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(2006年9月…300-308) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年9月の総評
今月の読了冊数は9。
でも長編は僅か1冊、中短編・連作短編7冊、エッセイ1冊でした。
またも短めで読みやすい系が多かったのですね。
コンプ計画中の著者の読了数は
森博嗣2冊と時雨沢恵一3冊、それに高里椎奈の追加1冊。

2006年9月の菜の花的ベストは…先月に引き続きまたも該当なし。うーん。
以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「淋しい狩人」           宮部 みゆき(評点3.5)
 「殺人方程式」           綾辻行人  (評点3.5)
 「深山木薬店説話集 薬屋探偵妖綺談」高里 椎奈 (評点3.5)
 「ミニチュア庭園鉄道3」      森 博嗣  (評点3.5)

「淋しい狩人」は、宮部みゆきの連作短編集。
「町の古本屋さん」の祖父と孫が繰り広げる淡々とした日常の中に、
殺人事件あり、未遂事件ありのかなりハードな非日常が登場するのに…、
何故か全体はまあるい作風。とっても著者らしい、
時に淋しくて、そして何より微笑ましい物語です。

「殺人方程式」は綾辻行人の「新本格」ミステリ。
もうばりばりのミステリです。このホワイダニットが描きたい・読みたい!
リアリティなんて関係ない!…というのが真のミステリマニアかも?
事件の主役は某新興宗教。現代的な、でも古きよき時代の推理小説。

「深山木薬店説話集」は高里椎奈の薬屋さんシリーズ番外短編集。
本編と関連深いお話を、著者曰く
「嬉しいと、楽しいと、娯楽魂を詰め込みました。」な作品です。
少しだけ語られるその後は、次への期待を含んだ素敵なお話でした。

「ミニチュア庭園鉄道3」はサイト公開された
森博嗣宅庭園鉄道レポート第3弾。
今回は1冊殆どが「庭園大工事」で覆われていて、
弁天ヶ丘線は大リニューアルされます。ちなみに完結編。
(何を持って完結というかは謎。)


 「古本屋探偵の事件簿」       紀田 順一郎(評点3.0)
 「キノの旅V」           時雨沢 恵一(評点3.0)
 「キノの旅VI」           時雨沢 恵一(評点3.0)
 「キノの旅VII」          時雨沢 恵一(評点3.0)
  
「古本屋探偵の事件簿」は紀田順一郎のミステリ。
神田神保町の古書店「書肆・蔵書一代」店主・須藤康平が、
本を探す探偵をしているのですが、鬼気迫る恐ろしい愛書家たちによって、
気付くと奇妙な事件に巻き込まれているというお話。
愛書家の描写に関しては、きっと他の追随を許さない一品。

「キノの旅V〜VII」は、時雨沢恵一のキノシリーズ5−7巻。
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスと一緒に、
不思議な国々を旅していく連作短編集です。
あいかわらず、あとがきは変。


 「アイソパラメトリック」      森 博嗣   (評点2.5)

「アイソパラメトリック」は1話が僅か1Pのショートショート&写真集。
勿論、写真撮影も森博嗣本人です。
「パソコンのディスプレイをスクロールしないで済む長さ」というコンセプトで
書かれた40ものお話、あなたはどれがお気に入りになるでしょうか?


以上、今月の読書の俯瞰でした。








300. 「古本屋探偵の事件簿」     紀田 順一郎
2006.09.08 長短編 662P 930円 1991年7月発行 創元推理文庫 ★★★★★
主人公は神保町の古本屋店主!書痴ミステリ


【100字紹介】
 神田神保町の古書店「書肆・蔵書一代」店主
  須藤康平が出した「本の探偵―何でも見つけます」
  という広告にひかれ、奇妙な事件が舞い込んでくる!
  幻の古書、鬼気迫る愛書家たち…
  マニアックな古書の世界を描くミステリ (100字)


●収録作品●
-----------------------------------------
・殺意の収集
・書鬼
・無用の人
・夜の蔵書家
・解説対談(紀田順一郎、瀬戸川猛資)
-----------------------------------------


ぶ…分厚い…!
…と思ったら、前二話は「古本屋探偵登場」と全く同じでした。
な、なんだ。。。それなら「古本屋探偵登場」は別に借りなくても
これ1冊借りておけばよかったのか。ほっとしたような、がっかりしたような。

さて、この作品について一言で言うなら…、
そう、マニアック。それにつきますね。
菜の花って結構、本読むの好きな人であるわけです。
本自体も好きですよ。ぼろぼろになってたりしたら、
修理してあげなくちゃ!とか思いますよ。
でもね、愛書家ではないんだな、と思い知らされる、そんな作品です。
世の中にはこんな人がいるのね、と。
いや、もしかしたら創作かもしれませんけど、
でもかなり鬼気迫るというか(笑)、
それよりも何よりも「こういう世界を書ける人」の存在が
まず「うわあ、こんな世界あり!?」って感じですね。
さすが、きだじゅんいちろー!というか…。

そういえば紀田順一郎氏、先週初めて顔写真みました。
JapanKnowledgeという有料データベースがあるんですが、
(日本大百科全書?とか、imidasとか色々な事・辞典類が
 一挙に引けちゃう超すぐれもので菜の花愛用のDB)
これの推薦文だか何かに載っていました。
そう、そういうところで名前が出て「をを〜」となるような
人物なわけですね、紀田氏は。凄いねえ。
…って、全然本の感想になってませんね。
少しは作品について書こうではないですか。


4編のうち、前2編は「古本屋探偵登場」とまったく同じものでしたので省略。
あとの2編「無用の人」は中編、「夜の蔵書家」は長編です。
短編+中編+長編ですから、そりゃ厚くもなるわ!

「夜の蔵書家」はもう、タイトル通り収集される本がいわゆる
「好色本」というやつです。「無用の人」の方も右に同じ。
でも話は別につやっぽくないですが。
「夜の蔵書家」は、思いっきり、ミステリを意識したミステリです。
まず、細かい。謎らしい謎があって、好きな人ははまりそう。
製作過程が恐らくプロット立てて…というタイプではなく、
前から順番に書いていったんだろうな、と思われます。
構造上の雰囲気は、内田康夫作品なんかがかなり近いかと。
ただ、ちょっと不自然なところもちらほら。
ここで明かしては面白くない、という感じで、
本来その時点で追求すべきことがうやむやにされているように感じますね。

「無用の人」だって、ミステリらしくない、というわけではありません。
やっぱりどんでん返しを頑張っているなーと思えるかと。

全体に、ちょっと武骨かなー、という気もしました。
ごりごりのミステリってやつですか?
そして、超がつくほどのマニアックな書痴が山ほど…。
凄く、読者を選びそうな作品です。
ただし愛書家の描写に関しては、きっと他の追随を許さない一品。



主人公 : 須藤 康平
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 本好き〜一般向け
雰囲気 : マニアック
結 末 : すべて一話完結
カバーイラスト : 橋本 康文
カバーデザイン : 矢島 高光

文章・描写 : ★★+★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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301. 「キノの旅X」     時雨沢 恵一
2006.09.09 連作短編 232P 510円 2002年1月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第5作。
  国を巡ることは人を知ること。
  人間とそして世界の、美しさも醜さも。
 沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
  


●収録作品●
--------------------------------------------
プロローグ 夕日の中で・b ―Will・b―
第一話 あの時のこと ―Blue Rose―
第二話 人を殺すことができる国 ―Jungle's Rule―
第三話 店の話 ―For Sale―
第四話 英雄達の国 ―No Hero―
第五話 英雄達の国 ―Seve Heroes―
第六話 のどかな国 ―Jog Trot―
第七話 予言の国 ―We NO the Future.―
第八話 用心棒 ―Stand-bys―
第九話 塩の平原の話 ―Family Buisiness―
第十話 病気の国 ―Fou You―
エピローグ 夕日の中で・a ―Will・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第5作です。
100字紹介は超手抜きで、第4作と同じです。えへへ。
だって続き物だもーん。省エネなんだもーん。
次のパラグラフも第4作と同じ…。

内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言ですべてを言い尽くしています。
そもそも「言葉を話す二輪車」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

さて、ここまでの4作品と同様本作も、
淡々と冷静に世界を描き続けています。
少し違いが出てきたといえば、「救いのなさ」というか、
世界の矛盾への厳しいまなざしが、より冷徹な感じになってきた、
という感じがしますね。何故、そこまで…というような。
これまでは、世界に隙間にあった小さな矛盾を拾い上げて、
強調して表現するようなものが多かったのですが、
本作はどちらかというと、矛盾をはらんだ世界自体を
作り出しているように思います。
まあ、これまでもそうだといえばそうなんですけど。
でも何となく、質的に違う気がする!と。
「気がする!」ってだけじゃ全然、人に伝えるには不十分な表現だと
重々承知の上なのですが。自分の表現力不足に落胆↓。

第四話・第五話は同じ和名タイトルがついていますが
(でも英名が違うんですよー、要チェック!)、セットのお話。
はあ、なるほどー、と。
第四話は前作「キノの旅W」の第九話と同様の話かな。
きっと著者はバトルシーンが書きたかったと…。

今回の中では「第二話 人を殺すことができる国」が
まとまりもあったし、緊張感と驚きもあったし、
菜の花的にはお気に入りの作品でした。
最後の旅人の疑問が笑えます。


ところでこの作品のあとがきは、毎回「何ぃ!?」と
本編以上に驚かせてくれますが、今回はあとがきですらなくなりました…。
ネタばれは一切ないあとがきなので、これだけ読むのもありです。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「これで下手だったら、まったくかっこつかないねえ」(エルメス)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
302. 「淋しい狩人」     宮部みゆき
2006.09.10 連作短編 330P 514円 1993年10月新潮社
1997年12月発行
新潮文庫 ★★★+
古本屋の祖父と孫が繰り広げる日常と推理!

【100字紹介】
 東京下町の田辺書店は、店主のイワさんと
  孫の稔で切り盛りする「娯楽のための古本」のお店。
  父親の遺品から出てきた数百冊の同じ本、
  OLが電車で手にした本から出てきた名刺。
  本をきっかけに起こる謎を解いていく! (100字)


●収録作品●
-------------------------------
● 六月は名ばかりの月
● 黙って逝った
● 詫びない年月
● うそつき喇叭
● 歪んだ鏡
● 淋しい狩人
-------------------------------

紀田順一郎氏の「古本屋探偵」を読んだあとに、これ。
どちらも同じように「古本屋さん」が探偵になる話ですが、
ここまでカラーが違うとは!と、驚きを隠せない菜の花です。
まあ、そりゃそうでしょうけど。まず、扱っている本が違う。
「古本屋探偵」の「書肆・蔵書一代」はいわゆる古書店で、
稀覯本を中心に話が展開していましたが、本作の主人公たちの「田辺書店」は
「娯楽のための古本」をターゲットにした庶民派の「町の古本屋」さん。
全然世界が違うというわけです。うーん、本って面白いですね。
色々な本があって、色々な顔を見せてくれて。

しかし、いつもながら、まあるい作風です。
そう、まるい。まろい、とも言える。
でも内容は決して、血腥くないとは言い切れないのです。
そう、殺人事件あり、未遂事件ありのミステリらしい事件も満載。
にも関わらず、キャラたちはゆったりと、淡々と、生きています。
日常の中に事件は食い込んで、溶け込んでいくのです。
身近で、必ずしも命の危険があるわけでない事項が
少し離れたところで起きている殺人事件よりも
当人達にとっては重要ごとであったり。
そういうところが、とても納得。
全体に漂う雰囲気は、やわらかくてあたたかい。
これこそ宮部みゆき的。

主人公・イワさんと孫のやりとりや関係も楽しく、
時に淋しくて、そして何より微笑ましい。
十分に歳を重ねたイワさんは、ちょっと素敵なおじいさんです。
息子とそのお嫁さんとの関係も、くすっと笑える?
平坦だけど、平坦じゃないその関係の変化もよいですね。
ただ、事件の中での起伏が、やや小さいかなーと。
インパクトには欠けるかもしれません。
ばーっと派手な物語が好きな方には向かないかも?

ちょっと休憩するときに、ほっと一息して
でも少し緊張感も持って読みたいミステリです。




菜の花の一押しキャラ…岩永 幸吉 (なるほど)                               (こういうところで笑うには、うちの倅や嫁じゃ、まだまだ修行が足りんわな) (岩永 幸吉) 年の功。
主人公 : 岩永 幸吉
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : まるい
解 説 : 大森 望

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOPへ
303. 「アイソパラメトリック」     森 博嗣
2006.09.13 短編集 96P -円 2001年11月発行 講談社 ★★+★★
1話が僅か1Pのショートショート&写真集


【100字紹介】
 「パソコンのディスプレイをスクロールしないで済む長さ」の
  超短編40編を収録。それぞれが1Pに収まり、
 同じく1Pの写真を添えた見開き2Pで完結する物語。
  最終章は「森都馬の日常」と題した愛犬トーマの写真集 (100字)


何とも読みにくい本もあったものだ!…と思わず愚痴りたい作品ですよぅ。
読みづらい文章が書いてあるわけでもなく、
読めないフォントで書かれているわけでもなく、
作りがですね、読みにくい!
上下に開くのです、この本。本文を横書きにして、
横長の写真を巧く上に配置するための工夫だと思うのですが。
普通の書見台でまず読めない。
しかも印刷もかなり本の「のど」(見開いたときの真ん中ですね)の方に、
ぎりぎりまで印刷されているので、上のページの最終行(写真キャプション)と、
本文の先頭行が読みづらい…!

森博嗣氏はエッセイや日記本でよく「横書きに慣れているから
縦書きに出版されるのが違和感」というようなことを
発言されていらっしゃいますが…。
横書きは菜の花も別に教科書等で読みなれているから構いませんけど、
本自体がこの形は、本気で読みづらいです。

ただし以降、このタイプの本を出版していないところを見ると、
やっぱり「これはちょっと…」という意見があったのかな、と…。


と、それは外側の話であって、中身には無関係ですが。
写真は、いつもの森博嗣氏の写真集
(「君の夢 僕の思考」「議論の余地しかない」など)と
さして変わらない感じかな。技術的なことはともかく、視点は面白いです。
それほどインパクトがあるわけではないですが、
本作の場合は、写真が主人公じゃないですからそれでよいわけですね。

本文は、玉石混淆といったところでしょうか。
面白いものもあり、意味不明なものもあり。
40もあれば、そうなることでしょう。
正統派あり、SFチックなものあり、理屈だらけのものあり。
当然森博嗣らしいものが多いですが、たまに「あれ?」という意外なものも。
とにかく短いから色々なカラーが楽しめますね。

菜の花的お気に入りは「読書」かな。
そんな馬鹿な!な設定ですが、最後の一言で落とします。



主人公 : -
語り口 : 3人称
ジャンル : 超短編
対 象 : ファン〜一般向け
雰囲気 : 森博嗣的ポップ
結 末 : 1話完結
カバー・本文イラスト : 山下 和美
カバー・本文デザイン : 鈴木成一デザイン室
ブックデザイン : 高橋 雅之

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
304. 「殺人方程式 切断された死体の問題」     綾辻 行人
2006.09.15 長編 408P 620円 1989年5月カッパノベルス
1994年2月発行
光文社文庫 ★★★+
首無死体…何故犯人は死体を切断したのか?

【100字紹介】
 御玉神照命会の教団ビルで教主・貴伝名剛三が、
  別の建物の屋上で、頭部と左腕を切断された死体で発見された。
  警視庁刑事・明日香井叶と双子の兄・響が怪事件の謎に挑む。
  何故犯人は死体を切断したのか?が鍵になる! (100字)


さて、綾辻行人ですよ。
綾辻行人といえば勿論、新本格の代表格なわけで、
当然ながらばりばりミステリですよ。
何かここまで正統派のミステリは久々な気がしますね。
最近の菜の花、ライトノベルに走ってましたから…。

主人公は警視庁の刑事…だけどとっても気弱で、
絶対的に刑事に不向きな明日香井叶…かな?
…と思って読み進めて行くと途中から視点が変わります。
容疑者の恋人・岬映美登場。
更に明日香井刑事の双子のおにーさま・響も乱入してきて、
すっかり影の薄くなる叶君…。ちょっと可哀想。
あとから俯瞰してみると、事件部は明日香井刑事視点、
推理部・結末部は主に岬映美視点、ということになりますか。

新興宗教である御玉神照命会が事件の主役。
どうにも胡散臭い団体です。まあ現代的といえば現代的か?
ここの女性教主さまが轢死。そして夫で悪名高い貴伝名剛三が
新教主につくことになったのですが…、
そのための「お籠もり」という教団ビルの上にある「神殿」から
何ヶ月も出ないという儀式の途中に、別の建物で遺体で発見されるという。
そんな事件です。

事件の鍵…、そして本作の読みどころは何と言っても
「何故、死体は切断されたのか?」というホワイダニット。
トリック自体は作中で著者自身も

「この物理トリック自体は、仮にこれをネタにしたミステリが
 あったとしても、僕は大した評価はしないけどね」 (本文より)
  
と探偵役に言わせる程度のものなのですが、
じゃ、何で死体は切断されたの?という次の段階の説明が
「あー、なるほどね」というところです。
この物理トリックが実現可能か?というのは謎ですし、
可能だとしてもやる人はいないだろ!と思うのですが、
そこはそれ、これはフィクションですから。
そしてこの状況があってこそ次の段階で「あ、そっか」と
笑えるわけです。そのための舞台として描かれたのか、
というのが、よく分かります。
つまりは、たった1行の「あ、そっか」を書きたいために
著者はこの1冊を書いたと言っても多分間違っていないかと。

リアリティという面で見ると全然ありえないですが、
これこそが新本格と名乗るにふさわしい…!といえる雰囲気をもつ1作。




菜の花の一押しキャラ…貴伝名 光彦 「あれ以上立派な身元不明死体はありませんねえ」 (芳野 恵介)
主人公 : 明日香井叶、岬映美
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ホワイダニット系
解 説 : 由良 三郎(作家)
カバーデザイン : 辰巳 四郎

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
305. 「深山木薬店説話集 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2006.09.17 連作短編 239P 860円 2006年6月発行 講談社ノベルス ★★★+
ファン必見!薬屋探偵14作目の連作短編集

【100字紹介】
 秋・座木・リベザルが営むのは、
  妖怪による妖怪のための相談所という
  裏の顔をもつ「深山木薬店」。
  彼らの面白く謎に満ちた日常、個性あふれる仲間との出会い、
  本編の後日談など、シリーズをより楽しめる10の短編!


●収録作品●
-------------------------------
● 秘密 (関連:「銀の檻を溶かして」)
● ジンクイエ (関連:「黄色い目をした猫の幸せ」「蒼い千鳥 花霞に泳ぐ」)
● 深山木薬店 (関連:「銀の檻を溶かして」)
● 忘れ物 (関連:「緑陰の雨 灼けた月」「本当は知らない」)
● 猫 (関連:「双樹に赤 鴉の暗」)
● 二週間 (関連:「白兎が歌った蜃気楼」)
● 名のない悪魔 (関連:「銀の檻を溶かして」)
● 四季 (関連:「海紡ぐ螺旋 空の回廊」)
● 花 (関連:「海紡ぐ螺旋 空の回廊」)
● 深山木薬店 改 (関連:「海紡ぐ螺旋 空の回廊」)
-------------------------------


高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第14作…と言えるのかな?

前作で一応、ひと段落したシリーズですが、
ここまでを振り返って、後日談やストーリーを更に増強するようなお話を
いっぱいに詰め込んだ短編集です。時代はばらばら。
「これ、読んでみたかった」とシリーズを読みきった人なら
きっと思うような話が満載されています。

巻末には作品年表(その内容が何年頃のことなのか?)つき。
当シリーズは、作品が年代順に刊行されていないどころか、
前後関係が相当複雑なので、これは「あ、やっぱり」と思ったり
「あ、その年なのか」と思ったり、なかなか楽しいかも。

シリーズ既読読者のためのファンブックと言ってもよいものなので、
基本的に未読の方は避けるべきかと思われます。
というか、多分、読んでも面白み半減ですね。
是非、本編を読んでからどうぞ〜。

「秘密」「猫」は高遠さんのお話です(厳密には主人公ではないですが)。
前者は御葉山、後者は来多川とペアを組んでいるので年代がちょっと違います。
「秘密」はちょっと長めで、「猫」は逆に7Pしかない短いお話です。
少し、テンポの悪さがあるのですが、ここはまあ、
ファンブックですから!著者も表見返しで言っていますから!

「嬉しいと、楽しいと、娯楽魂を詰め込みました。」

だそうですですから。

「ジンクイエ」は、きっと誰もが待ち望んでいたお話第1弾!です。
まだリベザルが合流していない時代です。と言っても2006年ですが…。
日本を飛び出した「ハル」と「ザギ」がドイツで出会った事件の記録です。

「深山木薬店」は3部構成で、それぞれ視点が異なります。
既作で、「久我山博物館」に掲載されたことがある、ということですが、
自費出版かもしれません。詳細は不明。
一言でいうと「あ、うまい構成!」という感じです。
短いながらにまとまりもあって、面白い作品。

「忘れ物」も短いですね。6P。ほんのりあたたかいお話です。
これは後日談ですから、関連の作品を読んでから読みましょう。

「二週間」は秋の日記と短いエピソードのサンドイッチ。
形式はありがちかもしれませんが、十分面白いです。
秋の生活が見える!?1作。

「名のない悪魔」は桜庭零一(という名前では出てこない)が主人公。
ファン投票で「短編で読みたいキャラ」ナンバーワンだったそうです。
へー。密やかな人気者!
本作中で最も長い40P。恐らく最も本編からも遠い作品。
とても古い時代ですしね。外伝、かな。

「四季」「花」「深山木薬店 改」はすべて、シリーズの後日談。
それぞれの主人公は、四季の名を持つ4人、座木、そしてリベザル。
彼らのその後は一体どうなってる!?というのは、
きっと誰もが気になるところ。少しだけ語られるその後は、
次への期待を含んだ素敵なお話です。


独立して、大変面白い作品、というわけではないですが、
シリーズの付録として、是非読んでおきたい1冊。
もうしっかり菜の花の好み。
こういう本読みたい!と思っているところに、
どんぴしゃりで出してくれるから、高里椎奈が好きです。
多分、菜の花と波長ぴったりなんでしょう。




菜の花の一押しキャラ…座木 「図星に腹を立てるのは、満百歳にも満たない子供のすることですからね」 (座木)
主人公 : 深山木 秋
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトファンタジー
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : 外伝・後日談
  ファンブック
結 末 : ―
カバーデザイン : 斉藤 昭 (Veia)
ブックデザイン : 熊谷 博人・釜津 典之

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
306. 「キノの旅Y」     時雨沢 恵一
2006.09.19 連作短編 228P 530円 2002年8月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第6作。
  国を巡ることは人を知ること。
  人間とそして世界の、美しさも醜さも。
 沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
  


●収録作品●
--------------------------------------------
口絵  入れない国 ―Reasonable―
    中立な話 ―All Alone―
    戦車の話 ―Life Coes On.―
プロローグ 誓い・b ―a Kitchen Knife・b―
第一話 彼女の旅 ―Chances―
第二話 彼女の旅 ―Love and Bullets―
第三話 花火の国 ―Fire at Will!―
第四話 長のいる国 ―I Need You.―
第五話 忘れない国 ―Not Again―
第六話 安全な国 ―For His Safety―
第七話 旅の途中 ―Intermission―
第八話 祝福のつもり ―How Much Do I Pay For?―
エピローグ 誓い・a ―a Kitchen Knife・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第6作です。
100字紹介は超手抜きで、またまた前と同じです。
まあ、いいでしょう。続き物だもん。

内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言ですべてを言い尽くしています。
そもそも「言葉を話す二輪車」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

今回も第一話・第二話で同じ和名タイトルがついていますが
(でも英名は違う)、第5作のときとは違って、
特にセットのお話でもなく。あの趣向は面白かったですね。
今回の同名タイトルは、2つのまったく異なるタイプのお話。
でもどちらも旅人の女性のこと。ある意味、対かな。

第6作は今まで以上に暗い雰囲気や、
哀しいお話が多かった気がします。
特にラスト、第八話はもう。
ただし口絵の3話は、ちょっと面白い系ですが。
「中立な話」がまとまりがよくてお気に入りです。

そして恒例・変なあとがき!
前回もすでにあとがきではありませんでしたが、
もちろん今回も変です。やっぱりあとがきじゃないってー。
ネタばれはないので、安心して読めますが、
むしろこれを読んでも本編の内容はまったく分かりません(笑)。
そういうノリ。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「キノはがめつい」(エルメス)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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307. 「ミニチュア庭園鉄道3 欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の野望」     森 博嗣
2006.09.26 エッセイ 190P 1200円 2005年3月発行 中公新書ラクレ ★★★+
サイト公開された森博嗣宅庭園鉄道レポート


【100字紹介】
 お馴染み、森博嗣宅の庭園鉄道レポート第3弾。
  今回は、ついにお庭を大工事!
  弁天ヶ丘線全面リニューアル?
 可愛いフルカラー写真でまとめた
  森博嗣の「趣味道」まっしぐらな1冊。
  本気で遊ぶ大人の世界をあなたに…。


タイトルからも明らかなように、
前作「ミニチュア庭園鉄道」に続く、
趣味の庭園鉄道レポート第3弾。
そして「完結編」でもあります。
何をもってして完結というかは謎ですが、
確かにこれ以上はそれほど大きく変化はしないでしょう、
という安定期に入ったような気もしなくはない。
とりあえず、3冊くらいでいいんじゃない?くらいの
ノリで完結した、ということになっている、という気もしなくはない。
さて、真相やいかに?(しかし泣いても笑っても完結。)

前々作で、線路の全景が謎だったことが比較的不親切だな、
と思っていたら、前作では冒頭で「庭園鉄道の線路配置図」を掲載、
と改訂されていたのですが、今回はまた線路図がいないぞ…?
…と思いきや、ありました、最後でした。
何故最後ー?と思ったら、
今回は1冊殆どが「庭園大工事」で覆われていて、
弁天ヶ丘線はリニューアルされているのですね。
それがこつこつとレポートされます。
そりゃ冒頭で出しては面白くありません。
ああ、でもこの年の初めの図があっても悪くはないと思うのですが。

このシリーズの特徴は、とにかくミニ写真を多用すること。
文章しかないページはありません。
1ページに1〜4枚の写真が掲載され、それに関する本文が
書き連ねられるという「写真中心」な構成。
元々、サイトで公開されているわけで、
ノリは完全にオンライン、ですね。

今までの2作同様、今回も「ものづくり」がレポートされるのですが、
今回は相手が大物すぎて、変化は大きくて面白いですが、
ちょっと「手作り感」が薄めな感じです。
前作はやたら細かい手作りで、その前がいい感じの物づくり本でしたから、
バランスはいいのかな。

しかし今回の変貌振りには驚きましたよ!
もうめちゃくちゃ、素敵な庭園になっちゃって。
写真が綺麗です。いいなあ、凄いなあ。
でもこれ、何だか凄く、おもちゃっぽいのです。
まるで絵に描いたような…。
そう、これはまさに鉄道のレイアウトってやつでは…?
ああ、なるほど。。。自宅の庭までレイアウトにしてしまう、
庭園鉄道マニアの真髄を見たような気がします。
やるならここまでやらなくては!?

力いっぱい楽しんでいる著者の姿勢がよく伝わるシリーズでした。



テーマ : 鉄道模型
語り口 : サイト公開のレポート形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般〜軽度マニア向け
雰囲気 : よみもの
装幀 : 中央公論新社デザイン室

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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308. 「キノの旅Z」     時雨沢 恵一
2006.09.28 連作短編 228P 530円 2003年6月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第7作。
  国を巡ることは人を知ること。
  人間とそして世界の、美しさも醜さも。
 沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
  


●収録作品●
--------------------------------------------
プロローグ 何かをするために・b ―life goes on・b―
第一話 迷惑な国 ―Leave Only Footsteps!―
第二話 ある愛の国 ―Stray King―
第三話 川原にて ―Intermission―
第四話 冬の話 ―D―
第五話 森の中のお茶会の話 ―Thank You―
第六話 嘘つきたちの国 ―Waiting For You―
エピローグ 何かをするために・a ―life goes on・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第7作です。
いつも通り100字紹介は超手抜きで、またまた前と同じです。
続き物ですからね。

内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言ですべてを言い尽くしています。
そもそも「言葉を話す二輪車」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

今回の驚きポイントは、あとがきが冒頭にあることと
(思わず、「そりゃまえがきだろ!」と突っ込みたくなること請け合いw)
あれ、今回六話しかないんだ、少ないなー…と思いきや、
何だ、第六話のラストまでいったのに、この残りのページ数は!?
ということでしょうか。エピローグより短い第三話。。。

まあ、内容はいつも通りです。
主人公はキノ&エルメスだったり、シズ&陸だったり、
または師匠&ちょっと背の低いハンサム男だったり。
そして、この師匠のお話が少し、キノと繋がるのが本作かな。
まあ、繋がってたようなものでしたけど、これまでも。
そして、キノの最初の旅?が収録されています。
このシリーズのファンならチェックが必要な巻ですね。
でも本当にファンなら、きっと飛ばして読んだりはしないでしょうから、
わざわざここで言うようなことでもなさそうですけど。

それにしても1つ気になることが…。
本作のイラスト、妙にキノが乙女なんですが…何故?



菜の花の一押しキャラ…キノ 「さあ、本人達がいいって言えば、たぶん何でもいいのでしょう」(師匠)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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