よみもののきろく

(2007年12月…418-424) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年12月の総評
今月の読了冊数は7です。
内訳は長編2、エッセイ・一般書3、ライトノベル2。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣1、高里椎奈1、結城光流2です。
まあまあバランスはいい…かな。

さて2007年12月の菜の花的ベストは…該当なし。
以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「ZOKUDAM」             森 博嗣 (評点3.5)
 「哲学のおやつ ゆっくりとはやく」     B.Labbe他 (評点3.5)

「ZOKUDAM」は森博嗣の「ZOKU」の続編。
トンデモ設定のコメディーなロボットものを、
思いっきり現代へ、大真面目にリアリティつきで書くと、
こんな感じでしょうか。なお続編ですが、
「まさか」で「驚き」の新展開です。単体で読んでもOK。

「哲学のおやつ ゆっくりとはやく」はフランスの
子供向けシリーズの翻訳もの。まっすぐな文章で
易しく哲学を身近に感じられるように書かれています。
生活に疲れたり悩んでいるときに、原点に立ち返られる作品。


 「ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法2」  福田和也 (評点3.0)
 「少年陰陽師 其はなよ竹の姫のごとく」   結城光流 (評点3.0)
 「ソラチルサクハナ 薬屋探偵怪奇譚」    高里椎奈 (評点3.0)

「ひと月百冊…」は福田和也の同タイトル本の続編。
全体は4部構成でそれぞれ「文章術」「電脳術」
「情報術」「時間術」を紹介。文章術・時間術に関しては
前作の内容に情報を付加する続編的位置づけ、
その他の2部は情報化時代への変化に対応した新しい
著者の「やり方」が紹介されています。

「其はなよ竹の姫のごとく」は結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第14巻。短編集です。
主に昌浩の「にーちゃんず」、成親・昌親を交えた、
安倍三兄弟の活躍を描く4編が収録されています。

「ソラチルサクハナ」は高里椎奈の「薬屋」さんシリーズの新シリーズ、
「薬屋探偵怪奇譚」の幕開け、第1作です。
前シリーズで深山木薬店を継いだリベザルの7年後の姿です。


 「知っておきたい!ランキング100年史」       (評点2.5)

「知っておきたい!…」は、
「ランキングを通して世の中を見る「社会学」」と銘打った一般書。
データの扱い等、学術的価値は皆無ですが、
ちょっとした楽しみや話のネタに、ぱらぱら〜っと読むのに最適。


 「少年陰陽師 儚き運命をひるがえせ」    結城光流 (評点2.0)

「儚き運命をひるがえせ」は結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第13巻。天孤編の完結です。
親子愛だったり、同胞愛だったり、淡い恋心だったり、
何だか色々な愛の形が登場しつつ、うまいこと着地しました。


以上、今月の読書の俯瞰でした。







418. 「ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法2」     福田 和也
2007.12.05 ハウツー本
(エッセイ)
221P 1250円 2004年4月発行 PHP研究所 ★★★★★
「私」の文章・情報・電脳・時間術教えます


【100字紹介】
 同名タイトルの「プロの読み方・書き方術」第2弾。
 前作以降、パソコン・モバイルへ進出した著者の
 情報収集・整理に変化が現れた。
 さらなる文章術・時間術とともに、
 これらの「情報・電脳術」も追加した「私の方法」


同名タイトル作品の第2弾です。
ハウツー本か、エッセイか迷うところですが、やはりエッセイかな。

全体は4部構成でそれぞれ「文章術」「電脳術」「情報術」「時間術」を紹介。
それぞれの章構成はこんな感じです。

1.文章術
 「書き方―本質編」「書き方―実践編」「デジカメ取材術編」
2.電脳術
 「パソコン編」「モバイル編」
3.情報術
 「収集編」「活用編」
4.時間術
 「日常編」「オフタイム編」

章構成に関しては、少し謎が残りました。
だって菜の花の感覚だと、「デジカメ取材編」って電脳術では!?と思いますし、
「情報術」の内容は、かなり電脳術でした。というのも、パソコンの話が中心でしたので。
その意味で、ちょっとタイトル通りにかっちり分かれずに交錯していて、
読みながら綺麗に構造が頭に入りにくい!というのが気になりました。
まあ、それくらい、今の世の中の情報術が、パソコンに依存しつつある、
ともいえるでしょうね。時代の流れとして、この構成は大変正しい気はします。

「1.文章術」と「4.時間術」は、殆ど前作の内容を踏襲し、
これについて更なる情報を付加する、続編的な内容となっています。
きっと「これをもっと知りたい!」という読者の声が大きかったのでしょう。
菜の花も知りたい!と思いますもの。
そして、十分その期待にこたえる内容だったと思います。
本質編の方は観念的なことを書き、「えー、実際は?」と読者が思ったところで
次にぽんと、実践編を出す辺りが、にくい構成…。
著者は大学で学生さんに対して、毎週800字の批評コラムの課題を課すそうです。
おおお、それは学生さん大変。でも「何故800字か?」などの説明を見ていると、
そうか、そうやって意識的にすれば、きっとこの学生さんたちも
文章のプロになれることだろうなー!と思った菜の花でした。
自分に振り返ってみると、菜の花も週に1つはこうやってよみもののきろくを書いているわけで、
これを利用して文章力向上の修業をするといいのかもしれません。
でも、意識が足りませんね。まず、長すぎる。字数を決めるのは大切ですね。
推敲できる長さは、著者のところの学生さんにとって800字くらいだったようです。
菜の花は、この推敲が足りないから駄目ね。書いたら書きっぱなしなので。
これから少しくらい推敲するように努力しようか…。
実は最近、mixiにこの文章を登録することがあるのですが、
mixiには2000字以内というかせがあります。そのため、よくオーバーしてしまって、
削らなくてはならなくなるのですが…、これがとても勉強になる。
そういう「推敲」が最近の菜の花に欠けていた、ということを痛感しています。
ちなみに著者が練習としての800字コラムの利点として挙げているのはこれ。

 1.短いので、文章の隅々まで神経を行き渡らせることができる。
 2.人に読んでもらえる。商品たりえる。
 3.書くという前提で、事物に接する姿勢を育てることができる。
  
まさにその通りだと思います。

「電脳術」「情報術」はパソコンによる内容が中心。
パソコンの選び方から文章を書くときの利用の仕方まで。
特に強く薦めていたのは百科事典類をインストールすることでした。
検索エンジンとの併用で、時間の無駄を省く、などの内容は、
菜の花も常日頃から思っていることを文章にしてもらえていて、再認識させられました。

全体に、そうそう、そうなのよ!が多い一作でした。


テーマ : 情報収集と文章力向上術
語り口 : エッセイ
ジャンル : ハウツー本(エッセイ)
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 私の場合
装丁・本文組版 : 石間 淳
表紙・本文写真 : 福田 和也

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
419. 「知っておきたい!ランキング100年史 ― 流行、記録の100テーマベスト10
     100年ランキング選定委員会
2007.12.09 一般書 200P 571円 2001年9月発行 角川書店 ★★+★★
ランキングを通して世の中を見る「社会学」


【100字紹介】
 モノ・ヒストリー、スポーツ・事件の記録、
 都道府県別ランキング、史上最悪のワーストランキングまで、
 100のテーマでベスト10を紹介し、
 そこから見えてくる世相や時代の力、流行・トレンドを斬り、理由を探る。


人というのは、とかく順位をつけたがるもの。
その順位を見ては「はー、なるほどー」と思ってみたり、
「え?嘘、こんなの入ってくるんだ?」とびっくりしてみたり、
「あー、あったあった、こんなのー」と喜んでみたり…もうはまってますね。
そう、気付くとはまってしまう「ランキング」。
本書はそんな「何でもランキングベスト10」を100テーマほど紹介しています。

全体は5章構成。
「モノ・ヒストリー」「ザ・記録」「流行、世相を見るランキング」
「対決・都道府県ランキング」「ワースト・ランキング」。

ページ構成としては3種類。
各章の頭に入る、6P程度のその章に関するレビューというか解説。
見開き2Pで1テーマが紹介されるメイン。
(右ページが解説文、左ページにランキング。)
各章末には、1Pつき1つか2つのランキングだけを詰め込んだページ。

帯では「100年間に順位をつけました!!」と書いてありますが、
実際は100年間の元データをもたないものが多いです。看板に偽りあり。
テーマによっては、100年どころかわずか1年の記録を
2年分持ってきて比べているだけだったりもして…。
(平均寿命を85年と90年だけのデータで比較されても…。)
元データに偏りがあるにも関わらずそれで全体を見たような形で紹介されていたり、
論理的でない(データを斜め読みしただけで、根拠に欠ける)解説が書かれていたりで、
学術的価値はほぼ皆無となっていますが、この試みは面白いものです。

「家庭用殺虫剤製品ロングセラー(大日本除虫菊株式会社しらべ)」では、
「1位 金鳥蚊取線香(1980年発売)」なんて出てきていて、
菜の花は思わず「なにっ!」と驚きましたよー。
そうかあ、金鳥蚊取線香って、明治時代からずっとあるのね、と。
それは確かに、ロングセラーです。
「ゲームソフト国内歴代出荷数(CEGA GAME白書より)」では
「ポケモン」は「スーパーマリオブラザーズ」どころか
「テトリス」にも勝てないのか!と思ってみたり。

他にも「グリコのポッキー歴代売り上げ」やら「時代劇視聴率」、
「東京国立博物館特別展入場者数」「人気企業ランキング」
「犬種別犬籍登録頭数」「芥川賞作家輩出都道府県」
「最高気温・最低気温」「衆議院議員総選挙投票率」などなどなど、
「何だそりゃ?」から「そんな凄い記録が!」まで、
どうでもいいようなマメ知識が満載です。
かなりマニアックなランキングもあり。

じっくり読むよりは何気なくぱらぱら〜っとめくって、
「あ、これは面白そう」と思うページだけ拾い読みして楽しむとよいでしょう。
…立ち読み向け作品?(すみません、本屋さんっm(_ _)m)



テーマ : ランキング、世相
語り口 : エッセイ
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : よくも悪くも一般向け

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP
420. 「少年陰陽師 儚き運命をひるがえせ」     結城 光流
2007.12.11 ライトノベル 254P 476円 2005年7月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫昌浩の活躍!シリーズ第13巻


【100字紹介】
 時は平安。14歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 羅刹という化け物に呑まれて行方不明になった中宮・章子の身代わりに、
 彰子が内裏に参内する。昌浩は彰子と章子を救えるのか?
 「天孤編」完結の第13巻


というわけで、天孤編完結の第13巻です。
順番に読み続けていないと絶対意味不明なので、
ちゃんとシリーズの最初から読んで下さいね、と。

何というか、急転直下?いきなり?突然の展開?
それは菜の花が単に、前の巻を間違えてひっくり返しに読んだせいかも。
(というか、それがすべてかもしれない)。

十二神将が活躍…というか、色々と出てきています。
何というか、大活躍した!という感じはしないのですが、
よく動いていて、見せ場というほどではないですが
キャラもの好きには結構嬉しいようなエピソードの積み重ねと言いますか…。

幾つかの愛の形も登場…親子愛だったり、同胞愛だったり、淡い恋心だったり?
何だかんだで何とか、うまく収拾しました。
特に章子と彰子がどうなるのかは、注目どころかな。
もちろん、晴明じい様の将来も気になってましたけどね。
天孤たちと、昌浩も…。それらすべてが、何とか着地できました。
そんな感じ。



菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「宵藍や」    「なんだ」    「ちと笑ってみ」 「――――は?」       (安倍晴明、青龍)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : ハッピーエンド、続く
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
421. 「ZOKUDAM」     森 博嗣
2007.12.19 長編 316P 1700円 2007年7月発行 光文社 ★★★+
新しい職場は巨大ロボで悪と戦う部署だった


【100字紹介】
 ロミ・品川とケン・十河が配属された、
 遊園地の地下にある新しい部署には、真新しい二体のロボットがあった。
 戦士として選ばれた二人は、このロボットで怪獣と戦う…らしい。
 Zシリーズのまさかの続編、驚きの新展開

Zシリーズのまさかの続編、ということですが…、Zシリーズって何だ!?と。
前作は「ZOKU」ですね。(ちなみに別タイトルは「Zionist organization of kar」でした。)
どうにも続きなんかなさそうなものでしたが…、続編。(だから「まさかの続編」。)

主な登場人物は前作の踏襲。
前作ではZOKUに対抗するTAIのエリート研究員の揖斐純弥、
&TAI所長の孫のお元気少女・永良野乃がメインでしたが、
本作はロミ・品川&ケン・十河側がメイン。特にロミ・品川。
キャラの中身は変わらず。でも少し設定に変更あり。
パラレルワールドであるか、または続編と言いつつ時系列的には
こちらの方が先かもしれません。ロミとケンが初対面のようなので。
でも前作でも永良野乃とロミが初対面のようだったので前者が有力か。
そして、ZOKUDAM側が悪と戦う巨大ロボットを擁しているらしいです。
対する揖斐&永良たちのTAIGONが怪獣らしい。
(善悪も逆転?…だから「驚きの新展開」。)

前作との関係はそんなくらい。それはともかく本作ですけれども。
物語は、ロミ・品川が転勤するところから始まります。
新しい配属先では新人で年下のケンと一緒に巨大ロボのパイロットに!?
…というかなりトンデモ話。リアリティがない?
いえいえ、それがそうでもない。
いや、もちろんこの状況は「そんな馬鹿な」ではありますけれども。
でも普通に考えてありえないことなのに、大真面目にリアリティを
作っていくのですよ。マニュアルの分厚さとか、技術的な話とか、
そんな「小物」と「状況の経過」を積み上げていくことで、
最初は「ありえないってー」という笑いから入った読者に対しても、
いつの間にか、そんな話に巻き込まれるコトだってありえるのかも?
という、等身大の話になって…こなくもない。いや、変な話ですけどね。
それにロミの心の動きとか、結構ありそうな感じ。

全体の話はうわー、凄い盛り上がるー!…という感じではありません。
元々雑誌に連続掲載した話につながりのある中編5つを集めてきたものなので、
それぞれに小さな山があるといえばある…ないといえばない…。
これだけ訳の分からない設定をしているのに(褒めてます)、
こんなに盛り上がらないとは、人間の心理って面白すぎです。
どんな状況にも自分を変えず(いや、動揺して不安定になってますけど、
だからと言って完全な別人にはなりえないという意味で)、
ちゃんと順応していく、という人間の姿をうまく描いている、と思いますね。
でも、いかにも分かりやすい、フィクションらしいストーリーを
求めている人にとっては、平坦で面白みに欠ける、と感じる可能性はあり。

いや、それを考えると、こんなトンデモ設定をしておきながら、
物語を平坦に見せかけることが出来るとは、
恐ろしいほどの文才ではないのか!?という気がしてきましたよ…。
つまり設定で目をひいたにも関わらず、設定そのもので読ませていない、
ということになりますものね。

「ZOKU」と同じく、よくも悪くも「森博嗣らしい」感じの文章です。
多分、他の著者が書いたらこうはならない、というカラーがありますね。
その辺りが人気の秘密か。このカラーが好きでさえあれば、
本作はお勧めできる作品だと思います。苦手な人はやっぱりこれも無理かな。
終わり方もあまりに「らしく」て、1冊まるごと、森博嗣節だなあ、と思った次第。

どうでもいいことですが。
TAIGONのメンバーの名前が木曽三川だったことに、
今回ようやく気付いた菜の花は、ちょっと遅いか…。



菜の花の一押しキャラ…特になし 「そちら方面のことは、僕には無理だ。測定器で測れない現象については、お手上げだよ」
揖斐 純弥
主人公 : ロミ・品川ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : 現代小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : SFちっく、恋心も少々
装幀 : 泉沢 光雄
装画 : 佐久間 真人

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
422. 「哲学のおやつ ゆっくり と はやく」     ブリジット・ラベ / ミシェル・ピュエチュ著、高橋 啓訳
2007.12.21 一般書 94P 950円 2004年4月発行 日本放送出版協会 ★★★+
大人も子どもも日常生活を哲学に


【100字紹介】
 子供向けに書かれたシリーズ。
 大人も子どもも含めて、人が日常生活でぶつかる問題を、
 自分の頭で考えて解決するように導く。
 生活に疲れたり悩んでいるときに、
 原点に立ち返るような気持ちになれる、易しい哲学の本。


 --オリジナル・データ-------------------
  Les Gou^ters Philo
  Text by Brigitte Labbe´ and Michel Puech
  Illustration by Jacques Azam
  Original edition published in French under the title of:
  "Les gou^ters philo: Prendre son temps et perdre son temps"
  © 2000 Editions MILAN and
  "Les gou^ters philo: Le rire et les larmes" © 2002 Editions MILAN
 ---------------------------------------
(1・5・7行目 uにサーカムフレックス)
(2行目 eにアキュートアクセント)


フランスの、子供向けに書かれたシリーズの翻訳版です。
元々は「ゆっくりとはやく」と「笑うと泣く」の2冊だったのが、
1冊に同時収録されているようですね。

「哲学のおやつ」というシリーズ名の本書は、
難しいもの、と思われがちな哲学を、より身近に気楽に読んでもらうために
書かれた本…かな。子ども向けのつもりのようですし。
でも、子ども向けと言いながら大人が読んでも十分、いい本。

それぞれが18の小タイトルがついた1〜4P程度の章から成っていて、
その中1つ1つが独立した「その辺で実際に起こっていそうなたとえ話」と、
解説と解釈が入って、時間とは何なのか、自由とは何なのか、
夢見るとは、生きていくとは…というような「哲学的な」問題を
易しい言葉でとつとつと語っていきます。

ちなみに「ゆっくりとはやく」は、ゆっくりしながら早く!ではなくて、
「ゆっくり」and 「はやく」を比べながら
「時間感覚」について論じていく内容となっています。
「笑うと泣く」も、「笑う」and 「泣く」を比較しながら、
実はそれは本質的には同じたぐいのものである、と。
すなわち、「身体のことば」ということですね。


文章が、まっすぐで、何のひねりもなくて、好感が持てます。
あまり癖も無いし、翻訳ものとしては珍しいですね。
元の文章が素敵なのでしょうし、翻訳も巧いのでしょう。

全体にたとえ話の多さが易しさを生み出しつつ、
逆に一本筋の通った「主張」を把握しづらくもしているように思います。
でもまあ、そんな主張を全篇通じて押し付けられてしまったら、
きっと読んでいて苦しい、と感じてしまいそうです。
これくらいの方がちょうどいいのかも。

疲れたなー、というときに、何気なく手に取ると結構いいかも、な本です。



テーマ : 哲学
語り口 : 語りかけ+お話
ジャンル : 一般
対 象 : こども〜一般向け
雰囲気 : 教科書っぽいかな
イラスト : ジャック・アザム
翻 訳 : 高橋 啓
装丁 : 坂川栄治+藤田知子(坂川事務所)
本文DTP : ぱらごん(権左伸治)

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
423. 「少年陰陽師 其はなよ竹の姫のごとく」     結城 光流
2007.12.22 ライトノベル 254P 476円 2005年10月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
閑話休題、安倍3兄弟の活躍を描く短編4編


【100字紹介】
 時は平安。稀代の陰陽師・安倍晴明の孫、
 成親・昌親・昌浩三兄弟は、歳若いながらも有能な陰陽師。
 左大臣の我が侭息子の護衛で手を焼いたり、
 少納言邸の霊障を調べたり。
 成親の結婚秘話も含む、三兄弟活躍の短編集。


「天孤編」が第13巻で終わり、次の第14巻は閑話休題。
短編集になっています。ただの短編集じゃないですよ。
本編ではなかなか活躍できない(でも人気はあるらしい!)、
昌浩の「にーちゃんず」、成親・昌親を交えた、
安倍三兄弟の活躍を描く4編なのです!わー、ぱちぱち。。。


●「玄の幻妖を討て」
 左大臣の息子・鶴君が魔物に狙われているという。
 護衛と退治のため派遣された安倍三兄弟だったが、
 この鶴君、どうしようもないわがまま若君だった。
  
 <感想>
 うわあ、この若様、「許せん!」というくらい、
 嫌な子どもです(笑)。陰陽師は身分が低くて大変だー。
 思わず、我が子のしつけはしっかりしよう…と
 決意してしまう、にーちゃんず。
 そんな中、よく耐えて原因を究明しました、昌浩。
 最後は何とか、光が見えた?
 昌浩の知られざる「しつけ物語」も披露されます。

 評定:★★★+


●「触らぬ神に祟りあり」
 少納言邸で霊障が起きているらしい。
 耐えかねた少納言からの依頼を昌親・昌浩に任せる晴明。
 しかしどうやらこれは単なる霊障ではないらしく…。

 <感想>
 最初は二兄弟で始まりますが、ちゃんと三兄弟もの。
 平和な(?)三兄弟の話が、ほっとしますね。
 それにしても神様とは…恐るべし。

 評定:★★+★★


●「その理由は誰知らず」
 昌親が無断欠勤した。今までにそんなことをしたことのない、
 真面目な弟の身を案じた成親は、昌浩と共に昌親邸に向かう。
 その頃、昌親は娘を狙う恐ろしい魔物と対峙していた。
  しかし、屋敷には決して入ろうとしない紅蓮に、
 昌浩はいらだちを隠せない。

 <感想>
 昌親さんの家庭事情が分かってしまう一作。
 メインは、紅蓮と赤ん坊の関係…でしょうか。
  これはそういえば、アニメでも取り上げていたエピソードですね。
 勾陣がいい味を出しているなあ…と思うのは菜の花だけ?
 テンポはいまいち、かも。

 評定:★★+★★
  
  
●「其はなよ竹の姫のごとく」
 家族の平和なひととき。成親に十二神将・太裳が声をかけた。
 《北の方様にはお変わりなく?》
 成親の意識は、10年ほど前の、
 参議の娘「なよ竹のかぐや姫」出会いへと…。

 <感想>
 成親さんの馴れ初め話です。「なよ竹のかぐや姫」と呼ばれた、
 参議の姫との出会いと一緒になるまでのお話。
 地位も名誉もある相手との縁組…がメインですけれども、
 個人的にはまだ実家で弟達と暮らしている姿が好きですね。
 ちいさな昌浩の挿絵には、きっと誰もがくらっと…
 (いやいやいや、それはあやしい言い方だから!)。

 評定:★★★★★
  
  

菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「おお、弟たちよ、久方ぶりだ。じゃ」(安倍 成親)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 一話完結
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
424. 「ソラチルサクハナ 薬屋探偵怪奇譚」     高里 椎奈
2007.12.23 長編 254P 860円 2007年8月発行 講談社ノベルス ★★★★★
ファンタジー・ミステリシリーズ新章第1作

【100字紹介】
 会社員の桐が怪しげなお札を盗んで以来、
 彼の同僚たちが次々と不可解な殺人事件に巻き込まれていく!
 妖怪雑事相談員リベザルが謎を追うが、
 深山木薬店を巻き込んでの惨事に発展…
 新シリーズ「薬屋探偵怪奇譚」第1作


高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの新章スタート第1作です。

前シリーズのラストで、深山木薬店を去っていった秋と座木。
あとに残されたリベザルが、深山木薬店を継ぐ…というすじが、
短編集の方で示されました。その後、どうなっていったのか…?
それが本書。
というわけで。前シリーズから、7年くらいあとの話。
リベザルが主人公、かな。

物語は、ちゃんと妖怪雑事相談員の跡を継いだリベザルが、
とある人間からの依頼を受けるところから始まります。
会社員である桐は、花見客を相手にスリを働いて遊んでいるのですが、
最後にすった財布の中に入っていたのは、おさつではなく、おふだ。
このおふだを持って以来、周りに不可解なことが頻発。
妖怪だか霊だか、とにかく人ならざるものが関わっているのでは…、
と危惧してリベザルの元へやってくるのです。
早速調査に乗り出すリベザルですが、結局事態はエスカレートし、
ついには桐の同僚達が次々と不可解な殺人事件に巻き込まれていきます。

一応、新シリーズの第1作なので、独立してここから読み始めても可、
のはずですが、前シリーズからの登場人物が意外に多いので、
「誰だ、お前は!」になることを考えると、出来れば前シリーズには
目を通している方が望ましいのでは、と思います。
その方が、前のシリーズとは年月が離れていますから、
キャラの成長によるギャップなどが楽しめますしね。

一番大きなギャップが見られるのが冒頭のリベザルかも。
そう、主人公であるリベザルが、かなりびっくりな変化を遂げています。
何かリベザルが理屈っぽく推理してるし!
そもそもにこりとも笑わないし!怒りもしないし!
どうした、リベザル!?という感じ。
語られない7年間の時間と空間が、現在の描写によって
しっかりと滲み出ている、という寸法ですね。
こうして、ラストの方に感情移入する準備が整うのです。

しかし、止まらない事件…。途中で「リベザル、頑張れ!」と
思わず叫びたくなるような。彼は彼なりに頑張ってきて、
そして、最後まで頑張リ続けたけれど、
やっぱり「あの人」にはまだまだ追いつけそうにもないですね。
これからが楽しみな終わり方でした。

それにしても、「おおお、このセリフいいなあ」という
菜の花のツボな描写が多いです、この著者は。
やっぱり波長が近いのかもしれません。
これが全篇通してだと、なおいいのですけれどねー。
まだムラがあるかな。
ああ、それにしてもこのシリーズもこれから、楽しみですねえ。


菜の花の一押しキャラ…リベザル 「過去は変わらない。でも、今は過去ではありません。      失敗した自覚があるのなら、忘れて活かさない方が冒涜です」 (深山木 秋)
主人公 : リベザル
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトファンタジー
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : やや理屈っぽい
結 末 : 明るい。序章終了
オブジェ製作・撮影 : たかせひとみ
カバーデザイン : 斉藤 昭 (Veia)
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津 典之

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録