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(2005年11月…192-207) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2005年11月の総評

今月の読了冊数は16。ここ1年で最多の読了数です。
長編7冊、短・中編4冊、その他5冊。
科学系のよみものなどを比較的多く読んだ月でした。

コンプ計画中の著者の読了数は
椹野道流2冊、森博嗣3冊、高里椎奈3冊でした。


さて内容。
今月は様々な評価の本が読めて、大変収穫の多かったように思います。
菜の花的2005年10月のベストは

「梟の城」   司馬遼太郎 (評点 5.0)

5点満点で、文句なくのベストです。
「梟の城」は、エンターテイメント豊かな歴史小説。
直木賞受賞作であり、その素晴らしさは折り紙つき。
一族の怨念と忍者としての生きがいをかけて秀吉暗殺を狙う伊賀者・葛籠重蔵と、
忍者の道を捨てた相弟子の風間五平という、対照的な2人の忍者の生き様を
活写する忍者ものです。キャラが一面的でない色々な顔を見せるという
リアリティの高さも素晴らしい作品です。


以下、高評価順に簡単に紹介していきます。
(同評価の場合は読了日順)

「迷宮百年の睡魔」  森 博嗣      (評点4.0)
「8の殺人」     我孫子武丸     (評点4.0)

「迷宮百年の睡魔」は、「女王の百年密室」で登場した
サエバ・ミチル&ロイディのコンビが再び登場する幻想ミステリ第2弾。
謎満載で、読者をぐいぐいと惹き付ける素敵なファンタジー。
中間部ではアクションもあって、物語として様々な色と、起伏を持っています

「8の殺人」は「0の殺人」に続く「速水兄弟シリーズ」第2作。
速水警部補と推理マニアの弟妹の活躍が見られます。
驚くべきは物語の冒頭「作者からの注意」で、
この殺人劇の容疑者達4人のリストが公開されている!ということ。
あっと驚く楽しい真相に、ミステリファンなら
我孫子武丸の魅力に釘付けになることでしょう。


「魍魎の匣」      京極 夏彦    (評点3.5)
「山伏地蔵坊の放浪」  有栖川有栖   (評点3.5)
「森博嗣の浮遊研究室」 森 博嗣     (評点3.5)

「魍魎の匣」は日本推理作家協会賞受賞した京極堂の妖怪シリーズ第2作。
オカルト色の濃いディスカッション満載ですが、真相はちゃんと
ミステリです。オカルトじゃありません。
心臓の弱い方やスップラッタに弱い方、ご注意下さい、
という警告が欲しい作品…。それでもまた読みたくなるから
とっても不思議です。怖いもの見たさ…?

「山伏地蔵坊の放浪」は毎週土曜の夜、ダンディなマスターのお店
「えいぷりる」に僕を含めて5人のファンが集まって、
地蔵坊先生の「名探偵談」を聞かせてもらうという連作短編。
面白い小ミステリパズル全7話が収録されています。

「森博嗣の浮遊研究室」は、WEBダ・ヴィンチで連載されていた
同名作品の単行本化です。助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイ。
1回ごとに6つのトピックに関した会話が繰り広げられていきます。
コジマケン氏のイラストが素敵な作品。


「悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談」   高里 椎奈(評点3.0)
「金糸雀が啼く夜 薬屋探偵妖綺談」  高里 椎奈(評点3.0)
「緑陰の陰灼けた月 薬屋探偵妖綺談」 高里 椎奈(評点3.0)
「ウェブ日記レプリカの使途」   森 博嗣 (評点3.0)
「顕微鏡のすべて」        井上勤監修(評点3.0)
超ダイジェスト 早わかり「アスベスト」」 勝田 悟  (評点3.0)
「地下街の雨」           宮部みゆき(評点3.0)

「悪魔と詐欺師」「金糸雀が啼く夜」「緑陰の陰灼けた月」は
すべて薬屋さんシリーズの作品。第3、4、5作に当たります。
妖怪3人組と刑事2人などがメインキャラになっている
ミステリ風オカルトファンタジーシリーズです。

「ウェブ日記レプリカの使途」は森博嗣の日記本第4弾。
最初に比べて、文章表現がややソフトになりました。
研究に趣味に、やりたいことをやっているその姿は
清清しく感じます。恒例の特別漫画はスズキユカ。

「顕微鏡のすべて」はその名のとおり、顕微鏡の本。
光学顕微鏡についての基礎知識だけでなく、選び方や取扱法、
プレパラート作成のための採集・固定・染色などまで丁寧に解説。
研究室内に限らず、学校での実習や趣味人にもできる
生物、鉱物観察のための手引書に最適です。

「早分かりアスベスト」も科学系よみもの。
今話題の「アスベスト」について、その由来・種類から
有毒性と関連の法律、今後どうしていくべきか?
についてダイジェストしています。これ1冊で
とりあえず基本はばっちり!?

「地下街の雨」は7作品が収められた、宮部みゆきの短編集。
恋愛小説?からホラー、ミステリまで、幅広いジャンルの
様々なカラーをもちながら、やはり「宮部作品」としか
言いようのない、作者独特の持ち味が堪能できます。


「ネクロマンサーの初出張!」 椹野 道流 (評点2.5)
「尋牛奇談」         椹野 道流 (評点2.0)
「家電を修理する本」     杉嵜 晃一 (評点1.5)

「ネクロマンサーの初出張!」はネクロマンサーシリーズの第3作。
中世ヨーロッパ風のオカルトライトノベルです。

「尋牛奇談」は奇談シリーズのひとつ。
新章突入といった感じの、現代オカルトライトノベルです。

「家電を修理する本」は「何でも自分で直す本 Vol. 3」。
初心者にやさしい…というか初心者しか使えないかもしれない1冊。



以上、今月の読書の俯瞰でした。








192. 「悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2005.11.02 連作短編集 278P 800円 1999年12月発行 講談社ノベルス ★★★★★
シリーズ第3弾。薬屋3人組、東奔西走す!

高里椎奈、3作目。初のnot 長編です。

<100字ブックトーク>
 「当ててごらん。これらの事件には、共通点がある」
喫茶室で毒死した男。マンションから飛び降りた会社員。
プログラマーは列車事故で死に、書店員は手首を切った。
だがそれらはすべて解決したはずの事件だったのだ… (100字)

本作は高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第3作。
しかし前2作とは大分、趣が違います。

全5幕+カーテンコール(エピローグ)から成っていて、
それぞれが独立しているようでしていないような。


シリーズの簡単な説明を。
とある街の一角、まるでそこだけ時にとり残されたかのような「深山木薬店」。
澄んだ美貌の少年(深山木 秋)、優しげな青年(座木)、
元気な男の子(リベザル)の3人が営む薬店、実は探偵事務所!?
「何でも調合する」あやしげな薬屋さん。
裏家業は妖怪専門のごたごた片付け屋さん。
何故彼らはそんなことをするのか?
妖怪が人間と平和裏に共生していくのに必要だから。
実際のところ、そんな彼ら自身が妖怪なのです。

ちなみにシリーズ第1作「銀の檻を溶かして」はメフィスト賞受賞作で、
高里椎奈のデビュー作です。

彼ら薬屋3人組に前2作で関わってきたキャラが
刑事の二人の刑事。頭の回転が速いが少しとっつきにくい高遠、
天真爛漫で深山木秋の大ファンの御(おき)。

本作でも彼ら5人が主に活躍しています。


第1幕「暗鬼」は、シリーズ中ではおなじみの刑事・高遠が主人公。
何とお見合いの席につかされることになった高遠の胸中とともに
彼の知られざる(?)子ども時代や家庭の事情などが
さらりと流れさっていきます。
そして出会い頭にぶつかった、ホテルの喫茶室での毒死事件。
珍しく、オカルト色は完全にゼロ。
短編にふさわしい小さな事件ですが、本格ミステリです。

第2幕「再鬼」は薬屋3人組の最年少・リベザルが主人公。
おつかいで駅前を歩いていたリベザルが、
シリーズ第1作で出会った高橋総和(with ペットの推定イグアナ)
と再会するところからお話は始まります。
彼は、旅行会社の社員である先輩の飛び降り自殺に不審を感じたと
深山木秋に相談にきたということ。
リベザルの心の動きを描くことを主目的としているような筆致。
ただ、やはり少しぎこちないでしょうか。
この著者の描きたいことはよく伝わってくるし
それは好ましいものに思えますが、文章の滑らかさに関しては、
著者にもう少しの作家経験が必要なのかもしれません。

第3幕「夜鬼」は薬屋3人が主人公?またはリベザルでしょうか。
ある意味、薬屋の裏家業の真っ当な依頼がきた、という感じ。
依頼人と薬屋3人の掛け合いが軽妙なオカルト・ライトノベル。
短編らしい明快さのある作品です。

第4幕「回鬼」も、リベザルが主人公。
しかも他の薬屋2人(深山木秋、座木)が、ほぼ不在。
リベザルの遊び場である近所の山で起きた殺人事件の
聞き込み捜査にやってきた刑事たちに応対した留守番のリベザルが
その殺人事件をひとりで解決するという珍しいお話。
リベザルが独力で事件を解くのはこれが初ですね。
しかしメインはミステリよりもやはり、リベザルの心の動きでしょうか。

最終幕「惹鬼」はここまでの4作の合計よりやや少ない程度の長さで
短編というよりは中編小説というべきでしょう。
前作でも登場していたネットの情報屋「シャドウ」から刑事の高遠に
「これらの事件には共通点がある」と謎かけが出されます。
事件は徐々に進んでおり、この作品に到達した時点で6つ。
高遠は御刑事とともに深山木薬店に相談にやってきます。
しかし秋は不在で、座木とリベザルが彼らに協力。
主に座木の活躍が描かれる章ですが、
独立してもうひとつ、「秋らしくない秋」が動いているお話が
ときどき挿入されていきます。さて、それらの関係は?というところ。
また、この章では第1幕で振られた「高遠の事情」がもう一度現れ
終幕にふさわしい彩を添えてくれます。
短編が独立ではないことを、事件の繋がりだけでなく
各人の事情へ絡めていく描き方は巧いと思いました。
それにリベザルの心の動きと比べて、高遠のトラウマ(?)は
リアリティがあって滑らかな描写です。
著者にも何かトラウマでもあるのでしょうか…。





菜の花の一押しキャラ…御 葉山 良い性格だなあ。結婚はしたくないけど。 「本物、ですよね?」 「影武者を持った覚えはないわね、一応」  (リベザル、高橋 総和)
主人公 : 3人+刑事
  リベザルが最もメイン
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルト風ミステリ
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
193. 「ウェブ日記レプリカの使途」     森 博嗣
2005.11.02 エッセイ 606P 1900円 2003年2月発行 幻冬舎 ★★★★★
森博嗣の日常を知る日記本、第4弾!

森博嗣の日記本もついに第4弾か…。

<100字ブックトーク>
 インターネットで森博嗣が毎日欠かさずに書いた日記を、
  ほぼそのまま収録した2000年の日記本。
  森博嗣の趣味語りや会話形式の脚注での軽妙なやりとりなど、
  コンテンツは相変わらず。恒例の特別漫画はスズキユカ。 (100字)

元々、サイトに公開されていた日記を1年分、
そのまま、まるごと本にしているシリーズ。
それだけだと商品価値がないので
(何しろサイトで読めば同じものがタダで閲覧できる訳ですから)
脚注とオリジナル漫画がプラスされています。
ちなみに、サイトで公開していた日記を本にすることの短所については
第1作「すべてがEになる」の森博嗣自身のまえがきに詳しいです。

森博嗣、相変わらずつっこみどころ満載な
面白系生活を送っているような。
研究者の面と趣味人の面が混在していて楽しげな内容です。
研究者の面の方、誤解のないように申し上げておきましょう、
あれは工学部の姿なので!
菜の花たち理学部とは大分、趣が異なっているようです。
まあ、想像はつきますし、共通の面もありますが。

ここまでのシリーズ3作を読ませて頂いた菜の花は、
このシリーズについて、そろそろ書くことが尽きてきました。
同じ人の日記な訳でありまして、何年たっても結局のところ
人の本質は変わらないんだよなあと再確認。それは出来る。

ああでも、やっぱり初期に比べて文章がとてもソフトになりました。
これは菜の花が慣れたからというよりも
実際に文章がソフトになったのだと思います。

シリーズと銘打っていますが(打ってるの?)、
実際のところ第何作から読み始めても変わりません。
というか、どこから読み始めたって結局は
森博嗣という人の人生の途中から眺める訳ですから
まったく条件として変わりがありません。
ならば、もしもこのシリーズを読みたいという人がいらっしゃるなら
なるべく新しいものをお勧めしますね。
理由は文章がソフトになっているから。それに尽きますが。
読みやすさやとっつきやすさは高いです。


しかし、最近このシリーズを読むと何故かほっとする菜の花。
癒されている〜、って訳では決してないんですけどね
(他人の日記で癒されるほどシビアな生活はしていないつもり)、
なんと言うか、こういう毎日毎日を追いかけるって、面白いなって。
いや、興味本位とかそういうのじゃなくってですね、
ペースがいい。そうだ、そんな感じ。

自分の日常生活って、その中にどっぷり浸かりきっているせいか、
なかなかペースがつかめなかったりとか、自分の立ち位置が
だんだん曖昧になっていってしまうんですよ、菜の花。
だから、たまにこうやって淡々と生きている人の
(森博嗣の日記はそういうイメージがある)
人生を流し読みしていくと、生きるスピードが分かる…気がします。
うーむ、何言ってるかよくわかんないや。
ま、そんな感じでペースメーカみたいなもの?
(多分、きっと、実は、すっごく、違う気がする)




主人公 : (森 博嗣!?)
語り口 : 当然、1人称
ジャンル : エッセイ(日記)
対 象 : 主にファン対象
雰囲気 : 淡々とした日々!?

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
194. 「顕微鏡のすべて」     井上 勤監修
2005.11.06 科学 246P 2000円 1997年11月発行 地人書館 ★★★★★
光学顕微鏡の基礎、試料作成から観察まで

研究室の本を、ちょっと拝借してきました。
どうやら教授が、初心者のために購入した本のようです。

<100字ブックトーク>
 光学顕微鏡についての基礎知識だけでなく、
  その選び方や取扱法、プレパラート作成のための
  採集・固定・染色なども丁寧に解説する。
  研究室内に限らず、学校での実習や趣味人にもできる
  生物、鉱物観察のための手引書。 (100字)


挿入されている写真の古さや内容から、古めかしい感じを受けます。
一応「新装版」ですが、元の出版はかなり古いものと推察されます。
しかし、それでも十分現在においても実用に耐えうるものでしょう。


さすがに「顕微鏡のすべて」などという大きなタイトルを掲げるだけあって、
ただ顕微鏡の原理や基礎知識を並べ立てるだけではありません。
勿論、顕微鏡の基礎知識はありますが、光学の細かい原理を述べる本ではなく、
むしろそれをどう利用していくか、に重点がおかれています。

まあ…、菜の花のように顕微鏡という「光学系」が好きという人よりも
顕微鏡による無限の世界の「観察」が好きという人の方が
一般的だと思われますので、本書は顕微鏡使用者のためには大変、
的を得た手引書になると思われます。


全体が3部構成になっていて、それぞれ
「顕微鏡の世界」「顕微鏡下の世界」「顕微鏡写真の世界」
と銘打たれています。

第1部「顕微鏡の世界」では、顕微鏡の歴史や原理などの基礎知識から
顕微鏡の選び方、使い方、保管法などの実用的知識がまとめられています。
この章では殆ど何の予備知識を要求せず、
また読み手の知識に合わせて平易な読み方から
一歩踏み込んだ専門系知識の獲得まで、幅広く対応しています。
平たく言えば、分からない人でも流し読みできる程度だけれど
読む人が読めば拾える専門系知識がありますよ、ということです。

第2部「顕微鏡下の世界」は4つの章、すなわち
「植物」「微生物」「動物」「鉱物」のに細分し、
実際の観察を、例を挙げて手順説明しています。
これがまた、懇切丁寧でありまして
プランクトンの採集方法だの、培養方法・収穫・固定だの、
とにかく日曜観察とでも申しましょうか、中学辺りの科学部員が
読みながらやっていてもおかしくないくらいな雰囲気です。
研究者さんじゃなくっても十分やれそう。
いや、菜の花が中学の生物部にでも入っていたら、やってたかも。
しかしアメーバやゾウリムシってレタス抽出液で培養できるんですね。
(しかも接合を観察したいならそれが推奨されていた。)
なかなか驚きです。他にも米粒や小麦粉やきなこも使えるらしいですが。
いや、実験室だけの専売特許じゃないわけですね、培養は。
新鮮な発見です。これで研究室から出ても、顕微鏡と戯れられるな、
とちょっとわくわくする菜の花…(←ちょっと一般的じゃない)。
勿論、それぞれの生き物についての簡単な知識も併記されていて、
授業なんかでも活躍してくれそうな雰囲気です。
とってもビジュアルで分かりやすく、生き物の勉強が出来そう。
ただし、ある程度の予備知識は要求します。
生物分類の概略ぐらいは、頭に入れておいた方がよいでしょう。
(分からなくても楽しめますが、やはり知っていた方が
断然理解しやすくなるはずです。)
なお、「鉱物」の章では偏光顕微鏡の説明になります。
しかし鉱物のプレパラートってああやって作るんですねー、
自分がやることがなくとも、それを見て雰囲気を感じる、
という読み方もあります、この章は。うーん、楽しい。

第3部「顕微鏡写真の世界」は見て愉しむ章。
ページ数は最も少なく、どちらかというと付録、という感じ。
監修者が監修者なだけに(井上先生は顕微鏡写真の世界では相当な有名人で、
先生の顕微鏡写真は、教科書や学会の出している資料にもよく使用されている。)
はっとさせられるほどの美麗な写真が並びます。

大体、表紙の美しいカラー写真を見ただけで
菜の花はチャームにかかってしまっているのであります…。
うーむ、さすがだ。ついに菜の花は、この境地には達せなかったですね…。
でも10マイクロメートルを切るシアノバクテリアの写真を撮らせたら
最近の菜の花は凄いですよ?(いや、ここで対抗してどうする)

もしも貴方に生物(および鉱物に対する顕微鏡に対する興味がおありでしたら、
是非一度、手にとってみるとよい本です。
まあ…、すでにとっている人が多いような気もしますね。



主人公 : (顕微鏡か…?)
語り口 : 説明口調
ジャンル : 科学
対 象   一般向け
  (しかし相当、対象を選ぶ。)
: 小中高の理科教諭、
  科学部員かそれに準ずる学生、
  趣味の一般人など
雰囲気 : まにあっく。

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
195. 「梟の城(ふくろうのしろ)」     司馬 遼太郎
昭和34年下半期 直木賞受賞
2005.11.06 長編 518P 705円 1959年9月講談社
1965年3月発行
新潮文庫 ★★★★★
戦国末期の忍者を活写した、直木賞受賞作

司馬遼太郎です。こ…これは…!

<100字紹介>
 一族の怨念と忍者としての生きがいをかけて、
  秀吉暗殺を狙う伊賀者・葛籠重蔵と、
  忍者の道を捨てた相弟子の風間五平。
  戦国末期の権力争いを背景に、
  二人の伊賀者の対照的な生き様を通し、
  陽炎の如き忍者の実像を活写 (100字)

久々に素晴らしく高評価してみました。
いや、名作です。面白い。

司馬遼太郎の歴史ものとしては、時代考証の説明的文章が少ない作品です。
エンターテイメント性の高さと、アクションの多さも例がない感じ。
(それは単に、菜の花の勉強不足かもしれませんが…。)
一瞬、完全オリジナルか?とも思いましたが、
最後の最後で実はこんな史実があってね、というお話が登場。
巧い…巧すぎます。そうくるのか、と。
この辺りは、最初から通読して余韻に浸るときに登場しないと
インパクトが弱まってしまうでしょうから、内容には触れません。
是非、ご自分でお確かめ下さい、ということにしておきましょう。

とはいえ、実際には「この人物がこういう性格で、こういうことをなしました」
というような懇切丁寧な伝承があるわけではありません、勿論。
登場人物たちに思想を与え、動きを与え、
彩鮮やかに描き出したのは司馬遼太郎なのです。


本作は元々、中外日報という仏教系新聞で連載されており、
その後に1冊として出版されています。
同年の直木賞を受賞し、文庫になったのは6年後。
その12年後に改版しています。
ちなみに菜の花が手にとったこの文庫は1999年に刷られたもので、
(司馬遼太郎の死後に発行されているのですね)八十三刷になります。
すごいですね。まず最初の発行年1959年と言えば、
菜の花の親御さんでさえまだ小学生だったかと思われます。
その娘がまた子どもを持っていてもおかしくないくらいの年齢になって、
まだ最近発行されたばかりの同じ作品を読む…、
それだけで、どれほど本作が愛され、大切にされてきたかが分かります。


本作刊行当時は経済高度成長政策が打ち出された消費ブームであり、
週刊誌の発刊も相次いだ時代小説の大変流行ったとか。
そしてその風潮のせいか、ドライでスピーディ、
そして艶事の場面の多い作風が本作でも見られます。

エンターテイメント性の豊かさ=軽さにつながらないところが
時代なのか、作風なのか…。
きっとこれこそが司馬遼太郎の知的さなのだろうと思います。
内容としては暗く、重い感じすらするのですが、
読み進むことに何の抵抗も感じません。
読みやすさはテンポの良さの賜物であって、
決して軽さではないのだと実感しました。

この作品の凄さの一端はやはり、キャラの造形かな、と思います。
エンターテイメント系小説でありがちな、やたらに万能で、
どこか人間離れした人格の持ち主、というのは殆どいらっしゃらない。
いや、誰もがある意味、人間離れしているのですが、
なんと言うか、一面的でない。
色々な顔を持っているし、それぞれの思惑も、説明しきれない欲もある。
それこそが妙に、人間らしい。1人1人が深いのです。
利己的で、プライドが高い。
そんなキャラたちを一歩退いた冷めた目で描き続ける著者。
この「一歩退いた」こそが、司馬遼太郎の筆の特徴ですよね。
勿論、主人公になりきって、主人公と共に冒険する小説もあります。
けれど一歩退いたからこそ、見えるものがある。
そして、退いたからと言って、主人公たちの緊張感を読者が
共有できなくなる道理は決してないのだ、ということも本作を読めば分かります。
司馬遼太郎の文は、何が特に優れているというわけでもないのに、
それが書き連ねられ、物語になると突然、
素晴らしく輝きだすのです。不思議。


これはお勧めの1冊。語り継がれた名作をどうぞ、という感じ。
でも世界文学全集に立ち向かうみたいに、肩肘張って読まなくても大丈夫。
娯楽のための、名作です。





菜の花の一押しキャラ…島 左近 僅か数ページの登場ですが。 「伊賀には、人外の化生(けしょう)が棲むのか」(織田 信長)
主人公 : 葛籠 重蔵
語り口 : 3人称
ジャンル : 歴史小説
対 象 : 一般向け
雰囲気 : エンターテイメント性豊か
解 説 : 村松 剛

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★+
展 開 : ★★★★+
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
196. 「尋牛奇談」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.11.07 長編 286P 630円 2004年4月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
物置にあった小箱が、新たな闘いを呼ぶ…

さて、ひと段落していたこのシリーズも、新章に入りますよ、
ってところです。

<100字紹介>
 読者クイズにする過去の写真を物置で探していた天本は、
  小箱を発見する。中から現れた品物に導かれ、
  前作の傷も癒えて完全復帰を果たした敏生と、
  思わぬ長期休暇を手に入れた龍村とともに一路、
  島根・足立美術館へ! (100字)

一応、このシリーズの紹介を。
雨の夜に行き倒れた、人間と精霊のハーフである琴平敏生。
彼を助けた若手ミステリー作家の天本森(あまもと・しん)。
この2人が主人公となります。シリーズの最初の頃はぎこちない関係でしたが
進むにつれて同居人からもう少し格上げ、って感じ。
この天本、実は霊障を扱う謎の組織の追儺師という裏の顔を持っています。
敏生は天本の誘いを受け、初心者ながら術者として組織に加わることに。
完璧な接客能力をもつ組織の担当エージェントの早川知足や、
法医学者であり、森の高校時代からの親友の龍村泰彦
森の師匠である盲目の術者・河合純也などの個性派のメインキャラに加え、
最近では天本の実父であるトマス・アマモトが最大の敵として
不気味に立ちはだかっているという感じ。


さて本作。ええと、ある意味、急展開です。
でもいかにもこれから始まる「何か」のプロローグという感じでもある。
「多分こうだろうなあ」ときっと読者の誰もが想像していたことが
さらりと事実として語られていく様は、まさに読者も天本に
なりきってきくことが出来るかも。
天本だって、きっと想像はしていたはずだから。

このシリーズは、「シリーズである」ことを前提に書かれているので
連載漫画のようなノリになっています。
必ずしも、本作1つで綺麗にまとまっているとは言い難い。
出来事としてはむしろ、裾広がりな感じです。
次へのつなぎ、という感が強い。
それでも著者が、これを1作としてまとめようとするのは
よく伝わってきます。まとめあげるのは、心情として。
キャラたちの心の動きに強弱をつけ、巧くまとめています。
これが内容的には1作のまとまりとしては弱いにも関わらず、
綺麗に1つの作品に仕上げています。
ま…、気になるのは気になるんですけど。据え置かれた内容とか。
次回作の楽しみということにしておきましょう。




菜の花の一押しキャラ…龍村 泰彦 ついに、お仕事を…! 「確かに、お前が人間である以上、二親があるのだろうが…あの化け物じみた  父親に嫁ぐとは、お前の母親は豪気な女に違いない。会ってみたいものだ」 (辰巳 司野)
主人公 : 天本 森、琴平 敏生
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルト・ライトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : オカルト、ややBL

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
197. 「超ダイジェスト 早わかり「アスベスト」」     勝田 悟
2005.11.09 科学 104P 1000円 2005年10月発行 中央経済社 ★★★★★
アスベスト問題について易しいダイジェスト

公共図書館の新着図書ディスプレイから。
流行りもの、ということで、ちょっと読んでみました。

<100字紹介>
 安くて便利な工業製品アスベストは、
  我々の生活環境に大量に存在しており、健康被害をもたらす。
  本書はアスベストの歴史、特性、普及拡大までの経緯から
  対処法まで易しく解説する。
  アスベスト問題は他人事ではない! (100字)


最近、話題のアスベスト。
でもこれって、一体どんなものか知っていますか?
理系なのに、アスベストがどういう物質か、
ちっとも知らなかった菜の花であります。
(世間の人々は、皆さん常識的に知っておられるのでしょうか?)
アスベストというより石綿、という方がまだなじみがありますね。
でも知っていることと言えば、燃えにくくて吸音性があるということくらい。
使っているところといえば、小学校の理科室にある金網についてる
あの白いやつ、くらいしか思い浮かばない…。

この本では4つのChapterでアスベスト問題をダイジェストしてくれます。

まずChapter1「「アスベスト」とは?」でアスベストの由来や種類、
どのような性質があってどのような場所で使われているかが語られます。
たった20ページ程度ですが、アスベストについての基礎知識を
効率よく手に入れることができます。

Chapter2「アスベストの有害性を知っておこう」で、
アスベストによって引き起こされる病気と、
化学物質の有害性の一般的な話、そして他の環境汚染との比較がなされます。
アスベスト以外の「化学物質汚染、危険性」の一般的な知識が織り込まれ、
研究室で薬品係などをやっている身としてはなかなかお役立ちでした。
有害性データの基本から、化学物質の検出法の話まで。
ほうほうほう、こうなっているのですね。
むしろアスベストの影が薄かったりして…。
比較のためにポリ塩化ビニルやPCB、フロン類などが
それぞれ1ページ程度にまとめられていますが、
これなども化学系でない菜の花には嬉しいダイジェストでした。

Chapter3「アスベストを規制する法律」では
中身を更に「国の対応策」「国内企業の対応策」「米国の状況」に分け、
それぞれに法律の文章や企業環境レポートの本文を引用しています。
こんなに沢山の規制があり、企業でも少しずつ、
取り組みがなされているのだなあ、と実感できます。
この章は、実際の関係者でもない限り、一言一句読むような
内容にはなっていませんが(読みますけど、読んだ端から忘れていきます)、
概略を知るという意味で貴重な資料と言えるでしょう。

最後のChapter4「これからすべきこと」は大変重要です。
アスベストがとっても恐ろしくて、でもとっても便利だったから
物凄い勢いで普及してしまっていて、周りにはアスベストがあふれている、
というのが、ここまで読むことで分かってしまいましたからね。
じゃあ、どうなっていく、どうしていく?ということも
提案してもらえると嬉しい訳です。
章の最初はずばり「アスベストの代替品」。
とても便利だったアスベスト。有害だからっていきなり使用禁止!
と言われたって、人は一旦便利に慣れたら、不便にはなかなか戻れません。
だから、アスベストに代わる、別の便利なものを使わざるを得ないのです。
完全にアスベストとイコールの性能のものはないようですが、用途により
様々に使い分けることで適切な代替品となりうるものがあるようです。


あくまでダイジェストで、一般向けですから
「それくらい知ってるよ」という方もいらっしゃるでしょうし、
これ1冊を読んだからと言って、すべて分かるようになる、
という内容でもありません。詳細は専門書に譲る、というスタンスですね。

とりあえず菜の花はこの本のお陰で、
世間一般に流れる「アスベスト問題」のニュースを、
普通に見られるようになりました。
ああ、よかった。これで「やっぱり院生は世間から外れている」
と言われずにすみます、きっと。





主テーマ : アスベスト問題
語り口 : 説明
ジャンル : 科学・実用
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 概要の説明

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP
198. 「金糸雀が啼く夜(かなりあがなくよる) 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2005.11.09 長編 244P 780円 2000年5月発行 講談社ノベルス ★★★★★
秋V.S座木?シャンデリア落下事件に挑む

今回は、3人で結託して、という感じじゃありません。

<100字ブックトーク>
 リベザルに協力要請する出入りの花屋は、
  「秋には言うな」と口止めした。
  更に座木が加わり、秋V.S.座木の様相に!
  そんな中、シャンデリア落下事件が起こり
  2人が圧死、そして天井からは道化姿の死体が宙吊りに… (100字)

高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第4作です。
第3作は連作短編集でしたが、本作は再び長編です。


シリーズの簡単な説明を。
とある街の一角、まるでそこだけ時にとり残されたかのような「深山木薬店」。
澄んだ美貌の少年(深山木 秋)、優しげな青年(座木)、
元気な男の子(リベザル)の3人が営む薬店、実は探偵事務所!?
「何でも調合する」あやしげな薬屋さん。
裏家業は妖怪専門のごたごた片付け屋さん。
何故彼らはそんなことをするのか?
妖怪が人間と平和裏に共生していくのに必要だから。
実際のところ、そんな彼ら自身が妖怪なのです。

彼ら薬屋3人組とほぼ同格扱いでレギュラーになっているのが
刑事の二人の刑事。頭の回転が速いが少しとっつきにくい高遠、
天真爛漫で深山木秋の大ファンの御(おき)。

彼ら5人が大体の主役といってよいでしょう。


さて、本作は5人の中でも特に座木がメインになっています。
他の人々も勿論、活躍しています。
これまでの作の多くがリベザルを中心に描かれるものが多かったのですが
本作ではむしろ、リベザルの影が薄い印象ですね。一回休み、という感じ。

それに、座木ファンなら必読!であるのは間違いありません、
何しろ貴重(?)な座木の幼年期のエピソードが出てきますからね。
薬屋さんの過去、今明かされる!みたいな。

しかも、秋という巨大な壁(?)に挑む、
座木(&リベザル&「花花」店長のカイ)という図式。
さて、どうなりますことやら?

勿論、事件はミステリ。
これまでの路線を踏襲しています。
つまり、密室とかバラバラとか…本格ミステリ的、
というか、王道ミステリ的といいましょうか、そんな事件。
今回は、これ!
シャンデリアが落ちてきて、2人圧死。
しかもシャンデリアが落ちてきた天井、がらあきですね?
そこに道化師の格好をした人物がぶら下がっているわけです。
勿論、遺体となってですけどね。

いかにも不可解そうで、派手で、ああ、またやってくれた!
と思いますね、思いますでしょ?
高里椎奈万歳!と思わず言いたくなりますでしょ?

え?ならない?そうですか。
そんな貴方は、これはミステリ好きの戯言なんだと思って下さいませ。
まったくその通り!こりゃ面白そうだね!な貴方、
一緒にミステリを愉しみましょう。
というか、貴方も変人ですね!同志よ!

そして最終的に行き着いた先にあったもの…、
ちょっと切ない、昔話です。


なかなかふっくりとしていて、本文のボリューム以上の
ボリュームを感じることのできる一編に仕上がっています。
幾つかの層構造がうまく話をふくらませているのですね。
表現上のぎこちなさはまだ感じるのですが(なかなか抜けないですね、
これが滑らかになったときには、相当良い作家になれると思うのです)
ライトノベル作家、という枠にはくくりきれないような、
巧妙さがあると思います。





菜の花の一押しキャラ…御 葉山 こんな刑事、頼りなさ過ぎる!(笑) 「オレ、悩みなさそーって良く言われるんです」 「そうですか」                「そーなんです」               (御 葉山、座木)
主人公 : 薬屋3人+刑事2人
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルト風ミステリ
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 高里椎奈の著作リスト
199. 「迷宮百年の睡魔」     森 博嗣
2005.11.12 長編 374P 952円 2004年3月発行 幻冬舎 ★★★★★
サエバ・ミチル&ロイディの幻想ミステリ

「女王の百年密室」で登場したサエバ・ミチル&ロイディのコンビが
再び登場する幻想ミステリ第2弾。

<100字ブックトーク>
 森が一夜にして消失し、周囲は海になったという
  伝説を持つ迷宮の島は、百年間外部との接触を一切拒絶していた。
  何故か、取材許可を得たサエバ・ミチルとロイディが
  宮殿を訪問した夜、僧侶の首なし死体が発見された! (100字)

本作はこれで独立した話ではありますが、
既刊「女王の百年密室」の続編でもあります。
もしもこの本を読んでみたい!という方は、
まずは「女王の百年密室」から読み始めることをお勧め致します。
人物の関係や、サエバ・ミチルの過去と現在の秘密は
そちらの方を参照するべきだからであります。

ジャンル分けするとすれば、SFファンタジーミステリ。でしょうか。
深夜の王宮で僧侶が、密室状況での首なし死体で発見される、なんて
ミステリ以外の範疇に分けたくないじゃないですか。
そして、僕「サエバ・ミチル」の現在の状況、
何よりウォーカロンのロイディの存在はSFと堂々と呼べます。
しかも、この雰囲気は幻想(ファンタジー)と思わず叫びたくなる訳で。
そうしますと、最初に掲げた、「SFファンタジーミステリ」なんていう、
「何じゃそりゃ!?」と言いたくなる不可思議なジャンルが出来上がるわけです。
ままま、作品をお読み頂ければ、きっと納得して頂けると信じていますが。

SF、な部分の証拠、「ウォーカロン」とは、
まあ、いわゆるアンドロイドだと思えばOKだと思います。
これは著者・森博嗣の造語なのか否か、ちょっと分かりません。
あんまりSFには造詣が深くないもので。
でも以前に読んだ森博嗣「ウェブ日記レプリカの使途」で、
確かこの作品のロボットをどう表現するか、を著者自身が悩んでいたような。
詳しい記述は忘れてましたが、確かそんな記述がありました。
ちゃんとつながっているのね!というところにちょっとだけ、にやり。
すっかり森フリークになってしまっている気がしますね…。

さて、ところでミステリな部分な部分は「首なし死体」だけではありません。
もう、あちこちに、わくわくするような、でもちょっとどきどきで、
幻想的な謎がちりばめられています。

まず、ジャーナリストであるサエバ・ミチルが、不思議の島
イル・サン・ジャックの取材許可が出たところが物語の発端な訳ですが、
そこからして、それは何故?なのです。
イル・サン・ジャックは、百年間も外部との接触を避けており、
(一応、進入は出来るが、街の人はとても冷たい)
その中心である王と女王の住む宮殿モン・ロゼは
すべての取材を拒否し続けてきたという経緯があるのです。
それが何故か、駄目で元々、と取材申し入れをしたサエバ・ミチルに
OKが出てしまう…。これをメディアに売り込んだミチルに、
メディアの方から「何かの間違いだろう」とまで言われてしまうくらい、
それはとても不思議なことだったのです。

そしてこのイル・サン・ジャックには謎の伝説も。
森が一夜にして消失し、島の周囲は海になってしまったというのです。
その後も、謎の島に上陸したミチルにロイディが
「自分は壊れているかもしれない、方位座標が狂っている」と言い出したり、
面会した女王は驚くべき人物で、しかも不可思議なことをミチルに囁きかける…。

謎、満載。

また、イル・サン・ジャック自体も大変魅力的。
島全体がとても複雑な迷宮になっていて、初めてやってきたミチルには
到底、ひとりで出歩けそうにもない変なつくり。
道案内されて通り抜ける風景は、奇妙で、でもとても素敵。
ミチルと一緒に歩きながら、思わず周りを眺め回したくなるような、
描写も素敵です。

中間部ではアクションもあって、
物語として様々な色と、起伏を持っています。

ラストも、次を予感させる…、
次作があるなら読まずにはいられなくなるような、
期待感のある終わり方。
最後の2行も笑わせてくれました。






菜の花の一押しキャラ…サエバ・ミチル 「もし生きていたら、僕と結婚するはずだった」 (サエバ・ミチル)
主人公 : サエバ・ミチル
語り口 : 1人称
ジャンル : SFファンタジー系ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 幻想、ミステリ、SF

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★
展 開 : ★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★+

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
200. 「0の殺人」     我孫子 武丸
2005.11.13 長編 236P 400円 1989年8月講談社ノベルス
1992年9月発行
講談社文庫 ★★★★
速水警部補と推理マニアの弟妹の活躍第2弾

記念すべき「よみもののきろく」ナンバリング200!

<100字ブックトーク>
 物語の冒頭「作者からの注意」で、
  殺人劇の容疑者達4人のリストが公開されている!
  大胆かつ破天荒な作者の挑戦に、
  貴方は犯人を突き止められるか?
  速水警部補と推理マニアの弟と妹が活躍する
  長編ユーモアミステリ! (100字)

「0の殺人」に続く「速水兄弟シリーズ」の第2作です。

これはやってくれますね。
いきなり冒頭から、「作者からの注意」です。
「挑戦」じゃないからと言って油断してはいけません!
何しろ容疑者4人の名前を羅列してくれる訳ですからね。

そして、すぐに事件。
とてもベタな…、パーティー中にお茶を飲んでいるときに、
1人が青酸カリ入りに大当たり!…な事件です。
うふふ。思わず笑みがこぼれてしまいますね?
過去、一体どれだけのミステリ作家が、
同じようなシチュエーションを描いてきたことでしょうか?
そして、それぞれに様々な楽しい答えを用意してきてくれたのです!
我孫子氏はどんな手法で、我々を愉しませて下さることか?
ベタなシチュエーションは、そんな期待感を読者の胸に呼び起こすのです。

物語は全3幕+終幕+カーテンコールで構成されています。
1つの幕で1つの事件…、つまり大きく3つの事件が起こります。
幕内には更に3場から成っていて、
第1場が被害者、第2場が警察官、第3場が素人探偵、と銘打ってあります。
つまり事件ごとに当事者による事件、警察官視点による捜査、
それらの話を聞いた素人探偵の推理が描かれるのです。
ここで言う警察官とは主人公・速見警部補であり、
素人探偵とは、速水警部補の弟の慎二と妹のいちおです。
第3場では、2人が速水警部補から「事件」と「捜査」の話を聞き、
速水警部補も含めてディスカッションするわけです。

事件ごとに「事件」「捜査」「推理(ディスカッション)」が繰り返され、
まるでパイのようなつくりになっています。

探偵役は第3場にしか基本的には登場せず、
1場、2場の内容を速水警部補から聞いて推理する、ということで
これはいわゆる「安楽椅子探偵」に属すると言えましょう。

またそれぞれの事件の前に幕間として「殺人者」の章も。
ここまでされたら、もう犯人を捜すしかないじゃないですか!
ああ、菜の花ってミステリ大好きなんですけど、
すっごい駄目なんですよー、全然犯人分からない人です。
だからいつもは、何も考えずに読んじゃうのですが、
本作は一生懸命考えちゃいましたよ、いや考えないではいられないでしょう?
ここまで作者にやられてしまっては!
しかも、この作品ときたら、ノリはとっても軽いのです。
こんな軽い連中に負けてられるか!ってなものです。
…まあ、最終的には1勝1敗1引き分けって雰囲気(謎)。


作風は前作「8の殺人」と変わらずのユーモアミステリ。
というか、ギャグですかね。
でも、前作よりはちょっと大人しくなったかな〜、
という気もしなくもありません。菜の花としては、
この辺りがいいところかな、と思います…マイルドで。


なかなか、面白い真相で、十分愉しませて頂きました。
いや、やりますね、我孫子武丸氏。
次は「メビウスの殺人」、いってみましょう、うん。
どう捉えるべきか前作読了後はちょっと迷っていたのですけれど、
本作で気に入りました。2作目で印象が上昇する作家は本物です。
って、菜の花に認められても仕方ないでしょうけどね(苦笑)。




菜の花の一押しキャラ…トヨ 「ずーっとここにおるよ。まだ生きとったらな」(トヨ)
主人公 : 速水 恭三
語り口 : 3人称
ジャンル : 本格ミステリ
 (安楽椅子探偵系)
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ギャグ

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
よみもののきろくTOP
201. 「地下街の雨」     宮部みゆき
2005.11.16 短編集 316P 514円 1994年4月集英社
1998年10月発行
集英社文庫 ★★★★★
様々なカラーを持った、7つの短編

<100字ブックトーク>
 麻子は同じ職場で働いていた男と婚約したが、
  挙式二週間前に突如破談に。会社を辞め、
  ウエイトレスとして働き始めた麻子の前にあの女が現れ…。
  表題作「地下街の雨」他、
  全7篇の様々なカラーの物語を収めた短編集。 (100字)


●「地下街の雨」
 婚約が破談になり、仕事も希望も失った麻子は、
  地下街のコーヒーショップでウエイトレスを始めた。
  そんな麻子にぽつりと話しかけてきた客の女性。
  彼女は麻子と同じような辛い過去と今を生きているようで…。
  
 <解説>
 恋愛小説、になるのでしょうか。
  冒頭は、何か緊張感をはらんだ「再会」からスタート。
  そして語られる過去の話。
  心理描写が丁寧で、という感じではありません。
  そうではなく「とても滑らか」という表現が正しい感じ。
  描写が一言一句なされているわけではなく、
  「ああ、そういうとき、こういう反応、しちゃうよね」
  と思わず納得するような、描き方。
  ジャンルとして、まったくミステリは入っていないはずなのに、
  まるで綺麗な謎解きの推理小説を読んでいるように、
  1つ1つのパーツがきっちりはまりこんでいくような
  不思議な魅力がある好著です。ラストも明るく。 
  
 評定:★★★★+



●「決して見えない」
 終バスの終わった、深夜のタクシー乗り場で待つ三宅悦郎。
  後ろには老人が1人、待っている。
  同じ方向なら相乗りしていきたいものだ、と考えつつも、
  新妻に「それはやめて」と言われたことを思い出している。
  と、突然、後ろの老人が悦郎に話しかけてきた。
  
 <解説>
  一転して、ホラーです。いや、怪談かな。
  蝋燭の元で聞かされる百物語みたいな、
  少しだけ、背筋が寒い感じ。
  終わり方も、後ろを冷たい風が一吹きするような。
  ああ、でも本当に怖いもの大好きな人には物足りない、
  マイルド・テイストかもしれません。
  ホラーというより、やっぱり「語り」というイメージ。

 評定:★★★★★



●「不文律」
 一家4人が、埠頭から車ごとダイビングして亡くなった。
  周りの人々の証言から、事件をルポタージュ?
  
 <解説>
 全編通して「○○の証言」などの形式で書かれています。
  直木賞を受賞した同著者の「理由」と大変近い形式の短編。
  同じ証言者が何回か話をすることもあり、
  少しずつ印象が変わっていくところも面白い。
  真相らしきものも設定されている模様。
  ジャンルとしては、ミステリ、に入るの…でしょうか?

 評定:★★★★★



●「混線」
 深夜に妹に電話をかけてくる「電話魔」の男。
  ある夜、僕は電話をかけてきた男に、
  ある電話魔の友人の話を始めた。
  
 <解説>
 これも、ホラーでしょうか。
  でも、実はこっそりミステリだったりして。
  ヒントは最初の2ページ、みたいな(謎)。
  更にちょっとファンタスティック。
  独自性は高そうです。
  「決して見えない」と同様、「怖い話」を
  あるキャラクタが別のキャラに語りますが、
  前者が「百物語」的だったのに比べ、
  こちらはもう少しチープというか、子供の間で
  語り合われていそうというか、一般受けするというか、
  まあ、似てるけどカラーが違う、という感じです。

 評定:★★★+



●「勝ち逃げ」
 母の長姉の勝子が、癌で亡くなった。
  あまり親しかった訳ではない浩美は、
  伯母の葬儀の中で、親族にはあまり知られていなかった
  彼女の人生を少しずつ知っていく。
  
 <解説>
 いきなり、メイン・キャラというか、注目しているキャラが
  亡くなっている、というのは「不文律」と同じですね。
  でも内容はまったく異なります。
  勝子は歳の離れた姉で、弟と3人の妹には
  あまり知られていない人生を送っていた、という設定。
 勝子は優秀な先生で、どうやらボランティアをしていて…、
  弔問客たちから親族は知らなかった、
  様々な状況が明らかにされていきます。
  もう、亡くなってしまっている「勝子」が
  亡くなってしまったが故に、
  登場人物たちに大きな影響を与えていくのです。
  しかも、ちょっとミステリ風味。
  損失が胸に痛いのに、どこか温かい物語です。

 評定:★★★★+



●「ムクロバラ」
 デカ長のもとに、今日もその男はやってきた。
  橋場秀夫。犯罪に巻き込まれた悲運の男。
  彼は新聞の切抜きをデカ長に見せて言うのだ。
  「ムクロバラがまたやったじゃないですか」
  連続殺人犯、ムクロバラ。しかしその新聞の切り抜きには
  すべて別の逮捕者の名前が書いてあるのだ。
  
 <解説>
 犯罪を犯すつもりなどなかったはずなのに、
  犯人として捕まる人間がいます。
  事実、彼らは法に触れてしまったから…。
  ムクロバラとは、一体何なのでしょうか?

 評定:★★★★★



●「さよなら、キリハラさん」
 騒々しい家から、音が消えた。
  代わりに現れたのはキリハラさん。
  彼は「元老院直属の音波管理委員会の太陽系第三支部
  から派遣されてきた者」と自己紹介するのだ。
  
 <解説>
 祖母、父、母、私と弟、という、
  ありふれた家庭で、ありふれていない事態が勃発。
 荒唐無稽さにどうにか折り合いをつけようとする
  一家の奮闘振りは、キャラを身近に感じる一方で
  思わず笑いを誘います。併せて語られる
  「身近なはずだったのに知らなかった」という
  「勝ち逃げ」にも通じるテーマ。
  短編集最後を締めくくる、にぎやかな終幕です。

 評定:★★★★★





菜の花の一押しキャラ…佐山 一樹 いい弟ですな。 「娘はまさに、日本のおっかさんですな」(新谷 吉克)
主人公 : -
語り口 : 3人称(一部、1人称)
ジャンル : 小説一般
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ありふれた

文 章 : ★★★★
描 写 : ★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOPへ
202. 「魍魎の匣」     京極 夏彦
日本推理作家協会賞受賞
2005.11.17 長編 1060P 971円 1995年1月講談社ノベルス
1999年9月発行
講談社文庫 ★★★+
バラバラ殺人の行方は?妖怪シリーズ第2弾

<100字ブックトーク>
 箱を祀る奇妙な霊能者。箱詰めにされた少女達の四肢。
  巨大な箱型の建物…箱を巡る虚妄が美少女転落事件と
  バラバラ殺人を結ぶ。探偵・榎木津、文士・関口、
  刑事・木場らが皆、事件に関わり京極堂に集う、本格ミステリ (100字)

ありえない分厚さです。
文庫なのに、1000ページ越えてますよ。
何故に上下巻に分けないの!?という凄さ。
というか、技術ってすごいですね。
こんな分厚い文庫、どうやって綴じてるんだ!?って。
ちょっと気になります。糊みたいですけど、超強力ですね。


さて、「魍魎の匣」です。
前作「姑獲鳥の夏」に続く、京極堂のシリーズ第2作です。
と言っても、それほど強い繋がりがないので
(時系列としてはつながっているけれど、程度)
本作を先に読んだとしても、あまり問題はなさそうです。

「姑獲鳥の夏」では全面的に主役をはっていた文士の関口ですが、
今回は少し少なめで。関口が登場すると基本的に1人称で、
彼がいないところで事件は進んでいき、そのときの物語は3人称で語られます。
特に、刑事である木場が主人公になっている部分が前半部で多く、
事件の殆どの情報はここで得られるようになっています。
他にも探偵の榎木津や、転落事故の被害者と親交の深い少女などが
中心視点になっています。
また「小説」や「手紙」が時々挿入されています。

前作同様、京極堂を中心に「魍魎論」だの
「殺人と日常・非日常に関する一考」だの(勝手に命名)、
キャラたちのディスカッション部分はとても多く、
「京極夏彦らしさ」や「京極堂の世界観」などが感じられます。


メインキャラの京極堂が、古本屋店主で神主で陰陽師、
しかも「宗教者、霊能者、占い師、超能力者」なんてテーマで
一席ぶってくれるような(40ぺーじくらい)、
なかなかすごい設定の人物ですからオカルト色は濃いです。
しかも真相解明の場でも「憑物を落とす」と広言するわけで。
しかし、真相としてはオカルト色はありません。
この不可解な事件を超常現象で片付けたりは決してしませんからご安心を。
むしろややSFな雰囲気もなきにしもあらずですが。
パズルが1ピースずつはまっていくように、綺麗に説明をつけてくれます。


ただ大変面白いのですが、万人向けではありませんね。
心臓の弱い方やスップラッタに弱い方、ご注意下さい、
みたいな警告文があってもいいんじゃない?という勢いです。
バラバラ事件ですし?
実際、下の欄を見て頂ければ分かると思いますが、
全体の評価はかなり高めなのに「読後感」だけ最低ランクで。
だってー。
これ読んで直後にご飯食べられません、菜の花は。
というか、気分が悪くなって寝込んでしまいました。
なかなか危険な本です。
それでも「面白いからまた次が読みたい」と思わせるのですから、
更に凄いのですが。




菜の花の一押しキャラ…鳥口 守彦 「その、柴田何とかと云う人は、偉い人じゃないでしょうね」 「偉かあないな。糸屋の社長だ。いや会長だったかな」    「偉い。偉いんだよその人は」               「偉くないよ。糸売って金儲けただけだよ。          別に空を飛べる訳でも脱皮できる訳でもないぞ。」     (榎木津親子の電話)
主人公 : 関口 巽 他
語り口 : 1人称(3人称もあり)
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : オカルト色濃厚
  ただしミステリ部分は正統派
解 説 : 山口 雅也

文 章 : ★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOPへ
203. 「山伏地蔵坊の放浪」     有栖川 有栖
2005.11.19 連作短編 366P 640円 1996年4月東京創元社
2002年2月発行
創元推理文庫 ★★★+
酒場で語った、山伏地蔵坊の名探偵行脚7話

<100字ブックトーク>
 地蔵坊先生お気に入りのカクテルの2杯目が空く頃、物語は始まる。
  土曜の定例会に山伏先生が聞かせてくれる体験談ときたら、
  揃いも揃って殺人譚。悉く真相を看破したという地蔵坊が、
  名探偵行脚さながらの見聞を語る (100字)

探偵役は、山伏。なかなか珍しい設定ですね。
何か、探偵役って本当に探偵か、小説家か、
古本屋が多い気がするんですけど、やっぱり気のせいですよね?(笑)

この探偵役、語り手でもあるのです。

毎週土曜の夜、ダンディなマスターのお店「えいぷりる」に
紳士服店の若旦那、藪歯医者、写真館経営の夫妻、
それにレンタルビデオ屋の「僕」という面子が集まり、
地蔵坊先生の殺人譚に耳を傾ける、という設定。

主人公「僕」は聞き役であって、実際の探偵譚は全部、
「僕」ではなく山伏の地蔵坊先生が語るわけです。
それについて集まった皆で真相を推理するのですね。


解説でも書かれていましたが、確かに探偵が語り手になることは
意外に少ないと思います。大概、探偵助手が語りますものね。
しかも、探偵が自分の体験談を、
つまり過去にすでに解決した話を語るだなんて、あまり例がありません。
それをみんなで推理する、というのも。
これは探偵役が、パズルを出題しているようなものです。
その際、問題文の中に過不足なくヒントを入れなくてはなりません。
その上、これを語って聞かせるのですから自分の主観を語らねばなりません。
すべてそのまましゃべってしまえば、自分は解けた問題なわけですから、
その考えの道筋が明かされてしまって、パズルになりません。
だからと言って、事実だけを淡々と述べても、
「聞くお話」として面白くなくなってしまいます。
その辺りのさじ加減というのが、このお話の中で
実は一番難しいことなのではないかな、と思います。


全般に大変、軽いノリで楽しく読めます。
菜の花は、物語の最後…殺人譚が終わって地蔵坊先生が帰ったあとの
マスターの一言がいつもとても楽しみでした。
単なるミステリだけじゃなく、ちゃんとラストで落とすところが
有栖川有栖らしい!という感じでお気に入りです。


●「ローカル線とシンデレラ」
●「仮装パーティーの館」
●「崖の教祖」
●「毒の晩餐会」
●「死ぬ時はひとり」
●「割れたガラス窓」
●「天馬博士の昇天」



菜の花の一押しキャラ…マスター 「お上手お上手!そのおとぼけぶり」(吉田 佳代子) 奥様、それは素です。
主人公 : 青野 良児
語り口 : 1人称
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : パズル系、軽い
解 説 : 戸川 安宣

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
204. 「ネクロマンサーの初出張! ネクロマンサー・ポルカ」     椹野 道流
2005.11.20 中編 198P 476円 2004年7月発行 小学館パレット文庫 ★★+★★
収穫祭のさなか、森向こうの集落で妖し出現


<100字紹介>
 元・普通の高校生の村上敬他はプールで溺死、
  魂だけ異世界の死霊使いの金髪碧眼美少年ジャスパーに転生。
  アトレイアで死霊から人々を護るローグ家当主となる。
  アトレイアに来て1ヶ月、街は収穫祭で賑わっていたが… (100字)

ネクロマンサーシリーズの第3作です。
第1作ではこちらの世界からあちらの世界へ、
第2作ではあちらの世界に慣れてきた頃に、ローグ家当主に。
そして、本作では大分、落ち着いた主人公・ケイタであります。

最近、気付いたのですが(気付くの、遅い)、
このシリーズのもくじって、何だかいいです。
いや、このシリーズじゃないですね。
よくよく考えてみると、他のシリーズでも椹野作品ってそうです。
どことなく歌詞みたいな感じ。
しかも演歌調とかじゃなくって、ポップスっぽい。
例えば本作では

一章 踊りだす指先
二章 浮かんで溶けそうな色
三章 孤独が見え隠れ
四章 似てない僕らは
五章 夜を駆けていく

うーん、菜の花は好きです。こういう感じ。
自分でつけてもこうはいかないと思うのです。
だって体言で終わったり用言で終わったり。
統一感がないはずなのに、イメージ的にはすごく綺麗に揃ってる、みたいな。
これがオリジナリティとか、ええと、作者の個性とか
そういうものなのでしょうか。
特に二章なんか、これって菜の花には絶対出てこないですねー。


さて、中身です。
やってきましたよ、楽しい楽しい収穫祭。
お祭りはいいですねー。
このシリーズのお楽しみポイントその1、ケイタと一緒に街を探検!
一緒にお祭りを愉しむのです!
そしてお楽しみポイントその2は料理、ですね。
今回も登場しますよ。うーん、おなかがすいちゃいます。
それに前作でメインキャラの仲間入りを果たした料理人もいますからね。
今後も絶対、活躍してくれるであろうこの人物、一押しですよ!
(正体は第2作を参照のこと。)

前半のお楽しみはこれくらい。
あとは後半からはタイトル通り、出張です。
森の向こうまで。
こちらは、まあ、淡々と。
展開としてはやや平たいとか、ちょっとご都合主義では!?
という感が否めませんが、まあそこはそれ、エンターテイメントですから。
しかも少女向けの(そんなの読むなよ!というご意見は却下で…、
菜の花は永遠の子どもなのです!…ってそれちょっとヤバイ人)。


なお、現在2005年11月の時点では、本作がシリーズ最新作です。
もう1年以上も刊行されていないのねー。
このままなくなってしまうのは惜しいです。
何しろ椹野作品にしては珍しく、BLなしですからねー
(BL=ボーイズ・ラブはちょっと、菜の花的にはNGです)。
椹野道流は菜の花、結構好きなんですが、あのカラーだけは
踏み込みがたいものを感じます…。
本当は椹野作品をコンプリートしたいけど、ちょっと無理。
二見シャレードとか…、1回知らずに借りてしまいましたが、
やっぱりニガテでございます。




菜の花の一押しキャラ…ロータ・リムラ 「…少々の無茶は、わたしがお支えいたします」(マーティネル)
主人公 : ケイタ・J・ローグ(村上敬他)
語り口 : 3人称
ジャンル : 異世界ファンタジー
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : 中世ヨーロッパ調、オカルト

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★★
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205. 「家電を修理する本 何でも自分で直す本 Vol. 3」     杉嵜 晃一
2005.11.25 実用書 160P 1400円 2005年9月発行 地球丸 ★+★★★
イラストの綺麗な1冊。家電のケアにどうぞ


<100字紹介>
 テレビ、ビデオデッキ、掃除機、エアコン…、
  家電トラブルを製品別・症例別に取り上げる。
  大きく、綺麗なイラストで家電の簡単な構造としくみが確認でき、
  長く使うための一般的な注意も記載する、初心者に優しい1冊 (100字)

初心者に優しい1冊。
でも、半田付けとかも載ってます。最初に。
これでも初心者に優しいのだろうか?と思われるかもしれませんが、
今時は中学校の技術科で半田付けを男女関係なくやらされるので
まあ、無茶ではないでしょう。
むしろ、掃除機の項目で、
「トラブル2 電源が入らない→コンセントが抜けていないか確認」
なんて記述が堂々と出てくる本書が、半田付け余裕で出来ます、な人々に
必要とされているとは考えられませんからね…。

なかなかすごいのは、結局対応できるのは
「断線ケーブルを切り落とし、プラグを半田で付け直し」以外には、
「レンズクリーナーを買ってくる」系統が大半。
僅かに「内部を開けて掃除」というのがあるくらいで
それ以上は「専門家に任せましょう」になってしまいます。
これって、修理っていうのか…と思わず首をひねってしまったり。

いやいや、でも本当の初心者はこれくらい必要なのかも。
…でも、それぞれの製品についている取説の方がもっと詳しくて
しかもその製品に完全に対応している気がする…。
実際のところ、この本を手にとるのはどのような人々なのか…?

素晴らしいところは、イラスト。
これは綺麗で丁寧です。
本書の価値は、このイラストに尽きると言っても過言ではないはず。
実際に菜の花は、このタイトルとイラストのお陰で最初から最後まで
読み通すことが出来ました。ええ。
もし、興味がおありの方がいらっしゃるなら、
文章はぱらぱらっと拾い読みして
あとはイラストをじっくり眺めるとよろしいかと思います。


ちなみに菜の花の研究室では、本書は大人気でした。
残念ながら、笑いの中心だったのですが。
まあ、これを読んで笑えるようになるくらいの
技術と知識は身につけておきたいものかもしれません。




テーマ : 家電取り扱い
語り口 : 説明
ジャンル : 実用書
対 象 : 一般初心者向け
雰囲気 : イラスト中心

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★+★★★
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206. 「森博嗣の浮遊研究室」     森 博嗣
2005.11.27 エッセイ 412P 1700円 2003年3月発行 メディアファクトリー ★★★+
WEBダ・ヴィンチ連載作品の単行本化!


<100字紹介>
 WEBダ・ヴィンチで連載されていた同名作品の単行本化。
  助教授の森博嗣、助手、秘書、隣の研究室の助教授の
  4人の会話形式で成り立つ小説風エッセイ。
  1回ごとに6つのトピックに関した会話が繰り広げられていく! (100字)

森博嗣と言えば、ご本人のホームページ「浮遊工作室」にて
約5年間連載されていた日記が有名かと思います。
(勿論、小説の方が思いっきりメジャなわけですが。)
そちらの日記に関してはすでに書籍化され、

「すべてがEになる」「毎日は笑わない工学博士たち」
「封印サイトは詩的私的手記」「ウェブ日記レプリカの使途」

などが発行されています。
しかし、2001年で一般公開の日記更新が予定通り終了しました。
本書はその後継とも言うべき、森博嗣の週刊連載エッセイの単行本。
この後も連載は続き、何巻か発行されているようです。


内容は「ご案内」にて森博嗣の殆どきままなエッセイからスタートし、
「今週の一言」「今週の諺」「今週の新商品」などの
「へ?」と思うに違いない創作が続きます。
これは日記時代の本日の一言に相当するのでしょうか。
森博嗣らしさが凝縮された3行です。
それから1回につき6つのトピック。
このトピックに関して、4人のキャラが話します。
4人とは、助教授・森博嗣、助手・上前津伏見、
秘書・御器所千種、隣の研究室の助教授・車道栄。
とても1人で書いているとは思えない、意見の相違。
なかなか楽しいです。
まあ、本書の最後の告白(WEBでは秘密になっているらしい)は
最後まで読まない方が楽しめるかもしれません。

また、「はみだしコメント」といって、
各キャラが好きなことを言う欄があるのですが
(漫画雑誌などで目次に作者の一言が寄せられているような感じですね)、
ここで「御器所千種」が毎週、出題している問題に対する解答が
特典として巻末に収録されています(ウェブでは解答がない模様)。


独特の「森博嗣」らしさにあふれた作品です。
物事に対して、自由というか、クールな視点というか。
日記本のときよりもキャラクタが増えたせいか、方向性が拡散、
その分幅が広がって、とても親しみやすい感じです。
トピックごとに「落として」くれますしね。
日記よりエンタテイメント性が少し高めです。





主人公 : 森 博嗣(?)
語り口 : 会話形式
ジャンル : エッセイ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : クール&ポップ
イラスト : コジマケン
ブックデザイン : 大路浩実・植松美紀

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
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207. 「緑陰の雨灼けた月 薬屋探偵妖綺談」     高里 椎奈
2005.11.30 長編 308P 840円 2000年9月発行 講談社ノベルス ★★★★★
やたら元気な女子高生・車谷エリカの受難

<100字紹介>
 やたら元気な女子高生・車谷エリカに、奇怪な事件が降りかかる。
  依頼を受けた秋達薬屋3人組は妖怪退治に乗り出す。
  エリカの高校ではこの数年、失踪事件が相次いでいることが判明して…。
  ファンタジーミステリ第5弾 (100字)

高里椎奈の「薬屋探偵」シリーズの第5作です。


シリーズの簡単な説明を。
とある街の一角、まるでそこだけ時にとり残されたかのような「深山木薬店」。
澄んだ美貌の少年(深山木 秋)、優しげな青年(座木)、
2人を師と兄と仰ぐ男の子(リベザル)の3人が営む薬店、実は探偵事務所!?
「何でも調合する」あやしげな薬屋さん。
裏家業は妖怪専門のごたごた片付け屋さん。
何故彼らはそんなことをするのか?
妖怪が人間と平和裏に共生していくのに必要だから。
実際のところ、そんな彼ら自身が妖怪なのです。

彼ら薬屋3人組とほぼ同格扱いでレギュラーになっているのが
刑事の二人の刑事。頭の回転が速いが少しとっつきにくい高遠、
天真爛漫で深山木秋の大ファンの御(おき)。

彼ら5人が大体の主役といってよいでしょう。
ただし、今回は刑事2人はお休みです。

刑事の代わりに表舞台に颯爽と上がるのは依頼人・車谷エリカ。
女子高生です。元気で明るく、手が早くて、口は素直じゃない子。
彼女の名前はシリーズのファンならすぐに「ああ!」と気付くことでしょう。
そうです、彼女の名前は第3作「悪魔と詐欺師」でも登場しています。
というか、他の作品にも実は結構重要人物として登場してたりして…。
まあ、その辺りは1〜4作を参照のこと。


ことの起こりは彼女が「深山木薬店」に依頼に来たこと。
夜中に姿の見えない何者かが彼女を悩ませているらしい…。

一方で、薬屋は1人の居候を抱え込みます。
野狐(やこ)という妖怪の柚之助(ゆのすけ)。
リベザルと同じくらいの年恰好の日本出身の妖怪。
リベザル、お友達が出来てよかったねえ、といったところでしょうか。


今回も薬屋は2手に分かれます。
1組は「リベザル&柚之助」+車谷エリカ。
子ども2人とわがままいっぱい(?)のエリカ。
何だか、普通の姉弟みたいです。
大体、姉弟だと、おねえさんってこんな感じですよねー(笑)。
ちょっと理不尽なくらい、どんどん物事を先導していってしまうというか。
もう1組は珍しく「秋&座木」グループ誕生。
今回は足手まとい(失礼)がいない、ちょっと大人な捜査が出来ますね?(笑)
こちらが捜査としてはメインです。
女の子2人の友情物語もからめて、エリカの高校に潜入です。
座木はやっぱり高校生じゃ通らないっしょ…。


あとがきによりますと、著者的には「全編、没もあり」な内容とのこと。
まあ、少し毛色が違うというのはあるかもしれません。
ミステリとしてくくるより、ライトノベルでくくりたい感じですし。
というか、オカルト?そうですね、そっちですね。
あんまりミステリじゃないなあ。
それを求めている人には、あんまり受けないかも。
どちらかというとキャラ好きな人にお勧めなんですね、シリーズ通して。
第1作はどうやら文庫版ではライトノベルの方で出ているみたいですし、
やはりそちら寄りですね。




菜の花の一押しキャラ…道長 円 いいなあ、こんな幼馴染。尻にしけるじゃないですか!(笑) 「エリカちゃんと遊べなくなったらつまらないよ」(道長 円)
主人公 : 薬屋3人
語り口 : 3人称
ジャンル : オカルトファンタジー
対 象 : ヤングアダルト寄り
雰囲気 : ライトノベル
ブックデザイン : 熊谷 博人
カバーイラスト : 斉藤 昭 (Veia)

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★

総合評価 : ★★★★★
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