よみもののきろく

(2006年1月…220-232) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2006年1月の総評

今月の読了冊数は13。
長・中編9冊、その他4冊。
小説を凄く読んだなーという感じ。

コンプ計画中の著者の読了数は
椹野道流2冊、森博嗣2冊、高里椎奈1冊でした。


さて内容。
今月は玉石混淆、相当ばらつきが。これは凄いですね。
かなり幅広い読書が出来たかな〜というところでしょうか。
そんな中で、栄えある(?)菜の花的2006年1月のベストは

「半落ち」 横山 秀夫  (評点 4.5)

言わずと知れた超有名作でベストセラー。
「謎」が作り上げられていく過程も巧いし、
渦中の人である犯人が主役に据えられることがなく、
章ごとに刑事、検事、マスコミ、弁護士、裁判官そして刑務官と、
犯人に関わっていく人々の視点で、どんどん進んでいく
「事件」を眺めていくという描き方も面白い。
読者を引き込む力強さと、緻密な書き込みによる
繊細さを兼ね備えた1作です。



以下、高評価順に簡単に紹介していきます。
(同評価の場合は読了日順)

「13階段」        高野 和明   (評点 4.0)
「イエスの遺伝子(上)(下)」 コーディ,M  (評点 4.0)
「朱色の研究」    有栖川有栖 (評点3.5)

「13階段」は、江戸川乱歩賞受賞作。
「罰する側」の苦悩と、「罰された側」の苦しみに直面した2人の主人公たちが、
執行まで間のない死刑囚の冤罪を晴らすために駆け回る重厚な作品。

「イエスの遺伝子」は、娘を救うために奔走する遺伝子学者が主人公の、
冒険SFミステリ。まるでハリウッド映画並みの派手なアクションや、
ほろりとさせる人情物語、それにクールな知識人たちと
怪しげな宗教集団などなど、エンターテイメント性抜群の一作です。

「朱色の研究」は、全編が夕焼けの朱色に彩られた火村&有栖シリーズの1作。
特に凄いトリックが出てきたわけでも、技巧的でもないですが、
情緒的で、丁寧に絵を描くように書かれた作品です。


「100人の森博嗣」         森博嗣  (評点3.0)
「幻想運河」             有栖川有栖(評点3.0)
「それでも君が ドルチェ・ヴィスタ」 高里 椎奈 (評点3.0)
「シンデレラの五重殺」        吉村 達也 (評点3.0)
「MATEKI 魔的」        森 博嗣  (評点3.0)

「100人の森博嗣」は、森博嗣の思考・嗜好・志向性がよく分かるエッセイ集。
これまでの小説の「あとがき」集、
森博嗣が寄稿した作品解説などが収録されています。
森博嗣のカラーが好きな人にはお薦め。

「幻想運河」は有栖川有栖氏にしては珍しい、独立単発もの。
しかもタイトルどおり、全編が夢に浮かされたように、
妙にふわふわとした感覚。舞台はアムステルダムと大阪で、
2つの水の都を彩る奇怪な薔薇のイメージたゆたう幻想小説です。

「それでも君が」は、講談社ノベルスの20周年企画、
「密室」に関する中編の1つとして書かれた異世界ファンタジー。
世界中で31人しかいない大きな密室を幻想的に描きます。
あなたはこの世界の輪郭を見つけることができるでしょうか?

「シンデレラの五重殺」は超豪華な殺人事件。
嵐の夜、美少女スターが一瞬にして、
毒殺、絞殺、撲殺、刺殺、溺殺という5通りの方法で殺害される
という珍事件が発生。そして各々の方法で今度は連続殺人事件が…。
とにかくここまでやるか!?という豪華で王道的なミステリ。

「MATEKI 魔的」は、森博嗣の写真詩集。
詩は大変理系的で、単語を駆使して音律を重視するタイプ。
クールで、また森博嗣の思考がそのまま反映されており
その点で不可解かつ幻想的に見えます。
ちょっと視点が面白いな、と思わせる作品。


「傀儡奇談」        椹野 道流 (評点2.5)
「秘密のクラブへようこそ!」椹野 道流 (評点2.5)

「傀儡奇談」は、椹野道流の「奇談シリーズ」の第23作。
いつものキャラがいつものように繰り広げるお話。
作品としてのまとまりはよいです。
ちょっと安定志向すぎるのが難点といえば難点、
長所といえば長所です。

「秘密のクラブへようこそ!」は、椹野道流初の学園ものシリーズ第1弾。
魔物と戦う、という部分と、高校生らしい成長を見せる主人公の描写。
生き生きとしたキャラたちが学園生活の中で跳ね回る、
元気いっぱいのライトノベル・シリーズ序章です。


「新1日15分の速読トレーニング術」 川村明宏他 (評点1.0)
「見てわかる!図解経皮毒」      山下 玲夜  (評点1.0)

「新1日15分の速読トレーニング術」はタイトルそのまま、
速読のためのハウツー本。科学的根拠を標榜しつつ、
それを実際に示さない辺りが菜の花の不興を買った1冊。

「見てわかる!図解経皮毒」も上記と同様、科学的な根拠の提示がなく、
著者にも分かっていないのではないか、という疑問を持ってしまった作品。
内容としては大変よいものですが、文章が稚拙すぎるという問題も。


以上、今月の読書の俯瞰でした。








220. 「朱色の研究」     有栖川 有栖
2006.1.04 長編 422P 590円 1997年11月角川書店
2000年8月発行
角川文庫 ★★★+
夕焼けに彩られた火村&アリスシリーズ長編


<100字紹介>
 「2年前の未解決殺人事件を再調査してほしい。
  これが先生のゼミに入った本当の目的です」
  臨床犯罪学者・火村英生は教え子から依頼を受けた。
  友人の推理作家・有栖川有栖と調査に乗り出す。
  夕焼けに彩られたミステリ (100字)


表紙からして朱色!です。
テーマ・朱色と言ってもいい。
冒頭、有栖川有栖が自宅マンションから見る夕陽丘の夕焼け。
それに続く、同じ時刻の火村…事件の発端の場面の背景も
夕焼けに照らされた研究室。
そこへやってきたのは「夕焼け恐怖症」の教え子。

調査を引き受け早速、友人のアリスのマンションへ現れた火村宛に
未明にかかってきた不吉な電話は、犯罪をほのめかすもの。
2人は電話に導かれて現場に行くことになるのです。
何と大胆な犯人でしょう。
火村に挑戦するかのような今回の犯人は
なかなか手ごわそうな予感ですね?


登場人物たちも夕焼け研究家と呼ばれる風景写真家やら、
同じく夕焼け研究家でやたら伝承などに詳しいライタやら、
沢山の夕焼けエピソードが飛び出します。
四天王寺西門から西方浄土へ向かって夕焼けを拝む話、
そこで夕焼けの中に黒いシルエットを残し
次々に飛び降りる信者の姿という視覚的なイメージが、
2年前の殺人事件の被害者が事件直前に読んでいた
補陀落渡海の話とかさなり、
どこかうら寂しい夕焼け像を定着させていきます。
冒頭で提示されたアリスのエピソードでは
夕焼けはただ雄大で圧倒するだけの風景だったのに、
読み進めていくうちにどんどん、
悲しみがその朱色に重ね塗りされていくのです。
そして事件が解決したとき…、
エピローグにも美しい夕焼けが登場します。
明るい、希望ある夕焼けの中でラストに交わされる会話。

ああ、綺麗にまとめたな、という感じ。
特に凄いトリックが出てきたわけでも、技巧的でもないですが、
情緒的で、丁寧に絵を描くように書かれた作品です。




菜の花の一押しキャラ…片桐 光雄 「売れない小説家として一本立ちしているお前のことを、      専属アシスタント扱いしたわけじゃないから怒らなくていいさ」 (火村 英生)
主人公 : 有栖川 有栖
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 本格、ユーモラス、色彩的
解 説 : 飛鳥部 勝則
カバー : 大路 浩実

文 章 : ★★★+
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★+

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
221. 「13階段」     高野 和明
第47回江戸川乱歩章受賞
2006.01.06 長編 386P 648円 2001年8月講談社
2004年8月発行
講談社文庫 ★★★★
執行まで時間のない、死刑囚の冤罪を晴らす

<100字紹介>
 犯行時刻の記憶を失った死刑囚。
  その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、
  前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。
  手掛かりは死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。
  罰すること罰されることの苦悩を描く傑作 (100字)


一言で言うなら、重厚な作品。
これが著者のデビュー長編ということですが、
とても信じられません。
その筆致は熟達の作家の「落ち着き」を感じさせるもの。
文章の雰囲気は大変、重く暗いのですが、
文章自体からは安定感が漂ってきています。
内容的には菜の花のような小心者には
現実的な分、読むのが辛いタイプですが、
読まずにはいられなくさせる何かがありました。


傷害致死罪で2年間の実刑を経て、仮出所したばかりの青年・三上。
彼に目をつけた刑務官の南郷は、三上を弁護士事務所の仕事に
引き込みます。その内容は「ある死刑囚の冤罪を晴らすこと」。
犯行時刻の記憶を失っていたために、冤罪を晴らすことも、
「改悛の情」を見せることも出来ない死刑囚・樹原亮は
再三の再審請求、即時抗告、特別抗告が却下され、
いつ刑が執行されてもおかしくない状況下、
死刑囚の独房の中で身に覚えのない罪による
死の恐怖に怯える日々を過ごしていたのです。

2人の主人公たちはそれぞれ
「罰する側」の苦悩と、「罰された側」の苦しみに直面し、
死刑囚の冤罪を晴らすことで何かが変わることを期待しています。

大変細かくて、専門的といいますか、法律関係の話や
刑務所の実態ですか?…そういうものが満載です。
ミステリというと、罪が起こり、それが暴かれるまでの物語が
世の中に一般に流布する小説で最も多いわけですが、
本作はスタートからいきなり、その続きから始まった、
みたいな感じです。罪により拘留される死刑囚、
そして罪により罰された青年の新しい門出。
しかしこの門出は、「前科」という重い荷物を背負った、
ここからが償いなのだ、という重たいものだということが
徐々に分かってきます。やや珍しい視点かな。
少なくとも菜の花にとっては新鮮ではありました。

★が1つ分、少なくなっているのは、ラストの僅かなやりきれなさと
後半部の展開がやや甘いか、という印象のせいです。
しかし江戸川乱歩賞受賞、映画化もされ、
更に宮部みゆきに絶賛されての文庫化。
間違いなくそれがこの本の実力なのだ、と思わせてくれる傑作です。



菜の花の一押しキャラ…中森検事 「いいニュースと悪いニュースがあるが、どっちから聞きたい?」 「ん?じゃあ、いいニュースから」 「俺たちの作業は、もう半分終わった」 「悪いニュースは?」 「俺たちの作業は、まだ半分しか終わっていない」 (南郷 正二、三上 純一)
主人公 : 南郷 正二、三上 純一
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 暗く、重く、現実的
解 説 : 宮部 みゆき
カバー装画 : 西口 司郎+オリオンプレス
カバーデザイン : 多田 和博

文 章 : ★★★★
描 写 : ★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★+
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
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222. 「新1日15分の速読トレーニング術」     川村 明宏、若桜木 虔
2006.01.07 ハウツー 216P 800円 2003年1月発行 KHベストセラーズ ★★★★
速読・速憶脳を作るためのトレーニング術

<100字紹介>
 著者考案の「ジョイント速読法」は、
  目が読み取った文字情報を大脳記憶回路の知識、
  情報とジョイントさせ理解する時間を短縮する方法。
  無駄を省いたトレーニングで、
  速読を半日から数日の超短期間でマスターしよう。 (100字)


とりあえず、菜の花の役には立ちませんでした。
問題は、どういう理由で速読が出来ないのか?
にあった気がします。

本書によりますと、日本人の一般的な読書速度は1分間に400字。
非常に速い人で1200字(速読なしで)。
一方、速読だと初級者でも3000字くらいなのだとか。
こんなに読めたら、時間が短縮されていいですね。
そう思ってちょっと手にとってみたのですが、
結果としては、速読法をマスターすることは出来ず。
菜の花の元々の読書速度は最高速で1200字/分。
この辺りが内容を理解した上での読書の上限。
これ以上いくと、読めなくはないですが、
時々中身に「抜け」が出ます。しかも疲れる。
だから実際はもう少しゆったり読みます。
そんな菜の花が、本書のトレーニングを実行してみた結果、
まったく速くはなりませんでした。
気付いたのは、この「抜け」が、
このトレーニング術で磨くべき点、つまり
「脳での認識が間に合わない」のではということ。
どうやら菜の花の速さの上限というのは、
認識の速さではなく、視点移動の速さで決まっているようです。
つまり入力に問題があるのではないかと。
これが本書の冒頭「論より証拠、ジョイント速読法の即効実験」
で得られた、菜の花の結論です。…眼筋が弱いのでしょうか。
鍛えるべきは、目か!

こうすれば速くなる、と言っている内容は分かります。
ああ、もしかしたら速くなるかもね、とも思います。
まあ、ひとつの読み方の参考にはなりました。
というか、内容的には菜の花の読み方とそれほど大差ありません。
以下、菜の花的読書。

目はキーボードと同じでただただ記号の入力を受け付けるだけ、
これを1次メモリにどんどん蓄積し、
その端からハードディスク(大脳)にアクセスして
既存の情報との突き合わせをし、理解する。
これが基本的な読書の構造だと思うのですが、
速度を上げて読むときは、最もアクセスが遅い
ハードディスクとの対話部分を工夫している感じです。
イメージ的には、取り込んだ記号の羅列の文字情報を
メモリの中で結合して「意味ある固まり」を予め作って
参照する情報量を減らしてからハードディスクにアクセスする、
テーマがはっきりしているものに関しては関連情報を
先にメモリの方に呼び出しておいて、アクセスの速い
メモリ上で理解してしまう、という感じ。
後者はいわゆる先入観を引き起こしやすいのですが
一般的なことばかり言っている文章だとこれだけで十分。


本書で気になったこと。
「科学的に裏づけがある」などの煽り文句が
何度か出てきたように思いましたが、これだけでは
そこは大変疑問です。実際のデータを提示するわけでもなく
そんなこと言われても、納得できません。
著者は2人とも理系。理系なら理系らしく、文章ではなく
実際の数値データで勝負して欲しいというのが菜の花の意見。
もし改訂版を出すならその辺りをよろしく、ですね。





テーマ : 速読
語り口 : 教科書
ジャンル : ハウツー
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 受験参考書

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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223. 「傀儡奇談(くぐつきだん)」     椹野 道流(ふしのみちる)
2006.01.07 長編 266P 580円 2005年1月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★+★★
操り人形は、不気味な事件を手繰り寄せる…


<100字紹介>
 人気テーマパークに遊びに来ていた
  追儺師・天本の助手・敏生は思わぬ人と再会する。
  かつて天本達が解決した事件の関係者だった彼女らは、
  それぞれ新しい道を歩んでいた。
  しかし奇妙なことに巻き込まれているようで… (100字)

椹野道流の「奇談シリーズ」の第…23作?
もうそこまでいっているのですね。
ホワイトハート刊ですから、まあ10代女性向けのライトノベル。

主人公は、表の顔は若手ミステリ作家、
裏の顔は霊障を扱う謎の組織の追儺師の天本森と、
その助手で、人間と精霊のハーフである琴平敏生。
主人公2人は男同士ですが恋人です(←ちょっと気に食わない)。

あとは、前作から天本家に居候中の、森の高校時代からの親友・龍村泰彦。
彼はご存知の方はご存知(当然ですが)、
椹野道流の講談社ノベルスでのオカルトミステリ
「法医学教室奇談シリーズ」にもしばしば登場の、
監察医をやっている、あの龍村先生です。


本作では久し振りに登場のあのキャラが。3回目の登場かな。
ちゃんと成長して、新しい生活を送っているサブキャラたちを見ると、
この世界はきちんと動いているんだな、と思います。
こういうの、いいですね。思わず
「しばらく見ないうちに大きくなったねえ!」
みたいな、親戚のおばちゃんみたいな台詞を吐きたくなります(笑)。

そのキャラの片割れは、今では趣味でバンドを組んで
ボーカルをしていたりするのですね。
今回の事件は、彼女がファンから託された人形。
彼女そっくりのその人形はあやつり人形なのですが、渡したファンは
「しばらく預かってください。私に何かあったらこの子をよろしく」
なんて、不穏なことを言い残してライブに来なくなるのです。
不気味ですね。不気味なんですよ。何しろ人形ですし。
人形が鍵を握る、というのはホラーやオカルトでは
すっかり定番ですね。だってやっぱ怖いですからね。

行き着いた先は、まあありがちといえばありがち、
でも変わっていると言えば変わっている、という感じ。
作品としてのまとまりはよいです。
ちょっと安定志向すぎるのが難点といえば難点、
長所といえば長所です。



菜の花の一押しキャラ…龍村 泰彦 「だいたい、考えてもみろ。デートのときに双方が      腐臭を漂わせてるカップルなんざ、ぞっとせんだろうが」 (龍村 泰彦) ある人との関係を聞かれて。とゆーか、片方でもぞっとしませんけど…
主人公 : 天本 森、琴平 敏生
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルト・ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト、ややBL
イラスト : あかま日砂紀

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
224. 「100人の森博嗣」     森 博嗣
2006.01.09 エッセイ 262P 1500円 2003年3月発行 メディアファクトリー ★★★★★
既刊小説の書き下ろし「あとがき」や雑文集


<100字紹介>
 自作に一切あとがきを載せない森博嗣による、
  完結シリーズを中心にした15作の書き下ろしあとがきや、
  これまでに書いた作品解説・書評・本、趣味などに関する
  エッセイの再録など、森博嗣の様々な文章を愉しむ1冊。 (100字)


森博嗣の思考・嗜好・志向性がよく分かるエッセイ集。
位置づけとしては、「森博嗣のミステリ工作室」
(メディアファクトリー、のち講談社文庫刊)の続編でしょうか。
特に繋がりはありませんが、内容的に近い感じです。

書き下ろしは基本的には「あとがき」だけ。
あとは個々の作品の巻末に掲載されていた「作品解説」や
雑誌に連載されていたエッセイや書評などを集めて再録しています。

「森博嗣のミステリ工作室」ではS&Mシリーズに対する
あとがきが掲載されましたが、今回はVシリーズが中心。
ちなみにS&Mシリーズは犀川助教授&西之園萌絵のシリーズ10作、
Vシリーズは瀬在丸紅子のシリーズ10作です。
その他には短編集や、「そして二人だけになった」
「堕ちていく僕たち」「奥様はネットワーカ」などです。

森博嗣はやや物言いがきつい印象で(特に初期)、
一般的ではない天邪鬼的考え方の持ち主に見えて、
独特のジョークを連発する人ですが、
(これ、全部褒めてますから。)
その森博嗣らしさが遺憾なく発揮されたエッセイ集です。

森博嗣の、カラーが好きな人にはお薦めです。
あまり知らない人にはこの作家がどういう人か分かる1冊かも。




テーマ : エッセイ色々
語り口 : 書評、エッセイ
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 森博嗣がいっぱい
イラスト : 森 博嗣
ブックデザイン : 後藤 一敬、佐藤 弘子

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
225. 「幻想運河」     有栖川 有栖
2006.1.11 長編 360P 552円 1996年4月実業之日本社
2001年1月発行
講談社文庫 ★★★★★
2つの水の都を彩る、奇怪な薔薇のイメージ


<100字紹介>
 シナリオライターの卵、恭司が
  アムステルダムで遭遇したバラバラ殺人事件。
  在外日本人社会の濃密で澱んだ空気が生んだ犯罪は、
  大阪の事件に繋がってゆく…。2つの水の都を彩る
  奇怪な薔薇のイメージたゆたう幻想小説 (100字)


有栖川有栖氏にしては珍しい、独立単発ものです。
火村でもなければ江神でもないし、有栖川有栖も出てこない。
一見さんの恭司君が主人公です。
有栖川有栖が出てこないせいか、3人称記述ですが、
限りなく1人称に近い語り口。
でも、1人称にはしなかたったのは、
やはり1歩ひいて記述したかったのだろうな、という
ミステリ作家の視点を感じました。
なのに1人称に似せたのは、この幻想感を出すためでしょう。
まるで靄のかかったような、不思議な雰囲気。
言葉ではなく、文章で雰囲気を出せるのが、
プロの作家だと最近つくづく思う菜の花です。


ミステリと呼んでよいものかどうか迷うくらいの作品。
書きたかったのは全編を覆うこの雰囲気だったんじゃないのか、
事件はそのための小道具に過ぎないのではないだろうか、
という印象です。バラバラ殺人を小道具にするなんて、
さすがにミステリ作家は違います(笑)。
なので、ミステリを期待して読むと外れかも。
しかし、こういう作品も書けたのですね、有栖川氏。
たまには面白いと思います(全部これだったら驚くけど)。


ところで解説が面白いです。interestingでもあるんですが、
その前の前置きというか(そっちの方が長いのですが)、
有栖川氏のことを説明している部分がfunnyです。
旦那様も旦那様なら、奥様も奥様ですね、って感じ。
もしも読むなら新書より、解説つきの文庫がお薦めです。




菜の花の一押しキャラ…久能 健太郎 「私だって頭の中に脳味噌が詰まっているというところを  披露したかっただけです。」             (フランク・ノーナッカー)
主人公 : 山尾 恭司
語り口 : 3人称
ジャンル : 幻想ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 幻想的、暗め
解 説 : 大村 アトム
カバー : 大路 浩実
デザイン : 菊池 信義

文 章 : ★★★★
描 写 : ★★★+
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
226. 「それでも君が ドルチェ・ヴィスタ」     高里 椎奈
2006.01.13 中編 172P 700円 2002年2月発行 講談社ノベルス ★★★★★
世界は31人だけの大きな密室で、悲劇が…

<100字紹介>
 生まれたばかりのキンカンと、彼を見つけたリラ。
  料理上手のヴィオラ、人懐こいピアニカ、双子のシンとバル。
  彼ら6人を含めても世界中で31人の大きな密室。
  1つの悲劇がこの世界に潜む真実を暴く、ミステリ風幻想 (100字)


高里椎奈初の「薬屋探偵シリーズ」外の作品。
講談社ノベルスの20周年企画、
「密室」に関する中編の1つとして書かれたものです。

元々、高里椎奈はミステリ作家という雰囲気がありません。
分類するならファンタジー作家に入るでしょう。
その彼女が、「密室」に参加するとは。
確かに「薬屋シリーズ」は、オカルトですが、
テーマ的には本格志向でありますから、無関係ではありませんが。

しかし、これは面白い趣向だったのではないでしょうか。
ファンタジー作家が描く密室。
単なるミステリじゃないところがうまい。
ネタばれ覚悟で言いますと、
世界が犯人なのです、この小説は!


ドルチェ・ヴィスタとは「甘い景色」。
主人公のキンカンが、この世界に生まれ落ちたところから
話は始まります。生まれ落ちると言っても、
この世界では「子供」はその辺りで発見されます。
キンカンは草原で寝転がっているところを
リラに見つけられ、家に連れ帰られます。
6人目の家族として、家に迎え入れられたキンカン。
その意識は最初から、赤子のそれではありません。
しかし、話すことはまだ出来ない彼は強い疎外感を覚えます。

読者はキンカンとともに、この不可思議な世界に
徐々になじんでいくことでしょう。
キャラたちはみな、大変魅力的で生き生きとしています。
しかしこの世界は、いつまでも謎に満ち溢れています。

そして起こる、悲劇。
たった31人しかいないこの世界で、
住人の遺体が見つかるのです。
それは自殺にも事故にも見えない、上半身だけの遺体。
容疑者として追われるのはキンカン…。
あなたはこの世界の輪郭を見つけることができるでしょうか?

中編とは思えない、ボリューム感ある1冊です。



菜の花の一押しキャラ…ピアニカ めちゃくちゃいい子じゃないですか! 「あまり駆り立てないでやって、トゥーラ」        「さっすがヴィオラ。分かってる」            「リラが張り切ると、いつも以上に周りの物が壊れるのよ」 (ヴィオラ+リラ)
主人公 : キンカン
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ風ファンタジー
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★+
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
227. 「見てわかる!図解経皮毒」     山下 玲夜(あきよ)
2006.01.15 エッセイ 128P 1200円 2005年11月発行 日東書院 ★★★★
経皮毒とは何?その正体と恐ろしさを紹介

<100字紹介>
 シャンプーや化粧品、洗剤まで日用品に含まれている
  有害物質がアレルギーや花粉症、気管支喘息、
  癌などを引き起こす原因となりうる!?
  皮膚から吸収する「経皮毒」の怖さをQ&A形式で紹介。
  イラストの可愛い1冊。 (100字)


経皮毒とは、皮膚から吸収される有害な化学物質のこと(多分)。
わかりやすい毒!だけでなく、日用品にも含まれている、
ということから、警告を発するために書かれた本です。

著者自身、子宮内膜症などを患った際、
シャンプーを変えたら治ってしまった!という体験をして
衝撃を受け、興味を抱いたとのこと。
確かにそれは、驚くでしょうね!

Q&A形式をとっていて、それぞれの話題は2Pずつ。
「経皮毒ってなに?」から始まり、51の質問を2章に分けて
説明していきます。それぞれに1ページの半分以上を占める
大きな関連イラストが配されていています。
イラストが愛らしいので、読む方は気楽でしょう。
活字が苦手な人にこそおすすめの形かも。

内容として、とにかく言っていることは簡単。

経皮毒は怖い。毒が入っているから安物の日用品は危ない。
中身を選んで、いいものを買いましょう。
そうすれば企業も考え直して、そういう「毒物」が世間から消え、
地球は住みよい星になるでしょう。

基本的には同じことを繰り返して警告を発しています。
これはなかなか効果的な書き方だと思います。
主張を印象付けるにはいい展開でしょう。
反面、やや感情的に見え、冷静な視点に欠けるようにも感じます。
これを「著者の気持ちがこもっていて読みやすい」とプラスに感じるか、
「非科学的で新興宗教の啓蒙書のようだ」と反感を感じるかは
読者の趣味の問題かと思います。

問題点としては、文章がなっていないということでしょうか。
Q&Aであるのに、AはQに答えていないものが多いです。
また、重要な証拠部分が伝聞形になっていたり、
科学的にみて記述の不正確さや著者の理解不足が疑われる部分も
散見され、全体には科学的根拠に疑念が残ります。
勿論、基本的には著者の主張は正しいとは思います。


巻末の「日用品の経皮毒チェック一覧表」は役に立つかも。
折角なら有害作用をもう少し詳しく書いて頂ければ
コピーして残しておくのにな、とは思いますが、
これでも思わず、自分のシャンプーなどを持ち出して
中身チェックをしてみたくなります。


確かに、世の中には知らずにいると痛い目に合うような
謎の化学物質が氾濫しています。
それなのに、世間の関心は低く、有害化学物質は益々増える一方。
誰かがこれに意義を唱えて立ち上がり、
一般の関心をそちらに向けなくてはならないと思います。
最初の入門としては、このような「よみもの」として
さらりと流せる本に出会うのはよいことかもしれません。
本書が大流行することはありえないでしょうが、
本書の中の警告が、世間に受け止められるのは絶対に必要であり、
大きな波となって社会が変わっていくことを願って止みません。




テーマ : 経皮毒
語り口 : 主観的
ジャンル : 生活エッセイ
対 象 : 一般〜子供向け
雰囲気 : 警告
監修 : 竹内 久米司、稲津 教久
イラスト : 原田 良子

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★+★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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228. 「イエスの遺伝子(上)(下)」     マイクル・コーディ、内田 昌之[訳]
2006.01.18 長編 350P, 300P 590円, 552円 1998年3月徳間文庫
2000年2月発行
徳間文庫 ★★★★
学者は、2千年前の奇跡の遺伝子に出会った

<100字紹介>
 細胞からすべての遺伝子情報を解読する装置を発明した
  天才学者トム・カーター。一人娘の遺伝子を調べ、
  娘が1年以内に脳腫瘍で死ぬことを知る。
  娘を救うには奇跡の治癒能力を持つ
  イエスの遺伝子の謎に挑むしかない… (100字)


 --オリジナル・データ-------------------
  THE MIRACLE STRAIN
  by Michael Cordy
   Copyright©1997 by Michael Cordy
 ---------------------------------------


主人公のトム・カーターは遺伝子学者。
しかも超がつくほどの天才的科学者です。
彼は何と細胞が1個あればすべての遺伝子情報が読み取れてしまう
スーパー顕微鏡をつくってしまったのです。
それを解析するこれまたハイパーなソフトを開発したのがジャスミン。
この2人がノーベル賞を授賞した夜からメインの話は始まります。

突然現れた刺客に銃を向けられたトムでしたが、
撃たれたのは彼の妻。最愛の妻を亡くしたトムは、
それだけでなく恐ろしい事実を知ってしまいます。
妻には脳腫瘍があったのです。そして、彼の死んだ母にも…。
一人娘のホリーにその要素が遺伝していないかと心配になったトムは、
自ら開発した装置で、ホリーの遺伝子を調べます。
そして彼女が、1年以内に脳腫瘍を発症し、
死に至るであろうことを機械に告げられてしまうのです。

…と、序盤のあらすじを書いてみました。

このあとトムは、娘を救うために動き回るわけです。

ストーリーの深みを増すのが三つ編みでも結うように
トムたちのエピソードと交代で語られる
「謎の集団」や「刺客」の話。
謎の集団は、見返しについている「主な登場人物」で言うところの
「ブラザーフッド」というあやしげな宗教団体であり、
「刺客」とはマリアというブラザーフッドの暗殺者のこと。
彼らのそれぞれの事情が次々と語られ、
全体のストーリーの中に編みこまれていくのです。
それらが1つに重なるとき…、物語が急転しそうな
期待感と緊張感がないまぜになってストーリーは進展します。


本作は著者にとってのデビュー作に当たるとか。
ふと作品のアイデアが思い浮かんでしまったコーディ氏は、
これを書くために仕事をやめたらしいです。凄い。

確かに着想が大変面白い作品。
また、著者が小説初挑戦というのも分かるような気がします。
大変映画的で、しかもハリウッド映画的。
設定の突飛さといい、動きの派手さといい、展開の仕方といい、
ハッピーエンドへのもっていきようといい。
大味で、エンターテイメント性に富む構造です。
とにかく主人公・トムは映画のキャラのよう。
「小説らしさ」はむしろ、準主役のマリアやジャスミンが担っています。
それぞれのキャラの個性はくっきりとしていて、
それらが生き生きと描かれています。


この作品のジャンルとして本には
「冒険ミステリー」とありましたが、まあ順当にSFかと思います。
サイエンス・フィクション。
著者は「これがSFではなくなるほど科学は進展してきている」
とのことですが、少なくとも作中の2002年には、
これは実現しませんでしたし、2006年現在、まだまだ無理だと思います。
ここに出てきている技術は少なくとも、
著者が考えている以上に実現が難しいものであると思います。
何が難しいってまず、顕微鏡(どうやら電子顕微鏡らしい)で
DNA配列をこんな風に読み取ることからしてまず難しい。
それから、読んだ遺伝子情報から得られる情報が具体的過ぎる。
機能予測も大変正確でしたけど、これは現在、
よほど特徴的なモチーフをもったタンパク質相手でないと難しい技術です。
構造予測すら単純なタンパク質に限られていますしね。
そして「あと1年でこの遺伝子の持ち主は死にます」って、
そんなこと分かるか!?とも思ってしまいますし。
それだと遺伝子異常により死亡するのが双子だったら、
ほぼ同じ時期に死んでしまいます…。
しかし実際は、生まれたてでもない限り、そんなことはないでしょう。
他にもいくつか、ええええ!?というのもありましたが、
それも含めて、やっぱりエンターテイメントのためのSF、
と分類しておきましょう。

ちょっと主人公に都合よすぎな展開、というのはありましたけど、
物語としては大変、面白い作品でした。




菜の花の一押しキャラ…ジャスミン・ワシントン 「パパにもっとたくさん会える?」      「お前が会いたいときはいつでもかまわない。  夜でも昼でも。そばにいるよ」       (ホリー&トム・カーター)
主人公 : トム・カーター
語り口 : 3人称
ジャンル : SF
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ハリウッド映画的
カバーデザイン : 花村 広

文 章 : ★★★+
描 写 : ★★★★
展 開 : ★★★+
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★+

総合評価 : ★★★★
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229. 「シンデレラの五重殺」     吉村 達也
2006.01.20 長編 398P 640円 1991年1月カッパノベルス
1994年7月発行
光文社文庫 ★★★★★
毒殺、絞殺、撲殺、刺殺、溺殺!謎の五重殺

<100字紹介>
 嵐の夜、美少女スターが自宅マンションで発見される。
  毒殺、絞殺、撲殺、刺殺、溺殺!
  5通りの方法で殺された「五重殺」の謎に
  捜査一課の田丸警部と精神分析医・氷室想介が挑むうち、
  5つの手段を用いた連続殺人が… (100字)


とにかく、とても豪華な殺人事件です。
と言っても、金銭的という意味では勿論、ありません。

まず、被害者が現代のシンデレラとでもいうべき美少女。
芸能プロダクションの企画で選ばれた最終候補2人のうちの1人。
このシンデレラ企画とは、選ばれなかった方の1人は、
デビューできないどころか一切の芸能活動を1年間、
禁止されるという「天国と地獄」的企画なのです。
清楚で憂いを含んだ表情の、雪国からやってきた・松永栞と
小麦色に日焼けした人懐こい都会っ子・京極美奈子。
各社大注目の記者会見で、発表されたシンデレラは栞。
そしてその嵐の晩に、栞は無残な遺体で発見されるのです。
しかも、とても豪華な遺体となって…。

青酸化合物をのんだ痕跡があり、首は絞められ、
頭にも裂傷があり、腹部を刺され、さらに水に沈められ。
そのどれもが死因として不思議ではないけれど、
どれもが致命傷ではなかったと思われたのは、
すべてが生きているうちか、死の直後に加えられたと考えられたから。
シンデレラは一瞬のうちに、5つの方法で殺されたのです。

容疑者としてあがったのは企画に関わった、
芸能プロダクションの社長や、音楽プロデューサー、
写真家などと、選ばれなかったシンデレラ。

しかし、事件はこれだけでは終わらずに…。
更なる連続殺人事件が発生。
しかも1つ1つがとにかく豪華。
ここまでやるか!くらいにやってくれます。


元々本作は、「五重殺+5(プラスファイブ)」
というタイトルで発表され、改題された上で文庫化しています。
「五重殺+5」は事件をよく表したものですが、
「シンデレラの五重殺」の方が確かに、一般受けしそうな感じ。
それに、さらりと流したイメージで菜の花も好きですね。

どうやらシリーズ物の1つのようで、
精神分析医(サイコテラピスト)の氷室想介というキャラが登場。
職業を生かした捜査かどうかは謎ですが、
とりあえず彼と彼の周りにいるキャラがどの人も、
キャッチーな感じで好感が持てます。
思わず楽しい気分になれるような。
事件自体が派手ではありますが考えてみると
とてつもなくおどろおどろしいものであるので、
こういうキャラたちが明るく事件に関わってくれると、
読者もほっとするのです。


最近、豪華で王道的なミステリを読んでいないなあと
お嘆きのあなたにお薦めの1冊です。



菜の花の一押しキャラ…君島刑事 「別にお世話なんかしてませんよ、ぼくは」(雨宮 哲)
主人公 : 特に未確定
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : マスコミ的
カバーデザイン : 亀海 昌次
カバー写真 : ポール・エレッジ

文 章 : ★★★+
描 写 : ★★★+
展 開 : ★★★+
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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230. 「半落ち」     横山 秀夫
2006.01.21 長編 358P 590円 2002年9月講談社
2005年9月発行
講談社文庫 ★★★★+
展開の巧みさが光る、ベストセラーミステリ

【100字紹介】
 現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し、
  自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、
  殺害から自首までの2日間の行動だけは頑として語ろうとしない。
  梶を取り巻く視点からその謎に挑んでいく (100字)
 

言わずとしれた、有名作です。
確か映画化もされて、大評判になったのではないでしょうか。
見てませんけど…。


基本ストーリーは100字紹介にある通り。
現職のしかも49歳の警部という、それなりのポジションにある
梶聡一郎が妻殺しを自首してきて、物語が幕開けます。
「完落ち」、つまり全面自供と思われた素直さを見せるのに、
事件から2日間の謎の空白の時間を尋ねると突如、黙秘するのです。
つまり「半落ち」。本来なら殺害とは直接関係ないと思われた
「空白の2日間」でしたが、記者会見でマスコミに突っ込まれ、
重要な謎として認知されてしまいます。
作り上げられた謎はどんどん一人歩きし、
梶聡一郎の周囲で次々と波紋を起こしていくのです。

本書は全6章で構成されていて、それぞれの主人公が異なります。
しかし渦中の人である梶聡一郎が主役に据えられることがない、
というのが面白いところ。

最初の主人公は、梶の取り調べを担当する県警本部の強行犯指導官。
梶の「謎」に最初に触れ、事実の一端を知り、
それを押し隠そうとする上層部と戦おうとしますが…。
結局彼は「謎」を「謎」のままに、舞台を去っていきます。

以下、検事、マスコミ、弁護士、裁判官そして刑務官と、
梶聡一郎に関わっていく人々の視点で、
どんどん進んでいく「事件」を眺めていくことになります。


結末の意外性、感動性をよく聞いていた気がするのですが、
実際のところ本書で読むべきところは、序盤〜中盤。
この展開の巧みさは他に類を見ないと言ってもよいくらい。
オリジナリティが高いだけでなく、目新しさだけで読ませず、
ひとりひとりの書き込みが精緻で、現実的。

全編通して謎は「空白の2日間」だけのはずなのに、
それに関わって引き起こされる事態や
炙りだされていく主役たちの決意と悲哀…。
その語り方も素晴らしい。
文章自体も大変巧いし、
いわゆる、ストーリーテリングの技術も高く、
読者を引き込む力強さと、繊細さを兼ね備えた1作です。





菜の花の一押しキャラ…佐瀬 銛男 「ハッ!俺らはロボットだぜ。しかもアトムじゃねえ。鉄人だ」(佐瀬 銛男) リモートコントロールされているからという意味らしいです。
主人公 : 章ごとに交代
語り口 : 3人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 現実的、シリアス
結 末 : 感動系
カバーデザイン : 多田 和博
カバー写真 : PPS通信社

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★+
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231. 「秘密のクラブへようこそ!」     椹野 道流
2006.01.23 中編 210P 495円 2005年2月発行 小学館パレット文庫 ★★+★★
微笑みの新入生とともに魔物な学園生活!?

【100字紹介】
 名門・私立英聖高校。特殊能力者が選抜されるE組に、
  白瀬真透は「笑顔」で入学する。アーチェリーで入学した
  クールな藤堂要平は、天真爛漫な真透に戸惑いつつ親交を深めていく。
  ある日2人は学校で魔物に襲われて? (100字)
 

椹野道流初の学園もの。
そしてシリーズの第1弾。
シリーズ化することを前提として書かれているので、
導入的役割を果たすために起こる事件自体は小さめ。


面白いところは、やはり発想でしょうか。
由緒正しい名門校で、毎年20人が選抜される特待生枠には
1000人を超える応募があるのです。
在学中の授業料や寮費がすべて免除、
ただし在学中または卒業後10年以内に
学園の名を大きく高める実績をあげねばならないという条件つき。
もしも果たせなければ高額の免除金を払わねばなりません。

(一応)主人公としてあげた藤堂要平も、
アーチェリーの世界ジュニア大会日本代表で、
決勝ラウンドまで進んだという猛者。
それに引き換え、本来の主人公としてあげてもよい
白瀬真透(ますき)ときたら、特技は「笑顔」。
しかもそれだけで本当に入学してしまったという、
こちらもある意味猛者。この発想はなかなか…(笑)。

在校生の間では「微笑みの新入生」と呼ばれる真透、
アーチェリーに求められる平常心を心がけるクールな要平、
生物教師で彼らの担任の中条、2年生で寮長である
波多野研吾、その妹で1年生の波多野絢乃…、
それに謎の某キャラ。
生き生きとしたキャラたちが学園生活の中で跳ね回る、
元気いっぱいのライトノベル・シリーズ序章です。




菜の花の一押しキャラ…藤堂 要平 「…小娘の腹なんかより、ハマチの腹のほうがよほど魅惑的だよ。」 (中条 征己)
主人公 : 藤堂 要平
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトライトノベル
対 象 : ティーンズ向け
雰囲気 : 学園もの、オカルト、ライト
結 末 : ひとまず落着、次回に続く
イラスト : ひだかなみ

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★+★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
232. 「MATEKE 魔的」     森 博嗣
2006.01.26 写真詩集 176P 1400円 2003年7月発行 PHP研究所 ★★★★★
「クールな幻想」の漂う、森博嗣の心の呟き

【100字紹介】
 見開き2ページに、森博嗣撮影の写真と
  言葉が配された写真詩集。
  美しい言葉より、率直に心を表す単語。
  万人に分かりやすい文章より、
  心象風景をありのままに描き出す表現。
  森博嗣の遠い呟きが聞こえてくる1冊です。 (100字)
 

森博嗣の写真集はこれで3作目でしょうか。
これまでのものと違う点は、詩集の形態をとっていること、でしょう。
写真より、詩がメインですね。これまでの作品は写真がメインでした。


詩は大変理系的で、単語を駆使して
音律を重視する傾向にあります。
クールで、また森博嗣の思考がそのまま反映されており
その点で不可解かつ幻想的に見えます。
人によっては、文章がかたすぎると思うかも。
理屈っぽさに情緒を感じる人と感じない人、
意見は分かれるところかもしれません。


写真の題材は些細で、通常注目されない事物が多いです。
自然物よりも人工物の方が優勢でしょうか。
また、それ単体で作品としてなりたつ派手なものではなく、
詩と並ぶことでそれを引き立てようとする、
刺身のつまみたいな存在という感じ。


ちょっと視点が面白いな、と思わせる作品。



テーマ : −
語り口 : 詩
ジャンル : 写真詩集
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 理系的、クール、幻想
結 末 : −
編集協力 : 編集工房キュウ
本文デザイン : 荻野谷 秀幸

文章・描写 : ★★★★★
展開・結末 : ★★★★★
キャラクタ : ★★★★★
独 自 性 : ★★★★★
読 後 感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
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