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(2008年6月…463-473) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2008年6月の総評
今月の読了冊数は11です。最近での最高記録。
ですが、内訳は一般書2、写真集1、エッセイ1、ライトノベル7。
ラノベで稼いでいるだけかも…。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣1、結城光流4、壁井ユカコ2です。

2008年6月の菜の花的ベストは…

 「女帝の歴史を裏返す」           永井路子 (評定4.0)
 「島の名前」                中村庸男 (評定4.0)

「女帝の歴史を裏返す」は2005年に行なわれた、
朝日カルチャーセンターでの講演をおこし、
加筆修正したもの。小説家による、
感情の流れと学術的根拠が綺麗に描かれた、
読んで楽しい歴史小説的講演です。

「島の名前」は海洋写真家・中村庸男の風景写真集。
タイトル通り、世界中の「島」の写真を、
島名の由来や島の歴史に関する文章と共に紹介します。
一般人では簡単には行けないであろう地域も含んでいて、
ページをめくるたびに飛び出してくる世界中の島々に、
思わずため息のもれるような素敵な写真集です。


以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「「気持ちのよい人」94のルール」     斉藤茂太 (評点3.5)
 「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち3」     壁井ユカコ(評点3.5)

「気持ちのよい人〜」は医者である斉藤茂太の自己啓発系本。
94の独立したルールについて、
見開き2Pのエッセイ的文章で説明します。
ちょっとした合間の時間に読むのに最適。
目新しいことはないですが、読むと元気になれます。
最近、停滞気味の人にお勧め。

「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち3」は、壁井ユカコのシリーズ第3巻。
”ホテル・ウィリアムズチャイルドバード”、通称・鳥籠荘に住む、
普通の社会になじめない一風変わった住人たちの、
ちょっとおかしなフツーの日常をつづる連作短編ライトノベル。
今回は、嵐の夜の殺人事件を取り巻く、
3つのゆるゆるとつながったお話を収録しています。


 「デュアン・サークII 7, 8烈火錯乱(上)(下)」深沢美潮 (評点3.0)
 「少年陰陽師 数多のおそれをぬぐい去れ」  結城光流 (評点3.0)
 「エンドロールまであと、」         壁井ユカコ(評点3.0)
 「モリログ・アカデミィ8」         森 博嗣 (評点3.0)
 「篁破幻草子 宿命よりもなお深く」     結城光流 (評点3.0)

「デュアン・サークII 7,8」は、深沢美潮のライトノベル。
その名の通り、デュアン・サークシリーズの第2部の、7巻8巻。
剣と魔法の冒険世界という、RPGゲームのような世界を舞台に、
散っていた前シリーズの主人公3人(デュアン・オルバ・アニエス)が集い、
火の神殿で起きた悲劇に立ち向かっていきます。

「数多のおそれをぬぐい去れ」は結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第21巻。新章「玉依編」のスタートです。
新しい舞台と役者を揃えるための準備の巻、といったところ。

「エンドロールまであと、」 は壁井ユカコの単発作品。
まあ、分類するならラノベかと思いますが、ジュブナイル的要素が強いかも。
旧家に生まれた双子の高校生、右布子と左馬之助が、
運命に翻弄されながらも成長していく、青春恋愛ものです。
でもラストは、切ないです。

「モリログ・アカデミィ8」は森博嗣のブログ日記の第8巻。
オンライン公開されている同名ブログの、
2007年7−9月の、3か月分を収録。
よく動き、よく働き、よく遊んでいる姿が見ていてたのしいです。

「宿命よりもなお深く」は、結城光流の篁破幻草子シリーズ第3巻。
小野篁&橘融のオカルトファンタジーです。
これまでの2作から一気に主人公たちが成長し、
それまでの「少年」風から「青年」になって心機一転。
「星宿」の指し示す運命とは、そして彼らの未来とは…?


 「篁破幻草子 あだし野に眠るもの」     結城光流 (評点2.5)
 「篁破幻草子 ちはやぶる神のめざめの」   結城光流 (評点2.5)

「あだし野に眠るもの」「ちはやぶる神のめざめの」は
いずれも結城光流の篁破幻草子シリーズ。
第1巻と第2巻にあたり、著者デビュー作と第2作でもあります。
少年・小野篁&橘融のオカルトファンタジー。
これから続く物語の布石、といったところでしょうか。


以上、今月の読書の俯瞰でした。







463. 「デュアン・サークII 7、8 烈火錯乱(上)(下)」     深沢 美潮
2008.06.01 ライトノベル 321P
301P
570円
550円
2006年8月発行
2006年12月発行
メディアワークス
(電撃文庫)
★★★★★
再びデュアン・オルバ・アニエスが集う冒険


【100字紹介】
 別れの時から半年。3人が再び出会う時、新たな冒険が始まる。
 魔法戦士としての道を歩み出したデュアン、
 師を喪ったオルバ、火の精霊使いとなったアニエスは、
 火の神殿で起きた悲劇に立ち向かう。シリーズ第7・8巻


デュアン・サークの第2部であるデュアン・サークIIの
第7巻・第8巻です。いつも通りの上下巻。

主人公でファイターのデュアン・サークは、もうLv.9に。
前巻で、レンジャーになった森の少女ルルフェットとともに、
ベテランファイターのオルバ・オクトーバと再会するため、
彼が指定したガイトムンドのアズルの元へ旅立ちましたがその続き。
そして前巻で師を喪ったオルバもまた、アズルを訪れていました。
前作から登場の僧侶のズーニョと共に。
更に、魔法使いから火の精霊使いに転職した、
アニエス・R・リンクがあっと驚く登場をし、
久々に「あの3人」が揃い踏みでクエストに挑むことになりそうです。
ただし、メンバーが増えたことだけでなく、何となく雰囲気も、
そして彼らの関係も少し、変わりましたけれども。
それは読んでのお楽しみ。


いつもにも増して色恋なカラーです。
何だか若いなあ、と思うようになってしまった菜の花は、
もう若くないのね(しくしくしくしく)。
今回は、彼らの恋愛物語を堪能しつつ、
アニエスの頑張りもお見逃しなく!ですよ!
火の精霊使いとなった彼女、頑張ってます。

彼女の修業も技も、それにデュアンの戦いもそうですが、
精神世界での戦いってなかなか描写が難しいものだと思います。
物理的な戦いなら、身体の動きで表現できますけれども、
精神世界の戦いの辛さは、ことばにしづらいですからね。
この辺り、かなり頑張って表現されている感じです。

それにしても一気にレベル上がりましたねー、
本巻のラストの乱戦で。ちょっと上がりすぎでは…(^ ^;)。
特に、ルルフェとアニエス、頑張りまくりですね。

そういえばズーニョ・ルルフェ・アニエスの女性3人組が
意外にいい取り合わせらしく、デュアン・オルバより
強そうな感じであるのがちょっと面白かったです。
以前はデュアン・オルバとアニエスとか、
オルバ・アルフレックとズーニョとか、
デュアン・サヴァランとルルフェとか、
女性の方が人数が多いってこと、なかったような。
うん、女の子の勢力が増してますね、
負けずに頑張ろう、デュアン。


菜の花の一押しキャラ…アニエス・R・リンク 「いつも言ってるだろう。引っ張るな!服が伸びる!」(サガン)
主人公 : デュアン・サーク
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : RPG系ファンタジー
結 末 : まあ、ハッピーエンド
イラスト : 戸部 淑
デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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464. 「女帝の歴史を裏返す」     永井 路子
2008.06.03 一般書 198P 1500円 2005年11月発行 中央公論新社 ★★★★
歴史の流れの中に生きた女帝達の思いを描く


【100字紹介】
 歴史の大きな流れの中に生きた女帝たち。
 その時代の、彼女たちのおかれた状況から、
 人間としての思いを掬い上げ、
 それを軸にして「小説家」が描き出す歴代女帝たちの姿。
 史料から浮かび上がる生き生きとした歴史の書


日本の女帝たちを通観する歴史系エッセイ。
ああ、でもエッセイ…というかどうかはちょっと不明ですが。
2005年4月から3回に渡って行なわれた、
朝日カルチャーセンターでの講演をおこし、
加筆修正したものが本書。

元々が講演なので、語り口も口語となっています。
とても丁寧なお話しぶりで(ご本人の「はじめに」によると
色々とご自分では恥ずかしいらしいですが)、
分かりやすいだけでなく、とても親しみやすくて温かい文章です。

内容としては以下のような章立て。

推古天皇 ― 御存じですか、東洋最初の大女帝 皇極(斉明)天皇 ― 大工事の謎を残して 持統天皇 ― 栄光と悲劇を一身に 元明天皇 / 元正天皇 ― 聞いてください母と娘の思いを 孝謙(称徳)天皇 ― 恋に生き、愛に死し… 明正天皇 / 後桜町天皇 ― 「マサカ」の出現、両女帝
それぞれの章で1〜2名の女帝を紹介します。 紹介、と言ってもその事跡を無味乾燥に追うのではなく、 生い立ちや、血筋、おかれた環境などを説明しながら 彼女たちの「思い」に思いを馳せてみせつつ、 実際の行動へそれがそのように繋がっているのか、を シームレスに語って見せます。 読んでいると、もうそれが真実に違いない、と思えてくるから凄い。 小説家、恐るべしです。 そう、これは小説家の手によるもの。 史料と事実にのみ拠る、学術的な「女帝論」とは異なるもの。 だからと言って、現代の常識などに話を持ってきて感情論を述べたり、 だから今こうすべき、と主張するような「女帝論」ともまた違います。 古代の状況を冷静に考え(そこはなるべく学術的に)、 その中から、こんな状況にあればきっとこんなことを考えるだろう、 と想像しながら彼女たちの実際の動きを紹介していきます。 学術的な部分と、心情的な部分が渾然一体となっているわけですが、 そこがとても自然な流れになっているところが小説家らしい、と。 勿論、学術的なことを考えても、女系の家系に関する考察などは、 今まで思いも寄らなかった菜の花なもので、 お陰様で「あ、そうか」が沢山あって、大変興味深かったです。 これがすべて真実とは当然、限らないのですが、 真実であってもおかしくはないよね、というように、 小説でも楽しむように読むのに面白い歴史です。 ちなみに一番大きく取り上げられているのは持統天皇、 逆に扱いが小さいのが最後の江戸時代の女帝です。 持統天皇…百人一首で知っているばかりだったのですが、 こんな方だったのね…、としみじみ。 折角なので、この著者さんの小説の方も読んでみたいな、 と興味を抱きました。それはまたそのうち。
テーマ : 女帝
語り口 : 講演(口語)
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 小説風

文章・展開 : ★★★★
学 術 性 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
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465. 「「気持ちのよい人」94のルール」     斉藤 茂太
2008.06.06 一般書 204P 533円 2005年5月発行 知的生きかた文庫
三笠書房
★★★+
もっと前向きに生きるヒントが欲しい人へ。


【100字紹介】
 何故か人にも運にも恵まれる「気持ちのよい人」、
 貴方の周りにもいませんか?
 そんな生き方に憧れる人へ、お医者さんが94項目のコツを紹介。
 実例を挙げながら、毎日いい気分でいるための
 前向きな生き方を提案します


ハウツーというよりは、自己啓発系?
著者はお医者さん。
何となく、どこかで見たような名前だなあ、と思ったら、
斉藤茂吉氏の息子であり、北杜夫のお兄さん…らしいですね。
でも、全然、著者紹介にはそんなことは書いてありませんでした。
他の人の名前で売ったりせず、自分自身で勝負できるというのは素敵。
まあ、単に菜の花が物知らずなだけで、
きっとそもそも当人が有名な方なのでしょうけれども。
(すみません、まったく存じ上げておりませんでした。)

タイトルの通り、94の項目があります。
これらすべて、それぞれ見開きの2Pで構成されています。
それに「はじめに」と目次が入ってすべて。
それぞれの項目は特に排他的ではありませんし、
系統だってもいません。
そういう「教科書」的な感じではなく、
むしろエッセイと言うべきでしょうね。

特に順番すら関係なく、思いついたことを思いついたように
並べた感じがします。うまいところは、そんな単純に見えて、
意外にきっちりそれぞれの粒があっていることかも。
なので、どれから読んでもいいし、
時間をあけてちょっとずつ読書するにも向いています。

それぞれの項目ですが、基本的には「そりゃまあ、そうだよなー」と
納得が出来るものが多いです。
逆に言えば、目新しさはもしかしたら少ないものも多い、と
言えるのかもしれませんけれど。
でも何となく元気が出てくるような気になるから不思議。
あまりにも落ち込んでいる人にはどうかと思いますが、
何となく疲れたなーという人が、気分転換に読むのは悪くないかも。
それが実際に使えるかというのはその人の気分と環境次第。
使えるところを切り取って実践してみるのも一興、
そんな馬鹿な、あはは、と笑うのもまたありなのかな。

こんな自分というのも面白いかも?とか、
そういう想像をしてみるのが、停滞した感のある人にはいいかもしれません。


テーマ : 生き方
語り口 : エッセイ
ジャンル : 一般書(ハウツー系)
対 象 : 一般向け
雰囲気 : エッセイ

文章・展開 : ★★+★★
学 術 性 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★+
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466. 「少年陰陽師 数多のおそれをぬぐい去れ」     結城 光流
2008.06.08 ライトノベル 251P 476円 2008年2月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫昌浩の活躍!シリーズ第21巻


【100字紹介】
 時は平安。主人公の14歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 出雲での戦いからひと月、昌浩が戻った都は、不穏な気配に包まれていた。
 止まない長雨、内裏を覆う奇妙な雰囲気、謎の人物、新章「玉依編」開幕


シリーズ第21巻です。
新章「玉依編」が始まりました。

昌浩は都に戻り、日常生活の中へ。
しかし昌浩、前巻でとっしーが気付いたように、
何となく内裏の方から嫌な気配が渦巻いているのが気になります。
内裏内でも、やはり色々と異変が…。
そして風音は、長らくの禊をして調子を取り戻し、
助けを求める人のところへ。
更に謎の少女と青年がセットで伊勢の地で登場。
内裏内にも怪しい女性が…。

新章のための、役者と舞台をそろえた、という感じのこの巻。
今度は伊勢と内裏、中心は皇族と、
あの謎の伊勢陣営かな。
本格的に風音が昌浩陣営側についた雰囲気で、
12人も神将がいる割に万年人手不足な様子の昌浩は、
ずいぶん安堵できる状況かも。
今回も、彰子が中心に関わってしまいそうな様子なので、
ますますですね。

それにしても…太陰かわいそうに。。。

そういえば冒頭に某氏が顔見せしていますが…、
以降の巻で出張してくる予定なんでしょうね、やはり。
これはそちらのシリーズも読まねばなあと。
商売上手!?


菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「あれは相変わらずだ。息災といえば息災。       …生者でない者に息災というのもおかしな表現だな」 (冥府の官吏)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 次巻に続く
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
467. 「エンドロールまであと、」     壁井 ユカコ
2008.06.14 ライトノベル 322P 514円 2007年8月発行 メディアワークス ★★★★★
双子の高校生右布子の運命に翻弄される物語


【100字紹介】
 旧家に生まれた双子の高校生、右布子と左馬之助。
 生まれて初めて積極的に友達を作ろうとしたり、
 映研の活動に参加したりと、恋や青春に揺れる右布子。
 置かれた環境や運命に翻弄されつつ、心身ともに成長していく物語


主人公は双子のひとり。本来なら性別が揃うはずの一卵性双生児。
しかし、性別が異なります。
作中ではその理由に関しては断言はしないですが、
保健医の先生の憶測としては遺伝子のコピーミスが挙げられています。
(というか、どこかでミスがないと絶対無理なので妥当ですね。)
多分、おかしいのはメインの方の右布子。
最初の1ページ目でいきなり明かされる、余命。
ま、でも当初余命の10歳まで生きられません、は
どんどん延びてすでに彼女は17歳なのですが。
ので、まあ、身体が弱い人ってくらいで。
その他にも性染色体異常に関わるエピソードが
途中で明かされるので、それなりにこの設定は生かされているのかも。

で、舞台は主に高校。
握力がなくてペットボトルのふたすら開けられない右布子は、
教室よりも保健室にいることが多くて、
更にその保健室を間借りしている映画研究会に所属しているから、
高校内での舞台は保健室が多いかも。
途中で映画研究会の撮影で高校内を動きますけど!
プールとかフューチャーされます。でも水着は無いです、秋だから。

それからもうひとつの舞台が家。双子の生まれたのは旧家。
お屋敷を支配するのはおばあちゃま。
非常に厳しい女系の家で、絶対支配者のおばあちゃまに嫌われた
入り婿の双子の父親などは、家の敷居をまたがせないとかで、
家を追い出されて東京にいるらしい…。そんな怖いおうちです。


主人公はメインとしては佐々右布子で、1・3・6章と終章。
他の章はそれぞれ、2章が清野亜寿、
4章が西丸貴大、5章が佐々左馬之助と視点が変わります。

病弱で人付き合いの苦手な右布子は、どこか浮世離れしていて、
友達も一人もいない女子高生。そんな彼女が友人を作ろうと努力してみたり、
流れで所属している映画研究会で主演になったりと、
初めて「青春」というものを知っていく…というのが前半。

右布子の、友人がいないこの状況、
もしかしたら結構共感できる人も多いのでは。
友人が出来ない、でも友達なんていなくても…、
でももしも友達というのがいたとしたら…。
だけど、周りの人たちは何を考えているか分からない。
いや、分かってみたら、自分のことなんて見ていないことだって。
みんな、自分のことなんて…。
ここで、ああ、右布子って可哀想だな、なんて思ってみたりするのですが、
2章で亜寿の視点で語られるこの「友人問題」も、やっぱり納得なのです。
視点が変われば内容が変わる。
どちらが正しいとかではなくて。

章ごとに視点が変わりますが、読んでいるとみんな、
自分のことを考えるのに必死で、
それでもちゃんと人と人との関係が結ばれていって…、
そういうのが面白いなと。
主人公だけが可哀想な環境にあったり、
絶対的に良い人だったりするわけではないのも、いいですね。
そんなに最初から優れた人だったら、もう成長の余地は無いわけで。


恋の物語は、最終的な「たったひとつの正解」は、
まあこの辺りが着地点だろうなあとは思っていましたが、
何というか、やっぱり淋しいです。
壁井ユカコらしいといえばらしいですけれども。。。
終わり方としては、"No Call No Life"に近いかな。
最後の一文に、次への希望があるのでしょうけれども…。
でも、希望がすべての人に同じように訪れたわけではない、
というのが悲しいです。


菜の花の一押しキャラ…佐々 左馬之助 「今を撮りたい。今の俺たちを、そのまんまを」(西丸 貴大)
主人公 : 佐々 右布子
語り口 : 3人称
ジャンル : 青春/恋愛小説
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 青春もの
結 末 : Happy ENDではない
イラスト : 太田 早紀

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
468. 「篁破幻草子 あだし野に眠るもの」     結城 光流
2008.06.15 ライトノベル 222P 438円 2000年9月発行 角川ティーンズルビー文庫 ★★+★★
著者デビュー作の歴史オカルトファンタジー


【100字紹介】
 ときは平安のはじめ。類稀なる美貌とやわらかな物腰とで、
 宮廷貴族たちのアイドルとなっている十七歳の小野篁には裏の顔がある。
 墨染の衣に身を包み、宝刀と魔弓を携え京の闇を斬る、
 歴史オカルトファンタジー第1巻


「少年陰陽師」シリーズが絶好調の、結城光流デビュー作。
舞台は平安のはじめで、少年陰陽師よりはもう少し前の時代。
主人公は小野篁と、友人の橘融17歳。
小野篁といえば、昼間は普通の官吏として、
そして夜はあの世の官吏として活躍したなんてあやしげな伝説と、
あやしげなオカルトファンタジー系小説の常連さんですが、
本作もその「あやしい歴史オカルトファンタジー」です。

と書いてはみたものの、菜の花も別に小野篁さんを
よーく知っているってわけでも何でもなくって。
だから「類稀なる美貌とやわらかな物腰」という設定が、
とても意外なものか妥当なものか判断しかねますが、まあそういう設定。
そして、その「やわらかな物腰」というのが、
化けの皮だってことを知っているのは、
ごく身近な人々だけ…ってことで。
そんなわけで色々とばっちり(?)を受けつつも
強く生きている右大臣の息子の橘融が、
実際の物語の「視点」になっています。
秘密たっぷりの小野篁視点には出来なかったってことね。

本作はシリーズになるぞ!なるぞ!な感じを思いっきりかもし出している
(というか、絶対最初からそのつもりだ)、序章的扱い。
もしもここで終わったら、週刊少年○ャンプの
打ち切り漫画くらい悲しい終わり方です。

結局このシリーズはルビー文庫からビーンズ文庫へ移され
(本書ものちにビーンズ文庫から再刊行)、
5巻完結くらいになっていたかと思うのですが…、
さて、追いかけることにしましょうかね、
「少年陰陽師」も最新刊まで追いつきつつありますし。


菜の花の一押しキャラ…橘 融 「がんばれ俺っ、くじけるな俺っ、歩きだせ俺っ!」(橘 融)
主人公 : 小野 篁(橘 融)
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 次巻に続く
イラスト : 四位広猫
デザイン : BELL'S

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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469. 「島の名前」     中村 庸男
2008.06.21 写真集 207P 2500円 2004年8月発行 東京書籍 ★★★★
七つの海を旅しながら撮られた、島々の物語


【100字紹介】
 海洋写真家の著者が、七つの海を旅しながら撮った島を、
 島名の由来とともに地域別にとりまとめた写真集。
 大海原に浮かぶ島々には、多くの物語や自然や文化と、
 永遠のロマンがある。世界の島に出会う旅に出掛けよう。


青い海が印象的な表紙の、写真集です。
海洋写真家の著者の写真と文章で、
七つの海に浮かぶ、まだ見ぬ世界の島々を巡れます。

地域別に分け、それぞれを海名や諸島名で更に並べて、
個々の島の名前の由来や紹介、
著者が実際に訪れたときのエピソート等が語られます。
地域の順番は下記の通り。

ハワイ、ポリネシア
ミクロネシア、メラネシア
東南アジア
北太平洋海域
オーストラリア周辺
インド洋
大西洋
カリブ海
地中海
北極海と南極海

世界のすべてが対象!という感じですよね。
これらすべてを旅して、そしてフィルムに収めてきた著者は、
やっぱり凄いです。何しろ、観光地として有名な場所もある一方で、
どう考えてもそうそう、簡単に行けるような場所とは思えないような、
航路から外れていそうな小さな島や、絶海の孤島やらも
ごく普通に混じっているようなのですから。
Googleのマップを見ているとびっくりします。
え!?こんなところにある島まで行ったのか!って。
Googleでは殆ど点でしか見えないのに、詳細図にすると
「広域にしてね」と出てしまうくらいに、
他には何にもないところにあったり。
きっと菜の花は、一生縁がない地域なのです。
でも、そういう島々の写真や由来を見ていると、
何だかどきどきするのですよね。
世界は広い、色んなものがあるって。
絶対に自分が行くことはないであろう場所。
だからと言ってそれを知ることが無価値であるはずがないのです。
自分では見られないものを見せてくれる。
それがメディアの面白いところですね。

更に、島の歴史は悲しい歴史が沢山あることが
読んでいるうちに分かってきます。
侵略の歴史だったり、乱獲による生物の絶滅だったり…、
この辺りのことは著者の「あとがき」にもありますので、
参照してみるとよいでしょう。

ひとつだけ、注文をつけるとしたら、
この本には地図が一切出てきません。
どこどこの都市から何千キロ、というような記述が出てくるので、
ある程度、地名を知っている人だったり地図を片手にしていれば、
大体の場所は分かるかと思いますが…、
1つくらい世界地図があったり、もっと丁寧なら、
海域別に大体の場所の図示くらいあってくれたら…、
もっと分かりやすいのですが。

美しいだけではない、様々な島の姿を知ることが出来る、
美しい写真集です。


テーマ : 世界の島
語り口 : 写真集/エッセイ
ジャンル : 写真集
対 象 : 一般向け
雰囲気 : エッセイ

文章・展開 : ★★★★★
学 術 性 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★
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470. 「篁破幻草子 ちはやぶる神のめざめの」     結城 光流
2008.06.22 ライトノベル 224P 438円 2001年1月発行 角川ティーンズルビー文庫 ★★+★★
小野篁&橘融のオカルトファンタジー第2巻


【100字紹介】
 ときは平安のはじめ。昼間は宮廷貴族たちの憧れの君、
 夜は閻羅王直属の妖怪退治人、十七歳の小野篁。
 数十年ぶりに封印を解かれて祟り神となった荒らぶる神から、
 都を守りきれるか?歴史系オカルトファンタジー第2巻


シリーズ第2巻です。今回は2本立て。
短編「うばたまの闇に月鏡」と、表題作「ちはやぶる神のめざめの」。
表題作は、中編くらいでしょうか。

「うばたまの…」は、小野篁を恋い慕う余りに臥せってしまった女房の話。
というか、小野篁の親友である、橘融の受難話?
橘融、とっても良い人なのに、何だか扱いが可哀想です…。
そもそも本当に親友なのか!?くらいには。

「ちはやぶる…」は強大な敵、登場です。
国が傾きそうなほどに。
「橘」の秘密が明らかになったり、
融君に思わせぶりなことを周りが言ったり…。
それに関しては、きっと後の巻への伏線ということで(多分)。
前巻で、何となく凄いかもしれない…?と思っていたあの人が
大活躍のお話でした。禁鬼たちも活躍します。

魅力的なキャラクタが多数登場します。
少女漫画風ですけれども。(線の細いキャラが多い。)
ただ、全体的にまだキャラを活かしきれていない感じなのが残念。
用意された素材は素敵なので、今後の巻で是非もっと
描ききって頂きたいなと期待しつつ。


菜の花の一押しキャラ…橘 融 「…篁、そろそろその顔をやめないと、眉間のしわがかたまってしまうぞ」 「のぞむところです」               (今上帝、小野 篁)
主人公 : 小野 篁(橘 融)
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 次巻に続く
イラスト : 四位広猫
デザイン : BELL'S

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
471. 「鳥籠荘の今日も眠たい住人たち3」     壁井 ユカコ
2008.06.23 ライトノベル 273P 570円 2007年8月発行 メディアワークス電撃文庫 ★★★+
鳥籠荘の、ちょっとおかしな住人たちの物語


【100字紹介】
 ”ホテル・ウィリアムズチャイルドバード”、
 通称・鳥籠荘には、普通の社会になじめない
 一風変わった人達が住み着いている。
 ちょっとおかしな住人たちの、ちょっとおかしな、
 けれど色々フツーの日常をつづる連作短編


今回も紹介文が、20字も100字も前回と同じもので…。
多分、このまま全巻これで行っちゃう気がします、ええ。
基本的にはどちらから読み始めてもOK、と著者も仰ってます。

さて、鳥籠荘。変な住人ばかりが集まっていると評判の賃貸アパート。
元々はヨーロッパの貴族が建てた西洋建築の洒落た別荘で、
本名は「ホテル・ウィリアムズチャイルドバード」。
住人は一風変わったどころではなく、完全なる「変人」、
どちらかというと「近寄ると危険」な場所とすら…。
何しろ前巻では危うく、うっかり近づいた高校生が
殺されかけてましたからね…、しかも悪気なく。こわー。

そんな怖い(?)場所で、ここの住人たちは
世間の「フツー」とは違う時間や世界で「フツー」に生きています。
そんな日常なのか非日常なのか謎の姿を描く物語ですが、
今回は特に「ミステリアス&ホラー」らしい…。

ゆるやかにつながる全3話収録です。
第1話「加地くんちと山田さんち〜A Night in Panic SIDE-A」は、
1巻で登場したあの加地君と、
鳥籠荘の住人・きぐるみ父娘の娘の方、華乃子ちゃんが主人公。
きぐるみパパに春がやってくるのか!?
そしてきぐるみパパの中の人って…!?
気になるところでしょう?気になるところです。どきどき。

第2話「明日夜9時、と言わせるまでに2週間かかった、というだけの話
〜A Night in Panic SIDE-B」は、浅井有生と衛藤キズナの雷雨の夜の停電な話。
タイトル長い…でもこの感覚が実は菜の花、大好きです。
ツボにはまる、というか。
何が良い、って言葉で説明出来ないのですけれども。
基本的にはタイトル通りで、それ以上でも以下でもないのですが、
何気ないやりとりの中に「うわあ、凄くこのキャラらしい」というのが
沢山詰まっていて、愉しいです。
こんなにこのキャラクタが好きだったんだな、とも。

第3話「アッサム・メレンをミルクティーで」は、
新キャラ・ロメオの話…らしいですが。
浅井有生・殺人疑惑で拘留中の話!…という方が分かりやすい?
はい、捕まりました、浅井さん。第2話とゆるやかにつながっています。
そして後半は、第1話とゆるゆるとつながってもいます。
この話は、ちょっとロメオの描写とか、中間部が物足りない感じ。
でも、フィナーレはとっても素敵でした。華やかで絵になる?
最後の独白は、とっても切ないですが、次につながる感じで。

最後におまけの「こぼれ話 着ぐるみには着ぐるみを?」は、
華乃子・由起・有生が変装して、着ぐるみパパのデートを追跡する話。
何故変装するかはまったくもって謎…というか、むしろ目立つという。
何しろ、有生はペンギンの着ぐるみです。
華乃子ちゃんもあらいぐま着ぐるみですが(そしてイラストが可愛い)。
キズナが絡んできたときが愉しすぎです。
キズナちゃんのペンギン好きの真相が今、明らかに!?
考えてみると今回、解決した謎ってこの「ペンギン好きの理由」だけでは…。
そして、他の謎はすべて深まった…(笑)。
ちなみにこれは、第1話とつながっています。


それにしても鳥籠荘、面白いです。菜の花の好みにばっちり。
イラストも素敵。どれも可愛いです。
特にネコ&ネコ着ぐるみは最高です。
お風呂上りに華乃子ちゃんがパパにドライヤーかけている姿とか、
あの着ぐるみの閉じた目が絶妙。全体にどの絵も好き。
お話も思わず一気読みしてしまいます。
この魅力を、うまく語りつくせないのが口惜しい。
要修業、ですね。
菜の花も素敵な読者(と宣伝係?)目指して頑張ります。


菜の花の一押しキャラ…浅井 有生 「パパが華乃子のパパじゃなかったら、パパは何になればいいんだい?」 「パパはパパでいい。パパじゃなきゃ嫌だ」              「うん、よかった。パパはパパでいいのか」              (山田(父)、山田華乃子)
主人公 : 衛藤 キズナ ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 淡々と、フツーじゃないフツーの日常
結 末 : 一話ごとにオチ、悲喜こもごも
イラスト : テクノサマタ

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★+★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
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472. 「MORI LOG ACADEMY8 モリログ・アカデミィ8 レースにかける青春」     森 博嗣
2008.06.25 エッセイ 356P 670円 2007年12月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した、森博嗣のシリーズ8


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
 「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
 仕事も趣味も、いつも以上に活発な
 2007年の夏から秋にかけての3ヶ月。
 特別講義は名古屋在住の作家・太田忠司氏
             

第8巻です。
2007年7−9月の、3か月分の森博嗣の
ブログの内容を再編成しています。
カテゴリ分けはHR、国語、算数、理科、社会、
図工、体育、音楽、放課後、特別講義。
いつも通り、内容量は圧倒的にHRが多いです。
今回は暑い夏から暑さの緩む秋にかけて。

これ以上、何を書けば良いのか、と前回苦悩した通り。
(前回=モリログ7の感想・参照)
今回もいつも通り。いつもの調子でいつもの内容で。
でも当然、毎日ちゃんと違うわけですが。
これってやっぱり、凄いことですよね。

あえて挙げるなら「引き籠もりと押し放ち」かな。
引き籠もり系菜の花ですが、その反対語が
「押し放ち」とは思ってもみなかった!
…いや、もちろん、本当に反対語ってわけではないのですが。
著者自身も「反対語を思いつかなかったので、
適当に考えただけで…」と書いているくらいで。
でも、引き―押し、籠もり―放ち、は確かに反対っぽい。
いや、面白いな、って。

昔、尋ねられたことがあるのですよ。
「酸素」って燃えるのを助けるね、「水素」ってよく燃えるね、
じゃあ両者がくっついた「水」はどうして、火を消すの?
…だそうで。ふとそれを思い出しました。
いや、無関係でした。すみません。

相変わらずよく動き、よく働き、よく遊んでいるようで。
ちょっと羨ましい。そういう生き方を、見るのも愉しい。
そう思わせるように、書いているのだとは思いますけれど、
それでも書かれた世界を愉しめるなら、読んで意味あるかな。
それが本当であろうとなかろうと。


テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
装画イラスト : 羽海野チカ
扉イラスト : 笹沼 真人
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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473. 「篁破幻草子 宿命よりもなお深く」     結城 光流
2008.06.26 ライトノベル 246P 476円 2005年4月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
小野篁&橘融のオカルトファンタジー第3巻


【100字紹介】
 ときは平安のはじめ。人の身でありつつ夜は冥府の官吏として、
 都にはびこる鬼を狩る小野篁。彼の持つ凶星・破軍の魂を
 手に入れようと謀る異貌の鬼・朱焔の魔の手が、
 幼馴染・橘融に迫る。オカルトファンタジー第3巻


シリーズ第3巻です。
前巻よりずいぶん時間が空いている上に、
レーベルが変わりました(出版者は変わらず)。
2巻のあと、「少年陰陽師」シリーズが始まり、
10作以上そちらが進んでからの、久々の本シリーズ新刊です。

すっかりキャラが成長してしまいました。
びっくりなレベルに。
小野篁は少年から青年になって、身長は融を抜かしたし、
そのせいか宮廷の「アイドル」ぶりも少し変化したかも。
でも多分、年齢は1つしか上がっていません。
18歳かな。
更に今回は融の結婚話からスタートして、
前巻までの子供っぽいキャラから一転しています。

文章の雰囲気も慣れた感じになってきているような。
何しろ1巻2巻はデビュー作でしたし。
でも、少し強引な雰囲気はあるかも。
展開の仕方や、理由付けのあたりで。
宿命とか運命への縛られ方とか、
ちょっと最近流行の感じがしなくもなくて、気になります。
若者向けの少年誌とか、少女漫画的というか。
まあ、そもそものターゲットを考えれば、戦略的に大変正しいですが。

イラストの雰囲気も激変。一瞬、別の人かと思いましたが、
イラストレータ、同じです。陸幹、成長しすぎじゃない?楓も。

さて、本巻では橘融大ピンチ!と、
篁&融の少年期の出会い編大公開!…ですね。(どんな要約だ…。)
融、前々からのんびりまったり鈍いキャラでしたが、
おめでたさ加減がついに、「少年陰陽師」の昌浩を抜いたような。
きっと篁とのバランスをとるため、純粋な部分は全部融へ、
毒な部分とかっこよさはすべて篁に委譲されてしまったのですね。

全体的に、「星宿」に非常に重きを置いた話になってきています。
新キャラも登場したし、さて、これから
どんな運命・宿命が待ち受けていることやら…。


菜の花の一押しキャラ…橘 融 「未来より大事なものが、ここにあるんだ…」(小野 篁)
主人公 : 小野 篁(橘 融)
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 次巻に続く
イラスト : 四位広猫
デザイン : BELL'S

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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