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(2007年1月…328-331) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2007年1月の総評
今月の読了冊数は4。少な…っ。
ただし、上下巻が2回あったので実質6冊ですけどね。
ライトノベルが2、短編1、エッセイ1でした。
コンプ計画中の著者の読了数は森博嗣1と時雨沢恵一2です。
とにかく少ない月でした。評価も…あまり高くないし…。

2007年1月の菜の花的ベストは…該当なし。
以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「ライトノベル「超」入門」    新城 カズマ (評点3.0)
 「レタス・フライ」        森 博嗣   (評点3.0)
  
「ライトノベル「超」入門」は、タイトル通りのエッセイ。
ライトノベルの書き手である著者が、「初心者」から、
「もっともっとラノベを知りたい方」へ向けて書いています。
入門書というよりは、趣味で書き倒したエッセイ本。

「レタス・フライ」は森博嗣の短編集。
ショート・ショート5編を含む、9編を収録しています。
2編ほどはシリーズ作品も微妙に紛れ込んでいます。
全体的な雰囲気が沈み込むような、繊細な不安定さに包まれた作品。


 「リリアとトレイズI, II (上)(下)」 時雨沢恵一(評点2.0)
 「リリアとトレイズIII, IV (上)(下)」時雨沢恵一(評点2.0)

「リリアとトレイズ」は時雨沢恵一のシリーズ作。
アリソンシリーズの後継に当たる、異世界ファンタジー。
主人公達は、全シリーズの主人公格4人の子供たちに移行し、
時代も移り変わっているため、やや平和な世界…のはずですが、
前シリーズ以上に暗い翳の落ちた作品になっています。

以上、今月の読書の俯瞰でした。








328. 「ライトノベル「超」入門」     新城 カズマ
2007.01.05 エッセイ 294P 750円 2006年4月発行 ソフトバンク新書 ★★★★★
初めて読む方から更にラノベを知りたい方へ


【100字紹介】
 次々と新レーベルが創刊され、中高生をメインターゲットに
  勢いを増しているラノベ。作家によるラノベのルーツ、
  楽しみ方、今後の展望を徹底解説。代表的作品の紹介、
  キャラ類型解説、人気キャラ解説、関連年表付き。


ライトノベル。省略形はラノベ。
菜の花が最近楽しく読ませて頂いている小説群です。
ところでこれ、一体何なんだろう…。
一度不思議に思っちゃったら、もう読んでみるしかないでしょう。
というわけで、読んでみました、入門書。

本書はライトノベルの書き手である著者が、
「初心者」から、「もっともっとラノベを知りたい方」へ向けて書いた本。
というと、ちょっとかたそう?
いえいえ、実際読んでみるとどちらかといえば…
趣味で書き倒したエッセイ本ですねー、これは。
入門書と銘打ちながら、かなり勝手気ままな雑文という感じです。
もうとっても、軽ーい気持ちで手に取れるもの。

読んでみると、本書自体がラノベかも!?
同じ高さの目線で語りかけてくる著者の言葉は、
さらりと読めてしまいます。
特に系統だって説明されているわけではなく、
入門書としてはどうなのよ?と思われるかもしれませんが、
この乱雑さ、とりあえず惹き付けとけ!という姿勢自体が、
ライトノベルの本質を説明しているのかもしれません。

系統だっていない中で、それなりに列挙されているのが、
代表的作品の紹介、キャラ類型解説、人気キャラ解説。
これらはもう、説明の必要はないですね。
殆ど趣味の世界に走っている著者に気おされつつ、
「おお、これは読んだー」と懐かしい気持ちも味わいつつ。
まあ、半分はふざけ半分、みたいなノリかも。
しかし最後の「関連年表」は相当力作ですね。
これは、資料的価値があるかもしれません、はい。

ライトノベルは、エンターテイメントのための消耗品。
ためにならないかもしれないけど、ひたすら愉しい時間をくれるもの。
さあ、あなたも菜の花と一緒に、ライトノベルを愉しみませんか?



テーマ : ライトノベル
語り口 : 気ままにエッセイ
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 語り

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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329. 「リリアとトレイズI・II そして二人は旅行へ行った(上)(下)」     時雨沢 恵一
2006.01.13 長編 254P
238P
各510円 2005年3月、5月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
アリソンから娘リリアの冒険へ!新シリーズ


【100字紹介】
 アリソン・シリーズの後継シリーズ第1弾。
  アリソンとヴィルの娘リリアたちの新しい冒険。
  戦争はもはや歴史となったロクシェに思わぬ社会問題が。
  リリアとトレイズは旅行先で知らず知らずに事件に巻き込まれていく…


アリソンのシリーズを引き継いだリリアのシリーズ第1弾。
完全な続編ですね。
アリソンシリーズの主人公格4人の子供たちの物語ということで。
どれくらい続編かといいますと、「アリソン3」のプロローグと
エピローグを足したものがそのまま本作のプロローグです。
というわけで、読む場合は必ず「アリソン・シリーズ」からどうぞ。

主人公は、アリソンとヴィルの娘リリア15歳。
上級学校の「優秀な」学生。
もう一人はベネディクトとフィオナの息子トレイズ16歳。
フィオナの息子ということは…王子様ですね、イクス王国の。
ただし、フィオナ自身と同じく彼も双子。
公式的には双子の姉妹であるメリエルが唯一の王女ということになっています。
何故なら「アリソン2」で語られたように、イクス王国では
王位争いにならないように、という配慮からか、
王の子供は1人だけ、と決められているからです。
トレイズが王子であることは、ごく限られた人しか知りません。
リリアすらも知らないという設定。

さて、シリーズのおさらいをしておきますか。
世界はたったひとつの大陸から成っていて、
その大陸の中心は南北に越えがたい山脈と大河が流れていて、
不完全に独立しているという設定。
東西にはそれぞれを憎みあい、戦争を続けていた大連邦が1つずつ。
しかしアリソン・ヴィル・ベネディクトのした「歴史的な発見」により、
東西は和平、国交が開かれて平和な時代がやってきたのです。
そんな世界が舞台の、異世界ファンタジーです。

本作は、夏休みがやってきて、ひょんなことから
リリアとトレイズの2人で東側の小国へ観光旅行に行くという話。
で、旅行先では、思わぬ社会問題に直面してしまうのです。
平和になったこの世界も、前途多難なのですね。
そして事件に巻き込まれ…。

ところどころで場面転換し、アリソンやヴィル(トラヴァス大佐)が
何か裏で動いているぞ、という不穏な空気を漂わせたり、
そのものずばりの不審人物達の隠密行動が描かれたり、
ただただ普段どおりの平和な生活を送るイクス女王夫妻や
王女メリエルの様子が登場したり。

幾つかの場所のエピソードがやがてまとまって大団円へ、というタイプの構造です。
が。ややテンポが悪いように思います。
凝ってはいて、それなりに面白いのですが、
ライトノベルの命のひとつは歯切れのよさとテンポからくる
読みやすさだと思うのですよね、菜の花は。
これにやや欠けるかなと思います。
前作はどちらかというとテンポはよかったのですが
設定の甘さが気になりましたが、本作は逆かな。
キャラが前回ほど暴走していないせいか、物語に落とされた陰も
あまり中和しきれていなかった、というのもマイナス。
「キノ」シリーズではその皮肉さ、のようなものに味があるわけですが、
本作のようなタイプのストーリーとキャラでは少し消化不良かと。
ちょっと残念な感じのスタートですね。
これ以降、どうなるかは楽しみですが。



菜の花の一押しキャラ…メリエル 「任せろ。絶対になんとかしてやる…」 (トレイズ)
主人公 : リリア・シュルツ
 トレイズ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 冒険もの
結 末 : 明るくもあり暗くもあり
イラスト : 黒星 紅白

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★+★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
330. 「レタス・フライ」     森 博嗣
2006.1.17 短編集 270P 880円 2006年1月発行 講談社ノベルス ★★★★★
ショート・ショート5編を含む、9つの短編


【100字紹介】
 長期海外出張で訪れた某国美術館で「僕」が遭遇した奇妙な事件や
  西之園萌絵が叔母と訪れた小島の診療所を巡る怪しい噂に迫る話などの
  ミステリ風作品から、10ページ未満の
  不可思議で不安定な物語まで全9話の短編集


森博嗣氏の短編集です。
シリーズ作品も微妙に紛れ込んでいますね、2つほど。
どちらもVシリーズ(短編含む)を読んでいないと
「へ?」となること請け合いです。
シリーズ読者へのサービスにも見えますが、どうでしょう。
この2話以外は、特にシリーズには無関係な独立作品です。

長さはてんでばらばら。
1話目と最終話で半分を超えていますね。
それぞれの語り口も、ばらばら。
1人称あり、3人称あり、会話ばかりのものあり。
色々な作品を楽しめる短編集となっています。

ただし雰囲気はどれも、似ています。
妙に冷めていると言うか…。
達観している…とはちょっと違いますね、
そう、沈んでいる、沈み込んでいる、という感じでしょうか。
何となく陰があって薄暗くて、少し寒々しいくらいで。
最後のGシリーズのキャラが登場する作品は、
この中にあって唯一暖かなイメージのあるお話です。
最後に少しだけほっとしたような。
真ん中の方に配されている「私を失望させて」も別に暖かくはないですが、
コメディタッチの変則的なお話で、雰囲気を変えますね。

そう、配置は絶妙でした。終わり方の雰囲気もよいですし、
全体の配列がうまいな!と思いました。
…というのも、Vシリーズを読んでいないと思わないかもしれません。

独立した短編集ではありますが、
なるべくVシリーズを読了後に読むことをお勧めいたします。




菜の花の一押しキャラ…刀之津診療所の医師(実は…) 「いや、君はもともとどうかしているから、そんなふうに考えたことは一度もないよ。」 (犀川 創平)
西之園萌絵への一言。
主人公 : 各話に設定
語り口 : 混在
ジャンル : 小説一般
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 繊細、不安定
結 末 : 一話完結
イラスト : (ささきすばる?)
カバーデザイン : 坂野 公一(welle design)
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津 典之

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
331. 「リリアとトレイズIII・IV イクストーヴァの一番長い日(上)(下)」     時雨沢 恵一
2006.01.27 長編 250P
296P
510円
550円
2006年3月、5月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
年越しのイクス王国でテロ?シリーズ第2作


【100字紹介】
 リリアシリーズ第2弾。
  美しい自然に囲まれた山と湖の王国イクス。
  その年越しの祭りへ、トレイズはリリアを招待する。
  王子であることを告げる決意をしたところへ、
  王家を巻き込む重大事件が勃発!異世界ファンタジー


アリソンのシリーズを引き継いだリリアのシリーズ第2弾。
完全に続編なので、前作から読みましょう。

…というわけで、詳しい設定の話は省略です。

前作では夏休みでしたが、本作は冬休みへ。
リリアには王子であることを秘密にしてきたトレイズ、
ついにそれを打ち明けようと、
アリソン・リリア母娘をイクストーヴァへ招きます。
イクスの年越しの祭りは賑やかで一見の価値あり!と。

そしてやってきた2人でしたが、トラブルが起きて
予定外の年越しに…。そして同時に、王家でも予想外の事件が起きて…。
リリアとトレイズは、この事件にどう関わっていくのか!
…というお話です。

王家を巻き込む事件、ということで、
密やかに本作は、リリアが主人公って言ってもいいの?
くらいにイクスの女王様とその旦那の英雄
(2人の出会いと即位にまつわる話はアリソンU参照)が
大活躍!となっています。主人公2人、影が薄い…。
アリソンが目立たないで遊んでいるのはまあ、
もう主人公じゃないしーということでOKでしょう。
意外にヴィルが奮闘していますが。
というか、かなりの重要な役どころ!?
しかも何か、微妙に嫌〜なシチュエーションまで…、
きっとこの伏線は、次巻以降にまた登場することでしょう。

次巻以降に続く…といえば、ラスト1ページも。
思いっきり、次のお話の始まりというか、発端というか…、
そういうものを感じさせまくりで、週刊連載の漫画みたい。


さて、前作のリリアとトレイズ1・2でも指摘したように、
やはりこのシリーズはちょっとテンポが悪いように思います。
うーん、一言でいえば、ストーリーテリングがいまいち、
という感じでしょうか。
この著者の味は、短編にこそあるのかもしれません。
長編はやや不満の残るものが多いような。
短編だと、非常に短いものでも鋭い切れ味を感じるのですが。
そういう鋭利な長編が、今度は読みたいなーと。
人があっさりと死にすぎるのも、菜の花の好みから外れていまして。
いや、ほんとに個人的な好みですけど。
すべてが理由を持って…、という書き方は作為的ですけど、
お話としてはそういう過不足ないのが好きです。
直接ストーリーとは無関係な場面が
あちこちにちりばめられているのはテンポを悪くして、
冗長な雰囲気を作りがちであることが残念。
色々と寄り道すると、話が膨らんで面白い場合もありますが、
あまりお話に生きてきていない挿入文は…。

珍しく、ややマイナスなイメージで書いてしまいました。
が、もちろん続編も楽しみにしています、はい。



菜の花の一押しキャラ…アリソン 「わたしのままは、バリバリの一般庶民よ。         肉屋で閉店前に安くなると、喜んで買い込むような人よ」 (リリア・シュルツ)
主人公 : リリア・シュルツ
 トレイズ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 冒険もの
結 末 : 明るくもあり暗くもあり
イラスト : 黒星 紅白

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★+★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★+★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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