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(2008年4月…444-452) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2008年4月の総評
今月の読了冊数は9です。
内訳は長編2、一般書1、ライトノベル・絵本6。
うわあ、ラノベばっかり読んでるー。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣2、結城光流2、壁井ユカコ2です。

2008年3月の菜の花的ベストは…。該当なし。

以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「もえない」                森 博嗣 (評点3.5)
 「カスタム・チャイルド」          壁井ユカコ(評点3.5)
 「キーリ WILD AND DANDELION」       壁井ユカコ(評点3.5)

「もえない」は森博嗣の単発ものの長編ミステリ。
高校の同級生が亡くなり、その遺品の中に主人公の名前が刻まれた、
栞のようなものが発見されます。その死の真相を追うことに。
滅茶苦茶面白いというよりは、普通に面白い作品。

「カスタム・チャイルド」は壁井ユカコ初のシリーズ外の長編。
遺伝子産業が発達し、自由に子供の容姿や性格を選べるようになった、
パラレルワールドを舞台にしたSFライトノベル。
社会問題に関しては意外にリアリティあり。少し切ない物語。

「キーリ WILD AND DANDELION」は、壁井ユカコ&田上俊介の
「キーリ」シリーズ短編ビジュアルノベル。
物憂げで何かを諦めているような、幻想的で退廃的な雰囲気が
滲み出た感じのお話&イラストです。
落ち着いた雰囲気の色使いと、ふんわりとしたやさしいイラストが
文章にとても合っていて、素敵な感じに仕上がっています。


 「少年陰陽師 翼よいま、天へ還れ」     結城光流 (評点3.0)
 「少年陰陽師 果てなき誓いを刻み込め」   結城光流 (評点3.0)
 「タカイ×タカイ」             森 博嗣 (評点3.0)

「翼よいま、天へ還れ」は結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ初の外伝。PS2のゲームと連動していて、
「もうひとつの物語」という位置づけ。
死んだはずの窮奇の呪いが強さを増し、復活してくるお話です。

「果てなき誓いを刻み込め」も結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第19巻。珂神編第5弾、完結編です。
古の神の国・出雲を舞台に、完全復活した荒魂・八岐大蛇と戦います。
何とか着地できてよかったなあ、という感じ。

「タカイ×タカイ」は森博嗣のXシリーズ第3作。
有名マジシャン宅で、そのマネージャーの遺体が、
高いポールの上に掲げられた状態で見つかります。
犯人は何故こんなことをしたのか?という謎を、
鷹知祐一朗、小川、真鍋、西之園萌絵などが解きほぐします。


 「隠居大名の江戸暮らし 年中行事と食生活」 江後迪子 (評点2.5)
 「デュアン・サークII 1, 2翼竜の舞う谷(上)(下)」深沢美潮(評点2.5)

「隠居大名の江戸暮らし」は研究系レポート。
「臼杵藩稲葉家奥日記」の延べ120年あまりのデータから、
特に隠居した大殿様の江戸暮らしを中心に、江戸大名の日常を述べます。
研究活動の垣間見られる作品。

「デュアン・サークII 1,2」は、深沢美潮のライトノベル。
その名の通り、デュアン・サークシリーズの第2部の、1巻2巻。
剣と魔法の冒険世界という、RPGゲームのような世界を舞台に、
ひよっこ剣士だったデュアンの成長を中心に描きます。


 「らき☆すた らき☆すたオンライン」    竹井10日 (評点1.5)

「らき☆すたオンライン」は漫画「らき☆すた」の
ノベライズ第2弾。キャラたちがネットゲームで戦います。
文章が駄目ですが、キャラがたっているので、
「らき☆すた」が好きな人ならまったり読めるかも。

以上、今月の読書の俯瞰でした。







444. 「らき☆すた らき☆すたオンライン」     原作/美水かがみ 著/竹井10日
2008.04.06 ライトノベル 174P 419円 2008年3月発行 角川スニーカー文庫 ★+★★★
小説第2弾、オンライン・バトルロイヤル!


【100字紹介】
 漫画「らき☆すた」のキャラたちが、小説で活躍の第2弾。
 全校生徒によるオンラインゲーム大会!
 盗賊こなた、巫女かがみ&つかさ、魔女っ娘みゆき…
 全員が後衛のアンバランス・パーティーが、バトルロイヤルに挑む。


前作に引き続き、元々4コマ漫画であり、
アニメにもなった「らき☆すた」の小説第2弾。
前作ではいきなり殺人事件でしたが、
今回はもう少し現実的(?)。
いや、でもヴァーチャル世界なのですが。
そう、舞台はオンラインゲーム。ネトゲです。

何故か学園祭の全校出し物を決めるのに採用されたのが、
オンラインゲームの覇者の言うことを聞く!…というトンデモ設定。
まあ、元々オンラインゲームしていても、
全然違和感のない設定の人たちですから、
これはこれでありよね、と。

いかにもありそうな、世界観を崩さないエピソードに会話が、
ありがちな流れにのっています。
まあ、原作が好きな人ならまったりと愉しめるのでは。

前作同様、文章がいまいちすぎるのが気になりまくりですが。
やたらと素人っぽい文章が…。
原作が、キャラがしっかり立っていることと、
まあ、展開的に無理はないので読めるには読めますが、
それにしても、もう少し何とかならないものか…。
狙いすぎな感じも多くて、むしろ面白くないと思うところもしばしば。
そのあたり、今後ご検討頂きたいものです。

ああ、でもフォントを変えてみたり、顔文字使ってみたりなところは、
いかにもそれっぽくて、とてもいいですね。
らき☆すたってそういうイメージだよなーと。
そういうブックデザイン部分でいい仕事してるなーという感じ。



菜の花の一押しキャラ…特になし 「なんか、ジャンプ出来るゲームって、意味がないと分かってても、ぴょんぴょんするよねー」 (泉こなた or 柊かがみ)
主人公 : いつものメンバー
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : マニア向け
雰囲気 : 漫画・アニメの仲間
結 末 : ハッピーエンド
イラスト : 美水 かがみ
デザイン : On Graphics

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★+★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★+★★★
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445. 「少年陰陽師 翼よいま、天へ還れ」     結城 光流
2008.04.08 ライトノベル 254P 476円 2007年5月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫昌浩の活躍!シリーズ「外伝」


【100字紹介】
 時は平安。14歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 死んだはずの窮奇の呪いが強さを増し、一味の姿を見たという話が。
 そして、昌浩の兄・成親が異形のものに襲われた。
 ゲームと連動した、シリーズ初の外伝


今回は、シリーズ外伝。
「あとがき」にて著者曰く

「あくまで外伝ですので、シリーズ通算何巻目、という数え方はしません。」

とのことですので、あえて19巻とは言わないでおきましょう。

タイトルは、少し後に発売されたPS2ゲームと同じ。
どうやらキャラも同じようです。
ゲームはエンディングが複数存在するマルチエンディングで、
そのどのエンディングとも違うストーリーを、ということで
書かれたらしいですが…、これが一番腑に落ちるのでは…と、
ちょっとゲームの心配をしてしまいました。
一体、どんなエンディングが他にあるのでしょう。。。

外伝オリジナルなキャラが複数。
敵か味方か!?…というのもあり。
ゲームだと、展開によっては敵になったり味方になったりするのかもしれませんね。

ゲームとの違いは、掘り下げ方かな。
きっとゲームだとここまでは書くまいな、というところもあります。
これを読んで、ゲームもするときっとより楽しい!ということでしょう。
…やらないですけど。ええ、やりませんって…多分…。



菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「わー、おじい様が優しい。槍が降るんじゃないのか?」(安倍 成親)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 1作完結
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
446. 「もえない」     森 博嗣
2008.04.12 長編 260P 1500円 2007年12月発行 角川書店 ★★★+
亡き同級生には、一体何が起きたのだろう?


【100字紹介】
 同級生の杉山友也が死んだ。それほど親しい仲でもなかったのに、
 彼の遺品の中に、僕の名前が刻まれた栞様のものが。
 もう一人最近亡くなった女子高生・山崎と、
 杉山の通っていたピアノ教室へ行った僕は…長編ミステリ


森博嗣の単発ものの長編です。
「野生時代」の2006年1月号-2007年7月号で隔月連載されていたものを
とりまとめて1冊にしたものです。

冒頭、「僕」は同級生の杉山友也の葬儀に出席します。
杉山とは特に親しいというほどでもなかったのですが、
不可思議な遺品や、生前に渡されていた手紙、
そしてその手紙の中で触れられていた女子高生が
最近亡くなっていたという事実から、
僕と親友の姫野は、亡くなった二人の通っていたという
ピアノ教室へ行ってみたりするのです。

僕と杉山はそれほど親しいわけではないので、
「杉山のことをもっと知りたい、死の真相を明らかにしたい」という、
正義感や、好奇心からくる探索ではないのですが、
ただ何となく、何なんだろう、気持ち悪いな、すわりが悪いな、
そういう気持ちで話が進んでいきます。
そちらの方がずっとリアリティがあるとも言えますね。

普通に面白いんじゃないでしょうか。
…という感想。
恐ろしく面白い!というわけではないのですが、
決してつまらないわけでもないし、
めちゃくちゃ上手い!というわけでもないですが、
十分上手いから特に文句はないし…という感じ。

連載ものによくあるような、
小さな起伏(いわゆる「次号に続く!」の直前の盛り上がり)が
あまりなかったので連載もの風な感じはしませんでしたが、きっちり連載です。

そう、全体を通して、内容は平坦でないのに
雰囲気がひたすら平坦な感じです。
「僕」がよくも悪くも、平凡な人なせいかもしれませんが。
いや、実際は全然、平凡じゃないのですが…。


とりあえず、品質的に問題がないので、安心して読めます。
最近の同著者の作品はそういうのが多い…。
商品の安定供給という感じ。


そうそう、タイトルの意味は、最後に分かります。
お楽しみに。
菜の花は…どう反応したものか、非常に悩みましたが。


菜の花の一押しキャラ…姫野 「そうだな、その梅なんとか先生が、もの凄い虐めをしたとか」 「虐め?ピアノ教室で?」                  「うん、お前の指はゾンビか、とかって」           (姫野、淵田悟)
主人公 : 淵田 悟
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 現在進行形ミステリ
結 末 : 解決
写 真 : KAIDO YUKO
装 丁 : 鈴木成一デザイン室

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★+★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
447. 「少年陰陽師 果てなき誓いを刻み込め」     結城 光流
2008.04.14 ライトノベル 249P 476円 2007年7月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫昌浩の活躍!シリーズ第19巻


【100字紹介】
 時は平安。14歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 完全復活した荒魂・八岐大蛇、一族の怨嗟を受け継ぐ
 「珂神比古」として覚醒した比古と戦う昌浩だが…
 古の神の国・出雲を舞台にした珂神編第5弾、完結編


シリーズ第19巻であり、珂神編第5弾。
そして、珂神編の完結巻です。

都にいるはずなのに何故か登場の彰子のことが判明したり、
比古に追い詰められな状況で何だか大変なことになったり、
真鉄が昔を思い出し、何となく疑念を持ったところで、
衝撃的な事実が判明しちゃったり…で、
何とか終わりました。(←いや、もう全然分からないぞ、これでは。)

個人的には、真赭に驚きかな。
そうかあ、なるほどねえ、といったところ。
もゆら・たゆら物語(勝手に命名)は著者の思い入れたっぷり!
…という感じでした。
何だかんだで、どうにか終わりました。
最後の方、結構強引だろう!
…と、ちょっとだけ突っ込んだのは秘密です。

そして勿論、何だか微妙に、
次回への布石がおかれているではないですか。
次のシリーズは…またあの人登場の予感…?



菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「紅蓮て、もしかして、ものすごく、すごいんじゃ…」(安倍 昌浩)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 珂神編完結
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
448. 「タカイ×タカイ」     森 博嗣
2008.04.20 長編 312P 950円 2008年1月発行 講談社ノベルス ★★★★★
Xシリーズ第3作。複雑な、人間関係の糸…


【100字紹介】
 有名マジシャン・牧村亜佐美宅で、マネージャの遺体が
 高いポールの上に掲げられていた。
 調査依頼を受けた探偵の鷹知祐一朗や、
 小川、真鍋、西之園萌絵が複雑な人間関係の糸を解きほぐし
 真相に迫る…]シリーズ第3作


Xシリーズの第3作。
勿論、主要キャラはほぼ、いつもと同じメンバー。
ただ、主人公格にはいつもは椙田の事務所の所員の小川令子ですが、
今回は前半は大人しめで(後半、乞うご期待ってことで)、
代わりに探偵の鷹知祐一朗と、
椙田事務所で留守番を引き受けている美大生の真鍋瞬一がメインかな。
更に、これまでちょこちょこと出てきていた西之園萌絵が、
大分出張ってきました。そろそろ主要キャラに入れてもいい程度かも。
このほか、真鍋の美大の同期である永田絵里子が初登場。
Gシリーズの加部谷恵美と、系統的には近いキャラですね。
彼女の登場により、真鍋も一応大学生だったか、と、
普段の生活が少しだけ明らかになってきたところです。

事件は、その真鍋が、大学に登校するところから。
登校途中に、有名マジシャン・牧村亜佐美自宅の、
広い敷地の中にたっている地上15メートルほどのポールが見える道があり、
そのポールの上に、遺体があって大騒ぎになっていたのです。
被害者は牧村亜佐美のマネージャ。

この事件の関係者から、鷹知祐一朗が事件調査依頼を受け、
一方事件発覚を、大学の同期の永田絵里子と一緒に目撃した真鍋も、
永田絵里子がかつてマジシャンのアシスタントのバイトをしていたこと、
そのとき知り合った友人が牧村亜佐美のファンだったことから、
気付いたら巻き込まれていたという状況。

世間を騒がせたのは、地上15メートルという人目につく高い場所に、
どうやって、そして何故遺体を上げたのか、ということ。
その奇妙さと、マジシャン自宅という場所の特殊さが、
人々を騒がせるのですが、その裏には一体どんな真相が…、という話。


今回は上記の謎で「どうやって」のHow?部分は、
すぐに「多分、こうだろう」とすぐに出てくると思うのですが
(その意味でパズル性は特にない)、
「どうして」のWhy?は「えー、何てこと!」くらいには思うかも。
でも、こんなにミステリな状況なのに、
読後感としては全然ミステリを読んだ気がしないのは何故だろう。。。
ジャンル分けすると、何にも入らない小説です。
まあ、分類するのがナンセンス、物語は物語、というのが
この場合は正解なのかな、と思う次第。



菜の花の一押しキャラ…特になし 「あ、そうか、鈍感だから、その分よけいなことを     考える暇があったんですね。だから脳が発達したんだ」 (真鍋 瞬一)
主人公 : 小川令子
  真鍋瞬一
  鷹知祐一朗
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリほか
対 象 : 一般向け
雰囲気 : パズル性なし
結 末 : 解決
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津典之
カバーデザイン : 坂野 公一(welle disign)
フォントディレクション : 紺野 慎一(凸版印刷)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
449. 「カスタム・チャイルド」     壁井 ユカコ
2008.04.22 ライトノベル 410P 630円 2005年4月発行 電撃文庫 ★★★+
三嶋の前に突然現れた少女の夏と、そして冬


【100字紹介】
 <遺伝子産業革命>以降、出生前の遺伝子操作によって
 子供の容姿や性格等を選択できる生殖ビジネスが一般化した世界。
 大学生の三嶋行祐は、雨の夜に拾った少女とともに、
 発達した技術による悲劇に巻き込まれていく。


第9回電撃ゲーム小説大賞にて<大賞>を受賞した、
「キーリ」シリーズの著者・壁井ユカコによる単発もの。

「<遺伝子産業革命>以降、出生前の遺伝子操作によって
子供の容姿や性格等を選択できる生殖ビジネスが一般化」するという、
(しかも1970年代にこれが起きたらしいので、
この舞台は、パラレルワールドの現在と考えられる)SFなライトノベル。
総ページ数が400ページこえという、ライトノベルにしては大作です。


主人公は、大学生の三嶋。一応、無機材料工学の2年生。
だけど、遺伝子工学の研究室に人体実験要員(?)として出入りしていたり。
実家は富裕だけれども、色々と事情があって一人暮らしで、
家に帰るのをあまり好ましく思っていない、
けれど暮らしにはあまり困っていないし、ぼんやり生きている人。

彼の行きつけのお好み焼屋のバイトのススキも、実家に出入り出来ない少年。
彼が生まれた頃は、金髪碧眼ベビーの全盛期だったので、
ススキもまさにその「流行の容姿」。
金髪にする遺伝子とか、肌を白くする遺伝子などはカタログ化され、
生殖クリニックに出回っており、親はこのカタログの中から
希望の要素を組み合わせて注文するのです。
彼ら「カタログ・トランスジェニック・チャイルド」は、
血のつながりもないのに容姿がそっくりな子供が、同じ世代に多く発生してしまうという、
流行に流されやすい日本ならいかにもありそうだけれど、
それは本人としてはどうよ?という子供たち。
しかも、希望の要素がうまく発現していないという、
親からの訴訟があるような…絶対ありそうな設定で。
更に、この技術のせいで、ススキも相当なわけありの人で…。

更にこのお好み焼き屋には、遺伝子操作技術のせいで、
もっと大変なことになっているスラム出身の
トカゲな鉄郎や、カエル顔のメッキなどが出入りしています。

そんなお膳立ての中、雨の夜に拾われた少女は、
カタログでは見かけない珍しい容姿の、恐らく「カスタム・チャイルド」。
気付いたら居ついてしまった、わけありの彼女。
幾つかの事件と、そして…。


設定が、技術的にありえるのか?というのはさておき、
その結果として社会で起こるであろう現象や問題については、
「あー、それってゼッタイありそう…」という感じ。
きっと、そんな問題、起きてくるよ、と言う意味では
かなり「想定内」であって、大きな展開はある程度、最初に読めてしまうかも。
白状しますと、そんな「明らかにこうなるだろう」が見えている割に、
大きな流れはなかなか進展していかなくてちょっとだけイライラしたのですが、
小さい要所要所が、いいところ押さえて来るなーという感じで、
結構、楽しめました。

それに、文章のテンポが菜の花と波長が合っていて、
個人的にはかなり好ましいです。
シリーズ外作品では初めての著書ですが、
是非、他の物語も読んでみたいな、と思います。


菜の花の一押しキャラ…総領 征威 「(二十代最後の夏がこれかー…)」(総領 征威) 出来るヒトほどツライ世の中です。
主人公 : 三嶋 行祐
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 社会問題なんかにも向かいつつ
結 末 : まあまあハッピーエンド
イラスト : 鈴木 次郎

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
450. 「隠居大名の江戸暮らし 年中行事と食生活」     江後 迪子
2008.04.26 一般書 191P 1700円 1999年9月発行 吉川弘文館 ★★+★★
臼杵藩稲葉家奥日記に見る江戸大名の暮らし


【100字紹介】
 「臼杵藩稲葉家奥日記」は、延べ120年あまりもの
 日々の暮らしについて書かれた史料。
 現在は臼杵市立図書館に所蔵されている。
 この奥日記から、特に隠居した大殿様の江戸暮らしを中心に、
 江戸大名の日常を述べる。


本書の下敷きになるのは、
臼杵市立図書館所蔵の「臼杵藩稲葉家奥日記」。

臼杵藩は外様で、元々の藩主の出身は美濃の国。
領知は5万石と小藩でしたが、1600年の入封から1871年まで、
藩主の転封なしで250年以上、同じ稲葉家が治めていました。

そんな臼杵藩の日記として、江戸上屋敷(主に現藩主一家の住まい)、
江戸下屋敷(隠居した大殿様の住まい)ほか、
江戸の役所や臼杵城などに8箇所に分かれていて、
「奥日記」であるため、主に暮らしに密着した記述が残っているようです。

全体は、下記の3部構成。

「臼杵藩の江戸屋敷と公務」
「江戸屋敷の行事と儀礼」
「大名の生活と遊興」

1つめの「臼杵藩の江戸屋敷と公務」では、臼杵藩に関する概説や、
稲葉家の概要、江戸と国元(臼杵)とのやりとり、
公務、そして臼杵での暮らしについてが書かれています。

2つめの「江戸屋敷の行事と儀礼」では、年中行事と人生儀礼に分けて、
前者は「一月の行事」から「十二月の行事」まで、月別の主な行事と、
そのときの祝い方や食事、贈り物などについて細かく実際の
メニューや数字が示されています。
後者は家督相続に始まり、結納・婚礼・縁組、着帯・出産、お七夜…と、
一生単位のイベントについて、同じように祝い方や食事、
贈り物や出掛ける場合ならお付きの人の構成などを事細かに記述。

3つめの「大名の生活と遊興」は、更に4つに分かれていて下記の通り。
「食生活と物価」(主に食材単位の解説)
「臼杵の郷土料理」(7つの料理を全4ページ程度で解説)
「隠居後の気ままな生活」(大殿様の寺社参りや花火や花見見物など)
「西洋の文化と大名の教養」(びいどろを買ったとかオルゴールをもらったとか)

全体に読んで愉しむというよりは、研究を垣間見ていると思って読むか、
実際に想像してみて「おー、こんな感じだったのかー」と読むものですね。
ただ、本気で「研究したいので資料に…」と思って読むものでもないかも。
資料にするにはデータが少なすぎます。
その意味では、実際は何を狙って書かれた作品なのか、ちょっと分からない。
全体のまとまりとしても、記述の重複が多く感じられ、
あまり綺麗に構成されているとも思えないのですが、
とにかくオリジナリティはありますね。
下敷きとしてしっかりしたものが存在していますから。

江戸の小藩の大名生活を垣間見るには、なかなか興味深いです。


テーマ : 江戸大名の暮らし
語り口 : 研究レポート風
ジャンル : 一般書(学術系)
対 象 : ややマニアックな一般向け
雰囲気 : 研究レポート風

文章・展開 : ★+★★★
学 術 性 : ★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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451. 「キーリ WILD AND DANDELION」     壁井 ユカコ
2008.04.26 ビジュアルノベル 48P 1400円 2006年1月発行 メディアワークス ★★★+
「キーリ」シリーズの短編ビジュアルノベル


【100字紹介】
 駅の片隅でキーリは、その植物を見つけた。
 名前も知らない。みすぼらしくて滑稽で、
 でも一生懸命に見える植物。
 気付くとキーリは、荒野にいた。
 それは夢なのか、それとも…。
 美しい絵とともに描く、ビジュアル短編。


全9巻のキーリシリーズの、書き下ろし短編ビジュアルノベル。
ビジュアルノベルというのは…この場合は絵本ですね。
でも、絵本というには、文字が多い!ので、
絵本とノベルの合いの子みたいな気分で、
ここは「ビジュアルノベル」と表現しておきます。(菜の花ルール?)

内容は、もちろん初出です。
シリーズ全体に漂っていた、
ちょっと物憂げで、何かを諦めているような、
うーん、幻想的で退廃的な雰囲気と言いますか、
そういうのが滲み出た感じのお話&イラストです。
原色をそのまま使っているところなんてどこにもなくて。
落ち着いた雰囲気の色使いと、
ふんわりとしたやさしいイラストが
文章にとても合っていて、いいですね。

物語は、ちょっと淋しいような、
でもどこかに希望があるような、
いつものあの感じです。
ありがちかなー、という気もしなくはないですが、
お約束なのもいいじゃない、キーリの世界観が好きだから、
という方には是非、お勧めです。


菜の花の一押しキャラ…ハーヴェイ 「なんか似てるよな、お前。ちっちゃいくせにたくましいところとか」 (ハーヴェイ)
主人公 : キーリ
語り口 : 3人称
ジャンル : ビジュアルノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 暗め、幻想的
結 末 : ややプラス
イラスト : 田上 俊介
デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
452. 「デュアン・サークII 1、2 翼竜の舞う谷(上)(下)」     深沢 美潮
2008.04.29 ライトノベル 220P
280P
530円
550円
2002年10月発行
2003年7月発行
メディアワークス
(電撃文庫)
★★+★★
RPGの世界。ひよっこ戦士の冒険譚第2幕


【100字紹介】
 兄を慕ってファイターになったデュアン・サーク。
 相棒の羽トカゲ・チェックに、ベテランファイター・オルバ、
 雪豹クノックを連れた魔法使いアニエスとともに、
 数々の冒険を乗り越えながら大きく成長するファンタジー


デュアン・サークの第2部であるデュアン・サークIIの
第1巻・第2巻です。上下巻。

この著者さんの作品だと、菜の花が中高生の頃には
底抜けに明るい「フォーチュン・クエスト」が周りでとても流行っていて、
その「フォーチュン」と少しだけ色合いの違う
「デュアン・サーク」がその後出てきて…、
と懐かしさがこみ上げてくるのですが、
本作はその「デュアン・サーク」の第2部です。


世界観は、剣と魔法の冒険世界。
ごくごく普通のRGPの世界ですね。
確か「フォーチュン」で「伝説の勇者」と呼ばれていた人の、
ひよっこ時代のお話…ということだったと思います。


主要キャラは第1部の時代と同じ。
主人公でファイターのデュアン・サーク(Lv.4)。
ベテランファイターのオルバ・オクトーバ(Lv.14)。
魔法使いのアニエス・R・リンク(Lv.4)。
これに羽トカゲのチェック、雪豹のクノックでメイン・パーティーです。

物語はロンザ国の大きな商業都市・エベリンから始まります。
レベルに見合った低レベルの火炎魔法を覚えようと、
魔法屋めぐりをするアニエスと、ついて行くデュアンは、
不思議な少年に出会います。
そして、エベリンのランタン祭りで…。
物語が動き出すと舞台はタイトルにもなっている翼竜の舞う谷へ
移っていくのですが…、それはもう、読んでのお楽しみということで。


最初にこの著者の作品を読み始めた頃から、
文章力に関してはあまり評価していなかったのですが、
当時思っていたほどには悪くないような気がしました。
いいなーと思ったのは、挿絵の入り方かな。
通常挿絵は、1ページをそのまま使うと思うのですが、
半ページ文章で、半ページイラストだとか、
上部だけイラストで下は文章とか、そういうブックデザインが素敵。
例えば、壁面にぶら下がるランタンの絵が、左上にあるとか、
凄く雰囲気が出ていてよくないですか!?
菜の花はこういうの大好き。
ああ、素敵だなー、凝ってるなーって。
また、この文章がそういうのが似合うんですよ。

10年ぶりくらいに読みましたけれど、
全然変わらない古い友人に出会ったみたいで、なかなか面白かったです。


菜の花の一押しキャラ…サンデリオン 「一応、全身打撲ってことで、息絶えてらっしゃるのかな?」(オルバ・オクトーバ) 高所から転落してきたゾンビに一言。
主人公 : デュアン・サーク
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : RPG系ファンタジー
結 末 : まあ、ハッピーエンド
イラスト : 戸部 淑
デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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