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(2007年2月…332-337) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年2月の総評
今月の読了冊数は6です。
評価は4,3,2が2つずつで、なかなかバランスよいですね。
種類の内訳はばらばら。これまたいいバランスですね。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣1、高里椎奈1、時雨沢恵一1です。

2007年2月の菜の花的ベストは…同点のランク4が2つです。
以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「陰陽師 瀧夜叉姫(上)(下)」 夢枕 獏  (評点4.0)
 「森博嗣本 別冊宝島」            (評点4.0)

「陰陽師 瀧夜叉姫」は夢枕獏の「陰陽師」シリーズ中、最も長い作品。
おなじみの安倍晴明と源博雅のほか、平将門ゆかりの名武将達が入り乱れる、
豪華絢爛な大長編の平安絵巻です。視点移動が細かい分、起伏があって、
息継ぎをしながらさらりと読める、読書初心者にも優しいエンターテイメントです。

「森博嗣本」は別冊宝島。まるごと一冊、森博嗣特集です。
西尾維新との巻頭対談に始まり、表紙デザイン集、
全作品解説、引用作品解説、キャラ解説などの資料的なものから、
森博嗣や担当編集者へのインタビュー、
趣味を中心にした写真館など森作品を楽しむアイテムが満載されています。
特に「作品解説」は秀逸。是非、作品読了後にお読み下さい。お奨め。


 「モリログ・アカデミィ1」    森 博嗣   (評点3.0)
 「図書館情報専門職のあり方とその養成」     (評点3.0)
  
「モリログ・アカデミィ1」は森博嗣の
「WEBダ・ヴィンチ」連載のブログを再編成したもの。
このブログはそもそも、こうやって出版する前提で書かれています。
日記シリーズは完結しましたが、新たな日記シリーズみたいなものかな。

「図書館情報専門職のあり方とその養成」は日本図書館情報学会研究委員会編。
2003年から成された科研費研究LIPERの成果を元に、
図書館情報専門職の現状を踏まえた上で、これからのあり方、
つまり方向性とその養成方法を模索する、というもの。
これから図書館関係の職種を目指す人だけでなく、
現在図書館に関係する人には是非、読んで頂いて何かを思って頂くとよいかと思われる論文集。


 「雲の花嫁 フェンネル大陸偽王伝」 高里 椎奈 (評点2.0)
 「学園キノ」            時雨沢恵一(評点2.0)

「雲の花嫁」は高里椎奈のフェンネル大陸偽王伝の第6作。
高里流の一種独特の内省的な暗いイメージをつきまとわせつつ、
内容としては王道を突き進むファンタジー・シリーズです。
ついにシスタス領内に足を踏み入れた主人公・フェンの物語と、
雲の国ラビッジの悲しい過去を綴る物語が混在し、
ますます悲劇が劇的に演出されていきます。

「学園キノ」は時雨沢恵一の「キノ」シリーズのパロディ作品。
もしもキノが正義の変身ヒーロー、でも正体は女子高生だったら!?
著者本人が、はちゃめちゃな同人誌的ノリを見せてくれます。
元シリーズとは、まったく違う雰囲気を楽しめますが、
「キノ」のイメージを崩したくない人には回れ右をお奨めしてしまう連作短編集。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








332. 「MORI LOG ACADEMY モリログ・アカデミィ1」     森 博嗣
2006.2.6 エッセイ 288P 630円 2006年3月発行 メディアファクトリー ★★★★★
ブログを再編成した、森博嗣の新シリーズ1


【100字紹介】
 「WEBダ・ヴィンチ」連載の森博嗣のブログ日記
  「MORI LOG ACADEMY」の文庫化。
  小学校の学科別にカテゴリ分けし、
  HRでは日々の出来事や雑感、
  国語・算数・理科・社会・図工では関連記事を掲載。


森博嗣氏のエッセイ、というか日記。
同著者の出版順コンプを目指す菜の花にとっては、
また形を変えて日記登場か!という感じです。

最初の日記シリーズ出版は2000年2月の「すべてがEになる」。
デビュー長編「すべてがFになる」(S&M第1作)をもじって、
EssayのEをタイトルに関したこの作品から始まる
「I say Essay Everyday」という副題を共通してもつシリーズは、

2.「毎日は笑わない工学博士たち」(2000年8月発行)
  (「冷たい密室と博士たち」(S&M第2作))
  (「笑わない数学者」(S&M第3作))

3.「封印サイトは詩的私的手記」(2001年7月発行)
  (「詩的私的ジャック」(S&M第4作))
  (「封印再度」(S&M第5作))

4.「ウェブ日記レプリカの使途」(2003年2月発行)
  (「幻惑と死と使途」(S&M第6作))
  (「夏のレプリカ」(S&M第7作))

5.「数奇にして有限のよい終末を」(2004年4月発行)
  (「数奇にして模型」S&M第9作)
  (「有限と微小のパン」S&M第10作)

の全5冊となっています。と、特に意味なく振り返ってみました。
これらは96年からネット上で公開された日記を取りまとめたものですが、
2001年にネット上での日記を終了し、代わりにWEBダ・ヴィンチに
週刊連載が始まりました。これが「浮遊研究室」シリーズです。
正確に言うとこれは日記ではないので、後継とはいえないのですが、
このシリーズも全5冊が刊行されました。
連載が終了し、その次にまた日記が、今度はブログで復活。
それがこの文庫シリーズとなるわけです。
…というわけで、森博嗣初心者のために語ってみました。

こうやって見てくると、文章が少しずつ、マイルドになってきたな、
というのを感じます。商業的にはその方がよい、と踏んだのか、
それとも森博嗣氏もお年を召されて丸くなったのか。
初期の頃の攻撃的にすら感じられる鋭さが、
やや丸くなったように感じます。
自分の好きなようにやらせてくれ!と叫びつつ、
まとわりついてくるしがらみに対して何としても自分は自分、
と言い続けて、自分を保っているような雰囲気があったような。
しかし本作の森博嗣氏は、もう好きなように生きられるようになって
何というか「余裕」のようなものが感じられる気がします。
その雰囲気の違いも、面白いなあと思いますね。

100字紹介にもありますように、
全体がHR、国語、算数、理科、社会、図工に章分けされています。
実際は普通の日記部分のHRが過半数を占めていますが。
特に面白かったのは算数ですね。
色々と、忘れていたことを思い出させてくれる章でした。
やはり、余裕で生きていても森博嗣は森博嗣、
切れるように鋭いそのままに歳を重ねたのだな、と思いました。


テーマ : 日々の雑感など
語り口 : 日記
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 普通の日記ブログ
イラスト : 羽海野チカ
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
333. 「雲の花嫁 フェンネル大陸偽王伝」     高里 椎奈
2007.02.10 長編 327P 950円 2006年11月発行 講談社ノベルス ★★★★★
シスタスの外れの「存在しない街」で…シリーズ6作目

【100字紹介】
 王を名乗る者を粛清すると宣言したシスタス王国領内へ、
  ついに足を踏み入れたフェン。
  「存在しない」不思議な街で、非道を目の当たりに!
  そして雲の国ラビッジの悲しい過去が明らかになる…
  高里流ファンタジー第6作


フェンネル大陸シリーズの第6作。

以下、続きものなので、前作までのネタばれを僅かに含みます。
未読の方はご用心。

さて、シリーズ名の意味が明らかになって2作目。
今回も「偽王」の名前は挙がってきました。
だんだんと浸透しつつある?
そして話も進みつつある感じがよく出ている第6作です。

前作でシスタスに対抗すべく、小国連合を作ろう、
という話になって「王」として奉り立てる候補を
コンフリーへ訪問、そして失敗してしまいました。
今作ではこの小国連合に入っていたマーシュが、何とシスタス側へ。
この目論見がシスタスへ知られてしまい、
もはやソルド王国は後戻り出来ない状態へ…。
そもそもの提案者・ラビッジ王国の王リノは、
苦しい立場に立たされることに…。

…という背景のもと、実際のストーリーの中心は主人公であり、
実は「偽王」を名乗っているフェンを中心に。
今、フェンはどこにいるかと申しますと…、
はい、もうシスタス領内へ入らんとしております。
そして、非道の事件に巻き込まれ、
何だかあやしげな人物達と出会い…、
ひょっこり登場するのが10年前に起きていた、
ラビッジ王国復興と、悲しい過去の物語…。
ストーリーは、フェンの動く「現在」に、
10年前のラビッジ王国の悲劇がサンドイッチされて登場。
高里椎奈氏は本当に、こういう形式が好きですね。

細かく、色々なところで予想を裏切る辺りも著者らしいです。
嬉しい裏切りですね。全体の流れは裏切りません。
細々と裏切りながら、最終的には期待通り、というのが
高里椎奈の巧さでしょう。
このシリーズではかなりあちこちで設定の甘さが気になりましたが、
本作はそこまでは気にならず。
むしろどうしても目を引いたのが、文章の流れですね。
よくないです。読み辛さがあります。
内省的な描写が多いですが、
冗長な部分と言葉足らずの部分が混在していて
不自然さ、流れの悪さがあります。
うーん…、もう一歩。



菜の花の一押しキャラ…レティシア・アンバー 「フェンちゃん、神様って何処にいるのかな」 「え?」                  「空かな。地面かな」            (御者&フェンベルク) まさかフェンを「フェンちゃん」と呼ぶキャラが登場する日がくるとは。
主人公 : フェンベルク
語り口 : 3人称
ジャンル : ファンタジー
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 王道ファンタジー
結 末 : 続いてますが一件落着
イラスト : ミギー
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーデザイン : 斉藤 昭 (Veia)
地図製作 : 白髭 徹

文章・描写 : ★+★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
334. 「学園キノ」     時雨沢 恵一
2007.02.15 連作短編 352P 570円 2006年7月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
キノの旅・著者による型破りな同人誌版!?


【100字紹介】
 「キノの旅」の著者本人によるパロディ作品。
  完全に同人誌のノリで、はちゃめちゃな展開。
  もしもキノが正義の変身ヒーロー、
  でも正体は女子高生だったら!?
  元シリーズとは、まったく違う雰囲気を楽しめる連作短編集
  


●収録作品●
--------------------------------------------
 キノの旅第四部・学園編第一話 
  「キノ颯爽登場」― Here Comes KINO ―
 キノの旅第四部・学園編第二話
  「気になるアイツは転校生だワン!」― Before Dog Days ―
「籠球木乃」
「水泳木乃」
 キノの旅第四部・学園編第三話
  「夏休みはロマンスと火薬の香 ― 刀と犬の婿取りバトル?」
    ― Last Man Standing Got Milk ―
--------------------------------------------

キノのシリーズ番外編です。もう完全に別のお話。
雰囲気違いすぎ。そしてやりすぎ(笑)。
表紙をめくったところで

「学園キノは『キノの旅』なんかじゃない。
 そしてそれ故に、『キノの旅』じゃない。」
  
と書いてあり、これが一応「警告」(笑)らしいです。
「キノの旅」のファンが読んだら、涙を流して悲しみそうな、
かなり凄いお話です。いや、これはないでしょ。
「アリソン」シリーズで、もしかしてこの著者、
こういう人じゃないでしょうね?と思っていたのが
そのまま爆発した感じ。
「キノの旅」しか読まずにこれに到達した読者は、
そのギャップにどう反応するか!?…ですね。

キャラは基本的に「キノの旅」のメインキャラを。
主人公・キノは女子高生。
シズは優秀で二枚目、クールな人気者・静先輩。
そして…某謎の転校生もあのキャラが…!?
キノの旅に欠かせない相棒・エルメスは、
あやうくスクラップにされるところをストラップにされた!?

しゃべるストラップ・エルメスと女子高生・木乃。
しかも変身ヒーローなんですが、その微妙さと来たら!
謎の美少女ガンファイターライダー・キノ。
何ですか、そのネーミングは。

謎の…(中略)…キノを取り巻く他の変身ヒーローたちは、
純白の正義の騎士(←ネーミング可変)・サモエド仮面に、
ワンワン刑事(デカ)、美老婆銃士・ヴァヴァア・ザ・スーパー。

はい、この時点で「ああ、私には荷が重過ぎるようだ…」な方は、
決してこの本を開かないで下さい。
折角の時雨沢氏のイメージを壊すことはありません、ええ。

逆に興味を持ってしまったあなたは…まにあっくな。
どうぞどうぞ、著者と共に楽しい世界へ旅立って下さいね。



菜の花の一押しキャラ…おばあちゃん 「信じないの?じゃあ今ストラップと喋っている事実はどーなのさ?  コレが事実じゃなきゃ、木乃は一人で喋る怪しいヤツだよ」    (ストラップのエルメス)
主人公 : 木乃
語り口 : 著者が語る
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 同人誌的ノリ
結 末 : ハッピーエンド?
イラスト : 黒星 紅白
デザイン : Toru Suzuki

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
335. 「図書館情報専門職のあり方とその養成」     日本図書館情報学会研究委員会編
2007.02.18 図書館 250P 2800円 2006年10月発行 勉成出版 ★★★★★
図書館専門職の現状と制度改革具体案を提示


【100字紹介】
 日本図書館情報学会(旧・日本図書館学会)
  成立50周年を記念して2003年から成された
  科研費研究LIPERの成果を元に、
  図書館情報専門職の過去と現状、
  これからのあり方と養成、資格制度などを自由に論ずる。
  

職場(大学図書館)で、「是非」と渡されて読みました。
複数人の著者で書く、論文集の形式なのですが、
この著者のうちのお一人が菜の花にこの本を渡した人と
ゆかりある人物であるために回ってきたようです。

名は体を表す、分かり易いタイトルがついていますので
(論文やレポートはこうでなくてはいけない!)、
内容はすぐにお分かりかと思います。
図書館情報専門職の現状を踏まえた上で、
これからのあり方、つまり方向性とその養成方法を模索する、というもの。

この図書館情報専門職とは何か?ということがまずひとつ。
まあ、司書とか司書補ですね、現状だと。
しかし、それだと従来は「図書館専門職」だったはず。
ここで新たに入ってきた「情報学」がとても重要です。
つまり、社会が変わりつつあり、
その流れに図書館も乗らなくてはいけない、ということですね。

流れとしては、これまでの「司書制度」にどのような問題があり、
そのせいで現状がどうなっているか?その問題は?
ということをおさらいし、(第I部 図書館情報学教育の今日的課題)
そもそも専門職制とは何なのか、現在の方向性と取り組み状況は?
…ということを理論と実例で論じ(第II部 専門職制に関する動向)
資格制度と専門知識を持つ人材の養成について、
大学の状況や他国の現状なども交えて紹介(第III部 情報専門職養成の現状)。
そんな感じになっています。


現在の司書資格は、一度取ってしまえば更新もありません。
しかも容易に取れてしまいます。運転免許と同じです。
いや、運転免許は持っていないのに運転したら違法ですが、
司書資格はなくても図書館に採用されるところも多いのでもっと緩い。
正直、何となくないと淋しいから作った程度にしか見えません。
何しろ、元々の専門が物理学だった菜の花が、たった2ヶ月で取得でき、
それで簡単に図書館に就職できてしまうわけですからいい加減なもの。

その上、役に立つかどうかというと必ずしもそうとは言い切れません。
何故なら、図書館には様々な館種があり、
それによって、業務内容や方針がかなり違ってくるからです。
例えば、レファレンス・サービス。
公共図書館では読書指導や、事項質問が中心であり、
事項質問に対しては「答え」の記述がある資料を提示して回答します。
大学図書館になると事項質問に対して答えを提示することは殆どなく、
答えを探すためにどのようなツールをどのように使うか?という利用指導になります。
この違いは公共図書館は「知識」を求める場所であるのに対し、
大学は知識を得るために入学するのではなく、
「学ぶための、学び方」を身に付けるためにあるからだ、
というのが菜の花の持論です。(ちなみに高校までは「知識」を得る場でしょう。)

このように館種によりサービスも目的も異なってくるのですが、
現在の司書資格は公共図書館で必要とされる知識に特化しています。
この資格を持っていても、大学図書館で必要とされる知識を
学んだことがあるか否かは判断できないのです。
また、同じ司書資格所持者でも、いわゆる司書講習で取得した者と、
大学の司書課程で取得したもの、更に大学の専門課程で取得した者では、
かなり大きな差があるはずです。
司書講習だと早いと僅か2ヶ月のスクーリングで取得出来てしまいます。
専門課程で学んだ場合は、4年間しっかり学習し、更に卒論も修め、
場合によっては大学院で修士論文も書いているかもしれません。
これを一律の司書資格とするのはあまりに強引。
しかし、日本では図書館情報学関連の資格は、現状ではこれしかありません。
その価値はいかほどのものか?本当にこんなことでよいのか?
養成方法と資格制度はもっと考えられるべきではないのか?
そして具体的に、どのような養成が考えられるのか?
本書では、そのために現場で今、
どのようなスキルが求められているかを知るのに行なわれた、
幾つかの調査結果を踏まえた提言も盛り込まれています。

理論的でもあり、具体性も持ち、
現状の問題を洗い出して将来の方向性を模索する。
本作はそのような方向性を目指して編纂されているようです。
個々の論文の文章構成などには不満があるものの、
大枠は素晴らしい理想を持った人が考え、構成したのだろう、と
将来への期待感の高まる作品になっています。
ただし、一般の読者にはやや冗長に見えるかもしれません。

これから図書館関係の職種を目指す人だけでなく、
現在図書館に関係する人には是非、
読んで頂いて何かを思って頂くとよいかと思います。
特に他国の現状などは、なかなか興味深いかと。



テーマ : 図書館
形 式 : 複数著者の論文集
ジャンル : 専門教養
対 象 : 図書館関係者向け
雰囲気 : 学術的

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
336. 「陰陽師 瀧夜叉姫(上)(下)」     夢枕 獏
2007.02.19 長編 356P
348P
各1429円 2005年9月発行 文藝春秋 ★★★★
平将門が蘇る!?都を揺るがす大陰謀を追う


【100字紹介】
 20年前…悲劇と、様々な怪異が起きた。
  そして今、平安の都で怪事件が次々と起こる。
  安倍晴明、賀茂保憲、浄蔵、蘆屋道満などの有能な術者達と、
  平将門ゆかりの名武将達が入り乱れる、
  豪華絢爛、大長編の平安絵巻。


ご存知、安倍晴明と源博雅が活躍する、夢枕獏の「陰陽師」シリーズの長編。
シリーズ中最も長い、大長編です。何と上下巻。
まあ、この作品は会話文の重ね合わせという特徴のため、
改行が多いことと、余白も多いということから、
ページ数の割にはボリュームは少なめですが、ここまで長いのは初めて。

元々が連載作品だったために小さな山が沢山あって、
その山が集まって最終的な山へ集約されていく感じです。
それぞれの山で主人公(中心的に語られる人物)が異なっているのが特徴かも。
しかもそのストーリーの独立性はとても高い。それだけで十分読ませます。
連続性があるようで少しもないような、そんな話が気付くと連なり、重なり、
まるでミルクレープのようにひとつのケーキへ(←おなかがすいているらしい)。

例えば、序ノ巻は、子供時代の晴明が百鬼夜行に会う話。
続いて、同じ百鬼夜行にまったく別の話として道満が出会います。
一ノ巻に入ると時代不祥で、道満の祓いの話が来てから、
ようやく現在の晴明と博雅の「いつもの縁側での会話」がスタート。
これまたいつものように「こういうことがあったらしい」という博雅の話が始まると、
場面は「こういうこと」として語られる方へ視点が移ります。
つまり小野好古へ主人公が移るのです。
そしてまた戻ってくる…。戻ってきたところで晴明と博雅の前に新たな人が。
登場したと思ったら場面は変わってまた道満が…。
僅か2ページ後には晴明、博雅と先ほどの人物が語り合っていて、
その内容の主人公へ視点が…。

という具合に、とにかく細かく細かく視点が移動していきます。
このシリーズの元々の特徴ではあるのですが、
長編であることと、連載小説であったことが更に拍車をかけているようにも思えます。
これだけくるくると変わると分かりにくいかとすら思うわけですが、
なかなか絶妙で、それぞれを巧くまとめて繋いでいて、
むしろ読者に読み飽きさせないで緊張感を保ったまま、
話を読み続けさせることに成功しています。面白い手法ですね。

内容は、現在の様々な怪異が登場し、あるものは対処され、
あるものは進行し、その合間に過去の悲劇が徐々に明らかになっていく…、
という展開を示します。それぞれの短いエピソード自体は
何も進まないのに、それが連なることで解決へ一歩ずつ、
近づいていく、というのが不思議な感じ。

とにかく、読んでいて飽きずにさらりと読めます。
会話文が多いので読みやすいというのもありますが、
短いエピソードの連なりなので息継ぎがしやすい、とも言えます。
内容は悲劇もありますが、「次は誰が何をする?」というどきどき感がありますし、
しっかりこの時代に引き込んでくれる「雰囲気の魅力」もあります。
おどろおどろしい悲劇もさらりと描写しながら、
やるときはかっこよくキメてくれて、
お涙ちょうだい的人間の弱さ悲しさ人情物語も交えて。
全体としてエンターテイメント性に富んだ、作品になっています。
文章や展開などの個々の評定はそれほど高くないのに、
全体の「雰囲気」は高評価で、★は4つ。



菜の花の一押しキャラ…賀茂 保憲 「おれには、おれの速度がある。おれを急かせるな。  急かせると、道をあやまることのあるのが人だ」  (源 博雅)
主人公 : 安倍晴明ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : 時代物オカルト
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 哀しみあるエンターテイメント
結 末 : 一件落着
装画・装幀 : 村上 豊

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP
337. 「森博嗣本 別冊宝島」
2006.2.25 解説本 192P 1260円 2004年6月発行 宝島社 ★★★★
もっと森作品を知りたい!楽しみたい!人へ


【100字紹介】
 西尾維新との巻頭対談に始まり、表紙デザイン集、
  全作品解説、引用作品解説、キャラ解説などの資料的なものから、
  森博嗣や担当編集者へのインタビュー、
  趣味を中心にした写真館など森作品を楽しむアイテム満載の1冊


別冊宝島です。一瞬、「雑誌?」と思いましたが、
ちゃんとISBNがついていて、図書でした。
雑誌だったらISSNがつきますからね。


表紙がコジマケン氏。すっかり森博嗣作品ではお馴染みになりました。
元々菜の花、コジマケン氏を全く知りませんでしたが、
今ではすっかりファンになっています。独特で可愛い作風ですね。

本書はまるごと一冊、森博嗣特集です。
秀逸なのは、作品解説。巧いの一言です。
うーん、よく読みこんでいる、というのもあるかもしれませんが、
「この作品は本当に面白いの!是非読んで!」という気持ちが
ひしひしと伝わるいい文章です。
これを読んだら、あなたも「あ…読んでみようかな」とか
「もう一度、読み直したくなってきた!」と思うことうけあい。
そして。こんな文章を書いている菜の花ですが、
自分のいい加減で適当な感想文と比べてちょっとしょんぼりしてしまうのでした。
ああ、世の中には同じ本を読んでもこんな素敵な文章に出来る人がいるのだ!
菜の花、まだまだ修業が足りません、出直してきます、みたいな。
って、まあ、元々の趣旨が違うからいいか、という気もしますが。
菜の花のこの文章は、その作品をネタにしたエッセイというか、
雑記なわけで、別に解説をするものではないですものね。
(と、開き直ってみた。)

個々の作品解説の他にも解説系ではネタバレ100%な、
森博嗣作品の「特別講座」もありました。
こちらは…うーん、どうなんでしょう。
菜の花的には「そんなの気付かない人がいるのか?」と、
「それはあまりに強引では…」の内容であって、
あまり面白みはなかったのですが、こういう考え方をする人が、
同じ作品の読者にはいるのだ、ということは新鮮でした。
実はそれは個々の作品解説でもそうなのですが…、
まあ、そういう風に思う菜の花の読み方でさえ
「ははあ、そう読む人もいるんですね」という対象であるのでしょう。
つまり、万人が同じように読むことはありえない、
だからこういう本が出て、みんなで作品の読み方を出し合ってみて
「へー」とか「ほほう」とか思うのが愉しい、のかもしれません。


森博嗣作品をこれから読んでみよう、という人には絶対おすすめ。
すでに読んだ人も、目を通してみると新たな発見があるかも?



テーマ : 森博嗣とその作品
語り口 : 執筆者多数
ジャンル : 解説本
対 象 : 森博嗣ファン〜一般向け
雰囲気 : 作品解説書+ファンブック
イラスト : コジマケン
写 真 : 大関 敦、串原英明
表紙デザイン : 森 葉子(little sista)
本文デザイン : COA、野中 理恵

文章・描写 : ★★★★+
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
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