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(2006年10月…309-315) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年10月の総評
今月の読了冊数は7。
内訳は長・中編3冊、短編・連作短編3冊、教養書1冊。
コンプ計画中の著者の読了数は
森博嗣2冊と時雨沢恵一2冊、それに椹野道流の追加1冊。

2006年10月の菜の花的ベストは★4つ。

 「どきどきフェノメノン」      森 博嗣  (評点4.0)

久々に選べましたね、ベスト。
変わり者の大学院生たちが織り成す、
ちょっとミステリ風の恋愛小説です。
キャラ主導型のストーリー…というか、
そんないそうでいなさそうで微妙ーというキャラが、
もう好き放題、暴れているわね、という感じ…。
ちょっと院生生活に懐かしさを感じた菜の花でした。


以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「キノの旅[」           時雨沢 恵一 (評点3.5)
 「鳩笛草」             宮部 みゆき (評点3.5)
 「にゃんこ亭のレシピ3」      椹野 道流  (評点3.5)

「キノの旅VIII」は、時雨沢恵一のキノシリーズ第8巻。
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスと一緒に、
不思議な国々を旅していく連作短編集です。
以降のレギュラー・キャラが新登場する巻です。

「鳩笛草」は、宮部みゆきの短編集。
完全に独立した3つのお話ですが、
「超能力を持つゆえに悩む女性」というテーマが貫かれています。
”不在のヒロイン”などの巧みな演出のほか、
その後「クロスファイア」で登場した青木淳子のような
重要キャラクタが登場する、重要な短編集です。

「にゃんこ亭のレシピ3」は椹野道流のにゃんこ亭シリーズ第3巻。
不思議と共に生きる村を描くシリーズです。
第3作のお話は、豊かな秋の実りから新年まで。
サトル、将来について悩む!
ほのぼのとした平穏の中にある、ちょっとした事件とか波風とか、
比較的バランスのいい作品に仕上がっています。


 「θは遊んでくれたよ」       森 博嗣  (評点3.0)
 「キノの旅\」           時雨沢 恵一(評点3.0)
  
「θは遊んでくれたよ」は森博嗣のGシリーズ第2作。
身体のどこかに「θ」の文字をつけての飛び降り自殺が相次ぎます。
今回のゲスト・メイン・キャラは、西之園萌絵の旧友・医学部の反町愛。
シリーズを繋ぐ1作として読む必要があります。

「キノの旅IX」は、時雨沢恵一のキノシリーズ9巻。
上でもすでに登場していますが、
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスと一緒に、
不思議な国々を旅していく連作短編集です。
やや小粒の多い巻でした。謎も少し残っています。


 「洞窟探検入門」          ジッリ, E (評点2.0)

「洞窟探検入門」は、洞窟探検の方法と心得の、初心者向け入門書。
装備やテクニック、ウェブサイトなどを具体的に紹介しています。
ややマニアックですが、総合案内書、という雰囲気で、
とりあえずのとっかかりとして使うべき本でしょう。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








309. 「どきどきフェノメノン」     森 博嗣
2006.10.03 長編 356P 1600円 2005年4月発行 角川書店 ★★★★
変わり者の大学院生の、ミステリ風恋愛小説


【100字紹介】
 大学院博士課程在籍中の窪井佳那24歳。
  「どきどき」が大好きで、アルコールが入ると
  記憶を失うのが悩みの種。
  後輩の爽やか好青年と人形オタク、
  指導教官の助教授、謎の怪僧…
  佳那を取り巻く「どきどき」ストーリー


主人公は理系院生の女の子、憧れは指導教官の助教授。
いかにもいつもの設定ですね、森博嗣の定型。
ですが、大分いつもと違います。

まず、とても日常。
ミステリ風ですが殺人が起こるわけでもなく、ごく普通。
普通に研究室に行って、普通に学会の準備してて、
普通に実験してて、普通に下宿引き払った方がいいんじゃない?
くらいの徹夜して研究室に住み込んでいるみたいな変な後輩がいて。
ごく、普通。
いたいたいた、こんな後輩!って感じです。
実験データを間違えて同じMOに上書きしちゃったり、
なんてのも、よくあるよくある!
長く実験していると思考力が低下するらしく、
同じファイルに上書きしたり、コンピュータが止まって、
その日半日のデータが駄目になっちゃうようなことはよくやりました。
うーん、懐かしき思い出よ。

そして、本格的にラブストーリー入ってますね。
ミステリの皮をかぶった恋愛小説じゃなく、
恋愛小説のためのミステリ風味、という感覚がいい。
前者のときも、森博嗣を売り込む出版社は、勝手に
「本格ミステリ」と銘打って売ってくれるもので、
何だか無用なセット販売をされたみたいでちょっと菜の花は好みじゃありません。
ミステリを読みたいときは、ミステリに集中したいんだよ!みたいな。
しかしこれは最初からミステリを前面に押し出していないのでいいですね。

ただし、ミステリ色は勿論、ありますよ。「アルコールで記憶喪失」+
「主人公は性格的に、『覚えてません』なんて言い出せない」という設定ですから。
その上、とても「ありそうな」ミステリ。
殺人事件のミステリは、そうそう出会うものじゃないですが、
こういうミステリなら、ありうるかもね?と。
そういうの、読者は結構好きですね。
非日常を楽しめるのがフィクションのいいところですが、
たまには日常にリンクしそうな作品も読みたくなるわけです。

出てくるキャラは…ありそうでなさそうな…。
やたら爽やか好青年な後輩の鷹野君。
こんな爽やかな理系院生は果たして存在するのか!?
というくらい、一般人な雰囲気です。
人形オタクという致命的!?な特性をもちますが、
思いっきり院生っぽい、理屈っぽさと賢さを兼ね備えた変人の水谷君。
森博嗣作品ではとってもありがちな、ちょっとぼーっとした感じの
指導教官で助教授の相澤先生。
こんなの絶対、身近に沢山はいないだろ!という
謎満載な怪僧の武蔵坊。このキャラに類する人に、
少なくとも菜の花の人生で出会ったことはないです。
深夜に犬の銅像を磨く謎の人、というのもいました。
何だそりゃ!このキャラにも菜の花、出会ったことないですよ!
しかし、主人公の友人の藤木さんのような恋愛大好き!な
雰囲気の女の子ならありそう。いそうですね、この人なら。

そんないそうでいなさそうで微妙ーというキャラが活躍するお話。
ストーリーは全体に、キャラ主導型でしょうか。

ちょっと大人、でもやっぱり学生のラブストーリー。



菜の花の一押しキャラ…鷹野 「とにかく、そんなことはどうだっていい。  私はね、お前の根性が気に入らないの。   いいから、大人しく殴られなさい。」   (窪井 佳那)
主人公 : 窪井 佳那
語り口 : 3人称
ジャンル : 恋愛小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 理系院生の日常
結 末 : ハッピーエンド
装画 : 菅野裕美
装丁 : 鈴木成一デザイン室

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
310. 「洞窟探検入門」     エリック・ジッリ著、本多力訳
2006.10.09 教養 170P 951円 2003年2月発行 白水社 ★★★★★
洞窟探検の方法と心得の、初心者向け入門書


【100字紹介】
 スポーツのための洞窟探検(ケイビング)を楽しむために、
  その方法と心得を分かりやすく解説した入門ハンドブック。
  装備やテクニック、ウェブサイトなどを具体的に紹介。
  図版も多く、最初の1冊目としては入りやすい


--オリジナル・データ-------------------
Eric Gilli, L'exploration spelelogique et ses technique, 1998
(Collection QUE SAIS-JE? No 3362
Original Copyright by Presses Universitaires de France, Paris
---------------------------------------
(ただしアクサンテギュが表示できない環境であるため、その文字はeで代用した)


翻訳ものの入門書。
これ一冊で万事OKというタイプではなく、
どちらかというととりあえずのとっかかりという感じでしょうか。
いや、ある程度分かっている人にとっては、要点をまとめた
ハンドブック的存在かもしれませんが。
超初心者菜の花には「とりあえず雰囲気をつかめ」というように
感じられました。初心者向けに書かれているようですが、
正直、分からないことが多いです。
でも何となく雰囲気はつかめるかな…。
著者の真の狙いは謎ですが、まあそれでも入門書の役割は
十分果たしていると考えてもよさそうです。

大変細かい項目も多いですね。
例えば「第二章 装備」は

T はじめに
U 照明
V ヘルメット
W 衣服
X はきもの

なんて項目立てになっています。ほんとに細かい!
そして丁寧。照明の項目では、歴史的にどういう照明が使われてきたか?
というようなことが書いてあったりするわけです。
はー、なるほどねー、という感じですが、
結局のところ、この本を読んだからと言って、
いきなり洞窟探検に単独で行けたりはしないわけです。
でもそれは当然ですよね。
洞窟は危ない。そういうことが本書のあちこちで警告されているわけです。
こういう危険がある、こういうものでこんなことも…と。
初心者がいきなり誰の助けも借りずに行けるところではないよ、
ちゃんと熟練者と一緒に学んで行きましょうね、という主張が、
明言されているわけではないですが全体から滲み出ているような。
それを納得することが出来る「入門書」でした。
何しろ、フランスでは「洞窟探検学校」という専門の学校があるようですよ!
凄いですねー。

そして洞窟探検のポイントポイントは押さえられている、
のだと恐らく思います、ええ。したことないので思うだけですが。

内容は興味がある人にはこの世界を垣間見る、よい教科書かも。
ただし、やや邦訳が読みづらい感じがします。
と言って、原著のフランス語を読むのはもっと無理ですけど!

ウェブサイトなどのURLも多く挙げられていますので、
これから、という人にはかなりいいとっかかりになるでしょう。
ちょっとマニアックすぎるので、★は2つくらいで…。



テーマ : ケイビング
語り口 : 説明
ジャンル : 一般教養
対 象 : 興味のある人向け
雰囲気 : 最初のとっかかり

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
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311. 「キノの旅[」     時雨沢 恵一
2006.10.11 連作短編 254P 550円 2004年10月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★+
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第8作。
  国を巡ることは人を知ること。
  人間とそして世界の、美しさも醜さも。
 沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
  


●収録作品●
--------------------------------------------
口 絵 道の国 ―Go West!―
口 絵 悪いことはできない国 ―Black box―
プロローグ 渚にて 旅の始まりと終わり・b ―On the beach・b―
第一話 歴史のある国 ―Don't Look Back!―
第二話 愛のある話 ―Dinner Party―
第三話 ラジオな国 ―Entertainer―
第四話 救われた国 ―Confession―
エピローグ 船の国 ―On the beach・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第8作です。
いつも通り100字紹介は超手抜きで、またまた前と同じです。
この文章すらいつもと同じ。

内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言で大体を言い尽くしています。
大体、というのはつまり、それ以外の話もあるということですが。
キノだけじゃなく、キノのお師匠&その弟子の話(人間&人間)と、
シズ&陸(人間&しゃべる犬)という組み合わせもあって、
これらが微妙にリンクしたりします。
そもそも「言葉を話す二輪車、犬」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

さて、今回もあとがき、やってくれました。
毎回、楽しみにしているのは、きっと菜の花だけではないはず…。
雷撃文庫、読んでみたいー!というか、何という凝ったあとがき…。
もしやこれは、本編の1作を書くより時間をかけていやしまいか?
と一瞬、いや、思いっきり今でも疑っている菜の花です。

前作の第7作では、「今回六話しかないんだ、少ないなー…」と思いきや、
エピローグより短い第三話。。。と思っていたら!
今回は更にそれに磨きがかかっている…かも。
エピローグが長いです!どれくらい長いかって…、
えっと、他のすべての話を全部足したのよりも。
つまり過半数がエピローグに属するページとなりますね、
うーん、恐るべし!しかも主人公が…。

内容は勿論、いつも通りといえばいつも通りでしたが、
主人公はキノ&エルメスだったり、シズ&陸だったり、
または師匠&ちょっと背の低いハンサム男だったり。
師匠のお話は今回、完全にキノと繋がります。
どちらかというと、ちょっとキノの影の薄い巻でした。
その意味ではやや異色作っぽい感じ?
しかし…、次回作がめちゃくちゃ楽しみな気がするのは何故でしょう。
凄く怖いような気もしますが…。
きっと次回は、キノが大活躍してくれるでしょう!
…と信じているのですが。。。

でも確かに、感情の起伏があって…とかそういうことを考えると、
シズ&陸の方が少年漫画系主人公キャラっぽいですよねー、
ヴィジュアル的にはキノ&エルメスの方がそれっぽいのに。


菜の花的今回のイチオシは、第3話「ラジオの国」。
第2作の「第四話 自由報道の国」と通じるものがあるかも
しれませんが、最後の1Pがついた分が、
前回よりも「うわ、やったな!」という感じがありました。
うーん、巧い。
やはり、連作短編なので8冊も出てくると、
同じようなテーマのものがどうしても出てきます。
でも、それを前回よりいい形で発展させていっているようで、
とても好ましく感じますね。
きっとまだまだ伸びるのでしょう、この著者は。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「シズ様、私はどうしたらよいでしょうか?」  「すまないがしばらく濡れてくれ」(陸&シズ)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
312. 「鳩笛草」     宮部みゆき
2006.10.13 短編集 364P 590円 1995年9月光文社
2000年4月発行
光文社文庫 ★★★+
超能力を持つゆえに悩む女性の、3つの物語

【100字紹介】
 幼い頃に亡くした両親の不可解な遺品に悩む麻生智子。
  高校生の妹を殺害された兄に代わって報復の協力を申し出た青木淳子。
  他人の心を読むことのできる女性刑事・本田貴子。
  超能力にまつわる3人の女性の、3つの物語 (100字)


●収録作品●
-------------------------------
● 朽ちてゆくまで
● 燔祭
● 鳩笛草
-------------------------------


宮部みゆきの現代超能力ものです。形式はミステリ。
メインテーマは「超能力のせいで悩む女性」でしょうか。

昔よくある超能力者ものは、その力をプラスに考えて
使いこなす系統のものが多かった気がしますが、
宮部みゆきをはじめ、最近の小説・アニメ・映画などでは
超能力がマイナスイメージで捉えられ、苦悩する系統のものが多いような。

まあ、最近の作品に「普通と違う=マイナス」が多いというのは世相かもしれません。
何故か、普通から外れるのが苦手な現代日本人。
日本人は元々そういう気質なのかもしれませんが、
昔だったら自分が普通から離れるのは苦手でも、
「普通から外れた『英雄』」というのは許容されていたように思うのですよね。
最近は、英雄すら「等身大」が求められている気さえします。
普通から外れてしまった時点で、何故か批判の矢面に立たされる。
いや、不思議ですけれど、わあ、凄いねえ、という意見しかない人って、
殆どいないと思うのですよ。必ず批判者が出る。
昔もそうだったけれど、情報流通がマルチではなかったから、
ひとつの大きな意見のみが流布していただけかもしませんが。

と、いうわけで、前置きが長くなりましたが、
超能力で苦悩する女性の3つの物語です。
持っている能力は様々で、リーディング能力だったり、
パイロキネシスだったり、予知能力だったり。
このうちの青木淳子に関しては、のちに別作「クロスファイア」で再登場です。
今回は主人公を別の人に譲っての登場。
その出演方法(?)は、既作「火車」を髣髴とさせるものでした。
いわゆる「不在のヒロイン」ですね。
この「燔祭」では、青木淳子以外にも
雪江というもう一人の「不在のヒロイン」が存在していて、
ダブル・ヒロインが主人公・多田一樹の回想の中でサンドウィッチにされて現れます。
殆どが回想に終始していますが、2人のヒロインを巡る2種類の回想が混在し、
構成としてはやや複雑でしょうか。ページ以上のボリュームを感じました。
ただ少し、冗長という気がしなくもないですね。
ストーリテリングが巧みな宮部みゆきだからこそ、読ませられますけど、
他の著者がこれを描いたら、途中で投げ出してしまうかもしれません。

「朽ちてゆくまで」は、冒頭で祖母を亡くして同居の家族を失った主人公が、
相続税などのいかにも現実的な問題に直面しながら、
幼い頃に亡くした両親の遺品から不可思議なものを発見し、
やや非現実的な問題にもぶつかるという、
現実と非現実の世界が組み合わさり、絡み合いながら迫ってくる作品。

「鳩笛草」は珍しく、刑事が主人公の物語です。
これも「朽ちてゆくまで」と同様、主人公は現実的な刑事のお仕事=事件と、
非現実的な自身の超能力に関する不安と闘っていく構成。
特に後者が、非常な勢いで差し迫ってくる感じが、
重苦しくもあり、早く早く前へ!という切迫した雰囲気です。
そう、このどきどき感というのは作品として大事だよねーと。
でもちょっと苦しいかも。周りのキャラが明るいところが、救いです。
これで「朽ちてゆくまで」の麻生智子のような環境だったら、
かなり耐えられないかもしれません。
ラストは、何となく淋しいながらも宮部みゆきらしい、終わり方。
3作品とも、「苦悩」がテーマのため、
辛い、とか苦しい、とかそういう気持ちが詰まっていますが、
ラストはどれも、どん底では終わらないところが、
宮部みゆきらしくて菜の花は好きです。やはり物語の基本はハッピーエンド。




菜の花の一押しキャラ…須藤 逸子 「困るなあ。なんたってオレは、老後はポンちゃんと  ゲートボールをやろうと決めているんだから」   大木 明男
主人公 : 麻生智子、多田一樹、本多貴子
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 超能力物
解 説 : 大森 望

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOPへ
313. 「θは遊んでくれたよ」     森 博嗣
2006.10.20 長編 298P 900円 2005年5月発行 講談社ノベルス ★★★★★
Gシリーズ第2作。θの印の連続自殺の謎!


【100字紹介】
 飛び降り自殺とされた男性遺体の額には「θ」が描かれていた。
  さらにその後も同じマークの飛び降り遺体が次々と…。
  自殺?連続殺人?θとは?
  旧友・反町愛から事件の情報を得た西之園萌絵らが
  事件を推理する第3作 (100字)


「Φは壊れたね」に続き、ギリシア文字がタイトルに入る
「Gシリーズ」の第2作です。

S&Mシリーズで登場していた、西之園萌絵の旧友、
医学部の反町愛が今回のゲスト・メイン・キャラでしょうか。

S&Mシリーズでは比較的はっきり主人公が分かりました。
Vシリーズでは、メイン4人が中心、という主人公グループがいました。
Gシリーズでは、メインが持ち回りなのか!?という感じ。
第1作ではC大学の院生の山吹君がメインでしたが、
今回はN大学医学部の反町さんが比較的メインかな。
でも主人公と言うほどでもないのですが…。
加部谷&西之園も主人公としてあげられそうですし。
どんどん視点が変わるので、特に主人公という概念はないのかも。
まあ現実世界でも勿論、その個々人が、人生の主人公なわけで、
そういう概念は別に奇妙でもなんでもなく、ごく自然でしょう。
犀川せんせが、ちょっとだけ顔出しというのも前作と同じ。
もう表舞台には戻ってこないつもりでしょうか?
でもすっかりふつーの人っぽくなってしまって、
嬉しいような、ちょっとがっかりなような。
萌絵に負けるな!頑張れ、犀川せんせ!

本作はこれまでとはちょっと違う特徴がありました。
密室もののイメージがばっちりついたS&Mシリーズに続き、
Gシリーズ第1作「Φは壊れたね」も密室ものを踏襲しました。
が!本作はどれもが「飛び降り」。
確かに第1の事件はマンション自室のベランダから飛び降りたと見られ、
この自室には鍵がかかっていて、密室ではあったのですが、
それについてはあまり議論は盛り上がらず。
以降の事件も、密室もどきではありますが、
必ずしもそうとは限らない、つまり抜け穴だらけの密室。
思いっきり毛色が違う事件です。

どの遺体も、額や手のひらなどに「θ」のマークが描かれている…、
という共通点があった、というのも、いかにも受けそうな。
そう、ミステリ好きの心をくすぐるような設定。
自殺か、他殺か?シリアルキラーか?
「θ」は赤い口紅で描かれていました。
ここで事件のキーポイントとなるのが反町愛。
彼女はこの口紅の成分分析をするという役割を担っていたのです。
楽しいじゃないですかー。

そしてもうひとつ。
変な探偵(この人、もしかしてVシリーズに出てきた人だっけ?)が、
何か調査していました。彼の調査の結果、さらりと出てきたあの名前。
別シリーズとの繋がりを示唆するものでした。
何か大きな力が、このシリーズと他のシリーズを繋いでいるのか…?
前作の事件との関連は…?

期待は高まったのですが、
うーん、最後にたどり着いてみると、ややがっかりかな。
思ったほど、愉しくなかったな、という読後感。
でも途中は楽しめたので評価は★3つにしておきます。
次作に期待。




菜の花の一押しキャラ…国枝 桃子 「あ、えっと…、あのね。困ったなぁ。とにかく、そこからすぐに下りなさい。  えっと、下りるって、その、階段かエレベータを使ってだよ」        (犀川 創平)
主人公 : 反町 愛、加部谷 恵美他
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 森博嗣らしい
結 末 : 決着、ただし少し続く感
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津典之
カバーデザイン : 坂野 公一(welle disign)
フォントディレクション : 紺野 慎一(凸版印刷)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独自性 : ★★+★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
314. 「にゃんこ亭のレシピ3」     椹野 道流
2006.10.25 中編 222P 600円 2006年6月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★+
不思議と共に生きる村を描くシリーズ第3弾

【100字紹介】
 妖しが当たり前に生きている不思議な銀杏村で、
 レストランを営むゴータ。パティシエのサトル、
 神様の子供のコギと共にある穏やかな日々。
  今回は銀杏村の豊かな秋の実り、嵐の夜、
  そして1年の終わりと始まりを描く。 (100字)


今回もタイトルを見れば明らかすぎる通り、シリーズ第3作です。

「にゃんこ亭のレシピ」で銀杏村に移り住んできたシェフのゴータ、
ゴータのレストランに転がり込んできた優秀なパティシエのサトル、
そして彼らの住む銀杏村の神様・おきつね様の子供のコギ。
この3人があったかい「家族」として、ほのぼのと暮らす日々の物語。
前作でも色々と世話を焼いてくれた隣人の
スエ・サツオ・フデコ一家も、和尚の朗唱さんも、
銀杏村の住民はみんな揃って、温かいイメージです。
とにかく、全編を通して、「のんびり、ゆったり、まったり」。
そんな物語。

第3作のお話は、豊かな秋の実りから新年まで。
前作で田植えをしたあの稲が!ついに収穫の時季を迎えたり、
小さな頃の思い出話も楽しい、芋掘り行事があったり、
秋にはつきものの台風が来てみたり…。
そしてついでに登場するもうひとつの「嵐」とは!?
サトル、将来について悩む!
そしてクリスマスのディナーのひとときや、年末の大掃除、
年越し、そして新年の集まり。盛りだくさんの秋冬編!です。

今回のレシピは
「秋の恵み!スイートポテト」
「フデコさん手作りのすいとん」
「フライパンで作れる、簡単和風ローストビーフ」。
となっております。
ああっ、美味しそう。


起伏はそれほどありませんが、第2作よりはずいぶん見せ場?というか
盛り上がりが多い気がします。
ほのぼのとした平穏の中にある、ちょっとした事件とか波風とか、
比較的バランスのいい作品に仕上がっているかも。

まったりと読みたい方にお薦めのシリーズ。
ただし是非、前作から先にお読み下さいますように。
ストーリー漫画的であって、巻をひっくり返すと
事情が分からないところが多々ありますので。





菜の花の一押しキャラ…ゴータ 「…わお。やけに美しいコメントだな、それ!」(サトル)
主人公 : ゴータ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : ほのぼの
イラストレーション : 山田ユギ
デザイン : Plumage Design Office
料理イラスト : ひろいれいこ

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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315. 「キノの旅\」     時雨沢 恵一
2006.10.27 連作短編 262P 570円 2005年10月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第9作。
  国を巡ることは人を知ること。
  人間とそして世界の、美しさも醜さも。
 沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
  


●収録作品●
--------------------------------------------
口 絵 なってない人達 ―Traveler's Tale―
口 絵 城壁の話 ―Sweet Home―
プロローグ 悲しみの中で・b ―Yearning・b―
第一話 記録の国 ―His Record―
第二話 いい人達の夕べ ―Innocence―
第三話 作家の旅 ―Editor's Travels―
第四話 電波の国 ―Not Guilty―
第五話 日記の国 ―Histories―
第六話 自然保護の国 ―Let It Be!―
第七話 商人の国 ―Professionals―
第八話 殺す国 ―Clearance―
第九話 続・戦車の話 ―Spiritt―
第十話 むかしの話 ―Tea Talks―
第十一話 説得力U ―Persuader U―
エピローグ 悲しみの中で・a ―Yearning・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第9作。
いつも通り100字紹介は超手抜きで、前作と同じ。

内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言で大体を言い尽くしています。
大体、というのはつまり、それ以外の話もあるということですが。
キノだけじゃなく、キノのお師匠&その弟子の話(人間&人間)と、
シズ&陸(人間&しゃべる犬)という組み合わせもあって、
これらが微妙にリンクしたりします。
そもそも「言葉を話す二輪車、犬」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

時雨沢恵一といえば!もはやこれを最初に語らねばならない!
というパートがあります。そう、もちろん「あとがき」。
あとがきを書くために作家デビューしたという(!?)この著者、
今回も意表をついて…なにっ…。この真相(?)は読んでからのお楽しみ…。
このあとがきは意表をつきますが、静かなる驚き。
ちょっと物足りない!とすら思うかも!?
これを補完する「うらがき」。何とカバーの裏に「うらがき」があります。
しかし菜の花の読んでいるのは公共図書館で借りた本。
図書館ではカバーがないか、あってもしっかり貼り付けてあります。
ああっ、読めないじゃないか!…と思いきや、安心。
「カバー裏のあとがきは、本の最後に添付してあります。」
何て気が利くんだ!裏表紙をめくってみると、たしかにコピーが1枚、
折りたたまれて貼り付けてあります。
うーん、しかし凄い内容です。キノもシズさまも、キャラが…。
さすがあとがき。あとがきでしかできないこの同人誌並みのノリ。

本編ですが。うーん、小粒が多かったかな。
第九話「続・戦車の話」はタイトルどおりの続編。
どの巻だったか、既出の巻の口絵にあった「戦車の話」の続きです。
子供の無邪気さが…ちょっと無邪気すぎですが…この無邪気さは
「キノ」シリーズでは他にあまりないから、異色作?かも。
第十話は、時代や語り手に「謎」が残りますが、
これはそのうち明かされていくのかもしれません。

次作に期待。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「今、体が思うようにならないのはどうしようもありません。  何か楽しいことでも考えることですね」          (師匠) 言われた人が考えたのは「新型ライフル発売…命中精度抜群…装弾不良なし…」でした。
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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