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(2008年7月…474-482) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2008年7月の総評
今月の読了冊数は9です。
ですが、内訳は中・短編2、一般書2、エッセイ2、ライトノベル3。
ラノベで稼いでいるだけかも…。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣1、結城光流4、壁井ユカコ2です。

2008年7月の菜の花的ベストは…

 「スカイ・イクリプス」           森 博嗣 (評定4.0)

「スカイ・イクリプス」は森博嗣の
「スカイクロラ」シリーズの最終作にあたる短編集です。
音律のリズム感、思考のリズム感が素敵で、
静かに浸っていたくなる不思議なイメージの作品です。


以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち4」     壁井ユカコ(評点3.5)
 「知っていそうで知らない台湾」       杉江弘充 (評点3.5)
 「超バカの壁」               養老孟司 (評点3.5)

「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち4」は、壁井ユカコのシリーズ第4巻。
”ホテル・ウィリアムズチャイルドバード”、通称・鳥籠荘に住む、
普通の社会になじめない一風変わった住人たちの、
ちょっとおかしなフツーの日常をつづる連作短編ライトノベル。
直球の親子愛、変化球の親子愛、一風変わった危険な恋愛、
過去の静かな恋心、そして切ない想い。
色々な愛をいっぱいに詰め込んで、
シリーズはクライマックスの準備に入っています。

「知っていそうで知らない台湾」は90年代後半に、
新聞社の駐在記者として台湾に滞在した著者による台湾の実情。
国と名乗れない複雑な事情の台湾と、その民主化の道を紹介。
台湾から見た各国や、各国から見た台湾などの対台湾情勢なども紹介。
多少の片寄りはあるものの、台湾初心者がざっとレビューするには
ちょうどいい本です。

「超バカの壁」は、「バカの壁」「死の壁」に続く第3弾。
前作発行後に著者に寄せられた相談をもとに、
一般論的な問題点を掲げてそれぞれに対して、
著者なりの考えをざっくばらんに語るエッセイ。
「安定しているものは強い」という感じです。


 「モリログ・アカデミィ9」         森 博嗣 (評点3.0)
 「沈黙のピラミッド」            上遠野浩平(評点3.0)

「モリログ・アカデミィ9」は森博嗣のブログ日記の第9巻。
オンライン公開されている同名ブログの、
2007年10−12月の、3か月分を収録。
ついに50歳を迎えた森博嗣氏。このブログもあと1年です。

「沈黙のピラミッド」は、ブギーポップシリーズの1作。
いつも受験生が出てくるライトノベルシリーズです、はい。
今回は、失われてしまった過去の物語が下敷き。
何があったか分からない「過去」をめぐって、
合成人間と、過去に巻き込まれたらしい人たちと、
そしてブギーポップが入り乱れます。


 「イチゴミルクビターデイズ」        壁井ユカコ(評点2.5)
 「篁破幻草子 六道の辻に鬼の哭く」     結城光流 (評点2.5)

「イチゴミルクビターデイズ」は壁井ユカコの単発中篇。
著者曰く、「青春のビフォー&アフターストーリー」。
章ごとに24歳、17歳、24歳、17歳、とタイトルが交互にかわり、
語られる年齢が縞々になっています。
内容は結構、軽めで、さらっと読める話です。対象年齢は高め。

「六道の辻に鬼の哭く」は結城光流の篁破幻草子シリーズ第4巻。
小野篁&橘融のオカルトファンタジー。
篁の妹の楓が狙われます。完結まで残すところあと1巻。


 「「江戸・東京」地名を歩く」        古川 愛哲 (評点2.0)

「「江戸・東京」地名を歩く」は副題が「地名から探る江戸の素顔」。
東京の地名を幅広い視点で再考しながら、
それぞれの土地についての歴史的出来事やエピソードを語るエッセイ。
思った以上に「江戸」という土地は大きく変化してきたことがわかり、
とても興味深い作品です。


以上、今月の読書の俯瞰でした。







474. 「「江戸・東京」地名を歩く 地名から探る江戸の素顔」     古川 愛哲
2008.07.01 一般書 272P 762円 2003年6月発行 経済界(リュウ・ブックス・アステ新書) ★★★★★
東京地名について、歴史的出来事などを紹介


【100字紹介】
 東京の地名には意外と語源が不明なものが多い。
 それらの地名を幅広い視点で再考しながら、
 それぞれの土地についての歴史的出来事やエピソードを語るエッセイ。
 港湾都市の名残を留める政治・経済の中心地の意外な過去


東京の地名を中心にしたエッセイです。
由来を語るのかなーと思いきや、どちらかというと
その土地その土地ごとにばらばらな内容。
語源を考えてみたり、歴史的な出来事を紹介してみたり、
マイナーなエピソードを披露して見せたり。
江戸時代が多いですが、徳川家康がこの土地にやってくる前後での
変化についての言及も多々あります。

読んでみて思ったことは、考えていた以上に、
江戸時代に「江戸」という土地柄が大きく変化しているのだな、
ということ。土地の雰囲気もそうですが、地形すらもです。
江戸時代に、埋め立てが盛んに行なわれていたということが、
単なる記録としてではなく絵として思い浮かぶかのようです。

ただ、地名を取り扱う関係上、江戸・東京の地名をまったく知らないと、
ちょっと想像を絶するかもしれません。
また、現在の位置関係等は
かなり細かく書かれている部分もあるので、菜の花のように
まったく東京を知らない人間が読んでも意味が分からないことや
面白いと思えないことも多いですね。
その意味では、東京に縁があるか、または興味がある人が
読んだ方がよろしいかと思います。

基本的にはエッセイなので、著者が思ったことを書きとめ、
読者に語りかける形式です。その分、文章の個性もありますし、
冗談の類も多くなっています。
これらについて、合わないな、と思う人もいそうです。
というか、菜の花とは相性がよくないタイプです。
というわけで、ちょっと評価は低め。
好きな人にとっては、「え、何で?」と言われそうですが、
読者を選ぶという特性と、地名等が地図で説明されないことから、
万人向けではない、ということで、
あくまで菜の花の個人的なお勧め度としては、2くらいで。


テーマ : 東京の各土地
語り口 : 1人称的
ジャンル : エッセイ
対 象 : 東京に興味のある人向け
雰囲気 : 雑念とした

文章・展開 : ★★★★★
学 術 性 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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475. 「イチゴミルク ビターデイズ」     壁井 ユカコ
2008.07.02 中編 217P 1400円 2007年9月発行 メディアワークス ★★+★★
24歳、OL3年目の私と17歳のわたし。


【100字紹介】
 ごく平凡な8畳ワンルームがわたしのお城。
 携帯ゲーム機の中で飼っている柴犬が同居人。
 しがないOL3年目。
 そんなわたしの元へ、大金を持った旧友が転がり込んでくる。
 17歳の高校時代とリンクしながら進む物語。


ごく平凡な、OLの「わたし」、千種いづみが主人公。
地方の出身で、大学進学で憧れの東京へ、
そしてそのまま東京で就職し、特に大活躍することもなく、
普通に生きて、普通に働いて。
くっついたり離れたりの恋人か否か微妙な関係の男友達がいて、
そしてちょっといい雰囲気になっている会社の先輩がいて。

そんな平凡な生活を送っていた千種が帰省したところから、
物語は始まります。母校にふらりと寄ってみたとき、
高校時代のとある友人を見かけた気がして、
懐かしく17歳の頃を思い出していたら…。
ある日突然、その旧友が転がり込んできます。
大量の札束と、あやしい笑い。
「人を殺して、お金を盗んだの。
 だから千種、しばらくかくまってくれるわよね?」


著者曰く、この物語は「青春のビフォー&アフターストーリー」なのだとか。
章ごとに24歳、17歳、24歳、17歳、とタイトルが交互にかわり、
語られる年齢が縞々になっています。なるほど、ビフォーとアフター。
既刊の「NO CALL NO LIFE」で「擦り切れそうなぎりぎりの青春を書きたかった」と
あとがきに書き、「いや、擦り切れそうっていうか、擦り切れてるよ!」という
突っ込みを受けまくり(菜の花もそう思います、非常に正しい)、
「今度こそ擦り切れていない青春を書こうと思った」という動機とのこと。
その辺りは、あとがき参照。
今回は、大体いいところなんではないでしょうか。


構造は上述のように同じ主人公の24歳の今と17歳の昔の話が
交互に出てきて、その両方でミステリアスな旧友・鞠子と出会い、
その謎に触れて、謎が深まり、そして真実が…というつくり。
基本的には日常の域を出ないで、その小さな山を
ひとつひとつ乗り越えながら生きていくような、
そうですね、著者らしい作品。
内容は結構、軽め。
「さらっと読める話」というのもあとがきにありましたっけね。
うん、まさに。


菜の花の一押しキャラ…京本さん 「あの人なら千種を幸せにするわよね」  「そうね」               「でも、千種はあの人を選ばないのよね」 (古池 鞠子、千種 いづみ)
主人公 : 千種 いづみ
語り口 : 1人称
ジャンル : 小説一般
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 青春、恋愛、日常
結 末 : 静かにそのまま
装丁・デザイン : カマベヨシヒコ

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★+★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
476. 「MORI LOG ACADEMY9 モリログ・アカデミィ9 おあとがよろしいようで」     森 博嗣
2008.07.11 エッセイ 352P 670円 2008年3月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した、森博嗣のシリーズ9


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
 「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
 著者にしては珍しく、作家交流の多い
 2007年の秋から年末までの3ヶ月。
 特別講義はメフィスト賞作家・西尾維新氏
             

第9巻です。
2007年10−12月の、3か月分の森博嗣の
ブログの内容を再編成しています。
カテゴリ分けはHR、国語、算数、理科、社会、
図工、体育、音楽、放課後、特別講義。
いつも通り、内容量は圧倒的にHRが多いです。
今回は秋から冬…、年末にかけて。


いつも通り、淡々と読ませて頂きました。
50歳の誕生日が期間内に含まれており、
今後の長編の作品数(シリーズごと)が発表されていました。
気になる方はチェックしましょう。(ここには書かず。)

しかし、毎日よくこんなに書けるなー、仕事とはいえ…、
と一瞬思ってから、ああそうかと納得。
考えてみれば菜の花だっていつもそのセリフを言われてました。
まあ、質が全然違うと思いますけど。(菜の花のは売れないなー)。

菜の花も、日常を大量に書いていると、
プライベートをすべてさらしているとよく誤解されますが、
それについては本書でも「すべてを書いているわけではない」
…というような話が出てきていました。
ええ、そうなのですよね。
書きたいことだけ書いて、書きたくないことは書かない。
当然。
でも、書いてある量が大量だと、
書いてあることがすべてだと誤解する人はいるようです。

そんなわけで日記シリーズやエッセイも、小説も、
森作品は全部読んできた菜の花が更に、
このモリログ・アカデミィをすべて制覇してもやっぱり、
森博嗣という人を「知っているつもり」になれても、
実際のところは推し量ることすら出来ないのかもしれないなー、
と思ったり。でも、別に「森博嗣を知りたい」から
その作品を読んでいるわけではなくて、
作品を読みたいから読んでいるだけなので別に支障はないですが。

このモリログ・アカデミィも2008年12月で終了。
今回は2007年12月までなので、ちょうどあと1年分で終わりです。
何となく淋しいような。
別にこのブログに何を求めているというわけでもないのですが。
…不思議ですね。


テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
装画、総扉・目次イラスト : 羽海野チカ
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
477. 「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち4」     壁井 ユカコ
2008.07.13 ライトノベル 271P 570円 2008年4月発行 メディアワークス電撃文庫 ★★★+
鳥籠荘の、ちょっとおかしな住人たちの物語


【100字紹介】
 ”ホテル・ウィリアムズチャイルドバード”、
 通称・鳥籠荘には、普通の社会になじめない
 一風変わった人々が住み着いている。
 ちょっとおかしな住人たちの、
 だいたいふつーでだいぶおかしな日常をつづる
 連作短編第4作


鳥籠荘の第4作。
今回もどこから読み始めてもOKらしい全5話(挿話含む)。
でも第4話は、ちょっとクライマックスへの道のりでしょうか。

変な住人ばかりが集まっていると評判の賃貸アパート<鳥籠荘>。
元々はヨーロッパの貴族が建てた西洋建築の洒落た別荘で、
本名は「ホテル・ウィリアムズチャイルドバード」。
住人は実際のところ、一風変わったどころではなく、完全なる「変人」。
今回のプロローグとエピローグを読んでいるともう…(笑)。

今回は話数最多で登場です。
プロローグ・エピローグの「病棟にてI」「病棟にてII」は、
どこかでつながりがあります。中身を読んでのお楽しみに。

第1話「Father's Style〜エビフライと華乃子の場合」は、
前作第1話と同じく、ゴスロリかつスーパー主婦な小学生
(何てことだ)の華乃子ちゃんときぐるみパパの山田父娘と、
再登場の加地君母子のお話。うーん、部長さん、凄い人だ…。
親子愛の物語…なのです、はい。

第2話「Father's Style〜ウサギスープとキズナの場合」は、
タイトルから言っても前話と対をなすもの。
華乃子ちゃんは、べったりで分かりやすいファザコン(!?)ですが、
キズナの場合は果たして…?
浅井有生&井上由起の、やんちゃざかりの弟妹も登場し、
更に有生&由起が大変なことに、そのときキズナは…!な話。

第3話「Sadism〜フィアンセは愛しく危うく」は、
主人公は新キャラのアヤヒコさん。
ヒロインは…へれんさん。というか、へれんって本名…?
明らかになるへれんさんの身の上。
アヤヒコさんは、苦労人というか、むしろ鳥籠荘に住めそうなほど、
実は変人なのではないかという気もちょっとしてしまいますね。

次は挿話。皆子の思い出。徐々に明らかになる皆子像ですね。

そして第4話「Home〜逃げる理由、とどまる意味」は、
クライマックスな雰囲気いっぱいの、キズナの物語。
どうなってしまうのでしょう、キズナ。
由起の学生生活もちょっと見られて、おおお、と。
一応、普通にしてれば普通の人なのに、由起…。
次回作への大いなる期待を抱かせる最終話でした。


菜の花の一押しキャラ…衛藤 キズナ 「キズナが頑張ってることを知ってる。突風に倒されないように踏ん張って、    ずっと一人で今まで歩いてきたことを知ってる。だからときどき弱くなったって  いいんだよ。そういうときは俺がそばにいるから。ほら、だから今もいるだろ」 (井上 由起)
主人公 : 衛藤 キズナ ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 淡々と、フツーじゃないフツーの日常
結 末 : 一話ごとにオチ、悲喜こもごも
イラスト : テクノサマタ

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
478. 「知っていそうで知らない台湾 日本を嫌わない隣人たち」     杉江 弘充
2008.07.14 一般書 227P 720円 2001年8月発行 平凡社(平凡社新書) ★★★+
国と名乗れない悲哀…台湾と台湾人の実像。


【100字紹介】
 選挙はいつもお祭り騒ぎ、植民地支配を受けたのに親日派、
 たった十数年で華人社会初の民主主義を確立、
 国際関係の孤立をよそに時に騒々しく、
 時に誇り高く、時に狡猾に生き抜いていく
 台湾人と台湾社会の実像を伝える


台湾といえば…えっと、どこの国だっけ…?
中国だったかなあ、それとも台湾国だっけ?
菜の花の初期状態、こんな感じ。

そんな初心者でも大丈夫かもしれない台湾本。
著者は新聞社の記者。台湾の特派員として3年ほど台北滞在。
そのときに得た知識や、経験を踏まえて、
台湾の、特に政治関連の情報に重点を置いた紹介をしています。
滞在期間が97年から99年のため、この付近の情報が中心ですが、
民主化の流れとして、戦後以降の話もあります。

実際に本人が李登輝氏とお会いしたことがあるらしく、
李氏とその後継的陳水扁氏の2者が主に取り上げられる形です。
陳氏の選挙戦のあたりは特にリアルタイムでの経験のためか、
ずいぶん詳しく記述されています。
きっとこれが、当時特派員として台北に滞在していた著者の、
取材対象の中心であったのでしょう。

あとは、台湾から見た中国、中国から見た台湾、
それに台湾および中国の対日関係、各国との関係、
戦前の日本統治に関する話題、政局の話など。
多少の偏りはありますが、全般に台湾という国と、
その置かれた立場などをざっと知るにはちょうどいいかも。


テーマ : 台湾(特に現代台湾)
語り口 : 1人称的
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 取材ライター

文章・展開 : ★★★★★
学 術 性 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
479. 「篁破幻草子 六道の辻に鬼の哭く」     結城 光流
2008.07.19 ライトノベル 254P 476円 2006年4月発行 角川ビーンズ文庫 ★★+★★
小野篁&橘融のオカルトファンタジー第4巻


【100字紹介】
 ときは平安のはじめ。人の身でありつつ夜は冥府の官吏として、
 都にはびこる鬼を狩る小野篁。彼の持つ凶星・破軍の魂を
 手に入れようと謀る異貌の鬼・朱焔の魔の手が、
 今度は妹の楓に迫る。オカルトファンタジー第4巻


シリーズ第4巻です。
前巻では篁の幼なじみである橘融が狙われましたが
(本文によると「篁の言うことを聞かなかったばかりに
殺されかかったり死にかけたり死にかけたり死んだりしたことを
思い出した融」ということに…何て可哀想な)、
今回狙われているのは融ではなく、妹の楓の方。

ちなみに融は宿星・廉貞星(北斗第5星)で、
楓は宿星・文曲星(北斗第4星)という設定。
現時点では第1星・貪狼星が燎琉ということは分かっているものの、
それ以外の星は明かされず。

今回の物語の主要キャラは。
井上皇后。酒人内親王。謎の少女。そして楓。…という女性陣。
男性陣としてはやはり、雷信あたりの活躍、というか
「実は…」がなかなか、みどころかも。


全体に、技術的にちょっと詰めが甘いような気が。
雰囲気はいいのですけれども。
特にラストは完全に次巻に続く、ですけれども、
何とここまでやるのか、次の展開はどうなる!?という、
いい感じの突き落としっぷりで…。

いよいよ次巻が完結編です。楽しみですね。


菜の花の一押しキャラ…橘 融 「少しは学習しろ」(小野 篁)
主人公 : 小野 篁(橘 融)
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 次巻に続く
イラスト : 四位広猫
デザイン : BELL'S

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★+★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
480. 「超バカの壁」     養老 孟司
2008.07.22 エッセイ 190P 680円 2006年1月発行 新潮社(新潮新書) ★★★+
バカの壁を越えるための方法は自分で考える


【100字紹介】
 「今の日本社会には、明らかに問題がある。
  どんな問題があるか。私はものの考え方、見方だと思っている。」
 「バカの壁」を越える方法、考え方は自分の頭で生み出す。
 そのためのヒントが詰まった、新潮新書、第3弾。


ベストセラーになった「バカの壁」、
第2弾「死の壁」に続く第3弾「超バカの壁」です。
超越したバカ、というわけではなくて、
「バカの壁」を「越」える、という意味。

既刊の2冊刊行後に色々と相談が寄せられ、
それに答える形で書かれているとのこと。
しかしそれぞれの相談はとても具体的で、
その具体的な個々の事例に関して具体的に答えることは当然出来ない
(まえがき内では「自分のことは自分で決めるので、相談とは、
 根本的には「考え方」についての疑問である」とある)。
そのために、それぞれの質問の大枠に関して、
養老孟司なりの「考え方」を語ったのが本書、ということになります。

自分で考えろ、というのはとっても教育者的。
でもちゃんと「自分はこう考えているんだ」を示すところが、
とても教育的。大学の先生って、研究者的顔と教育者的顔の
両方を併せ持つものですが、あー、やっぱり養老孟司氏は、
大学の先生だーと思いましたよ。(元、かもしれないですが。)

取り上げている問題は
若者の問題(フリーター、ニートほか)、自分の問題、テロの問題、
男女の問題、子供の問題(少子化、いじめ)、戦争責任の問題、
靖国の問題、命の問題、心の問題、人間関係の問題、
システムの問題、本気の問題など。

それにしてもずいぶん色々な問題を相談されたものですねー。
本を書くのも大変です(笑)。
これらのそれぞれの問題に、エッセイ風に書いています。
答えになっているものもあり、ないものもあり。
自由に語っています。内容的には当然、「バカの壁」と同じ。
そう、本書内でまさに「(自分なりの)原則を持つ」ということが
重要だと書いている章がありますが(これがプロであり、
職業倫理につながる、という話ですが、一事は万事とも言える)、
実際に著者は著者の中に原則があるのでしょう。
そしてそれが安定となり、別の章で語られていた
「安定しているものは強い」に通じるのでしょうね。

自分の意見をきっちりと書くという姿勢は、
もしかしたら森博嗣氏のエッセイと共通するところかも、
と思いました。どちらも理系の大学教員であるところも、
似ている要因なのかもしれませんが。
勿論、まったく専門が違いますから理系でひとくくりに
するのはどうかとも思いますけれども、
共通する何かを感じるのは確かです。
それを、きっぱり書かれていて潔い、好ましい、と感じるか、
または自分の考えと違うとしてイライラするか…。
それは読み手次第でしょう。


テーマ : 考え方一般
語り口 : 1人称
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 考えを述べる

文章・展開 : ★★★★★
学 術 性 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
481. 「ブギーポップ・クエスチョン 沈黙ピラミッド」     上遠野 浩平
2008.07.22 ライトノベル 319P 570円 2008年1月発行 メディアワークス電撃文庫 ★★★★★
消えてしまった過去と想い出をめぐる物語。

【100字紹介】
 覚えていること、忘れてしまったこと。
 消えてしまった愛と、友情と、夢と。
 答えの見えない問いかけを巡り、
 死神を探しながら消えてしまった過去を辿る少女たち、
 そして様々な思惑を秘めた合成人間たちが織り成す物語


ブギーポップシリーズです。14作目くらい?
(ビートのディシプリンを除く)
ブギーポップシリーズは、
「誰かの人生の一番美しいとき、それ以上醜くなる前に
 命を絶ってしまう死神」と女子高生に噂される
ブギーポップが出てくるライトノベル作品群。

今回は、失われてしまった過去の物語が根底にあるらしい、です。
よく分からないのですが、何かが過去にあったらしい。
合成人間と、過去に「何か」に巻き込まれてしまった人たちが、
どうやらその過去に関わったらしい「死神」を探して、
再び出会うというのがまあ、あらすじ。

主要人物でよく目立っていたのはメロー・イエロー。
通称・死にたがりのメロー。
合成人間の中でも「スーパー・ビルド」の彼女は、
1人称の主人公ではないながらもこの物語のキーとなる人物。
シリーズ通してのメインで取り上げられるテーマである、
思春期の少年少女の不安定な気持ちを
持ち合わせた合成人間とも言えるかもしれません。
なかなか面白いキャラでした。今後も登場する可能性はあるのかも?

ラストはいつも通り、ブギーポップが登場しますが、
今回は結構早い段階からちょくちょく出てきます。
まあ、みんなで追いかけていますからね。
そういうことも。

それぞれの章の扉が面白いです。
黒地に「?」、章名は「Question 1」〜「Question 10」までで、
「死神ってなんですか?」「生死ってなんですか?」以下、
「真実」「失恋」「仲間」「友情」「絶望」「記憶」「世界」「正解」。
それぞれに白い丸の中に2-3等身のチビキャラがいて考えています。
一番下に小さく「ヒント」。
「生死ってなんですか?」「(ヒント)経験者には訊きたくても無理です。」
「真実ってなんですか?」「(ヒント)言った者勝ちなのが困りものです。」
「絶望ってなんですか?」「(ヒント)いくら消してもなくなりません。」
「世界ってなんですか?」「(ヒント)実はかなりいい加減ですが、許してくれません。」
…うーん、ヒントというか、自分なりの答え?


菜の花の一押しキャラ…メロー・イエロー 「館川さん、君にはきっと生きていく理由があるんだと思う」 (真下 幹也)
主人公 : 館川 睦美
語り口 : 1人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : 何かの続き?
イラスト : 緒方 剛志

文 章 : ★★+★★
描 写 : ★★+★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
482. 「スカイ・イクリプス Sky Eclipse」     森 博嗣
2008.07.28 短編集 245P 1700円 2008年6月発行 中央公論新社 ★★★★
「スカイ・クロラ」シリーズの番外短編集。


【100字紹介】
 スカイ・クロラのシリーズの短編集。クサナギが、
 カンナミが、クリタが、ササクラが、カイが、フーコが、そして…。
 シリーズ内での「主人公」の謎に迫れるかもしれない
 後日談風の書き下ろし作品も含んだ、8つの物語


装幀の美しい「スカイ・クロラ」のシリーズ最新作
(そしてこれで本当の最終作か)の短編集です。
書き下ろし3作を含む、全8編。

というか、とってもタイムリーかも。
スカイ・クロラ、ちょうど映画が公開間近となっています。
見に行ったりはしないと思いますが…、噂によると、
原作の文章のよさが生かされていないらしいとか…さて。

このシリーズの特長は、そのリズム感にあると思っています。
特に飛行部分に多く見られるのが、
体言止めを多用し、たたみかけるように連なる短い文章。
まるで自分が空を飛んでいるような、
緊迫感と開放感が共存する不思議なイメージです。
飛行部分でなくても、空を希求する部分などにも、
同様の雰囲気が漂っています。
この部分は、リズム感と言っても、単なる文章の音律ではなくて、
何というか、思考のリズムというのでしょうか、そういうもの。
リズムが合って、それに乗って
不思議なくらい、静かに心に入ってくるような。

そんなシリーズですが5作で完結してしまい、
ちょっと淋しいな、と思っていたところに登場したのが本作。
5作は雑誌上で掲載済み、3作が書き下ろしです。
特に、書き下ろしのものは、シリーズ最後で「結局「僕」って誰だったんだー!」
という気持ちになった人は、是非読んでおきたい作品かも。
まあ、読んだからってすっきり全部解決とはいかないところが、
また厄介なのでありますが…。
菜の花の中では、結構謎が深まってしまいましたよ。
何となく分かる気はするものの…。
さりげない一言に「うわ、やっぱり!?」なんて叫びつつ、
文章自体もたのしみつつ…なかなか読むのも忙しい作品です。
更なる作品は…もう出ないだろうなあ…。
でももう少し、あと少し、浸っていたくなる不思議なイメージの作品です。


菜の花の一押しキャラ…特になし 「綺麗に飛ぼう」
主人公 : -
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 暗め、飛行機、マニアック
表紙写真 : Yoichi Tsukioka
ブックデザイン : 鈴木成一デザイン室

文章・描写 : ★★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
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