よみもののきろく

(2009年10-12月…570-578) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
570. 「白い兎が逃げる」     有栖川有栖
2009.10.03 短編集 407P 648円 2003年11月カッパノベルス
2007年1月発行
光文社
(光文社文庫)
★★★+
火村&小説家有栖のミステリ短編集シリーズ


【100字紹介】
 双子が絡む正統派フーダニット、意外な動機の隠されている奇妙な殺人事件、
 「ある事実」をうまく事件解決の鍵に取り込んだアリバイもの、
 火村&アリスシリーズでは珍しい語り口の「ストーカー」殺人など4編を収録。


国名シリーズの中編集です。
いつも通りの火村&作家・アリスの絶妙(微妙!?)コンビ登場です。


●「不在の証明」
 常習引ったくり犯が、ひょんなことからあるビルの入口を監視する状態に。
 そのときビルから出てきたのは作家の黒須俊也らしき人物だった。
 不審な動きを見せる黒須。その後、ビルの一室で、
 黒須俊也の双子の弟の撲殺死体が見つかる。

 <感想>
 出ました、双子。ミステリといえば双子。
 もちろん、一卵性双生児ですよ。そっくりなんですよ。
 周りから見ると区別がつかない人たちですよ(双子のみなさん、すみません)。
 この作品で証明するのは「不在」。
 もちろん、事件現場の…。
 意外な不在、そして珍しい不在の証明。

  評定:★★★+


●「地下室の処刑」
 偶然、連続爆破犯を目撃した森下刑事だったが、
 僅かなミスで拉致・監禁されてしまう。
 過激派分子の隠れ家に連れ込まれた森下刑事の目の前で、
 繰り広げられた惨劇。
 
 <感想>
 犯人は誰?のフーダニットであり、
 どのように?のハウダニットでもありますが、
 著者が書きたかった一番の目玉は「意外な動機」らしいです。
 確かにこの動機はあまり聞いたことがありません。
 というか…何という臆病者な犯人でしょう!
 しかもはた迷惑な…。

  評定:★★★+


●「比類のない神々しいような瞬間」
 奇妙なダイイング・メッセージを残して評論家が殺された。
 そのダイイング・メッセージは解けたものの、
 犯人は捕まらず。そして第2の殺人。

 <感想>
 エラリー・クイーンの「Xの悲劇」考とともに語られる、
 70ページ程度の中編。短編よりも若干長めにすることで
 殺人事件を2段階にしています。
 前半も後半もポイントはダイイング・メッセージ…ですが、
 後半に関しては純粋にダイイング・メッセージの枠に
 収まりきっていないところが特徴。
 被害者の意図しないところでの露見、というのもいいですが、
 この事実を知ったときに
 「よし、これをうまく取り込んで、1編仕立てよう」と考えて、
 実際に書き上げたという著者が素敵。気持ちは分かりますけど!
 あとがきの「賞味期限があるアイディアなので、なるべく
 早めにお召し上がりください」という著者の言にも思わず笑い。

  評定:★★★+


●「白い兎が逃げる」
 ストーカーに悩む劇団の看板女優・清水怜奈。
 劇団の先輩女優・伊能真亜子と脚本家・亀井明月は、
 策を凝らして変質者から怜奈を引き離したはずだったが、
 当のストーカーが小学校の兎小屋の裏で死体となって発見される。
 
 <感想>
 有栖の一人称部分がかなり少なめな作品。
 やっと出てきた!と思ったら、何故か恋愛考していたり(笑)。
 170P超なので、中編というよりもむしろミニ長編という感じです。
 時刻表とにらめっこな「鉄道ミステリ」ですが、
 よくよく考えてみると有栖川作品ではこういうの、少ないですね。
 パズル・ミステリな人だと思っていたのですが、
 鉄道には殆ど手出しせず、というのは意外でした。
 ちょっとした、叙述ミステリにもなっていますね。
 少し長すぎるかな、という気はしました。
 それにしても、嫌われちゃいましたね、火村先生。

  評定:★★★★★


突出して「これは面白い!」と叫ぶほどのものはないですけれども、
いつも通り安定してミステリしていて、個人的には大好きです。
やっぱりミステリはいいですねえ。



菜の花の一押しキャラ…火村 英夫 「十歳違うぐらいがどうした。愛があれば、それしきの齢の差は―」 「似合わん台詞を吐くな」                    (火村 英夫&有栖川有栖)
主人公 : 有栖川 有栖
語り口 : 1人称
ジャンル : 本格ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 関西系本格ミステリ
解 説 : 辻 真先
カバーデザイン : 盛川 和洋
カバーイラスト : 牛尾 篤

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
571. 「Dog & Doll」     森 博嗣
2009.10.18 エッセイ 171P 1600円 2009年3月発行 TOKYO FM出版 ★★★★
FM東京の携帯サイトで連載されたエッセイ


【100字紹介】
 TOKYO FMの携帯サイトで2008年の1年間、
 週刊連載された森博嗣の音楽エッセイを取りまとめたもの。
 西尾維新・ゆうきまさみ・山本直樹とのそれぞれの対談も収録。
 ライトでディープな森博嗣らしいエッセイ


TOKYO FMの携帯サイトで2008年1月10日〜2009年1月1日に、
週刊連載された、森博嗣の音楽エッセイ集です。
なお上述の3つの対談は、本書が初出。

ブックデザイン・カバーデザインとも、音楽エッセイらしく見せる、
様々な工夫が凝らされています。
カバーデザインはツェッペリンのアルバムをパロディにしているそうですし
(あとがきより)、見返しデザインはまさにCD。
章分けも「SIDE A (#1〜#12)」から「SIDE D (#39〜#52)」で、
対談はそれらの章の間に

「SPECIAL TRACK 1 対談:森博嗣×西尾維新」
「SPECIAL TRACK 2 対談:森博嗣×ゆうきまさみ」
「SPECIAL TRACK 3 対談:森博嗣×山本直樹」

という形で入っています。レコードやCDのイメージでしょうか。
ちなみに「SPECIAL TRACK 4」は「森博嗣的音楽環境」。
森博嗣氏の書斎ほか、の写真。


著者本人も何度も文中で指摘するように、
この作品は音楽エッセイの割にちっとも固有名詞は出てきません。
ゼロではないですけれども、
「誰々の曲が…」とか「何とかという曲は…」とか、
殆どそういう「評論」的部分がないのです。
音楽エッセイというと、著者は評価・評論をしがちですけれども、
(そしてそういうのを求める人も当然いらっしゃるはずですが)
このエッセイにおいてはそういう雰囲気は皆無。
音楽自体よりも、もしかしたら「音楽の聴き方」、
つまりは音楽との距離や、接し方や捉え方…
もしかしたらもっともっと、
「人生」や「日常生活」に近い方に重点がある、
と言ってもよいかもしれません。
だからと言って、重いわけでもないですよ。
とってもライト、でもときにディープ。
何を書いても、何を話してもやっぱり森博嗣。。。
と、何となく安心できる自分がいたりして。
もしかして、毒されている!?(何に?)


なお、このエッセイは2009年現在は「TRUCK & TROLL」として
同じくTOKYO FMの携帯サイト「MUSIC VILLAGE」でリスタートしています。
ただしこのエッセイを読むためには有料会員登録(月額\315)が必要とのこと。


テーマ : 音楽と日常
語り口 : 一人称(僕)
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 音楽っぽさは仄か
Book Design : OHJI Hiromi (O-CTAVE inc.)
Illustration : TAKANO Kenji

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
572. 「ソロモンの指環 動物行動学入門」     コンラート・ローレンツ[著]、日高敏孝[訳]
2009.11.08 エッセイ 275P 1680円 1963年12月、早川書房
2006年6月発行
早川書房
(新装版)
★★★★
動物とともにあり、動物を愛した学者の言葉


【100字紹介】
 「刷り込み」理論を提唱し、動物行動学をうちたてた功績で
 ノーベル賞を受賞したローレンツ博士の、動物を愛し、
 友として動物と一緒に生活しながら進めた研究の中で、
 動物たちの生態や行動の「実際」を描いたエッセイ


--オリジナル・データ-------------------
Er redete mit dem Vieh, den Vögeln und den Ficshen
by Konrad Lorenz 1949
---------------------------------------


100字で巧い日本にまとまらず。
うーん、どれだけやっても、「魅力の要約」をする難しさは、
どれだけ見上げても向こうの見えない壁のような感覚です。
本の見返しにある紹介文、書店などの書籍紹介、
あれらを作成する人たちというのは本当に凄いですね。


さて、本書ですが。
結構有名な本だそうで、何気なく聞いた人たちに、
読んだことあるーと答えられてしまい、自分の読書経験の浅さ(?)に、
そこそこショックを隠しきれないところです。しくしくしく。

著者は「インプリンティング」で有名なローレンツ博士です。
有名なのは、生まれたばかりの雛鳥が、最初に見たものを親と認識する、
というものですが、インプリンティング自体はもっと大きな概念で、
他の段階であっても一度きりの記憶が、まるで脳にプリントされたように
長期に渡って保持されるような現象のことを言うようですね。
…ということが、本書に書いてあるわけではないですけれども。
ただ、そういうことを「インプリンティング」というのか、
と思って読んでみると、幾つかの類似現象が見られて大変興味深いです。

例えばコクマルガラスの話。黒くて揺れるものをぶら下げていようものなら、
コクマルガラスはたちまち警戒音をわめきだして大合唱になるそうですが、
このとき、その「敵」を初めて見た若鳥ですら、「警戒すべき相手」を記憶し、
のちのち「敵」が黒いものを手にしていなかったとしても、
「これは敵である」と覚えてしまうとか。
これも立派な、インプリンティング…でしょうか。

また、ボウシインコのパパガロの話。
煙突掃除人がやってくると「エントツソウジガキマシタヨー!」と
わめいて逃げたそうです。この口調から料理婦のおばさんの
「煙突掃除が来ましたよー」を覚えたのだと分かったものの、
パパガロがおばさんのこの言葉をきいたのは多くて3回は超えないはず、
たったそれだけの回数ですぐに言葉を覚えるのは普段ならないこと。
一般に鳥類は、上方から急降下してくる猛禽に対する恐怖からか、
上のほうにある、空にくっきり浮き立って見えるものを怖がるそうですが、
まさにそれは、煙突に立っている煙突掃除人にばっちり当てはまるわけです。
更にこの話に続けて、ズキンガラスのヘンゼルの話が始まります。
いたずら小僧に捕まって酷い目にあったらしいヘンゼル。
どうしてそんなことになってしまったのかを、自分で話したそうです。
「きつねワナでとったんや」
恐らく、数回しか聞かなかった言葉も、極度の興奮状態の中なら
刷り込まれてしまうということですね。

そんな感じで、どこか教科書に載っていそうなことも、
ユーモア溢れる文章で、エッセイとして次々と紹介されていきます。
多分、読む人が読めば「何ということだ、それは…!」が沢山詰まっているのでしょう。
勿論、インプリンティングの話だけではありません。
完結した世界・アクアリウムの魅力、魚の戦い、魚が思案する姿、
うら若いメイドさんを「夫」みなしたコクマルガラスのチョック、
博士に恋したコクマルガラスの給餌衝動、コクマルガラス集団の生態、
キャア気分とキュウー気分の生理的気分と鳥的言語の話。
オオカミやイヌ、その他多くの「武器」を持つ動物に見られる、
本能的な「社会的抑制」。動物にとっての「幸福」。
それに混じって、動物を飼うならこういうのがお勧め!なんて話題も。


あまりにも盛り沢山で、語りきれないものがありますが、
全編に渡って背景にあるのはひたすら、
博士の「友」へのまなざしと、とめどない探究心・好奇心でしょう。
長編小説よりも短いくらいの決して長くはないエッセイですが、
これを読めば、動物への視線が変わること請け合い。
菜の花も、とてつもなくハムスターを飼いたくなりました!
若干言い回しとか喩えが、日本人の発想ではなくて読みづらいかも、ですが、
さすがに長年(日本語版翻訳は実に40年以上前ですよ!)、
愛されてきただけあって、素敵な作品でした。


テーマ : 動物の行動
語り口 : 1人称(私)
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ユーモアたっぷり
訳 者 : 日高 敏隆

文章・展開 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
学 術 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP
573. 「人体 失敗の進化史」     遠藤 秀紀
2009.11.15 一般書 251P 740円 2006年6月発行 光文社
(光文社新書)
★★★★
遺体科学で、生物としてのヒトの来歴を探る


【100字紹介】
 ホモ・サピエンスの短い歴史に残されたのは、
 何度も消しゴムと修正液で描き変えられた、
 ぼろぼろになった設計図の山―。
 動物遺体を解剖することで、様々な過去が見えてくるもの。
 遺体科学で探った、動物の進化を紹介


本書は…面白いです。
もちろん、funnyではなくてinterestingで。

研究者の書いた、研究成果を一般人にも分かりやすく伝え、
そしてその研究領域への理解を深めてもらい、
更には味方につけてこれからの研究で応援団になってもらおう、
という感じの本です。

著者は京大の、あの有名な霊長類研究所の教授。
獣医師でもあり、博士号は獣医学。
(獣医学は、医学博士ではなくちゃんと獣医学博士があるのですね。)
動物の遺体を解剖することで研究を重ねている方です。
というわけで提唱しているのは「遺体科学」というわけ。

素人から見ると「動物の遺体解剖なんかして、何が分かるわけ?」
と思ったりもするのですが、何と驚き、こんなことまで分かっちゃう!?のです。
例えば、ニワトリの肩の骨は、飛ぶためにこんな変化を!ということもあれば、
耳の骨、これって実は顎関節から「ヘッドハンティング」されてきた骨が
大活躍していたりするのよ、というように、
パーツを新設するのではなく、別の場所で別の機能を持たせるという
「設計図描き換え」での対応の例がどんどん紹介されていきます。
前半は、動物の話が多く、中盤から本命の「人体」へ。

ヒトが二足歩行を始めるとき、何が必要だったか?というのは、
今までに自分の持っていなかった視点を放り投げられて、
不意打ちな感じがとても素敵でした。
単に立ち上がればいいじゃないか、では済まないのは当然ですが、
一体どこにどんな問題が生じてしまうのか?
まずは足の裏。四つ足なら悩まずに済んだ「バランス」の問題。
あれです、四輪車や三輪車はそうそうこけたりしませんが、
二輪車…バイクや自転車、それに一輪車ときたら、ふらふらですよね。
人間の足は、うまいことバランスを取れるように進化しているのです。
それから骨盤を立てて、しかもがっしりしないといけません。
何故なら、その骨盤で、上半身と内臓を支えてあげないといけないから。
その内臓を吊っておく工夫も必要です。そうしないとどんどん、
骨盤の方へ骨盤の方へ、内臓が集まっていってしまいますから。
今までの「吊り方」では90度方向が違いますから、
新たに内臓を固定する方法を考えないといけません。
更に歩くためには、骨盤に対して大腿骨の可動領域を増やさないといけません。
何しろ、人間の歩き方は、四足で歩いているときなら後ろ足を天に向かって
蹴っている姿勢をテンポよく続けているような状況ですから、
あんまり無理をすれば脱臼してしまいます。
筋肉だって、今までとは違うところが発達しないといけません。
こうやって考えていくと、ただ「立ち上がる」ことがいかに大変なことかが
よく分かる気がします。そんなに簡単に出来て、しかもメリットが大きいならば、
他の動物だっていつまでも四足で歩き続けていないかもしれませんよね。

このほかにも、手の話、脳の話、生殖器官の話、血流の話…
などなど、様々なお話が盛り沢山です。


そして最後に、この手の研究が危機に瀕している…というか、
これからますます瀕していくであろうことへの警鐘を鳴らしています。
ただ警鐘を鳴らすだけではなく、実際に行動を起こす著者。
科学研究に関しては、特に基礎科学の場合はどの分野でも当てはまるかもしれません。
すなわち、1990年代以降に日本が突き進み始めた学問の姿。

「それは、すぐにお金を生み、すぐに国際競争力となって対価を生み出すような、
 科学的好奇心というよりは、現実的な技術開発」 ―本文より

まさに。特に政権交代してからの予算削減では、
研究分野への投資はますます酷いことになっていますね。
確かに基礎科学、基礎医学はすぐにはお金にはなりません。
けれど、これを積み重ねずして、技術開発が続くはずがありません。
今はまだ、これまでの積み重ねの「貯金」があるので、
企業主導の技術開発も進む余地はありますが、
技術には必ず、裏打ちされる「基礎」が必要です。
「基礎」が教科書をつくるわけですが、この教科書が歩みをやめてしまえば…、
もうそれ以上の背伸びは出来なくなるはず。
どうやら日本には、それが分かっていない政治家さんが多いようで。
そんなことをぼんやり思いつつ、観光客のための公共サービスとしてではなく、
「文化の担い手」「科学の下支えをする施設」として、
全国の動物園・博物館さんにエールを送りたくなる…そういう1冊でした。


テーマ : 動物の進化
語り口 : 1人称(私)
ジャンル : 一般書(生物学系)
対 象 : 一般向け
雰囲気 : かなりやさしく

文章・展開 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
学 術 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP
574. 「反自殺クラブ 池袋ウエストゲートパークV」     石田 衣良
2009.11.22 連作短編 254P 1524円 2005年3月発行 文藝春秋 ★★★★★
ストリートを駆けるクール&ライトな短編


【100字紹介】
 シリーズ第5弾。風俗スカウトサークルの犯罪、
 伝説のスターが夢見た東池袋のロックミュージアムの行方、
 中国の死の工場を訴えるキャッチガール、
 集団自殺を呼びかけるネットのクモ男VS反自殺クラブの4編を収録。
 

●収録作品一覧
-----------------------------
・スカウトマンズ・ブルース
・伝説の星
・死に至る玩具
・反自殺クラブ
-----------------------------


池袋ウエストゲートパーク(IWGP)の第5巻。
このシリーズはすべて短編から中編程度の長さの連作小説。
ドラマ化もされた人気作であり、
著者・石田衣良氏の代表作でもあります。


主人公のマコトは、シリーズ当初は単なる素行不良青年でしたが、
池袋駅西口前のさびれた商店街で、母親の営む果物屋を手伝いつつ、
ストリート誌にコラムを書きつつ、池袋のストリートで
無料トラブル・シューターとして名声(?)上昇中。
実は小学校低学年の頃は教科書は1回読んだだけで覚えるし、
記憶力抜群の「神童」と呼ばれていた…ことが母親の証言により本巻で判明しますが、
どうやらやる気が足りずにこんな大人になってしまった…らしいです。


多彩な半レギュラーメンバーは、
池袋のギャングボーイズ(Gボーイズ)のクールなキングの親友・タカシ、
今ではヤクザとして売り出し中の、同級生で元いじめられっ子・サル。
何だかんだでいつも手を貸してくれる、池袋署生活安全課の吉岡刑事。
実は若かりし頃は…な疑惑が更にアップ中のマコト母にも注目。

1作品につき1つの事件を追いかけ、その顛末が描かれる形式。
どれもストリート、特に最近の若者にスポットを当てて
最近ホットな事件を鑑みたトピックが選ばれています。
何かよく似た事件、ニュースで見たな、と。
実際の事件から取材して、この物語に合う形に軽く料理し直している感じ。


売りはテンポのよさで、マコトの1人称で軽快な話し言葉で語られます。
それにしてもシリーズが進むにつれ、どんどんマコトが賢くなり、
しかも不道徳性の高い部分が丸くなっていき、
結構ふつーの人になりつつあるような気が。
いや、読みやすくていいのですけれども、
初期の頃の、切れ味鋭いクールな不良青年な印象が、
だんだん薄れていきますね。
いや、色々「そこ容認しちゃうんだ!?」なところもありますけど。
でもちょっと、若者らしくなくなってきたーというか…、
もっと無茶する子だったと思うんですよ!マコトというキャラは。

内容がさほど変わっているとは思えないのに、
何となく物足りなくなりつつあるのは、
著者がこちらに寄ってきてしまっているためか、
それとも読者たる菜の花が慣れてきてしまって新鮮さが欠けてきているのか…。

でもまあ、また続巻は読むと思います、はい。

そうそう、最終話のコーサク…、気持ちは何だか分かります。
このキャラ、やばいでしょ!なフラグは最初から立ちまくりでしたけど…。
それにしても「反自殺クラブ」は後味の悪い事件でした。
結局、何も解決はしていないところとか。難しいですね。


菜の花の一押しキャラ…タカシ 「おまえのおふくろさん、エンペラーのレディースだったのか」 (タカシ) 王様の率直な感想。何となく、納得。
主人公 : 真島 誠
語り口 : 1人称
ジャンル : 社会派ライトノベル
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 都会のストリート
結 末 : 1作完結の連作短編

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
575. 「鳥たちの旅 渡り鳥の衛星追跡」     樋口 広芳
2009.12.11 一般書 251P 1160円 2005年9月発行 NHKブックス ★★★★+
鳥類学者による、どきどきの渡り鳥エッセイ


【100字紹介】
 毎年沢山の渡り鳥が海を越え山を越え
 人間のひいた国境線を越えていく。
 彼らがどこをどう通って渡るのか、
 意外にも分かっていないことは多い。
 アジア・シベリアを中心に渡り鳥を衛星追跡する
 研究者による科学エッセイ


また面白い本に出会いました。
今回も研究者の書いた、一般向けの本です。

出だしからいきなり、「のり子の旅」が始まります。
のり子は、クッチャロ湖からシベリア方面へ渡るコハクチョウ。
ちなみに送信機を背中に「糊付け」したから「のり子」。
何というネーミングセンス…!
のり子の旅は、様々な苦労の末、ついに到達した渡り鳥の衛星追跡研究の
ゴールであり、通過点であり、そしてスタートです。

このあと、次々と「鳥たちの旅」が紹介されていきます。
地球は丸い!というのをよく表現している素敵なイラストと
連続する地名がまるで、読者をも一緒に旅に連れて行ってくれるようです。
鳥にとっては、国境は関係ありません。
韓国を超え、非武装地帯で休息し、北朝鮮から中国・ロシアまで。
我々ではそう簡単になし得ない旅が繰り広げられます。

もちろん、旅の紹介だけにとどまりません。
渡り鳥の生態、旅の途中での生活の場である「中継地」等の現地紹介、
この研究の中心技術である「アルゴスシステム」を用いた衛星追跡の手法や、
送信機の発展と現在の問題点、GPS利用も考えるこれからのことなどの技術的なこと、
これまでの研究の流れ、研究費のことなどの「研究」としての側面もありますし、
研究により得られた成果の紹介、その成果から考えられる「環境保全」のための活動など、
「渡り鳥研究」全般に渡って語られます。

それにしても「渡り鳥」というのは結構、身近なものですし、
鳥があんなに集団で飛んでいくわけですから、
もっとよく分かっているものかと思っていました。
経路が謎とか、中継地もそれほど分かっていない、というのはとても意外。
でも考えてみれば、それぞれの渡来地では「点」として認識はしていますが、
これが実際に他のどの土地に飛んでいくかなんて知りませんよね。
一緒に飛行機でついていくわけにもいきませんし。

前半の旅の紹介があまりにも素敵なイラストで、
本当に鳥っていいなあ、と思いましたが、半ばあたりでそっと紹介されていた
「旅の失敗」で、その過酷さを思い出しました。特に海の上を飛んでいく場合、
方向を誤れば飛べども飛べども休む場所なし、の悲劇があるわけですよね。
そうして力尽きる鳥もいるでしょうし、
移動中は慣れない土地で、捕食者に襲われる危険も高まるでしょうし…、
ああ、渡り鳥生活も大変だ!と。

そんな鳥を衛星で追跡するため、まずは送信機を取り付ける!
そのためには、鳥を傷つけずに捕獲しなくては…の苦労話も
同じくらい大変そうでした。
「ヘリコプターから跳び降りてツルに抱きつく!」だの
黒だかりの蚊やブユを追い払うことも出来ないまま、
地上数十メートルの大木によじのぼるだの…、、、研究者も体力勝負ですね…。
うっかり研究費を切らすと衛星利用料が支払えず…なんて苦しさもありますが。

うーん、追う方も追われる方も大変です。
でもこうやって、色々なことが、明らかになっていって、
沢山の苦労の末、知識は蓄積されていくのですね。
だから世界は、面白い、と思います。


テーマ : 渡り鳥、研究
語り口 : 1人称(私)
ジャンル : 一般書・エッセイ(生物学系)
対 象 : 一般向け
雰囲気 : たのしい
イラスト : 重原 美智子

文章・展開 : ★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
学 術 性 : ★★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★+
よみもののきろくTOP
576. 「14f症候群」     壁井 ユカコ
2009.12.13 連作短編 296P 1500円 2009年5月発行 角川書店 ★★★+
ある朝、目覚めた女子中学生に起こる不思議


【100字紹介】
 14歳。中学2年生。6人の仲良しグループ女子中学生のひとりが、
 ある朝目覚めると世界が変わっていた…。
 それぞれの少女が遭遇した9日間の不思議と、
 僅かなことで均衡の崩れる危うい人間関係を描く、連作短編集。
 

帯が凄いことに…。

「認めよう、14歳は無敵だ。しかし大人も負けん。かかってこい!
 有川 浩氏、迎撃!」

…いや、「かかってこい!」も謎ですけど、「迎撃!」って…。
読み始める前に「え〜!?」と思ったわけですが、
読んでいる最中も、そして読み終わった今でも、
やっぱりこれは何だったんだ…?という謎に包まれた帯でした。
ええ、分からないんですけど。どこで迎撃しているんですかね、有川さん…。


というわけで謎を含みつつ(しかも本編と関係ないところで)。
何の前提知識もないままに、とりあえず読み始めたところ、
最初に連想したのは森博嗣氏の「堕ちていく僕たち」でした。
別にそれを意識しているとは思えないのですけれども、
ある意味で、「よくある設定?」というか…。
「朝、目が覚めたら」「自分ではない自分に」というのは、
(※ちなみに「堕ちていく僕たち」に関しては、
「朝、目が覚めたら」パターンではありません。)
結構使い古されたモチーフかな?と思ったのですけれども、
まあ、取り上げる人によって筋は違うでしょうし、
作者の数だけヴァリエーションはできるものですし…、、、
と自分を納得させつつ、イマドキの中学生っぽい活き活きした
この作品の雰囲気を愉しむことにしよう…と、
ちょっと冷めつつ読み進めていたのですが…、
2話目に入ってから「お?」と。
あれ、少し違う?というか、あれ、こういう風に絡む?みたいな。
更に3話目に入って、「ガックン」が登場してくるあたりで
そうか、これは「キーリ」の作者だった、と思い出しました。

使い古されたモチーフを持ち出してきた感というのは、
「カスタムチャイルド」に通じるものがありますが、
それをうまくヴァリエーションを作り出しながら、
複数の話をゆるく繋げつつ、とりまとめていく手際と、
活き活きとした話口調や文章によって、
子どものリアルさを目指すあたりが、何作読んでもこの著者らしいです。

ちょっとしたことで立ち位置の変わってしまう、
微妙な女子中学生の人間関係や、
普段から「愛」を前面に押し出しすぎていないものの、
ここぞというところで主張される家族の言動、
自意識と、他者との綱引きのようなリアルな友情・愛情。
特に、この友情に関しては、エンターテイメント性を前面に押し出した
少年漫画や感動もののドラマなんかですと、若干の葛藤はありつつも、
友情至上主義や恋愛至上主義が王道としてまかり通るわけですが、
そこに固執せずに様々な…ときにはとても歪んだ形のまま、
それを幾つもの形で表現するところが、うまいなあという印象。

書き下ろしの最終話でチサコが6人のグループについて思い返すシーン。

「あたしたちが六人一体の無敵の女子中学生だったのは
 あの頃のほんの一瞬だけだったんだなって。
 マリオがスター食ったときの無敵モードみたいなもん。
 マリオってゲームの話だよ。すごい勢いで時間が動きだして、
 身体がちかちか光って、音楽が速くなって、がーって急かされて、
 とにかくそのあいだは脇目もふらずに突っ走って、
 キノコとかカメとか蹴散らして、でも唐突にぷつっと終わっちゃう。
 我に返って立ちどまって見まわしたらまわりに誰もいなくて、
 すごく静かになってて」

確かに…中学生時代は自分もそうやって駆け抜けた気も…若干するかも。
そしてこの物語でも、主人公たちと一緒に読者は駆け抜けている、かも。
帯の紹介では「疾走ストーリー」となっているのですけれども、
実際にこの本を読んで「疾走」という感覚はあまりなくて
(「ぎりぎり」とか「疾走」と言われると、同著者の「No Call No Life」が
 間違いなくそっち…というか、ぎりぎりどころか落ちてる説もありますが)、
でももしも「疾走」という言葉が当てはまるとしたら、
「日常」だと思っていたことは、ほんの短い時間の、
実はあやういバランスのもとでの安定だったと気付く瞬間に、
あとづけでその頃の安定を「疾走」と表現する、という感じかなと。
こうやってみんな、大人になっていくのです、ね。きっと。


菜の花の一押しキャラ…竹田 「ここんとこ思ってたんだけど…お前誰だ?」(橘 彗) 普段はどこを見ているか分からない人の一言が、一番どきっとします。
主人公 : 生島ちほ、鈴木一、篠田志乃、
  橘七美、青山美憂、千野智紗子
語り口 : 1人称
ジャンル : 小説一般
対 象 : ヤングアダルト〜一般向け
雰囲気 : 中学生の日常
結 末 : ゆるく繋がる連作短編

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
577. 「再生医療のしくみ」     八代 嘉美、中内 啓光
2009.12.27 一般書 166P 1400円 2006年12月発行 日本実業出版社
(エスカルゴサイエンス)
★★+★★
再生医療とその現状、研究状況を易しく解説


【100字紹介】
 再生医療。自然には再生できない組織や臓器を再生させ、
 機能を回復させることを目指す医療。
 再生医療とはどんな医療で、どのように組織や臓器を再生させるのか、
 またそれに関わるしくみについて一般向けに易しく解説

易しい、一般向けの入門の本。
解説される内容は、近年流行りの「再生医療」なので、
最先端研究の知識も盛り込んで構成している辺りは、
現役研究者が著者である利点ですね。

基本的に見開きの2ページで1ブロック。
全7章構成で、それぞれは10ブロック前後から成っています。
各章・各ブロックには親しみやすい…ポップな?表題がつけられています。

「科学者はクローン羊の夢を見るか? ドリーが示した新しい可能性」(3章 08)
「ピノコどこの子? ブラック・ジャックと万能細胞研究」(4章 01)
「あるいは細胞でいっぱいの海 細胞を培養すること」(4章 06)
「新薬、ゲットだぜ! 医薬品開発への応用」(5章 11)
「人体補完計画 〜再生医療の現在」(6章)

…えっと、元ネタが分かるかな?…というものをとりあえず、
適当にひっぱってきました。他にも「これは何かのもじりよね?」というのは
沢山あるのですけれども、菜の花では太刀打ちできないものも多かったです。
どれだけ趣味の守備範囲広いんだ、この医学大学院生は!?と…。
まあ、大学院在籍中でも、菜の花よりも年上みたいなのですが。

表題だけではなく、本文中でも頻繁に小説、映画、漫画…、様々なものを
導入のために取り上げたり、ちょっとした小道具として挿入しています。
「1章 02 私はプラナリアになりたい 再生する生物たち」では
冒頭で山本文緒の直木賞受賞作「プラナリア」の文章を掲げ、
人間以外の生物で強力な再生能力を持つものとその内容について紹介していきますし、
「2章 05 セントラルドグマ 生命の中心に原理を与えた理論」では、
1995年のTVアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」を導入に利用しています。
また、「2章 03 遺伝子ってなんだろう? 未来へつづくらせん階段」では
「ロボット」ということばの語源となったチェコの劇作家カレル・チャペックの
作品について言及。(元々の「ロボット」とは現在イメージされがちな
機械的なものではなく、天才科学者が作り上げた人工生命体のことだと指摘。)

とにかくこんな感じで、全編に渡って何だかどこかで見たような話が
てんこ盛りになっていて、この辺りがラストの著者紹介にある

「SF好きという趣味も相まって、将来はコトバの力を借りて
 生物化学と一般社会の媒介者になりたいと考えている。」

ということなのかなーと。もちろん、現役研究者ですから、
お遊び的な導入だけではなく、中身はちゃんとしています。
極力専門用語を排して、概要を伝えることに主眼を置いているため、
まったくこの分野を知らない一般の人にとっての入門書となっています。
ある程度の知識のある人にとっては、物足りないかもしれません。

若干、お勧め度が低いのは、あちこちに色々なものが挿入されているため、
菜の花の場合は一瞬、無関係のところに連れて行かれるような感じがして
流れに乗りにくかったのと、全体の構成が見えにくく、
それぞれのブロックが一体となって相乗効果を発揮するような
「1冊としての魅力」が少し足りないかなという、
内容ではなく純粋につくりに対しての評価のせいです。
どちらかというと、本としてまとまっているというよりも、
ブログなどで1記事ずつ、ある程度の順番を保ちながら、
連載されているようなイメージでしょうか。


テーマ : 再生医療
語り口 : 解説
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ポップな小見出し
カバーデザイン : eサイバー(春日井恵実)
カバー・章扉イラスト : 坂本 奈緒
本文DTP : ダーツ

文章・展開 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
学 術 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP
578. 「ZOKURANGER」     森 博嗣
2009.12.29 長編 284P 1700円 2009年4月発行 光文社 ★★+★★
大学の学内委員会は、謎の正義の部隊だった


【100字紹介】
 民間企業の研究所から転職し、大学の准教授になったロミ・品川。
 研究環境改善委員会の委員を務めることに。
 が、この委員会、5人の委員に色違いのユニフォームとヘルメットがあり、
 メンバーにも秘密があるようで…。


Zシリーズの第3弾…といってよいのでしょうか。
「ZOKU」「ZOKUDAM」との共通点は、
キャラの名前と、外部から観察される彼らの性格の類似くらい。
つまり、メインキャラとして登場する人々の名前が同じ。
立場は全然違いますけれどもね。
今回は、主要キャラが全員、大学教員。
シチュエーションとしては「ZOKUDAM」と同じで、
ロミ・品川が職場をかわってメンバーの中に飛び込んでくるところからスタートです。
民間企業の研究所から転職してきて准教授。
揖斐、斉藤も准教授で、若手の永良&十河が助教。
木曽川大安や黒木葉は教授。
今回のモチーフ(?)は、言うまでもなく5レンジャーシリーズですね。

全5パートからなっていて、それぞれのタイトルは
黄、桃、青、緑、赤という色が入っていて、中心視点が異なります。
(ところで第1章のみ日本語タイトルのフォントサイズが違うのは、
 単なる誤植なのか、それとも密やかな強調なのか、どちらなのでしょう…)

何となくスタートのシチュエーションは似ていても、
物語の語りの構造が異なるので、同じような感じはちっともしません。

5人それぞれが中心視点になる各パートでは、
時間軸は直線で結ばれておらず、同じようなエピソードが
異なる視点で複数回描かれていることもあります。
ただし、「同じような」であり、同じかどうかは分かりませんが。
似ていてもディティールが異なりますし、
結局各個人の主観による描写では、それが「事実」なのか
あるいは各個人の脳内で展開された「空想」なのかは、
判断できませんからね。

今回は大学が舞台だけあって、大学に関する色々な情報が入っています。
学部生から大学院、そしてついに職員に至るまで、
すでに大学在籍歴が干支一回りを超える勢いの菜の花の感想としては、
うまいこと大学の実情を物語に入れ込んで、分かりやすく説明した上に、
それを活かしたストーリーになっているなあ、という印象。
更に、「研究」やその周辺についても、結構納得のご意見が。
小説だから、必ずしも著者の主張とは限りませんが、
何というか、分かるなあ、という感じです。


それにしてもこのシリーズを読んでいると、
まともなのはロミ・品川だけか!?という気がしてきます…。
比較的、揖斐が犀川先生や水柿君と同じ人種っぽく見えますが。


菜の花の一押しキャラ…ロミ・品川 「忙しいのは誰でもです。人の時間を消費しても平気でいられる精神は、豊かとはいえない」 (揖斐純弥)
主人公 : ロミ・品川、永良野乃、ケン・十河、
  バーブ・斉藤、揖斐純弥
語り口 : 3人称
ジャンル : 小説一般
対 象 : 一般向け
雰囲気 : コメディ系
装 幀 : 泉沢光雄
装 画 : 佐久間真人

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録