しキャラ…中原 元佑 「…指など突っ込んで如何する」(小一郎) ドーナツには何故、穴が?と尋ねたところ 敏生に「指を突っ込めるようにかな?」と答えられて。 椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
112. 「虚空の逆マトリクス」     森 博嗣
2005.03.23 短編集 254P 780円 2003年1月発行 講談社ノベルス ★★★+
森博嗣の短編集、第4段!


短編集です。
タイトルの意味は、相変わらず分かりません。


●トロイの木馬 (Trojan Horse Program)
 ヴァーチャルが現実世界を上回る、そんな世界で
 起こった混沌とした事件。
 どこまでが現実なのか?
 どこまでが実在なのか?

 <解説>
 森博嗣お得意のヴァーチャル世界。
 せんせい、大好きですね、この手の話。
 工学部の人ってこうなんでしょうか。
 混沌さがちょっと訳が分からず、
 ついていけない感がありました。
 菜の花、ちょっと苦手だな。

 評価:★★★★★


●赤いドレスのメアリィ (Mary is Dressed in Red)
 毎日、朝から晩までバスを待つ女性。
 真っ赤な古風なドレスに身を包み、
 白い厚化粧の下は60歳を超えた老婆。
 本名も理由も不明、謎の多い彼女は町の名物で
 あだ名はメアリィさん。あるとき私はこのメアリィさんの
 ことを知っているという老人に出会う。
 彼女の正体とは?

 <解説>
 軽いミステリーの一種。
 老人が語る昔話は、事件の正解を全部明かしてしまうけれど、
 目の前の現実への答えは読者自身が気付かなくてはならない。
 まあ、難しいものではありません。
 不思議な情緒が漂う作品。

 評価:★★★★


●不良探偵 (Defective in Detective)
 僕は推理小説家として成功した。従兄のシンちゃんの名を
 冠した探偵を描くことによって。ある日、僕の親しい女性
 真由子が殺された。警察が疑っているのはシンちゃんらしい。
 僕はシンちゃんの無実を証明しようとして…。

 <解説>
 痛快なほどあっさりと成功していく「僕」。
 しかしこの淡白な男はちっとも幸せそうではない。
 人との縁がない…というより、縁を築くことに
 何の興味もないのだ。そんな僕の唯一気にかける相手が
 ちょっと頭の弱い従兄のシンちゃん。
 この作品の本当の主人公はきっとシンちゃんだ。
 素直で、屈託のないシンちゃんが謎を解く、という謎を
 僕が解いていく。結局、誰も幸せにはならなかったかも
 しれないが、静かに静かに物語は終わる。

 評価:★★★+


●話好きのタクシードライバ (That's Enough Talking of Taxi Driver)
 行き先を告げさえすればあとは眠っていても目的地まで
 連れて行ってくれるタクシー。忙しい仕事の合間、
 束の間のオアシスともいうべきこの空間で、
 最も辛いのは運転手があれこれ話しかけてくることだ。
 たまたま捕まえたタクシーが、どういう偶然かこんなことになるとは…。

 <解説>
 一人称が一切使われない、一人称の形式。
 「私」や「僕」を使わないことはつまり、
 読者が主人公として、そのまま心情を受け入れやすいような
 形式であると言える。実際、この主人公の突っ込みは
 しごく最もで、恐らく殆どの読者はこの主人公になりきれるだろう。
 バリバリの名古屋弁で話しかけてくるこの難敵ドライバーに
 文句も言えず、途中で降りることも出来ない主人公は
 哀れでもあり、リアリティにあふれた平均的日本人とも言える。
 なかなか面白い趣向。

 評価:★★★+


●ゲームの国(リリおばさんの事件簿1)(The Country of Game)
 私、星茂佳奈(ほしも・かな)の住む町で殺人事件が
 起こった!第一発見者は私。被害者はうちの食堂のある
 会社の社員。発見場所はうちの食堂の冷凍室。
 回文同好会のメンバーとリリおばさんとともに、謎に迫る?

 <解説>
 殺人事件だ!と言うとそっちがメインかな?と思ってしまいますが、
 実際のところこのお話のメインは「回文」でしょう。
 何しろ、ゲームの国というタイトルですからね。
 このタイトル、どこかで聞いたな…と思うと、
 既刊「今夜はパラシュート博物館へ」で同名である
 「ゲームの国」という短編がありました。
 ただし副題は「磯莉卑呂矛の事件簿1」。
 この「1」というのはどうやら特に意味はないようで、
 実際に「2」が出たのは見たことがありません。
 森一流のジョークなのでしょう。ちなみに前作では
 メインは回文ではなく、アナグラムでした。
 次々と披露される回文は、楽しめます。
 コミカル小説としては、なかなかでしょうか。

 評価:★★★★


●探偵の孤影 (Sound of a Detective)
 俺は探偵。週末の夜、訪ねてきた若い女性の依頼を受け、
 彼女の姉を探すことになった。名前も分からない
 探し人だったが、幸いにも住所は分かっていた。
 しかし、その屋敷は幽霊屋敷になっていたのだ…。

 <解説>
 珍しく、真面目にサスペンス…でしょうか。
 徐々に謎に迫る探偵。そして最後に…。
 何となく昔見に行った「シックスセンス」という映画を
 髣髴とさせました。懐かしいなあ。

 評価:★★★+


●いつ入れ替わった? (An Exchange of Tears for Smiles)
 西之園萌絵にとって今夜は特別な夜になるはずだった…
 のに、気付くと誘拐事件の謎解きになってしまった!?
 刑事が犯人の指示で身代金の紙袋を持って引き回された挙句、
 紙袋を入れ替えられてまんまと身代金を取られた!
 一体いつ、入れ替わったのだろうか?

 <解説>
 毎回恒例、短編集に1作は紛れ込む萌絵です。
 菜の花、この子嫌いなんだけどなー。
 そして読めば読むほど、ますます嫌いになっていく…。
 今回の事件は入れ替わり。
 さて入れ替わったのは、なーんだ?

 評価:★★★★★




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