よみもののきろく

(2007年6月…359-362) 中段は20字紹介。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年6月の総評
今月の読了冊数は4です。す…少ない…。
長編1、連作短編1、エッセイ1、教養書1。バランスはいいですね。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣2、宮部みゆき1です。

2007年6月の菜の花的ベストは…該当なし。
どんぐりの背比べ〜なみに、みな同じくらいのいい評価、ということで。
少なくとも外れのない月でした。

以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「医学史への誘い 医療の原点から現代まで」酒井 シヅ(評点3.5)

「医学史への誘い」は酒井シヅによる医学史の初級者向けの入門書。
僅か88ページで医療の歴史を、ざっと概説します。
カラー図版も多く、次はもっと詳しいのを読んでもっと勉強してみようかな、
というきっかけにもなりますし、全体の流れを知るにも好著です。
全然医学を知らない人でも、軽く読めて、ちょっと賢くなれる!?1冊。


 「モリログ・アカデミィ3」        森 博嗣 (評点3.0)
 「ドリームバスター」           宮部みゆき(評点3.0)
 「λに歯がない」             森 博嗣 (評点3.0)
  

「モリログ・アカデミィ3」は、森博嗣のブログの再編成第3巻。
「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ3か月分が元になっています。
このブログは本にされることを前提に3年という期限で進行中(全12巻完結予定)。
森博嗣ってどんな人なんだろう?を見てみたくなったらどうぞ。

「ドリームバスター」は宮部みゆきの連作短編。
宇宙だか異世界だか分かりませんが、遠い遠いところから繋がってしまった
地球と、とある世界。その世界の犯罪者が地球人の悪夢にジャック・インして、
事件を起こします。そんな彼らを捕まえるのが「ドリームバスター」たる
16歳のシェンと師匠のマエストロのお仕事。ミステリ風味のSF作品です。

「λに歯がない」は森博嗣のGシリーズ第5作。
セキュリティ万全の建設技術研究所の密室状態の部屋で、
4人もの部外者が射殺された上、歯を抜かれていた、という不可解な事件に、
西之園萌絵たちが巻き込まれる長編ミステリ。



以上、今月の読書の俯瞰でした。








359. 「MORI LOG ACADEMY3 モリログ・アカデミィ3 日のないところに書け無理絶えず」     森 博嗣
2007.6.09 エッセイ 346P 670円 2006年9月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した、森博嗣の新シリーズ3


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
  「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
  小学校の学科別にカテゴリ分けし、
  HRでは日々の出来事や雑感、
  国語・算数・理科・社会・図工では関連記事を掲載。


はい、紹介文はすべて、1、2の使い回しです。
というわけで第3巻です。
前回同様、3か月分の森博嗣のブログの内容を再編成。
カテゴリ分けはHR、国語、算数、理科、社会、図工という
前回と同じものですが、内容量は圧倒的にHRが多いです。

前回負けを喫した算数ですが、今回は何とか…。
でも文中で「理系にとっては簡単すぎる」というメールがくる、
ということが紹介されていて、うわお、菜の花ってぎりぎり理系?
と、どきどきです。もうすぐ文系認定だなあ。

今回は「そうそう、その通り」の度合いがいつもより強かったかも。
普段からとても近しい考え方に思えるのですが、
今回収録分は「それはさすがにどうなんでしょう?」の割合が
やや低かったのでそう感じました、多分。

何度も紹介されているのですが、新しくGシリーズが始まって、
そこから初めて森博嗣という作家を読み始めました、な人が結構多く、
かつて答えたことのある質問が再びやってくる、ということが
今回も何度か出てきました。何となく、変な感じ。

菜の花はこの著者の作品をジャンルを問わず、
出版順に読み進めているので、色々と面白いことも。
日記の中に登場する本、おお、この前読んだよ、とか、、
次に読もうと思っていた本、ここで執筆しているのかーとか。
勿論、著者にはなれませんが、出版順に読むのは
著者の感覚には比較的近い読み方かな、と。
著者自身は「読む順番なんて無関係」と仰ってますけど。
こういう順に読むのが、菜の花流ということで。
これが優れている訳ではないけれど、
自分が気に入っているので自分にだけはお勧めなのです。

で、こういう読み方をしている菜の花にとっては、
山ほどこの著者さんの言葉を読み続けてきているので
「あー、これって前にも言っていたよね」というように
感じることも多々あります。実際は同じことは言っていなくても、
とにかく共通する思考の中から出てきているので、
基本方針は同じですものね。
これが違っていたら支離滅裂な主張になっちゃいますもの。

その意味でも、確かにこの著者は一本筋通った人だなあと
思ったりします。やっぱり少し丸くなった気はしますけど。
きっとそれが、年を重ねるってことなのでしょう。



テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
イラスト : 羽海野チカ
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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360. 「ドリームバスター」     宮部みゆき
2007.6.14 連作短編 366P 1600円 2001年11月発行 徳間書店 ★★★★★
悪夢を退治する、現代SFファンタジー開幕

【100字紹介】
 あるときの、ある星からやってきたドリームバスターが、
  あなたの悪夢にジャック・イン。人格を乗っ取ろうとする
  邪悪な意識体と戦い捕獲する「賞金稼ぎ」、
  16歳のシェンと師匠のマエストロが、日本の人々を救います


宮部みゆきのSFファンタジーです。
連作短編か、または連作中編、というくらいかな。
長編ではありませんが、短編と言うほど短くもないくらい。

大きく3作品が掲載されています。
1つめは主婦の道子が主人公の3人称もの。
道子の悪夢に、乗り込んできた連中がいて…、という話。
2つめは1つめでは乗り込んできた連中だった、
ドリームバスターのシェンが主人公の1人称もの。
ただし途中でDP(ドリーミング・パーソン)の信吾の1人称に。
3つめは、まあシェンが主人公かな?という3人称もの。
見事に全部ばらばらな形式。
でもまあ、同じ舞台で、内容もゆるやかに繋がっていて
ひとつの長編の一部、と考えても、悪くはないかも。
それにしても中途半端に終わってますが。
ラストは「To be continued」ですから、
明らかに続きがあります。

全体としては、軽くミステリ風味。
謎があるので、それに迫らなくてはいけない、という辺りが。
本人すら知らない、本人の核心にせまらなくては、
という辺りは著者らしさが出せるつくり。

「夢」という、とりとめもなく一見して荒唐無稽でありつつ、
実は不思議につながる糸を張り巡らしたものである、
という不思議な感じがうまく出ていて、引き込まれます。

それにこの設定の独特さ。
よくこんなこと、思いついたなあという感じ。面白いです。
さすが宮部みゆき、というような。

ただ、やや展開には不満。
何かが足りないような。でも何が足りないかは分かりません。
何となく、「…あれ?」という感じ。
終わり方があっけないのか。

特に、最後の書き下ろしという作品があれれ?ですね。
何かもっと裏があるのかと思っていたのですけれど、
意外にそのままで、拍子抜けといえば拍子抜け。
いかにも続きます、というところで終わっているせいもありますけど。

まあ、続きを楽しみにしましょう。



菜の花の一押しキャラ…マエストロ 「断りなしに、わしの助手に触ってもらっては困りますじゃ」 (マエストロ)
主人公 : 道子、本村信吾
  シェン
語り口 : 3人称、1人称
ジャンル : SFファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 少々ミステリ風味
結 末 : つづく
装 丁 : 多田 和博
装 画 : 山田 章博

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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361. 「医学史への誘い 医療の原点から現代まで」     酒井 シヅ
2007.6.16 教養 88P 1500円 2000年9月発行 診療新社 ★★★+
医療の歴史を、ざっと概説!流れを知る好著

【100字紹介】
 近代の医学の発達は目覚しい。
 では昔の人々はどうしていたのか?
 何がどう発展し、今のような形になってきたのか?
 これからの医療を考える上でも医学史を知るのは益がある。
 初心者にも興味深く読める、きっかけの書。


医学史の初級者向けの本です。
一般の人でも十分読める、というか、
一般人や初学者が興味を持つ「きっかけ」になりうる作品。

まず、文章量が少なく(僅か88P)、カラー図版が多く、
元々が連載だったもの20回分をまとめたものであるために1章ずつが4Pで、
まとまりをもった文章であるので読みやすい。
…と、どこをとってもまさに看板に偽りなしです。
確かにこれは「誘い」です。
菜の花も誘われてしまいました(笑)。

勿論、短いからすべてをここで語りつくすようなものではないのですが、
全体の流れを概説し、関連する様々な図版を並べることで、
医学史や、更には歴史について、そして今との関係について
思いを馳せることが出来ます。
次はもっと詳しいのを読んでもっと勉強してみようかな、
と思う人もいるでしょうし、そうかこういう流れか、と
自分の知識の中にこれをインストールするだけで十分な人もいるでしょう。
どちらの場合にしても、きっとここから得られる流れの知識は、
きっと色々なところで思い出されて
「そういえばこういう風だったっけ」と思えそうです。

全然医学を知らない人でも、軽く読めて、ちょっと賢くなれる!?1冊。
ああ、でも歴史がまったく分からないとさすがに辛いかも。(菜の花とか…)


テーマ : 医学史
語り口 : 説明文
ジャンル : 教養、入門書
対 象 : 一般〜初学者向け
雰囲気 : 広く、浅く概説

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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362. 「λに歯がない」     森 博嗣
2007.06.19 長編 272P 880円 2006年9月発行 講談社ノベルス ★★★★★
Gシリーズ第5作。研究所内で密室殺人発生


【100字紹介】
 密室状態の研究所で発見された身元不明の4人の銃殺体は
  「λに歯がない」というカードを持っており、
 歯が抜かれていた。犯人の脱出経路は?
  西之園萌絵は「φ」から始まる一連の事件との関連を疑うが…シリーズ第5作


ギリシア文字がタイトルに入る「Gシリーズ」の第5作。

また密室殺人です。
セキュリティ万全の建設技術研究所で、
4人もの部外者が射殺されていて、
しかも死後に歯を抜かれているという状況。
どう考えても外からそれをすべて行なうのは難しいし、
一体犯人はどこへ?という謎です。

あれ?そういえばどこから入ってきたんだっけの謎の方は、
ちょっと思い出せないな。出てきたっけ?
それはともかく。

シリーズの1作としての役割は果たしている感じ。
でも独立して読んでも全然問題がなさそうというのが凄い。
あまりにシリーズの1作としての位置づけがはっきりしすぎていると、
単体で読んだときの1つの作品としての完成度はどうなの?と思うことも
たまにありますけれど、本作はその辺りが大変巧い。
どういう読者がやってきても、ちゃんとそのように読ませるような感じが。
どこから読み始めてもいい、という著者の言葉が分かる気がします。
そういう風に、客観的に書かれているのだということ。

内容的にはよく、キャラの主観というか、言葉にしにくい、
ふわふわとした感情をよく書き込んでいると思うのですが、
著者自身がそれに流されていないというのが、
こういう構成を眺めたときに分かります。

謎の回答としては結構、専門的であって
人によって受け取り方は様々でしょうね。
まあ、そういう作風だから文句を言う人はいないと思いますけれど。



菜の花の一押しキャラ…国枝 桃子 「越えられない壁だよね。自分という名前の壁」(加部谷 恵美)
主人公 : 西之園萌絵他
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ風小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 小説一般
結 末 : 決着
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津典之
カバーデザイン : 坂野 公一(welle disign)
フォントディレクション : 紺野 慎一(凸版印刷)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★+
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
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