よみもののきろく
(2010年1月…579-583)
中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。
もっと古い記録 よみもののきろくTOPへ もっと新しい記録
579. 「トーマの心臓」 森 博嗣 / 萩尾望都=原作 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010.1.8 | 長編 | 300P | 1500円 | 2009年7月発行 | メディアファクトリー | ★★★★★ | ||||||||||||||||||||||||||||||
萩尾望都の同名漫画、森博嗣的にノベライズ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【100字紹介】 ユーリに手紙を残して死んだ下級生トーマ。 最近不安定なユーリの心に、この死が暗い影を落とさないか 心配するオスカーの前に、トーマそっくりの転校生エーリクが現れる。 萩尾望都の同名漫画を、森博嗣的世界観で描く 森博嗣といえば萩尾望都ファン。 …というのは有名な話ですが、本作はその森博嗣氏の萩尾作品ノベライズ。 設定変更も多々あるようですが、骨子は同じかと思われます。 主人公がオスカーになっている、というのは、 原作ファンにとっては大きな変更なのかもですが。 ちなみに菜の花は、萩尾望都という漫画家さんは、 森氏のエッセイ以外では知らないのですが、結構有名な方なのですね。 もしかすると、「森博嗣は知らないけれど、萩尾望都なら知っている」という 菜の花と逆パターンの方が、一般には多いのかもしれません。 漫画の「トーマの心臓」が連載された頃って菜の花の生まれる前ですし、 菜の花が生まれた後は「プチフラワー」や「フラワーズ」での掲載が多いですが、 それを購読したことがないので…。 というわけで、当然原作を知らない状況での拝読です。 でも、折角なので漫画版の方に関しては、 インターネットを通じて、若干調べました。 それで、原作ではオスカーは主役ではない、とか、 舞台が日本ではない、とか、まあそういうことが分かりました。 というか、普通に変ですよねえ。 キャラ名が思い切り、日本人離れしているのですから。 舞台自体は日本に変更したものの、キャラ名を変えるわけにはいかないため、 「渾名で呼び合っている」設定となったものと思われます。 でも、どうして著者は、わざわざ設定を変更して、日本に持ってきたのか。 それは判然とはしないのですけれども、 もしかすると自分の分かる舞台へ引き寄せたのかな、という気もします。 理工系の大学(?)が舞台になっているようなので、 自分が書きやすい世界へ持ってきて、ディティールを描いて 自分なりに消化しているのかなあという。菜の花の想像ですけれども。 オスカーを主役にしたことで、エピソードのタイミングなどが 変更されたようです。全体には、オスカー成長物語? いや、成長と言うほどではないかもしれませんが、 それでもやっぱり変化していくわけなので、成長かな。 主人公っぽいユーリの方は、若干は周りの影響を受けているかもしれませんが、 全体としてはブラックボックスの中、ひとりでひっそりと苦しみ、悟り、 そしてオスカーのところへ帰ってきて、飛び立っていく…感じです。 むしろ、彼によってオスカーが影響を受ける方が絶大。 インターネットで調べて菜の花が知った範囲では、 人と人との繋がりが、小説版の方がとても淡い感じがします。 キャラもクールですし。いや、理知的、というか。 森作品に良く出てくる、いかにも理工系の静かなキャラです。 こういうところが帯にある萩尾望都のコメントに繋がる気がします。 すなわち「読み終わるのが惜しくなるような澄んだ美しい物語でした。」あ、うまいな!と思いました、このコメント。確かにその通り。 とても理知的な人物が、冷静に自己分析しながら進めていくので、 物語全体が澄み渡っている感じがします。静かで、落ち着いたイメージ。 もちろん、事態は動き、感情も動き、言葉に出来ないような気持ちも 多々表現されつつ、それでも澄んだ水底のように平らかで、静かで、 そしてどこか温かくて、でも冷たい。 そんな物語でした。 まあ、澄みすぎていて、何というか、わーっとくる部分があまりなく、 淡々と読み進め、淡々と読み終わってしまった感があるのですが。 エンターテイメント性を求めるには、ちょっと「美し」すぎてしまって、 ちょっと物足りない感じもしました。 漫画もいつか、読んでみようかな。 |
580. 「診療室にきた赤ずきん 物語療法の世界」 大平 健 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010.01.13 | エッセイ | 207P | 362円 | 1994年6月、早川書房 2004年9月発行 |
新潮文庫 | ★★★★★ | ||||||||||||||||||||||||||||||
昔話の世界は、人生の気付きの宝庫なのです | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【100字紹介】 昔話や童話は、子どもの瞳を輝かせるように 疲れた患者の心を癒すだけでなく、 物語の中に自分自身の人生を重ね合わせながら、 気付きを得る薬ともなります。 物語を治療に取り入れる精神科医が紹介する、事例エッセイ。 著者は精神科医。 全体を4つの部分に分け、それぞれ3つのお話と事例があってから、 それに関連する著者の解説の章があります。 I. ねむりひめ、三ねんねたろう、幸運なハンス (鏡の国の精神科医(上)) II. 食わず女房、ぐるんぱのようちえん、ももたろう (鏡の国の精神科医(下)) III. 赤ずきん、うらしまたろう、三びきのこぶた (不思議の国の精神科医(上)) IV. いっすんぼうし、つる女房、ジャックと豆の木 (不思議の国の精神科医(下)) こんな感じ。 各話は実際の症例に基づき、それらの患者さんに物語を重ね合わせることで どのような結果が得られたのかを紹介しています。 それ自体が、物語のよう。 どの場合も、とても綺麗にまとまっていて、 面白いですし、うまくいってよかったなー、という感じ。 でも実際の現場はこんなに綺麗に終わっていくばかりではないでしょうし、 似ていても必ずしも昔話や童話と完全に重なり合うことばかりでもないはず。 うまくはまって、そしてうまく推移していったものを集めているのだろうな、 きっとこのかげにはうまくいかず、難航し、大変なことの方が 沢山あるんじゃないかな、と…。 だからこそ、こういう「成功事例」がより輝くし、 まぶしいものに思えてくるような気すらします。 こんなに沢山の「成功事例」があるならば、 日々の症例の多さもしのばれるというもの。 精神医療は大変です…。 と、そちらばかりが気になった菜の花って、ひねくれているのでしょうか…? さて、菜の花には…一体、どんな物語が寄り添っているのでしょうかね。 たまにはそんなことを考えてみるのも、 なかなか面白いことかもしれません。 |
581. 「デュアン・サークII 12 導くもの、導かざるもの(中)」 深沢 美潮 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010.01.16 | ライトノベル | 280P | 550円 | 2009年6月発行 | メディアワークス (電撃文庫) |
★★★★★ | ||||||||||||||||||||||||||||||||
モンスターに包囲される、砂漠の都エベリン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【100字紹介】 顕在化した闇魔はルルフェットの身体を乗っ取り姿を消し、 傷ついたデュアンと壊れてしまった伝説の剣が残された。 その頃、砂漠の都エベリンでは国王率いるロンザ騎士団と モンスターの戦いが。物語最終章直前の12巻 デュアン・サークの第2部であるデュアン・サークIIの第12巻。 いつも通りの上下巻で、最終章かと思いきや、何と中巻! どうやってあと1冊で終わるのかと思っていたので、 納得と言えば納得ですが…ちょっとびっくり。 今巻も前巻同様に3箇所での同時多発的事件進行。 主要キャラの多くはデュアンのところに集まっていますが。 いないのはピスマイの寺院にスペル探索に行っている サヴァラン、金目・銀目、ウィラック(、サザビー)くらいですね。 もう1グループの視点は、ロンザ国王のいるところ。 砂漠の都エベリン包囲で騎士団出動、なのです。 考えてみると、今までこのシリーズでこんなに大規模に、 主要人物のグループ以外の名も無き人々が集団で動くのが リアルタイムでクローズアップされたのって あまり覚えがありません。この手のファンタジーものって、 主要キャラたちのスタンドプレイが多いですから。 イメージ的には、ロード・オブ・ザ・リングみたいな。 いや、全然似てない、って言われそうですけど。 菜の花の個人的偏見でした、はい。 あ、でも著者自身も 「書いていてまるで映画の中にいるような錯覚に陥ります」 と仰ってますしね。どこかにそういうイメージがあるのかも。 前巻、前々巻と内面の戦いや、複雑な心と悩みに焦点が 当たっていた気がしますが、本巻はさすがに最終章一歩手前、 ストーリー主導で展開していきます。 全体に、この著者さんの作品はやっぱり昔に比べて 読みやすくなってきた気がします。 次巻でついに最終巻ですかー。ちゃんと読まねば。 |
582. 「精神科医は腹の底で何を考えているか」 春日 武彦 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010.01.21 | エッセイ | 221P | 760円 | 2009年1月発行 | 幻冬舎新書 | ★★+★★ | ||||||||||||||||||||||||||||
精神科医が描く、「精神科医のリアル」の話 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||
【100字紹介】 精神科医とはどんな人たちなのか。 臨床体験豊富な精神科医である著者が、 裏も表も建前も本音もすべて、リアルに書きつくすエッセイ。 本文中の事例に登場する「精神科医像」を 各1行にまとめた巻末インデックスつき。 著者は精神科医。 「患者」を中心にした精神科の症例集ではなく、 「精神科医」の方に焦点を当てているのが特徴のエッセイ。 精神科医とは、普通の人では持て余してしまいそうな 真っ暗闇だったり、ひとりよがりだったり、荒唐無稽だったりしそうな 精神科の患者さんの話を四六時中聞いていて、 体力的にも精神的にもきつくないのか!?と思うわけですが、 実際のところ、そのあたりをどうやってクリアしているの? ということを、「裏も表も建前も本音もすべて」、 エッセイに仕立て上げているのが本書です。 ある意味、精神科医は「所詮は他人事」と割り切っているから、 というわけですが、これは患者と共振してともにおろおろしても 改善は難しいわけで、冷静に事実を判断し、泰然と構えていることが 治療者としては大切な姿である…というのが真意です。 最初の「所詮は他人事」のみだけをそのまま書いたら 「何てひどい人間なんだ!医者失格だ!」みたいな誤解を招く可能性は 大変高いのですけれども、本書は全体的にそういうことについて、 精神科の現場と、多様な精神科医のリアルな建前と本音を描きます。 こういう場合って「誤解を恐れずに書く」と言いますが、 この著者に関しては思い切り恐れています(笑)。 詳しくは「はじめに」を参照。 まあそれで、「100人の精神科医」という、 本文中に出てきた典型的な例を、それぞれ1行程度の「医師像」に明文化して、 巻末に取りまとめて、そういう医師がいる、と本書は客観視しているだけだ、 というような「言い訳」チックな演出を試みていたり、 本文中にもそのような文章が散見されるということになっています。 菜の花としては、いちいち本文中に割り込むそれがやや冗長に感じられましたが、 世の中には色々な悪意を持った人もいるようですし、 これもまた予防線、でしょうか。 それに簡潔なことばで直前の事例を取りまとめるので、 むしろ本文を読むときの助けになる、と感じる読者もいそうです。 また類型化、定型化している一方で、医師にも多様性があること、 しかも一人一人の中にも、人というのは一見矛盾するような 異なる方向性のものもともに抱え込むことが出来る、という 個人の中にも多様性があることを受容しているというのも 精神科医らしい気がします。人はそんなに単純ではない、と。 だからこそ、人は難しいですね。 |
583. 「時載りリンネ!2 時のゆりかご」 清野 静 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010.01.22 | ライトノベル | 315P | 552円 | 2007年12月発行 | 角川書店 (スニーカー文庫) |
★★★★★ | ||||||||||||||||||||||||||||||||
本を主食とする時載り・リンネの物語第2弾 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【100字紹介】 200万文字の本を読むことで、 1秒だけ時を止められる一族「時載り」が、僕の幼馴染のリンネ。 わくわくすることを探すリンネの許に、 時を停滞させる書棚をオークションで落札する 依頼がやってきた…シリーズ第2巻 第2巻です。 語り手は前巻に引き続き、久高。 本作品は、彼が自分の身に起こったことを小説仕立てで書き残している、 という設定です。相変わらずの久高の歳不相応っぷり。 ええと確か彼は、ふつーの人間の男の子の、しかも小学生(?)ですが…、 こんな文章を書く小学生とか嫌なんですけど。 いや、いいんですけど…、「鬱蒼と犇く」とか、書くか? 「鬱蒼」はともかく「犇く」は読めないのでは…。 ああ、でも最近はPCで文章打ちますからね。 やたらと難しい漢字でも、変換は簡単かも。 昔みたいに全部自分の手書き!とかだったら、わざわざ書きたくないですよね。 2巻に当たるので、もはや説明は不要でしょうが、一応作品紹介。 久高の幼馴染のリンネ宅、お隣さんの箕作(みつくり)家は、 ちょっと変わった一家。ヒトとは違う「時載り」という種族です。 「時載り」は普通の食事は摂らず(でも摂取は可能らしい)、 その主食は本。読書が食事です。 しかも200万文字を読むと1秒ほど、時を止めることも出来ます。 時を止めると言っても、世の中すべてを止めるのではなくて、 飛んでくるボールを一瞬止めるとか、 歩いている人の靴だけ1秒止めて転ばせるとか、 小技がきいている使い方としては、燃えている炎の周りの空気の流れを 一瞬止めることで、消火する、なんてことも出来るらしいです。 前巻では、「時載り」のくせに主食の読書が嫌いな好奇心旺盛のリンネが 「わくわくする大冒険がしてみたいな。」と言い出し、 何だかバタバタあって最終的には世界に7人しかいない、 「時載り」の上に存在する、「逸脱者」を裁くもの「時砕き」になる、 という大団円を迎えたのですが、その続編。 まだ正式な「時砕き」には就任していないリンネが、 19世紀中期から後期にかけて活躍した伝説の家具職人 「ハゼル・ジュビュック」の作品をめぐって、 素敵な歳上の友人と、そして「逸脱者」と出会うお話です。 前巻は著者のデビュー作であり、好きなもの、楽しいものを いっぱいに詰め込んだ感じがありました。 こういうとき、2作目の方向性は重要ですよね。 成長しないまま素人文章でずっと突っ走るか、 1作目に入れ込みすぎて品切れになって中身が薄くなってしまわないか、 それとも落ち着いて自分の作風を確立してゆくか。 その2作目たる本作では、前作のようなめいっぱい詰め込んだ、 楽しそうなイメージながらも若干強引さを感じた部分が減って、 まとまりよく、しかしながら十分、 にぎやかで明るい前作の雰囲気は残している仕上がりに。 悪くない方向性です。 また機会があれば、次作以降も読んでみたいですね。 それにしても無口キャラは、小説だと目立たなさ100%(笑)。 が、「言霊使い」は幾らなんでも最強すぎ。ワイルドカードです。 |
584. 「メグとセロンIV エアコ村連続殺人事件」 時雨沢 恵一 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
2010.01.30 | ライトノベル | 283P | 550円 | 2009年3月発行 | メディアワークス 電撃文庫 |
★★★★★ | ||||||||||||||||||||||||||||||
「リリアとトレイズ」スピンオフ作品第4巻 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
【100字紹介】 クールなセロン、正義感あふれる天然系のメグ、 熱血漢少年ラリー、さばけたナタリア、美形長髪青年ニック、 カメラを手放さない部長ジェニーの新聞部6人が、 夏の合宿で連続殺人事件に巻き込まれる!?シリーズ第4巻 「リリアとトレイズ」シリーズのスピンオフ作品第4巻。 もはやここまで来ると、「スピンオフ」というよりは ひとつの独立作品ですよね。 って、ここまで来る前に気付けって?(苦笑) 「アリソン」や「リリトレ」と違い、完全学園ものである「メグセロ」、 ついに学園ものでは定番の「夏休み合宿」発動です。 って、このひとたちは何部でしたっけ?え、新聞部!? 新聞部の合宿ってどこで何を…? はい、お金持ちのお嬢様であるジェニー部長が、親戚の別荘を提供です。 というわけで場所は富裕層の保養地である「エアコ村」。 そちらでやることは…序章で我らがセロンが、部長に訊いてくれています。「…(略)、一体何をするんだ?」 『まずは、カメラの使い方を確実に覚えてもらうわよ。現像やプリントは、 よく考えたら設備がないから無理だけど。カメラはこっちで人数分用意するから。 次はタイプライターの打ち方。同時にメモの取り方、記事の書き方のレクチャー。 新学期になったら、すぐに発行したいからね』 (―本文より)…だそうです。特にカメラの使い方レクチャーあたりは、 かんっぜんに、著者の趣味が入ってます。 そういえば、フィオナもカメラ好きでしたね。 それよりも、更に上を行く感じ。 銃が好きだ、というのが「キノ」を読んでいると ありありと伝わってくるのと同じレベルに。 一応、タイトルが「連続殺人事件」ということで、 ミステリ!?という感じがしますが、内容としてはミステリというほどでは。 実際に連続殺人事件は起こりますけど。 今までの事件に比べて、人が亡くなって大きな事件ではあります。 そしてちょっと、哀しい結末…かも。 でも菜の花としては、読みどころは前半!と声を大にして叫びたいですね。 いやー、ちょっとした旅行気分&学生気分を味わえました。 この著者の作品は、「キノ」「アリソン」「リリトレ」、 どれをとってもそういうところが特徴的かも。 旅の描写がとても、たのしくて、それが素敵。 後半に入ってからは、ニックの働きに一票。 そのうちニックとその姉たちのお話を読んでみたいですね。 今回、序章でちらっと登場のお姉さまたちですが…、 なかなか面白い一家である予感です。 |