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(2006年3月…245-254) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年3月の総評

今月の読了冊数は10。
長・中編3冊、短編4冊、その他3冊でした。
長編少ないですねー。そして短編がこんなに!
短く攻めたかったのでしょうか。

コンプ計画中の著者の読了数は
椹野道流2冊、森博嗣2冊、高里椎奈1冊で、全体の半分。
なかなかいいバランスで読めた月かな。

さて、では菜の花的2006年3月のベストを発表ー。

「亜愛一郎の狼狽」 泡坂 妻夫   (評点 4.0)

泡坂妻夫デビュー作「DL2号機事件」を含む短編集です。
同時に亜愛一郎3部作の第1作にして、最初の登場でもあります。
亜愛一郎は、長身で端麗な顔立ちなのに、運動神経はまるでなしの青年カメラマン。
作品自体は菜の花が生まれる前のものながら、
この設定って今では王道ですらありそうな
「ギャップのあるかっこいい系探偵」ですよねー。 



以下、高評価順に簡単に紹介していきます。
(同評価の場合は読了日順)

「安倍清明 陰陽師 伝奇文学集成」 志村 有弘  (評点3.5)
「森博嗣の浮遊研究室2 未来編」 森 博嗣   (評点3.5)
「秘密クラブ、海へ行く!」    椹野 道流  (評点3.5)
「森博嗣の浮遊研究室3 宇宙編」 森 博嗣   (評点3.5)
「電子の星」           石田 衣良  (評点3.5)
「風神の門(上)(下)」       司馬遼太郎  (評点3.5)

「安倍清明 陰陽師 伝奇文学集成」は、安倍清明または陰陽師に関するアンソロジー。
作品発表年代は広範で、大正時代〜平成まで12作品。
また中編もあれば短編もあり、さらに戯曲もあり。
様々な作家の描く様々な陰陽師を愉しめます。

「森博嗣の浮遊研究室2 未来編」「森博嗣の浮遊研究室3 宇宙編」はどちらも、
森博嗣の小説系エッセイの2巻3巻。ジャンルが定めがたい独特の会話形式です。
複数キャラがわいわいと、ひとつのトピックについて自由気ままに会話するのが愉しい♪
WEBダ・ヴィンチ連載作品の単行本化でもあります。コジマケンのイラストが秀逸。

「秘密クラブ、海へ行く!」 は、椹野道流の学園オカルトファンタジー、第3弾。
オカルトと見せかけて実は、ついに初インターハイに望む藤堂君の成長物語かも!?

「電子の星」は池袋ウエストゲートパークの第4作目。
ドラマ化もされた人気作であり、著者・石田衣良氏の代表作。
クール&ライトに描かれたストリートの危険な青春の世界です。

「風神の門(上)(下)」は御大、司馬遼太郎の忍者もの時代小説。
主人公は霧隠才蔵で、舞台は関が原以降の豊臣対徳川時代から大阪城落城まで。
自分の判断だけで生きてきたはずなのに、振り返れば運命に翻弄されているという
人としての悲哀が描かれている作品。ラストの笑顔が温かいです。


「鳴釜奇談」          椹野 道流 (評点3.0)
「お伽話のように」       高里 椎奈 (評点3.0)
「悩まない技術」        辻 裕美子 (評点3.0)

「鳴釜奇談」は、椹野道流の「奇談シリーズ」の第24作。
ちょっとBL入った、オカルトライトノベル。
恒例の観光案内(?)は今回の舞台が岡山ということで、
紅殻が名産だった吹屋、笹畝坑道、そして吉備津彦神社の鳴釜神事です。

「お伽話のように」は、「ドルチェ・ヴィスタ3部作」の2作目。
「薬屋さん」シリーズがオカルトで「目に見えないものを書く」
のと対照的に「目に見えるものを書いた」不思議な現代ファンタジー。

「悩まない技術」は、深く悩まないための方法を54の公式を臨床家が提案する教養本。
特に突飛な提案ではないのですが、読み進めるほどにまるで心理セラピーを受けて
リラックスしていくような、大変、易しくて、優しい本です。
読後にはきっと、気分がふっと軽くなっている自分を発見することが出来るでしょう。




以上、今月の読書の俯瞰でした。








245. 「安倍清明 陰陽師 伝奇文学集成」     志村 有弘編
2006.03.04 アンソロジー 354P 1900円 2001年11月発行 勉誠出版 ★★★+
安倍清明・陰陽師を題材とした文学作品集成

<100字紹介>
 明治時代から今日にいたる、近・現代作家が描いた
  安倍清明、陰陽師に関する文学作品集。
  謎に満ちた出自や優れた才能が魅力的な、
  陰陽師の数奇な運命、霊妙不可思議な行動を、
  様々な作家たちの様々な視点で楽しもう。 (100字)


安倍清明、または安倍保昌などが主人公に据えられた作品集。
中編もありますが、基本的には短編。戯曲もあり。

収録作品は以下の通り。()は初出の年。

--------------------------
高橋 克彦 「視鬼」 (平成3年)
夢枕 獏  「鉄輪」 (平成8年)
群  虎彦 「鉄輪」 (大正時代、年不明)
三島 由紀夫「花山院」(昭和25年)
澁澤 龍彦 「三つの髑髏」(昭和54年)
宗谷 真爾 「陰陽師」(昭和43年)
谷崎潤一郎 「鶯姫」 (大正6年)
小松 左京 「女狐」 (昭和43年)
原  巖  「葛の葉物語」(昭和11年)
藤口 透吾 「艶筆葛の葉物語」(昭和32年)
松居 松葉 「玉藻前」(昭和4年)
水澤 龍樹 「魂虫譚」「陰陽師・安倍保昌」(平成7年)
--------------------------

また「説話世界の安倍清明」として、
今昔物語などの該当部分の現代語訳が志村有弘訳であります。


菜の花は偏り読書の帝王ですから、この中で既読は
夢枕獏の「鉄輪」ただ一編。
でも、そんな菜の花もこれで安倍清明文学に関しては
いきなり一人前!?なくらいかも。

とにかく、一気に沢山の作家さんの作品が読めます。
何てお得!しかも同じテーマの作品ばかりですから、
雰囲気も壊しません。
いや、アンソロジーって初めて読みましたけどいいですね。
かなり古い時代の作品も多く、著作権の切れた作品を全文公開する
「青空文庫」に掲載されているものもあります。

作家さんによって、同じような題材を扱っても、
こうまで様々な色があるのだなあと思わされた1冊でした。




テーマ : 安倍清明、陰陽師
語り口 : 3人称
ジャンル : アンソロジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 歴史、オカルト
結 末 : 様々

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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246. 「鳴釜奇談」     椹野 道流
2006.03.05 長編 270P 600円 2005年9月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
十牛図の第二図【見跡】に導かれる第24作


【100字紹介】
 敏生の体調不良により、術者の仕事を休んでいる
  天本のもとへ、司野とエージェントの早川がやってきた。
  彼らが差し出したのは十牛図の第二図「見跡」!?
  忌まわしい記憶を胸に、司野とともに
  天本たちは一路、岡山へ! (100字)


椹野道流の「奇談シリーズ」の第24作。
(CDブック3作品を除く。)
10代女性向けのライトノベルシリーズです。

ここまで来ると、実際読者は全部読了しているのだろうか!?
とちょっと心配になったりするわけですが、
ストーリー漫画を1巻飛ばして読む人は少ないわけでして。
ノリとしてはそういう雰囲気です。
コミック系ノベルということですね。
というわけで、以降はこのシリーズをここまで読んだ人にしか
分からないような内容でお送りします(?)。


今回は「尋牛奇談」からスタートした「十牛図」を巡る
トマス・アマモトとの戦い編・第2弾。
「十牛図」第二図は【見跡】で、牛の足跡を見つけた、
まだまだだけど、目標物の影だけは実際に確認したぞ、
という図、そしてストーリー。
トマス・アマモトの真の狙いと、現状がついに明かされる!?
というどきどきの巻です。


恒例の観光案内(?)は今回の舞台が岡山ということで、
紅殻が名産だった吹屋、笹畝坑道、そして吉備津彦神社の鳴釜神事。
毎度のことながら、いいなあ!旅行行きたーい!
な気分にさせてくれる作品です。




菜の花の一押しキャラ…龍村 泰彦 「まったく、お前は昔からそういう薄情なところがあるぞ。反省しろ」 (龍村 泰彦)
主人公 : 天本 森、琴平 敏生
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルト・ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト、ややBL
イラスト : あかま日砂紀
結 末 : 一件落着、続く。

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
247. 「森博嗣の浮遊研究室2 未来編」     森 博嗣
2006.03.09 エッセイ 262P 1400円 2003年10月発行 メディアファクトリー ★★★+
WEBダ・ヴィンチ連載作品の単行本化!


<100字紹介>
 WEBダ・ヴィンチで連載されていた同名作品の単行本化。
  助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
  4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイ第2弾。
  ちょっと時間の空いたときにくすり、と笑えるシリーズ。 (100字)


タイトルを見れば自明ですが、「森博嗣の浮遊研究室」の続編。
WEBダ・ヴィンチに週刊連載されているものの書籍化ということで
前作ではVol.1-Vol.50までの50回分が収録されていたのですが
あまりの分厚さに閉口して、今回は30回分の収録。
つまり、Vol.51-Vo.80のバックナンバー+αのおまけつき、
となっています。

勿論、前作から1週間のブランクで引き続く週刊連載なので、
「浮遊研究室」と同じつくりになっています。

「ご案内」にて森博嗣の殆どきままなエッセイからスタートし、
「今週の一言」「今週の諺」「今週の新商品」などの
「へ?」と思うに違いない創作が続き、
メインの会話部分がスタートします。
毎回複数のトピックが取り上げられ、
これに関して、4人のキャラが話します。
4人とは、助教授・森博嗣、助手・上前津伏見、
秘書・御器所千種、隣の研究室の助教授・車道栄。

+αのおまけは、前作では「御器所千種」の
はみだしコメントにあるクイズの解答と、
「衝撃の告白」+「キャラ座談会」でした。

いや、「衝撃の告白」は本当に凄かったのですが、
あれはあの1冊にしか収録されておらず、
webでは勿論のこと、この第2作でも明言されません。
気になる方は第1作を読んで下さいね。


複数キャラがわいわいと、ひとつのトピックについて
自由気ままに会話します。
勿論意見は色々な方向性をもっていて、その視点の違いが面白い。
日記本よりも、そういう意味で読者も共感が持てるかもしれません。
会話形式のせいか、もうどんどん違う方向へ行ってしまうこともあり、
そういうところもまた、生きた会話という感じで面白いのです。
ちょっと人恋しくなったときに読みたかったりして?




主人公 : 森 博嗣(?)
語り口 : 会話形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : クール&ポップ
結 末 : 1トピック完結
イラスト : コジマケン
ブックデザイン : 大路浩実・植松美紀

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
248. 「お伽話のように ドルチェ・ヴィスタ2」     高里 椎奈
2006.03.10 連作短編 248P 780円 2003年3月発行 講談社ノベルス ★★★★★
目に見える世界なのに不思議なファンタジー


【100字紹介】
 ユートピアは、ただ全力を振り絞って歩き続けるうちに、
  ふと刹那、立ち現れ、通り過ぎなければならない
  オアシスのようなもの。目に見えるものだけを描いているのに、
  不思議がいっぱいの高里流現代ファンタジー短編集 (100字)


講談社ノベルスの記念企画「密室」で出された
「それでも君が」の続編にあたるドルチェ・ヴィスタ2。
連作短編集で、それぞれの話は独立。
高里椎奈作品では、シリーズ主人公が必ずしも
視点中心にならないのが普通ですが、本作も同様。
それぞれの中心視点がすべて異なります。

前作のあの世界観が好きな人は、読むと驚くかもな作品。
一体どこが続編なのか、皆目見当がつかないのです。
菜の花も最初、頭の中に「?????」が飛び交いました。
でも、読了してみると、何となく分かります。
骨組みというか、ストーリーの雰囲気というか、
そういう直接的でない部分が確かに、似通った部分があると。
まあ、それだけではないのですが、
伏せておいた方が愉しいので、それについては言及せず。

それぞれの話でミステリ的サプライズがありますが、
まあ、読んでいれば予想のつくものが多いです。
むしろそちらに気をとらせておいて、
無防備になっているところに、もっと読ませたいものを
読者の中に滑り込ませてしまう感じ。マジシャンか!

一応、現実的なのに、雰囲気としては間違いなくファンタジー。
「薬屋さん」シリーズがオカルトで「目に見えないものを書く」
のと対照的に「目に見えるものを書いた」と
あとがきにありましたが、目に見えるもの、
見えないもののどちらを書いても、ファンタジーはファンタジー
なのだなあと思った次第。

ちなみに3部作で、あと1作で完結予定とのこと。




菜の花の一押しキャラ…波子 「ジャファちゃんは、大きくなった何になりたい?」 「ベンガルトラ」                 (萩月&ジャファ)
主人公 : -
語り口 : 3人称
ジャンル : 現代ファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 幻想、叙述ミステリ的
結 末 : 悲しいけどハッピーエンドか?
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーデザイン : 斉藤 昭(Veia)

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
高里椎奈の著作リスト よみもののきろくTOP
249. 「亜愛一郎の狼狽」     泡坂 妻夫
2006.03.12 連作短編 382P 680円 1978年5月幻影城
1994年8月発行
創元推理文庫 ★★★★
泡坂妻夫デビュー作を含む、名探偵連作短編


【100字紹介】
 泡坂妻夫デビュー作「DL2号機事件」を含む短編集。
  長身で端麗な顔立ちなのに、運動神経はまるでなしの
  青年カメラマン亜愛一郎、一旦事件に遭遇すると
  独特の論理を展開し並外れた推理を展開する…魅力的な全8話。 (100字)


●収録作品一覧   ()は菜の花の覚書
-----------------------------
第1話 DL2号機事件 
第2話 右腕山上空   (密室もの)
第3話 曲がった部屋
第4話 掌上の黄金仮面
第5話 G線上の鼬
第6話 掘出された童話 (暗号もの)
第7話 ホロボの神
第8話 黒い霧
-----------------------------


「DL2号機事件」が泡坂妻夫氏のデビュー作であり、
第1回幻影城新人賞佳作入賞作品です。
以降、全8話のすべてが、雑誌「幻影城」で発表されたもの。
掲載はすべて1976年〜1977年。
菜の花が生まれる前です。

古い作品でありますが、内容は決して古くはありません。
今、まさに書かれて出版されてもおかしくないような感じ。
ですが、雰囲気はとてもクラシカル。
論理展開などはホームズを連想させるくらい。

主人公・亜 愛一郎(あ・あいいちろう)は、
容姿端麗・頭脳明晰・長身でお洒落にキメた青年カメラマン…
なのに、運動神経はまるでなしで何だか情けなーいという、
現在ではそれなりにお約束?かもしれないけれど、
とても魅力的なキャラであります。

ユニークなキャラの、クラシカルな論理展開。
全体の雰囲気はユーモアを忘れない、一般向けなもの。
誰にでも読みやすく、親しみやすく、
そしてマニアでも十分楽しめる作品に仕上がっています。


解説は、雑誌「幻影城」や新人賞のこと、
ミステリ作家たちの系譜の話、泡坂氏のエピソードなど、
ミステリファンなら気になる話題が幾つか。
読むと「へえ!」と思うこともあるでしょう。


この亜愛一郎が探偵として活躍するのは3作あり、
「亜愛一郎の狼狽」「亜愛一郎の転倒」「亜愛一郎の逃亡」
で3部作になっているそうです。
狼狽して、転倒して、逃亡してって、まさに踏んだり蹴ったりな
可哀想な主人公ですが(笑)、是非あとの2作も読みたくなりました。


短編なので、1話1話の分量はそれほど多くなく、
時間のないときでもさらりと読めて、面白いミステリです。





菜の花の一押しキャラ…亜 愛一郎 「…それでね、先生、そのブラキオサウルスの遺骨ですが、  トレミー隊が発見したのは、どの部分の遺骨でしたか?」 (亜 愛一郎)
主人公 : 亜 愛一郎
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : パズル的要素有、のんびり
結 末 : 1話1事件
解 説 : 権田 萬治
カバーイラスト : 松尾 かおる
カバーデザイン : 小倉 敏夫

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
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250. 「秘密クラブ、海へ行く!」     椹野 道流
2006.03.18 中編 218P 495円 2005年12月発行 小学館パレット文庫 ★★★+
学園オカルトファンタジー、第3弾!


【100字紹介】
 英聖高校特待生・要平は、初めてのインターハイに
  苛立ちを隠せない。妖魔から身体を奪還した理事長・
  黒崎も呪詛されていて体調が優れない。
  要平と黒崎をリラックスさせる為の
  夏合宿に出掛けた秘密クラブの面々だが… (100字)
 

「秘密クラブ」シリーズ第3作。
前作で蛇になっていた理事長・黒崎の身体を奪還したので、
今回は人間の理事長が帰ってきました(というか初登場)。
でも何だかいきなり、体調不良…?
それもそのはず、何と呪詛されていたりするのです。
そりゃもう勿論、犯人は彼らしかいないでしょう!?(第2作参照)。
小野篁が登場し、それが明らかになると、
皆で一丸となって黒崎を守ろう!と、話がまとまった秘密クラブ。
小野篁も泊り込みで傍にいることに…。
そうなったら夏休み中の彼らがやることはひとつ。
そう、「夏合宿」!
日帰りで海水浴して、校庭で花火もしちゃって、
夜は校内でお泊り会!うわあ、計画だけでも楽しそう!?
そんなわいわいとした学生生活を、
読者もキャラたちとともに楽しみましょう。

それプラス、要平君の初インターハイエピソードが
巧くからんできています。
さすがに大舞台を前に苛立つ要平が冒頭に登場。
全体の事件を通して、色々と吸収していったみたい。
そして迎えるインターハイ。
前作、前々作と立て続けに事件を乗り越えることで、
ひとつずつ階段をのぼっていくように成長する要平が、
本作ではどうなったか、是非見届けてあげて下さい。





菜の花の一押しキャラ…黒崎 志信 「今まさに、俺は究極のがっかり状態だ」(藤堂 要平) 必死に勉強を教えていた真透の成績が悪いことを知って一言。
主人公 : 藤堂 要平
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトライトノベル
対 象 : ティーンズ向け
雰囲気 : オカルト、ライト、学園もの
結 末 : 3作分が、一件落着
イラスト : ひだかなみ

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
251. 「森博嗣の浮遊研究室3 宇宙編」     森 博嗣
2006.03.25 エッセイ 288P 1400円 2004年3月発行 メディアファクトリー ★★★+
WEBダ・ヴィンチ連載作品の単行本化!


<100字紹介>
 WEBダ・ヴィンチで連載されていた同名作品の単行本化。
  助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
  4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイ第3弾。
  ちょっと時間の空いたときにくすり、と笑えるシリーズ。 (100字)


すみません、100字紹介が超手抜き。
どれくらい手抜きかと申しますと、第2作のときと1字違いのコピペ。
勿論、どの1字が違うかはお分かりですね?(笑)

タイトルどおりの「森博嗣の浮遊研究室」第3作です。
第2作は未来編でしたが、今回は宇宙編。
内容は全然、未来でも宇宙でもないですけど、
コジマケン氏のイラストが未来編であり、宇宙編です。


本作はWEBダ・ヴィンチに週刊連載されているものの書籍化。
第1作ではVol.1-Vol.50までの50回分、
第2作ではそのあまりの分厚さに閉口して、
Vol.51-Vol.80までの30回分を収録、
そして本作ではVol.81-Vol.110までの30回分が収録されています。


もう、中身については特に説明はいらないでしょう。
気になる方は、第1作・2作の感想をご覧下さい。

今回の+αのおまけは「名古屋デジカメギャラリイ」。
それぞれのキャラが本編(?)登場の名古屋をご案内。
個人的には「車道栄」氏の立体交差の写真が好きです。
立体交差が好き!というのもありますけど、
あのうねうね歩道は…!あの下は何度も通ったことがありますが、
まさか上があんなことになっているとは…!
知らない方は是非見て、驚いてください。


このサブタイトル、「未来編」だの「宇宙編」だの、
一体この内容のどこが未来で宇宙なんだ!という突っ込みには、
「このイラストが」とさらりとこたえましょう。

今回もコジマケン氏のイラストは秀逸です。
この絵を見るためだけに本を買う人もいるのでは!?
というくらい、独創的で素敵です。
こんな風に好き勝手な世界を構築し、
その中で愉しく遊べるような能力は、
なかなか得がたいものですよね。


内容だけでなく、連続して描かれたイラストたちを、
ぱらぱらと追ってみるのも愉しい本です。




主人公 : 森 博嗣(?)
語り口 : 会話形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : クール&ポップ
結 末 : 1トピック完結
イラスト : コジマケン
ブックデザイン : 大路浩実・植松美紀

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
252. 「電子の星 池袋ウエストゲートパークW」     石田 衣良
2006.03.26 連作短編 270P 1524円 2003年3月発行 文藝春秋 ★★★+
ストリートを駆けるクール&ライトな短編


【100字紹介】
 ギャングの息子を殺されたジャズタクシー運転手が座り込み、
  潜りの少年デリヘルが生き抜き、謎の人体損壊DVDを追う
  ネットおたくが上京してくる池袋。ストリートの危険な青春を
  クール&ライトに描くシリーズ第4弾 (100字)
 

●収録作品一覧
-----------------------------
・東口ラーメンライン
・ワルツ・フォー・ベビー
・黒いフードの夜
・電子の星
-----------------------------


池袋ウエストゲートパーク(IWGP)の第4巻。
このシリーズはすべて短編から中編程度の長さの連作小説。
長編は今のところありません(と思います)。
ドラマ化もされた人気作であり、
著者・石田衣良氏の代表作でもあります。


主人公のマコトは、ヤクザの予備校のような地元工業高校を
何とか卒業した青年。高校時代にちょっとした傷害罪で
警察に指紋が残されるくらいにはやんちゃ(?)な人柄。
池袋駅西口前のさびれた商店街で、母親の営む果物屋を手伝いつつ、
ストリート誌にコラムを書きつつ、池袋のストリートでの
トラブル・シューターもやらされています(?)。

親友のタカシは池袋のギャングボーイズ(Gボーイズ)のキングで、
同級生の元いじめられっ子のサルは今ではヤクザとして売り出し中。
多彩な半レギュラーメンバーが出番を待ち構えているのです。


1作品につき1つの事件を追いかけ、その顛末が描かれる形式。
どれもストリート、特に最近の若者にスポットを当てて
社会事情(?)を鑑みたトピックが選ばれています、
この第4巻ではネットで中傷され被害を受けるラーメン屋や、
違法デリヘルをやりつつも生活苦にあえぐ外国人一家など、
いかにも現代的な問題が取り上げられています。
文章は1人称だが、主人公は「池袋のいまどきの若者」なので、
「根はいい奴」だけど平気で手も出るし足も出るし、
あまり褒められないような「常識じゃない常識」を持っていたりします。
そういう点が、むしろ新鮮で、生き生きとしているのです。

売りはテンポのよさ。
文章は軽快な話し言葉。展開も速いです。
ただ、短編におさめるためか、
終盤はやたら都合のよい展開で締めくくられます。
ミステリを期待すると、肩透かし的。
あくまでライトノベルとして楽しむべき作品だと思います。


それと!やや気になっていることは、
シリーズが進むにつれて妙にマコトが賢くなっていること!
でしょうか…(^ ^;)。やたら趣味がよくなっていたりするし。
ちょっと笑えます。


「水戸黄門」のようにある程度決まった展開があって、
いつも「お約束どおり」に収まる感覚は、安心感があります。
エンターテイメントとして、空き時間に楽しむによい作品。




菜の花の一押しキャラ…タカシ 「タカシ、おまえのは地でやっているだけだ、どこが演技なんだ。」 (真島 誠) 自分の演技は怖かったか?と言うタカシに。
主人公 : 真島 誠
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ風ライトノベル
対 象 : 若者向け?
雰囲気 : 都会のストリート
結 末 : 1作完結の連作短編

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
253. 「悩まない技術 うまく悩むと悩まない」     辻 裕美子
2006.03.29 実用書 192P 1300円 2002年3月発行 主婦の友社 ★★★★★
臨床家が提案する、深く悩まないための技術


【100字紹介】
 人間悩まずにはすまない。しかし同じ悩むにしても
  上手に悩むことで、深刻に悩まずに済む「悩まない技術」がある。
  この方法を54の公式で提案。本書を読み終わった後はきっと、
  貴方の肩の荷はおりていることでしょう (100字)
 

現役のカウンセラーである心理セラピストの著者が、
これまでのカウンセリングなどの経験を交えて、悩み方の技術を語ります。

「悩む」のは人間なら誰しもあること。
悩むことで人はよりよい方向に進むことが出来るのです。
しかし、実際には悩むことで自分を追い込んでしまう人もいます。
そういう人のために、悩むための技術を伝えたい、
というコンセプトで書かれた本です。

全体は54の巻頭言「公式」に解説が添えられた形式。
特に突飛な提案をしているわけではなく、
読後に内容を思い出そうとしても、すぐには出てこないくらい、
かなり一般的なことを書いているように思います。
今後の参考に、と思って読んでみたら
それほど参考にはならないかも、と思ったのですが、
この本の凄いところはそこではありません。

読み進めれば読み進めるほど、ほっとリラックスしていく
自分を発見することができるのです。
まるで心理セラピーを受けて、
ときに優しく、ときに考えさせられながら、
ふんわりと微笑んでくれるカウンセラーさんにお会いしてきたような。


大変、易しくて、優しい本です。
読後にはきっと、気分がふっと軽くなっている自分を
発見することが出来るでしょう。






「まだお若いのですから、これからよーく計画を立てて、  楽しく美しく年を重ねて下さいね。」         (駅で出会ったおばあさん)
テーマ : 悩み(精神衛生)
語り口 : 説明文
ジャンル : 実用書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : カウンセリング、優しい

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★★
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254. 「風神の門(上)(下)」     司馬 遼太郎
2006.03.30 長編 418P
386P
590円
552円
1962年12月新潮社
1987年12月発行
新潮文庫 ★★★+
何にも属さない、孤高の忍び霧隠才蔵を描く


【100字紹介】
 生来、属することを嫌う伊賀の忍・霧隠才蔵は、
  人違いから何者かに襲われたことで、
  徳川・豊臣の争いに巻き込まれていく。
  逆らいがたい歴史の流れの中で、
  自ら思うままに生きようとした才蔵を描く、
  巨匠の時代長編作 (100字)
 

司馬遼太郎の忍者ものです。
書かれた年代的には同著者の「梟の城」の
続編…とまでは言えませんが、勢いというか余波というか、
そういうもので書かれているのでしょう。
この作品は司馬遼太郎が専業作家になって最初の作品です。

「梟の城」「風神の門」の執筆された頃は、
忍者ものが流行っていたということです。
でも、司馬遼太郎の目は本作を書き上げた後、
その分野から「幕末もの」の方へ移り、
それに少し遅れて流行りも収束したみたいですね。
司馬遼太郎は先見の明があったのか、
それとも司馬遼太郎が手を引いたから廃れていったのか?
まあ、その辺りは謎です。


中身の時代は関が原の戦い後。
徳川家康が江戸幕府を開いたものの、
豊臣家は未だに健在で、徳川対豊臣の争いが
徐々に緊張感を高めていく頃。

主人公の霧隠才蔵は、もちろん、
真田十勇士の1人として有名なあの才蔵です。
ちゃんと猿飛佐助も清海入道も、十勇士はみな出てきます。
出てきますが、本作は忍者もの。
十勇士の中で活躍しているのはやはり、
同じく忍びの猿飛佐助くらいかも。
本作の設定では佐助、甲賀の忍びの頭領のようです。
あとは、真田幸村がよく出てくるくらいでしょうか。


沢山の女性キャラが登場し、
才蔵の周りに集まっては通り過ぎていきます。
ひょんなことから巻き込まれ、いつの間にか
真田幸村のために徳川と戦う才蔵は、
まるで水面にたゆたう笹舟が、
波にゆらめき、風に流されていくようで、
自分の判断だけで生きてきたはずなのに、
振り返れば運命に翻弄されているという
人としての悲哀が描かれている作品です。
燃え上がる大阪城落城によって、劇的なラストを迎えたとき、
才蔵の中に残ったものこそが、それから300年弱繁栄した
江戸時代を象徴するものだったのかもしれません。

情熱的に戦乱と混乱の戦いの日々を生き、そして燃え尽きた物語。
沢山のはらはらと、どきどきが詰まっているのですが、
ラストシーンの才蔵の笑顔からは
安らぎのようなものを貰った気がしました。





菜の花の一押しキャラ…青子 行く末が案じられるキャラです。 「死に急ぎをなされますな」              「いそぐものか。そちも生きられるだけ生きるがよいぞ」 (霧隠 才蔵、後藤 又兵衛)
主人公 : 霧隠 才蔵
語り口 : 3人称
ジャンル : 時代小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 重め、暗め、恋と戦い
結 末 : 比較的ハッピーエンド
解 説 : 多田 道太郎

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
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