よみもののきろく

(2009年3月…540-546) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
540. 「砂漠で見つけた夢」     内田 真弓
2009.03.04 一般書 205P 1333円 2008年5月発行 KKベストセラーズ ★★+★★
日本初のアボリジニ・アートプロデューサー


【100字紹介】
 キャビン・アテンダントからオーストラリアで海外日本語教師へ、
 そしてメルボルンでのアボリジニ・アートとの運命的な出会い。
 日本初のアボリジニ・アートプロデューサーにとなった筆者が、
 安定を捨てて引き寄せた夢


副題は「アボリジニに魅せられて」。
橙に黄色に白に黄緑の、明るくポップな花が咲き乱れる、
キュートな装丁の本です。

本書は、オーストラリア・メルボルンで発行されている
日本語新聞「伝言」に連載されていたものを加筆・修正したものです。


著者は元キャビン・アテンダント。
航空会社勤務、ということは企業自体も大手でしょうし、
その中でもキャビン・アテンダントと言えば、外から見れば花形職種のひとつ。
女の子の憧れの職業のひとつではないでしょうか。
しかし、その生活に違和感を感じ始めた著者はある日、
とある新聞広告に目を留めます。
「あなたもインターンシップに参加して海外で暮らしてみませんか?」
持ち前の行動力で参加のための試験を受け合格してすぐ退職。
10ヶ月間のアメリカ語学留学ののち、オーストラリアへ。
これだけでも十分、波乱万丈ではあるのですが更に、
帰国直前にそのオーストラリア・メルボルンで、
運命的な出会いが待ち受けているのです。

たまたま雨宿りで立ち寄った画廊で出会ったアボリジニ・アート。
アボリジニ・アートにも種類が幾つもあり、
その中でも、著者が深く関わるようになったのは
オーストラリア中央砂漠のドットペインティング。
砂漠に住むアボリジニの描くアートです。

第1章、2章は、子ども時代からアボリジニ・アートの出会いを経て、
アボリジニ・アートプロデューサーとして、
日本でのアボリジニ・アート展開催に奔走するまでの自伝的エッセイ。

以降、第3章は著者がアボリジニ村へ行ったときの話、
第4章はアボリジニの友人・知人のこと、
第5章はアボリジニの人々が来日したときの話、
第6章はアボリジニ・アートについて。

第6章のアボリジニ・アートは、
もっと深く突っ込んでくれるかと思ったのですが、そこそこで。
アートについてよりはオーストラリアの歴史についてが衝撃的でした。
菜の花、全然オーストラリアのことを知らなかったなあ、と。
それほどの紙幅を割いているわけではないのですが、
この部分は勉強させていただきました。


全体的に表紙同様、軽快でポップ、明るく前向きな文章で綴られます。
どこにでもいそうでいて、何かに縛られているようでもいて、
それでも飛び出していこうとする思い切りの良さは、
今まさに悩んでいる人にとっては、とても羨ましく、
背中を押してくれるような元気をくれるのではないでしょうか。

元々が新聞連載のためか、ひとつひとつの話はよくとりまとまっていて
読みやすく面白いのですが、元々系統だって書かれたものではないためか、
全体の構成としては若干、盛り上がりに欠けるように感じました。
何故この配列?というように、話が前後するのと、
ひとつひとつのエピソードが短めのため、
盛り上がってきたー!と思ったら、あれ?もう別の話?というところも。
個々のエピソードに小さな山が沢山あって、集合として大きな波があまりない、
というのは連載ものでは仕方ないことですね。
それにエッセイですからそもそも、
必ずしも小説のように山を作らなくてもよいわけですし。


色々な生き方があるものだなーという本。


テーマ : 自伝的エッセイ
語り口 : 1人称
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 明るい
装 丁 : 鹿島 幸子(coo)
口絵・帯写真 : 著者提供

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP
541. 「少年陰陽師 迷いの路をたどりゆけ」     結城 光流
2009.3.11 ライトノベル 204P 457円 2008年10月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫昌浩の活躍!シリーズ第24巻


【100字紹介】
 時は平安。皇女・脩子とともに伊勢へと下る晴明と彰子を追って
 都を旅立った昌浩は、途中で益荒たちに出会い、
 玉依姫のもとへと連れて行かれる。
 心の傷を抱えたまま、自分を見つめ直す昌浩と彰子を描く、
 玉依編第4弾


シリーズ第24巻です。「玉依編」の第4巻。
前巻で、次兄・昌親との道中に益荒たちに出会い、
ともに「玉依姫」の元へと連れて行かれた昌浩。

彼らに先立って都を出た晴明、彰子、皇女・脩子も、
前巻での攻防ののち、再び襲われることになります。
何だか襲ってくる方も色々いるし、
こちらの伊勢の人々もちょっとあやしげ…?
更に「玉依姫」の元でその建物を歩き回るもっくんにより、
徐々に敵の姿が明らかになってきました。
結構、複雑です。ひねるの、好き?

今回のテーマは「心の傷」。
昌浩だけではなく、彰子にもスポットライトが当たります。
それぞれその傷に気付き、向き合っていかなくてはならないと、
手探りで前へ進もうとします。
その手助けに登場した「あの人」のキャラが意外でした。
これはきっと、人気が出るのでは!?
そういえば「あの人」は、今までも何度も登場しながら、
結局本当の「あの人」自身のことばで、語っている姿はありませんでした。
今までのイメージはすべて、他のキャラのフィルタを通したものばかり。
実際の「あの人」がこういう人だった、というのは驚きです。

「心の傷」に関しては彰子の方が丁寧に描かれているように思います。
というか、どちらかというと身近に感じるのかもしれません。
昌浩みたいな、波乱万丈さよりももう少し、
悩み方が普通の人の悩みの延長線上にあるように見えるからでしょうか。
ごく一般人にとっては、昌浩のような悩みはなかなかないですものね。

少しだけ、光が見えてきた「玉依編」第4巻ですが、
予定だとあと1冊でこのお話も終わりのようです。
さて、どういう着地の仕方をするのか。楽しみです。


菜の花の一押しキャラ…安倍 昌親 「わからないことが、すごく、悔しい…」(太陰)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 次巻に続く
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
542. 「時計館の殺人」     綾辻 行人
2009.03.12 長編 625P 835円 1991年9月講談社ノベルス
1995年6月発行
講談社文庫 ★★★★★
密閉空間での無差別殺人。館シリーズ第5作


【100字紹介】
 鎌倉の森に建つ時計館で十年前、一人の少女が死んだ。
 館の関係者の相次ぐ死により、亡霊が出ると噂されるその館に、
 雑誌の企画で3日間、閉じこもることになった九人の男女を襲う
 無差別殺人の恐怖。館シリーズ第5作


綾辻行人の館シリーズ第5作です。
第45回日本推理作家協会賞受賞作品。
第1作「十角館」で登場した河南君がメインキャラとして再登場します。

1つ前の第4作「人形館」は異色作でしたが、
今作に関してはそれまでの
「中村青司の館」「島田潔(鹿谷門実)」
「クローズド・サークル」「凄惨な連続殺人事件」
「閉じ込められた美少女」というような要素を
全部まるごと詰め込んでいます。

プロローグでは、「十角館」の事件のあと、
大学院に進学、雑誌社に就職した河南君が、
久し振りに島田さんを訪れます。
その河南君が、泊まりこみの取材に出掛けるのが
中村青司設計の「時計館」。
鎌倉の森の暗がりに建つその館は、人死にが次々に出てから、
幽霊屋敷のように地元の人に恐れられています。
その屋敷にいるという亡霊の交霊会を開こう、
というのが河南君たちのお仕事。
雑誌社の上司、カメラマン、霊能者、大学の超常現象研究会の学生たちの
男女9名が、百八個の時計コレクションが時を刻む、
半地下の「旧館」で3日間、外界から遮断された状態で
「お籠もり」をするという企画です。

ストーリーは時計館の中の世界と外の世界が、
交互に登場しながら進みます。
中の世界には河南君が、外の世界では鹿谷さんがいて、
それぞれが、それぞれの謎に迫っていきます。

菜の花の率直な感想は…この事件、怖すぎ!!
怖かったです。菜の花は怖がりなので。
そもそも目次をめくった次のページの「登場人物」からして
「故人」の文字が沢山並んでいるのですよね。
おおお、いきなり死んでいる!9人くらい死んでいる!
どんな話なんだー!!といきなり恐れおののきました、はい。
で、殺人事件が始まると、またばったばったと…。
気分は、吹雪の山荘で閉じ込められる某ゲームで、
うっかり選択肢を間違えてしまい、
皆殺しパターンに分岐してしまったようなものです。
かなり凄惨な事件でした。

真相や犯人に関しては、予想の範囲内。
特に犯人は、初登場の描写ですでに「うわあ、怪しい…」という感じ。
が、途中で「あれ?こっち?」と一瞬間違えたかと思わせておいて、
やっぱりこっちか!というのも巧妙。
多分、この二人のうちどちらかだろうと多くの人が思うでしょうが、
そのどちらと推理している人でもこの展開だと「あれ?」を
1度は通るという仕組みになっています。

真相に関しては「時計館らしい」と言ってしまうと
結構バレバレかもしれませんが…、いや、でも「らしい」ということで。

とりまとめれば、今作の読みどころはやはり、
殺人事件自体のホラー感、でしょうか。


菜の花の一押しキャラ…特になし 「駄目です。作家たるもの、早くペンネームの方に  アイデンティティーを持つようにならないと。」 (河南 孝明)
主人公 : (河南 孝明、鹿谷 門実)
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ホラーに近い。新本格。
結 末 : 事件解決
カバーデザイン : 辰巳 四郎
デザイン : 菊池 信義
解 説 : 皆川 博子

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
543. 「レンタルマギカ ありし日の魔法使い」     三田 誠
2009.03.16 ライトノベル 367P 590円 2008年4月発行 角川書店
(スニーカー文庫)
★★★+
魔法を使わない魔法使い・伊庭司。第13巻


【100字紹介】
 「魔法を使わない魔法使い」伊庭司の創設した
 魔法使い派遣会社<アストラル>。
 ユーダイクス、ヘイゼル、隻蓮、猫屋敷、そして柏原。
 布留部市の調査依頼を受けた彼らは、
 禁忌の魔法使いとの争いに巻き込まれていく。


オカルト系ライトノベル作品の第13巻。長編です。
前作である短編集最終話に、
猫屋敷さんを主軸に据えた短編が収録されていましたが、
今作の中心は、その続き、というか少し後の話になりますね。
先代社長による、アストラル最盛期なのです。
ついに先代社長「伊庭司」と、彼が率いる<アストラル>の全貌が明らかに!
ファン待望の、ですねー。
しかも事件は第4巻「竜と魔法使い」に直結する過去の因縁話。
シリーズ内の他の作品と同等に「本編」でありながらも、
これはもはやファンブックではー、しかも豪華な。

キャラのこと。
誰もが思うのはやはり、伊庭司ってこういう人だったのか!でしょう。
これまでちらっと登場の彼が、ついに前線に出てきて、
そのベールを脱ぐ!という本作。
この人の物語を、もっともっと読んでいたい、というような、
なかなかに魅力的な人物でした。生死不明の行方不明のまま、
7年を迎えているわけですが、7年前に一体何があったのか、
そして12年後である伊庭いつきのアストラルの前に、
いつかは姿を現すのか現さないのか?今後も注目です。
更に若き日の猫屋敷さん(ここで17歳ということは、
12年後は29歳ですねー。そうか、猫屋敷さんはぎりぎり20代でありましたか)。
少年少年していた12巻の短編での猫屋敷さん。
アストラルに入社してもまだ、ちょっとぎこちない猫屋敷さん。
その思想と過去ゆえに、伊庭司社長と全力で衝突し続ける猫屋敷さん。
2代目社長を満面の笑みで迎えたあの猫屋敷さんを見ていると、
12巻での少年・猫屋敷さんとのギャップに驚きますよね。
そのギャップを少しずつ埋めていく紆余曲折が、
本作では描かれています。
本作を取りまとめてみると、
「伊庭司のお披露目会」
「4巻の下敷きエピソード大公開」
「魔法使いへの考え方の違いの衝突」
「猫屋敷蓮の成長(?)物語」
という感じ?

それから文章について少し。
今回の最初の1ページ。ビジュアルな表現に引き込まれました。
このシリーズで、今まであまり文章について
はっ、としたことがなかったのですけれども、
冒頭からおや、と思いました。
もしかしたら作品が、アニメ化されて文字の世界から
立体的でビジュアルな世界に膨らんだ影響もあるのでしょうか。
…なんて、ふと思ってみたり。


菜の花の一押しキャラ…伊庭 司 「何だか都合のいい話ですね」       「都合がいいこと以外はしたくないからね」 (柏原 代介、伊庭 司)
主人公 : 猫屋敷 蓮ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : オカルト
結 末 : 一応、落着
イラスト : pako
デザイン : 中デザイン事務所

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
544. 「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち5」     壁井 ユカコ
2009.03.21 ライトノベル 263P 570円 2008年10月発行 メディアワークス電撃文庫 ★★★★★
ちょっとおかしな住人たち、卒業!?の物語


【100字紹介】
 アンティークな西欧建築の<鳥籠荘>には、
 普通の社会にはなじめない人々が住み着いている…はずなのだが。
 清潔で早寝早起きなエコロジスト化…?
 最後のパーティーから<鳥籠荘>に終幕の時が迫る。
 シリーズ第5巻。


鳥籠荘の第5作。
ついにとりまとめに入りました。というか、ほぼ最終巻。
あとがきによれば、こういうことで。

「住人たちがみんなそれぞれ去ってしまったので 『鳥籠荘』としての物語はこの巻で終わりですが、  あと少し書き残したエピソードがあるので、もう1冊だけでます。」
というわけで、いつもなら「どこから読み始めてもOK」ですが、 今回はさすがに、前から読むのがお勧め、ですね。 この本の中で、というよりは、1-4巻を読み終わってから来てね、 という感じでしょう。何しろ風呂敷をたたむところですから。 そして…、我々読者もこの愛すべき「変人たちの巣窟」、 <鳥籠荘>の住人たちと、さよならをしなくてはなりません。 第1話「そして誰もいなくなった」は、恐ろしい物語です。 ある日、山田華乃子ちゃんが起きたら、 <鳥籠荘>は不思議な世界に変化していたのです…! ブランド物のスーツが似合う、人間のエリートビジネスマンの山田パパ、 「おっはよう、かのちゃん、山田さん」なんて、 語尾に☆がつきそうな勢いで早朝から大学へ向かう浅井さん、 ぐるぐる眼鏡、後ろ手に藁人形と五寸釘を携帯していそうな根暗女子高生・キズナ、 タイトなスーツにハイヒール、颯爽としたOLのへれんさん、 朝からお揃いのシャツとシューズでランニングする双子の老人、 水着写真集も絶賛売り出し中の、グラビアアイドル・由起。 そして彼らの本当の姿は…。 第1話の地の文は多分、華乃子の独白ですが、 「誰か気付いて!ここの人たちを鳥籠から外に出しては駄目なのに!」 …いやー…、まさに。シュールで含蓄があって、 ある意味七転八倒の面白さを含む、そんな第1話で第5巻の幕開けです。 第2話「パパはわたしたちのHERO」は、 タイトルから明らかなように、山田父娘が中心になったお話。 パ…パパがー!山田パパがー!! ある意味、謎は深まりましたけれども、 このお話で一番かわいそうなのはどう考えても加地君でしょう。 山田パパ、華乃子、加地君ママの中にあって、 唯一、一般常識を持ち合わせてしまった少年…それが加地君。 加地君の超的確なツッコミはしかし、 ボケばかりのメンバーの中にあっては誰にも振り返られることもなく、 悲しくスルーされていくのであります…。先が思いやられますね。 ああ、かわいそうな加地君。 コミカルな中に、見え隠れする愛と人間心理が素敵です。 第3話「交番/くつした/スケッチブック」は、井上由起のお話。 かっこよくて優しくて、よく気がついて、とっても頼りになる、 結構カンペキで、ひとりで完結しちゃっている人・由起の物語。 もう涙なくしては語れません。何て苦労人。 そして有生への素敵な後押しまで。 ホントに、カンペキな人は損をする!? 第4話「それは非可逆的でありながら連続的であり」は、 双子の老人のお話から始まる、最終的には浅井有生の物語。 第3話からのつながりも大きいです。 過去に囚われて身動きできずにいる浅井さんに、沢山の声援が。 それは由起の声であり、それはキズナの声であり、 そして、祖父と祖父を知る人の声であり…。 一大決心をした浅井さんの、結論は? 第5話「聖夜、シナプスの宇宙で」は、衛藤キズナの物語。 <鳥籠荘>最後の、住人たちによるパーティーが開かれ、 そして別れていくという、終焉の物語でもあります。 流れゆく時間の中で、自分だけが取り残されていく…、 そういう不安と寂しさを覚えることはきっと誰にでもあること。 キズナの中に生まれた現在と、そして将来への不安定な気持ちが、 幾つかの出来事に反映されながら、余韻となって残ります。 人を夢から醒めさせ、無理矢理に現実に引き戻されるような、 急展開でありながら、「非可逆的」であり、「連続的」でもあり。 こうして、鳥籠荘は終焉を迎えたのであります。 残すところあと1巻、後日談をたのしみに、最後のページを閉じました。
菜の花の一押しキャラ…井上 由起 「でもさあ、人間って補いあって生きていくものでしょ。           一人で完結しちゃってる人って、ほんとは誰より孤独なんじゃないかなあ」 (小山内)
主人公 : 衛藤 キズナ ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 愛あり恋あり笑いあり
結 末 : 静かにエンド
イラスト : テクノサマタ

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
545. 「安倍晴明 闇の伝承」     小松 和彦
2009.03.22 一般書 219P 1600円 2000年6月発行 桜桃書房 ★★★★★
研究者による「闇」の日本文化史のエッセイ


【100字紹介】
 鬼や呪いや妖怪がいてこそリアリティのある文化史ではないのか。
 多くの人々が見据えてきた闇を見据えたい…
 安倍晴明や鬼たちの伝承と、今に残るいざなぎ流陰陽道研究から
 民俗学者がつづる「闇」の日本文化史エッセイ


日本文化人類学・民俗学の研究者による、
比較的やさしい学術紹介系エッセイ集です。
著者の元々の研究のモチベーションは100字紹介の通り。
詳しくは巻末の「あとがきに代えて」を参照して下さい。

本書の目次は以下。

■陰の章
 ・安倍晴明伝承を遊覧する
 ・陰陽師・安倍晴明が見すえた「闇の世界」
 ・陰陽師・安倍晴明の呪法を解く
■陽の章
 ・大江山の酒呑童子
 ・宇治の橋姫
 ・茨木童子と渡辺綱
 ・「虎の巻」のアルケオロジー―鬼の兵法書を求めて―
■道の章
 ・式神と呪い―いざなぎ流陰陽道と古代陰陽道―
 ・占いの精神史
 ・反魂の秘術―『長谷雄草紙』をめぐって―
  ・お伽草子の狐の物語
■さらなる「闇」の伝承の探求へ―あとがきに代えて

「陰の章」では安倍晴明の伝承、
「陽の章」では鬼とそれにまつわる伝承について、
紹介したりとりまとめたりしています。
全体の半分以上の紙幅を占める「道の章」では、
現在も実際に土佐で伝えられている「いざなぎ流陰陽道」を紹介、
フィールドワークで採取した情報などを元に、
古代陰陽道と比較したり取り混ぜて補完したりしながら、
呪い・占いなどについて論考します。

とりまとまった章立てがあるので、普通にひとつの作品、
として頭から読んでいったら、つまづきそうになりました。
巻末を先に見ておけばすぐに気付いたのでしょうが、
3つの章の3-4編のエッセイはどれも、初出の異なる単発の記事でした。
連続していなかったとは。何度も同じような記述、
重なる内容が出てくるので、自分の間違いに気付きました。
というわけで、タイトルは「安倍晴明」となっていますが、
必ずしも「安倍晴明」が中心でもありません。
むしろ「闇の伝承」の方が中心ですね。
「安倍晴明」については、本文でも何回か登場しますが、
陰陽師ブームにのった宣伝文句に近いかもしれません。
でも、「のった」というのも、ちょっとおかしいでしょうか。
逆に陰陽師ブームの下地を作った、ということらしいです。

前半は、一般向け感がかなり強い紹介文ですが、
後半はもう少しだけ研究者風で、面白い考察もありました。
ただ、1冊で1つではなくて、短いものが沢山束ねた作品である分、
1つ1つが短く、やや物足りない感じはしました。
また、それぞれの記事の繋がりも特に無いため、
ばらばら感がぬぐえず。その辺りが少し残念ではありますが、
短くてとっつきやすいという点では、
一般人の我々が気軽に手にとって読むのには丁度いい作品かもしれません。


テーマ : 日本文化史
語り口 : 1人称(私)
ジャンル : エッセイ集
対 象 : 一般向け
雰囲気 : そこそこ軽い
装 幀 : 川上 成夫

文章・展開 : ★★★★★
学 術 性 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
546. 「レンタルマギカ 魔法使いの妹」     三田 誠
2009.03.28 ライトノベル 271P 533円 2008年8月発行 角川書店
(スニーカー文庫)
★★★★★
アストラルの平穏を破る来訪者…第14巻。


【100字紹介】
 魔法使い派遣会社<アストラル>への来訪者たち。
 それはみかんを救おうとする教師、
 そしていつきの義妹・伊庭勇花!
 魔法使いの存在を悟られまいとあわてふためく社員たち。
 その顛末は?4つの短編を収録した第14巻


オカルト系ライトノベル作品の第14巻。短編集です。全4話収録。
嵐の前の静けさ…というか(あまり静かでもない?)、
<螺旋なる蛇(オピオン)>との対決前夜、というものです。

第1話「魔法使いと家庭訪問」はその名の通り、
センセイが家庭訪問にやってきます。
巫女装束を着せられ怪しげな会社で働かされているというみかんを救うべく、
小学校の先生が<アストラル>へやってくるのです。
いつも保護者役を務めている猫屋敷さんは、
締め切りに追われて不在。いつき、穂波、オルトヴィーン、
それに黒羽まなみに、みかん。この窮地を乗り越えられるのでしょうか。

第2話「魔法使いの告白」は、今まで名前だけ登場してきた彼女…、
いつきの妹の勇花が初登場!です。漠然と思っていたのと、
結構違ってびっくり!なのです。第1話に引き続き、
魔法使いの存在を知られては…!あわてるいつきですが、
何と勇花の方からレンタルマギカの依頼が…。
ついでに伊庭家の秘密と、いつきの出生の秘密(?)も、
さらりと一部明らかに…。ますます謎が深まったとも言えますが。

第3話「魔法使いの夏休み」は、ある意味事件の前触れ。
穂波が夏休みをとり、不在の中で起きた、
<アストラル>にとっての大事件…。
次の話へのかけはしであり、かつ、彼ら<アストラル>の
結束をもう一度確認するようなお話です。

第4話「魔法使いと盲目の蛇」はまったく毛色の違う話。
主人公からしてなんと、敵方です。
<螺旋なる蛇(オピオン)>の物語。
主な主人公はツェツィーリエになるでしょうか。
<螺旋なる蛇(オピオン)>の今と、そしてその目的と…。
これからいつきは、彼らとの対峙へと、
否応無く巻き込まれていくのが分かる序章、でした。


菜の花の一押しキャラ…伊庭 いつき 「幸せに答えなんかありません。ううん、それぞれの家庭に―    それぞれの環境に、それぞれの答えがあっていいんです。     大事なのは、真面目にその答えを考えているかってことです。」 (矢車うらら)
主人公 : 伊庭いつき、ツェツィーリエほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : オカルト
結 末 : 一話完結、続く
イラスト : pako
デザイン : 中デザイン事務所

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録