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(2006年5月…262-270) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年5月の総評
今月の読了冊数は9。
長中編4冊、短編2冊、その他4冊でした。
比較的、エッセイ率が高いかな。
コンプ計画中の著者の読了数は
椹野道流0冊、森博嗣3冊、高里椎奈4冊。
コンプ計画以外の著者さんの作品はわずかに2冊でした。
そして、椹野道流が0だったのは…実は気付いたら、
4月の時点で出版されていて図書館で手に入るものは、
すでに読みつくしていたようです。分野の関係で避けたものもありますが、
一応のところこれは…終結と言っていいのでしょうね!
やった!終了!もちろん、これからも出版されていくはずですので、
その都度追いかけていきたいと思います、はい。

さて、では菜の花的2006年5月のベストを。

 「探偵伯爵と僕」          森 博嗣  (評点4.0)

「探偵伯爵と僕」は森博嗣氏にしては珍しいシリーズ外のミステリ。
小学生の「僕」が探偵を職業とする「伯爵」を名乗る怪しい大人に出会い、
友人の行方不明事件に関わっていく、という真面目で愉快な子供向けのお話。
大人も十分楽しめる、年齢を問わない内容になっています。


以下、評価順に簡単に紹介するに留めます。
(同評価の場合は読了日順)

 「左手をつないで」         高里 椎奈  (評点3.5)
 「セッション 綾辻行人対談集」   綾辻 行人  (評点3.5)
 「実践型レファレンス・サービス入門」斉藤 文男 他 (評点3.5)

「左手をつないで」は、ドルチェ・ヴィスタ3部作の完結編。
「それでも君が」「御伽噺のように」とあわせて、全十話が繋がります。
シリーズの全貌が、最後の最後で明らかに…!?
なかなか面白い趣向になっています。読むときは必ず、3作まとめてどうぞ。

「セッション」は、新本格派の旗手、綾辻行人が
色々な人々と行なった対談・鼎談を10ほど収録。
本格ミステリ談義にホラー談義に、死体談義まで!?
おまけ漫画がとにかく面白い!最後の落ちで本当の綾辻氏が見えてくる!?

「実践型レファレンス・サービス入門」 は、図書館のお仕事を学ぶため、
教科書として読んでみた本です。全体が2部構成で、
前半に理論的、教科書的なお話、後半が実際の事例集です。
この後半、図書館員に限らず、誰が読んでもかなり面白いと思います。


 「ユルユルカ 薬屋探偵妖綺談」   高里 椎奈 (評点3.0)
 「ミニチュア庭園鉄道2」      森  博嗣 (評点3.0)
 「孤狼と月 フェンネル大陸偽王伝」 高里 椎奈 (評点3.0)
 「的を射る言葉」          森  博嗣 (評点3.0)

「ユルユルカ」は、高里椎奈の薬屋さんシリーズの第11作。
長編、としましたが、連作短編に近い形になっています。
それぞれの話に別のカラーがある全三話ですが、ちゃんと繋がっていて、
伏線が非常にうまく生かされています。キャラの安定感と不安定感の対比も際立ち、
なかなか技巧的な作品で、ラストもなかなか感動的。

「ミニチュア庭園鉄道2」が森博嗣の「ミニチュア庭園鉄道」の続編。
そのままですけど。森家のお庭にある欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の
日々の発展の様子などのレポートがサイト公開されていたのですが、
その文庫化です。オールカラーで、小さな写真群が可愛いエッセイです。

「孤狼と月」は、高里椎奈がついに異世界ファンタジーに進出した第1作。
その後も続く、少女・フェンベルクの物語の幕開けです。
王道ファンタジーですが、かなり暗い雰囲気が漂うところは
この手の作品では珍しいかも。ヤングアダルト向けです。

「的を射る言葉」は森博嗣のことば集。
かつて、サイトで公開していた日記で「本日の一言」として、
毎日UPしていた言葉を、とりまとめた本です。
日記をまとめて読んでいると、あ、あれだ!と
思い出すこともあるかも!?これだけ取り出すと、
何とも意味深な言葉になっていくのが不思議です。
趣向が面白い作品。


 「騎士の系譜 フェンネル大陸偽王伝」高里 椎奈 (評点2.0)

「騎士の系譜」はひとつ上にある「孤狼と月」の続編にして、
偽王シリーズの第2作。異世界ファンタジーのお約束、騎士が登場して、
ますます王道をひた走る!?のですが…。
今度は大きな国、ソルド王国の内乱に巻き込まれます。
流れはよいのですが、やや設定甘めなエンターテイメント作品になっています。



以上、今月の読書の俯瞰でした。








262. 「ユルユルカ 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2006.05.08 長編 319P 840円 2004年3月発行 講談社ノベルス ★★★★★
人と妖の葛藤。信じることの難しさを描く

【100字紹介】
 好きなのに好きと言えず、傍に居て欲しいのに突き放す。
  裏切られることに怯えるあまり、
  かけがえのない人を裏切ってしまう…。
  奇妙な事件に関わった刑事と少年と妖を通して、
  葛藤を描く薬屋三人組のシリーズ第11作 (100字)


高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第11作です。

今回はタイトルに「色」が入っていませんね。
そんな意味でも、著者にとっての「シリーズ中の異色作」だとか。
あとがきでも言及されるように、確かにシリーズの
他の作品と比べると「探偵」としてのエピソードではなく、
「妖」だからこそのエピソード、という感じです。

今回は殺人事件ではありません。
ミステリでもないでしょうか。
オカルトファンタジーですね。

全三話から成っていて、第一話はお馴染みの刑事、
高遠三次を中心に話が進みます。
幾つかの事件があって、高遠と父の関係を絡めながら
巧みにそれぞれの事件でも親子関係に
ほんのりとスポットが当たっている感じ。
テーマは親子愛か!?いや、親子の葛藤か。

第二話では、我らが深山木秋たち3人組が登場。
今回は妖のお祭りからスタートで、何だかとっても楽しそう。
こういう雰囲気は今まで意外になかったかも。
リベザルと一緒に、不思議な世界へれっつ・ごー!
そして、起こった事件。ちょっと嫌な感じですが、
めげない秋を見ていると、素直に頑張れ!と思ってしまいます。
一方でゆれまくりのリベザル。巧い対比です。

最終話は今回のゲストキャラ?の視点で、
これまでの総括がなされます。
第一話の伏線もよく生きていて、なかなか感動的。

キャラの安定感と不安定感の対比や、
展開上の伏線の張り方などの、いかにも技巧的な部分が、
著者をとても理系的に感じるのは菜の花だけでしょうか?
そう、まるで小説の書き方の教科書みたいなのです。
ただ、もう少しだけ、不安定感の方の描写に、
滑らかさがあると、技巧が物語の中に綺麗に溶け込んで
もっと名作になると思うのですが、まだそこまでは…、でしょうか。




菜の花の一押しキャラ…小浦(おさうら) 「ヘラえらい?褒めて褒めて」(ヘラ) 無邪気なこの人が大好きです。
主人公 : 深山木 秋
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトファンタジー
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル、やや暗い
結 末 : 一件落着、ハッピーエンド
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
263. 「ミニチュア庭園鉄道2 欠伸軽便鉄道弁天ヶ丘線の大躍進」     森 博嗣
2006.05.13 エッセイ 182P 1100円 2004年8月発行 中公新書ラクレ ★★★★★
サイト公開された森博嗣宅庭園鉄道レポート


<100字紹介>
 真剣に遊ぶこと、そして自分が満足すること。
  簡単なようで非常に難しい…。
  森博嗣の「趣味道」驀進の記録第2弾。
  サイト公開されたレポートを、
  可愛いフルカラー写真でまとめた1冊。
  人生を楽しみたいすべての人に。 (100字)


タイトルからも明らかなように、
前作「ミニチュア庭園鉄道」に続く、
趣味の庭園鉄道レポート第2弾。

前作で、比較的不親切だな、と思ったのは
線路の全景が謎だったことでしたが、
今回は冒頭で「庭園鉄道の線路配置図」を掲載。
これを見れば、欠伸軽便鉄道がどこを走っているか、
紙上ながらある程度の追体験可能です。
面白ーい。

前作では、サイト上に公開された各レポートのあとに
2−3ページの短い解説のようなエッセイが入っていましたが、
今回はそれはなくなって、サイトのレポートが
ほぼそのまま収録されている模様。
巻末には、庭園鉄道のための「社長視察記録」として、
お出掛けの記録が入っています。
これもサイトの記録かどうかは不明。

今回も色々と作ってくれます。
でも前回の方が、ゼロから作る感があって
見ている方はもっと楽しかったかも。
だんだん、細かくなってきました。
ただ森氏と志を同じくする趣味人には、
もしかしたらこたえられない内容なのかもしれません。

線路などはすっかり増えていて、
延長はしていますが既線は大きく変わっていない感じ。
まあ、それが耐久性というものかもしれませんけど。
「視察記録」で登場したガリバー線と比べると、
わびさびっぽい感じがこの鉄道の売りかも?
落ち葉の散った欠伸軽便鉄道は、確かに風流です。


力いっぱい楽しんでいる著者の姿勢がよく伝わる1冊。



テーマ : 鉄道模型
語り口 : サイト公開のレポート形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般〜軽度マニア向け
雰囲気 : よみもの
装幀 : 中央公論新社デザイン室

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
264. 「孤狼と月 フェンネル大陸 偽王伝」     高里 椎奈
2006.05.14 長編 232P 780円 2004年5月発行 講談社ノベルス ★★★★★
失意の果ての真実…王道ファンタジー開幕!

【100字紹介】
 大陸東端の大国・ストライフ王国。
  グールを従え順調に戦果をあげる幼い指揮官
  フェンベルクだが運命は突然、
  彼女を奈落の底へ突き落とす。
  投獄、国外追放、失意の果てに見た真実とは…。
  高里流王道ファンタジー第1弾 (100字)


高里椎奈の新シリーズです。
ファンタジー。ついにこの人も!
ファンタジーに進出!ですか。
まあ、もともとファンタジー系ですけど。

しかしこれは、著者いわく「王道ファンタジー」。
それは間違いないですね。
舞台はまったく架空の大陸。
その東端の大国・ストライフ王国は山がちで、
悪鬼(グール)という、見た目も恐ろしい強靭な肉体を持つけれど
知能の低い生物が多く生息しており、
彼らを鉱夫や兵士として使役している国です。
他国では、住み分けしていてお互いに近寄らないということ。
労働力としては重宝していても、
グールに対して嫌悪感を隠せないストライフの人々は、
そのグールを従える獣兵団を指揮する、
主人公のフェンベルクにも微妙な感情を持っている感じ。

そんなフェンベルクが巻き込まれていく運命は
とても辛くて哀しいもの。
そういうところがとても高里流。
さすがです。ひととひと、ひととひとでないものの
つながりの葛藤を描くのが大好きなこの作者ならではの暗い展開。
これが高里椎奈の持ち味だよなーと思ってしまうくらい。
勿論、最後にトンネルから抜け出して、
明るい笑顔を見せるのも忘れません。
最後に出会う真実、というのも、
いかにもミステリに憧れをもつような文章を書く、著者らしい展開です。

そう、ひとことで言えば、とても「らしい」作品。
王道ファンタジーと高里流が交わると、
絶対こうなるよね!と読後に思わずにはいられません。
単なるエンターテイメントのライトノベルではなく、
ちょっと重くて暗いけど、でもやっぱり娯楽のためのファンタジー。

次作がとても楽しみですね。
さてどういう展開に発展するつもりでしょうか?




菜の花の一押しキャラ…メネファ・(中略)・ユイジーン 長いよ!早口言葉みたいだよ!君の名前! 「一昨日の砂嵐で物見台がおしゃべりに」(フェンベルク) 木製の物見台にガタがきているらしい
主人公 : フェンベルク・ストライフ
語り口 : 3人称
ジャンル : ファンタジー
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : ライトノベル系、暗い
結 末 : まあハッピーエンド
イラスト : ミギー
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
265. 「探偵伯爵と僕」     森 博嗣
2006.05.18 長編 354P ?円 2004年4月発行 講談社 ★★★★
探偵伯爵と悲しい事件に出会った「僕」記録


【100字紹介】
 夕方の公園で、小学生の僕は伯爵に出会った。
  伯爵は探偵だけど、何だか怪しい大人だ。
  そして夏祭りの夜、友達が行方不明になって…
  僕と伯爵の捜査が始まる!
  子供向けだが大人も十分楽しめる、
  真面目で愉快なミステリ (100字)


何と驚き子供向け。
図書館で児童書のコーナーに別置されていたので、
探しに行くのにちょっと勇気がいった作品です。
しかも見つからなかったし!諦めて予約を入れたのでした。

子供向けということで、易しい表現にするためか、
森博嗣にしては珍しい1人称を採用。しかも子供の。
この子供がまた、森博嗣らしい子供でして、
もうこまっしゃくれたというか何というか、
純真無垢な可愛い子供像とはかけ離れた素敵なキャラ。
でも凄く納得。ええ、菜の花もこんな感じの子供だったかも。
リアリティあり?

ところが。そこに登場する「伯爵」ときたら、
もうリアリティの欠片もないと言うか、
何だこの怪しさ爆発のキャラは?
こんなのが子供と一緒にいたら、明らかに怪しいだろ!
という凄さです。

この2人が出会って、そして繰り広げる会話が面白すぎ。
リアリティを背景に背負って出てきた「僕」は、
リアリティ無視の超絶キャラ「伯爵」を、
怪しいと感じたり、嘘つきだと疑ってみたり、
ずるい大人なんじゃないか、と思ったり忙しいのです。
でも、何か一緒にいるんですね。
この2人の対比の面白さ。
そしてそれを自然な流れで持っていく巧さ。
いつの間に森博嗣ってば、
こんなにテクニシャンになったの?という感じ。

中盤、事件が始まって以降の展開は、かなり王道的。
さすがに子供向けですし、読みやすさなど重視でしょうか。
前半でコミカルな「伯爵」と「僕」のやり取りの中で、
ぽんと出てきた「真面目な話」がそのあとに生きてきます。
その生かし方、またそれを更に深くするために
途中で明らかになる事実などが、この物語のテーマのひとつかも。

子供の読み方は大人よりきっと自由度が高いのです。
だから、子供によっては、その「真面目に考えさせる」テーマを
この物語から読み取って、自分の中での思考の種にするでしょうし、
また別の子供は、「僕」の大人に対する考え方に共感するでしょうし、
また別の子供は、「僕」のどきどきするような活躍を、
「僕」になった気分で楽しむことでしょう。
ひとつではない楽しみ方を、沢山盛り込んでいながら
すっきりとした仕上がりにしているのは、巧い感じ。

ラストに明らかになった事実によって、
某キャラが突然リアリティを帯びたりするのですが、
その変化もとても面白かったですね。

子供向けだけど子供だましでない、素敵なミステリです。



菜の花の一押しキャラ…アール 「なんか悪いことしたんでしょう?」   「違う。私がそんな人間に見えるかね?」 「うん、ちょっと。」   (伯爵&僕)
主人公 : 馬場 新太
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 小学生〜大人向け
雰囲気 : 真面目だがコミカル
結 末 : 一件落着
イラスト : 山田 章博
装幀 : Tetsuya Kojima(Seikosha)

文 章 : ★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
266. 「左手をつないで ドルチェ・ヴィスタ」     高里 椎奈
2006.05.20 連作短編 158P 720円 2004年10月発行 講談社ノベルス ★★★+
シリーズ全十話の短編が最後に繋がる完結編

【100字紹介】
 31人だけが生きる世界の謎に迫る第1弾「それでも君が」。
  金寛、芦柑、竹流、ジャファ…彼らに起きた物語を描く
  第2弾「お伽噺のように」。そして、完結編の本作。
  謎に包まれたシリーズの全貌が、
  ついに明らかに! (100字)


ドルチェ・ヴィスタシリーズの第3作にして完結編です。
全5話+エピローグ。そしてある意味プロローグか?
捩れた世界とは作者談。まったくその通り…。
その真意は、読めばわかると思います。

シリーズとしては、まとまりがあるのかないのか、
読んでいる途中では微妙だな、と思ったのですが、
終わってみて腑に落ちるような、落ちないような。
それもまた微妙で。ちょっと唐突感あり。
ちゃんと伏線は入っているはずなのですが。
でも、それぞれのお話が秀逸です。

5話のお話は、全体で中編の長さなので、相当短い短編。
すべて50ページを切る長さですが、
それぞれが魅力的で、少し切なくて、温かい。
高里椎奈らしい「味」が、
いい方によく出ているな、という感じ。

また、一貫したテーマが漂っているのに、
非現実感というか、夢見るようなふわふわした精神的な雰囲気から、
周りのすべてがくっきりと刻んできた時を映し出し、
思いっきり現実感あふれる背景のお話まで、
それぞれのカラーはまったく違うというのも面白いですね。

ほんのり切なく、ほんのり温かい。
そういう線を狙いたい方にお勧め。




菜の花の一押しキャラ…蓼科 佳代子 凄い夫婦喧嘩の仕方をするところに惚れました! 「随分とまあ、幅広く連れてきたもんだね」(蓼科 佳代子) 雨漏り修理のメンツが大人と少年と、幼女だったための台詞
主人公 : 金田 寛治ほか
語り口 : 3人称
ジャンル : ファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 少し切なく温かい
結 末 : ぐるぐる回る
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
267. 「セッション 綾辻行人対談集」     綾辻 行人
2006.05.22 エッセイ 284P 476円 1996年11月集英社
1999年11月発行
集英社文庫 ★★★+
本格談義に趣味の話題まで!綾辻行人対談集

【100字紹介】
 宮部みゆき、楳図かずお、養老孟司、大槻ケンヂ、
  京極夏彦、北村薫、山口雅也、瀬名秀明、篠田節子、
  法月綸太郎、竹本健治・・・錚々たる11名と
  綾辻行人との対談・鼎談集。
  綾辻行人の作品を読み解く鍵がここに!? (100字)

綾辻行人が雑誌の企画などでこれまでに行なった対談・鼎談を
10ほど集めてきた対談集。相手は作家と限っていません。

それぞれの対談記録のあと、1つにつき2−3ページで
対談相手についての綾辻行人のコメント「○○さんのこと」が入ります。
また、巻末にはおまけまんがとして西原理恵子の「それゆけあやつじくん」、
文庫オリジナルおまけまんがとして国樹由香の「がんばれあやつじさん」
が収録されています。

対談の方は、本格談義が多いかな、という印象。
V.S作家だと、特にその傾向が強いでしょうか。
でもぱらぱらっと読み返してみると、圧倒的にそうだ、
というわけでもなく、ただその印象が強かっただけだと気付きます。
実際は、ホラー談義とかも多いですねー。
養老氏が相手なら死体談義もあるし(怖い〜(笑))、
大槻氏が相手なら音楽な話も、と対談相手に合わせて、
色々な話題が出てきます。何となくおもむくまま、という話が多く、
ここから何かを読み取る、というのはなかなか…。
でもこれだけあると、あ、さっきも綾辻さん、
こんなこと言ってたぞ!とか、だんだん綾辻氏の輪郭が
見えてくるような気がしてくるのです。
まるで、付き合ううちに友人の本質が見えてくるように。
別に自分が綾辻氏としゃべったわけでもないのに、
何だか何度もお話したような気分になるというか…。


個人的に最高に受けたのは、やっぱりおまけ漫画。
悪辣、毒舌!?な西野漫画、綾辻氏が「嫌だー」と反発しつつ
やはり文庫になっても消さなかっただけのことはあります。
国樹漫画はとにかく可愛い!
絶対、綾辻氏はここまで可愛くない!(笑)などと思いつつ。
そして最後のオチ。これはもう、読まないと分かりません。
面白すぎです。ああ、こう落とすのか!という感じで。
綾辻氏の真の姿を見てしまったような…。

テーマ : 本格や小説を中心に対談
語り口 : 口語
ジャンル : 対談集
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 本格好きなんだなあ
結 末 : おまけまんがでオチ
漫 画 : 西原 理恵子、国樹 由香
   +喜国雅彦
デザイン : 京極 夏彦 with FISCO

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
268. 「騎士の系譜 フェンネル大陸偽王伝」     高里 椎奈
2006.05.28 中編 230P 780円 2004年12月発行 講談社ノベルス ★★★★★
国の内乱に巻き込まれたファンタジー第2弾

【100字紹介】
 愛する兄の裏切り、投獄、国外追放…
  悲しき過去を持つ13歳の王女・フェンベルクは
  ソルド王国に辿り着き、騎士見習いの少年と出会った。
  親友となった2人は内乱の計画を偶然耳にしてしまい、
  命を狙われることに…! (100字)


フェンネル大陸シリーズの第2作。
ようやくシリーズタイトルの意味が分かったかも!?な続巻です。

前作は主人公の紹介というか来歴を語るための序章、
という位置づけで、本作からようやくメインの事件がスタート、
といった感じです。いつの間にか主人公が仲間(?)連れて
旅に出ている!というところが、とてつもなく王道ファンタジー。
何故かファンタジーは、旅に出ないと駄目らしい(笑)。

前作からは3ヶ月の時が流れ、フェンは新しい土地へやってきます。
その土地でひょんな事件で出会った少年と、更にどうしようもない
事件に巻き込まれていく、というお話。
もうひとりの主人公は、騎士団長・シルフィードかな。
お約束の、若くて有能で、部下の信頼篤い青年騎士。
王に忠誠を誓い、物事にも動じず、真っ直ぐに任務を遂行し、
自分の信じるものに向かっていく彼ですが、さて、
どんな真実に出会うことになるでしょうか…。

そして前作で単発キャラとして終わらすには惜しいけど、
もう出てこないだろう、と思った「あの人」が再登場。
しかも何やら次作でも出てきそうな予感…。
一体彼は何者なのか!?というお楽しみもあります。
まだ分からないんですけど。ますます謎は深まるばかり。。。
さて、誰でしょう?それは読んで探してみて下さい。


ストーリーとしては綺麗に流れていますが、
全体にちょっと設定が甘いかな、と感じます。
そんなの幾らなんでも気付くだろ!というところもあるし、
そんなの気付かないような適当な体制で、
こんな大きな国は成り立たないでしょ!と突っ込みたくなるとか、
何でそのキャラをそこで殺さないのー、それはあり得ないでしょ!
やっぱ一思いにやっちゃうべきでしょ!?と不思議になるとか。
ちょっと子供だましという感がぬぐえない感じ。
普通に考えると少々無理がある気がします。
別に、田中某氏の某スペースオペラのように
何十ページも費やしてその世界の歴史を語れとか、
小野主上のように作品には実際には描写がない部分まで、
重箱の隅をつつくのではというほどの細かい設定をせよ、
とかそこまでは言いませんけど。
一応、ミステリ系作家のはずであるこの著者ですから、
もう少し細かく設定してもよいのでは・・・くらいで。

しかし、どんでん返しはなかなか面白いものです。
おーっと、そうくるか!という素敵な終盤。
さすがミステリ系作家!と思わず手を叩きたくなるというか。
その分、設定の甘さがやっぱり残念なのですよね。
もう少し、厳しい目で作りこんで欲しかったな、というのが
率直な印象です。折角面白いんですから。

しかし。勿論、次作も読んじゃいますよー。
いやー、どうなっちゃうんだろー。どきどき☆なんて期待しつつ…。




菜の花の一押しキャラ…サチ 「俺の知らない所で勝手にくたばるな」 「気を付けます」           「………」                     (テオ&フェンベルク)
主人公 : フェンベルク
語り口 : 3人称
ジャンル : ファンタジー
対 象 : ヤングアダルト向け
雰囲気 : 少々詰めが甘い
結 末 : 一件落着、でも新たなる始まり
イラスト : ミギー
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーデザイン : 斉藤 昭 (Veia)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★+★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
269. 「JLA図書館実践シリーズ1 実践型レファレンス・サービス入門」     斉藤 文男・藤村 せつ子
2006.05.29 図書館 162P 1800円 2004年7月発行 日本図書館協会 ★★★+
豊富な事例で学べる実践型レファレンス入門

【100字紹介】
 利用者の調べ物を、調査探索技術や現物調達能力を駆使して
  手伝うのがレファレンス・サービス。
  レファレンス・サービスとは?から始まって
  実際の事例集&回答解説まで、
  まるごと1冊レファレンス!
  誰もに易しい入門書 (100字)


公共図書館のレファレンス・サービスを知るには格好の教科書です。
図書館学の学生や、図書館員に限らず、一般にも広く
「レファレンス・サービスを知ってもらいたい」というコンセプトで
書かれているため、かなり平易で、しかも幅広くなっています。
広く浅くというところでしょうか。

T部はレファレンス・サービスを理論的というか、
いかにも教科書的に説明。勉強にはなりますが、挫折してしまいそう。
しかしここで諦めてはいけません。
U部は実際のレファレンスの事例集。
これがもう、とっても面白いです。
でもT部をちゃんと読んで、基礎を踏まえたからこその面白さかも。
いやだがしかし、図書館員としてはU部の方が読みごたえがあると言いますか、
堅焼きせんべいくらいの勢いと言いますか…。
これをきっちり読み込むのは、なかなか大変!
思わず自分で演習しながら読んじゃうようになったら、
あなたも立派なレファレンサー?

菜の花は図書館でレファレンス担当の掛ですので、
思いっきりこれは専門のはずですが、
実際は大学図書館であるため、こういう質問は皆無。
大学図書館では、こういう質問はないのです。
だから直接役に立つ、というわけではないのですが、
それでも基本形はまったく同じ。
研鑽の仕方は少し違うかもしれませんが、それは瑣末なことで
大きな流れとか形とか、あとは「こんな資料が世の中にはあるのか!」
というところでは、大変勉強になった1冊でした。
これを読む前と読んだ後では、明らかに、
レファレンスの心構えとか、メモの取り方とか、
話し方とか変わったと思います、ええ。

もしもあなたがレファレンスに関係する方だったら…、
またはレファレンスって何?と興味をもたれたとしたら、
是非この本を手にとってみましょう。
きっとあなたのお役に立つはずです。



テーマ : レファレンス・サービス
語り口 : 説明&メモ
ジャンル : 図書館
対 象 : 一般〜図書館関係者向け
雰囲気 : 丁寧

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
270. 「的を射る言葉」     森 博嗣
2006.05.29 エッセイ 172P 1200円 2004年9月発行 講談社 ★★★★★
森日記「本日の一言」が再編集されて登場!


【100字紹介】
 サイト公開されていた森博嗣の日記の冒頭「本日の一言」を
  選定・再配置した「ことば集」。108のテーマに、
  それぞれいくつかのことばを自由にレイアウト。
  的をぎりぎりかすめるような
  鋭く「切れる」言葉をどうぞ。 (100字)


森博嗣といえば、オフィシャルサイト「浮遊工作室」での日記が有名で、
そのまま出版した国語辞典もびっくりな分厚さ(?)を誇る
「I say Essay Everyday」シリーズがあります。
その一連の作品の読了者ならきっと知っていらっしゃることと思いますが、
日記の冒頭に「本日の一言」という1行の短文が毎日入っていました。
本作「的を射る言葉」はこの「本日の一言」を集めた作品です。

と言っても、それらが順に並べられている、というわけではなく、
テーマごとにまとめて、しかも余白たっぷりで
まるで詩集のように、凝ったレイアウトに仕上げています。

そしてテーマと言っても…、
「未来」とか「季節」とか、どこか詩的なものから
「商売」だの「ギャンブル」と言った雑多な言葉まで様々。
テーマというより、タイトル、と言ったほうが正しいかもしれません。

元々書かれていた日の日記を覚えているような人が読むのと、
何も知らずにいきなりこの本を手に取った人が読むのでは
全然受け取りかたが違うかもしれません。
たとえ、背景を知っていても、単独でこの言葉が出てくると、
ふっと考えさせられたり。なかなか面白い趣向です。

「的を射る言葉」の意味について、
またこの本の概要についてはあとがき「的を射ないあとがき」に詳しく、
菜の花がここで書くよりもより的確な表現が
著者によってなされていると思われます。
それを先に読んだからといって、この本の魅力は、
失われる性質のものではないので、もしも本作が気になったら、
とりあえず見開き2ページのあとがきを読んでみて下さい。
興味が沸いたら買ってみたり、借りてみたりしてみましょう。



テーマ : ことば
語り口 : 断片的な文章
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 抽象的
結 末 : -
装幀 : 一瀬 錠二(Art of NOISE)

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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