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(2006年12月…321-327) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年12月の総評
今月の読了冊数は7。
内訳は長・中編2冊、短編1冊、エッセイ等4冊。
おやおや、エッセイに偏っていますね。
物語系が少ないとは、菜の花らしからぬ。
コンプ計画中の著者の読了数は、森博嗣3冊と時雨沢恵一1冊。
あ、過半数を占めた。

2006年12月の菜の花的ベストは…該当なし。
しかも何だかみんな同じくらいの評価。どんぐりの背比べな月ですね。

以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「殺意は砂糖の右側に」       柄刀 一   (評点3.5)
 「森博嗣のTOOL BOX」        森 博嗣   (評点3.5)

「殺意は砂糖の右側に」は、天地龍之介のシリーズ第1作。
IQ190の天才・天地龍之介が探偵役の連作短編ミステリ。
彼は天才ですが天然ボケで世間知らず、生活力は限りなくゼロ。
そんな彼を支えるのが、この物語の1人称を担う従兄弟の光章。
コミカル・ミステリかと思いきや、中身はかなりの本格系です。
リアリティを排除した、ミステリのためのミステリ。

「森博嗣のTOOL BOX」は、森博嗣の写真エッセイ。
「日経パソコン」に2年間連載されたエッセイの書籍化です。
写真の主役は道具であり、本文もそれに関連したもの。
1つの道具につき大きな写真1枚。これを含んで4ページで1回分。
道具は単なるツールに留まらず、人を変えることがよく分かる1冊です。


 「森博嗣の浮遊研究室5 望郷編」  森 博嗣  (評点3.0)
 「アリソンV(上)(下)」     時雨沢 恵一(評点3.0)
 「大学について話しましょうか」   森 博嗣  (評点3.0)
 「図解クラシック音楽大事典」    吉松 隆  (評点3.0)
 「人形は遠足で推理する」      我孫子 武丸(評点3.0)
  
「森博嗣の浮遊研究室5 望郷編」は、浮遊研究室シリーズ完結編。
WEBダ・ヴィンチで連載された同名作品の単行本化であって、
助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイです。
もう、どうしようもなくどーでもいいお話が多いのですが、
その雰囲気が面白いという作品。

「アリソンV(上)(下)」は時雨沢恵一のアリソンシリーズ完結編。
哀しいこと、綺麗ごとでないこともこんなに沢山出てくるのに、
キャラの明るさですべてが救われて、愉しく読めるライトノベルです。
豪華列車の旅と殺人事件、そして陰謀。
次回作への繋がりを期待させつつ、物語は一旦終幕です。

「大学について話しましょうか」は森博嗣のインタビュー集。
元・某国立大学助教授が「大学」について様々な質問に答えます。
最近の学生についてや内部からの視点で見た大学など
学生論、大学論として様々に語る「大学の話」。
現場にいた人の話は、いつだって興味深いものです。

「図解クラシック音楽大事典」は作曲家・吉松隆がおくる漫画作品!
イラスト満載で誰でもらくらく気軽に読めて、
初めての人のとっかかりに最適な「超初心者クラシック入門」です。
構成楽器・楽譜からコンサートまでクラシック鑑賞の基礎をつまめます。

「人形は遠足で推理する」は我孫子武丸の「人形シリーズ」第2弾。
人形と内気な腹話術師と、幼稚園の先生である「わたし」が繰り広げる
ユーモア・ミステリの長編です。とある事件の無実を訴える
バスジャックのために、人質になった彼らが
タイムリミットつきの安楽椅子探偵になります。ミステリらしいミステリ。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








321. 「殺意は砂糖の右側に 天才・龍之介がゆく!」     柄刀 一
2006.12.02 連作短編 320P 571円 2001年2月祥伝社、2004年1月発行 祥伝社文庫 ★★★+
コミカル系・ミステリのための本格ミステリ


【100字紹介】
 「10円玉を持っていないか?」
  と聞いた数分後に殺された男は、
  1円と50円の硬貨を握り締めていた…。
  不思議な事件の数々を、
  小笠原諸島から都会に渡ってきた純朴な、
  IQ190の天才・天地龍之介が解く第1作。 (100字)


天地龍之介のシリーズ最初…らしいですが。
実は菜の花自身は、順番を間違えたらしく、龍之介は3作目。
うち1つは明らかにこれの続きでしたね。
「幽霊船が消えるまで」です。皆さんはお間違えのなきよう…。
というか、これって「殺意は幽霊館から」よりも前?
色々と謎が多いシリーズです。(それ、内容と関係ない…)


語り手はタイトルになっている龍之介の従兄弟の光章。
光章はごく一般的な人物ですが、これを主人公というのか、
それともあくまで主人公は龍之介かは謎。
この龍之介、あおり文句にもあるとおり、「IQ190」という
凄い肩書き(?)をかついで登場するキャラ。
どれだけ怜悧な天才が出てくるかと思いきや、
おっとりやで、変人の祖父に育てられてきていて、
しかも離島から出てきたばかりの、常識もあやしげな少年的青年。
そんな彼が活躍するミステリ連作短編ですが、
事件に遭遇するや否や別人のように豹変して怜悧な推理を…という
期待を抱いてはいけません。事件に無関係に、
ふわふわと変な方向を見ている変人です、このキャラは。
事件が起こると怖がって隠れちゃうタイプですし。

つくづく歯がゆいキャラを、コミカルですらある1人称で描く
コミカル・ミステリかと思いきや、中身はかなりの本格系。
設定などはキャラを見るだけで分かる通りの、
リアリティ追求型では決してないもの。
しかし、これがミステリを魅せるための演出でもあると。
つまり本作は、ミステリを形成するために世界が構築されているタイプ。
ミステリのためのミステリ。パズルを作るために世界も作られた、
そしてその世界は、偶然にも比較的通常の世界に似ていた、
というだけだった、と、そんなイメージです。

著者はロマンティストだとか、そういう話がありますが
(菜の花も激しく同意)、その所以はここかもしれません。
つまり、世界があって、そこで事件が起こるのではなく、
ミステリの舞台のために世界の方が構築されていくのです。
これが幻想小説と呼ばれるのは当然かもしれません。
著者はただ、美しいミステリの世界を矛盾なく打ち立てたかった。
そういう人だからこそ、ロマンティストなのです。きっと。




菜の花の一押しキャラ…ユミ 「龍之介、お前さん、スポーツなんかは得意なのか?え?運動神経はいいほうか?」 「学校時代得意だったのは、立位体前屈ですね」(天地光章&天地龍之介)     それはスポーツなのでありましょうか?
主人公 : 天地 光章
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : コミカル、本格
カバーデザイン : 中原 達治
カバーイラスト : 緒方 剛志

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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322. 「森博嗣の浮遊研究室5 望郷編」     森 博嗣
2006.12.10 エッセイ 304P 1400円 2005年7月発行 メディアファクトリー ★★★★★
WEBダ・ヴィンチ連載作品単行本完結作


【100字紹介】
 WEBダ・ヴィンチで連載された同名作品の単行本化。
  助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
  4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイ。
  シリーズ第5作で、最終回を含む完結編。何気ない雑談を愉しもう。

さて、ついにこのシリーズも第5作を数え、完結編。
と言っても、劇的に盛り上がる最後というわけでもなく、
何となく最終回で何となく終了です。

今回の収録は、WEBダ・ヴィンチに掲載されたVol.141-Vol.170まで。
そして、このVol.170が最終回です。

元々ウェブ上で公開されていたものを再録ということで、
今回の書籍化に伴う特典は…、
「「浮遊研究室」を振り返って、今だから言える打ち明け話」ですね。
左ページがコジマケン氏による各キャラのイラスト、
右ページがそれぞれの「苦労話(?)」という各人2ページの見開き。
何となく舞台裏が見えていいですねー。あとがきという雰囲気。

本文は連載ですから当然、これまでと何も変わらず。
「ご案内」にて森博嗣の殆どきままなエッセイからスタートし、
「今週の一言」「今週の諺」「今週の新商品」などの
「へ?」と思うに違いない創作が続き、
「今週の一枚」という写真と各キャラクタのはみだしコメント、
そしてメインの会話部分がスタートします。
毎回複数のトピックが取り上げられ、
これに関して、4人のキャラが話します。
4人とは、助教授・森博嗣、助手・上前津伏見、
秘書・御器所千種、隣の研究室の助教授・車道栄。
1トピックごとに完結です。

いつもながらの、やくたいもない世間話というか、
大学のサークル室で繰り広げられるような井戸端会議というか。
もう、どうしようもなくどーでもいいお話が多いのですが、
その雰囲気が面白い。キャラが何を言っていたかなんて、
もはやどうでもいいのです、忘れてしまうし。
とにかく、ごちゃごちゃと人がしゃべっている横に
ぼーっといるこの感覚がどこか懐かしいような、愉しいものなのです。

今回もイラストはコジマケン氏。
いつもながら、この発想力には驚きです。
しかし、最初は「何だろ、このみょーなイラストは…」
と思っていたのに、今ではすっかりコジマケン氏のトリコです。
いや、凄い。
この絵が好きだからずっと見ていたい、というタイプではなく、
どんどん新しい絵を出してくるのですが、出てくる絵出てくる絵
「うわあ、面白い」と思わせてくれる絵描きさんです。
またどこかで出会えるかなー。



主人公 : 森 博嗣(?)
語り口 : 会話形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : クール&ポップ
結 末 : 1トピック完結
イラスト : コジマケン
ブックデザイン : 大路浩実・田中彩里

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
323. 「アリソンV(上)(下)」     時雨沢 恵一
2006.12.14 長編 各226P 各510円 2004年3月、5月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
西側へ豪華列車旅行!が陰謀に巻き込まれ…


【100字紹介】
 シリーズ第3弾、完結編。東西の戦争終結後、
  ついに民間人も西側へツアー参加できる時代がやってきた。
  招待を受けて列車に乗り込んだアリソン達だったが、
  列車内で殺人事件が!陰謀に巻き込まれて行き着いた先は…。


アリソンのシリーズ第3弾、そして完結編。

世界はたったひとつの大陸から成っていて、
その大陸の中心は南北に越えがたい山脈と大河が流れていて、
不完全に独立しているという設定。
東西にはそれぞれを憎みあい、戦争を続けていた大連邦が1つずつ。
そんな世界が舞台の、異世界ファンタジーです。

主人公の東の連邦に住む17歳の優秀な学生の少年ヴィルと、
同じく東の連邦の、はちゃめちゃで元気いっぱいの空軍の少女アリソンは、
前作でもキー・パーソンになった小国の次期女王フィオナとともに
西側の空軍少佐・カー・ベネディクトに招待され西側への列車旅行へ。
戦争が続いていた東西は、ヴィル、アリソン、カー少佐によって和平をし、
ついに民間人も行き来できることになったためです。

序盤はひたすら、豪華列車旅行の旅!
あわあわ、いいなあっ、いいですねえっ。
こんな列車旅行、してみたい〜と思うことうけあいの
超贅沢な旅でございますよ〜。
豪華な室内!個室内にはベッドはもちろん、
ソファーもテーブルもあって食事も出来ますし、シャワーも完備。
1車両には2組分しかお部屋がないのですが、
この2組のためだけに働いてくれる乗務員さんも常駐。
紅茶でもおやつでも、かゆいところに手が届くいい感じのタイミングで
ささっと出てきてしまいます。食堂車もまったく別のデザインのものが2つ。
バーの車両もありますし、見晴らしのいい展望車も。
食事はすべて料金込みで、しかも毎日沢山のメニューから
自由に選ぶことが出来ます。中身も高級レストランなみ。
ちょっとリッチな旅の気分を満喫できます。

そして、事件は起こり…怒涛の展開。
いや、でもちょっと待て!もっと怒涛というか、
ショックだったのがプロローグですから!
きっと驚かれると思います。えぇぇぇぇ〜、何が起こった!?
何でそうなっているの!?というプロローグです。
何と、当シリーズではすっかりおなじみのある人物のお子様の
一人称で始まる未来のお話なのです。そしてその中で、あの人が…!
そんなどっきどきのプロローグで始まる上巻ではしかし、
この内容がまったく分からずただただどきどき。
お楽しみ(?)は下巻へ。
そして下巻のエピローグに答えは用意されているのです。
さあ、みんなエピローグまで駆け抜けるんだ!…ってところでしょうか。

哀しいこと、綺麗ごとでないこともこんなに沢山出てくるのに、
キャラの明るさですべてが救われて、愉しく読める作品です。
設定の甘さは最後まで気になりましたが、
エンターテイメントだと割り切ればこんなものでしょう。
そこまできっちり書ききったら、
もはや電撃文庫に並べておくのは勿体無いかも!?

おっと、最後にもうひとつ。
ヴィルの友人は…ついに名前が出てきませんでしたが、
前回覚えた期待を裏切らない、素敵なキャラとして再登場ですよ。
いや、名前くらい出してあげようよ!…なんて思いつつ、
名前がないからこそ、ここまで気になるキャラだったのかも…
なんて思いなおしてみたりもする菜の花なのでした。

次は、続シリーズ!?



菜の花の一押しキャラ…ヴィル 「それは、分かりますよ…」                 「ん、何が?」                       「遺書ってものの”嫌”さが。                 私もかつて作戦の前に書かされたことがありましたからね…。  あれは嫌なものです…。とても嫌なものでした。       自分の死んだ後に、自分の想いだけが相手に届いて、     それでどうなるっていうんだと思いました」         (アリソン・ウィッティングトン&ストーク・フレン)
主人公 : ヴィルヘルム・シュルツ
 アリソン・ウィッティングストン
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 賑やかな
結 末 : ハッピー・エンド
イラスト : 黒星 紅白

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
324. 「大学の話をしましょうか」     森 博嗣
2006.12.15 エッセイ 188P 720円 2005年10月発行 中公新書ラクレ ★★★★★
助教授・森博嗣が「大学」について語った!


【100字紹介】
 某国立大学助教授だった森博嗣が、
  「大学」について様々な質問に答えるインタビューの模様を書籍化。
  Q&A形式で、最近の学生についてや内部からの視点で見た大学など
  学生論、大学論として様々に語る「大学の話」。


副題は「最高学府のデバイスとポテンシャル」。

すっかり作家として定着した森博嗣が、元々の正業である
「教員」として、大学についてのインタビューに応じる、
という内容です。
聞き手は、中央公論新社から出る森氏の本でも名前をお見かけする
(N倉氏として登場)名倉女史。森氏の担当編集者さんですね。

内容としては概ね正論であって、
大学内部にいたことのある人なら
「まあ、そうだろう」とうなずく内容かと思われます。
ここでいう大学内部とは、大学で働いたことがある、もしくは
大学院に在学したことがある、という意味くらいでしょうか。
学部だけで大学を出てしまうと、あまりぴんとこないかもしれません。

大学そのものに関わらない部分については、賛否両論かもしれませんが、
菜の花はこちらもほぼ同感で、「そりゃそうでしょうね」と
納得の内容が多い感じですね。
ああ、でもときどき「え?そりゃどうだろう?」というのも
完全にゼロではないので、「そうか…こういう見方もあったか」と
面白く読めました。変な「専門家」や「識者」が語るより、
現場にいた人の言葉は興味深いものです。

この森氏もついに大学を辞められましたね。
これからは大学を見る目も、外の視点になっていくかと思いますが、
そうなったときにどういう意見を語るのか、がとても気になります。
しかし…そうしたら自分の興味のあること以外、見ない人ですから、
大学にはもう目を向けることもなくなって
語ったりはしなくなってしまうのかな、とも思います。
大学、特に理系の研究室から見たような小説、エッセイが
面白い作家さんだったんですけど、これからは普通の人になってしまうのか…、
それとも、もっとまにあっくな趣味の世界にはしってしまうのか…、
まあ、十中八九、後者かと思われますが。。。



テーマ : 大学
語り口 : Q&A形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : インタビュー
聞き手 : 名倉 宏美

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
325. 「図解クラシック音楽大事典」     吉松 隆
2006.12.19 教養 160P 1500円 2004年5月発行 学習研究所 ★★★★★
作曲家が漫画で描く超初心者クラシック入門


【100字紹介】
 作曲家・吉松隆が、自らイラストも描いた、
  超初心者のためのクラシック音楽入門。
  イラスト満載で誰でもらくらく気軽に読めて、
  初めての人のとっかかりに最適。
  構成楽器・楽譜からコンサートまでクラシック鑑賞の基礎


吉松隆著です。菜の花、個人的にこの作曲家さんが好きなので、
図書館で何気なく見かけて「うわお!これは借りねば!」と
すぐさま手に取ったのでありました。

しかし、好きな作曲家さん、何て言っている時点で、
もはや菜の花は「超初心者」ではないわけですが、
ままま、それはいいのです。
一体どんなことが書かれているのだろう、わくわく☆。
まず目次をぺらっ。

序章でクラシック音楽って何?
うん、順当ですね。まずは定義ですよね。以下、

第1楽章 まず楽器を知ろう!
第2楽章 コンサートですよ!
第3楽章 楽典なんか怖くない!
第4楽章 作曲するぞ!
アンコール 吉松隆大事典

ははあ、なるほど、第1章じゃなくって第1楽章ときましたか。
しかも4楽章編成とは…(にやり)。
第1楽章は、大変親切ですね。
初心者でも安心!のイラストつきで、説明も分かりやすくなっています。
第2楽章はとにかくコミカル・タッチで、コンサートに行ってみよう、
という気にさせてくれる章です。
個人的には「指揮棒の振り方@」にウケました。おもしろー。
間違っていないし、嘘も言っていない!でも、おもしろー。
第3楽章は…、うーん、ページによって難易度が。
中学生くらいが楽典を授業でやるときにいい資料になりそうなところもあり、
もうちょっと慣れないと難しいかもなーな部分もありです。
第4楽章の内容は、知っていると
「あ、この人結構知っている?」とか、思ってもらえるかも!?

各楽章のラストにある「空耳コラム」も愉快です。
第3楽章の「音楽評論家」だと、菜の花の場合は「つぶやきシロート」か
「ハズレ鳥」くらいかもしれません。
頑張ってクラ・オくんくらいにはなりたいところ?


ところでこれ、名は体を表していませんね。
タイトルは「大事典」ですが、事典形式ではありません。
うーん、騙された!?
でも初心者でちょっとクラシックのこと、知りたいな〜、
なんて方がいらしたら、大事典じゃないですけどこれはお勧めかも。
とっつきやすい入門書のひとつです。




テーマ : クラシック音楽
語り口 : ほぼ漫画形式
ジャンル : 教養
対 象 : クラシック初心者向け
雰囲気 : たのしい
イラスト : 吉松 隆
装 丁 : 芦澤 泰偉
本文レイアウト : 菊池 周二

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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326. 「人形は遠足で推理する」     我孫子 武丸
2006.12.27 長編 282P 480円 1991年4月角川書店
1995年7月発行
講談社文庫 ★★★★★
人形と内気な腹話術師のユーモア・ミステリ

【100字紹介】
 めぐみ幼稚園の先生・妹尾睦月が園児達と乗り込んだ遠足バス。
  拳銃を持った殺人事件の容疑者にバスジャックされた!?
  同行する内気な腹話術師と陽気な人形とともに
  犯人の容疑を晴らせるのか?ユーモアミステリ第2作 (100字)


我孫子武丸の「人形シリーズ」第2弾。
前作は連作短編集でしたが、今回は長編。

前作からの設定をそのまま受け継いでいて、
その説明に関して冗長には語られないので、
是非、前作を先に読了しておくことをお勧めします。
まあ、分からなくはないでしょうが、
楽しめる度合いがまったく違ってくるかと思います。

主人公は幼稚園の先生をしている妹尾睦月。
菜の花が読むミステリの中では比較的珍しい1人称の物語です。
やはり女の子が主人公だと恋愛がらみになるでしょう?
で、実際このシリーズにも主人公がいい感じ?になっている
おにーさんが登場します。腹話術師の朝永さん。
しかし、どうにも頼りないおにーさんです。
普通だったらこの朝永さんが、そうは見えないけど、
実は頭脳明晰の名探偵!なのでしょうけれど、
そうは問屋が卸さないのが我孫子流。
名探偵は、朝永さんでもまして主人公でもなく…人形。
朝永さんの人形が名探偵なのです。

しかもその設定が深い。
ただ単に、面白おかしく人形が探偵なのではないのです…。
ユーモラスでありながら、実は単なる表面だけの面白さではなく、
感動すら呼び起こせるというこのシリーズ。
その辺りの深ーいお話は、前作をご確認下さいまし。

さて、本作のことを。
今回は、タイトルどおり、遠足で事件が起こります。
幼稚園の遠足に、ひょんなことから同行することになった朝永さんと人形の鞠夫。
彼らと、幼稚園児を引率する主人公と同僚の先生、そして幼稚園児が、
バスに乗り込んだところを、何と拳銃を持った男が乗り込んできて…!
はい、バスジャックです。しかしこのバスジャック、何か様子がおかしい?
「俺は一体…どこ行きゃいいんだ?」
なんて自問するくらい…えぇぇ〜。何か頼りなーい犯人ですね。
しかし、何とこの犯人、実はとある事件の容疑者!?

妹尾睦月と朝永さん、そして鞠夫は、この容疑者の容疑を晴らすために、
バスジャック中の極限状態の中、安楽椅子探偵となります。
タイムリミットつきの安楽椅子探偵は、
果たして「安楽椅子」と言えるのかどうかは謎ですけど(苦笑)。
そういうところが新しいのかな、と思われます。
拳銃を振り回す犯人と同行するなんて、相当緊張感が保たれそうでしょう?

どきどきの展開、容疑者の言葉だけの情報で、
どこまで真相に迫れるでしょうか?
ミステリらしいミステリかもしれません。




菜の花の一押しキャラ…朝永 嘉夫 「お嬢さん、あなたはわたしの天使だ。ヴィーナスもその美をうらやみ、  戦神マルスも恐れをなして逃げ出すでしょう。」    (二宮和也) いや、マルスが逃げ出すのはどうかと思う…
主人公 : 妹尾 睦月
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般
雰囲気 : ユーモアミステリ
結 末 : ハッピーエンド
カバー装画 : 伊藤 正道
カバーデザイン : 蔵前 仁一
解 説 : 斉藤 肇

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+★★
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327. 「森博嗣のTOOL BOX」     森 博嗣
2006.12.31 エッセイ 206P 1500円 2005年10月発行 日経BP社 ★★★+
この道具、何だか分かります?写真エッセイ


【100字紹介】
 「日経パソコン」に2年間連載されたエッセイの書籍化。
  森博嗣の身近にある、古かったり懐かしかったりする道具達が
  写真を彩り、エッセイの中で輝く。
  道具は単なるツールに留まらず、人を変えることがよく分かる1冊


森博嗣の写真エッセイです。
といっても、今までの写真エッセイとは一味もふた味も違いますね。
写真自体は、森博嗣が自分でデジカメで撮影したもので、
これまでに出版されたものと同じですが、
映っているものが違う、エッセイの内容が違う。
そりゃ当然モノは違うのですけど…、いや、もう毛色が違う、というべきでしょう。

これまでの写真エッセイは、景色などを撮って、
詩的な文章または小説からの抜書きでしたが、
今回はタイトル通り「Tool」に焦点をしぼっています。
写真の主役は道具。
そしてエッセイもそれに関連したもの。
あるときはその道具にまつわる懐かしい思い出話。
またあるときは工作というもの一般に対する考えを語る…。
内容に定型がないから、飽きさせずに読まされます。

1つの道具につき大きな写真1枚。これを含んで4ページで1回分。
元々これは「日経パソコン」という雑誌で連載していたもので、
48回分を取りまとめて1冊にした本です。

取り上げられている道具は、ゴミ捨て場から拾ってきた古い道具、
今はもう使わなくなったが飾ってある道具、
今も良く使っている道具、むしろ道具で作ったもの…、など色々。
古いパソコンのディスプレイから、昔の映写機、何だか分からない機械、
天秤秤や黒電話、色鉛筆セットに工具箱の中身、万力、ノギス、
さらには車や、治作の飛行機模型、自宅の書斎…、
それは道具?と思うものもありますが、
読み進めているうちに「これもありかなー」という気分に。
つまりそれは、森博嗣のエッセイの世界に、
引き込まれるということかもしれません。




テーマ : 道具
語り口 : 4Pで1回
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 語り

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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