よみもののきろく

(2009年5月…551-556) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
551. 「MORI LOG ACADEMY12 モリログ・アカデミィ12 たそがれの天職」     森 博嗣
2009.05.03 エッセイ 368P 690円 2008年12月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した森博嗣のシリーズ12


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
 「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
 「スカイ・クロラ」映画公開、iPhone事件、車購入
 …2008年夏の3ヶ月。特別企画はよしもとばななとの対談


第12巻です。
2008年7−9月の、3か月分の森博嗣の
ブログの内容を再編成しています。
カテゴリ分けはいつものように
HR、国語、算数、理科、社会、図工、
そして、特別企画(特別対談)。

今回は夏。
クーラーの効いた涼しい部屋で快適に過ごす夏。
いいですね。
何となく、励まされます。
そう、何かにつけて。
ちょっとした細かいことで、ああいいな、
こういう風に感じたり、応答したり、行動したりしてみたいな、
というようなことがあちこちにあります。
もちろん、別の人生ですから、これは違うな、というのもありますが、
これもありだ、というひとつの可能性の提示として、とても面白いです。

それに、このゆったりとした生活のリズムに癒されます。
ある意味、菜の花の生活のペースメイカーにすらなっているかも?
実際は、書かれていない裏に、色々なことがあるのでしょうけれども。
売るために書いている、ということで、
そういう雰囲気を狙っているのだろうと想像。
それにまんまと、はまっている菜の花ですが、
この本自体が単なるノンフィクションでも暴露本でもなく、
そういう商品なので、特に問題があるわけでもなく。
はまっていいわけです。

そんなこのシリーズもあと1巻で終わりです。
ちょっと残念。
結構、楽しみにしていたのだなあというのが今更ながらに分かります。
きっと最後も平々凡々、ぼんやりとフェードアウトしていくような予感。


テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
装画、総扉・目次イラスト : 羽海野チカ
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
552. 「現人奇談」     椹野 道流
2009.05.06 ライトノベル 220P 580円 2009年1月発行 講談社
(講談社X文庫ホワイトハート)
★★★★★
亡き絵の師匠の願いを託され、九州・天草へ


【100字紹介】
 精霊の血を継ぐ琴平敏生が受け取った絵の師匠・高津園子の遺品の中に、
 彼女の願いが託されていた。敏生は売れっ子作家で追儺師の天本森と、
 彼の式神・小一郎とともに九州・天草へ。
 オカルト系ライトノベルシリーズ。


椹野道流の「奇談シリーズ」の第26作くらい。
(CDブック除く。)

最近シリーズ中で進行している「十牛図」もちらちらと登場し、
ほわほわと「あの人」も登場して何やら語っていますが、
基本的には「十牛図エピソード」は添え物。
単体の事件がベースです。


琴平敏生の師匠・高津園子の死により、敏生はその遺品を受け取ります。
その中にあった小物が、園子の心残りでした。
彼女の果たせなかった思いを果たすため、九州・天草へ。
高津園子のきままなスケッチ旅行の足跡を追いかける敏生たちは、
不思議な少女に出会います。


シリーズ内ではかなり久々の新刊で著者本人も、
久々すぎて若干書き方を忘れていたかもしれない、
というようなことをあとがきで仰っているくらい。
完全に忘れていらっしゃらなくて幸いでした。

それにしても、あちこちの描写がやっぱり「らしいなあ」という感じで、
このシリーズもそうですけれども、それ以外でもあまり最近、
著者の作品を読んでいなかった菜の花としては、
どこか懐かしい感じがします。
よくそんな恐ろしいことが書けるなー!というところ、
単に思いつくことも菜の花には出来ないーと思いますが、
とても著者らしいのは、一般人では実際に見たことがないだろう、
というような描写が妙に生々しいところかと…。
いやいやいや、いちいち細かく怖いのですがー。

久々に読むと、天本と敏生のラブラブっぷりにはちょっと…。
菜の花としては、どちらにも素敵な女性が現れてくれる方が、
読みやすいのですけれども…ここまできたらもう、
離れてくれないのでしょうね。
やっぱりこういうのは菜の花には不向きです。


菜の花の一押しキャラ…特になし 「大義名分を、自分を守る盾にしてはならない。それが俺の考えです。」 (天本 森)
主人公 : 天本 森、琴平 敏生
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルト・ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト、ややBL
イラスト : あかま日砂紀
結 末 : 一件落着。

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
553. 「森博嗣の半熟セミナ 科学問答60題!」     森 博嗣
2009.05.16 一般書 127P 1800円 2008年12月発行 講談社 ★★★+
博士と助手の対話形式が楽しい科学問答60


【100字紹介】
 雑誌「日経パソコン」で2年半に渡って連載された、
 1回2ページ見開きの、科学・技術工学系の雰囲気のよみもの。
 博士と助手の対話形式の本文と、博士と助手と犬の可愛らしいイラストで、
 大人が読んで楽しめる60題


「日経パソコン」で連載されていた対話形式のよみもの。
科学系で対話形式だと、子ども向け、中高生向けというのが多いですが、
本書は大人向け、でしょうか。もちろんそれ以外の人もきっと楽しめます。
更に文系の人でも理系の人でも、楽しいでしょう。
博士と助手の性質の違いから、あまり読者を選ばず、
それぞれの読者にとって、それぞれの楽しさが見つけられるような、
そういう幅広さがあります。対象を絞り込ませないところが巧いですね。

テーマも実に幅広いです。
60テーマですが、内容については実際に本を手にとって頂くとして、
一応、分類がなされているのでそれを列挙しておきましょう。

Science
Mathematics
Engineering
Mechanics
Optics
Electrical Engineering
Material Mechanics
Aeronautical Engineering
Civil Engineering
Architecture
National Language
Logic

となっていました。分類の仕方は若干「?」ですが、
まあこういうようなことが書かれているらしいです。

科学な話題を楽しんでもよし、
博士と助手の、2人の掛け合いを楽しんでもよし、
イラスト(1こま漫画?)を楽しんでもよし、
自分のスタイルで好きなように読める作品です。


テーマ : 科学系らしき話題
語り口 : 対話形式
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 軽い、明るい
カバー造形
本文イラストレーション
: ささきすばる
ブックデザイン : 坂野公一

文章・描写 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
554. 「400年の遺言 死の庭園の死」     柄刀 一
2009.05.18 長編 498P 800円 1998年1月角川書店
2000年5月発行
角川文庫 ★★★+
日本庭園に隠された秘密と、事件の謎を解く


【100字紹介】
 400年の歴史を持つ京都・龍遠寺。
 研究者を惹きつけるその庭園で、庭師親子が殺される。
 蔭山は最期の言葉に違和感を抱きつつ死の謎を追うが、
 待っていたのは庭園の歴史に隠された驚愕の事実。
 殺人と歴史のミステリ


柄刀一の殺人事件+歴史の謎ミステリです。
同じジャンルで「3000年の密室」「4000年のアリバイ回廊」がありますが、
特にキャラはかぶっていない…と思います、多分。
(↑すでに既作のキャラ名が思い出せない菜の花です…。)

いきなり年数が一桁短くなりましたが、
古代ミステリから中近世へきて、また別の魅力がありますね。
古代と違い、多くのものがそのまま残っていること、
意図的に残っていること、有史以降のせいか、
それとも年代的に近くて親近感があるためか、
ヒトのエピソードも何となく、生々しい感じ。
その中にあって、こういう歴史ミステリが存在するのは、
なかなか面白いです。

物語の最初、主人公・蔭山は龍遠寺の庭園で起きた事件の発見者となり、
被害者の最期の言葉を聞くことになります。

「この子を、頼む…」

後に、警察に証言しても何の不信感も抱かれない言葉だったにも関わらず、
蔭山の中ではその響きに違和感が付きまとい、
自ら事件を追ってしまうことになります。
が、それは同時に、龍遠寺庭園400年の歴史にまつわる、
ミステリを追いかけることにもなるのです。
殺人事件の謎と歴史の謎のふたつのミステリが縦糸と横糸となり、
複雑に絡まりあいながら進むストーリー。
それぞれに驚きの結末が用意されています。
更に…、謎が謎を呼んだもうひとつの結末も…。

解説の辻真先氏に評させると

「この巨大なミスディレクション」
「舞台裏にひそんでいた真相によって、読者の先入観は根っ子から崩れ去ってゆく。」
「虚と実は、巧みにバランスがとられて終わるのである。」
「美しい本格―徹底して人工的で、しかも堅牢な構築美。」
「紆余曲折ののちに到達した真実が、探偵の魂をつらぬく構成」

…という感じ。絶賛。まあ、解説の人は普通絶賛しますが。
でもその賛辞によって、むしろ解説の人がどう読んだか、というのが
浮き彫りになって、解説者レベルが分かる!?かもしれません。
辻氏の解説は、ちょっとオーバーかな、と思いますが、
基本的にはまさにこういう感じの内容です。
別作品について「溢れる薀蓄・乱舞する論理」とも書かれていますが、確かに!
柄刀氏のこのシリーズはいつもそうですよね。
しかし、それだけに終わらないあたりのバランス感覚が素晴らしいです。
薀蓄や論理だけに、埋もれてしまうことのない、
明確なのに不安定な心情が鮮やかに描かれているのですよね。
時にハッとさせられ、時に温かい気持ちになり。
しかし目の前に展開する事実はあくまで怜悧で硬質であると。

そういう作品です。


菜の花の一押しキャラ…特になし 「母さん、どっちが書いたの、これ? へただね」
主人公 : 蔭山 公彦
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 歴史ミステリもあり、ややかたい
結 末 : 解決
解 説 : 辻 真先

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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555. 「業多姫 伍之帖―春惜月」     時海 結以
2009.05.23 ライトノベル 332P 600円 2004年6月発行 富士見書房
(富士見ミステリー文庫)
★★+★★
第5巻。異能の力が働かない、故郷での戦い


【100字紹介】
 戦国乱世。出奔した領主の娘・業多姫の鳴と、
 異能集団「狐」を裏切り彼女とともに生きる道を選んだ颯音は、
 決着をつけるため、敵の本拠地である颯音の故郷へ。
 海辺の村で繰り広げられる戦いを描く、シリーズ第5巻。


タイトル通り、「業多姫」の第5巻。季節は春。
戦国乱世に、小国・美駒の郷の領主の娘に生まれた鳴は、
その命を狙ってきた颯音とともに国を出奔したのですが、
かつて颯音が属していた組織に未だに命を狙われていることから、
過去に決着をつけるために、颯音の故郷へ戻る決意をします。
第4巻では鳴の故郷・美駒が大変なことになっている、という情報が入り、
美駒に立ち寄り、事件に巻き込まれたものの解決、
本巻でようやく、元の目的地である颯音の故郷・入崎村へ辿り着きます。

そこで異常発生。何と颯音の異能がうまく働かなくなったのです。
彼の異能といえば、千里眼。未来の予測が出来たり、
遠見をして、入れない場所を探れたり、人の心が読めたりと、
とっても便利なものなのですが、それが働かないと結構大変ですよね。
ある意味、反則的ではありましたけれども。
なくなって初めて、普通になる、というか。

もうひとりの颯音の人格(というか元の人格)である和玖也が
急浮上してきたりとなかなか大変な巻です。
颯音がどうなってしまうのか!?というのが一番気になるところ。
ついにあの青津野も登場し、本当に最終章へ突入している感じです。

ページ数が飛びぬけて多いわけでもないのですが、
動きが多くて、かなりボリューム感がありました。
逃げ回ってみたり、戦ってみたり、颯音と和玖也が入り乱れてみたり。
心情的な部分と、現実世界の戦いとのバランスがよかったように思います。
ちょっと気になったのは文章の柔軟性というか、自然な流れが少し、
足りないように感じたところでしょうか。一文ずつは正しいし、
綺麗なのですが、文章として並んだときに、何となくかたいというか、
不自然というか、そういう印象がありました。
気になりだすとどんどん気になってしまうもので。若干マイナス。


ところで最初の3作では密室殺人、続く4作目では暗号解読が出てきましたが、
今回は特に「ミステリー」な部分がなかったような気がします。
普通の時代ファンタジー…でしょうか。
構成はいつもなら、章ごとに「鳴」「颯音」「鳴」…と、
1人称の視点が交互に変わってきましたけれども、
今回は序章と断章が颯音で、あとは鳴だったでしょうか。
それも含めて、ああ、もうすぐ終わるのかなーという感じ。
次巻が楽しみです。


菜の花の一押しキャラ…颯音 「俺ならどうにかなる。自信をなくすのが命取りだと判っている」(颯音)
何事につけても、そうかもしれません。
主人公 : 鳴、颯音
語り口 : 1人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 時代ファンタジー、恋愛もの
結 末 : 一件落着、終章に続く
イラスト : 増田 恵
カバーデザイン : 元良 志和 + design CREST
口絵デザイン : 浅倉 聡美
装丁者 : 朝倉 哲也

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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556. 「博士がくれた贈り物」     小川 洋子・岡部 恒治・菅原 邦雄・宇野 勝博
2009.05.28 一般書 137P 1500円 2006年12月発行 東京図書 ★★★★★
小川洋子と3人の数学者の文学と数学座談会


【100字紹介】
 「博士の愛した数式」の小川洋子と3人の数学者による、
 大阪教育大学数理科学講座の座談会企画。
 文学と数学の接点を探る4人の対話のほか、
 見開き2Pでまとめられた22の数学ノートが、
 数学の面白さを教えてくれる


ベストセラーになり、映画化もされた「博士の愛した数式」。
事故の後遺症により、80分しか記憶が保てなくなった老数学者「博士」と、
派遣されてきた家政婦の「私」、私の息子の「ルート」の心の交流を描く、
温かく、でも淋しい、何とも味のある物語でした。
読売文学賞や第一回本屋大賞を受賞しただけでなく、
著者が数学の専門家ではないどころか数学科出身でもないにも関わらず
第一回日本数学会出版賞も受賞したという、
世間の人々の目を数学に向けさせた功労者的小説でもあります。

この著者の小川洋子氏と、数学者3人での座談会が、
2006年1月に大阪教育大学数理科学講座の企画で行われました。
本書はその内容をもとに、メールのやり取りをしながら
その後に起こった事実を盛り込み編集されたものです。

文学と数学の共通点と相違点を探りつつ、
数学の素敵さを語り合っています。

この座談会の模様以外にも、3人の数学者の手による
見開き2Pでまとめられた22の「数学ノート」も掲載。
岡部氏のまえがきによれば

小川さんの小説を読んで数学に少し興味をもってくれた方に、 もう少し数学を知ってもらいたくて、二十二テーマの「数学ノート」を 書いてみました。話の流れから取り上げたので、分野もレベルもバラバラですが、 注釈のつもりで読んでください。 (まえがきより)
そういえばこのまえがきを書いている岡部氏の作品も、 菜の花は1冊だけ拝読したことがあります。 「分数ができない大学生」という作品。 大学生の学力低下に警鐘を鳴らす告発ですが、 子供自身、もちろん大人も、もっと考えるべき問題です。 色々と反省を促される1冊でした。 警鐘を鳴らされるとずきっときましたけれども、 「こんなに数学は美しくて面白い」ということを主張する本書の方が、 もしかしたら効果があるかもしれませんね。
テーマ : 文学と数学
語り口 : 座談会
ジャンル : 対談集
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 微妙にかたそう
装幀 : 岡 孝治
イラスト : つだゆみ

文章・展開 : ★★+★★
簡 潔 性 : ★★★+
学 術 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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