よみもののきろく

(2006年8月…289-299) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年8月の総評
今月の読了冊数は11。かなり多い!
でも長編1冊、中短編6冊、その他4冊でした。
つまり短めで読みやすい系が多かったのですね。
コンプ計画中の著者の読了数は
森博嗣4冊と新しくコンプ計画に入った時雨沢恵一4冊。

2006年8月の菜の花的ベストは…該当なし。
以下、高評価順(同評価の場合は読了日順)に簡単に作品紹介します。

 「STAR EGG 星の玉子さま」     森 博嗣  (評点3.5)
 「キノの旅」            時雨沢恵一 (評点3.5)
 「図解よくわかる バイオエネルギー」 井熊 均  (評点3.5)
 「ブギーポップ・イントレランス オルフェの方舟」 上遠野浩平(評点3.5)
 「キノの旅U」           時雨沢恵一 (評点3.5)

「STAR EGG 星の玉子さま」は、森博嗣が文だけでなく
絵もすべて描いたという初の絵本。
小さな星に愛犬・ジュペリと住む玉子さんが、
色も形も住む人も様々な宇宙にある沢山の星を旅します。
とても味のある好著。

「キノの旅」「キノの旅II」は時雨沢恵一のデビュー作。
人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする、
1国1話の連作短編集です。沢山の個性的な異世界都市国家を、
個性的なキャラとともに旅する、独特の語り口の物語です。

「図解よくわかる バイオエネルギー」 は、図解よくわかるシリーズの1冊。
薪からバイオエタノールまで、古くて新しいこのエネルギーについて
これらを取り巻く環境、技術動向、事業の仕組みなどを分かりやすく、
図を多用してまとめた一般向け入門書です。最初のきっかけにどうぞ。

「ブギーポップ・イントレランス オルフェの方舟」は
思春期の精神の不安定さを一貫して描くブギーポップシリーズの1作。
何かもが渾然一体としていて、正義や悪という概念を超越した作品です。


 「森博嗣の浮遊研究室4 鳳凰編」   森 博嗣   (評点3.0)
 「古本屋探偵登場」          紀田順一郎 (評点3.0)
 「工学部・水柿助教授の逡巡」     森 博嗣   (評点3.0)
 「キノの旅W」            時雨沢恵一 (評点3.0)
  
「森博嗣の浮遊研究室4」は、WEBダ・ヴィンチで連載作品の単行本版第4巻。
助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授という、
4人のキャラの会話形式で成り立つ小説風エッセイです。
ちょっと時間の空いたときにくすり、と笑えるシリーズ。

「古本屋探偵登場」は評論家・紀田順一郎のミステリデビュー作。
主人公は古本屋探偵…、古書を探す探偵です。
蔵書家、愛書家、コレクターの奇書収集をめぐる恐ろしい事件の中に
ビブリオメイニアと古書世界をたっぷり見せつけてくれます。

「工学部・水柿助教授の逡巡」は自伝的小説の水柿君シリーズ第2作。
N大学工学部助教授・水柿君と、奥さんの須磨子さんの物語ですが、
本作では予想通りミステリ作家デビューする水柿君の日々を描きます。
森博嗣の日記本と併せて読むと更に楽しいかも?

「キノの旅W」は、上述の「キノの旅」シリーズ第4作。
とても理不尽だったり、矛盾に満ち溢れていたり、
視点が変わるとまったく別の姿が見えたりする…、そんな世界を描く作品。


 「蛟竜」               森 博嗣   (評点2.5)
 「キノの旅V」            時雨沢恵一 (評点2.5)

「蛟竜」は、ささきすばるのイラストに、森博嗣が文章を担当する
夫婦コラボレート絵本「蜥蜴」の続編。
前作にも登場した謎の蜥蜴サラと蛟のドラの物語です。
なめらかなCGイラストと奇妙なストーリーの、手のひらサイズ大人向け絵本。

「キノの旅V」は上述の「キノの旅」シリーズ第3作。
キノがまだ師匠についていた頃の話が初登場です。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








289. 「森博嗣の浮遊研究室4 鳳凰編」     森 博嗣
2006.08.05 エッセイ 280P 1400円 2004年11月発行 メディアファクトリー ★★★★★
WEBダ・ヴィンチ連載作品の単行本化!


【100字紹介】
 WEBダ・ヴィンチで連載されていた同名作品の単行本化。
  助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
  4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイ第4弾。
  ちょっと時間の空いたときにくすり、と笑えるシリーズ。 (100字)


あいもかわらずの続編、第4弾です。
そして劇的に手抜きの100字紹介…だって、これの文字数合わせるのが、
一番大変なんだもーん。と可愛く言って無理矢理正当化してみました…。
その…、以前の使い回しだってことを(ごめんなさいー)。

WEBダ・ヴィンチに掲載されたVol.111-Vol.140までが掲載されています。
最初の1冊が50回分で、以降は30回分ずつの収録ですね。

元々ウェブ上で公開されていたものを再録ということで、
今回の書籍化に伴う特典は…、各キャラの「あの頃の思い出ギャラリィ」ですね。
各人2ページの見開きで、写真たっぷりのご紹介です!
(そりゃもう、ギャラリィですからね…)

中身はこれまでと何も変わらず。
当然ですね、ずっと連載しているものですから。
「ご案内」にて森博嗣の殆どきままなエッセイからスタートし、
「今週の一言」「今週の諺」「今週の新商品」などの
「へ?」と思うに違いない創作が続き、
「今週の一枚」という写真と各キャラクタのはみだしコメント、
そしてメインの会話部分がスタートします。
毎回複数のトピックが取り上げられ、
これに関して、4人のキャラが話します。
4人とは、助教授・森博嗣、助手・上前津伏見、
秘書・御器所千種、隣の研究室の助教授・車道栄。
1トピックごとに完結です。

ようやく各人のキャラがつかめてきました(遅い…)。
というか、分かってなかったのは車道氏だけですが。
あとは分かりやすいキャラですね。
個人的にはやはり「性別不詳」の上前津伏見がお気に入りです。
この方の台詞は何気にまにあっくでよろしいですねー。
御器所さんは相変わらずミステリマニアですし。
森博嗣はもうそのままですし。

続編と言っても、全然つながってはいませんので、
途中巻から読みはじめてもOKです。
でも、「衝撃の告白」というものがありまして、
これが第1作にしか収録されていないので
(ウェブでも公開されなかった)、
気になる方は是非、第1作を読んで下さいね。


今回もイラストはコジマケン氏。
いいですねー、最近コジマケン氏の素敵さが
分かってきましたよ。もう、毎回楽しみにしている自分を発見。
うーん、いつの間にかファンになってしまったようです。
この独特のセンス、可愛らしいキャラ、素敵な発想が魅力です。
ポップなこのイラストのために、本書を手に取るのもありです。




主人公 : 森 博嗣(?)
語り口 : 会話形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : クール&ポップ
結 末 : 1トピック完結
イラスト : コジマケン
ブックデザイン : 大路浩実・田中彩里

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
290. 「STAR EGG 星の玉子さま」     森 博嗣 [作・画]
2006.08.07 絵本 60P 1000円 2004年11月発行 文藝春秋 ★★★+
不思議な宇宙の世界を描く、森博嗣初の絵本


【100字紹介】
 小さな星に愛犬・ジュペリと住む玉子さんは、
  ロケットに乗って近くに星に行くのが大好き。
  宇宙にある沢山の星は、色も形も住む人も様々。
  玉子さんと一緒に不思議な宇宙の旅に出掛けよう。
  森博嗣の理系な?解説つき。 (100字)


一瞬「星の王子さま」と誤読しそうですね?
誤読したあなたは読書すきですね。
ふーん、と思ったあなたは本はお嫌いですか?
でも犬の名前ではっと気付いたあなたは、
あわてんぼうのうっかりさんな読書マニアですね?
ちゃんと点まで気をつけましょう。危うく犬が大になっちゃいますから。
なんて、くだらない前置きを書いてしまった…。たまにはね。
本が本なだけに。

森博嗣の初絵本です。いや、絵本自体は他にもありますが、
絵まで全部描いたのは初ですね。

主人公は、玉子さんという女の子。
両手で抱えられそうなとっても小さな星に、愛犬ジュペリとともに住んでいます。
彼女は、彼女とジュペリが乗ったらもういっぱいな、
これまた小さなロケットを持っていて(おじいさんが作ったらしい)、
これに乗ってお散歩気分で近くの星を旅しています。

いつも後ろ向きのおじさんがいる星、孤独な少女がいる星…
1人しか人のいないせいで、その人によって星の雰囲気が決まってしまう小さな星が殆どです。
すべり台1つだけで一周できてしまう星や、クリスマスツリーだけがある星。
ページをめくるたびに、見開き2ページに1つずつ、
森博嗣の描く、不思議な星がどんどん姿を現します。

絵はやや線が乱雑だったり、荒削りな感じですが、
独特の雰囲気があって、面白いともいえます。
漫画と絵画の間くらいでしょうか。

そして解説。ここで森博嗣の本領が発揮されます。
いや、これは菜の花が読みながら思ったことを殆ど言い尽くしてくれていて、
さすがだ…!と感動しました、ええ。
こういう理屈っぽいところがいかにも「らしい」ですね。
帯にもありますが、確かに1冊で何回も楽しめるかも!?



主人公 : 玉子さん(たまこさん)
語り口 : 3人称
ジャンル : 絵本
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 不思議でポップ
結 末 : -
作画協力 : yodaka
装 丁 : 斉藤 深雪

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
291. 「古本屋探偵登場」(「幻書辞典」より改題)     紀田 順一郎
2006.08.12 中編集 254P 360円 1982年8月三一書房
1985年9月発行
文春文庫 ★★★★★
愛書家たちの事件を神田の古本屋店主が解く


【100字紹介】
 世界最大の古書街、東京神田に登場した名探偵は、
  何と古本屋の主人。蔵書家、愛書家、コレクターの
  奇書収集をめぐる血なまぐさい事件を鮮やかに解決。
  ビブリオマニアと古書世界を、
  書誌学の第一人者が描くミステリ。 (100字)


●収録作品●
-------------------------------
・殺意の収集
・書鬼
-------------------------------

古本屋探偵。もはやこの言葉だけに惹かれて読ませて頂きました。
だって菜の花、本好きですものー。
蔵書家ではないし、愛書家でもないし、コレクターでもないですが。
物語の中で出てくる「ビブリオメイニア(書痴)」というのは、
菜の花程度では一生かかっても達せない(しかも達したくない!)境地です。
以下、解説より引用…

   愛書家とは自分の夢見る最上の生活が、書物との関係なくして
   考えられない人種のことをいう。自分の運命に書物が常に
   スーパーインポーズされているような人種をいうのである。

   ★ 新聞を常に下から読む。書籍の広告欄からである。そこに面白い本がなければ、
     その日の世界にめぼしいニュースはなかったということになる。
   ★ 永遠の彼方にある憧憬の書物を想像するかのような眼つきをしている。
   ★ 天変地異の場合には、家族よりもまず書物の心配をする。
   ★ 貸した金は忘れても、貸した本は死ぬまで忘れない。
   ★ 幻想あるいは夢のうちに、書物状のものが出現する。
   ★ 書籍第二家系の80パーセント以上を費やし、
     ついには家庭生活を破壊せしむる。等々。

…いや、菜の花の周りにはさすがにこういう
「ビブリオメイニア」はいない…と思います。多分。

著者は評論家。本作がミステリデビュー作です。
紀田順一郎で検索するとデビュー作は「幻書辞典」となっているかと思いますが、
本作は同作の改題されたものです。

主人公は「古本屋探偵」というと、古本屋さんが探偵役なのか?と思いきや
(間違っていないですが)、本当は古本を探す探偵です。
もちろん二束三文の古本じゃなく、奇書収集のマニアさんたちの古書探索です。

とにかく物語に出てくる書名の固有名詞が多い!
愛書家でない菜の花には、もはやフィクションかノンフィクションかの
見分けもつかないくらい、沢山の「幻書」が飛び交います。
さすが原題「幻書辞典」だけありますね。
ミステリとしては、デビュー作ということで、それほど複雑ではありません。
アリバイトリックが出てくるくらいで、大仕掛けもなく。
ビブリオメイニアでたっぷり味付けが済んでいるので、
これくらいでちょうどいいな、という感じです。ええ。
何しろ収集家ときたら

   「私は本探しの極意は熱意ではない、殺意だと思います」

なんて言ってくれたりしますからね。
そりゃもう、それだけでミステリ要素たっぷりです。

本を愛してやまないあなたに、奇書収集家の世界をのぞかせてくれる一冊。



菜の花の一押しキャラ…小高根 閑一 「本は人に結びついているんですね。本の背後には人がいるんです。」 (須藤 康平)
主人公 : 須藤 康平
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 本好き〜一般向け
雰囲気 : 本に対してマニアック
結 末 : 一件落着
解 説 : 瀬戸川 猛資(ミステリ評論家)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
292. 「蛟竜 Dragon」     森 博嗣 & ささきすばる
2006.08.13 絵本 64P 1200円 2004年11月発行 中央公論新社 ★★+★★
ささきすばる&森博嗣夫妻のコラボ第2作


【100字紹介】
 ささきすばるのイラストに、森博嗣が文章を担当する
  夫婦コラボレート絵本「蜥蜴」の続編。
  前作にも登場した謎の蜥蜴サラと蛟のドラの物語。
  なめらかなCGイラストと奇妙なストーリーの、
  手のひらサイズ大人向け絵本 (100字)


続編ですね。というか、同じような話ですか?
前作より、話の筋は見えやすいですね。分かりやすくなっています。
というか、前作は意味が読み取れず、
結局意図不明、誰か解説をお願いします!になったような。
なので、正直中身を殆ど覚えていないのですが。

今回はああ、なるほど、一本道だね、という感じ。
途中で主人公がドラからサラへ入れ替わりますが。
内容的には愛とか絶望とか希望とか、、、
まあそんなものなのでしょうか。
本筋はごくごく一般的。
ただ、描き方が独特で、それがこの夫婦の味なんでしょうか。

イラストは前作同様、非常にCGらしいもの。
なめらかですよね。
ときどき非常に可愛らしく、ときどき微妙にコワイ。
ブックデザインがちょっと漫画っぽい感じです。
これを読んでからもう一度前作を読むと、
分かるようになるのでしょうか…それは不明。



主人公 : ドラとサラ
語り口 : 詩
ジャンル : 絵本
対 象 : 大人向け
雰囲気 : 妖しげ
結 末 : ハッピーエンド?
イラスト : ささきすばる
Book Disign : しいばみつお(伸童舎)

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
293. 「キノの旅」     時雨沢 恵一
2006.08.14 連作短編集 238P 530円 2000年7月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★+
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノは、言葉を話す二輪車エルメスと旅をしている。
  国を巡ることは人を知ること。「人の痛みが分かる国」
  「多数決の国」「コロシアムの国」
  …沢山の個性的な異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう (100字)


●収録作品●
--------------------------------------------
第一話 人の痛みが分かる国 ―I See You.―
第二話 多数決の国 ―Ourselfish―
第三話 レールの上の三人の男 ―On the Rails―
第四話 コロシアム ―Avengers―
第五話 大人の国 ―Natural Rights―
第六話 平和な国 ―Mother's Love―
--------------------------------------------

ライトノベルです。
次に読み進めるライトノベルシリーズにしようと、
書店で発見して読み物メモに追加していた作品。
現在、9冊が刊行されていますね。

この手のジャンルでは珍しいと感じたのですが、連作短編集です。
明らかにヤングアダルト向けの可愛い表紙なのに、帯は
「世界は美しくなんかない」ですからね。
一体どんな本だー!と思いました。
でもだからこそのチェックです。

表紙をめくるとカラー口絵、兼、目次。一話につき1枚。
何となく、ふつーのキャラものじゃないぞ、という雰囲気。
例えば第五話「大人の国」のイラストはくすんだ桃色を背景に
ぼろぼろの二輪車が縦に浮いているという渋いもの。
その横第六話「平和な国」なんか、そのタイトルからは
想像不能などくろの山と、そこへ落ちていく銃弾ですから。

中身は大体、1話につき1国。
この世界では「国」というのは都市国家らしく、
規模も小さく、国と国の間の草地などには特に人が住んでいる気配がありません。
つまり、1つの国で何かあっても、その騒動が次に持ち越されることはないわけで、
連作短編の1つ1つの話は完全に独立したものとみなすことが出来ます。
しかもこの主人公、1国の滞在期間を3日と決めていて、
人情に流されず、淡々と生きていくタイプであるお陰で、
何かのしがらみを別の話に引きずることが皆無となっています。

主人公・キノのこの淡々さが、この小説の独特の静かで奇妙な
雰囲気を醸し出しています。ヤングアダルト向けのライトノベルは
キャラの個性で売る「キャラもの」が多いですが、
本作は世界観そのものを読ませます。
その世界には作者が描きたいものが映しこまれていて、
インターフェイスはライトノベルですが、
実際のところ少しもライトじゃない感じ。面白い作品です。

一般受けするところはやはり、キノ単体で登場するのではなく、
キノとは正反対に陽気で軽口を叩くエルメスの存在するところでしょうか。
物静かな人間・キノと、軽いノリで言葉をしゃべる二輪車エルメス。
何故二輪車がしゃべる!?というのは作中には触れられませんが
(しかも他のキャラもみな、普通にそれを受け流している…
 もしかするとこの世界では二輪車はしゃべって当然なのかも。
  ただし、犬がしゃべったら驚いていた。何故?)、
この2人の掛け合いはなかなか楽しいものです。
キノがしゃべらない分もエルメスがフォローしてくれますしね。


というわけで、なかなかお気に召したので、第2作も読みます。はい。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「だけどたまには、自分の最高の実力を出すべきだ。  そうしないと、知らない間に腕は鈍るものさ。」  (キノ)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 一話一国完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
294. 「図解よくわかるバイオエネルギー」     井熊 均 編著
2006.08.15 教養 150P 1680円 2004年1月発行 日刊工業新聞社 ★★★+
バイオエネルギーとは?から将来までを解説


【100字紹介】
 エネルギーと環境という2つの巨大市場の狭間に位置する
  「バイオエネルギー」。古くて新しいこのエネルギーについて
  取り巻く環境、技術動向、事業の仕組みなどを分かりやすく、
  図を多用してまとめた一般向け入門書。 (100字)


仕事の方で、バイオエネルギーについてちょっとばかり
資料を集めなくてはいけなかったので、とりあえず読んでみた本です。
タイトルからしてとても読みやすそうだったもので…。

結論から言いますと、広い範囲をカバーしつつ、よくまとまっていて、
記述は分かりやすく、ブックデザインがよいため読みやすく、
バイオエネルギーについて知らない人には最適の入門書かと思います。
もうこの本の紹介はそれで終わってもいいくらい(笑)。

ですが、これだけだといいところばかりしか言っていなくて、
ちょっと一面的に過ぎるな、ということで続けましょう。
本書は簡略な入門書です。
ですので、難しいこと、詳細説明などは他書に譲ることになります。
本書一冊で何もかも解決、とはいかないということですね。


バイオエネルギーというのはそもそも、
新しいようで本当はとっても古いのですよね。
何しろ、薪だってバイオエネルギーですからね。
薪はバイオマスを熱エネルギーに変えます。
でもそれだけではなく、もっと利用法があるのです。
発電して電気エネルギーに変えてみたり、
バイオエタノールを作ってみたり、ガス化してみたり…。
あなたもバイオエネルギーについて学んでみたくなりませんか?

初心者が、概略を知りたいときに取っ掛かりになる1冊です。



テーマ : バイオエネルギー
語り口 : 解説書
ジャンル : 教養・入門書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 非常に簡潔、分かりやすい
その他著者 : 木通 秀樹

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
簡 潔 性 : ★★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
295. 「ブギーポップ・イントレランス オルフェの方舟」     上遠野 浩平
2006.08.16 長編 276P 530円 2006年4月発行 メディアワークス電撃文庫 ★★★+
不安定な子供の、真っ直ぐで歪んだ心を描く

【100字紹介】
 彼女の敵は世界、周りすべてを焼き尽くしても、
  なお足りぬ怒りと憎しみ…。
  世界の謎に挑もうとする者たちと
  ただ一人を救いたい者の思惑が交錯した末に待つのは、
  燃える世界か凍れる未来か?ブギーポップが裁きを下す (100字)


さて、またも久々のブギーポップです。
シリーズ上、13作目くらいですか?
(ビートのディシプリンを除く)
ブギーポップシリーズとは、
「誰かの人生の一番美しいとき、それ以上醜くなる前に
 命を絶ってしまう死神」と女子高生に噂される
ブギーポップが出てくる作品群。
ちなみにブギーポップは主人公には殆どなりません。
誰か別の「世界の敵」というものがいて、
大体はそちらの付近に主人公が設定されます。
そしてこれに対抗するためにラストのいいところで
ちょこっと顔を出すというおいしいキャラなのです。ズルイ。
ラストにいたるまでの過程はシリーズ内でも様々、
しかし最終的に終止符を打つ存在は、
いい意味で物語に適合しようとしません。
どんな展開でも無関係に、無粋に登場して、
冷静に終止符を打って去っていきます。
この冷静さが読書を物語に流されるだけで終わらせないのです。

基本的なテーマはいつも似たようなもの。
思春期の精神の不安定さ。
受験生がよく出てくるのもそんなところからでしょうか。
自分がそれに近しかった頃は、そうだよねえ、と思ったものですが、
最近は「考えてみると思春期って何を下らないことを考えていたのか」
と思えてきました。ああ、菜の花は貧しい大人になってしまった…。

本作はシリーズ中でも比較的まとまりがある方ですね。
このシリーズで気をつけなくてはいけないのは、
単体では物語として成立していない作品が混じっているということです。
本作は、これ1つでもちゃんとストーリーが成立していますから
その意味でまとまりがいいですね。

気になるのは、この不安定さ。
必ずしも正義と悪にはならない、という物語が昨今の流行であり、
リアリティがあると受け入れられるところですが、
実際、本作は完全な善と悪がないどころか、
何もかもが渾然一体としていて、物語に出てくる人物の精神的な動きは、
きっと誰しも一度は経験したことがあるのでは?というものであって、
ある意味とてもリアリティがあるのですが・・・、
とにかく正義がなさすぎて、その意味では不透明すぎて
子供にはお勧めしたくないなあと思ったりします。
そんな菜の花は子供を甘やかしすぎ?

とにかく、よい意味では悪い意味でも、この本を一言で表すと
「不安定さ」を描く物語です。




菜の花の一押しキャラ…特になし 「君は、ほんとうにぼくと戦っているのかな?」 (ブギー・ポップ)
主人公 : 須磨貞夫、杉乃浦春海、相川靖子
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : ライト、幻惑、不安定
イラスト : 緒方 剛志

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★+
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
296. 「キノの旅U」     時雨沢 恵一
2006.08.19 連作短編集 250P 530円 2000年10月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★+
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノは、言葉を話す二輪車エルメスと旅をしている。
  国を巡ることは人を知ること。道ですれ違った家族、
 助けた人、襲ってきた人。沢山の個性的な人が作り出す
  異世界都市国家を、キノとエルメスと一緒に旅しよう (100字)


●収録作品●
--------------------------------------------
口 絵 狙撃兵の話 ―Fatalism―
プロローグ 砂漠の真ん中で・b ―Beginner's Lack・b―
第一話 人を喰った話 ―I Want to Live.―
第二話 過保護 ―Do You Need It?―
第三話 魔法使いの国 ―Potentials of Magic―
第四話 自由報道の国 ―Believers―
第五話 絵の話 ―Happiness―
第六話 帰郷 ―"She" is Waiting Fou You―
第七話 本の国 ―Nothing Is Written!―
第八話 優しい国 ―Tomorrow Never Comes.―
エピローグ 砂漠の真ん中で・a ―Beginner's Lack・a―
?   続・絵の話  ―Anonymous Pictures―
--------------------------------------------

ライトノベルシリーズ第2作です。
内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言ですべてを言い尽くしています。
そもそも「言葉を話す二輪車」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

帯の文字は「世界は正しくなんかない。」
ちなみに第1作は「世界は美しくなんかない。」
異世界もののライトノベルのはずなのに、
ちっともそれらしくない煽り文句。
でも中身はその通りでした。

連作短編ですが、各話は完全に独立。
旅をするキノは、滞在期間を1国につき3日と決めていて、
勝負は短期決戦(?)です。
そして、同じ国に2度滞在することはありません。

キノは、少年誌的キャラとは程遠い人物で、
どんな理不尽な話にぶつかっても、
たとえ自分が責められても、
冷静さを失わず、自分を失わない冷めた主人公です。
それゆえに、様々な国を回ることで様々な人や、
物と出会うにも関わらず、殆ど自分に変化を起こさない
「定常状態」にあるため、旅を始めたごく初期の頃の
エピソードを除けば、まったくどの話から読んでも、
順番は関係ないというようになっています。

第1作では、「キノ」という人物が登場した
きっかけが描かれる章がありましたが、
当時の「キノ」はまったく違う人物でしたね(2重の意味で…)。
第2作の中でも例えば「森の人」と出会うエピソードは
恐らく比較的初期の物語であり、少しだけ、
隙があるような気がします。
本作の中で時系列に並べると、最も「初期」なのは
プロローグとエピローグかな。
プロローグだけ読むとよくわからないのですが、
最後まで読めばああ、なるほど、です。


今回の中では「第4話・自由報道の国」がよかったですねー。
愉快というより、ああ、巧い…と思わずため息が出るような。
1作だけまったく違う構成であるので、
これを第4話という真ん中の方へ配置するのも、
やっぱり巧いなあという感じでした。
「第3話・魔法使いの国」は、本作の中で最も明るく、シリーズ中でも珍しい作品。
今回の「名言」(下の一言)はそこから頂きました。
「第8話・優しい国」は、読み終わった後に英名を見ると
少し哀しい気持ちに浸れます(?)。
そう、この副題の英名はなかなか巧いこと作っていますね。
和名とまったく違う意味であることが殆どですが、
どちらもちゃんと内容にマッチしているから凄い。

さて、次の第3作ではどんな国が待っているのでしょうか…。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「いや、ちょっと。人間の持つポテンシャルの高さと、低さについて悩んでるとこ」  (エルメス)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
297. 「工学部・水柿助教授の逡巡」     森 博嗣
2006.08.26 連作短編 254P 829円 2004年12月幻冬舎
2006年1月発行
幻冬舎ノベルス ★★★★★
水柿君がミステリ作家に!自伝的小説第2作


【100字紹介】
 N大学工学部助教授・水柿君と、
  奥さんの須磨子さんの物語第2弾。
  本作で予想通りミステリ作家デビューする水柿君の日々を描く。
  「あくまで小説」と明言されているが、
  森博嗣の日記本と併せて読むと更に楽しいかも? (100字)


水柿君シリーズ第2弾。です。
著者は「あくまで小説」と明言しているわけですが、
内容的には自伝と言ってもあまり間違ってはいないかと。
日記本の方とのリンクが多いです。
ただ、実際に少しずつ内容をずらしているのでしょう。
S&Mシリーズなどでもそういうことは多々ありました。
実際とちょっとずつずらした建物とか、土地とか。

前作「工学部・水柿助教授の日常」は、小説家になる前が描かれていました。
今回は、小説を書くきっかけから、
実際に小説家として活躍を始めた初期が描かれています。
何か、どこかで断片的に見たような(やっぱり自伝的要素は強いと思うな)。
でも日記本やエッセイで書かれる昔の姿は、
こんなに時系列で並んでいるのは他にはないので、
ああ、こういう感じだったんですねーというところ。
どこまでが実際にあって、どこまでが装飾のエピソードかは不明ですが。
でも概ね、実話なのではないかなあとそこはかとなく思う菜の花。

文章が思いっきり「森博嗣節」です。
何というか、受ける人と受けない人がはっきりしていそうな。
かくいう菜の花ははっきりしていませんが…。
基本的にはこの手の笑いは「面白くない派」ですが、
きっとこういうのが好きな人もいるだろうな、と思います。
それに、「こりゃ面白い!」というのもあるので、
また読もうかな、という気分にはなります。
気付くとすっかり、「森博嗣節」には慣れてしまった…。
結局、何だかんだ言いつつ、この作家が嫌いな訳ではないらしい、
というのが複雑な乙女心なのであります(何だそりゃ)。


というわけで、「森博嗣」的文章が苦手な人は避けて通るのが懸命な1冊。
好きな人は、さあ、どうぞ。好きなだけ読んで語って下さいませね。



主人公 : 水柿 小次郎
語り口 : 3人称
ジャンル : 連作短編
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 森博嗣的ポップ
結 末 : ハッピーエンド?
カバー・本文イラスト : 山下 和美
カバー・本文デザイン : 鈴木成一デザイン室
ブックデザイン : 高橋 雅之

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
298. 「キノの旅V」     時雨沢 恵一
2006.08.27 連作短編 208P 490円 2001年1月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★+★★
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第3作。
  国を巡ることは人を知ること。
  沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
  キノがまだ師匠についていた頃の話も。 (100字)


●収録作品●
--------------------------------------------
口 絵 愛と平和の国 ―Power Play―
プロローグ 雲の中で・b ―Blinder・b―
第一話 城壁のない国 ―Designated Area―
第二話 説得力 ―Persuader―
第三話 同じ顔の国 ―HACCP―
第四話 機械人形の話 ―One-way Mission―
第五話 差別を許さない国 ―True Blue Sky―
第六話 終わってしまった話 ―Ten Years After―
エピローグ 雲の中で・a ―Blinder・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第3作です。
内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言ですべてを言い尽くしています。
そもそも「言葉を話す二輪車」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

帯の文字は「だから僕は旅をやめない」、
巻頭の言葉は
「知っているのか知らないのか知っているのか
 ―Where is the terminal?」
相変わらず、併記の日本語と英語が別のことを言っているようですが、
これがまた、いい味ですね。各話のタイトルでも思いますけれど。
巧い…。こういうの、菜の花は大好きです。

連作短編ですが、各話は完全に独立。
旅をするキノは、滞在期間を1国につき3日と決めていて長居はしません。
また、同じ国に2度滞在することはありませんので、
物語にはあまり連続性はありません。
水戸黄門みたいな感じ?(大分違う?)

キノの性格等は、第1作・2作の感想でも触れたので省略。
本当に変わらない人なので、特にこの巻で言うことはないのです(笑)。
ただ、前の2作でも一話ずつ、昔のエピソードが混じっていましたが、
本作もまた一話、お師匠様をいた頃の話、が入っています。
1巻で1本ずつ、というのも、多すぎず少なすぎずでいいですね。
読者を飽きさせないし、放さない、という
「セールスの戦略性」が感じられます!?

ただ、本作は少し、中だるみ風な気分かも?
悪くはないですが、慣れてきてしまったせいか、
それともこれまでの作品がよかったせいか、
ちょっとインパクトは薄かったかもしれません。
今回の中でこれは!というのを挙げるなら、そうですね、
「第5話・差別を許さない国」でしょうか。
×××というのが何なのかが気になります…。

さて、次の第4作はもう手元に…。



菜の花の一押しキャラ…キノ 「オニだなー」(エルメス) 平和だなー(ほんとか?)
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
よみもののきろくTOP 時雨沢恵一の著作リスト
299. 「キノの旅W」     時雨沢 恵一
2006.08.29 連作短編 218P 490円 2001年7月発行 メディアワークス
電撃文庫
★★★★★
人間キノと言葉を話す二輪車エルメスの旅!


【100字紹介】
 人間のキノが、言葉を話す二輪車エルメスと旅をする物語第4作。
  国を巡ることは人を知ること。
  人間とそして世界の、美しさも醜さも。
 沢山の個性的な人が作り出す異世界都市国家を、
  キノとエルメスと一緒に旅しよう。
   (100字)


●収録作品●
--------------------------------------------
プロローグ 紅い海の真ん中で・b ―Blooming Prairie・b―
第一話 像のある国 ―Angel?―
第二話 ××××× ―Solo―
第三話 二人の国 ―Even a Dog Doesn't Eat―
第四話 伝統 ―Tricksters―
第五話 仕事をしなくていい国 ―Workable―
第六話 分かれている国 ―World Divided―
第七話 ぶどう ―On Duty―
第八話 認めている国 ―A Vote―
第九話 たかられた話 ―Bloodsuckers―
第十話 橋の国 ―Their Line―
第十一話 塔の国 ―Tree Lance―
エピローグ 紅い海の真ん中で・a ―Blooming Prairie・a―
--------------------------------------------

キノのシリーズ第4作です。
内容は、「人間キノと言葉を話す二輪車エルメスが旅する話」
…の一言ですべてを言い尽くしています。
そもそも「言葉を話す二輪車」ということで、舞台は異世界。
都市国家的な、完全に独立した国が国境を接することなく、
距離をおいて点在する世界です。

帯の文字は「キミを連れていくことはできない」。
第2話の内容なのかな…。
そう、ここで問題が!
第二話までは、カラー口絵の中にあるんです。
で、この本は公共図書館で借りたのですが、
カラー口絵って外れやすいんですよね…。
というわけで、数ページが抜け落ちていまして
これらが中途半端にしか存在していない本を手にしてしまったのです。
…内容不明…。
どれも2ページずつくらいの短いもののようなのですが、
うう、不覚。とりあえず、最初の方の物語不明です。
何だか損をした気分。

各話が完全に独立した連作短編で、長さはまちまち。
非常に短い作品は10ページに満たないくらい。

内容としては、とても理不尽だったり、矛盾に満ち溢れていたり、
その視点から見ると確かに正しい気がするのに、
視点が変わるとまったく別の姿が見えたりする…、
そういう世界を描いています。
そして主人公は何が正しい、という判断はしません。
ただ、淡々とその世界を駆け抜けていきます。
それによって何かの影響を受けることもなく…。
「第七話・ぶどう」などで冷静でいられるキノを見ていると
こうありたいけど、こうあれない自分にふと気付きます。
だって、思わず反論したくなるよ?これは。
でもそれに動じず、そしてこういう展開にする。
やっぱりなあ、と思うけれど、自分がぶち当たったら、
絶対こうはいかない。だからこそ、こういう物語を
読みたくなってしまうのかもしれないな、とも思います。

「第六話・分かれている国」も、外からの冷静の目だからこそ、
おかしみが感じられる作品。キノシリーズで一番多いパターンですね。
「第九話・たかられた話」だけは主人公がキノではありません。
これまでの第1-3作目にもずっと登場し続けていたシズ様&陸の話。
まあ、このお二方、「第四話・伝統」にもさらりと、しかもすごく
「らしい」エピソードで登場してくれるのですが。
この第九話は異色ですね。作者はきっと、バトルシーンが書きたかったのだろう、
と菜の花は推察しているのですが、さて。




菜の花の一押しキャラ…キノ 「ところで、魚のミイラと、獣のミイラ。どっちを食べるの?」(エルメス) 干物って、確かにミイラか?
主人公 : キノ
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ライトノベル
対 象 : 子供〜一般向け
雰囲気 : 静か。淡々とした
結 末 : 各話完結型
イラスト : 黒星 紅白
カバー・口絵・本文デザイン : 鎌部 善彦

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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