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(2007年8月…374-387) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年8月の総評
今月の読了冊数は14です。2007年の最高記録です。
内訳は長編1、短編1、エッセイ・教養書4、ライトノベル8。
コンプ計画中の著者の読了数は有栖川有栖1、結城光流3、壁井ユカコ5です。
圧倒的にラノベで数を稼いでるな…という印象で(苦笑)。
でも、意外に健闘しているのが教養書系統です。

さて2007年8月の菜の花的ベストは…

 「キーリ 死者たちは荒野に眠る」     壁井ユカコ(評定4.0)
 「問題な日本語」             北原保雄編(評定4.0)
 「キーリV, VI はじまりの白日の庭(上)(下)」壁井ユカコ(評定4.0)

3作が同点です。

「キーリ」は、壁井ユカコのデビュー作のライトノベル。
第9回電撃ゲーム小説大賞<大賞>受賞作です。
地球ではない惑星に住む、強い霊感を持つ少女キーリが、
<不死人>ハーヴェイと、小型ラジオの憑依霊・兵長と出会い、
勝手に彼らの旅に同行するという物語。
デビュー作なのに落ち着いた品質で、ボリューム感もある作品。

「問題な日本語」は、国語辞典を編纂したメンバーが書く教養書。
何年か前に流行った作品です。全国の高校の先生から教育現場での
「気になる日本語」の生の声を集め、何故その用法が生まれたかを考察。
「使ってはいけない」ではなく誤用の論理を究明する、日本語が楽しくなる1冊。

「キーリV, VI」は壁井ユカコのキーリシリーズ第5巻・6巻。
初の上下巻で、長さがありますが、展開・配列も巧い作品。
思わぬ人物との出会い、悲しい戦争の記憶を綴る、
いつもにも増して切ないお話です。



以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「少年陰陽師 闇の呪縛を打ち砕け」    結城光流 (評点3.5)
 「キーリII 砂の上の白い航跡」      壁井ユカコ(評点3.5)
 「キーリIII 惑星へ往く囚人たち」     壁井ユカコ(評点3.5)

「闇の呪縛を打ち砕け」は、結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第2作。窮奇編の第2弾でもあります。
昌浩、良い子だなあ…と感情移入してちょっと泣けるラストです。

「キーリII」はキーリシリーズ第2巻。
第1巻では列車の旅でしたが、今度は船旅。
港で、船上で、トラブルに巻き込まれるキーリ、ハーヴェイ、兵長。
1作目の方が面白かったかな、という印象はぬぐえませんでしたが、
本作も色々と工夫はあり、全体の流れも起承転結が綺麗なライトノベル。

「キーリIII」は上記の続編・第3巻。
この手の旅ものではちょっと珍しい展開ですが、
キーリたちはしばらく炭鉱の町に住むことに。
シリーズの重要人物が新登場した巻でもありました。


 「エコマテリアル学 基礎と応用」          (評点3.0)
 「モロッコ水晶の謎」           有栖川有栖(評点3.0)
 「少年陰陽師 鏡の檻をつき破れ」     結城光流 (評点3.0)
 「キーリIV 長い夜は深淵のほとりで」   壁井ユカコ(評点3.0)
 「少年陰陽師 禍つ鎖を解き放て」     結城光流 (評点3.0)

「エコマテリアル学 基礎と応用」は大学生レベルの教科書。
エコマテリアルとは持続可能な人間社会を作るために必要な物質・材料。
生産、使用、リサイクル、廃棄の全過程を通じて
環境負荷を最小にすることが求められる中、
その実現のために知るべきことをまとめた初の教科書です。

「モロッコ水晶の謎」は有栖川有栖の国名シリーズの中編集。
火村&作家・アリスの絶妙(微妙!?)コンビが、
4つの事件に立ち向かう、ミステリです。

「鏡の檻をつき破れ」は、結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第3巻。窮奇編の第3弾、最終章でもあります。
彰子の入内が決まり、ちょっと変形ロミオとジュリエットなお話。

「キーリIV」は壁井ユカコのライトノベルで、キーリシリーズ第4巻。
前作から1年半、それはハーヴェイがいない期間でもあります。
音沙汰ないハーヴェイを追って、キーリはベアトリクス、兵長とともに
再び旅立ちます。ハーヴェイとの3人旅のときとの色合いの違いが見所。

「禍つ鎖を解き放て」は結城光流のライトノベルで、
少年陰陽師シリーズ第4巻。風音編のスタートです。
周りに事情が話せない長期休暇のあとから、
職場で微妙な立場に立たされる昌浩の、
平和ながら不安定で葛藤にみちた姿を描きます。


 「女には向かない職業」          ジェイムズ,PD(評点2.5)
 「日本発 ナノカーボン革命」       武末 高裕  (評点2.5)

「女には向かない職業」は、P.D.ジェイムズの長編ミステリ。
可憐な女探偵・コーデリア・グレイのひたむきな活躍を描きます。
展開としてはミステリマニア向けかも。やや翻訳がかたいです。
古典風な感じが漂いますが、1972年の作品なので、妥当な感じ。

「日本発 ナノカーボン革命」は武末高裕のドキュメンタリー。
ナノカーボンを主軸に据え、研究者、技術者に取材し、
それぞれの視点にたって、発見や開発の経緯を時系列で追っていく形式で、
技術的な記述は少なく、一般人の興味を満たすための「よみもの」としての作品。
難しすぎないので誰でも興味を持ちさえすれば、
容易に読めて、この世界を垣間見ることの出来る手軽な本でしょう。


 「カーボンナノチューブの挑戦」      飯島澄男 (評点2.0)

「カーボンナノチューブの挑戦」は、カーボンナノチューブの発見者である研究者、
飯島澄男が研究の背景、発見までの道のり、その後の研究展開について、
自分の経験を振り返りつつ平易に語る、一般向け読み物。
一般向けで薄い本ですので、興味本位で読むのに向いています。



以上、今月の読書の俯瞰でした。








374. 「少年陰陽師 闇の呪縛を打ち砕け」     結城 光流
2007.08.05 中編 254P 457円 2002年5月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★+
安倍晴明の孫・昌浩の活躍!シリーズ第2作


【100字紹介】
 時は平安。13歳の昌浩は、稀代の陰陽師・
  安倍晴明の末の孫。相棒の物の怪「もっくん」と
  貴船神社で鬼女が丑の刻参りをしているという噂を聞く。
  一方道長の娘・彰子の身にも妖の魔の手が…。
  新米陰陽師奮闘記第2作


さて、安倍晴明の孫、半人前陰陽師の成長物語第2弾です。
前作で解決しなかった「窮奇」の物語の続き。
今度は、窮奇の頼れる部下である鳥タイプ妖怪2匹が、
大陸への調査から戻って来て、早速主のために動き出します。
というわけで、昌浩VS鳥妖怪×2。

十二神将も、わさわさと出てきました。
青龍が一番目立って登場。何と巻頭の登場人物紹介に
イラスト入りで登場してますし!
それ以外にもかなり勢ぞろいっぽく出てきました。
が、あまり目立ってません。まあ、そのうち。


前作で気になったテンポや、文章の活かし方などは
あまり気にならなかったかなと。
何より、やっぱり感情移入でしょう!
小説はエンターテイメント、ライトノベルならなおさら!
技巧よりも、とにかく楽しい!でも面白い!でも切ない…でも、
何でもいいから心動かされたい!というもの。
今回は…、その点ではなかなかでしたよ!
ええ、そりゃもう。
ラストの方は、涙腺緩みましたものー。
ああ、お子様の一途な思いってうるうるですねえ。
でも実際にはこんな子、絶対いないんだ…(悲観的過ぎるよ、菜の花よ)。

今回の騒動としては、一応の解決はありましたが、
まだまだ窮奇、問題なく存在中です。
というわけで、次回に続く…。わくわく。


菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「…見ーつけた。もっくん、探したぞ」(安倍 昌浩)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 続く
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★+
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
375. 「女には向かない職業」     P.D.ジェイムズ
2007.08.11 長編 322P 560円 1987年9月発行 ハヤカワ・ミステリ文庫 ★★+★★
可憐な女探偵・コーデリアのひたむきな活躍


【100字紹介】
 探偵稼業は女には向かない。
 ましてや22歳の世間知らずな娘には。
 だがコーデリア・グレイの決意は固く、
 自殺した共同経営者の為、一人で探偵事務所を続けることに。
 可憐な女探偵へ最初の依頼、ひたむきな活躍を描く


 --オリジナル・データ-------------------
  An Unsuitable Job for a Woman
   by P. D. James

  © 1972 by P. D. James
 ---------------------------------------


コーデリア・グレイ。
女探偵と言えば?と訊かれて、菜の花が彼女を思い浮かべてしまうのは、
恥ずかしながら漫画「名探偵コナン」の影響です(苦笑)。
裏見返しの名探偵名鑑で出てきたんですよね、彼女。
しかも主要キャラの一人・灰原哀の名前の由来のひとつでもあります。

そんなコーデリア・グレイを初読みでした。

元々、"元・首都警察犯罪捜査部所属"のバーニイ・プライドと
私立探偵事務所を経営していたコーデリア。
しかし、冒頭からいきなり、このバーニイが自殺。
妙に冷静なコーデリアですが、彼女なりに思うところがあったらしく、
バーニイが残す、と書き残したもの…、
家や車、そしてこの事務所を継ぐことにするのです。
周囲から、私立探偵なんて「女には向かない職業」と言われながら…。

バーニイの葬儀から戻ってきたところを早速、依頼人が。
これは「過去からの贈り物」の依頼でした。
依頼人は有名科学者。ケンブリッジ大学を辞め、自ら命を絶った息子の
自殺の理由を調べてくれというもの。
依頼人の周りには、何やら胡散臭い感じの研究助手や、秘書のような女性。
更に、ケンブリッジ大学の学友たちが、これに輪をかけて怪しい。
何でこんな怪しい奴しかいないんだ!くらい怪しい…。

そんな中を、怖い思いもしながら、一生懸命な捜査をするコーデリア。
多くのイギリス人にとっては、「コーデリア」という名前はそもそも、
シェークスピアの「リア王」の末姫が思い浮かぶそうで
はっきり「姫君」のイメージらしいのですが(解説より)、
確かに本作でコーデリアはただひたむきに頑張ります。
頑張りますが…、結構、踏んだり蹴ったりかも。
尾行されているわ、仮滞在の寝床を荒らされるわ、
夜中に後ろから襲われて気絶させられるわ、
その上で古井戸に突き落とされて蓋までされて殺されかけるわ、
それはちょっと…なことを手伝わされるわ(自ら提案したわけですが)…。
「女には向かない職業…」と言われ続けつつのこの苦労。
「リア王」ばりの悲劇キャラかも?

内容、展開としてはマニア向けかな。
まあ、ありがちといえばありがちかもしれませんが、
そこはそれ、1972年の作品ですから。
この当時でこの作品は、驚きをもって迎え入れられたかも。

翻訳ものの短所として、やや文章がかたくて読みづらいのが難点。

最後のダルグリッシュ警視とのやり取りでは、
ちょっとした「イメージ」のどんでん返しがあるかも。

作品の位置づけとしてはこの「ダルグリッシュ警視」のシリーズの
番外編になるようです。



菜の花の一押しキャラ…コーデリア・グレイ 「そのとき、なんと言ったのですか?」 「『さっさと行かないと、殺すわよ』」 (アダム・ダルグリッシュ、コーデリア・グレイ) …こわ!コーデリア、こわっ!
主人公 : コーデリア・グレイ
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : やや古典風
結 末 : ハッピーでもバッドでもない
翻 訳 : 小泉 喜美子
解 説 : 瀬戸川 猛資
カバーデザイン : 菊池 信義

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
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376. 「キーリ 死者たちは荒野に眠る」     壁井 ユカコ
2007.08.13 中編 281P 550円 2003年2月発行 電撃文庫 ★★★★
霊感の強い少女・キーリと不死人と死霊の旅


【100字紹介】
 教会の寄宿学校に通う14歳のキーリは霊感が強く、
 神の存在に疑問を抱いていた。冬の長期休暇初日、
 キーリは<不死人>の青年ハーヴェイと
 その同行者の小型ラジオの憑依霊・兵長と出会い、
 勝手に彼らの旅に同行する

第9回電撃ゲーム小説大賞<大賞>受賞作です。
ちなみにイラストは第9回電撃ゲームイラスト大賞<大賞>受賞者さん。
大賞同士でタッグを組んだ作品ですね。


舞台は異世界、というか異惑星。
<十一聖者と五家族>がこの星にやってきて教会を…という文章が、
オープニングで登場するため。うわお、壮大?
そのため、この世界では我々の歴史とはまったく違う歴史があります。
戦争があって、そのとき存在した脅威の兵士<不死人>というのが
堂々と存在するわけです。<不死人>は心臓にあたる「核」を
抜かれない限り、死ぬことはない存在という設定。
眠らないし、食べなくてもいいし、傷は治るし。
でも、教会は<不死人狩り>として容赦なく攻めてくるわ、
友人知人はどんどん歳をとって死んでいくわで、
著者のことばを借りれば「人生くたびれた男」。

ついでに「あとがき」からこの物語について、
最も簡潔かつ的確に表現した部分を引用しましょう。

いまいち退廃的な雰囲気の、鉄道旅行をメインの舞台とした物語です。 ストーリー的には、まわりくどい性格の少女と、めんどくさい性格の男が くっついたり離れたりする話であり、人生くたびれた男が生きる意味を 取り戻す話だったりもします。   ―あとがきより
…お分かり頂けましたでしょうか。 菜の花が何を言うよりも、著者のお言葉が一番的確ですね。当然。 文章や展開にも特に気になるところはありませんし、 これはという欠点のない作品です。デビュー作なのに落ち着いた品質。 ボリューム感もあって、読んで満足ですね。 ライトノベルにしては、ややキャラの個性が弱い気はしましたが、 全体の雰囲気に取り込まれた、と考えればまあ。 続編、そして次作が楽しみな作者さんです。
菜の花の一押しキャラ…兵長 「……ばいばい、キーリ。もう二度と会わないよ」 (ハーヴェイ)
主人公 : キーリ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 異世界、暗め、退廃的
結 末 : ハッピーエンド
イラスト : 田上 俊介
デザイン : Yoshihiko Kamabe

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
377. 「エコマテリアル学 基礎と応用
   未踏科学技術協会「エコマテリアル研究会」監修、教科書作成委員会編
2007.08.14 教科書 419P 4600円 2002年3月発行 日科技連 ★★★★★
エコマテリアルについての初の本格的教科書


【100字紹介】
 持続可能な人間社会を作るために
 必要な物質・材料であるエコマテリアル。
 生産、使用、リサイクル、廃棄の全過程を通じて
  環境負荷を最小にすることが求められる中、
 その実現のために知るべきことをまとめた初の教科書


今回は、思いっきり教科書でした。教養書ではなく。
とっつきやすそうに見えたんですけどー。うーん。

一章一名の、複数人で執筆するタイプです。
範囲が多岐にわたる場合によくある教科書ですね。
全体は大きく4章構成で、全30項となっています。

  I. 環境と材料
 II. 材料工学の基礎
III. エコマテリアル設計
 IV. 環境調和未来材料の科学技術

「I.環境と材料」は5項目。「3.地球システムと資源の形成」が
理学的な視点である以外は、殆ど社会的な側面からの内容です。
エコマテリアルの概要であり、どのような社会的要求によって、
これが推奨されるのか、またどのように社会へ組み込めるか?
というようなことが主なテーマと言えます。

「II. 材料工学の基礎」も5項目。それぞれのタイトルが
「〜の構造と機能」となっていて、〜の部分にはそれぞれ、

「金属材料」「木質系材料」「高分子材料」
「無機材料(セラミックス)」「電子材料」

の5つが入ります。純粋な理工学系教科書の部分で、
数値なども飛び交いますので、数字嫌いな文系の人には
とっつきにくい内容かもしれません。

「III. エコマテリアル設計」は13項目。
最初と最後だけプロローグとエピローグという感じでタイトル形式が違いますが、
あとは全部「〜におけるエコマテリアル設計」となっています。
〜の部分はそれぞれ、

「金属材料」「木質系材料」「高分子材料」
「無機材料」「電子材料」「触媒材料」「エネルギー材料」
「情報材料」「繊維」「医療」「建築」

です。2章でも取り上げられた前半5項目は、
「モノ」としてどうやってエコマテリアル化するかを、
後半6項目は、目的別にそれを達成するのに
どんなエコマテリアルが考えられるか?を論じています。

「IV. 環境調和未来材料の科学技術」は7項目。
未来の技術として

「超鉄鋼」「生分解性高分子材料」「バイオミメティック材料合成」
「ナノマテリアル」「環境修復材料」

などを取り上げ、ラストに将来的構想などを論じています。


全体を通して各章、同じような論理展開が多くなるのは、
方向性が同じであり、それが重要な流れということでしょう。
やや冗長には感じましたが。

それにしても、関係ありませんが…監修した団体名が、
何ともあやしげな名前です。。。



テーマ : エコマテリアル
構 成 : 各章1人の著者による
ジャンル : 教科書
対 象 : 主に理系の学部生向け

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
378. 「キーリII 砂の上の白い航跡」     壁井 ユカコ
2007.08.14 中編 325P 570円 2003年5月発行 電撃文庫 ★★★+
霊感の強い少女・キーリと不死人と死霊の旅


【100字紹介】
 強い霊感をもつ14歳の少女キーリと
 <不死人>ハーヴェイ、そしてラジオの憑依霊・兵長は
 砂の海を渡る船で旅立つことに。
 港で、船上で、トラブルに巻き込まれる彼ら。
 無事に砂の海を抜けられるか?シリーズ第2作。

さて、第9回電撃ゲーム小説大賞<大賞>受賞作の第2弾。


舞台は異世界、というか異惑星。
前作で正式に一緒に旅に出ることになった主人公のキーリ、
<不死人>ハーヴェイ、ラジオに憑依する戦死兵の霊・兵長は、
早速キーリの希望通り、「海」から出港することに。
この世界では海は、砂の海らしいです。
水じゃないんですね。でもちゃんと満ち引きとか、
潮の流れなんかがあるという設定らしいです。
ちょっとファンタジ〜。

前作では主に列車旅が中心でしたが、今回は船旅ですね。
…にしても波乱万丈な船旅だこと。

出港前にあーんなことがあったり、
出てからはこーんなことがあって、そーんなトラブルに巻き込まれ、
挙句に…。いや、思わず指示語が多くなってしまった。

一話一話、綺麗にまとめて起承転結をつけた上で、
うまく連ねていっているところが前回も「凄い」と思いましたが、
今回も同様です。それぞれを綺麗にまとめているから、
読みやすさと安心感がありますね。

それにしても。本作は特に後半、やばそうですね。
前作もひどい目にあいまくりだったハーヴェイですが、
本作でもやりたい放題やられてます。
まったくもって、出血の絶えない人です。
何というか、まさか作者さん、そういう趣味?…くらいに。
いやいや、違うと信じたい。


ただ少し、全体に前作ほどのインパクトはないでしょうか。
やはりデビュー作は面白いもので。
本作も色々と工夫はありましたけれど!
あ!と驚く某キャラが登場はしましたしー、
全体の流れも起承転結が綺麗ですしー、
文句をつけるところなんてないはずなのですが、何故かしら…。



菜の花の一押しキャラ…セツリ 「……さあ。俺もなんで俺でいいのかわかんないな」 (ハーヴェイ)
主人公 : キーリ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 異世界、暗め、退廃的
結 末 : ハッピーエンド
イラスト : 田上 俊介
デザイン : Yoshihiko Kamabe

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
379. 「モロッコ水晶の謎」     有栖川 有栖
2007.08.16 短編集 246P 860円 2005年3月発行 講談社ノベルス ★★★★★
火村&作家・アリスの、国名シリーズ中編集

国名シリーズの中編集です。
いつも通りの火村&作家・アリスの絶妙(微妙!?)コンビ登場です。


●「助教授の身代金」
 休業中の俳優の妻宛てに、脅迫電話がかかってきた。
 夫を誘拐したという。身代金の要求を受けた彼女が、
 電車に乗って身代金を引渡しにゆくが、
 結局犯人からの接触はなく、夫は…。犯人の目的とは?
  
 <感想>
 助教授が誘拐!と言われると思わず「え!?火村先生!?」
  …と思うかもしれませんが違います、ええ。ご安心下さい。
 恋愛ドラマの助教授役が当たり役だった休業中の俳優さんです。
 身代金目当ての誘拐というのは後を絶ちませんが、
 実際のところ国内の成功例は未だにないと言われています。
 実際、本作でも…でも何か様子がおかしくて。
 一体、何が起こっているのか!?が、ポイント。
  真相を知った後に、もう一度読み返すのも興味深い作品です。

 評定:★★★+



●「ABCキラー」
 関西地方で連続銃殺事件が発生。被害者とその殺害場所の頭文字が
 殺害順にA、B…と続いている…!?そして警察に届いた手紙。
 「アルファベットは26文字。手元の弾丸は26発。やってみよう、
  ためしてみよう。どこまで続くかは警察しだい。…」
 これはアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」を模しているのか?

 <感想>
 超有名作品を模しているかもしれないぞ、とほのめかす作品。
 あ、何かややこしい(笑)。
 犯人の目的が何だかはっきりしないので、
 分類としてはホワイダニットですね。
 論理的に解きなさい、と言われても読者が解くのは困難かと
 思いますが(解ける人には解けるのかもしれませんけど、菜の花には無理!)、
 あー、ミステリ読んでいるなーという気持ちには浸れる作品です。
  
  評定:★★★★★
  


●「推理合戦」
 推理作家の朝井小夜子女史とともに、火村とアリスは焼き鳥屋へ。
 朝井女史の新連載の話の途中にふと、火村が
 「朝井さん、最近S***に行きましたね」と言い出す。
 そんな話一言も…だが火村は「推理しただけ」と涼しい顔。
 今度は朝井女史が火村に「車の修理はいつできそう?」と尋ねる。
 これも推理したらしい。意地になったアリス、
  どうして分かったのかを突き止めに翌々日、
  実際にS***に足を運んだのだった。さて真相は?

 <感想>
 あははははは。面白いです。
 意地になっているアリスも面白いです。
 あとがきにて著者曰く「軽い頓智比べ」
 「お口直しのシャーベット」とのこと。うん、狙いは正確でした。
 元々はケータイで配信されていたようです。
 僅か5Pの作品ですが、最後の最後に電話をかけるシーンに大爆笑。
 推理作家って…推理作家って…!(笑)

  評定:★★★★+


●「モロッコ水晶の謎」
 アリスは雑誌の企画で、出版社社長宅の敷地内に住む占い師・畝美苗の
 インタビュー記事を書くために取材にやってきた。そこで出版社社長の
 作家志望の息子と話をしてくれと本宅に引っ張り込まれ、社長の誕生会に
 招かれることに。が、その席上で何と、社長の娘の交際相手が毒殺される。
 彼だけに毒を盛ることは不可能だったはず。アリスの眼前で起きた不可解な事件。

 <感想>
 結構、不可能毒殺事件、好きですね、有栖川氏は。
 この国名シリーズでも「ロシア紅茶の謎」の表題作で同じように
 ホームパーティーの席での不可能毒殺事件を取り上げていました。
 表題の「モロッコ水晶」はアリスが取材した占い師の持ち物。
 この占い師は社長お抱え占い師だったのに、残念ながらこの事件を
 予見することが出来なかったわけです。しかし…。
 フーダニット&ハウダニットですが、うん、犯人って、
 ある意味凄い人だなあ。そこまで何かを信じられるというところが。

  評定:★★+★★



菜の花の一押しキャラ…火村 英夫 「さすがに恐縮しましたわ。彼は、頻繁にやってきては本棚から  分厚い洋書を抜き出し、それをむしゃむしゃ食べんばかりに  耽読するわたくしのことが以前から気になっていたそうです」 (畝美苗)
主人公 : 有栖川 有栖
語り口 : 1人称
ジャンル : 本格ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 関西系本格ミステリ
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーデザイン : 坂野 公一 (Welle design)
カバーイラストレーション : 藤田 新策

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
380. 「キーリIII 惑星へ往く囚人たち」     壁井 ユカコ
2007.08.17 中編 299P 550円 2003年8月発行 電撃文庫 ★★★+
キーリと不死人とラジオの憑依霊の旅第3作


【100字紹介】
 「砂の海を渡る船」を降りたキーリと<不死人>ハーヴェイ、
 そしてラジオの憑依霊・兵長は、炭鉱の街に住むことに。
 この街に留まる理由は知らないまま、
 キーリは初めてのアルバイト生活を楽しむが…シリーズ第3作。

「キーリ」第3作です。って、書かなくても表題から明らかですが。

舞台は異世界、というか異惑星。
今回のプロローグで、謎だったこの惑星の位置づけがまた少し、分かりました。
なるほど、それでこの副題なのですね。「惑星へ往く囚人たち」。
そしてそれが後半に絡んでくるのは、うん、綺麗な構成ですね。

前作で砂の海を渡り、新しい土地へやってきたキーリ、
<不死人>ハーヴェイ、ラジオに憑依する戦死兵の霊・兵長。
第1巻・列車旅、第2巻・船旅ときて、第3巻は何で旅するかと思ったら…、
しばらく定住!でした。こういう旅ものファンタジーでは珍しくて、
予期せぬ展開でしたよ、菜の花としては。

ちょっと平和、でも安穏とまではいえない、
というところがまた、彼ららしいです。

構成としては、今までの章ごとの独立性というか、
連作短編的な部分が少し緩和されて、長編風の趣が出てきました。

そして、キャラですよ、新キャラ登場ですよー。
多分、超重要キャラとも言うべきお方登場です。
このキャラの登場によって、キーリの思わぬ一面に遭遇した気分です。
キーリも意外に、世俗的というか、普通の感覚があったんだなあって。
ちょっと浮世離れした雰囲気と、年齢以上に幼く無邪気で、
なのに暗く押し殺したような性格かと…ってそれはどんな性格なのか。

ところで本作を読んでいる途中に、このシリーズで菜の花を
ひきつけてやまないところを幾つか発見しました。
そうか、こういうところがよかったのか、って。

ひとつはイラスト!
当初、そんなに気に入っているというほどでもなかったのですが、
本作の表紙や巻頭の折込カラーを見ていて、はっとしてみた菜の花でした。
手。手のカラーイラストが綺麗なのです。
眠っているキーリの手。何気なくおろされた手。
あと、ハーヴェイの背中のラインとか、いいなあ…。
って、だんだんあやしい人っぽくなってきたのでやめよう。
とにかく気付いたらイラストの田上俊介氏のファンになっていたのかも。

それから、話し方。話し言葉が好きです。
何というか、型にはまった「女の子らしい」とか「青年らしい」とか、
そういう話し方から外れるときが巧いなあと。
特にハーヴェイが、そう思うのですよね。

あとは全体のことばのテンポ。
地の文は基本的に3人称ですが時折、キャラ視点になります。
そういうところの切り替えが巧いし、そういうときの、
キャラの特徴と、音律を生かしたことばの並びがとても好き。


…と、本作特有の何か、というわけでもないのですが
好きなところを語ってしまった!
まあ、そんなこんなで、結構好きです、このシリーズ。
と無理矢理まとめて終わり。



菜の花の一押しキャラ…スーズィー 「あー、あそこまでやる泥棒がいたらむしろすがすがしいと俺は言ってやりたい」 (ハーヴェイ)
主人公 : キーリ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 異世界、暗め、退廃的
結 末 : つづく
イラスト : 田上 俊介
デザイン : Yoshihiko Kamabe

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
381. 「少年陰陽師 鏡の檻をつき破れ」     結城 光流
2007.08.18 中編 254P 457円 2002年8月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫・昌浩の活躍!シリーズ第3作


【100字紹介】
 時は平安。13歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 相棒の物の怪「もっくん」と目下、
 異邦からやってきた妖を追っている。
 そんな中、この妖の呪詛を受けた道長の娘・彰子の入内が決まり…。
 シリーズ第3作


安倍晴明の孫、半人前陰陽師の成長物語第3弾。
前2作で解決しなかった「窮奇」の物語の最終章です(多分)。

今回もいじめられっ子・昌浩。
慕っていた彰子といい感じになっているというのに、
このタイミングで彼女の入内が決定。
つまり帝にお嫁入りしてしまうというのです。
引き裂かれた二人。
…というわけで、身体的にも心情的にも苦痛に満ちた
可哀想な昌浩&彰子という、
ちょっと変形ロミオとジュリエットというのが本作。
頑張れー昌浩ー。

前回、わさわさ出てきた十二神将、
今回はもう少し活躍の場が出来ましたよ。
巻頭の登場人物紹介に青龍に加え、六合も登場。
無口な六合ですが、今回は何かと活躍です。
アニメのときから菜の花、六合大好きなんですけど!
無口だけど、いざというときに頼りになるおにーさんです。
更に、玄武と天一は他の人物のところで名乗りを上げていました。
こんなに表に出てきて…。
何だか菜の花は嬉しいですよ、うるうる(;_;)。(←何故?)

残念ながら、前作ほどの感情移入は出来ませんでした。
いや、前作は本気で涙腺緩みましたものねー。
でも何より、本作は踏んだり蹴ったりの中、
一生懸命動いてついに「窮奇」編解決!となったのですから、
昌浩の頑張りに乾杯!ということで、★3つです。
いい子だなあ。でもちょっと、自分のことを省みなすぎだなあ。
菜の花には、昌浩が生き急いでいるように思えてなりません。
これも若さゆえか…とか言い出すようになっては、菜の花ももうお歳ですねえ。



菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「久し振りの再会だからな、こいつらだって思う存分    お前のことを潰したいだろうと思ったわけだよ、うん」 (もっくん)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : ハッピーエンド
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★★
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382. 「カーボンナノチューブの挑戦」     飯島 澄男
2007.08.20 一般書 110P -円 1999年1月発行 岩波書店 ★★★★★
カーボンナノチューブ発見者の語る私の研究


【100字紹介】
 カーボンナノチューブの発見者である研究者が、
 カーボンナノチューブ研究の背景、発見までの道のり、
 その後の研究展開について、自分の経験を振り返りつつ平易に語る。
 電顕写真なども盛り込んだ、一般向けのよみもの


カーボンナノチューブとは、炭素原子が並んで出来た、
ナノスケール(10のマイナス9乗)のチューブ型構造体。
通常の炭素原子が単体で作る物質といえば、
四面体に綺麗に整列して出来たダイヤモンド、
六角形が積み上がったハニカム構造のグラファイト(黒鉛)、
アモルファス(無秩序な並び)の炭。
が、サッカーボールのような並びのC60(フラーレン)が発見されたことから
炭素研究が盛んになりました。
そして、この著者である飯島氏が、条件次第で様々な物性を持たせることの出来る、
カーボンナノチューブを発見したのです。

本書では著者自身がその研究の背景や概要などについて、
極めて平易に語ります。

一般向けで薄い本ですので、理系の人なら特に苦もなく、
一晩とかからず読めるでしょう。
完全に網羅的であるわけではないので、
初心者の入門にはあまり向きませんが、
興味をもった人がふっと手に取ったり、
すでにある程度知っている人が、発見者は何を言うのだろう?
…という興味で読むには、手ごろな本かと思います。



テーマ : カーボンナノチューブ
語り口 : 一人称
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★+★★★

総合評価 : ★★★★★
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383. 「問題な日本語―どこがおかしい?何がおかしい?」     北原 保雄編
2007.08.21 一般書 168P 800円 2004年12月発行 大修館書店 ★★★★
気になる日本語とそれが登場する論理を解説


【100字紹介】
 明鏡国語辞典編纂にあたり、全国の高校の先生から
 教育現場での「気になる日本語」の生の声を集め、
 何故その用法が生まれたかを考察。
 「使ってはいけない」ではなく、誤用の論理を究明する!
 日本語が楽しくなる1冊。


何年前に流行った本です、多分。。。
えっと、2004年12月発行ということは、まだ2年ちょっと前ですか。
あれ?それくらいでしたっけ。最近時間の感覚が…(それは危険(- -;))。

著者は、国語辞典を編纂したメンバー。
その編纂時に全国の高等学校国語科教師から、
「気になる日本語」を募集し、それについて解説を加えた
コラムのようなものを国語辞典に入れたようです。
本書はそれを加筆し、1冊の本にまとめたもの。

1つの質問につき数ページで解説、それぞれの最後に数行のまとめが入ります。
質問は例えば「わたし的にはOKです」とか「二個上の先輩」、
「台風が上陸する可能性があります」など、
振り返ってみると自分も結構使っているのでは?な表現ばかり。
しかもさすが高校の教育現場の生の声!
いかにも現代風のことばも沢山収録されています。
「っていうか」「全然いい」「みたいな」「これってどうよ」
「きもい・きしょい・うざい」「なにげに」などなどなど。
っていうか、菜の花もよく使います(←使ってみた)。

更にページの下3分の1くらいに「使うのはどっち?」という
短い(1Pで終わる)解説がちまちま〜っとついています。
「稲妻(いなまVS.いなま)」、どっち?…や、
「フロッピー」VS.「フロッピィ」、どっち?…など
下段を使っていますが、上段の内容とは独立していて、
まったく別物になっています。何だか辞書のコラムみたい。


世間で流行った作品ではありますが、ここまで面白いとは思いませんでした。
というか、やわらかいですね、これ。
誤用の指摘、ということで「あれは駄目、これは間違ってる」というような、
ちょっときついイメージを持っていました。
実際に読んでみると大間違い!
これは誤用、それは文法的には間違っていません、という指摘だけでなく、
どういう経緯でその表現が生まれたと考えられるかとか、
更には新しく生まれてきた表現で、現在ではまだ公式の場では
誤解を招くこともあるが将来的には定着する可能性があります、など、
「間違っているから何が何でも駄目」という押し付けがましさがありません。

言葉は変化するものだ、というスタンスに立ち、
その変化を冷静に分析する目が素敵だと思います。
やや著者ごとにスタンスの差があることもありますが。

また、ときどき入る四コマ漫画が密やかに面白い…。
このまったり感が何とも…。

日本語に興味が持てる、普段使う日本語への問題意識が芽生える、そんな作品。


テーマ : 日本語
形 式 : 複数著者が1項目ごとに担当
ジャンル : 教養書
対 象 : 一般向け
著 者 : 北原保雄、小林賢次、砂川有里子
  鳥飼浩二、矢沢真人
 絵 : いのうえさきこ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
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384. 「キーリIV 長い夜は深淵のほとりで」     壁井 ユカコ
2007.08.24 中編 317P 570円 2004年2月発行 電撃文庫 ★★★★★
前作から1年半、キーリが旅に出る第4作。


【100字紹介】
 ハーヴェイが消えてから約1年半。
 キーリは16歳になっていた。
 ラジオの憑依霊・兵長と<不死人>ベアトリクスとともに
 東サウスハイロに住んでいたキーリは、
  その出生に関する情報を得て、旅に出た…シリーズ第4作

「キーリ」第4作。半分くらいきましたね。
舞台は異世界、というか異惑星。
まだ色々と秘密がありそうです。

旅に出たきっかけであり、ともに過ごしてきた<不死人>ハーヴェイは、
前作でキーリを置いて単身、首都へ行ってしまいましたが、
本作でも帰ってきてません。どころか1年半もたってます。
どうなっちゃったんだ、ハーヴェイ!?
…もう戻ってきてくれないの、と思い始めたキーリですが、
ベアトリクスの得たキーリの出生に関わるかもしれない情報を元に、
ハーヴェイが向かったはずの首都の近くまで行くことに。

1作目が列車の旅、2作目が(砂の海の)船旅、3作目がちょっと定住で、
4作目は…なんでしょ、旅と都市の物語?それとも地下水路で水物語?

構成としては、1・2作目には連作短編の雰囲気がありましたが、
3作目で薄れて、4作目は元の趣はなくなって普通の長中編ですね。

大きくは2部構成。
前半はキーリ・兵長・ベアトリクスの旅、
後半はキーリ・ハーヴェイの逃走劇(少しユリウス風味)と、ベアトリクス&兵長。
前半の旅は面白いですね。
同じ旅なのに、キーリ・兵長・ハーヴェイのときとあまりに違っていて。
なかなか面白い趣向でした。
同じ不死人なのに、ハーヴェイがベアトリクスに変わるだけで、
こんなにも物語の色合いが変わるのですねー、ハーヴェイどうしているかしら〜、
と、いないはずのハーヴェイにむしろ心がいってしまうような。巧い!

キーリの見えなかった性格が、また明らかに。
何というか、こんなふつーのお嬢ちゃんだったとは気付きませんでした。
第3作でもそういう片鱗はありましたけど。

何だか色々ありましたけど、特にわーっという風もなく、
まったりとした感じ。いや、内容は全然まったりじゃなくて、
いつも一触即発状態なのに。不思議ですね。
この内容と、テンポのギャップは。
そのせいか、厚さの割にボリュームを感じるような気がします。
気がするだけ?そういう巧さ、ということにしておきましょう。



菜の花の一押しキャラ…ハーヴェイ 「ちゃんと感謝できてる。今ここにいることに」(ハーヴェイ)
主人公 : キーリ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 異世界、暗め、退廃的
結 末 : つづく
イラスト : 田上 俊介
デザイン : Yoshihiko Kamabe

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
385. 「少年陰陽師 禍つ鎖を解き放て」     結城 光流
2007.08.25 中編 252P 457円 2002年11月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
安倍晴明の孫・昌浩の活躍!シリーズ第4作


【100字紹介】
 時は平安。13歳の昌浩は、稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 相棒は物の怪のもっくん。異邦から妖を撃破した最近の彼の悩みは、
 何かとライバル視してくる陰陽生の敏次の嫌味攻撃。
 謎の術者も登場するシリーズ第4作


安倍晴明の孫、半人前陰陽師の成長物語第4弾。
前3作で「窮奇」編が完結し、新章スタートです。


何とか綺麗にハッピーエンドを迎えられた…はずの昌浩ですが、
周りに事情が話せないせいで、長期休暇のあとから、
職場で微妙な立場に立たされています。
しかも、霊力も一時的に落ちているし。

味方も沢山出来ましたが(彰子とか、六合とか、天一とか…)、
それ以上に、強敵現る!です。
精神攻撃で来ましたね。色々と…苦労の絶えないことで。
でもそうやって、人間成長していくものよ!
…という趣旨ということにしておきましょう。

しかも、新たなる強敵出現の予感がしています。
まだ、詳細は分かりませんが…。
いや、多分「風音編」に入った、というべきでしょう。

真面目なライバルには職場で嫌味を言われるという、
状況的にはまあ平和、精神的には不安定なところに、
恩ある人が呪詛に倒れるという事件が勃発、
昌浩は自分の半人前のところに歯噛みするわけですが、
この事件自体は1巻で終わる中事件。
描きたかったのはやっぱり、昌浩の葛藤、なのかな。

前回、わさわさ出てきた十二神将、
今回は更に更に活躍の場とイラストが増えています。
ついに天一・朱雀も巻頭イラスト来ましたね。
ますます賑やかさの増す4巻でした。
もう漫画読んでいる気分ですね。



菜の花の一押しキャラ…六合 「…選んだほうが正しければいいと、思います。最良の選択をしたいと…」(安倍 昌浩)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 一件落着、つづく
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
結城光流の著作リスト よみもののきろくTOP
386. 「キーリV, VI はじまりの白日の庭(上)(下)」     壁井 ユカコ
2007.08.26 長編 301P
287P
各550円 2004年7月発行
2004年9月発行
電撃文庫 ★★★★
思い出巡るホーム・シティ…シリーズ第5作


【100字紹介】
 ベアトリクス捜索のため、噂を頼りに
 南ウエスタベリにやってきたキーリ、ハーヴェイ、
 ラジオの憑依霊・兵長。植民祭に浮き立つ街で、
 思わぬ人物と出会った事から運命の歯車が…
 悲しい戦争の記憶を綴るシリーズ第5作

「キーリ」第5作。上下巻なので5・6巻です。
前作で合流したキーリとハーヴェイですが、
今度はベアトリクスとはぐれてしまったので
(というか撒いたでしょ、キーリ…(- -;))、
そちらの捜索に乗り出しています。

不死人が出たという噂を頼りに第1作で登場した
ウエスタベリに戻ってきました。
奇しくも植民祭の時季。
というわけで、今回はラッキーなことに拠点が
やってきてくれました、これまた第1作登場の興行団です。

前半はまったりとこの興行団の面々の話が書かれ、
それから捜索していた目的の不死人のこと、
そして…、あちこちにちりばめられていた
「過去の記憶」が一気に浮上してきます。
「あの人」に出会ったせいで、何か運命の歯車が動き始めてしまったような。

本作は、いつもにも増して切ないお話ですね。
ハーヴェイも兵長も、80年も前に死んでいる人なんだ、
と痛切に感じてしまいました。
最初から分かってたことのはずではあるのですけれど。
色々な思いが交錯して、それが断片的に登場して。
初の上下巻ということで、長さがありますが、
展開・配列も巧いなあと思います。
下巻がやたらアクション小説になってますけど(笑)。

完結まであと3冊。
だんだん先が短くなってきて、読者も何だか切迫感に包まれるような気分です。
ああ、どんなことでも、いつか終わりが来てしまうんだ、って。
何となく、離れがたい気分…ですが、まだ3冊ある。うん、3冊ある。
せめて3冊分、キーリにも、ハーヴェイにも、他の面々にも、
精一杯笑って、楽しんで、過ごしていて欲しいなあと思ってしまうのでした。



菜の花の一押しキャラ…ハーヴェイ 「お前はなんだってそう昔っからモノの扱いが雑なんだ!ライター何百個失くした!」(ヨアヒム) それはさすがに失くしすぎ。
主人公 : キーリ/ハーヴェイ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 暗め、幻想、退廃的
結 末 : つづく
イラスト : 田上 俊介
デザイン : Yoshihiko Kamabe

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
壁井ユカコの著作リスト よみもののきろくTOP
387. 「日本発 ナノカーボン革命 技術立国ニッポンの逆襲がナノチューブで始まる」     武末 高裕
2007.08.31 一般書 254P 1500円 2002年12月発行 日本実業出版社 ★★+★★
日本の最新技術動向を追うドキュメンタリー


【100字紹介】
 夢の素材とさえ言われる、日本人研究者によって
 発見された「ナノカーボンチューブ」。
 この新素材の発見から、ナノカーボンビジネスに
 至るまでの経緯と動向を、研究者、技術者、
 企業人に取材してまとめたドキュメント


ナノカーボンを主軸にすえたドキュメンタリーです。

ここでいうナノカーボンとは、炭素で出来た構造体の中で、
フラーレン以降に発見されたものを言っているようです。
つまり、ダイヤモンド・黒鉛、それにアモルファス以外のもので、
フラーレン、各種ナノカーボンチューブ、ナノホーンなど。
特にナノカーボンチューブが主役です。

研究者、技術者に取材し、それぞれの視点にたって、
発見や開発の経緯を時系列で追っていく形式で、
技術的な記述は少なく、一般人の興味を満たすための
「よみもの」としての作品です。
難しすぎないので誰でも興味を持ちさえすれば、
容易に読めて、この世界を垣間見ることの出来る手軽な本です。

特にビジネスへ持っていくところはなかなか面白いですね。
色々な考え方があるのを考えさせられます。

「人に読ませる文章」を書き慣れている感じがあり、
非常に読みやすく、勢いがあります。
その意味でも研究者でも技術者でもない、
「物書きさん」が書いたのだなあというのがよく分かります。
ただし、全編通して著者自身が取材者に徹しており、
一見、殆ど著者が表に出ない描き方はなされていますが、
思考と指向にかなり偏りがあるようには見受けられます。
わざとなのか、単に取材と認識が足りないのかは不明です。
まあ、自分がその道にいなければ分からないことはあります。
誤解もあるでしょう。ジャーナリストは大変ですね。
各種ニュースを見ていてもよく思いますが。


暇なときに何となく読むにはいいかもしれません。
ただし、この動向は2002年のもので、
現在では大分風向きが変わっているようです。
かなりの部分、現状とは異なっているかもしれませんので、
その辺りはしっかり念頭に置いて
「かつてこんな頃があった」くらいの気持ちで手に取るとよいかと思います。



テーマ : ナノカーボン
語り口 : ドキュメンタリー
ジャンル : 一般書
対 象 : 一般向け
カバーデザイン : ROVARIS
本文デザイン・組版 : 一企画

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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