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(2008年9月…492-502) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2008年9月の総評
今月の読了冊数は11です。
内訳は長編2、エッセイ1、一般書4、ライトノベル4。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣1、時雨沢恵一1です。
コンプ計画はちょっと少なめ。

2008年9月の菜の花的ベストは、該当なし。
以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「会議なんてやめちまえ!」         スネア,S (評点3.5)

「会議なんてやめちまえ!」は翻訳物のビジネス系一般書。
会議がうまくいかない理由、その無益さを説いたのち、
代替手法や、いかにして会議を避けていくのかを提案します。
他人の開く会議から逃れられずに苦しんでいる方は、
本書の下記の提案を実行してみては?
「頻繁に会議を開く人物の机に本書を置いてみるのだ。」


 「モリログ・アカデミィ10」        森 博嗣 (評点3.0)
 「地図で旅する日本の世界遺産001 知床」        (評点3.0)
 「黒塚」                  夢枕 獏 (評点3.0)
 「人形館の殺人」              綾辻行人 (評点3.0)
 「レンタルマギカ 〜魔法使い、貸します!」 三田 誠 (評点3.0)
 「業多姫 二之帖―愛逢月」         時海結以 (評点3.0)
 「メグとセロンI 三三〇五年の夏休み(上)」時雨沢恵一(評点3.0)

「モリログ・アカデミィ10」は森博嗣のブログ日記の第10巻。
オンライン公開されている同名ブログの、
2008年1−3月の、3か月分を収録。
小説の仕事を少し減らして、趣味の話題が少し増えています。

「地図で旅する日本の世界遺産001 知床」は
地図出版社が出版する、地図たっぷり、写真たっぷりのガイドブック。
単なる見所案内だけでなく、知床の成り立ちや気候、
動植物などの自然解説、世界遺産説明など、
知床をまるごと知ることが出来ます。

「黒塚」は夢枕 獏のSF作品。
主人公・クロウは記憶の無い男。
しかし実は源義経。
たまたま知り合った不死の女と共に、
時代を超えた旅をします。

「人形館の殺人」は、綾辻行人の館シリーズ第4作。
館シリーズとしては異色作で、なかなか島田さんは登場しないし、
クローズド・サークルでもありません。
一風変わった館シリーズ・ミステリ。

「レンタルマギカ 〜魔法使い、貸します!」は三田誠の
オカルト系ライトノベルシリーズ第1巻。
ごく普通の、むしろ怖がりの高校生・伊庭いつきが、
ホンモノの「魔法使い」を貸し出す会社<アストラル>の
二代目社長に無理矢理就任させられてしまい、物語は幕開けます。

「業多姫 二之帖―愛逢月」は時海結以の
時代ものライトノベルシリーズ第2作。
ミステリであり、恋愛小説であり、時代物であり、オカルトであり、
ファンタジーでもある盛りだくさんなエンタテイメント作品。
戦のない理想郷を求めて、異能者が守る庄に辿り着いた二人を描きます。

「メグとセロンI」は時雨沢恵一のライトノベル作品第1巻。
「リリアとトレイズ」シリーズのスピンオフ作品です。
リリトレと同じ時間軸、同じ時代という、同じ舞台にありつつ、
恋あり、友情あり、ミステリーありの学園物語になっています。


 「業多姫 壱之帖―風待月」         時海結以 (評点2.5)
 「裁判官の爆笑お言葉集」          長嶺超輝 (評点2.5)

「業多姫 壱之帖―風待月」は時海結以の
時代ものライトノベルシリーズ第1作。
「第2回ヤングミステリー大賞」の準入選作で、
時代物でオカルトが入っているのに、密室殺人!
…という異色シリーズです。

「裁判官の爆笑お言葉集」は
法廷での個性あふれる裁判官語録集。
「見開き2頁で1語録」の定型をとり、
右ページには「言葉」と、その言葉が発せられた裁判の簡略な概要、
更に担当した裁判官の名前と年齢、年月日、状況など、
左ページは著者の解説およびコメントが書かれています。
色々な裁判官がいて、色々なドラマがあるのだなあ、と
裁判を少し身近に感じるかもしれない1作です。


 「ひとりで抱え込まない仕事術」       Axelrod,R他(評点1.5)

「ひとりで抱え込まない仕事術」は翻訳物のビジネス書。
プロジェクトについて、独りでやるべきか人を巻き込むべきかを判定し、
もしも巻き込む場合はそのプロジェクトメンバーに選ぶべき人の基準、
プロジェクトの進め方、終わり方についてをレクチャーします。
もしも時間がないけれども、この本の内容を参考にしたい!というならば、
目次と巻末の付録だけ読めば、ほぼOKでしょう。


以上、今月の読書の俯瞰でした。







492. 「MORI LOG ACADEMY10 モリログ・アカデミィ10 推定 [ムササビ]」     森 博嗣
2008.09.07 エッセイ 344P 670円 2008年6月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した森博嗣のシリーズ10


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
 「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
 体調はいまひとつだったが趣味も仕事も充実の、
 2008年の年始から春までの3ヶ月。
 特別講義は、作家の有栖川有栖
             

第10巻です。
2008年1−3月の、3か月分の森博嗣の
ブログの内容を再編成しています。
カテゴリ分けはいつものように
HR、国語、算数、理科、社会、図工、体育、特別講義。
いつも通り、内容量は圧倒的にHRが多いです。
今回は冬から春の、だんだんと暖かくなる季節へ。


ええ、やはりいつも通り。
この変わらなさが凄い。
やや、趣味の工作が多いです。
小説の仕事を少し、減らしたらしいので。

趣味に生きる、というのが羨ましいですね。
菜の花はまだまだ、趣味に生きられる状態にありません。
若いし。色々やってみて、経済力も蓄えて、
将来の趣味生活へ向かっていかないと…?
でも今、こうやって生活していて、
いつかこのように好きなことを出来るようになれるでしょうか…。
計画が立っていないから駄目かな。

いや、それよりも、ここまで打ち込める趣味と呼べる趣味が、
ちゃんとありますでしょうかね。
インプットではなく、クリエイティヴな趣味が…。

HR以外では、算数、理科が面白いです。
思わず考え込みます。
あとは社会の2008/1/22「形に残る仕事」は是非、
うちの職場の上の人々に読んでもらいたいものですね。
とても当然のことなのに、きっちり指摘出来る人は
意外にいない、ということを取り上げられる鋭さが、
この著者の持ち味ですね。


ところで副題は元々はちゃんと、漢字4文字です。
が、残念ながら菜の花のテキストエディタでは扱えない字だったので
読みを書かせて頂きました。
しかし…こんな漢字、手でも書けないよー。



テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
装画、総扉・目次イラスト : 羽海野チカ
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
493. 「地図で旅する日本の世界遺産001 知床」
2008.09.08 一般書 111P 1500円 2008年6月発行 東京地図出版 ★★★★★
臨場感ある、世界遺産地図付きガイドブック


【100字紹介】
 世界遺産を地図付きで案内するシリーズ。
 単なる見所案内だけでなく、知床の成り立ちや気候、
 動植物などの自然解説、世界遺産説明など、
 知床をまるごと知ることが出来る。
 写真と地図を多用し、臨場感あるガイドブック


表紙が露草色で「あ、涼しげ〜」と思わず手に取った本です。
地図出版社が出す、地図たっぷり、写真たっぷりのガイドブック。
日本の世界遺産をシリーズで出すようで、知床はその第1巻。

付番はされていませんが大きな章立てとしては
「遺産概説」「知床を歩く」「知床を知る」があり、
一番前に全体の地図や写真、後ろには世界遺産の概要と交通情報・宿情報、
巻末付録として周辺の地図がついています。

ガイドブックですが、普通のガイドブックとの違いは、
写真の多さと丁寧な道順案内でしょうか。
それから、「遺産概説」などですね。
単なる名所の案内に留まらず、知床の成り立ちや、
流氷のやってきやすい理由などを図入りで解説してくれるのは、
他のガイドブックではなかなかありませんね。
一般書とガイドブックの融合、といったところでしょうか。

やや構成が分かりにくかったのと
「地図で旅する」という題目から想像すると、
本の中でだけ楽しめる、という感じがしますが、
インフォメーションとして実際に訪れる際の情報が入っており、
実際はガイドブックであるというのが菜の花的にはちょっとマイナス。

でも、全然知らなかった「知床」と、その魅力について、
基礎から教えてもらえました。確かに、ちょっと旅した気分ですね。


テーマ : 知床
語り口 : エッセイ風
ジャンル : ガイドブック
対 象 : 一般向け
雰囲気 : エッセイ風
執筆・写真 : 高橋 一正
カバーデザイン : 眞島 和馬(GIRAFEE.)
本文デザイン : 阿倍 けいこ(OFFICIAL LAGOON)

文章・描写 : ★★★★★
展開・構成 : ★★+★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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494. 「業多姫 壱之帖―風待月」     時海 結以
2008.09.10 ライトノベル 325P 560円 2003年1月発行 富士見書房
(富士見ミステリー文庫)
★★+★★
戦乱の世、異能の力を持つ姫と少年が出会う


【100字紹介】
 戦乱の世。地方領主の娘・鳴は、異能の力を持つ故に
 「業多姫」と呼ばれていた。
 不可思議な状況で殺害された母の死の真相を暴くべく
 奔走する鳴は、颯音という不思議な少年と出逢う。
 ミステリ風時代ファンタジー第1作


著者デビュー作の時代ものライトノベルです。
「第2回ヤングミステリー大賞」の準入選作なので、ミステリ風味ですが、
最初に書かれたときは普通のファンタジーだったようです。
応募する賞にあわせて、後から改稿したことは本作「あとがき」参照。

舞台は応仁の乱以降の戦国時代。
とある小国・美駒の郷の領主の長女として生まれた鳴が主人公。
冒頭、彼女の生母が密室状態で血だまりに伏しているのを発見、
何とか扉を打ち破り、家臣たちが乗り込んだときには、
その身体が忽然と姿を消していたのです。
密室犯罪…不可能犯罪?それは化け物の仕業なのか…?
更に不可思議なことに数日後、森の中で発見された北の方の遺体は、
血だまりの中の伏していたはずであるのに外傷はなく、
毒殺されたことが判明するのです。
2度殺された北の方…犯人を明らかにすることを弟・常盤丸に約束し、
それを拠り所に自分を保つ姉と弟。

そこへ、もう一人の主人公、颯音が現れます。
美駒に敵対する「お館様」に仕える異能集団「狐」の一員たる颯音は、
「美駒の業多姫」とその財力の源を探るべく、派遣されてきたのです。
悲しい過去と事情を持つ颯音と、天真爛漫であるのに同じく翳を背負う鳴。
この二人が出会い、そして周りの思惑、交錯する事情に翻弄されていきます。

というわけで、まあ表紙からいっても、
見返しの短い紹介文を見ても、明らかなる恋愛もの。
(勿論、二人の主人公達の。)
ここまであからさまだと、不自然に惹かれあって、
何だか分からないうちにくっついちゃうのか?という気もしましたが、
心配したほど不自然でもなかった…かも。
審査員のひとり、菜の花お気に入りの作家さんである有栖川有栖氏が
「達者なストーリーテラー」と評したそうですが、
確かに、この辺りの描写は上手いかもしれません。
ストーリテラーと言われると思わず宮部みゆき氏を思い浮かべますが、
彼女の切迫するほどの鋭い感じとはまた違って、
もっとふんわりした雰囲気です。状況自体は十分差し迫ったものなのですが、
心理描写としては、という意味で。

序盤がやや、全体にごつごつとして素人風に思えたのですが、
心理描写が多出する中盤以降は、
確かにストーリーテラーの資質を感じましたよー。
思わず、読み進まずにはいられない雰囲気でした。
舞台の作り方と進め方は少々強引に見えましたが、
その辺りは今後を楽しみに、ということに。


菜の花の一押しキャラ…颯音 「おまえをさらう、いいか」(颯音)
主人公 : 鳴、颯音
語り口 : 1人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : ミステリ仕立て、恋愛もの
結 末 : 何とかハッピーエンド
イラスト : 増田 恵
カバーデザイン : 元良 志和
装丁者 : 朝倉 哲也

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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495. 「裁判官の爆笑お言葉集」     長嶺 超輝
2008.09.11 一般書 219P 720円 2007年3月発行 幻冬舎
(幻冬舎新書)
★★+★★
法廷での、個性あふれる肉声を集めた語録集


【100字紹介】
 裁判官は無味乾燥な判決文を読み上げるだけではない!?
 スピーディーに1件でも多く判決を出すことが評価される中、
 六法全書を脇に置き、出世も顧みず語り始める裁判官がいる…。
 法廷での個性あふれる裁判官語録集。


裁判官の語録集です。
見開きの2ページで1つ。
右側ページは右側に大きなフォントで「言葉」、
左下にその言葉が発せられた裁判の概要が
長くても100文字程度におさめられ、更に担当した裁判官の
名前と年齢、年月日、状況などが書かれています。
左側ページは著者の解説およびコメント。

ページ構成は分かりやすく、
それらが幾つかごとに章わけされていますが、
章タイトルも面白いです。

第1章 死刑か無期か? ―裁判長も迷ってる
第2章 あんた、いいかげんにしなさいよ ―あまりに呆れた被告人たち
第3章 芸能人だって権力者だって ―裁判官の前ではしおらしく
第4章 被告人は無罪 ―「有罪率99.9%」なんかに負けない
第5章 反省文を出しなさい! ―下手な言い訳はすぐバレる
第6章 泣かせますね、裁判長 ―法廷は人生道場
第7章 ときには愛だって語ります ―法廷の愛憎劇
第8章 責めて褒めて、褒めて落として ―裁判官に学ぶ諭しのテク
第9章 物言えぬ被害者を代弁 ―認められ始めた「第3の当事者」
第10章 頼むから立ち直ってくれ ―裁判官の切なる祈り

目次を見るだけで、何となくワクワクしそうな。
語録もなかなか面白いです。

が、ちょっと看板に偽りあり、という気が菜の花にはしました。
そもそもタイトル「爆笑お言葉集」ですが、別に笑いどころはないし、
くすっとくるものはあっても「爆笑」はないなあと。
それぞれの章立ても、章タイトルは面白いですが、
必ずしも収録されている語録がこれにあっているとも言えないですし。
「器」は面白いです。コンセプトも。そして「中身」も悪くない。
ですが、これらのマッチングはどうかな、とは思います。
また、どうしてこの言葉を選定したのかな?と、
不思議に思うようなものも入っているのですが、
それは人によって感じ方が違いますから、何とも。

各章のあとにある、裁判についての1ページのコラムは、
なかなか興味深かったです。


テーマ : 裁判官語録集
語り口 : エッセイ
構成 : 見開き2頁で1語録の定型
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
ブックデザイン : 鈴木成一デザイン室

文章・描写 : ★★★★
展開・構成 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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496. 「黒塚」     夢枕 獏
2008.09.13 長編 522P 1900円 2000年8月発行 集英社 ★★★★★
源義経が、不死の女と時代を超えた旅をする


【100字紹介】
 鎌倉と通ずる藤原から落ち延びた九郎坊。
 一夜の宿を乞うた荒屋の女主人・黒蜜と惹かれあうが、
 彼女は普通の人間ではなかった。
 そして追っ手に襲われた九郎坊は首を刎ねられる。
 幾つもの時代を超えて、戦い続ける物語


「陰陽師シリーズ」の夢枕獏の長編。
元々は戯曲を頼まれ、数話の短編として小説も書こうと始めたところ、
気付いたら大長編になっていたという作品。
500ページ超えは流石に分厚いです。
2008年秋からアニメ化するという情報があったので、
興味をひかれて読んでみました。


序盤は連作短編という感じ。
最初にことの始まりが描かれ、
その後、時代がどんどん変わります。
時間の交錯が、確かに戯曲風にも見えます。
何だか分からない間に、人類が壊滅的打撃を受けたという
「異変」の120年後という時代に到達。
これが一応、メインのお話、になるのでしょうか。

メイン・エピソードでは、過去の記憶がないクロウが、
過去への説明を求めて「黒蜜」を追い求めます。
時代を超えて、という辺りがちょっと、
鈴木光司氏の「楽園」を彷彿とさせますね。
まあ、構造上は似たようなものかもしれませんが、
あちらは運命を描くファンタジーで、
こちらはミステリ風の展開であって、まったく方向性が違います。
似たモチーフであるように見えても、
同じようにならないのが、作家さんごとの個性かな。

過去の記憶を失っているクロウですが、
読者はことの始まりから時間を超えて追っているので、
クロウ以上のことを読者は知っており、
クロウがあがいているのを外から見ている、
というような雰囲気がメイン・エピソードの最初にはあります。
しかし実際は、物語前半ですべての事実が描かれていなかったので、
読者も重要な部分を知らない、ということが
最初は判然としないながらも読み進めるうちに分かってきます。
主人公・クロウと同じくらい、実は読者も知らないのだ、
と気付くと、クロウと一緒に「黒蜜を探さなくては、
真相を聞かなくては説明が付かない」という気持ちに…。
あっさり、著者の仕掛けに嵌ったな、しまったな、という感じ。


あとがきによると、著者自身、自作の中でも異質、
と考えているようです。
確かに、陰陽師シリーズとは違うかもしれません。

後半は何となく、色々な事象とうまくまとめた感じ。
結構、こういう理屈が好きかな、この著者は、と思いつつ。
らしくていいんじゃないでしょうか。
しかしこれ、どうやってアニメにするというのか。


菜の花の一押しキャラ…特になし 「人の幸せは、生命の長さではないのです…」(黒蜜)
主人公 : クロウ(源義経)
語り口 : 3人称
ジャンル : SF
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 殺伐とした
結 末 : 終わらない
装画 : 寺田 克也
装丁 : スタジオ・ギブ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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497. 「人形館の殺人」     綾辻 行人
2008.09.13 長編 380P 629円 1989年4月講談社ノベルス
1993年5月発行
講談社文庫 ★★★★★
京都・人形館。館シリーズの異色作、第4作


【100字紹介】
 亡父が残した京都の邸「人形館」へ、
 母と共に移り住んだ飛龍想一。
 邸には父の遺産というべき妖しい人形たちが陣取り、
 近所では通り魔殺人で子供たちが犠牲に。
 やがて想一自身にも姿なき殺人者が…。館シリーズ第4作


「十角館」「水車館」「迷路館」に続く、綾辻行人の館シリーズ第4作。
シリーズ内の異色作品です。島田さんがー、島田さんがー!

館シリーズといえば、中村青司の館+島田潔が定番となりましたが、
今回は冒頭に島田潔からの手紙が掲げられるも、
その後はなかなか、島田さんの名前すら出てこないと。
また、孤島であるとか天候などによって作られた
「クローズド・サークル」の話が続いていたのに、
今回は普通の街の中に邸はあります。
人の出入りもあり、外部とのアクセスも断絶していません。
更に、物語の真相まで…とにかくどこをとっても異色作!です。

長い入院生活のあと、京都へ主人公が移り住んでくるところから
物語は始まります。引越し先は「人形館」。
名前どおり、建物の随所に身体の一部の欠けた、
どこか意味ありげなマネキンが立っています。
絵描きの想一がアトリエとして使おうと思った土蔵などは、
大量のマネキンが林立、「人形の集会場」状態。
何だかとっても不気味です。

しかも近所では最近、子供を狙った殺人事件が連続していて、
更に主人公の周りでも、身の危険を感じるような出来事が
ちょくちょく起こるようになっていきます。
その上、想一は何やら思い出せそうで思い出せない、
そんなもやもやの中にいるところに、あやしい手紙が…。
というような話。

途中は途中で、いつもと違うなあ、という感じがしますし、
ちっとも進まないじゃないか、ゆったりしているなあ、と
思いましたが、最後まで読んでみると、あ、あれだったのか!
…というところ。いつもながら、読みの甘い菜の花でした…。
いや、そういうオチも想像しなかったわけじゃないですけど、
でもあんまり想像していなかったかも。

それにしてもまったく、いつもながら「あの手この手」の著者ですね。
読めた!と思いきや、また別のところにネタは用意してあるよ、
という周到さも、まったく著者らしい作品です。


菜の花の一押しキャラ…特になし
主人公 : 飛龍 想一
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : どこか暗い
結 末 : 事件解決
カバーデザイン : 辰巳 四郎
デザイン : 菊池 信義
解 説 : 太田 忠司

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
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498. 「レンタルマギカ 〜魔法使い、貸します!」     三田 誠
2008.09.14 ライトノベル 287P 514円 2004年9月発行 角川書店
(スニーカー文庫)
★★★★★
怖がりの高校生が、魔法使い派遣会社社長に


【100字紹介】
 見えないものが視える魔眼の持ち主なのに
 超怖がりの高校生・伊庭いつきは、
 7年間行方不明の父の跡を継ぎ、
 魔法使い派遣会社アストラルの社長にされてしまう。
 古代ケルト魔法、黒魔術、神道など世界中の魔法が集結。


アニメ化もされた、オカルト系ライトノベル作品です。
最近は、ライトノベルの中でもシリアス風なものも多いですが、
本作は純然たるエンターテイメント系ライトノベル。
コメディタッチの文章で、内容も浅すぎず、深すぎず。
魔法使い派遣会社なんて、何だそれはな設定で、
かつ、その当の魔法だって古代ケルト魔法あり、
黒魔術系召喚魔法あり、神道の祓いあり、陰陽道もありで、
ごったまぜの闇鍋状態。とにかく楽しけりゃそれでいい!
…な雰囲気が、ちょっと久々で新鮮。

プロローグは穂波・高瀬・アンブラーが、
英国にある魔法の学校を卒業して帰国してくる場面。
教師が、残って研究してくれたら!とじだんだ踏んで悔しがるほど
優秀な魔女である彼女が向かったのは、魔法使い派遣会社アストラル。

そのアストラルの2代目社長に、ほぼ強制的にまつりあげられたのが
主人公の伊庭いつき。高校生。基本的にはごく普通の人。
魔法使いではないけれど、ただし普通は見えないものが見えてしまう、
という特技(?)はあります。でも見えるだけ。性格は腰抜けな方。

登場するアストラル社員は、古代ケルト魔術を現代に復活させた穂波、
猫大好きの陰陽師の青年・猫屋敷、若干8歳の神道の巫女・みかん。
そこへライバル結社の「ゲーティア」首領であり、
ソロモン王の魔術の使い手・アディリシアが入ってきて、
なかなか賑やかなことに…。しかし、ほんとにごたまぜですね。

文章はときどき、ライトノベルにありがちの、
地の文と地ではない文の表記ゆれがあって、若干幼稚に感じる部分もあり。
しかし、全体にテンポは良いですし、面白い文章を、
あまり前面に押し出しすぎずにつづってある辺りが好印象。
魔法詠唱部分などで時々フォントが変えてあったりして、
なかなか凝っているかも。

ストーリーに関しては、すでにアニメで見ていて知っているため、
あまり疑問に思っていないけれども、もしかしたら単体で読んでいたら、
「???」になっていたかもしれないという部分はありそうです。

それはともかく、「社長命令」凄すぎなんですが。
一桁まで指定の角度ですか!
それが即実行できる社員達も凄すぎ(笑)。


菜の花の一押しキャラ…伊庭いつき 「穂波、猫屋敷、みかん。社長命令だ」(伊庭いつき)
主人公 : 伊庭 いつき
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : コメディタッチ、オカルト
結 末 : 一件落着
イラスト : pako
デザイン : 中デザイン事務所

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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499. 「会議なんてやめちまえ!」     スコット・スネア / 鬼澤忍【訳】
2008.09.21 一般書 289P 1600円 2003年7月発行 早川書房 ★★★+
あなたを、会議漬けの毎日から救い出す一冊


【100字紹介】
 みんな会議が嫌いなのに会議を開かずにはいられないのは何故?
 世界中の組織で時間とやる気を食いつぶしている悪弊「会議」。
 うまくいかない理由と無益さを証明し、
 様々な手法による効率的な代替案を提示する実用書。


 --オリジナル・データ-------------------
  STOP THE MEETING   I WANT TO GET OFF
  by Scott Snair
   Copyrightc2003 by Scott Snair, Inc
 ---------------------------------------

何とも刺激的な邦題。
オリジナルも「Stop the Meeting」で、
「I want to get off」ですしね。
うーん、開放してくれ!という感じがひしひしと。。。

とりあえず、まずはタイトルに快哉を叫びたくなる社会人の方、
多いのではないでしょうか。もしも類書を読んだことがなく、
タイトルに思わずひかれたとしたら駄目でもともと、
とにかく手にとってみるのも一興です。

全10章で、最初の2章は、会議がうまくいかない理由や、
いかに会議が無益であるかを説きます。
第3章-8章が代替となる手法の提案。
基本はマンツーマン管理で、それに正しいリーダーシップ発揮、
組織的チャネリング、職務委任、テクノロジー利用(e-mailなど)、
メンタリングなどを付加している形です。
第9章は「他人が開く会議から逃げる」、
第10章は「それでも会議が避けられないときは」。

基本的に、対象は会議を主催するような管理職(主に課長クラス?)を
想定しているようです。なので、会議に駆り出される菜の花のような
下っ端にとっては、そのままでは即役立つ、というわけではありません。
しかし、なるほどそうか、と思うこともありましたし、
下っ端は下っ端としての立ち位置があることが分かります。
そうか、そういうことを期待されているわけね、というか。
それに、バイトさんやパートさん、それに係内などのごく小さな世界でも、
十分生かせそうな情報もこまごまとありましたので、
これらを拾い集めて切り貼りして、今後に使ってみようかと思いました。

ああ、それからこの本を読みながら周りにいる上司の皆々さまについて、
もう一度よくよく見直してみて、下っ端から見た再評価が出来ました。
出来る上司と出来ない上司。結構これ、明確に分かれているもので。
出来ない上司には極力関わらないように、というのも、
社会人としては当然の自己防衛ですが、
もう少し文句でも言って、改善して頂く方が組織にとってはいいですね。
そのときにより的確な評価と指摘が出来るようになるためには、
下っ端だってちゃんと管理職のことを知っていなければ。

…って、もしかして菜の花って、扱いにくい部下でしょうかー。


もちろん、色々な職場があり、色々な状況があるので
本書の内容がそのまま適用されるとは限りません。
読み手はこの本のどの辺りが自分の役に立つ情報なのか、
それを拾い出す必要があります。
そのときに職場の状況について、きっと考えることになるでしょう。
実はそうやって観察しなおし、評価しなおすきっかけになることが一番、
この本のお役立ちな部分かもしれません。

それにしても本書は翻訳もの。
世界のどこでも同じような悩みを抱えている人が、
沢山いるというのがよく分かりました。ある意味、心強いですよね。
自分だけじゃなかったか!そしてみんな、会議と戦う仲間だ!みたいな。
そういえば第9章の「会議から逃げる方法」として10の対処法がありましたが、
10章の後ろに収録されている最後の「結論」にて11個目の対処法が
ごく簡潔に述べられていました。なるほど!と納得しました。
それは…

「頻繁に会議を開く人物の机に本書を置いてみるのだ。」

みなさま、Good luck!!


テーマ : 会議
語り口 : エッセイ風
ジャンル : 一般書(ビジネス書)
対 象 : 社会人、特に管理職向け
カバーイラスト : 花くまゆうさく
カバーデザイン : ハヤカワ・デザイン

文章・描写 : ★★★★★
展開・構成 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
500. 「業多姫 二之帖―愛逢月」     時海 結以
2008.09.26 ライトノベル 344P 600円 2003年4月発行 富士見書房
(富士見ミステリー文庫)
★★★★★
戦乱の世、異能者が守る庄に辿り着いた二人


【100字紹介】
 戦乱の世。地方領主の娘であり、異能の力をもつ業多姫・鳴は、
 「千里眼」の颯音とともに、戦乱のない国を目指して出奔した。
 目的の庄に辿り着いた二人だが、そこにもやはり戦いが。
 ミステリ風時代ファンタジー第2作


タイトル通り、「業多姫」の第2巻。
舞台は応仁の乱以降の戦国時代。
とある小国の領主の長女として生まれた鳴ですが、
前作で出会った颯音とともに、国を出ます。
「戦のない理想郷」を目指して旅立った鳴と颯音は、
ついに目的の庄に辿り着くのですが、
残念ながらそこもまた、完全な理想郷ではなかったのです。
そして彼らの新たな戦いが。

表紙と巻頭カラーがあまりにも恋愛小説仕様すぎて、
「うわっ、可愛い」と同時に「やばい、完全完璧な激甘かも、これ」
とひきそうになりました、はい。
中身も…思いっきり、間違いなく、その通り。
でもただ甘いだけではなく、設定や展開もそこそこ厳しいですし、
前作に引き続き「ミステリー風の謎」もちゃんとあって、
単なる少女向け恋愛小説とはやっぱり違います。
何しろ「ミステリー文庫」ですから。

前作では「密室殺人の謎」でしたが、今回も密室、かな。
殺人ではないかもしれませんが。
「密室脱出の謎」というところでしょうか。
それ以外にも「あ」と思われる(かもしれない)
いわゆる「どんでん返し」もあります。
色々謎、満載です。

ミステリーで恋愛で時代もので、
確かにあまり見かけない、ごたまぜで不思議な作品。


菜の花の一押しキャラ…颯音 「俺は、闇がない人の方が偽りだと思う。」(颯音)
主人公 : 鳴、颯音
語り口 : 1人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : ミステリ仕立て、恋愛もの
結 末 : 一件落着
イラスト : 増田 恵
カバーデザイン : 元良 志和
装丁者 : 朝倉 哲也

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
501. 「メグとセロンI 三三〇五年の夏休み(上)」     時雨沢 恵一
2007.09.27 ライトノベル 234P 510円 2008年3月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
「リリアとトレイズ」スピンオフ作品第1巻


【100字紹介】
 ルックスも頭も良いセロンだが、
 一目ぼれしたメグに声をかけることも出来ずにいる。
 夏休みに入ってすぐ、親友ラリーの誘いで参加した
 演劇部の合宿手伝いでチャンスが…。
 恋あり、友情あり、ミステリーありの学園物語


アリソンのシリーズを引き継いだリリアのシリーズのスピンオフ作品。
時間的には「リリアとトレイズ」の第1作と同じ。
もちろん、ちらちらっとリリアも登場しています。

主役は今のところ、セロン・マクスウェル。
リリアと同級生ですが、リリアとは知り合いではありません。
彼は数年で財を成した実業家の母と、妹との3人家族で、
とにかく真面目。ルックスも頭もよくて、かつお金持ちという、
三拍子揃った好青年ですが、恐ろしく奥手かつ無表情キャラ。
親友のラリー・ヘップバーンは性格的には真逆で、
明るく闊達、トレーニング好きの武人タイプ。
そんなラリーが、セロンの恋を全面的にバックアップします。

セロンの恋のお相手は、「リリアとトレイズ」にも登場の、
リリアの友人・シュトラウスキー・メグミカ、愛称メグ。
そうか、リリアの続編はメグで来たかーと。
メリエル王女あたりと睨んでいたのですが、ハズしました。

「リリアとトレイズ」では、トレイズが王族だったせいもあり、
学園ものはありませんでしたが(いつも長期休みが舞台ですし)、
今回は、思いっきり学園物です!夏休みですけれども、
夏休みには夏休みの物語があるのです。
そう、部活の合宿!!
と言っても、セロンやラリーは部活に入ってはいないのですが、
演劇部の合宿のお手伝いとして参加することに。

そしてこの合宿で、偶然の出会いと、
ミステリアスな事件が…。
さて、一体どうなってしまうのか!?
…というところで、この巻は終わりです。ええ。
終わってしまいます。上巻ですからね。
いつもなら上下巻あわせて感想を書くのですけれども、
今回は残念ながら片方しか手元にないので分けることに。
なので、菜の花もこれ以上先の物語が分かりません。
どこへどう着地するかは…まあ冒頭で登場ですが。


感想は…ああ、ふつーにふつーの学園ものです。
会話部分の掛け合いが結構、楽しいですね。
絶妙!というのも幾つか。
一人で読んでいて、思わず声に出して突っ込みを入れてしまうとか。
(あやしい人です…。)
そういうところが、とても楽しい、かな。
キャラは、まあ…そこまで個性的、というほどでもないですが、
デフォルメされた分かりやすいタイプが多いでしょうか。
さて、下巻ではどういう展開になるか…。
その辺りは、今までの実績からいっても、結構期待してます。


菜の花の一押しキャラ…ニコラス・ブラウニング 「女の戦いは、戦車より怖ええ」(ラリー・ヘップバーン)
主人公 : セロン・マクスウェル
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 学園もの
結 末 : 次巻に続く
イラスト : 黒星 紅白

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
502. 「ひとりで抱え込まない仕事術―「お願い上手」の5ステップでラクになる」     リチャード・アクセルロッドほか[著] / 森口美由紀[訳]
2008.09.29 一般書 144P 1300円 2007年2月発行 ダイヤモンド社 ★+★★★
プロジェクトに他人を巻き込み、発展させる


【100字紹介】
 誰にも声をかけられず、ひとりでプロジェクトを抱えてしまう人。
 もう、ひとりで仕事を抱え込むのはやめましょう。
 上手に人を巻き込み、相手をその気にさせられれば、
  良いアイデアが生まれ、仕事も早く終わるはず。


 --オリジナル・データ-------------------
  You Don't Have to Do It Alone
  by Richard H. Axelrod, Emily M. Axelrod,
   Julie Beedon, and Robert W. Jacobs
   Copyright(c)2004
 ---------------------------------------

上手く仕事を進めるために、というコンセプトの本。
邦題は「お願い上手」という言葉を使っていますが、
原題直訳では「独りでやる必要はないですよ」くらいでは。
実際、内容としてはあまり「お願い上手」な雰囲気はありませんでした。
それよりは、あるプロジェクトが、独りでやるよりも、
人を巻き込んだ方が広がりがあるか否かを判定し、
そのプロジェクトメンバーに選ぶべき人の基準、
プロジェクトの進め方、終わり方についてのレクチャー、
というところでしょうか。
「仕事」というと普段の雑務だとか、定型業務も考えてしまいますが、
基本的にはそういうものは含んでいないように思われました。
というわけで「仕事」というよりは「プロジェクト」かな、と。

構成は明確。
序章のあと、5つのステップが紹介されます。

第1章 あなたには、どんな助けが必要なのか
 (プロジェクトにメンバーが必要か否かを判断)
第2章 誰に声をかけるか (メンバー選定)
第3章 どうやって口説き落とすか (メンバー集め)
第4章 メンバーを落ちこぼれさせない秘訣 (中盤の進め方)
第5章 また一緒に仕事をしようという気にさせる (終了の仕方)

このステップの応用編として

第6章 「人を巻き込むワザ」を駆使して、会議を上手に行なおう

最後は付録で、

ひとりで仕事を抱え込まないためのチェックリスト

以上ですね。それぞれの章に、ケーススタディつき。

さて本書、菜の花にとっては読む必要がなかったな、という感じです。
内容的には観念的だったり理想的だったり、
今すぐその通りに実践できるものではありません。
考え方を述べているように見えます。
が、表現としては「さあ、今すぐ使えるよ」というような書き方なので、
そのギャップが理解できませんでした。こんな難しいこと、
考えられるのだったら現状、困ったりしていないと思うのですが。
この辺りは、もしかすると著者と翻訳者の温度差なのかも。
タイトルもそうですしね。
原題の方がふさわしいと思います。邦題とは内容が違います。
それから、ケーススタディも、それぞれの説明にマッチして、
なるほど、と手をたたけるものではないと感じました。

ただ、付録からは学べることは多そうです。
1章ごとのポイントを1ページに箇条書きにしていますが、
これは興味深いかも。エッセンスを取りまとめてくれています。
それが面白いと言うことは、菜の花が読み取るのが下手なだけで、
実際は本文も有用なのかもしれませんが…、
でもまあ、もしもこの本のことを参考にしたい!というならば、
目次と巻末の付録だけ読めば、ほぼOKです。
時間がないけれど、内容は知っておきたいということでしたら、
それで十分かな、と思います。


テーマ : 仕事
語り口 : 説明調
ジャンル : 一般書(ビジネス書)
対 象 : 一般向け
カバーイラスト : ミヤケシゲル
装 丁 : 布施育哉

文章・描写 : ★★★★★
展開・構成 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★+★★★
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