よみもののきろく

(2009年7月…561-565) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
561. 「業多姫 いろどりつづり」     時海 結以
2009.07.05 ライトノベル 318P 600円 2004年3月発行 富士見書房
(富士見ミステリー文庫)
★★★★★
鳴と颯音、出会いと別れの軌跡を綴る短編集


【100字紹介】
 戦国乱世。出奔した領主の娘・業多姫の鳴と、
 異能集団「狐」を裏切り彼女とともに生きる道を選んだ颯音。
 夏と秋と初冬。巡る季節に二人の異能者が出会った、
 いろとりどりの恋と思い出の物語を描くシリーズ初の短編集

「業多姫」シリーズ初の短編集です。
4巻と5巻の間に出版され、内容は1巻から5巻までの時間の流れの中で、
巻の間を埋めていくような感じ。ので、季節は夏、秋、初冬となっています。

単体でも読めるようですが、出来れば1巻くらいは読了しておいた方が、
話は分かりよいと思います。「異能」とか、鳴と颯音の背景とか、
この短編集の中ではそれほど詳しく説明されてはいませんので。


この連作短編は、颯音の故郷である海の場面で始まります。
ようやく辿り着き、海辺で語らう鳴と颯音。
こんなことがあった、あんなこともあった、と
二人の思い出話に花が咲き、それが短編集に。
7話が収録されていますが、それぞれの間には鳴と颯音の
この語らいが入るという形式です。なかなか面白い趣向。


  ●第一話「撫子色の約束」
 鳴が着物を手に入れたときのお話。
 1人称表記で、主人公は少女・園。

 <一言>
 …いや、それはどうなの!?…と思いつつ、まあ
 ハッピーエンドならそれでいいか、と思う菜の花であります。
 気付いたら恋愛小説よ…。
 しかし村人質って初めて知りました。さすが本職。

 評定:★★★★★


  ●第二話「夏つばきの白い花ひとつ」
 戸谷の庄での「鬼退治」騒動。1人称表記で、視点は颯音。
 助けた見習い猟師・祥太と、美少女・沙羅のお話。

 <一言>
 これもまた、この時代ならではのものかも、「鬼退治」。
 そういうちりばめられたリアリティが面白いです。
 2話目もやっぱり恋愛もの。

 評定:★★★★★


  ●第三話「紅葉が手の中にいた秋」
 戸谷の庄での、犬と布泥棒の事件。1人称表記で、視点は鳴。
 拾ってきた子犬、落ちていた造花、あやしい人物、機織り職人。

 <一言>
 銀が犬嫌いとは…ナイス設定。
 この話が、多分一番「ミステリ」を意識した作品だと思います。
 鳴と颯音の、平時の暮らしも見えますね。
 これはどちらかというと親子愛の物語かな。

 評定:★★★★★


  ●第四話「黒髪に霜を置くまで」
 戸谷の庄での、八百比丘尼の事件。1人称表記で、視点は早霧。

 <一言>
 早霧の気持ちは結構、共感ですよねー。鳴と颯音のカップルは、
 ちょっと出来すぎですから。それぞれの人物としても、二人そろっても。
 早霧の感覚は、読者の気持ちの代弁でもあると思います。
 しかしちょっとおっちょこちょいで、意外だったかも?
 早霧がこんなに可愛らしいキャラだったとは。

 評定:★★+★★


  ●第五話「萌黄野の花に春潤う」
 戸谷の庄へ来る前の銀と早霧のお話。
 3人称表記で、主人公は引き続き早霧。

 <一言>
 銀と早霧の育った環境が分かる一話。万夜さんの存在は…。
 タイトルが素敵だと思います。銀さんのことばから。
 しかし、もしかして銀さんはシスコンですか?

 評定:★★+★★


  ●第六話「早緑月を待つ太陽」
 旅立った鳴と颯音が、颯音の故郷へ到着する直前のお話。
 1人称表記で、視点は鳴。
 情報収集のために手前でとどまろうと考えていたところ、
 たまたま助けた少女・花純の家に逗留することに。

 <一言>
 結局、花純さんは…。人を疑うのって結構簡単だなあと、
 ちょっと怖くなりました。難しいです。

 評定:★★+★★


  ●第七話「碧らむ雪」
 鳴と颯音が出会う前、颯音が一人前になる頃のお話。
 1人称表記で、視点は颯音。疾とのタッグ戦。

 <一言>
 恋愛な話ではないはずなのに最終的には、
 「 颯音は、鳴と出会う前からもうすでに鳴と繋がっていたのね…!」
  …という感じの、実は恋愛小説。
  疾は、何だかんだで愛すべきキャラっぽく見えるように
  描かれている気がします。

 評定:★★+★★


菜の花の一押しキャラ…颯音 「長生きしたら幸せで、同じだけ悲しい」(鳴)
主人公 : 鳴、颯音、その他
語り口 : 1人称、3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 時代ファンタジー、恋愛もの
結 末 : 一話完結、ゆるやかに繋がる
イラスト : 増田 恵
カバーデザイン : 元良 志和 + design CREST
口絵デザイン : 浅倉 聡美
装丁者 : 朝倉 哲也

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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562. 「本の知識」     日本エディタースクール
2009.07.11 一般書 64P 500円 2009年5月発行 日本エディタースクール ★★★★★
本のつくりから、本ができて読者に届くまで


【100字紹介】
 本の種類やつくりなどの一般的知識と、
 企画・編集から印刷・製本までの本づくりに関する基礎知識、
 更には本の流通システムの概要などを、簡潔に説明。
 作業工程ごとの説明で、出版の現場が垣間見える「本」の入門書。


表表紙には「本に関心のあるすべての人へ!」の文字が。
これは読んでおかなくてはなるまい、と思い、手に取りました。

非常に薄い本で、これは簡潔に書いてありそうだなー、
でもどこまで書いてあるのかしら?というのが第一印象。
ページ数が少ない分、見返しまでしっかり文字(資料)があります。

大きくは6章構成。

1 本とは何か(3p)
2 本の種類と大きさ(4p)
3 本の各部分の名称(18p)
4 本のできるまで(21p)
5 雑誌について(3p)
6 読者の手に届くまで(5p)

参考までにそれぞれのページ数も示してみました。
ちなみに付録や索引を入れていないので、
これだけだとすべて足しても64pにはなりません。
割かれているページ数で、重点を置いているところが
何となく分かるかと思います。

今まで菜の花が見てきたこの手の「本」の本の多くは、
菜の花の職業柄か、製本の種類とか、その手順、修理など、
本の物理的な解説が多かったのですが、この本はちょっと重心が違いました。
ページ数の多い3や4では、どちらかというと物理的な本の外見よりも、
コンテンツに重点が置かれています。

3章は7項目で構成されていますが、本の概観の説明は1項目、
あとは「3.2 ページを構成する部分の名称」「3.3 本の内容順序」
「3.4 前付」「3.5 本文」…など、本の中に書かれている部分に
焦点を当てます。例えば、「版面」「ルビと圏点」「約物」
などのことばの紹介があったりとか、
注の形式には「挿入注・頭注・脚注・傍注
・後注・補注」などがあり、それぞれこういうものです、とか、
そういう「各部分の名称」解説になっています。

4章も、企画・編集・造本設計・組版・校正・印刷前工程・印刷、製本…と、
実際に本が出来るまでの一連の流れを追いかけています。
視点としては、エディターを中心にしているようです。
何しろ、「日本エディタースクール編」ですから。


「これが出版というものか」というのが俯瞰できる一冊です。
関係者に対する入門書といったところでしょうか。


テーマ : 本、出版界
語り口 : 教科書的
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 概要を知る入門書

文章・展開 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
学 術 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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563. 「狼と香辛料」     支倉 凍砂
2009.07.13 ライトノベル 329P 590円 2006年2月発行 アスキー・メディアワークス
(電撃文庫)
★★★+
行商人ロレンスと賢狼ホロの駆引と商売の旅


【100字紹介】
 行商人ロレンスは、馬車の荷台で狼の耳と尻尾を持つ
 自称・豊作を司る神・賢狼ホロを見つける。
 その正体に半信半疑ながらも、二人旅を始める。
 ロレンスとホロ、二人と商会の駆け引きがエキサイティングなライトノベル


第12回電撃小説大賞(2005年)の銀賞受賞作品。
著者のデビュー作でもあります。
去年アニメでやっていたのを見て、読んでみようかな、と思ったのですが、
これを読んでいる頃にちょうど、アニメ第2期「狼と香辛料II」が始まりました。
何かグッド・タイミング過ぎて、作為を感じます!?

舞台は中世ヨーロッパ風。主人公はこの地を旅しています。
同じような舞台のライトノベルは数あれど、
主人公が剣も魔法も使わずに旅しているだなんて、
さすがに見たことありません。
主人公・ロレンスは行商人。
商売の旅の途上で道連れになる賢狼・ホロを拾います。
ホロは狼ですが、普段は獣耳と尻尾の美しい娘の姿(…萌え系ですか?)。
このホロが唯一、そんなの実在しないよね、な超常現象的存在ですが、
あとはひたすら我々人間に不可能ではないお話です。ええ。
そんな動きは無理だ!とか、そんな現象、現実には起こりません!みたいな、
そういうことは一切なしで、ヒトが、ヒトに可能な範囲で事件を起こし、
それに巻き込まれていくのです。しかも、経済風の。

第1巻である本書の事件は、銀貨に関する思いがけない儲け話。
経済学に暗い菜の花には、何故それで儲かるの?が分かるまでに
結構ページと時間がかかりました…。
ロレンスもホロも、さくさく進んでくれますから。
何か駆け引きしているなー、しかも何やら巧みっぽい、
というのは分かるのですが、いやしかし。
先回りどころか、100mくらい後ろから
大声で叫びながら追いかけていくくらいの感じで。
まあ、それでも十分たのしめますけれどもね。雰囲気は。
読みなれていけば、何とかついていけるようになるかもしれません。
というわけで、第2巻を手元に準備中です。


菜の花の一押しキャラ…リヒテン・マールハイト 「わっちのだんな様の肝が太くなりますように」(ホロ)
主人公 : ロレンス
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 中世ヨーロッパ
結 末 : まあハッピーエンド
イラスト : 文倉 十
カバーデザイン : 暁印刷
装丁者 : 荻窪 裕司(META+MANIERA)

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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564. 「黒猫館の殺人」     綾辻 行人
2009.07.15 長編 385P 619円 1992年4月講談社ノベルス
1996年6月発行
講談社文庫 ★★★★★
手記の中の事件の真実…。館シリーズ第6作


【100字紹介】
 推理作家・鹿谷門実に相談してきた記憶喪失の老人は、
 建築家・中村青司による「黒猫館」で起きた
 奇怪な殺人事件を綴る「手記」を持っていた。
 河南とともに館に向かう「今」と「手記」が交錯する、
 館シリーズ第6作。


綾辻行人の館シリーズ第6作です。
第1作「十角館」や、直前の第5作「時計館」で活躍した河南君が
今回も「今」のメインキャラとして登場です。
探偵役はもちろん、推理作家・鹿谷門実こと、島田潔。

館シリーズの特徴である
「中村青司の館」「島田潔(鹿谷門実)」は踏襲ですが、
それ以外は、傾向としてあっても表面的にポイントになる、
というほどでもないでしょうか。


プロローグは鹿谷門実と河南君、それに鮎田という今回の件を
持ち込んだ記憶喪失の老人が、阿寒にある中村青司による館に到着するところ。
この後、第1章は鮎田冬馬の手記・その1(鮎田の1人称)、
第2章はそもそもの事の発端である「今」を河南視点の3人称、
第3章は再び鮎田の手記、次は「今」…と、交互に重ねられていきます。
サンドウィッチ形式。
ああ、今気付きましたけれども、これも「館シリーズ」の特徴に
入れるべきなのですね。殆どがこの形式できていましたっけ、本シリーズ。
同じ時間で地理的な隔たりの2パートを交互に出してくるパターンや、
同じ場所で時間的な隔たりの2パートを交互に出してくるパターンなど…。
本作の場合は、時間も場所も別の場所、語り口も1人称と3人称で異なっていて、
ある意味では作中作でもあって、微妙に他の作品とは違うぞ、と。
パターンを変えるのもそろそろ難しくなってきた、のかもしれませんが。


解説は法月綸太郎。座敷わらしのイメージが語られますが…、
菜の花の空想力が足りないのか、いまいち共感は出来ず。
面白い考えだとは思いますけれども。


それにしてもサンドウィッチ形式は、何となく物語がリッチになりますよね。
事件に対して、適度な距離感が保てますし、冷静に読み進められる…
はずなのですが、気付くと術中にはまっている、というのが綾辻ミステリ。
ちりばめられた謎は、「何だ、こんなこと」というようなものが
たくさんあるのですけれども、油断していると別のところでやられます。

思わず、後からもう一度前を読み返してしまいそうな作品ですね。



菜の花の一押しキャラ…特になし 「自分の行動を自分の理性でコントロール出来ないような状態になる事が、  耐えられないんです。」                       (氷川 隼人) 気持ちは分かります。
主人公 : (河南 孝明、鮎田冬馬)
語り口 : 3人称、1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 前半:フーダニット、後半:ハウダニット
結 末 : 事件解決
カバーデザイン : 辰巳 四郎
デザイン : 菊池 信義
解 説 : 法月 綸太郎

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
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565. 「業多姫 六之帖―夢見月」     時海 結以
2009.07.21 ライトノベル 345P 620円 2004年9月発行 富士見書房
(富士見ミステリー文庫)
★★★★★
第6巻。最終決戦に臨む二人。シリーズ完結


【100字紹介】
 戦国乱世。出奔した領主の娘・業多姫の鳴と、
 異能集団を裏切り彼女とともに生きる道を選んだ颯音。
 最後の戦いに備えて情報収集中に鳴が捕まってしまう。
 大陸の船のクルーたちの協力を得て最後の戦いへ。シリーズ完結


タイトル通り、「業多姫」の第6巻。序章は、前巻から7日後。
前巻ですでにラスボス(?)青津野が登場していますが、
どうやら前回は顔見せ、本巻ではもう一度、小康状態に戻ります。
のんびりまったり1ヶ月くらい過ごしてから、鳴捕獲で急転直下です。
颯音も体調不良に苦しみつつ、大陸の船・ジャンクの船長の十星殿と、
初喜の助けを借りつつ、鳴奪還、青津野と対峙へ、です。
もはやどこにもミステリーの要素がなくなってます。。。
恋愛要素は健在ですが。

エピソードとしては盛り沢山なのですけれども、それぞれが
微妙に書ききれていないような、消化不良のイメージも。
だからと言って疾走感あふれるアップ・テンポというわけでもなく
少々中途半端な印象でした。もっと速く!というところでゆっくりで、
少し息をついたら?というところですぐに動き出してしまう感じ。
テンポの揺らぎが、個人的なテンポと合わなかった、ということかなと。

共感できたのは、異能を失った颯音の反応。
以前ならこれができたのに…そうしたらもっと…、というような
後悔というか、悔しい気持ちがとても納得できる形で表現されていました。
颯音を元に戻してあげてーと思わず願ってしまうくらい。


これでシリーズが完結しました。
最初の巻の時点では、こういう物語になるとは思いもよりませんでしたね。
何しろミステリ文庫ですからね…。入選した賞だって、
審査員の中にはあの有栖川有栖がいたりするようなものでしたからね。
意外性のシリーズ?


菜の花の一押しキャラ…初喜 「明日も幸せだといいわね」(鳴)
主人公 : 鳴、颯音
語り口 : 1人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 時代ファンタジー、恋愛もの
結 末 : 完結
イラスト : 増田 恵
カバーデザイン : 元良 志和 + design CREST
口絵デザイン : 浅倉 聡美
装丁者 : 朝倉 哲也

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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