よみもののきろく

(2006年2月…233-244) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年2月の総評

今月の読了冊数は12。
長・中編8冊、その他4冊でした。

コンプ計画中の著者の読了数は
椹野道流2冊、森博嗣3冊、高里椎奈2冊で、
全体の半分以上を占めていますね。
その分、色々な分野に手を出せなかったか?というとそうでもなく、
結構面白いものに出会えたような気がします。


さて、では菜の花的2006年2月のベストを発表ー。

「有栖の乱読」 有栖川 有栖  (評点 4.5)

新本格のミステリ作家・有栖川有栖の読書エッセイ&読書案内。
第1部はファン必見の、氏の読書遍歴エッセイ、
第2部は有栖川有栖を作った100作品を氏の素敵なレビューで紹介、
第3部は自作解説という、1冊丸ごと有栖と読書!な内容。
ミステリファンなら絶対楽しめる1冊、
もちろん初心者・中級者の水先案内人としても使える1冊です。



以下、高評価順に簡単に紹介していきます。
(同評価の場合は読了日順)

「十角館の殺人」   綾辻 行人      (評点 4.0)
「西の魔女が死んだ」 梨木 香歩     (評点 4.0)
「流れる星は生きている」 藤原 てい   (評点 4.0)

「十角館の殺人」は、綾辻行人のデビュー長編にして「館」シリーズ第1作。
ミステリ研究会の大学生たち7人が孤島で殺人事件に遭遇!
ミステリファンによるミステリファンのためのミステリです。

「西の魔女が死んだ」は、中学生のまいが主人公の成長物語。
不登校になったまいがおばあちゃんの家で過ごした1ヶ月を描きます。
水彩画的で、あたたかくてやわらかくて、そして優しい中編。

「流れる星は生きている」は、母子4人の満州引き揚げのノンフィクション。
戦後の大ベストセラーで映画化もされた、苦難と愛情の厳粛な記録です。
著者の夫は直木賞受賞作家・新田次郎氏。また困難な脱出行を乗り越え、
生き残った幼児は後に数学者となり「国家の品格」を書いたというのは余談。
ひとつの人間の真実の姿を活写する作品として特に若者にお薦めの1冊です。


「ナ・バ・テア」      森博嗣      (評点3.5)
「青い千鳥花霞に泳ぐ」   高里 椎奈     (評点3.5)
「常識力検定」       日本常識力検定協会(評点3.5)
「双樹の赤 鴉の暗」     高里 椎奈     (評点3.5)

「ナ・バ・テア」は、森博嗣の新境地「スカイ・クロラ」シリーズ第2弾。
異世界を舞台にした、飛行機乗りのSF的ファンタジー。
機械的な背景、冷静で非情緒的な主人公のはずなのに、
情緒的でゆらめくような幻想に全編が漂うような作品。

「青い千鳥花霞に泳ぐ」「双樹の赤 鴉の暗」はどちらも、
高里椎奈の代表シリーズ「薬屋探偵妖綺談」の作品で第8作と9作。
キャラで語る系の、ヤングアダルト向きのシリーズです。

「常識力検定」は、その名の通り、常識力を測るための試験問題。
日本常識力検定の試験問題より208問収録しています。
挨拶やマナーなどの「常識力」、是非あなたも測ってみては?


「にゃんこ亭のレシピ2」    椹野 道流 (評点3.0)
「ZOKU」          森 博嗣  (評点3.0)
「秘密クラブ、平安の都へ!」  椹野 道流 (評点3.0)

「にゃんこ亭のレシピ2」は、「にゃんこ亭のレシピ」の続編。
あやかしが普通に生きる不思議な村・銀杏村に住み着いた
料理人のゴータと、パティシエのサトル、
それに神様の子供のコギが繰り広げる、ほのぼの連作短編集です。

「ZOKU」は、発想で勝負のおもしろ長編。
森博嗣は長編で、こんなに大真面目に、ギャグを書くのです。
意味不明で、とっても下らない、でもちょっと迷惑な、
謎の悪戯と敢行する組織・ZOKUと、これに対抗するTAIのお話。

「秘密クラブ、平安の都へ!」は、学園ものオカルトシリーズの第2作。
学園もののはずですが、本作は小野篁とともに平安時代へひとっとびで、
実際は全然学校は出てこない!物語はオーソドックスで、
ややべたな感じすらしますが、だからこそ安心して読める王道作品です。


「蜥蜴」    森 博嗣  (評点2.0)

「蜥蜴」は、ささきすばる&森博嗣夫妻のコラボレートした絵本。
本文は詩のような感じ、イラストはCGらしいぬめぬめ感のある作品。
菜の花にはちょっと難しすぎました。残念ながら解釈不能。
誰かこの作品の言わんとするところが分かったら是非ご教示下さいませ。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








233. 「有栖の乱読」     有栖川 有栖
2006.2.04 エッセイ 254P 1200円 1998年3月発行 メディアファクトリー ★★★★+
ミステリファン必読!有栖川氏の初エッセイ


<100字紹介>
 有栖川有栖の、幼少から現在までの
  読書遍歴をつづる第1部、
  有栖川有栖を作った作品セレクト100の第2部、
  そして自作についてコメントする第3部。
  有栖川ファンのみならず、
  ミステリファン必読の読書案内の好著! (100字)


有栖川有栖初のエッセイ。
しかも、タイトルを見てください!何と魅力的な!
テーマは読書です。読書家なら思わず手に取るでしょう!?


ミステリファンなら絶対楽しめる1冊、
しかも元々有栖川有栖ファンの菜の花にとっては
もうテンション上がりまくり、独り言連発の作品でした。

特にお薦めは第2部。
有栖川有栖独自のセレクトによる100冊の本たちが
有栖川有栖の言葉で語られます。
この100選のうち、恥ずかしながら菜の花の既読は
僅かに片手で数えられる程度。
でも、著者のこの魅惑的な紹介によって、
うわ、これは全部読まなきゃ駄目なんじゃない?
…くらいに励起されてしまいました。

というか、こういう凄いレビューを書ける人って
やっぱり尊敬です。1冊だけ読んだわけでなく、
奥の広い豊かな読書経験なくして、
このような紹介は書けないのだと痛感させられます。
1冊1冊への愛や、懐の深い理解。
是非、この100冊を制覇して、
少しでも有栖川有栖的紹介の境地に近づきたい!
そんなわけで菜の花にしては珍しく、
本書は購入して手元に置きたいと思っています。


セレクト100では古典の名作が多く採られています。
ミステリファンにとって著者が主張するとおり、
ベーシックな古典を押さえておくことは大切ですよね。
だって、現在ミステリを書いている作家の多くが、
その基本を読みつくし、押さえた上で作品を構成しているのですから。

ミステリ作家とともにミステリをもっと愉しむために。
ミステリファン初心者も上級者も、
本書をミステリ読書の水先案内人として
活用してみてはいかがでしょうか?




テーマ : 読書
語り口 : 1人称
ジャンル : エッセイ
対 象 : 主にミステリファン向け
雰囲気 : 読書の楽しさと読書案内
結 末 : −
第2部文 : 渡邊 信
ブックデザイン : 後藤 一敬(市川事務所)

文章・描写 : ★★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★+
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
234. 「ナ・バ・テア- None But Air」     森 博嗣
2006.02.05 長編 340P 1000円 2004年6月中央公論新社
2004年10月発行
中央公論新社
C-Novels
★★★+
新境地「スカイ・クロラ」シリーズ第2弾!


【100字紹介】
 森博嗣の新境地「スカイ・クロラ」シリーズ第2弾。
  飛ぶために生まれてきた僕は、今日も空で戦う。
  大人になってしまった男と、
  子供のまま永遠を生きる僕が紡ぐ物語。
  自由な大空へ飛び立ちたくなる異世界ファンタジー (100字)


ミステリ作家と一般的には認知されている森博嗣が、
新境地を拓いた前作「スカイ・クロラ」に続くシリーズ第2弾。
世界観は異世界で、ジャンルとしては特にこれ、
というものはありませんが、あえてカテゴライズするならファンタジー。
SF的にも見えますが、サイエンス「フィクション」と言い切るほど
無根拠かつ実現していないというほどでもないので
菜の花としては、SFとは分類しませんでした。


飛行気乗りが主人公のお話、という点は前作から変わらず。
前作で秀逸だった飛行場面も、ふんだんに盛り込まれています。
キャラクタも主人公と、整備工の笹倉は再び出演。

物語は主人公が、ある基地に赴任してきて
間もないところから始まります。
周りはよく知らない人ばかり。読者と同じような状況です。
ただひとり、前回の基地からともに転任してきた
整備工の笹倉だけは、よく知っているし信頼できる人物。
笹倉は飛行気乗りでないせいか、
メインの話に食い込むほどのキャラではないかもしれませんが、
前作からすでにいい味を出していました。本作では序盤から中盤にかけ、
何気ない魅力をいかんなく発揮してくれています。

中盤で更に新しいキャラが転任してくると、
物語が大きくふくらんできます。
本作はキャラにストーリーを先導させているイメージがありますね。

主人公は、つとめて冷静な人物で、情緒的でなく、
あまり大きな感情のゆらぎがないような「非人間的」タイプなのに、
気付くとひどく動揺していたりします。
ここでいきなり、人間性の豊かさに読者は気付かされるのです。
そこに至る道筋はとても滑らか。森博嗣は、この手の
ギャップのある人物描写が自然で巧いと思います。


全体としては、前作の方が佳作だったと感じましたが、
前作を愉しみ、更にこの世界で遊びたいと思っている読者にとっては
嬉しい1冊ではないでしょうか。興味のある方は是非、
「スカイ・クロラ」読了後にお読み頂きたいですね。




菜の花の一押しキャラ…笹倉 「なにも気にすることはない。   昨日や一昨日は、もう来ない。 来るのは明日ばかりだ。」   (相良医師)
主人公 : 草薙 水素(くさなぎ すいと)
語り口 : 1人称
ジャンル : 異世界ファンタジー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 暗め、飛行機、マニアック
カバーイラスト : 鶴田 謙二
カバーデザイン : 福田 功+しいばみつお(伸童舎)

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
235. 「にゃんこ亭のレシピ2」     椹野 道流
2006.02.07 中編 220P 600円 2005年5月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
不思議と共に生きる村を描くシリーズ第2弾

<100字紹介>
 妖しがいたる所に当たり前に生きている
  不思議な銀杏村で、レストランを始めたゴータ。
  パティシエのサトル、神様の子供のコギと
  ともにある穏やかな日々。
  やがて祖母の新盆がやってくる。
  銀杏村での初めての夏を描く。 (100字)


タイトルを見れば明らかすぎる通り、シリーズ第2作。

前作「にゃんこ亭のレシピ」で銀杏村に移り住んできたゴータが
村での生活にも慣れてきて、更に新しいことを始めようとしています。
それは農業。経営するレストランに出せるような、
安全で美味しい食材を、自分たちの手で作ろうとするわけです。
都会っこがいきなり出来るわけもなく、
前作でも色々と世話を焼いてくれた隣人の
スエ・サツオ・フデコ一家が、また大活躍で助けてくれます。

のんびりした田舎の村の暮らし。
大変だけど、生きていると実感させてくれる生活。
物語の時季は、梅雨から盆にかけて。
銀杏村のお盆は、なかなか「さぷらいず」です。
こんな何気ない日々が、キャラたちを育てます。
ゴータもサトルもコギも、少しずつ成長していくのです。


今回のレシピは
「ぺちゃんこポテト」
「ふるふるグレープフルーツジュレ」
「キャベツをたくさん食べようパスタ」。

ストーリーとしてはそれほど奇抜でも、
大きな波がだっぷんだっぷん打ち寄せるような、
起伏に富んだものでもありません。
読者にどきどき感をくれるミステリや冒険物ではなく、
あっと驚かすエンターテイメント系でもなく、
もちろん背筋を寒くさせるようなホラーでもなく。
とにかく穏やかに単調に、でも温かく。
平凡の中にぽんと浮かび上がる幸せを描きます。

まったりと読みたい方にお薦めのシリーズ。
ただし是非、前作から先にお読み下さいますように。
ストーリー漫画的であって、巻をひっくり返すと
事情が分からないところが多々ありますので。





菜の花の一押しキャラ…ゴータ 「何にでも、誰にも、たいていいいところと悪いところがある。   嫌う前に、いいところを探すんだ。…嫌いなものが増えるより、 好きなものが増えるほうが、たぶん楽しくていい」       (ゴータ)
主人公 : ゴータ
語り口 : 3人称
ジャンル : ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : ほのぼの
イラストレーション : 山田ユギ
デザイン : Plumage Design Office
料理イラスト : ひろいれいこ

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
236. 「青い千鳥花霞に泳ぐ 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2006.02.09 長編 294P 820円 2002年4月発行 講談社ノベルス ★★★+
94年、高校生の座木が引き受けた仕事は…

<100字紹介>
 1994年春、秋がまだ火冬と名乗っていた頃。
  座木は高校に入学して言波という少年と出会い、
  火冬は女子高生から奇妙な依頼を受けていた。
  まだ幼く不安定な座木と、
  今と変わらず本心の見えない秋。シリーズ第8弾。 (100字)


高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第8作です。


シリーズ初の時間設定ですね。
1994年ということで(何と明記されていますね、
じゃあいつもの作品は一体、何年の出来事なんでしょう…?)、
リベザルはまだ訪日していないのか、全く登場せず。
それどころか、何と座木がまだ子供っぽいです。
まあ、外見はあまり変わらないみたいですけど、
中身が全然、子供です。びっくりですね。


タイトルからも分かるように、春のお話です。
座木が「高校に行きたい」と言い出し、入学式を迎えるところから
お話はスタートします。あの座木が高校生!
ファンなら思わず、うわあ、っと叫んじゃいそうですね。
(菜の花は、叫びはしなかったですけど、
 ほおぉう、くらいのため息はついた気がする。)

今回はリベザルがお休みの分、
ちっちゃいのは別の新キャラ登場です。
こっちも可愛い!高校生でお子様な座木よりも可愛いかも!
…な、魅力的な淑女(?)登場です。そしてこのキャラが
火冬(シリーズ中では秋)とともに行動します。


いつものように、2グループに分かれて
両方から事件に迫っていってラストで合流、という形式。
今回は火冬&新キャラ組と座木組ですね。
予想はつきますが、それなりに「あ…」
と思うことは出来る(かもしれない)
楽しい展開が用意されています。うん、ミステリっぽい。
騙されてくれる純真な読者もきっといる!と思います。
自分は素直!という読者は是非、
「おーっと、そうだったのか!」
な素敵な驚きを愉しんで下さい。
穿った読み方をする玄人さんは、
「ふむ、オカルトノベルだけど、心理描写が面白いね」
とそちらを鑑賞しましょう。
基本は、キャラものという感じです。




菜の花の一押しキャラ…リドル 「女の人の主成分が秘密っていうのは、満更気障な嘘でもないんだね」 (火冬)
主人公 : 座木 他
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトミステリ
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル、ミステリ色強し
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
237. 「十角館の殺人」     綾辻 行人
2006.02.11 長編 376P 571円 1987年9月講談社ノベルス
1991年9月発行
講談社文庫 ★★★★
孤島での連続殺人!新鋭のデビュー長編作品

【100字紹介】
 半年前、凄惨な四重殺人の起きた九州の孤島に、
  大学ミステリ研究会の7人が訪れる。
  島に建つ奇妙な「十角館」で彼らを待ち受けていた
  恐るべき連続殺人の罠。生き残るのは誰か?
  犯人は誰なのか?綾辻行人のデビュー作 (100字)


新本格のミステリ作家と一般に認知されている、
かの綾辻行人のデビュー作です。勿論、ミステリ。


あらすじは100字紹介の通り。
大学ミステリ研究会のメンバーだけあって、
孤島にやってきた連中は本名では呼び合いません。
しかもそのニックネームはなかなか素敵でして。
「エラリイ」「ルルウ」「ポウ」「ヴァン」
「アガサ」「オルツィ」「カー」。
ミステリファンなら笑いがこみ上げずにはいられないですね。
彼らが1週間の旅行でやってきた孤島は、
半年前に4人の被害者が発見された殺人事件の島。
持ち前の好奇心から島を訪れた彼らに降りかかった悲劇…。


さて、彼ら7人以外にも登場人物がいます。
勿論、孤島にいるわけではありません。
本土にいる、彼らの元・仲間の河南。
ミステリ研究会をやめてしまった彼のもとに
奇妙な手紙がやってきます。それは、死者から手紙。
しかも内容は、告発。
奇妙に思った彼は調査に乗り出し、
島田潔という人物に出会います。
このもう1つの物語が、孤島の話と並行して進んでいきます。


島と本土での物語が交互に現れます。
島パートだけでは決して犯人は分からないでしょう。
本土だけでは事件が分かりませんしね(当たり前)。
この2つをうまく読ませるのが、
この作品のポイントかもしれません。


しっかりとした「ミステリの教養」の下敷きをもった、
ミステリファンによるミステリファンのためのミステリ、という感じ。
ミステリはこうでなくっちゃ、とか、
ミステリらしいよね、とか、とにかくもうこの作品は
ミステリ以外の言葉では表せません、当然か。


とりあえず「ミステリ読みたいな〜」と思ったら、
読んでみるとよい1冊。





菜の花の一押しキャラ…河南 孝明 「眠れないなら薬がある。あげるから、飲んで休んだ方がいい」 (ポウ)
主人公 : 河南孝明?
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 孤島もの+α
解 説 : 鮎川 哲也
カバーデザイン : 辰巳 四郎
ブックデザイン : 菊池 信義

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★+
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP
238. 「ZOKU」     森 博嗣
2006.02.15 長編 264P 829円 2003年10月光文社
2004年10月発行
光文社
KAPPA NOVELS
★★★★★
微妙な迷惑の為に動くZOKUを阻止せよ!


【100字紹介】
 犯罪未満の壮大な悪戯を目的とする非営利団体ZOKUと、
  彼らの悪行を阻止しようとする科学技術禁欲研究所TAI。
  平穏な日常の裏側で今日も、
  やられた者すら気付かない迷惑行為を巡り
  悪と正義の暗闘が続いていた! (100字)


長編で、こんなに大真面目に、ギャグを書くのですね、森博嗣は。
とても、著者らしい雰囲気の作品です。


メインは謎の悪戯組織ZOKUの黒幕の秘書であり、
年齢に挑戦するかのような高露出度黒服+黒マントのロミ・品川、
ZOKUの新米メンバで情けない男ケン・十河、
ZOKUに対抗するTAIのエリート研究員の揖斐純弥、
TAI所長の孫のお元気少女・永良野乃など。

キャラは個性的といえば個性的。
どこかで見たことのありそうな、でも新しいような、
ちょっと絶妙な感じです。
例えば揖斐&野乃の組み合わせは、ちょっと犀川&萌絵的。
でもやっぱり少しずれています。
ロミ・品川&ケン・十河だって、子供向けアニメの悪役で
いかにもありそうな感じだけど、ロミが年齢を気にしていたり、
ケンがちょっと反抗的な面も見せたりと、少し外した感じ。


面白いのはZOKUの発想かな。
表紙見返しの紹介を読めばそれだけで「何だそりゃ?」
と思わず首を傾げてしまいそうです。
以下、引用。

大臣の自宅だけに響くバイクの暴走音。
女子高の授業中、一斉に振動する携帯のバイブ機能。
畑の薩摩芋がすべて芋判に変えられ、また埋められる。
映画の真っ最中、誰も笑っていないのに響く大爆笑の声。

ええ、意味不明ですね。なんだそりゃですね。
犯罪のような犯罪じゃないような(でもやっぱり犯罪だと思う)。
こういうくだらない発想が読みどころ。
しかも荒唐無稽なことは書かないのがこの著者の特徴。
ちゃんと科学的にこうしてやってます、ということまで
考えられていて、決して不可能なことは描かれないのです。
こういうところがやっぱり、理系的かなあと思いますね。


全体として、こんな感じの漫画、森博嗣の著作に
載っていたような気がするなあと…。
のんたまんだったか、なんだったか。

とにかくそんなわけで、原材料は森博嗣らしさ100%、
みたいな、森博嗣てんこ盛りの1冊。
森博嗣のあの独特の世界観が好きな人には
たっぷり堪能して欲しい作品。
ちなみに苦手な人は近寄らない方が無難です、
と、ご忠告申し上げておきましょう。




菜の花の一押しキャラ…庄内 承子 「終わりなんてないわよ。人生の終わりは死ぬとき」   (ロミ・品川) 勿論、「人生ゲーム」についての説明(笑)。
主人公 : ZOKU、TAI
語り口 : 3人称
ジャンル : ファンタジー?
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ギャグ
イラスト : 山田 章博
デザイン : 岩郷 重力

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
239. 「西の魔女が死んだ」     梨木 香歩
2006.02.16 中編 226P 400円 1994年4月楡出版
1996年4月小学館
2001年8月発行
新潮文庫 ★★★★
大好きなおばあちゃんの家で過ごした1ヶ月


【100字紹介】
 中学入学からまもなく、学校に行けなくなったまいは、
  ひと月を西の魔女、こと祖母のもとで過ごす。
  おばあちゃんから魔女の手ほどきを受けるが、
  魔女修行の要は何でも自分で決めることだった!
  温かく優しい初夏の物語 (100字)


●収録作品
------------------------------------------------
「西の魔女が死んだ」
中学生・まいの1ヶ月の成長物語

「渡りの一日」
「西の魔女が死んだ」の後日談にあたる短編
-------------------------------------------------



とにかく、温かくてやわらかくて、やさしい中編です。

主人公は中学生のまい。
ある日、授業中に事務のおねえさんに呼び出され、
退屈な日常の中から抜け出た彼女でしたが、その理由は訃報。
衝撃を受けたまいの頭をよぎったのは、2年前の1ヶ月の日々…。

入学後まもなくから、まいはどうしても学校に行けなくなりました。
そのときに大好きなおばあちゃん、
「西の魔女」のもとで生活したのです。

この日々の回想が、物語の主たる部分ですが、
冒頭とラストで「現在」を持ってきたこのつくりは大変、巧い。
衝撃的な冒頭と、感動的なラスト。
200ページにも満たない中編ですが、
ゆったりとした時間が詰まっています。

おばあちゃんの家での生活は大変、水彩画的。
目の前に、淡く透き通る色で塗られた繊細なイラストが
浮かび上がってくるようです。
しかし単なる幻想的な風景なのではなくて、
おばあちゃんの知恵とか生活とか、力強さとか、
そういうものがどっしりと後ろに横たわっているという
安心感のあるふわふわ感なのです。
そう、濃淡があって細いけれど、しっかりとした
ペンで輪郭をひかれたような、英国風カントリーの感じ。
言葉を連ねるほどに、謎になっていきますが(苦笑)、
この雰囲気は読んでみるときっと分かって頂けると思います。
そうですね、雰囲気としては「魔女の宅急便」が近いかも。

キャラとしては、主人公である「まい」が、
恐らく読者の共感を呼ぶために比較的あっさりと描かれています。
あまりに強い印象は、読者が主人公に自分を重ね合わせる
妨げになるからではないかと思います。
そして、どのキャラも押し付けがましさがありません。
断定的な人の心の中身の表現は少なく、
細かい動作や言葉から、読者がそれぞれのキャラの
「真意」を読者に想像させるように描かれています。
特に、主人公以外はかなり徹底した感じ。
これも読者を主人公の立場に立たせるひとつの工夫に見えます。
実際、人と人とのつながりで、周りの人間の考えは
その人の言動から感じ取るものですから。
そしてこの範囲内で、キャラたちが生き生きと、
またその人なりの人生を感じさせる深い表現がなされています。

一見ゆるぎなく見えるおばあちゃんも、
おばあちゃんと複雑そうな関係を持っているらしいママも、
面と向かって何も言わないパパも、
何を考えているまったく謎のゲンジさんも、
みな自分なりの人生を生きているのがよく分かります。

そうやって読者自身の心の中に根を張り、
想像の世界が広がっていく種をまくような文章によって、
中編でありながら、大きなふくらみと
感動をもつ作品に仕上げた秀作です。


大変オーソドックスで、意外な展開や派手なアクションは
まったくありません。とても平和。
温かいお話で、久し振りに泣いてみたい人にお薦めの一作。




菜の花の一押しキャラ…おばあちゃん 「うれしくて、うれしくて、ここにうずくまって泣きました」 (おばあちゃん) 西の魔女の、本当の心の中を見たような台詞。
主人公 : 加納 まい
語り口 : 3人称
ジャンル : 教養小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : やわらかい、児童文学的
解 説 : 早川 司寿乃
カバー装画 : 早川 司寿乃

文章・描写 : ★★★★
展開・結末 : ★★★+
キャラクタ : ★★★+
独 自 性 : ★★+★★
読 後 感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP
240. 「流れる星は生きている」     藤原 てい
2006.02.19 ノンフィクション 324P 686円 1949年5月日比谷社出版
1971年5月青春出版社
1976年2月発行
中公文庫 ★★★★
昭和20年夏、満州。母子4人の満州脱出行


【100字紹介】
 昭和20年8月9日、ソ連参戦の夜、
  満州新京の観象台官舎―。夫と引き裂かれた妻と
  幼い愛児3人の、言語に絶する脱出行がここから始まった。
  敗戦下の悲運に耐えて生き抜いた1人の女性の、
  苦難と愛情の厳粛な記録。 (100字)


戦後しばらくのちに大ベストセラーになり、
映画化もされたという、ノンフィクションです。
内容は、終戦直前から満州脱出行。
出発は昭和20年8月9日夜、途中に難民生活が続き、
1年1ヶ月のちにようやく帰郷するまでの記録です。

この脱出行を困難にした最も大きな原因は、
夫と別れての道程であったことと、
その上に6歳、3歳、1ヶ月の3人の子どもを
女ひとりで守り抜かなければならなかったところでしょう。
道中、そのせいで様々な不利な立場に立たされます。
子供を泣かせるな、という文句を幾度となく言われ
(でも子どもは泣くものですけどね)
子どもは汚すから、と掃除当番は多く回ってくる、
しかし子どもへの食料の配給は通常の半分量であるし、
子どもを置いて働きには行かれないから
周りより支出は多くても収入は少ないなど。
しかしその分、著者の「生き抜こうとする力」は強い。
途中、何度か死にたくなったり、
子どもを減らしたくなったりするわけですが、
そのたびに子どもから力を分け与えられるのですね。
自分が死ねばこの子たちは誰からも守ってもらえない。
また夫が傍にいないせいで、むしろ
頼るべきは自分だけだという思いも強く、
これが母の愛というものですか、と思わされます。

戦争の話か、と言われると、実はそうではないように思います。
何しろ、終戦してからの記録の方が長いですから。
著者らは終戦の日にすでに、
都市から南下しているのがよかったようで、
最後まで特に大きな襲撃にあうことなく、
北緯38度線まで到達できています。

むしろ戦争の悲惨さ、というより「人」が描かれています。
勿論、非常事態での「人」です。
人、特に人と人とのつながりというのは恐ろしい。
善人が最後まで善人ではないし、悪人も悪人のままではない。
とてもいい人が有事には平気で人を騙すし、
子どもを殺してしまった人が、本当に困ったときに
人の子どもを助けてくれたりするのです。
著者が始終悩まされたのは、襲撃への漠然とした不安と、
同じ引き揚げの日本人同士のトラブルでした。
特に女性だったことが大きいのかもしれません。
人間関係に敏感なのは女性の特徴ですから。

著者自身だって、人を騙して得をしたし、
人を脅したり、理不尽なことだってしていますし考えています。
生き抜くためには綺麗事だけでは生きられない、
これがノンフィクションですね。
作り話ではない、迫力とリアリティです。

そうやって誰もが生き抜こうとして、
そしてある者は無事生き残り、
ある者は悲しい末路をたどりました。
著者はその努力と幸運で、
ついに家族全員無事に帰郷したわけですが、
沢山の人々が途中で亡くなっていったことが描かれています。
本作は彼らの鎮魂歌でもあるのかもしれません。
それを目の当たりにしつつ、ラストの帰郷の場面まで到達し、
「まあ、てい子」「おう、てい子」
と両親が飛び込んでくるときには
ここまでの長い長い苦難の道を思い返して、
思わず涙がにじむはずです。


著者の夫は、のちに作家としてデビューする新田次郎氏。
直木賞作家です。3歳の子どもとして登場する次男は
お茶の水女子大数学教授で、現在活躍する藤原正彦氏。
また1ヶ月の赤ん坊だった長女の藤原咲子氏も、
新田次郎氏、藤原てい氏に捧げるエッセイを刊行しています。

本作で、彼らがどれだけ苦労して生き抜いてきたかを
目の当たりにした読者としては、立派に成長していった
各人の著作も是非、読んでみたくなりますね。


こんな時代もあったのか、こんな人々がいて、
こんな苦難があったのかという歴史的記録として、
またひとつの人間の真実の姿を活写する作品として
特に若者にお薦めの1冊です。




「わらびって積分記号、あひるって微分記号のことよ」 (藤原 てい) うーん、似てるっちゃ似てるか…?
テーマ : 満州引き揚げ
語り口 : 1人称
ジャンル : 私小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ノンフィクション、戦争
Art Direction : 吉田 悟美一
Disign : 山影 麻奈

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
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241. 「常識力検定」     日本常識力検定協会監修
2006.02.19 実用書 222P 850円 2003年3月発行 講談社 ★★★+
日本常識力検定の試験問題より208問収録


【100字紹介】
 日本人が真の常識人・国際人になってほしいという
  願いをこめて誕生した常識力検定。
  「常識」の啓蒙のために行なわれるこの試験問題から
  選りすぐりの208問を収録。
  気になるあなたの常識力、是非測ってみて下さい。 (100字)


常識力を測るための試験問題です。
そういう検定があるのですね。
しかし、自分の常識力って、とっても気になりませんか?
こっそり、どれくらいかな〜?って測ってみたくなりません?
そんなあなた、この本をやってみて下さい。

3級が2回分で各54問。
2級が60問、1級が40問で全208問収録。
それぞれ70%が合格圏です。
問題は1Pに2問ずつで、めくると左側のページが解答。
紙を用意しなくてもどんどん読みながら答え合わせ出来ます。

内容は3級があいさつの言葉遣いや近所づきあいでのマナー、
くらしの基本的な法律など、家庭から地域社会、
地方、国内で生活・コミュニケーションするために必要な
「常識力」をチェック、知識問題は小中学の教科書レベル。

2級は冠婚葬祭のマナーや国内経済についての理解など、
3級から1歩進んだ内容を盛り込んでいます。
知識問題は高校教科書レベル。

1級は海外旅行のマナーや政治、経済理論まで入ってきます。

もっと具体的に言うと、敬語、おわび、日本語表現、文法、
助数詞、現代用語、手紙、宛名、見舞、通夜、葬儀・告別式、
香典返し、贈答、訪問、名刺交換、和食・洋食のマナー、
風習、栄養、食材、社会生活、衣料、救急処置、
金融、税金、政治、憲法、経済、裁判、法律などなどなど。


ちなみに菜の花の成績は…3・2級は合格圏内、
1級は5割しか正答出来ませんでした。
うーん、まだまだ国際人的常識はないのか!
というか、驚きなのは3・2級は合格だなんて、
意外にも常識があったんだな〜ということかも。
さて、うちの大学院生のうち、何人が合格できることやら。


気になったら是非やってみましょう〜。
楽しくて、きっとためになります。



テーマ : 常識力
語り口 : 試験問題
ジャンル : 実用書
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 試験問題とその解答

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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242. 「蜥蜴」     森 博嗣、ささきすばる
2006.02.20 絵本 72P 1200円 2003年10月発行 中央公論新社 ★★★★★
ささきすばる&森博嗣夫妻のコラボレート


【100字紹介】
 ささきすばるのイラストに、森博嗣が文章を担当。
  なめらかなイラストと、音律を重視したことばが流れ過ぎる、
  幻想的な作品。輪郭のはっきりしない
  不思議な大人のストーリーは、
  読み手の解釈で七色に変化するでしょう (100字)


どうやらこの作品は菜の花の手にはおえない模様。
まったく解釈が出来ないのです。
書いておいてなんですけど、とてもではないですが
菜の花にはレポートできません!

うーん、難解というか、何というか、
とにかく何が言いたいのかまったく分かりません。
これでも本になってしまうのですね。
世の人にはこれが理解でき、需要があるのでしょうか。
菜の花に分からないだけで、もしかすると
普通に読めば誰にでも解釈可能な作品なのか…。


ささきすばる氏のイラストはCGらしい作品。
ぬめぬめ感がいかにも蜥蜴らしいです。


傾向としては、一応エロス作品…なの?かも。
確かそのようなことが紹介文にあった気もします。

うーん、誰かこの作品の言わんとするところが分かったら
是非菜の花にご教示下さいませ。
大変短い作品なので、数分で読めると思います。





テーマ : ?
語り口 : 詩
ジャンル : 絵本???
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 妖しげ
イラスト : ささきすばる
Book Disign : しいばみつお(伸童舎)
DTP : ハンズ・ミケ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
243. 「秘密クラブ、平安の都へ!」     椹野 道流
2006.02.23 中編 200P 476円 2005年5月発行 小学館パレット文庫 ★★★★★
師匠・小野篁とともに平安時代で大暴れ!?

【100字紹介】
 英聖高校の特殊能力選抜クラス1年の真透と要平は、
  2人で力を合わせて魔物を倒せる。生物教師・
  中条の率いる秘密クラブでバイトする彼らの次の仕事は、
  小野篁とともに平安時代に行き、理事長の体を取り戻すこと!? (100字)
 

「秘密クラブ」シリーズ第2作。
今回は学園もの、というには番外編っぽいですね。
殆ど全編が、平安時代での出来事です。。
著者いわく「コスプレ」らしいですが、
秘密クラブを率いる黒崎・中条の師匠であり、
実在の人物である小野篁に連れられて、
平安時代にタイムスリップしちゃいます。

椹野道流氏は別のシリーズでも平安時代にタイムスリップ、
をやっていますけど、どうやらこの時代が好きである模様。
平安世界も色々と風景描写があって、ちょっと面白い。
でも、今回はキャラたちが平安時代の人と
個人的に直接親しくはならなかったせいか、
人物描写は殆どありません。
ちょっと無機質な感じの平安時代。
それもまた、この時代への冷静な視点というところでしょうか。

周りの時代は背景としての小道具で、
実際に描きたいところはやはり要平の心の動きでしょう。
オーソドックスで、ややべたな感じすらする心理描写ですが、
だからこそ安心して、「頑張れ、要平!」と
思わず応援したくなります。この「べたさ」も
ティーンズ向けの王道入門としては丁度いいくらいなのかも。


設定は奇抜ですが、内容はオーソドックスな一本道で、
子どもにも安心して読ませられる作品です。




菜の花の一押しキャラ…藤堂 要平 「小娘、お前見かけは奇矯だが、阿呆ではないようだな。」(小野 篁) 前巻の中条の台詞に引き続き、またも酷い言われようの絢乃
主人公 : 藤堂 要平
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトライトノベル
対 象 : ティーンズ向け
雰囲気 : オカルト、ライト、学園もの
結 末 : ひとまず落着、次回に続く
イラスト : ひだかなみ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★+★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
244. 「双樹の赤 鴉の暗 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2006.02.26 長編 288P 820円 2002年10月発行 講談社ノベルス ★★★+
時は移ろい、繰り返される事件と真実を描く

<100字紹介>
 サラリーマンの唐沢は、悪戯好きの子鬼カブとアルに
  からかわれながらもその同居に幸せを感じ始める。
  一方、上流坂署刑事・高遠は、窃盗犯の自殺事件の
  報告書を纏めるうち蟠りを覚え…。
  繰り返される事件と不変の真実。 (100字)


高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第9作です。


前作のレポートで時間設定の話を書きましたが、
どうやら本作でも時代が分かったようです。
しかし複雑でして…、これはもう一度、
じっくりシリーズに目を通してみないといけないかも。
…と思う理由は、まあ、本作を読んでみて頂かないと。
軽くネタばれかもしれませんので。


本作はいわゆる、叙述ミステリの要素をもった作品です。
交錯するいくつかの物語…。
高里椎奈の「薬屋」シリーズではおなじみの形式です。
今回は薬屋3人の組、
うだつの上がらないサラリーマン唐沢と子鬼の組、
それから刑事の高遠と新人・来田川の組。
それぞれの物語が一見独立、少しリンクして…。

さて、あなたはこの真相が分かるでしょうか?
複雑な層構造をもったこの作品、読後も
「あれ?」と思わずもう一度
前のページに戻りたくなること、受け合いです。


基本は、人の心の真実を映す心情もの、でしょうか。
うだつが上がらず、社内でも疎んじられている唐沢の描写は
「大人のいじめ」をうまく描写し、更に唐沢自身の
心の動きも自然にまとめていて、共感を呼びます。
逆に優秀であろうとし、真面目すぎて疎んじられる来田川の描写も
己の正義・考え方だけに凝り固まった彼の心理を、
分かりやすく表現し、それが反発しながらも
心がほぐされていく過程を描いています。


シリーズ初期に比べ、格段に向上した著者の心理描写が
十分に楽しめる1冊です。




菜の花の一押しキャラ…御 葉山 「未練は未来に託せるが、後悔は過去に縛られるだけだ」 (高遠 三次)
主人公 : 唐沢 善哉 他
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ風オカルトノベル
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル、心情もの
結 末 : ややハッピーエンド
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文章・描写 : ★★★+
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
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