よみもののきろく

(2007年4月…338-351) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年4月の総評
今月の読了冊数は7です。
長編2、短編集2、エッセイ2、ライトノベル1。バランスいいですね。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣2、椹野道流1、宮部みゆき1です。

2007年4月の菜の花的ベストは…該当なし。
どんぐりの背比べ〜なみに、みな同じくらいのいい評価、ということで。
少なくとも外れのない月でしたね。

以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「悠悠おもちゃライフ」         森 博嗣(評点3.5)
 「カクレカラクリ」           森 博嗣(評点3.5)
 「笑う月」               安部公房(評点3.5)

「悠悠おもちゃライフ」は森博嗣が趣味の世界を思うままに語った、
遊ぶ大人のエッセイ。月刊誌「ラピタ」連載の
「森博嗣のオモチャイング・ライフ」2年分をとりまとめています。
ポップだけどポップすぎず、僅かにスタイリッシュで、
キュートなブックデザインは、一見の価値ありの素敵な本です。

「カクレカラクリ」はコカ・コーラ120周年記念の、森博嗣の書き下ろし長編。
廃墟マニアの大学生二人が夏休みに、同期でお嬢さまのお屋敷のある田舎町へやってきて、
120年前に作られた仕掛けの謎に挑むことになる、という謎解き長編。
謎解きですが誰も死なないし、とっても平和な愉しい一作。

「笑う月」は安部公房の「夢の話」を中心にしたエッセイ。
枕元に置いたテープレコーダーを使って、
色あせないうちに夢を生け捕りにしたという著者が、
その筆力と分析力をもって書き上げている独自性の高い作品です。


 「鯨の哭く海」              内田 康夫(評点3.0)
 「あやし〜怪〜」             宮部みゆき(評点3.0)
 「人形はライブハウスで推理する」     我孫子武丸(評点3.0)
 「貴族探偵エドワード 白き古城に眠るもの」椹野 道流(評点3.0)
  

「鯨の哭く海」は内田康夫のご存知、「浅見光彦」シリーズの長編。
浅見光彦が捕鯨問題の取材で南紀・太地を訪れるところから事件が始まります。
全体としてはホワイダニット。舞台は、太地と秩父がメイン。
捕鯨問題とからめて、考えさせられることも多々ある社会派ミステリです。

「あやし〜怪〜」は、宮部みゆきの時代物短編集。
江戸の「お店(おたな)」を中心にすえ、
日々を黙々と生きる庶民たちを主人公として
平凡な日常と、ふとしたことで垣間見てしまった闇という非日常を描く9編。

「人形はライブハウスで推理する」は我孫子武丸の人形シリーズ第3弾。
コミカルだけど新本格派ミステリの連作短編集です。
腹話術師の操る人形の「鞠夫」が名探偵!というこのシリーズ、
第3弾ではついに、腹話術師朝永さんと「私」の恋愛模様が主軸に!?

「貴族探偵エドワード 白き古城に眠るもの」は、
椹野道流の英国風ミステリアス・ストーリー第2幕。
何が凄く面白い、ということはないのですが、
何となく「あー、椹野道流だー」という感じで、
安心と言うか、あまり深く考えずに読めるライトノベル。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








345. 「鯨の哭く海」     内田 康夫
2007.04.07 長編 428P 638円 2003年2月祥伝社
2005年9月発行
祥伝社文庫 ★★★★★
浅見光彦、捕鯨問題の取材中に行きあう事件


【100字紹介】
 捕鯨問題の取材で、南紀・太地を訪れた浅見光彦は、
  「くじらの博物館」で未解決事件を示唆する
  不気味な展示物のいたずらを見つける。
  調査を開始した浅見は旧家の娘の心中事件、
  そして秩父で新たなる殺人に出会う…。


久し振りの浅見光彦シリーズの読了。
この「よみもののきろく」でこそ、あまり内田康夫は登場していませんが、
(これまでには3作品ほど。それらはすべて浅見シリーズ)、
菜の花は元々、日本のミステリの入口としては浅見シリーズから入りましたので、
内田康夫作品は相当数読んでいます。10作、20作じゃきかないくらい…。
ただ、きろくを付け始める前なので、あまり登場してこないのですが。
でも内田康夫作品こそ、菜の花の日本産ミステリ読書の原点かもしれません。
菜の花世代の女の子だと、普通は赤川次郎氏をそういう風に挙げることが多い気もしますが、
菜の花は内田康夫氏なんですね。天邪鬼ということもありますが、何より家にあったから…。
実は菜の花以上の読書人(多分…少なくとも文才はあっちが上でしょう)の我が弟御が、
完全完璧に内田康夫氏にはまっていて、蔵書コンプリート状態だったのです。
床が抜けるほどの蔵書。まだ抜けてないですけど。
というか、本棚いっぱいになるほどの多作、ということに驚きです。

ミステリ作家で多作と言えば、勿論赤川次郎氏が思い浮かびますが、
同じく多作で菜の花が思い浮かべるのは、森博嗣氏。
多作、というか速いですよね、出版ペースが。
この二人…ミステリの書きように、微妙な共通点があります。
この多作っぷりも勿論ですけど、
「プロットを書かずに書き始める」と言っている点。
「読者や主人公と同じように、この先どうなるんだろう、
と思いつつ書き進める」というやり方が同じです。
そうするとこういう作品になるらしいですよ。
この対極に位置するのが、新本格派のみなさまなどでしょうか。
計算されつくしたような作品…、綾辻行人氏とか、
新本格とは違いますが宮部みゆき女史とか。
どちらもそれぞれ面白いので、絶対こっちが優れている!
ということはないのですが、そうですね、雰囲気はやっぱり全然違います。
読んだ後に「これはプロットはなしで書いただろうな…」という想像はつきます。
どちらかだけでも物足りなくて、両方バランスよく読みたくなる感じでしょうか。
菜の花ってぜーたくもの。

本作は、いわゆる社会派ミステリ。
また、分類するならホワイダニット。
フーダニットに関しては早い時点で浅見は目星をつけていますし
(まあ、どんでん返しはありましたけど!ご期待下さい)、
ハウダニットは何度か浅見が自問しますが、結局大して重視はしていなくて、
全体としてはホワイダニット、でしょう。

※注:フーダニット=Who done it?(犯人)、ハウダニット=How done it?(手法)、
   ホワイダニット=Why done it?(動機)のどれを重視しているかの分類

この点が上述の森氏とは一線を画していますね。
同じような手法で、同じように多作なのですが、
一方の内田氏は社会派のホワイダニット。
もう一方の森氏は、ハウダニット中心で、動機に関しては、
一言で帰着できないものであって、詳細に描かないというスタンスを取っています。
うーん、似ているようで全然違う。
世の中には色々な作家がいます。面白いですね。

…で、全然本作の感想になっていない!(苦笑)
ええと、もう、この作品はですね、自作解説つきなので、
それ読んじゃって下さい!って感じ(こら)。

そうですね、旅情ミステリでもある浅見シリーズ。
今回の舞台は主に太地と秩父。他にも幾つも行きますけど…、
とにかくこの辺りがメイン。ここで出会った幾つかの事件がやがて…。
捕鯨問題とからめて、考えさせられることも多々ある作品です。
うーん、本作独自の話、少なっ。どうもゴメンナサイ。
何の足しにもならない「よみもののきろく」でした。




菜の花の一押しキャラ…浅見 光彦 「お陰様はないよ、ご苦労さんだった」(浅見 陽一郎)
主人公 : 浅見 光彦
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 旅情・社会派ミステリ
結 末 : 決着
カバーデザイン : かとう みつひこ

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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346. 「悠悠おもちゃライフ」     森 博嗣
2007.4.11 エッセイ 160P 1900円 2006年7月発行 小学館 ★★★+
月刊誌「ラピタ」連載エッセイの単行本化


【100字紹介】
 月刊誌「ラピタ」に2004年7月号から連載している
  「森博嗣のオモチャイング・ライフ」の
  2年分をとりまとめたエッセイ集。
  多くの色鮮やかな写真とともに、
  森博嗣が趣味の世界を思うままに語った、遊ぶ大人の姿。


何というか、とても「らしい」エッセイ。
一応、テーマは趣味とか遊びとかおもちゃらしいですけど。
でも、他のエッセイとあまり変わらないかも。
内容的には全然変わりません。
だっていつだって著者のエッセイは、
趣味とか遊びとかおもちゃでいっぱいですもの。
いつもと同じのり、同じ内容。
違うのは、掲載場所とかデザインとか。

ブックデザインがとてもよい、と思います。
思わず手に取りたくなる本、というか。
目次を見るだけでどきどきしてしまうのです。
キュートだ…。
そう、この本の菜の花のイメージは、キュート。
ポップだけどポップすぎず、僅かにスタイリッシュで、キュート。

連載していたときの元の状態は知らないので、
それを踏襲しているだけ、という可能性もなきにしもあらずですが、
それにしてもこの本は思わず、飾りたくなる1冊です。
ブックデザインは…坂野公一氏ですか。
最近菜の花が手に取った本の中でちょっと見てみると…、
同じ森作品だと、講談社ノベルスの「εに誓って」、
高里椎奈作品で同じく講談社の「小説のだめカンタービレ」などが
同氏の作品ですね。「のだめ」もよかったですね、確かに。
それ以外にも菜の花が手に取った本の中ではちょくちょくお名前を
お見かけしてきました。うーん、でも本作が一番かも。
凄く、森博嗣作品の雰囲気に合っているし、素敵。
この本、見ているだけで元気が出てきますね。

って、見ている場所が中身じゃないやー。
いやいやいや、でも本って、そういう要素も、
とっても大切だと思う菜の花です。




テーマ : 趣味
語り口 : エッセイ
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 森博嗣らしい
ブックデザイン
イラストレーション
: 坂野 公一(Welle design)
編 集 : 判治 直人

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
347. 「あやし〜怪〜」     宮部みゆき
2007.4.13 短編集 282P 1300円 2000年7月発行 角川書店 ★★★★★
江戸の町の庶民が主人公、9つの怖ーいお話

【100字紹介】
 天下泰平の世の江戸の町。大きな大きなこの町の片隅で、
  日々を黙々と生きる庶民たちが主人公。
  真面目に生きる彼ら彼女らは、
  ふとしたことで恐ろしい闇を垣間見てしまう…。
  日常と非日常が入り混じる怪奇短編小説9編


●「居眠り心中」
 享和年間に、手拭い心中と呼ばれる、
 物語絵巻を染め抜いた手拭いを使っての心中事件が相次いだ。
 そして舞台は文化4年。
 丁稚奉公の銀次は若旦那の騒動に巻き込まれていく。
  
 <一言>
 枕に「手拭い心中」という事件が紹介され、
 それが何となく絡んでいく、というお話。
 ちょっと絡みが不自然な気もします。なくてもいいような。
 女性って怖いなーと色々な意味で思う作品。
  
 評定:★★★★★



●「影牢」
 元岡田屋の一番番頭だった老人・松五郎が、与力の磯部に語る、
 岡田屋の旦那一家全滅の凄惨な事件の証言とは…?
 そして事件は…非業の死を遂げた先代おかみのお多津さまの呪いなのか?

 <一言>
 宮部みゆきが好んで使う、主人公の語りの形式。
 インタビュー形式、とでもいうのでしょうか。
 訊いている人がいるのは間違いないのですが、その音は拾わず、
 ただ答えている方だけの声を拾っていきます。
 電話みたいなものかな。それにしてもこの話、凄惨ですね。
 よくぞこんなお話、思いついてしまいましたね、という感じ。
 こういうの、駄目な人は絶対受け付けない感じですね。怖い怖い。
 でも一番怖いのは…生きている人間、という結論で間違いないでしょう。

 評定:★★★★★



●「布団部屋」
 酒屋の兼子屋は代々、主が短命だが使用人はとても従順で働き者。
 その秘密を誰もが知りたがるような不思議なお店であった。
  この兼子屋の若い女中が変死した。その代わりにお店に入ったのは
  女中の妹・おゆう。ある夜おゆうは、「布団部屋」で寝ることになるが…。
  
 <一言>
 怖い話、というやつですね。幽霊とか、祟りとか、化け物とか。
  おゆうと、姉のおさとの関係は、とても温かくて、
  でもそんなおさとはもうすでに死んでいて…というのが
  何となく切ない気がするお話です。

 評定:★★+★★



●「梅の雨降る」
 蓑吉は、奉公先で姉おえんの死を知らされた。
  15年前の梅の季節に、おえんに起きた、
  あの悲しい出来事が頭をよぎるのだった。
  
 <一言>
  最初にその死が伝えられ、その発端たる本題に入ります。
  本題は15年前の出来事。蓑吉の回想となります。
  そして再び現在へ。この月日が、何故15年という
  長いものでなければならなかったのか、
  ちょっと気になります。その間が何というか、
  とても考えさせられるというか。
  おえんにとっての15年間は、一体どんな意味があったのでしょうか。
  語り手が、臨月の妻を抱え、順調な人生を歩む弟の視点で
  語られるところが、またギャップを感じさせて何ともいえません。

 評定:★★+★★



●「安達家の鬼」
 女中あがりの若おかみの「わたし」の義母が亡くなった。
  彼女の最期に立ち会いながら、生前に語った不思議な
  鬼の話を思い出す。彼女の傍にはずっと、鬼がいたのだ。
  
 <一言>
 これまでのお話の主人公は皆、奉公人でしたがこの話の主人公は
  女中あがりではありますが一応、おかみです。
  でもあまり奉公人と雰囲気は変わりませんが。
  穏やかな「わたし」と、義母の不思議な話。
  一番、平和なストーリーだったかも。

 評定:★★★+



●「女の首」
 手先が器用な少年・太郎。唯一の家族の母を失い、
  差配さんのお世話になっていたが、
  住み込みの丁稚奉公にあがることになった。
  厳しい生活を予想していたのに、何故か奉公先での扱いが微妙。
  不思議に思っているとき、物置にされていた部屋のふすまに
  動く女の首の絵が浮かび上がっているのを見てしまった…!
  しかもこの絵は他の者には見えないようで…。  
  
 <一言>
 これも生者が生き生きとしている物語。
  唯一の母を失う、という悲しい始まりと、
  奉公先での奇妙な扱い、それに恐ろしい体験。
  しかし終わりが太郎にとってよきものであるだけで、
  何となくすべてが救われたような気がします。
  謎の提示、その種明かしもなるほど、でした。

 評定:★★★★



●「時雨鬼」
 女中勤めのお信は、今の奉公先を口利いてくれた
  口入屋に出かける。人のいい口入屋主人に相談したいことがあったからだ。
  しかし、主人はいない。代わりに応対するのは、ずけずけと物を言う、
  ちょっといけ好かない年増の女だった。女はこの口入屋のおかみらしいのだが。
  
 <一言>
 殆どが会話で進む話。とても自然な会話。
  話しているうちに思わず、話すつもりもないことを言っちゃった、
  という、主人公のうっかりな感じもいかにもありそう。
  しかしこの落ちでくるとは。世の中には色々な人がいるものです。

 評定:★★★★★



●「灰神楽」
 岡っ引きの政五郎は、奉公人がお店の中で刃傷沙汰を起こしたと
  夜明け前に呼び出された。下手人は女中のおこま。
  しかしどうにも正気には見えない。しかも不気味な一言を残し、死んだ。
  最近、おこまに変わったことはなかったか訊く政五郎。
  唯一の手がかりは火鉢だった。
    
 <一言>
 初めて、お店と関係ない人間が主人公になりました。
  でも事件はお店で起きているのですが。
  現代に置き換えれば刑事が主人公ですねー。
  でも単なるミステリじゃなくてやっぱりホラーなのです。

 評定:★★★★★
  
  
  
  ●「蜆塚」
 口入屋の米介は、亡父の碁打ち仲間の松兵衛を見舞った。
  そこで、亡父であれば伝えたのではないかと思われる、
  不思議な話を聞かされることになる。
  どうやら死なない人間らしきものが世の中にはいるらしい。
    
 <一言>
 うーん、平和な感じで始まって、まさかこんな結論に達するとは。
  ちょっと意外でした。この話を最後に配置する辺りも。
  どういう意図か掴みかねますが、ホラーの短編集の最後、
  という意味では、かなりぞーっという終わり方かなとも思います。

 評定:★★★★★





菜の花の一押しキャラ…笹屋富太郎 「良いことと悪いことは、いつも背中合わせだからね。  幸せと不幸は、裏と表だからね。」(笹屋のご隠居)
主人公 : -
語り口 : 1人称、3人称
ジャンル : ホラー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 江戸の日常とホラー

文 章 : ★★★+
描 写 : ★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOPへ
348. 「人形はライブハウスで推理する」     我孫子 武丸
2007.4.18 連作短編 330P 514円 2001年8月講談社
2004年8月発行
講談社文庫 ★★★★★
腹話術師の人形探偵・鞠夫の連作短編第3弾

【100字紹介】
 幼稚園教諭の私、妹尾睦月の恋人であり腹話術師の朝永嘉夫さん。
  彼の操る相棒の鞠小路鞠夫は、私の弟・葉月に嫌疑のかかった
  殺人事件も鮮やかに解決する名探偵!
  コミカルだけど新本格派ミステリ、連作短編の第3弾!


●収録作品●
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 人形はライブハウスで推理する
 ママは空に消える
 ゲーム好きの死体
 人形は楽屋で推理する
 腹話術志願
 夏の記憶

 特別付録 対談 我孫子武丸×いっこく堂
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■人形はライブハウスで推理する
 突然上京してきた弟の葉月。朝永さんからの電話をとってしまうし、
 彼とのデートにもついてくるし。お邪魔虫!と思っていたら、
 一人で街へ出掛けた葉月に、いきなり殺人容疑が!?
 ライブハウスのトイレで起こった殺人事件。
    
 <一言>
 これぞミステリだよね、というようなハウダニット。
 掌編らしい、掌編ともいえるかも。
 大きすぎないトリックをコミカルなエピソードの中に
 ぽんと放り込んだ作品です。そして…ついに二人の仲が急接近!?
  
 評定:★★★★★



■ママは空に消える
 幼稚園の園児、瑠奈ちゃんのお迎えが遅い。珍しくお父さんがやってきた。
 待っている間にママはどうしたの?と訊いてみると、
 「お空の上のおばちゃんのとこに行ったの」と…。
 それってまさか…!?

 <一言>
 ああっ、惜しかった!妹尾さんの推理、なかなか当たりませんね。
 ちょっと痛かったですが、何とか解決、でしょうか。
 ところでこんな名前の人、あり?

 評定:★★★★★



■ゲーム好きの死体
 最悪のバレンタインデーが幕を開ける!?
 久し振りのデートを楽しみにしていたのに、朝永さんの家には先客が…。
 折角仲直りしかけたところに今度は殺人事件の証言者として呼び出され!?
  
 <一言>
 可哀想に…。ま、普段から色々と利用しているから利用されることもまた、
 あるということで。謎解きに関しては…、これってどうなのでしょう?
 わざわざ解かなくても、鑑識さんには丸分かりでは…?

 評定:★+★★★



■人形は楽屋で推理する
 GW…なのに幼稚園児たちを連れて人形劇に行くことに。
 朝永さんも出演するその人形劇に、「私」にプロポーズしてくれた
 幼稚園児のカイ君もやってきたのだけれど、いつの間にか行方不明に?
  
 <一言>
 妹尾さん、大人気(笑)。幼稚園児のはかない恋ですか…。
 しかし、ハードボイルドの幼稚園児って嫌ですね。
 トリックとかは実は全然なくて、
 ふとしたことをうまく謎に仕立て上げています。

 評定:★★★★★



■腹話術志願
 朝永さんの家に押しかけ弟子!?
 勝手に住み着いた料理上手の謎の彼、
 いきなり強盗殺人事件の容疑者にされているし…。
  
 <一言>
 朝永さんも有名になってしまいましたよ。
 この作品もハウダニットかな。
 でももしかしたらフーダニットかも。
 なかなか面白いトリックですが、実際には絶対無理だろうなあ、とも。
 その意味で、ミステリのためのミステリ、という気もします。
 悪い意味ではなくて、こういう楽しみのためだけに作られた
 フィクション、それはつまりエンターテイメントということ。

 評定:★★★★★



■夏の記憶
 朝永さんと共に故郷へ。その道中、小さい頃の話が飛び出して、
 ふと思い出した、小学生から中学生の頃の記憶。
 あんなに仲のよかった親友だったのに、些細なことで気まずくなり、
 それっきりになってしまった悲しい思い出…。
 その思い出も、鞠夫の手にかかると真相が見えてくる…?
  
 <一言>
 あー、なるほどね!という感じ。
  鞠夫、凄いです。伊達に名探偵と呼ばれていない!?
  言われてみればひどく綺麗にはまるパズルの一片。
  これがパズル・ミステリ!?ちょっと違うか…。
  何となく、希望の持てるラストで、連作短編閉幕。

 評定:★★★★


本書の裏書では「青春ユーモア・ミステリ」となっています。
全体に見てみるとこの中では「青春」が特に強調されているかも?
というか、恋愛ミステリ、というべきでは。
何だかんだで実際の物語の主軸は、朝永さんと「私」の恋愛模様、
であるということで。ミステリが付け合せ!?なんて、
とっても危険な関係だったりして…。とか言ってみたりして…。
我孫子武丸氏らしい、ユーモアあふれる、
エンターテイメントのためのミステリです。



菜の花の一押しキャラ…朝永 嘉夫 「そりゃしばらくは落ち込むと思うけど。―人生楽ありゃ苦もあるさ」(青木 海) こんな幼稚園児。
主人公 : 妹尾 睦月
語り口 : 1人称
ジャンル : ユーモアミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 恋愛、ユーモア、新本格

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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349. 「貴族探偵エドワード 白き古城に眠るもの」     椹野 道流
2007.04.22 中編 218P 457円 2006年3月発行 角川ビーンズ文庫 ★★★★★
英国風ミステリアス・ストーリー第2幕

【100字紹介】
 大国アングレの首都・ロンドラ。
  三拍子揃ったお坊ちゃんのエドワードと、お世話係のシーヴァ、
  それに居候で霊を感じることが出来るトーヤの
  私立探偵事務所に古城ホテルで起こる怪しい事件の依頼が。
  シリーズ第2作。


「銀の瞳が映すもの」に続く、シリーズ第2弾です。
主人公は貴族のお坊ちゃんでありながら
趣味に走っていきなり私立探偵になったエドワード。
容姿端麗、頭脳明晰、家柄最高で三拍子揃っているけど、
結構ワガママお坊ちゃんのエドワードを支えるお世話係の青年シーヴァ。
それにうまーいこと入り込めている、結構凄いヤツ・トーヤ。
トーヤは前作で知り合って、そして押しかけ弟子…じゃないな、
何でしょう、押しかけ雇われ人?になったキャラ。
詳しくは前作をお読み下さいね。

前作はイントロダクションもかねて、無難にまとめた作品でした。
本作は、シリーズの続きと言うことで、ある程度キャラも確立され、
舞台を用意する必要はもうないや、というところからスタートしているためか、
長さとしては前作と同じくらいですが、事件の内容としてはステップアップかな。

舞台はタイトルそのまま、白き古城。
この古城を買い取り、ホテルにした人が依頼人。
どうやらホテルに何かが出るみたいですよ。
しかも事件に絡んでくる新キャラが。
どうやらこのまま、レギュラーメンバーになりそうな予感…?

キャラといえば、前作でもまあ活躍してくれたプライス刑事!
今回はかなりの大活躍ですよ!やりますねえ、株を上げました!

何が凄く面白い、ということはないのですが、
何となく「あー、椹野道流だー」という感じで、
安心と言うか、あまり深く考えずに読めるライトノベルですね。
椹野道流氏の雰囲気が好きな人なら、何も考えずに手に取るとよいシリーズ。



菜の花の一押しキャラ…シーヴァ・アトウッド 「…知っていますよ」(シーヴァ・アトウッド)
主人公 : エドワード・H・グラッドストーン
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト・ミステリ
イラストレーション : ひだかなみ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
350. 「カクレカラクリ」     森 博嗣
2007.4.25 長編 302P 1000円 2006年8月発行 メディアファクトリー ★★★+
120年の時を経て、からくりが動き出す!


【100字紹介】
 同期の花梨の実家のある田舎町にやってきた大学生の郡司と栗城。
  そこで聞いた「カクレカラクリ」の話。
  120年前に作られた仕掛けが今年、動き出すと言うのだ。
  早速彼らは、遠大なカクレカラクリの謎に挑むことに…


比較的珍しいかもしれない、シリーズ外のミステリ系作品。
と言っても、これってミステリなのか、厳密なところは不明。
特に誰かが死ぬわけでもないですし、行方不明になったり、
事故が起きたり、誘拐されたり、怪我をしたり…、そういうこともなく。
ある意味、とっても平和な謎解き。

廃墟マニアで、工学部の学生である郡司と栗城の二人組は、
夏休みに同じく工学部のお嬢さま・真知花梨の実家に居候をして、
廃工場や廃坑を楽しみつつ、栗城の恋心を発展させようと画策。
最初の目論みはまんまと成功し、実際に花梨の田舎へやってきて、
謎にぶち当たり、みんなでわいわいと解くことになる…という筋書き。

活躍するキャラは花梨の妹で、活発な女子高生の怜奈や、
彼女の尻に敷かれている(!?)、真知家と犬猿の仲のはずの山添家の跡取り息子の太一、
それに120年前活躍した天才からくり師の血を引く理科教師・磯貝など。

それほど突飛なキャラはいないし(常識の範囲内の人々という意味で)、
何となくいるかもしれない、でもやっぱりいないかも…な微妙にずれた人々が、
もしかするとあるかもしれない、でもやっぱりないかも…な世界で繰り広げる、
絶妙なお話です。

実はコカ・コーラの120周年を記念した書き下ろし作品らしいですが…、
ああ、なるほど!コーラと120年が何度も出てきました。
なかなか面白い趣向でした。




主人公 : 郡司 朋成ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 謎解き
装丁・カバーデザイン : 小林 正樹
本文デザイン : 佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
351. 「笑う月」     安部 公房
2007.4.30 エッセイ 156P 362円 1975年11月新潮社
1984年7月発行
新潮文庫 ★★★+
夢のスナップショットが中心の創作エッセイ


【100字紹介】
 夢は意識下で書きつづる創作ノートである。
  ただし白昼光の中ではみるみる変質してしまう。
  有効利用には、新鮮なうちに料理しておくべきだ。
  枕元に置いたテープレコーダーで、
  その場で生け捕りにした安部式夢エッセイ


安部公房です。こういう評価の高い故人の大物作家さんを読むと、
ちょっと緊張してしまう菜の花です。
だって、凄いんですよね?それをもしも凄いなあ、と思えなかったら、
何だか菜の花の読者としてのレベルが低い気がしちゃうんですよね。
まあ、でも、読書なんて趣味のことですから、
たまたま趣味が合わなかったんだ、ということなのでしょうけれど。
意外に菜の花、権威主義だったらしい…?

そんな心配をしながら読み始めましたが…、ああ、これは。
他に類を見ないと言いますか。この独自性は素晴らしいですね。
最初の発行が菜の花の生まれる前。
何しろ著者自身が故人ですものね、古いですよね。
それでも、今読んでも全然問題ないというか、
時代とか関係ないというか、色あせないというか…、
そう、古いものを読んだとき、古いなあと思わせないものがあるのは
きっと普遍的な面白さを内包しているからだと思うのですが、まさに。
これが文学的ってやつかな、と思ったりします。
時間と共に消えてゆくなら、それは流行りものに過ぎない。
真の文学は決して、色あせたりしないのだよ、と
ページの向こうから声をかけられるような。

そもそも、素材が「夢」。
表題作「笑う月」の中で著者自身が

ただし夢というやつは、白昼の光にさらされたとたん、 見るみる色あせ、変質し始める。―(本文より)
と書いているくらいで、簡単に色あせてしまって うまく伝えられないものなんですよね。 菜の花も毎日のように奇妙な夢を見るのですが、 これをうまく日記に書いて人に伝えられないのがもどかしいものです。 夢の話は自分の中の暗黙の了解と、目の前で認識される動きが 複雑に絡み合って印象づけられますから、 その辺りの分析を冷静に行なう必要があるのと、 更にそれを自然に伝えられる筆力が要求されます。 著者は夢を見たらすぐに生け捕りに出来るように、 なんと枕元にテープレコーダーを置いておいて 目が覚めたらすぐに吹き込む、なんてことをしていたそうですが、 うーん、凄いガッツ。そして十分な分析力と筆力を有していたために、 こんな作品が出来上がったというわけですね。 しかも大いに文学的だ…。 とりあえず、この著者が評価されるのは納得できたということで。 しかし、珍しい作品ですね。夢の話か…。そしてここから着想を得て、 周りから見ると不思議ながらも確かにそれを育て上げた(と本人が分析する) 作品があるというのも、ああ、作家さんだなーという感じ。 ところでこの「笑う月」とは、著者が何度も見たという、 なじみ深い夢に出てくるもの。 直径1メートル半ほどのオレンジ色の満月で、 花王石鹸の商標みたいな顔があって、 地上3メートルのあたりをふわふわと追いかけてくるらしいです。 とても怖い夢らしいのですが…謎ですね。不気味ではありますが。 …菜の花もテープレコーダー作戦とかやってみるか? と思わず本気で検討してしまいました。 まあ、今時ならICレコーダかな。
テーマ : 夢
語り口 : エッセイ
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 夢か創作か?
カバー : 安部 真知

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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