よみもののきろく

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525. 「レンタルマギカ 鬼の祭りと魔法使い(上)(下)」     三田 誠
2009.01.02 ライトノベル 255P
367P
514円
590円
2006年11月発行
2006年12月発行
角川書店
(スニーカー文庫)
★★★★★
葛城家の鬼祭りを描く、シリーズ第7・8巻


【100字紹介】
 <アストラル>神道課の小学生巫女・葛城みかんが、
 猫屋敷とともに里帰りしたまま消息を絶った。
 いつきたちは、鬼が出現する葛城家へ。
 そこでみかんを「人柱」に、恐るべき「鬼の祭り」が始まる…
 シリーズ第7・8巻


オカルト系ライトノベル作品の第7・8巻。
今回は著者初の「取材旅行」を敢行しての作品とのこと。

中心となる舞台は、みかんの実家・葛城家。
葛城家は、世界的に有名な神道の結社ということらしいです。
ゲーティア首領のアディリシアさんレベルに、
みかんも有名なおうちの出身だったのですね。

このシリーズでは何回も繰り返し出てきていた
「魔法使いは血筋がすべて」ということからすると、
みかんは超恵まれた「魔法使い」のはずなのですが…、
残念ながら彼女は、本人の資質が足りない、らしいです。
血筋によって生まれつき持っている力は多いのに、
それを制御する資質に乏しいため、受け継いだ力を制御しきれないというわけ。
葛城家の血筋を受け継ぎながらも、優秀な「魔法使い」になりきれない、みかん。
自分の力を引き出す資質もあり、努力も怠らないのに、
元々受け継いだ力が不足するために一流になれないキャラも、
別の巻に登場していましたが、どちらがより不幸なのか…。
更には、神童と呼ばれ、優秀すぎるがゆえに生き方を選べないキャラも登場。

人には、それぞれの受け継いだ力と資質があり、
そしてそれぞれの悩みがある、ということ。
どんなに優秀であっても、それは変わらないこと。
むしろそれが障壁になりうること。
それでも人は、与えられた能力の中で、
うまく折り合いをつけて生きるしかないこと。

努力すれば何でも出来るようになる、
望みどおりの力を得ることが出来るなんて、現実世界では夢物語。
フィクションの世界では、絶望の淵に陥った味方が、
驚異的な力に目覚める…なんてよくあることですが、
現実の読者はきっと、何かにぶつかって、
挫折して来た経験を持っていることでしょう。
だからフィクション世界には、驚異的な力を秘めた、
凄いヒーロー・ヒロインを求めたくなるもの。
普通の人と同じようだったのに、あるとき突然、
奇跡のように力を得たりするような。

そういう夢物語がラノベや漫画には沢山あるわけですが、
このシリーズの場合はもう少しだけ、
現実世界の厳しさも織り交ぜている、というわけ。
本人の努力ではいかんともしがたいこと、
どんな奇跡も起こらない状況。
それでも、自らの持った能力の範囲内で、
何とかしようね、ということですね。

まあ、そうは言ってもラノベですから、
「そんなのありかよ」的圧倒的な力が働いちゃったり、
色々あるのですけれども、そこはそれ、
やっぱりエンターテイメントですしね。
僅かに色違いだけれども、
やっぱりトーンは同じヴィヴィッドカラー。
そういう感じです。


菜の花の一押しキャラ…伊庭いつき 『で―どうでござるかの? 少しは自分が変わった気とかするでござるか?』 『……っ』                               いつきが瞬きした。                           ぎゅ、ぎゅ、と何度か拳を固めて、やっぱり首を傾げる。          『いや…全然実感ないんですけど』                    『そりゃそうでござろうな。まったく強くなってないでござるから』     (隻蓮、伊庭いつき)
主人公 : 伊庭 いつき
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : オカルト
結 末 : まあハッピーエンド
イラスト : pako
デザイン : 中デザイン事務所

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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526. 「なぜ勉強させるのか? 教育再生を根本から考える」     諏訪 哲二著
2009.01.11 一般書 254P 720円 2007年2月発行 光文社新書 ★★+★★
そもそも何故、勉強は必要なのか?を考える


【100字紹介】
 学校不信、右往左往の教育改革。
 「我が子だけは良い学校に」と必死な保護者。
 勉強は「得になるから」「勝ち組になるため」等々、
 ドライな経済的価値観が目立つ昨今、
 なぜ勉強させるかを「プロ教師の会」代表が論ずる


本書の紹介によりますと、著者は元高校教師(定年退職)で
現在「プロ教師の会」代表らしいです。
文学部卒なので、国語か英語の教師ではないかと推察しますが、
紹介文等では特に言及はありません。

本書の構成は以下の通り。

プロローグ―そして「学力向上」だけが残った
1章 時代論@ 「お受験キッズ誌」が映し出すもの
2章 時代論A ゆとり教育は案外、将来を見据えていた
3章 学校論@ それでも学校を信じなければならない訳
4章 学校論A 塾・予備校は学校改革のモデルとなるか
5章 指導論@ 「百ます計算」・陰山メソッドの注意点
6章 指導論A 「親力」ブームの誘惑に耐えられるか
7章 子ども論@ 世界の子どもと比べてみる
8章 子ども論A 「なぜ勉強するの?」と問われたら
エピローグ―勉強するにも、させるにも覚悟がいる

それぞれのタイトルはなかなか魅力的。
ただし、何だかバラバラと広くて、
全体のテーマがつかみにくい予感はします。


さて、内容ですが、1/2章の「時代論」では、
保護者と子どもの考え方、ゆとり教育や経済界からの教育界への要求など、
比較的最近の動きを最初に紹介してから、
それぞれの歴史的な流れを説明するという形をとります。
社会を「農業社会的」「産業社会的」「消費社会的」な3時代に
区分するというのもちらりと出てきますが、まだ深くは追求しません。
ゆとり教育に対しては、批判の目だけで見るのではなく、
冷静にその理念の長所を掬い上げています。
教育方針を「知識を学ぶ派」か「人間的成長派」かに二分したところで、
次の章へ進みます。

この章では、近年の教育は子どもを人間的に成長させることよりも、
子どもの市場価値(労働力換算価値)を上げるものという経済的発想が広まり、
教育問題が我が子問題へ変質してきたと述べ、それに対して
教育とは個人の利益だけに還元できるものではなく、
一人前の「良識ある市民」の形成という側面が強いと著者は主張します。
なお、ここで言う「良識ある市民」とは、
法を遵守し、他人と共同し、社会の一員として生活できる人、くらいの意味。

3章では、前章から受け継いだ「知識を学ぶ派」の人間認識を抽象的に論じます。
人とは何なのかくらいの勢い。
しかし、知識を学ぶためにはまず、それを受け入れる入れ物が必要であり、
その入れ物を作る(人間的成長の教育)こそが、学校の役割だと指摘します。

4章では、学校と塾が対比され、塾の方が経済的競争が働いているために、
より成果を上げている、という世間の認識に対して反論します。
「知識を学ぶ」ことはテストによって成果が数値化されますが、
「入れ物を作る」ことは数値化されにくく、評価されづらいということ。
学校は入れ物を作りながら知識を流し込み、
塾は学校が作った入れ物へ知識を流すことを補完しているということ。
もしも学校がなくなれば、塾が学校の役割を担うだけであること。
結論は、「学校と塾は対立しない存在である」ということでしょうか。

5章は前半で「百ます計算」「早寝・早起き・朝ごはん」を主張する陰山氏を批判、
後半は1章で登場した時代区分が再登場し、現在の「消費社会的」時代での
親子関係と子どもの考え方について、著者の意見を述べます。
この時代、親も子どもも高度に個人化し、親子関係すら「親子ゲーム」となり、
子どもはすでに自分が個として確立された存在であると考えている、
そのために学校での情報も取捨選択し、自分の考えに合わないものは
そもそも吸収しないというようなことが起こりうることを指摘します。
自己決定ができる社会的な個になるよう「教育」するのが学校であり、
すでに自己決定を行なっている存在を、現在の「教育」は
対象としていないために教育がうまくいかない、ということらしいです。

以降の章は、5章後半の内容を更に言葉を重ねていくものです。
宗教的な話も多く出てきます。特に海外と日本の学生を比較する部分では、
日本人は諸外国に多く見られるような、神という絶対的な存在を持たない上、
「消費社会的」時代になってからは個人化があまりに進み、
自立することを求められ続けていること、そのために諸外国や昔の日本であれば、
何割かを神に、何割かを親に、何割かを教師に…と預けられたものも、
子どもや若者自身がすべて自己決定しなくてはならないことを指摘。
そのひずみがあちこちに出てきている、とも述べています。

8章の「なぜ勉強するの?」と問われたらは、何かずばっと答えを
出しているのかと思いきや、意外にも「真正面から答えない」という答え。
この章での教育への考え方は賛否両論かと思います。


ああ、長くなってしまった。うまくまとまらないものですね。
この作品、ある意見に対しては「なるほど」とうなずき、
またある意見に対しては「何を馬鹿な」と毒づく、というような
バランスのいいものになっています。
全面的に賛成も反対もさせない作品は、
読み手に新たな視点と考え方を提供します。
その意味ではなかなかの良書かもしれません。

ただし、やや読みづらいです。個々の文はしっかりとしていて、
知的なものでありますが、ちょっと話題がばらばらしすぎて、
論理と段落構成、展開等があまり良くない、というのが、
内容ではなく文章への菜の花の評価です。
単に菜の花の読解力の問題と言われればそれまでですが、
万人に読ませる一般書である以上、ある程度は分かりやすく
とりまとめるべきであるかとは思います。
いわゆる「文系の学者崩れ」の文章という感じ。
文章の巧拙では「巧」に入るものの、
「学術論文的な論理展開の明快さ」が足りない気がします。

あー、上から目線っぽいですが、自分はどうなんだ、と問われますと
そりゃもう、読み手としてはそこそこのレベルを自認するものの、
書き手としては菜の花は素人ですからね、
「理系の学者崩れ」(内容はマニアックであるものの、
文章力も、論理展開の明快さも足りない)文章ということで。


テーマ : 教育論
語り口 : エッセイ
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 難しげ
装 幀 : アラン・チャン

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★+★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★+★★

総合評価 : ★★+★★
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527. 「レンタルマギカ 魔法使いのクラスメイト」     三田 誠
2009.01.13 ライトノベル 254P 514円 2006年12月発行 角川書店
(スニーカー文庫)
★★★★★
主に学校生活の絡む短編集。シリーズ第9巻


【100字紹介】
 いつきたちのクラスメイトからアストラルへの神隠し調査依頼など、
 学校関係者と学校生活に関わる、3つのアストラルお仕事短編と、
 もう一人の妖精眼をもつフィンとゴンドラ乗りの少女の書き下ろし。
 シリーズ第9巻。


オカルト系ライトノベル作品の第9巻。
前作は長編でしたが、今回はまた短編集。
学校に関わる3つの短編と、フィンの物語です。

第1話は「魔法使いと神隠し」。
いつきたちのクラスの委員長・功刀翔子からの依頼を受ける、
もっともレンタルマギカのお仕事らしい短編。
時系列は前作「鬼の祭り」の前になるとのこと。
ちょっと悲しいお話。
業務日誌は、猫屋敷さん。

第2話は「魔法使いのヤマイ」。
さて誰がヤマイにかかるのでしょう?
それは読んでのお楽しみ。
意外なあの人たちの姿が見られる…かも?
いつきの学校生活も少しだけ、垣間見られます。
業務日誌は、穂波。

第3話は「魔法使いと終業式」。
タイトルからいって、思いっきり学校が舞台。
ですが、語られる内容はいつきの昔の話。
頑張ってます、いつき少年。
ついでに昔のアストラルの雰囲気も少しだけ。
業務日誌は、みかん。
本編にはあまり出てきていませんが、
みかんの終業式の様子も想像されてたのしいです。

第4話は「魔法使いと水の都」。
ということで舞台は日本を離れて、ヴェネツィア。
いつきと同じく<妖精眼>をもつフィン・クルーダーの物語。
でもアストラルと無関係かというと、
日本から隻蓮さんが出張出演しちゃってみたり。
フィンと、ゴンドラ乗りの少女。
その運命は交差して、そして…。
他にも密やかに、<アストラル>関係者の影もおちています。
この話のみが、書き下ろしになります。
業務日誌は、いつき。


菜の花の一押しキャラ…伊庭いつき 「約束は…ふたりでするものだよ」(伊庭いつき)
主人公 : 伊庭 いつき
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : オカルト
結 末 : 一話完結
イラスト : pako
デザイン : 中デザイン事務所

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
528. 「貴族探偵エドワード 紅蓮の炎を狙うもの」     椹野 道流
2009.01.18 ライトノベル 223P 457円 2008年8月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
英国風ミステリアス・ストーリー第8幕

【100字紹介】
 三拍子揃ったエドワードは、守り役シーヴァ、
 霊感少年トーヤとともにロンドラで探偵事務所を構えている。
 ある日、事務所に几帳面な兄・ロジャーが登場。
 時を同じくして宿敵スカーレットの手がかりが…シリーズ第8巻


シリーズ第8巻です。
主人公は貴族のお坊ちゃんでありながら
大学にもいかずに趣味に走って私立探偵になったエドワード。
容姿端麗、頭脳明晰、家柄最高で三拍子揃っている、
気のいい、でも結構ワガママお坊ちゃん。
そんなエドワードを支える守り役の青年シーヴァ。
助手見習いで霊感をもつ少年トーヤ。
エドワードの学生時代からの友人で発明家のアルヴィン。
アルヴィン宅に同居することになったクレメンス先輩。
それに彼らの住むロンドラ市警のプライス警部補と、
彼に命を救われた天涯孤独の少年マイカ。
遠い異国・チーノからやってきたウノスケ。
…とここまでがメインキャラ、ますます増えましたね。

エキゾチックな美人占い師のジェイドと、
そのジェイドに骨抜きな、エドワードの厳格な兄・ロジャーも、
メインといえばメインです。重要人物。

前作は、新キャラをそろえるための閑話休題的巻でしたが、
今回はメイン・テーマとなってきた宿敵・スカーレット・フレイム戦。
ウノスケの過去と、スカーレット・フレイムの出自めいたものまで
分かってしまうという、読み飛ばせない巻です。
順に読んでいる人は、うっかり飛ばさないようにご注意。


全般に…文章も慣れた感じですし、
とりたてて気になるところはなく、ふつーに面白いです。
こりゃ愉快愉快!というほどでもないですし、
そんな…と号泣するほどでもないですし、
漫画でも読むように気軽に読める作品です。


菜の花の一押しキャラ…アルヴィン・ブルック 「諦めない…決して!」(エドワード・H・グラッドストーン)
主人公 : エドワード・H・グラッドストーン
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト・ミステリ
結 末 : 次巻に続く
イラストレーション : ひだかなみ
デザイン : Bell’s

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
529. 「いじめの構造」     森口 朗
2009.01.24 一般書 190P 680円 2007年6月発行 新潮新書 ★★★★★
スクールカーストを導入した、いじめモデル


【100字紹介】
 いじめを根絶するためには、発生メカニズムを明らかにする必要がある。
 本書は「スクールカースト」の考え方を導入し、
 いじめモデルを構築・説明、発生メカニズムを模索しつつ、
 現時点での対症療法的対処法にも触れる


「いじめ」、特にこどものいじめを取り上げた作品です。
教育評論家で、東京都職員、小学校・養護学校・高校勤務経験ありの著者が
より現実に即した「リアル」な「いじめモデル」を提示し、
いじめ全般に関してその意見を述べていきます。

中心となるのは、「いじめモデル」「いじめ発生メカニズム」
「対症療法的いじめ対策」あたりでしょうか。
その他にもいじめ関連の世間一般の風聞・妄言、
学校の対応とその態度の理由なども述べていますが、
やや感情的な文章が目立ち、
まとまりに欠けがちであるように感じました。

最初のメイン「いじめモデル」は、第二章で取り上げられています。
いじめを理解するために、類型化する章となります。
基にしているのは国際基督教大学の藤田教授の「藤田モデル」。
「藤田モデル」を噛み砕いて解説してから、
「スクールカースト」の考え方を導入した
著者独自の「修正藤田モデル」を提示します。
「スクールカースト」とは、クラス内のステイタス。
人気者だとかもてるとか、そういう要因で決まってくるものです。
確かに、何となくそういうものが小学生や中学生くらいだと、
クラス内にあったかもしれないなあとちょっと思い出しますね。
「スクールカースト」は、入学やクラス分け後の1-2ヶ月で、
各人のコミュニケーション能力・運動能力・容姿等をはかることで
ポジションが決まっていくと著者は考えているようです。
コミュニケーション能力は「自己主張力」「共感力」「同調力」の
3つからなるという述べていますが、後ろ2つはどういうことか、
菜の花にはいまいち理解できませんでした。
しかもこの3つの能力のバランスで、クラス内での役割が
かなり決まってくるということです。なかなか難しいです。
第二章の後半は、このモデルを導入した場合、
こういう事例はこう説明できる、というようなことを並べ、
モデルの信頼性を上げています。
かなり綺麗に説明できるものだな、と納得できる構成でした。
本書で最も明快な部分はこの章でしょう。

次に「いじめ発生メカニズム」を第三章で取り上げます。
こちらは、明治大学の内藤准教授の「内藤モデル」を説明します。
更にゲーム理論で加害者・被害者の行動に説明をつけますが、
おお、なるほどというほどの独自性や強い説得力もなく、
第二章に比べるとやや精彩に欠く感がありました。
ただ、これが解明されれば、いじめ根絶への道が開けるわけで、
その意味ではまだまだ発展途上にあり、これからだとも言えるでしょう。
つまり、発生メカニズムが完全に把握されていない現状では、
いじめは根絶できないというのが著者の考え方です。
しかし、風邪の特効薬が存在しなくても、
人々が様々な対症療法を行なって快復するのと同様、
いじめも幾つもの「対症療法的対処法」を駆使することで、
ある程度の解決・改善が見られるはずだというのも同時に主張しています。
それが第六章となります。

「いじめ対策」を取り上げる第六章ですが、
ずばりこれこそが効く!というような特効薬は当然ありません。
第三章の「メカニズム」が完全に解明されていないからです。
しかし「犯罪を犯罪として扱う」というような、
当たり前なのに当たり前として行なわれていないことが多々あることや、
「いじめ対策を考えるときに『人権』という言葉を使うな」というような
「え、そうなの!?」とちょっとびっくりしそうではあるけれども、
理由を聞いてみるとそれもまた一理あるか、というものまで、
幾つかが指摘されているので、さらっと読んでみるのもよいでしょう。
それほどボリュームはありません。メインのひとつではあるけれども、
クライマックスではない、ということでしょうね。


薄い本なので、さらっと読める入門書としてどうぞ。


テーマ : いじめ
語り口 : 説明文・エッセイ
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 理論とエッセイ
デザイン : 新潮社装幀室

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
530. 「レンタルマギカ 吸血鬼VS(と)魔法使い!」     三田 誠
2009.01.25 ライトノベル 319P 552円 2007年7月発行 角川書店
(スニーカー文庫)
★★★★★
アストラルに新入社員!?シリーズ第10巻


【100字紹介】
 2年生になったいつきが社長を務める魔法使い貸出社の<アストラル>に、
 新入社員がやってきた。ルーン魔術を操るその少年の意図は不明。
 同時期に禁忌の化け物・吸血鬼がアストラルを襲う。
 第二部スタートの第10巻


オカルト系ライトノベル作品の第10巻。
前作は短編でしたが、再び長編に。
2年生に進級したいつきたちの、新しい春が始まります。

冒頭から見知らぬ魔法使いに襲われるいつき。
同じ頃、協会に呼び出されている穂波とアディリシア。
この巻から「第二部」らしいですが、いきなりハードな幕開けです。

しかも、春らしく新メンバー登場。
<アストラル>に、二代目社長になってから初の新入社員が!
でも何だかこの新入社員…、恐ろしいですね。
少しは<アストラル>、立て直しができるのでしょうか。
というか、今までのメンバーが何だかんだで結構、
ぐだぐだな経営をしていたことがここにきてバレてしまいました。

さて、今回の敵ですが。
副題の通りです。
「吸血鬼」でした。
と言っても、我々が通常考える「吸血鬼」とは、ちょっと違うようです。
いや、むしろその一部が「吸血鬼」伝説になった、という設定のようで、
もはやここまでくると何でもありなんじゃないか、くらい、
やたらと強いのが出てきてしまいました、と。
まあ、いつものことですけれども。
結構毎回、「やたらと強い」のが出てきますよね。
よく撃退できているものです。
救いは、「やたらと強い」けど、そんなに大きくなくて、
一応単体で、言葉も通じるってことでしょうか。
…あんまり救いっぽくないですが。

そして、これからが大変になるぞ、というエンディングでした。
次回からまた、これまで以上の嵐が吹き荒れそうな予感です。


菜の花の一押しキャラ…伊庭いつき 「怖いなら、怖いままでいいんだ。無理矢理に自分を偽る必要なんて、どこにもない」 (伊庭いつき)
主人公 : 伊庭 いつき
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : オカルト
結 末 : +end
イラスト : pako
デザイン : 中デザイン事務所

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
531. 「目薬αで殺菌します」     森 博嗣
2009.01.31 長編 290P 880円 2008年9月発行 講談社ノベルス ★★★★★
Gシリーズ7作目。世間を騒がす劇物入目薬


【100字紹介】
 神戸で劇物入りの目薬「α」が発見された。
 探偵・赤柳初朗は製薬会社に雇われ、社内調査に乗り出す。
 その頃、加部谷恵美が変死体を発見、
 その手には話題の目薬「α」が…。
 背後の大きな存在を感じるシリーズ第7作。


ギリシア文字がタイトルに入る「Gシリーズ」の第7作。

何だか久し振りな気がします。
他シリーズを挟みながらの出版だったので
前作第6作が出てから、1年半後の出版ですね。
その第6作では少し、他作品への伏線?らしきもの満載で、
単体作品としては少々物足りなかった覚えがあるのですが、
今回は1つの作品に取りまとまっています。

内容としては、100字紹介の通り。
それ以上でも以下でもなく。
今回の中心は加部谷恵美と赤柳初朗でしょうか。
「いつもの人々」海月君や西之園萌絵なども登場ですが。
随所に登場する「ある人物」のモノローグ的部分が特徴的。

今回の功労賞は加部谷恵美でしょうか。
彼女の登場部分はすべて三人称になっていて、
直接彼女のことばで、彼女の心は語られないわけですけれど、
地の文と発言だけで、十分推し量りたくなる気がします。
それにしても、海月君には一体どんな秘密があるのでしょうか…。
これからの動向が気になるキャラのひとりです。


菜の花の一押しキャラ…加部谷 恵美 「躰の全体で考えている。躰の隅々までね。単に、神経っていうもので        連絡を取り合っているだけのことで、脳はその信号の中継をしているだけなんだ。  考えているのは、躰の細胞全部。つまり、心なんていうものがあるんじゃなくて、  躰が心そのものであるわけ」                  (矢場 香瑠)
主人公 : 加部谷恵美他
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ風小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 小説一般
結 末 : 一件落着、続く
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津典之
カバーデザイン : 坂野 公一(welle disign)
フォントディレクション : 紺野 慎一(凸版印刷)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
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