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(2007年7月…363-373) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年7月の総評
今月の読了冊数は11です。2007年に入ってから初の2桁。
内訳は長編3、連作短編1、エッセイ・教養書5、ライトノベル2。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣2、椹野道流1、宮部みゆき1です。

2007年7月の菜の花的ベストは…

 「Webのビジネス活用を考える企業のための実践LPO講座」(評点5.0)

「実践LPO講座」は日経BPコンサルティングのハウツー本。
Webをビジネスに活用するためのヒントを呈示する非売品です。
当たり前のことを、分かりやすく簡潔に述べます。
当たり前だから、納得できる。無理難題は言わない。
すぐに実践が出来るであろうところが高評価の決め手ですね。

ただ、これは非売品なのでベストと言い切るとなあ…と。
まあそんなわけで。ちゃんと売り物のベストも挙げておきましょう。

 「あかんべえ」               宮部 みゆき(評点4.5)

「あかんべえ」は宮部みゆきの時代物の長編。
江戸の町の料理屋の娘・おりんと、お化けさんたちが活躍する、
怖くて楽しくてとても不思議で、そして感動的なファンタジーです。
サスペンスとミステリーを足したようなイメージの作品で、
きっとするすると、面白く読める一作です。


以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「楽園」                  鈴木 光司 (評点4.0)

「楽園」は鈴木光司の一万年の時と空間を越えた愛を描く、壮大なファンタジー。
他の月に読んでいたらきっとベストに選ばれていたのでは!?という、
素晴らしい出来栄え。第二回日本ファンタジーノベル大賞受賞作です。
この世界観は「壮大」以外の言葉が思い浮かばない佳作です。


 「結核という文化 病の比較文化史」     福田 眞人 (評点3.5)
 「貴族探偵エドワード 碧き湖底にひそむもの」椹野 道流 (評点3.5)
 「絵で読む 江戸の病と養生」         酒井 シヅ (評点3.5)
 「猫丸先輩の推測」             倉知 淳  (評点3.5)
  
「結核という文化」は大学教授・福田眞人の医学文化史。
視点として医学を選んでいますが、内容としては文化史。
古今東西の実例を交え、文化を病からみるという斬新な一般教養書です。
その時代、その時代の人に対するまなざしが興味深いですね。

「貴族探偵エドワード 碧き湖底にひそむもの」はその名の通り、
椹野道流の貴族探偵エドワードシリーズの1作で、第4巻にあたります。
エドワードの実家に一時帰省することになるのですが、そこで事件が…。
幾つかの素敵な恋の物語!?と、ナイスなエドワード父&兄2人が魅力です。

「絵で読む 江戸の病と養生」は、やはり研究者である酒井シヅの教養書。
様々な医の文化が、豊富な図版で、鮮やかに現出します。
健康への考え方など、現在に通じるものも沢山あります。
日本人の薬好きは江戸時代から始まった!とか。
江戸時代でもやっぱり、日本人は日本人なのですね。
研究書、入門書というよりは、一般向けのなかなか面白い教養書。

「猫丸先輩の推測」は倉知淳のミステリ連作短編。
神出鬼没・ほのぼの系探偵・猫丸先輩が、あちこちで起こる、
「小さな大事件」を、推理ならぬ「推測」で解決します。
のんびりとした雰囲気で、ちょっとした「あー、そっか!」が
読んでみたくなったら、お勧めの一品です。


 「モリログ・アカデミィ4」         森 博嗣  (評点3.0)
 「ηなのに夢のよう」            森 博嗣  (評点3.0)

「モリログ・アカデミィ4」はブログを再編成した、森博嗣のエッセイ的日記。
比較的アクティヴな2006年7−9月の3ヶ月間の記録です。
本文は「Webダ・ヴィンチ」連載中。最終的には全13巻の予定。

「ηなのに夢のよう」も森博嗣作品。Gシリーズ第6作。
標題のメッセージが遺される、不可思議な場所での首吊りが相次ぎ、
自殺なのか、他殺なのか、一体誰が、何の目的で?と謎が満載の中、
10年前の飛行機事故の真相究明やら、
真賀田研究所での3人の科学者達の意味ありげな会話など、
S&M、Gシリーズ全体に関わるエピソードが満載になっています。


 「医学の歴史1 古代から産業革命まで」   シンガーC他 (評点2.5)
 「少年陰陽師 異邦の影を探しだせ」     結城 光流  (評点2.5)

「医学の歴史1 古代から産業革命まで」は、翻訳ものの初学者向け教科書。
1928年にシンガーによって初版が出され、以降改訂を重ねてきた本を、
新たにアンダーウッドが加筆・修正を行なった、歴史あるもの。
内容は時代順に記述されていて、図版も多く分かりやすくなっています。
その記述は、まさに教科書ちっく。

「異邦の影を探しだせ」は結城光流の少年陰陽師シリーズ第1作。
安倍晴明の孫、13歳の陰陽師・昌浩が活躍するライトノベルです。
最初からいきなり、完結しない続き物!というところに驚きですが、
漫画でも読むかのように、さらさらと読めること請け合い。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








363. 「結核という文化 病の比較文化史」     福田 眞人
2007.7.08 教養 269P 820円 2001年11月発行 中公新書 ★★★+
時代の文化を彩った結核…病から見た文化史

【100字紹介】
 人類の歴史とともに存在する古い病・結核。
 現実と対照的な、佳人薄命のロマン化現象、
 天才芸術家の宿命という伝説、
 サナトリウム文学などが、その時代の文化を彩る。
 古今東西の実例を交えた、病からみる斬新な文化史


最近、ちょっと医学史づいている菜の花です。

今度は入門書、という感じではないですね。一般教養書といったところか。
一般書よりも、教養書の重みが大きい感じ。
研究者が易しい本を書いてみました的な雰囲気ですね。
菜の花は初学者も初学者、全然専門外ですが、
読むのに特に問題はありませんでしたので、まあ一般向けでしょう。

ただの医学史ではありません。というか、医学史とは言わないような。
これは文化史です。たまたまその切り口というか、ツールというか、
視点として医学を中心に据えていますが、間違いなく文化史。
医学の視点で描いた文化史とは、なかなか斬新ですね。
しかも、医学的な発展というより、興味の中心はひたすら文化へ。
いや、人、でしょうか。
その時代、その時代の人に対するまなざし。そういう作品です。

結核というのは確かに、どこか甘美な響きがあるような気がします。
小説や漫画にも取り上げられる、ちょっとふらふらな沖田総司とか
(何故か、翳を背負った上の天真爛漫なキャラで描かれることが多い…本当?)、
近代だと樋口一葉や中原中也などの惜しい才能の早逝とか。
お話の中なら椿姫だってそうですね。色々思い浮かぶことでしょう。
佳人薄命、天才の宿命というイメージは確かにあります。
でも本当は違う。それもやっぱり知っているのに、それにも関わらず、
何故かそういうイメージがあるんですよねー。
このイメージ、どうやら現代日本の人だけじゃないらしい!?
世界のあちこちで色々なイメージがあって、そこから起きる事柄…。
よく知られている人の実例を随時取り上げつつ、
興味深く世界と時代を超えた文化、世相を見る旅に出られます。

後半がやや、行きつ戻りつな感じで読みづらかったのですが、
興味を持って最後まで読めば、なかなか面白い作品です。


テーマ : 医学文化史
語り口 : 説明文
ジャンル : 教養、研究
対 象 : 一般〜初学者向け
雰囲気 : 文化史を病から語る

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
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364. 「貴族探偵エドワード 碧き湖底にひそむもの」     椹野 道流
2007.07.08 中編 233P 476円 2006年12月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★+
英国風ミステリアス・ストーリー第4幕

【100字紹介】
 三拍子揃った私立探偵エドワードは、守り役シーヴァ、
 助手見習いで霊能者のトーヤとともに帰郷。
 そこで「赤ちゃんが何かに取り憑かれた」という村人の頼みを、
 領主一族の一員として解決することに!?シリーズ第4作


シリーズ第4弾です。
主人公は貴族のお坊ちゃんでありながら
趣味に走っていきなり私立探偵になったエドワード。
容姿端麗、頭脳明晰、家柄最高で三拍子揃っているけど、
結構ワガママお坊ちゃんのエドワードを支える守り役の青年シーヴァ。
助手見習いの霊感をもつ少年トーヤ。
この3人のメインキャラに、今回はエドワード一家が参戦。
エドワードの両親、兄2人、兄嫁、それにシーヴァ父・兄と、
今回は1回きりじゃないキャラが大量初出演です。

本作の舞台はまたもロンドラを離れ、エドワードの実家。
エドワードは地方の領主の三男坊ですからねー。
のんびりとした領地のようです。
そこで領民の1人が奇妙な相談を持ちかけてきて…。
それが「赤ちゃんが、何かに取り憑かれた」という、
エドワード達3人組にはうってつけの内容…だったはずですが、
何故かエドワード兄までくっついてきて…。
この超現実主義のおにーさまと一緒に、事件解決は出来るのか!?

今回は、素敵な(?)恋のお話がいくつか。
うーん、絵に描いたような純愛とか言っちゃったりして、
そんなキャラ本人に言われちゃったら突っ込めませんよー。
エドワード兄は2人とも、ナイスキャラですね。
エドワード父なんてかっこよすぎですし。
そんな、エドワード一家を愉しむ1冊…だったりして。



菜の花の一押しキャラ…ジェイド 「生まれたての僕を見ながら、そんな縁起でもないことを考えていたのか、あの人は!」 (エドワード・H・グラッドストーン)
主人公 : エドワード・H・グラッドストーン
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト・ミステリ
イラストレーション : ひだかなみ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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365. 「MORI LOG ACADEMY4 モリログ・アカデミィ4 投げたらあかん!」     森 博嗣
2007.7.14 エッセイ 360P 670円 2006年12月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した、森博嗣のシリーズ4


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
  「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
 比較的アクティヴな2006年7−9月の日々。
  5回にわたる特別講義は、最近交友が更に深まったよしもとばなな氏。


第4巻です。
2006年7−9月の、3か月分の森博嗣の
ブログの内容を再編成しています。
カテゴリ分けはHR、国語、算数、理科、社会、図工という
前回と同じものですが、内容量は圧倒的にHRが多いです。

今回は夏。…のせいか、ちょっとアクティヴです。
大阪での鉄道模型コンベンションに行くために
こつこつと用意していたり、コカ・コーラとの
コラボ企画の関係で、少しばたばたしているようです。
執筆も順調に。その中でしっかり工作しているあたり、
とても、らしくていいですね。
どんなに忙しくても好きなことをおろそかにしない、
という生き方、菜の花もしてみたいものです。
いや、まずはそこまで打ち込める何かがほしいのか。
…まあ読書くらいかな。
でもあんまりクリエイティヴじゃないですね、それでは。

今回、比較的露出の多かったのは、模型の神様の井上さんと、
よしもとばなな氏+羽海野チカ氏ですね。
何というか、これすら「らしい」ですね。
いや、多分そういう「らしい」事柄ばかり
選んで書いているのだと思いますけれど。
これは単なる日記としてつけているより、
「仕事」であると何回かこれまでも言ってきた通りに。
読者の「そうあってほしい」と期待に副うことで、
売れるようにしているわけですね。

特別講義はよしもとばなな氏。
この人、巧いなあという感じ。
まあ、プロですものね。人気作家でもありますし。
あー、世の中にはこういう人もいるのかと思った次第。


テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
装画イラスト : 羽海野チカ
扉イラスト : 笹沼 真人
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
366. 「医学の歴史1 古代から産業革命まで」 シンガー・アンダーウッド著、酒井シヅ・深瀬泰旦訳
2007.7.14 教養 218P -円 1985年11月発行 朝倉書店 ★★+★★
医学の歴史を時代順に概説する。初学者向け

【100字紹介】
 1928年にシンガーによって初版が出され、
  以降改訂を重ねてきた本書を、
  新たにアンダーウッドが加筆・修正を行なった、
  歴史ある医学史の初学者向け教科書。
  内容は時代順に記述されていて、図版も多く分かりやすい


 --オリジナル・データ-------------------
  A Short History of MEDICINE
  By Charles Singer and E. Ashworth Underwood
  second edition

  © Oxford University Press 1962
 ---------------------------------------


更に医学史を持ってきてみた菜の花です。
何か最近、学生っぽくないですか?
もう、学生じゃないですけど。

前回は一般教養書っぽいものでしたが、本作は思いっきり教科書。
これを使って高校辺りで授業しててもおかしくないくらい教科書です。
配列も時代順で、図版が多くて、それぞれの時代と場所を明確にしています。
基本的に解説は人中心。人名がぽんぽん出てきて、
「その中にあって誰々は…」という感じ。
まるで高校の歴史の教科書そのものですよ!

翻訳ものなので、ちょっと日本語が読みにくいです。
何というか、いかにも訳した感じがあって。
そうなんですよね、最近菜の花も英語の小説を読みながら
翻訳をしてみているのですが、英語と日本語って
語彙が違う、語順が違う、だけの差ではなくて、
最初の発想や思考順序が全然違うんですよ。
勿論文章には教科書とはいえ、
書いた本人の文化的背景がにじみでてしまいますから、
ますます日本語にすると全く同じようなニュアンスにはならないのです。
何というか、違和感があります。

その読みにくさでちょっと評価が下がっていますが、
これは著者の責任ではないのでちょっと申し訳ない感じ。
ところでこの著者、シンガーがファーストネームで、
アンダーウッドがファミリーネームじゃありません。
100字紹介に書いたように、チャールズ・シンガーが書いていたものを
E.A.アンダーウッドが改訂したものです。念のため。


テーマ : 医学史
語り口 : 教科書
ジャンル : 教養
対 象 : 初学者向け
雰囲気 : 高校の歴史の教科書風
翻 訳 : 酒井シヅ・深瀬泰旦

文章・描写 : ★+★★★
展開・結末 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★+★★
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367. 「ηなのに夢のよう」     森 博嗣
2007.07.15 長編 270P 880円 2007年1月発行 講談社ノベルス ★★★★★
Gシリーズ第6作。不思議な首吊り場所の謎


【100字紹介】
 「ηなのに夢のよう」というメッセージが遺される、
 不可思議な場所での首吊り自殺が相次ぐ中、
 10年前の飛行機事故の真相究明、
 真賀田研究所での3人の科学者達の会話など、
 シリーズの魅力満載のGシリーズ第6作。


ギリシア文字がタイトルに入る「Gシリーズ」の第6作。

これまでのシリーズを10作でしめてきた著者なので、
恐らくこのシリーズも折り返し地点を越えましたね。

そのせいか、このシリーズ外、というか、
やっぱり中というか…、微妙なキャラが続々と登場してきました。
過去と未来がキャラクタの上に、ちらちらと重なって見えるような。
森作品を読み漁っている人にはその人なりの楽しさが
また見えてくるかと思いますが、まあ読んでいなくても
別の楽しさを見つけるでしょう。
Gシリーズでは珍しく、瀬在丸紅子も登場です。
何だか久々に、色々話しています。
それ以外のメンバーも…、なかなか興味深いですね。
こ…この人はまさか…!?みたいな。

お話は、人気のない神社の木、地上12メートルのところで首吊り死体が
発見されるところからスタートします。周りにはハシゴもないし、
一体この人物、どうやって登り、何のためにこんなところで?と。
その後も、池の真ん中の島の木や、見知らぬ他人のアパートのベランダ…と、
次々と不可思議な場所での首吊りが続きます。
いつもその傍らには「ηなのに夢のよう」というメッセージが…。
これは自殺?それとも他殺?
一体、誰が、何の目的で?
考えているキャラもいればいないキャラもありつつ。

また別口に浮上してくる、10年前の飛行機事故の原因、
それに真賀田四季の名前。ストーリーとは絡まないながらも、
何だか怪しげなシーンも出てきました。
きっと、シリーズの他の作品への伏線でしょう。

本作では、悲しい別れがあります。
さて、誰との別れ?
何となくしんみりとしたラストです。


菜の花の一押しキャラ…金子 勇二 「死ぬことって、それほど特別なことかしら?      そうじゃないわ。本当に、身近なことなんですよ。」 (瀬在丸 紅子)
主人公 : 西之園萌絵他
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ風小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 小説一般
結 末 : やや消化不良
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津典之
カバーデザイン : 坂野 公一(welle disign)
フォントディレクション : 紺野 慎一(凸版印刷)

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
368. 「絵で読む 江戸の病と養生」     酒井 シヅ
2007.7.17 教養 174P -円 2003年6月発行 講談社 ★★★+
絵で迫る、江戸の人々の病気への思いと文化

【100字紹介】
 遠くて近い、江戸時代。
 江戸の人々は、医とどのように付き合ってきたのか?
 どのように対処してきたのか?
 病、看病、薬、妊娠・出産、健康、老い…様々な医の文化が、
 豊富な図版で、鮮やかに現出する医学史の教養書。


さて、また医学史系です。
菜の花としては初の、日本の医学史。
しかも時代がとても狭い。オンリー・江戸時代です。
その分、がっつり江戸時代が眺められますね。

概略を説明する、というよりは、
思いついたことから説明、という感じ。
特に並び順があるものではないのでそれで順当かも。
若干分かりにくいかもしれませんが、
よみものとしては特に問題ありません。

とにかく図版が豊富です。
図版といっても簡略図とか、説明図ではなく、
実際の江戸の風景や写真です。
色鮮やかな浮世絵も多いですね。
江戸時代を近しく感じられるような、でもとても遠いような。
不思議な感じがします。

これまで読んできた西洋医学史の流れなどとは
まったく違う独自の文化を持っていたのだな、と。
日本が特殊というよりは、東洋が広いのか。
西洋は、地理的にも比較的狭い範囲に集中していますから、
同じように文化の発展がありそうですけれど、
東洋は海で隔てられていたり、やたら広大だったりして、
西洋ともかなり離れているので別の文化が広がっていた、というのは
もちろん当然なのでしょうけれど…。

健康への考え方など、現在に通じるものも沢山あります。
日本人の薬好きは江戸時代から始まった!…というのも
あー、国民性かなあ、でも昔からそうだから何となくそうなんだよね、
という気もします。その「昔から」がこの頃からだったのですね。
旅行の勧め、温泉の勧めのような本や番付が出ると、
わーっとばかりに湯治旅行が流行ったり…というのも、
やっぱり国民性、なのでしょうか。
江戸時代でもやっぱり日本人は日本人かー、なんて。

研究書、入門書というよりは、一般向けのなかなか面白い教養書。


テーマ : 医学文化史
語り口 : 解説文
ジャンル : 教養
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 図版から江戸文化に触れる

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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369. 「猫丸先輩の推測」     倉知 淳
2007.07.20 連作短編 500P 667円 2002年9月講談社ノベルス
2005年9月発行
講談社文庫 ★★★+
神出鬼没・ほのぼの系探偵・猫丸先輩の推測


【100字紹介】
 夜な夜な届く不審な電報、
 花見の席取り中の新入社員を次々と襲う誘惑と試練、
 行方知れずの迷い猫…平和だった毎日を突然かき乱す
 小さな大事件を、神出鬼没なほのぼの系探偵の猫丸先輩が、
 推理ならぬ「推測」で解決!


倉知淳、初読みです。

主人公は各話異なる人物で、彼らが謎に困惑しているところに
猫丸先輩がふいっと現れて、何だか人をおちょくるようなことを言いながら、
好き勝手な推測をべらべらとしゃべり…、それが意外にも
「あ、それってほんとっぽい!」という種明かしに思えてしまうというストーリー。

猫丸先輩の推理は、確かに面白くて、真相に見えるのですが、
基本的に猫丸先輩は他の可能性をつぶしたりはしません。
つまり、唯一無二の解答ではないのです。
だから猫丸先輩自身、言うのです。

「それが本当に真実かどうかは僕には判らないけど、  僕なりの解釈でいいなら聞かせてやるよ」                   (本文より)
そして本書のタイトルも「猫丸先輩の推測」。 つまりはそういうこと。 だから新本格系のパズルっぽいお話なのですが、 ちょっと他のものと毛色が違うというわけです。 また、こうすることで楽しい謎が小話になってくれて、 連作短編として成立する、ということもあります。 ネタ自体が小ネタであるというのもありますけれど。 そう、ひとつひとつのお話が小ネタです。 しかもこんなにほのぼのとしているのは、取り扱う謎の性質上でもあるでしょう。 殺人とか誘拐とか、血腥いお話は一切抜き。 平穏な日常をいきなり壊すのは確かにその通りですが、 世間を騒がす大ニュースになるようなものではなくて、 自分にとっては大事件なんだけど、な「小さな大事件」ばかり。 軽くて、でも大きな。 主人公が1話ごとに変わりますが、その主人公の立場などについては かなり細かく書き込まれています。舞台づくりが好きな著者ですね。 のんびりとした雰囲気で、 ちょっとした「あー、そっか!」が読んでみたくなったら、お勧めの一品です。
菜の花の一押しキャラ…扇屋の婿養子 「それが本当に真実かどうかは僕には判らないけど、  僕なりの解釈でいいなら聞かせてやるよ」     (猫丸先輩)
主人公 : 猫丸先輩の周辺にいる人
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 新本格系ほのぼの
結 末 : 大体解決
カバー装画 : 唐沢 なをき
カバーデザイン : 柳川 昭治
本文イラスト : 唐沢 なをき
解 説 : 加納 朋子

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★+
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
370. 「Webのビジネス活用を考える企業のための 実践LPO講座」
 日経BPコンサルティングWebマーケティング・グループ(中田 吉彦、古賀 雅隆、百本 明子)
2007.7.22 ハウツー 133P 非売品 2006年12月発行 日経BPコンサルティング ★★★★★
Webをビジネスに活用するためのヒント

【100字紹介】
 急激な広がりを見せているWeb世界を、
 より有効にビジネスに活用するための概念やヒント。
 より沢山のお客様に来訪して頂き、自社ページを回ってもらい、
 顧客になって頂くために知るべきこととするべきことを解説。


思わず五つ星をつけてしまった…恐るべき吸引力です、この本。
でも実はこの本、非売品なので
誰でもすぐに手に取れるというわけにはいかない、
という大問題はあるのですが…。
菜の花はたまたま、職場で手に入れたのであります。
あ、別に日経BP社の回し者ではありませんからー。
日経BP社に勤めているわけでもなし。

高評価になったのはタイムリーさもあります。
現在、菜の花は勤め先のWebページの主な管理者なのですが、
このリニューアルに打ち込んでいる真っ最中なのですね。
だから、非常に興味を持って読めましたし、
しかもこの本は菜の花の期待を裏切らなかったから、
このような評価につながりました。

まずはこの簡潔性がよろしいですね。
あまり沢山のことを詰め込みすぎると、
人の思考は停止してしまいますからね。
本書は、とにかく
「まだ見ぬお客様に沢山来訪して頂くために」
「やってきたお客様に沢山の内部ページを見て頂くために」
が中心になっています。そのために何をしたらよいか?

それが、検索にかけてもらうワードは、
固有名詞だけでなくニーズそのものを工夫せよとか、
綺麗に、そしてしっかりタグを書いて、
クローラー(検索ロボット)にもお客様(人の目)にも
分かりやすいページにし、
更にパンくずリストなどを整備しなさいよとか、
全体の構造もしっかりしなさいよとか、
当たり前すぎることを、当たり前に書いています。

そう、当たり前だから、納得できる。
これが本書のもうひとつのいい点。
無理難題は言っていない。
当たり前のことを、分かりやすく簡潔に。

でもこんな内容も分かっていない人が沢山いるから、
うちのサイトはよくならないんだ!!と菜の花は叫びたい!
叫びたいので、この本を職場の皆様に
「お読み下さい!」と是非叩きつけて来たい!
…というわけで、お勧め度が五つ星になったのでした。
よし、じゃあ早速、まずはうちの上司に
全部読んで頂くことにしましょう。ふふふ。
あ、ご安心下さい、1冊がとても短くて、絵も多くて、
とーっても読みやすい133Pなので。



テーマ : Webサイト構築
語り口 : 解説文
ジャンル : ハウツー
対 象 : 企業、サイト作成者向け
雰囲気 : ひたすら実用のための概念の解説

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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371. 「少年陰陽師 異邦の影を探しだせ」     結城 光流
2007.07.22 中編 221P 438円 2002年1月発行 角川ビーンズ文庫 ★★+★★
安倍晴明の孫、13歳の陰陽師・昌浩の活躍


【100字紹介】
 時は平安。13歳の昌浩は、
 稀代の陰陽師・安倍晴明の末の孫。
 資質は素晴らしいが、まだまだ半人前。
 相棒の物の怪「もっくん」と
 内裏炎上騒ぎの独自調査を始めた昌浩は、
 都を救うことが出来るのか?新シリーズの開幕


安倍晴明といえば、超有名人。
色々な小説の題材にされますね。
そういう超有名人には、孫が主人公の物語が出来るもので。
ルパンしかり、金田一しかり…。
というかわけで。
安倍晴明の孫、半人前陰陽師の登場です。

陰陽師ですから、お化けも物の怪も妖も異形も、
何でもござれのオカルト系ノベル。
更にライトノベルで読みやすい作品です。

そもそも読むことにしたきっかけは、本作のアニメを見たもので。
なかなか面白かったので原作も読んでみようかと。

しかし、話が色々と前後することと、
すでにアニメを見ているために、まっさらでは読めず、
やや読みにくさを感じました。
何を知っていて何を知らないか、が混乱するというか。
ああ、しまった。
アニメよりもこっちが先になるべきでした、やはり。
でも見つけたのがそちらでしたから仕方ない。

物語は、主人公で晴明の末の孫である昌浩が、元服する直前から。
冒頭からいきなり大髑髏と戦ってます。それなりに余裕そう。
半人前のはずでは!?と思いましたが、
思いっきり相棒の物の怪、もっくんと漫才してますし。
まあ、物語が進むにつれて、
凄いのか凄くないのかどんどん謎になりますが。
どれくらい凄いのかが、正直分からない…。
そのあたり、著者すらはっきりとは考えていないのでは。

そして元服し、陰陽寮に出仕し始めるのですが、
そこで内裏炎上という事件に出会い、調査を始める…というところ。
これは第1巻で、結局解決せずにお話が終わります。

テンポがとてもいい部分と、うーん、という部分が混在していて、
手放しでは「面白ーい」とは言えないながらも、
なかなか愉しい感じです。物語の起伏はあるのですが、
文章がその起伏をうまく生かしていない感じがして、
あと一歩というところ。こういうタイプは書くほどに
巧くなるはずですので、しばらくこのシリーズを追いかけてみようかと思います。



菜の花の一押しキャラ…安倍 昌浩 「いいか、最初が肝心だからな、昌浩。人当たりの良い、         素直で一生懸命な見習い陰陽師として精一杯化けの皮をかぶるんだぞ」 (もっくん)
主人公 : 安倍 昌浩
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 歴史オカルト
結 末 : 続く
イラスト : あさぎ桜
デザイン : micro fish

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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372. 「あかんべえ」     宮部みゆき
2007.07.27 長編 510P 1800円 2002年3月発行 PHP研究所 ★★★★+
江戸が舞台の怖くて楽しい不思議なお化け話

【100字紹介】
 江戸の町の料理屋の娘・おりんは、
 ふね屋の中に住んでいた沢山の「お化けさん」と出会うことに。
 お化けさんたちのせいでふね屋は開店から大ピンチ。
 30年前の因縁の事件とは?
 怖くて楽しくて、感動的なファンタジー


…面白かった。

…で、感想を終わらせてしまったらさすがにちょっと淋しいので、
もう少しはごちゃごちゃと書いちゃおうかと思う菜の花です。

まずは内容について。
そもそも少年少女が主人公のものが多い宮部みゆきですが、
本作も主人公は12歳のおりん。舞台は江戸。
おりんの両親は、賄い屋(お弁当屋さん)の包丁人(料理人)から独立し、
新たな料理屋「ふね屋」を開くことになり、
海辺大工町にある元料亭の建物に引っ越してきます。
すぐにおりんは命の危うい大病を患いますが、不思議な体験をして生還。
そして、家の中にいる「お化けさん」たちに出会うことになるのです。
お化けさんたちのせいで、開店早々からふね屋は大変なことに。
しかも町の人たちは、この土地の因縁について
何か噂を立てているようで…?
というわけでおりんが、この不思議と因縁に立ち向かうというストーリー。

おりんはそれなりに賢い子供ですが、
決して特殊能力を持った、特別賢い子供というわけでもありません。
そういうところも、著者らしい、ですね。

生きているキャラたちの魅力は、何となくその辺にいそうな感じ、
でもお化けさんたちのキャラの魅力はまた別のところにありそう。
何しろ、どこにでもいそうな感じはしませんからねえ。
しかも、お化けさんたちにはやや記号化されたような、
定型化されたようなキャラが多いです。が、とっても魅力的。
別の方向性の魅力を、両者は備えているのです。
生きているキャラと死んでいるキャラには、
どこかで一線を画すものがあるような絶妙な書きわけですね。

先が見えない感じは、サスペンスとミステリーを足したようなイメージ。
物語の進行は、やや推進力に欠けるような気もしましたが、
長さの割に気付くとするすると進んでいましたから、
巧さで読ませているなあというところ。
ただ、幕切れがちょっとあっけなさすぎかも。
その辺りが、★5つに達せなかった理由かな。

でも、面白かったですよ。
久々に、冒頭の通り「…面白かった。」と読み終われました。
やっぱりみゆきちゃんはいいですねえ。



菜の花の一押しキャラ…玄之介 「なあ、間違いないだろう? だから安心しなさい」(玄之介) お化けではないのではないかと疑われて証拠を見せての一言。
主人公 : おりん
語り口 : 3人称
ジャンル : 時代サスペンス・ファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 怖いはずなのに、楽しい
結 末 : ハッピーエンド?
装 幀 : 川上 成夫
原 画 : 熊田 正男

文章・描写 : ★★★★+
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★+
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373. 「楽園」     鈴木 光司
2007.07.30 長編 348P 514円 1990年12月新潮社
1996年1月発行
新潮文庫 ★★★★
伝説の赤い鹿に守られ、時を越える愛の物語

【100字紹介】
 いつかきっと巡り逢える。この想いが続く限り…。
 太古のモンゴル砂漠、18世紀の南太平洋の小島、
 そして現代・アリゾナの地底湖…。
 一万年の時と空間を越え、
 伝説の赤い鹿の精霊に導かれた男の、壮大なファンタジー


とりあえず、総合評価でまず★4.5をつけてから、
5項目の★を付けていったら、各項目が3.5〜4になってしまい、
総合だけ4.5はどうかな…、ということで、1段階下がって4になりました。
でも気分的にはやっぱり4.5かも。
5にするにはちょっとまだ文章的にどうかな…と思いましたけど、
物語を引っ張ろうとする力強さと、一本筋の通った物語性が、
非常に印象的で、「名作」と言っても過言ではない作品です、これは。
さすが第二回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。
やっぱり凄いです。

全体は3章構成。

 第一章 神話
 第二章 楽園
 第三章 砂漠

時代はそれぞれ古代、18世紀、現代。
場所はそれぞれモンゴル砂漠、南太平洋の小島、アリゾナの地底湖。
時代も場所も異なる3つの物語が、伝説の赤い鹿と血の記憶によって、
不思議なえにしで繋がり、独立しつつもひとつの物語として統合されています。

まあ、言ってしまえば離れ離れになった夫婦の愛が、
時と場所を越えて再び出逢いへと導くのよ、という
これだけだと「あ、そーなの」みたいな物語なわけですが、
描き方次第でこんな大作になるのだなあという。

芸も細かいです。
文章の印象が、それぞれの時代に合わせてある…のだと推測。
第一章は太古の時代、しかも「神話」と銘打ってあるくらいで、
まるで聖書や古事記でも読んでいるような印象があります。
最終の第三章は、現代風のイメージ。
心理描写が多く、会話を中心にした物語の展開。
まるで別の物語を読んでいるような気分、
でも奥底で、ひっそりと繋がっていて、
時代とは、連綿と破綻なく織り成されるものであって、
どこかに繋がる一本線があるものだよ、と囁かれているような。

楽しい読書でした。
実は、読む前から知っていたのですけれど。
小学生の頃に、これのアニメを見たことがあるのですよね。
非常に印象に残りました。
菜の花の、アニメやファンタジーの原点、とすら言えるかも。
だからこそこの本を最初に手にとったとき、
読むべきか読まざるべきかかなり悩んだものです。
1年近くの葛藤の末、読んでみたのですがよかったですね。うん。
もう少しで、折角の名作を読み逃してしまうところでした。



菜の花の一押しキャラ…ウォリバ 「たとえL・A中のモーテルであろうと、君が待っていると分かれば、  オレは一生かかってでも捜し出す。任せろ」            (レスリー・マードフ)
主人公 : 章ごとに設定
語り口 : 3人称
ジャンル : ファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 神話から現代まで。壮大な物語
結 末 : ハッピーエンド
カバー装幀 : ミルキィ・イソベ
解 説 : 松本 侑子

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★
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