よみもののきろく

(2009年6月…557-560) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
557. 「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち6」     壁井 ユカコ
2009.06.01 ライトノベル 255P 590円 2009年2月発行 メディアワークス電撃文庫 ★★★+
ちょっとおかしな住人たち後日談&パロディ


【100字紹介】
 山田梢太として華乃子とひとつ屋根の下での生活にテンパる加地君。
 地方の小さな病院で静かに暮らすジョナサン。
 そしてトランクを引いて戻ってきた人影。
  鳥籠荘から巣立った人々のその後を描く。
 番外編も収録の最終巻


鳥籠荘の第6作。一応、これで最終巻とのこと。

前巻あとがきで「少し書き残したエピソード」ということでしたが、
あー、なるほど、これは読みたい人が沢山いたかも!?


第1話「猫はお断り〜山田さんちの加地くんの悶々とした日々〜」は、
もうタイトルそのままで…。
山田梢太になってもやっぱり加地君(笑)が主人公です。
加地君はもう彼の固有名詞か…。
いや、固有名詞には間違いないのですが、
でももう加地君ではないのですけれどもね。
華乃子の着ぐるみパパと、加地君ママが再婚したため。
新しい4人の生活が始まっていますが、なかなか面白いです。
そうか、こうなっちゃうかー、と。
4人のうち唯一まともな加地君の苦労は、
変な人たちに囲まれているからだけではないのです。

しかし、この一家は変人ではありますけれども、
鳥籠荘の他のメンバーとは、やはり全然違いますね。
何というか、一番我々に近いと言うか…、
普通の生活に復帰できそうな輝く未来がありそうというか…。

鳥籠荘の人々が鳥籠荘にいるとき、みんなどこか翳があったものですが、
山田一家は方向性こそ奇妙でしたが、やっぱり雰囲気が違いましたよね。
もしかしたら、「家族」がいたからかもしれません。
彼らのテーマは「家族の絆」みたいなものなのかも。
加地君にとっては、別のテーマもありそうですが…。


第2話「カモメのジョナサン」は、久々にジョナサン登場。
ジョナサンは地方の病院…しかも患者の「出口」が用意されていない、
静かな病院で、静かに療養生活を送っているようです。
主人公はひょんなことから彼と出会った「ヴァル」。
静かな静かなお話です。
ところで「ヴァル」って…何者…?
とても不思議な彼女の想像で、話は終わります。


Epilogue SIDE-I「変わらないもの」も山田一家のお話。
8ページほどの中に、中学生になり成長していく加地君と、
華乃子の生活の一幕が、写真のように切り取られています。


Epilogue SIDE-II「ロンドンガール、帰還」は勿論、
ロンドン帰りのキズナのお話。
英国での彼女の生活は、とても充実したものだったようです。
そのエピソードも見てみたい気がしますが、
一端を垣間見られるのがこのエピローグ。
そしてラストは…。


同時収録の番外編、鳥籠荘の今日も眠たい住人たち in Another World、
「Blood Party!〜眼鏡と吸血鬼」は巻末おまけではありません!
何しろ一番、長いお話…どころか、この本の半分を独占。

完全にパロディであり、世界観はつながっていません。
街中が吸血鬼騒動に巻き込まれている、不思議な世界で、
何とキズナは女子高生、浅井さんは美術教師、由起は保健室の先生!
勿論、他にもまだまだ他の人たちが出てきます。
女子高でのキズナの友人たちは、ストリートガール時代の彼女たちだとか、
あらこんなところに華乃子ちゃん父娘が、とか、
何とびっくりミナコさん、とか…。
色々と本編と設定を合わせてあったりして、
とっても楽しいパロディですが、単に楽しいだけではなく、
ちゃんとミステリアスですし、これはこれでひとつの短編として
読めるような仕上がりです。
とりあえず、こちらもハッピーエンドでよかった!ということで。


そういえば、巻頭カラーの折込も必読です。特に裏。
鳥籠荘の主要メンバーたちの今を、部屋別に衛藤キズナが語ります。


あー、これで鳥籠荘もおしまいなのですね。
いや、始まりではあるのですが…。
楽しいシリーズでした。いや、何だか翳背負いまくりでしたけれども。
でもひきこまれましたね。面白い読書が出来ました。


菜の花の一押しキャラ…井上 由起 「そうだな…三十時間耐久デッサンとか?」(浅井 有生)
主人公 : 衛藤 キズナ ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 各話ごとに様々
結 末 : ハッピーエンド
イラスト : テクノサマタ
design : Yoshihiko Kamabe (ZEN)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
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558. 「論理的な考え方の基本とコツ」     西村 克己
2009.06.07 一般書 159P 1100円 2009年2月発行 学習研究社 ★★+★★
頭の中の情報を整理整頓するのに、論理思考


【100字紹介】
 頭の中の情報が、こんがらがって
 スパゲティ状態になったときこそ論理思考の出番!
 基本とコツのひとつひとつにどのような効用があり、
 どのように使うかを具体例を用いて平易に解説する
 「頭の中の整理整頓」への第一歩


論理思考…出来たら素晴らしいと菜の花は思います。
知的ですしー、話が通じる人、という感じ。
というわけで、タイトルにひかれて手にとってみました。
「基本とコツ」を教えてくれるらしいです。

「はじめに」を読むと、とても簡潔に本書の特徴などが示されていました。
さすがロジカルシンキングの本。ロジカルな雰囲気が漂っています。
本書は6章構成、35テーマですが、
それぞれがすべて、4ページで完結しています。
そのうち2ページは図解。
これについても「はじめに」で触れられており、

速読したい方、文字を読むのが苦手な方は、図解から先に目を通してください。 速読が可能です。図解でちょっとわからないことがあれば、その近辺の 文章を拾い読みしてください。   ―「はじめに」より
おお、何かビジネス書っぽいです。 いや、そもそも表紙に「仕事の段取り力がアップ!」と表記されていますから、 やはりこれはビジネス書なのだとは思いますが…。 さて、中身ですが。とても読みやすいと思います。 さくさくと読めます。 第1章・2章が基本編ですが、読みながら菜の花、凹みました。 あー、全然出来てないよ、論理思考…と思いつつ。 「あー、それあるある」「分かるなあ…出来てないけど」が沢山。 これはもしかして、かなりの良書!?と思ったのですが、 第3章以降のコツ編に入ってからは、菜の花にはちょっと。 何故いまいちなのかは、テーマごとに違うのですけれども、 やたらと抽象的だったり、それに関して挙げている具体例が ちょっと恣意的過ぎない?と思えたり、 一番多かったのは「それって論理思考なの?」というような…。 いや、突き詰めれば論理思考なのかもしれませんけれども、 そんなこと言ったら世の中の殆どのビジネス書が勧めることは どれもこれも論理思考の延長線上にあるものであって、つまり無数にあるだろう、と。 その中のひとつをあえてこの「基本とコツ」の中に取り上げるのは「?」と思った次第。 いや、役には立つのでしょうけれども…。 勿論、拾えることは山ほどありました。 自分のためのヒント探しには、こういう本は最適です。 拾い読みのしやすい構成ですしね。 社会人の方の、コツ探しに適した1冊です。
テーマ : 論理思考、仕事
語り口 : 1テーマ4P(内2Pは図解)
ジャンル : ハウツー
対 象 : 一般向け、主に社会人向け
雰囲気 : 仕事に生かす。ビジネス書風

文章・展開 : ★★+★★
簡 潔 性 : ★★★★
学 術 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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559. 「世界一わかりやすい 人材派遣業界の「しくみ」と「ながれ」 第2版」     イノウ 業界研究会
2009.06.15 一般書 176, 12P 1300円 2009年2月発行 自由国民社 ★★★+
人材派遣と人材派遣業界の基礎から俯瞰まで


【100字紹介】
 人材派遣とは、人材派遣業界とは、人材派遣会社とは、派遣業務とは?
 人材派遣に関する基礎から業界のしくみ、実務の紹介まで、
 親しみやすいキャラたちの会話や図、
 短くまとめたコラム風の文章で、易しく楽しく解説。


少し前に「派遣切り」と話題沸騰だった人材派遣。
最近はテレビをにぎわせることもなくなってきて落ち着いてきたように見えます。
問題になるほど沢山の人が働いていたのです。
他に行き先がなくて、という人ばかりではなく、
派遣で働きたい、と自らその派遣スタッフになった人もいて、
メリットとデメリットの混在する就業形態なのだろうなあとは思っていました。
「派遣切り」では非難の嵐にあっていたこの業界ですが、
実際の姿はどういったものなのでしょうか?

本書は、人材派遣会社の誕生から、日本の派遣業界の歴史、
人材派遣業の基本の流れ、しくみなどを解説しています。

1項目は4P構成。1P目は関連する事柄について、
親しみやすい会話形式で導入。
2-4P目は1Pごとに小題を立てて3節で説明しますが、
このページは下1/3が図やグラフとなっていて、
本文は思った以上に少ないです。
文字に慣れていない人にも読みやすいでしょう。

これらの項目は23、それぞれの後ろに見開き2P構成(右が三段組本文、左は図)の
「知っておこう!」という項目がそれぞれ0〜3項目付加されています。
「知っておこう!」は文字が小さくて、若干読みづらいかもしれません。


全体に、とにかく図が多く、キャラも多用しています。
その辺りは「わかりやすい」というよりは「親しみやすい」という感じでしょうか。
範囲は広く、人材派遣について大まかに知るのに向いています。
色々と、誤解していたなあ、とつくづく思った菜の花でした。
派遣業界に興味がある方以外に、派遣スタッフが周りで働いている社会人にも
なかなか有益な情報となりえそうな一冊でした。


テーマ : 人材派遣
語り口 : 1項目4P+2Pのコラムが各1〜3件
ジャンル : 一般
対 象 : 一般向け
雰囲気 : わかりやすいがモットー
ブックデザイン : 河南 祐介、五味聡(FANTAGRAPH)
マンガ・イラスト : 沼田 健
図解作成 : 西嶋 正

文章・展開 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
学 術 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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560. 「そこが知りたい天文学」     福江 純
2009.06.28 一般書 226P 1900円 2008年5月発行 日本評論社 ★★★★
天文学について、高校〜大学初学年レベルで


【100字紹介】
 星や天文に興味のある人へ。用語や星名などのことばの起源や、
 数字で表現する宇宙や時空など、様々な角度から天文学へアプローチ。
 惑星、恒星、銀河系、宇宙全体まで、時間も空間も幅広く扱い、
 全般が見える読み物。


シリーズ名は「大人のための科学」。
「高校で学びたい科学の話題」を解説してくれるらしいですが、
本書のレベルとしては、菜の花の感覚だと理系の大学初学年程度?
…とみました。菜の花が単に、考えすぎかもしれませんが。

全体は大きく2パートに分かれています。

Part 1 宇宙を表す―言葉と用語(1-5章)
Part 2 宇宙を読む―見えるもの見えないもの(6-17章)

Part 1の目次は以下。

1章 国語的な表現
2章 数学的な表現
3章 物理的な表現
4章 天文学的な表現
5章 天文学の業界用語

面白い始まりだと思います。大学の講義を思い出しました。
大学の宇宙系の講義の導入では、結構こういう入りがあった気もします。
比較的一般の人でも入り込みやすい「国語的」な表現でスタートし、
数字で宇宙を表し、物理としてどうやって天文学していくかを話し、
実際の観測の話へ持っていく、というわけです。
5章の業界用語に関しては嬉しいですね。
どんな分野にも専門用語や特殊な表現方法がありますが、これが結構「暗黙の了解」で、
なかなか本には載っていなかったり、授業でも登場した初回を聞き逃すと
その後は頻出するのにもはや解説してもらえない、なんてよくあることです。
ありがたい章かもしれません。

本書が大学初学年レベルかな、と思ったのは、第2章の数学的な表現、
あたりでした。まあ、そんなに難しいことは言っていないのですけれども、
高校生くらいだとまだ慣れない表現ではないかな、と思った程度です。
特にこの章は、昔受けた「宇宙物理学I」の講義を思い出させてくれました。
何だか色々計算したなーと。
その後も、あちこちで「あ、これ「宇宙物理学」で習った!」とか
Part 2に入ってからは「「太陽系形成論」の講義で、やったー」というような
話題も沢山ありました。菜の花にとっては、大学初学年時代の懐かしい復習、
という感じの本でした。まさに。

Part 2は、更に読み物度が増します。
基本的には本書は教科書ではなく、「興味を育む」のが目的なので、
それぞれ細かい説明までは突っ込まずに、天文学全般の中から
おいしいとこどり、ハイライト集というところでしょうか。
それでもハイライトがたっぷりあるのが天文学の魅力的なところで、
読んでいると「あ、これも勉強し直したい」「あれも関連書読んでみたい」と、
好奇心が刺激されるもので。

後半の方は、自分の頭上に広がる宇宙の話だけではなく、
地球と生命の話にもスポットを当てます。
特に「デイジーワールド」が印象的でした。
1983年の説なので知っていてもよさそうながら、
全然知らないという不勉強なことでありましたが。
ファクターが増えたときのダイナミクスの大きな変化、というのは
色々なところで見られますけれども、面白いですね。
予想がつかないのは菜の花だけで、ホントはシュミレーションできるのでしょうが、
直感で見てしまうアバウトな人間にとっては、
その複雑な変化がとても面白いと感じられます。
自分の専門だったところに近い部分では若干、ひっかかりどころがありましたが、
全体として、フィールドもスケールも広く、
読み物として分かりやすくまとまっていて、素敵な1冊だと思います。


テーマ : 天文学
語り口 : 講義風
ジャンル : 一般
対 象 : 理系初学者〜一般向け
雰囲気 : 易しく
イラスト : 今村 麻果
装幀 : 桂川 潤

文章・展開 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
学 術 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
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