よみもののきろく

(2005年7月…148-158) 中段は20字ブックトーク。価格は本体価格(税別)。 もっと古い記録   よみもののきろくTOPへ  もっと新しい記録
2005年7月の総評

今月は11冊の本を読ませて頂きました。頑張ってるな。
長編6冊、短編3冊、その他2冊。
まあまあ長編多し。

椹野 道流3冊、森 博嗣2冊、有栖川有栖・宮部みゆき各1冊、
それになつかしの内田康夫や初お目見え森村誠一など。


さて、そろそろ内容に入っていこうと思います。
菜の花的2005年7月のベストは

 「隻手の声」    椹野 道流 (評点 4.5)
 「スカイ・クロラ」 森 博嗣  (評点 4.5)

2冊が同点1位です。
「隻手の声」はお馴染み「鬼籍通覧シリーズ」の第4作。
これはシリーズ中でもかなり出来のよい作品ですね。
1本筋が通っているのが大変よいです。
第3作でもインターネットの話は取り上げられていましたが、
本作の方が更に、現在の問題!といったものから取材されていて
不思議なリアリティがあります。
「スカイ・クロラ」は森作品の中でも異色作。というか新境地?
内容的にもSF?でしょうか、
パイロットもので、推理小説ではありません。
文章としても随分違う感じ。
特に飛行シーンでの短文・体言止めの多用など、
テンポの良さ、爽快感が素敵な作品です。


以下、高評価したのは

「かまいたち」       宮部みゆき(評点4.0)
「ペルシャ猫の謎」     有栖川有栖(評点3.5)
「安心して読めるボケの話」 高田 明和 (評点3.5)

「かまいたち」は宮部みゆきの比較的初期作品の時代物短編集。
後に「霊験お初捕物控」として長編シリーズ化するお初の短編も
2作収録されています。人情あり、ちょっとホラー色ありの
宮部らしさにあふれる作品群。読んでいて安心感のある作家さんですね。

「ペルシャ猫の謎」も短編集です。
有栖川氏の国名シリーズですね。テーマは外伝、かな?(笑)
どの作品も、どこか本筋じゃない、という感じ。
だからと言って面白くないはずがないのです。
ちょっと視点を外してあって、これも魅力的、というところ。

「安心して読めるボケの話」は完全に実用書ですね。
気になったら読んでみましょう。データの引用があるなど、
比較的信頼に足る内容だと思います。健康ものは信憑性の低い、
えせ情報が飛び交いやすい分野ですから、用心に越したことはありません。

さて、今月はここまでで。








148. 「人間の証明」     森村 誠一
2005.07.01 長編 458P 680円 1977年3月発行 角川文庫 ★★★★★
人間は人間を愛するがゆえに悲劇を生む

森村誠一、初読み!


<100字ブックトーク>
 豪華なスカイレストランゆきのエレベータで、若い男が死んだ。
  犯人に胸をナイフで刺されたまま、タクシーでやってきたらしい…。
  幼時に父を見殺しにされ、異常な熱意を持って
  事件に取り組む刑事が見た「人間の証明」 (100字)


初読み、ということですが、森村誠一氏はお名前しか存じ上げておりませず、
どんなジャンルの小説家かすら知りませんでした。予備知識ゼロ。
本作を読んだきっかけは弟御に「おすすめ!」と手渡されたから。

タイトルからいって、哲学的一辺倒かと思いきや、
いきなり、すごく社会派系の作品でびっくりしました。
推理小説だった、というのがもっと驚きでしたけどね。
「人間の証明」
それをあらわすための作品が、まさかミステリだとは。

沢山の翳がキャラクタたちの周りには横たわっています。
事件を担当した刑事は、幼時に父親を無法な米兵になぶり殺されるという
とてつもなくダークな過去を背負っていますし、
好き勝手生きている我が侭放題の若者すら、
幼時から大変寂しい思いをして育ってきているし、
つるんだ少女も、家庭環境はよろしくない。
出てくる人、出てくる人、みなさん、色々な事情を背負っています。
でも考えてみると、人間は生きてきたら多かれ少なかれ
やはり辛かったり悲しかったり苦しかったりする過去を
背負い込んでいくものかもしれません。ただ、彼らは少し極端だった。
だからこんな犯罪的な物語を構成できてしまった。
でも…、私達でも一歩間違えれば踏み込んでしまう可能性を
残しているように感じてしまうのが、
この小説の怖いところのひとつでしょうか。


語り口などについてですが、場面・視点移動型です。
ある程度のまとまった章ごとに、場面が変わり視点が移動します。
その複数の独立したかに見えたものがやがてひとつに収束していく、
というタイプ。この展開をよく使う他の作家としては宮部みゆきがいますね。
大きく分けると、4つのパートからなっています。

刑事・棟末、退廃的な若者・恭平、
妻が行方不明になった小山田と妻の不倫相手、
それに被害者の住所が管轄であるアメリカの刑事・ケン。

繋がるようでいて繋がらない。
でもやっぱり最終的には不思議な感じに収束していく…。
とても面白い感覚です。やや珍しい収束の仕方です。


大きなトリックが使われている訳ではなく、
派手さと言えば最初の遺体発見時の状況くらい。
あとは深まる謎を丁寧に、地道に、追いかけていくだけです。
この作品のミステリとしての読みどころは、その丹念さ。
それから人の心の動きでしょうか。


解決部分で、すべてをマイナス、絶望的に捉えるのではなく、
「人間の証明」と捉えたところで、ああ、そうだったのか君は、
とキャラクタ本人も気付かずにいたキャラの本質に気付く、
というこの仕掛け、用意周到かつ、綺麗でした。


時代背景がやや古く、作品が著されたより後に生まれた菜の花のような
読者には、やや考えにくいような場面(戦後直後の実際は、ちょっと
菜の花には想像しかねる)もあり、リアリティとしては…、
うーん、評価しようがありませんでした。
人物の暗い背景の描写が、ややぎこちないものに感じてしまったのは
そのせいではないかと思っています。
仕方ないですよね、時代は流れているのですから。


それでもどれだけ時が流れても変わらないもの、がメインに描かれた本作。
一読の価値があると思います。





菜の花の一押しキャラ…金湯館の人々 「年を取りますと、人様と話をするのが楽しくなりましてな」 (金湯館先代夫婦)
主人公 : 複数
語り口 : 3人称、視点移動
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 暗い。社会派系、哲学的

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★
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149. 「獏夢奇談」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.07.02 長編 316P 630円 2002年3月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
英国から里帰りした箱枕には悲しい記憶が…


さて、おなじみの奇談シリーズ。


<100字ブックトーク>
 秋の夜、美代子の相棒・尾沢欣也が天本家に現れた。
  彼の持ち込んだ箱枕は英国で取材中に手に入れたもの。
  彼はその枕に美代子との記憶を奪われたというのだが…。
  手掛かりが乏しい難事件の中、天本に恐怖が訪れる…。 (100字)


再登場・尾沢さんです。美代子じゃなくって尾沢さんです。
美代子といえば、その昔天本家に居候していた「猫みたいな」女性。
シリーズ中にしばしば名前の出てくる、現在カメラマンをしているお方。
尾沢さんはその相棒で、ごつい外見とは裏腹に、
とても繊細な文章を書くと評判のライターさんです。
ちなみにオカルトにはからっきし弱い!
そして妙に影の薄いキャラクター…(ごめん、尾沢さん)。
詳しくは既作「倫敦奇談」を参照のこと!

本作はその尾沢さんが厄介ごとを持ち込んでくれます。
英国取材中に、取材していた農場オーナーから頂いた「箱枕」。
何とこれに、尾沢さんは記憶を奪われた!と主張するのです。
しかも美代子との大事な思い出ばかり。あらら。
その上更に間が悪いことに、記憶を失う直前の夜に、
尾沢さんは美代子に…なのですね。ふっふっふ。微妙に隠してみた。
ま、そんなわけで2人は大喧嘩。尾沢さん困り果てる。
何か妙に可愛いな。


本作はちょっと展開が後ろより過ぎて、どきどきしました。
ちゃんと終わるのか!?って。解決の手掛かりが全く出てこないから、
展開が遅い感じです。しかしその分、ブレークスルーは衝撃的に演出。
何と、天本の天敵のあのキャラが唐突に登場。
そして何やらあやしげな言動を残してくださいまる。
れ一件で殆どそのまま事件解決まで一直線なのは、
これを1つの作品としてみた場合にはやや物足りなさを感じますが、
反面、シリーズとしては「謎は深まるばかり感」を
あおってくれる作りになっています。





菜の花の一押しキャラ…すず 「面白いね。日本人の君が、コックニーを話すとは。」 (ミラー氏) 尾沢への一言。普通はアメリカ英語。尾沢さんは現地で覚えたから下町英語。
主人公 : 天本 森、琴平 敏生
語り口 : 3人称
ジャンル : 恋愛オカルトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : ライト

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★+★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★+★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
150. 「悪戯王子と猫の物語」     森 博嗣&ささきすばる
2005.07.03 短編集 86P 2000円 2002年10月発行 講談社 ★★★★★
幻想と抽象と論理、大人のための奇妙な絵本


外国の絵本みたいなつくりです。ちょっとかっこいい。


<100字ブックトーク>
 論理的な語り口でいて幻想的な世界観、
  具体的な言葉でいて抽象的な表現。
  理系研究者でいて小説家である森博嗣がおくる、大人のための絵本。
  ささきすばるによる透明感あるCGは
  幻想的でいてどこか奇妙な世界を演出。 (100字)



全20篇+プロローグとエピローグ。

つかみどころのない作品です。
詩的で幻想的。
でも何かを主張しているような、実は何も言う気などないような。
溶ける、という単語がプロローグとエピローグのどちらにも現れますが、
まさに溶けていくような、奇妙な空間を演出しています。


現実的で、エッセイを詩的に表現しただけの作品から
(「奇遇」「6番目の女」など)、
完全に思考の世界に入り込んでしまった作品まで(「ぬめぬめの玉」など)、
多種多様の現実と非現実入り乱れて収録されています。
通常、連作短編はそれぞれに繋がりを持たせることで
一連の作品として仕上げていくものですが、
本作は1つ1つの小品のカラーは全く別物で、
ばらばらなものをばらばらに並べることで、
奇妙な空間、まさに思考が「溶ける」ような異空間を
作っているのではないかと思います。



主人公 : −
語り口 : 混在
ジャンル : 絵本風
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 幻想・抽象・論理的

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
151. 「貴賓室の怪人 「飛鳥」編」     内田 康夫
2005.07.9 長編 348P 857円 2000年9月初出
2002年10月発行
角川エンタテイメント ★★+★★
浅見光彦、世界一周の船旅で事件に出会う!


よみもののきろくでは初登場の内田康夫です。
でも初読みではありません。浅見光彦シリーズや岡部警部の作品は
かつて菜の花のお気に入りでありまして、大学時代までに
ずいぶん沢山拝読させて頂きました。今回は数年ぶりに手にとったその作品。
さて、いかがなものでありましょうか。


<100字ブックトーク>
 世界一周クルーズ取材で豪華客船「飛鳥」に乗船した浅見光彦は、
  「貴賓室の怪人に気をつけろ」という謎の手紙を受け取る。
  偶然にも作家・内田康夫も乗り合わせた飛鳥上で、
  浅見光彦と岡部和雄の2人の名探偵が競演! (100字)


ちょっとちょっとちょっと、見ました?ブックトーク?
もう、あれですわね、この作品ってば、そう、あれです。
ファンなら両手を挙げて拍手喝采、ねえ、それしかないでしょう?

…なんて、ちょっと言ってみたくなっちゃった。
というのも、この作品、人気の浅見光彦シリーズの中でも初の海外進出!
何しろ、浅見は飛行機が大嫌いですから、
そう簡単に海外には行かない訳です。
こんな機会でもなければ絶対に行かないでしょう。
しかも、豪華客船の旅。浅見シリーズは基本的には旅物。
旅の面白さが語られるこのシリーズで、世界一周が紹介させるなんて
目茶目茶面白そうじゃないですか!事件なんか起こらなくてもいいから
旅だけ語ってくれたっていいくらいに楽しみでしょう?
それだけじゃない。何と内田康夫もフルで登場。
その上、何と岡部警部まで競演と来た日にはアナタ、
もうこれは読むっきゃないでしょう?ねえ?

何か近所のおばさんの井戸端会議みたいな口調になってしまった…。
でも、まあそういうことなんです。本の魅力について語るのが
本当のブックトークってもの。ブックトークの注意事項は
「評論家になってはいけない」だそうで、そうなると
今回のこの上の文章(100字ブックトーク以降)は
真の意味のブックトークですね!やった!
感想ではないけど。勿論、書評でもない。

よみもののきろくって、その作品ごとに
ブックトークになったり、書評になったり、
はたまた単なる感想になったり、一定しませんね。


それはさておき、本作です。
出航直前「貴賓室の怪人に気をつけろ」なんて謎の手紙は貰うわ、
信じられないくらい条件のいい、世界一周取材の依頼主は秘密だわ、
その上その船のロイヤル・スイートには天敵(?)内田康夫まで
乗っているわで、波乱含みでの海上出発になった浅見光彦。
その上同室になった男は行方不明。とんでもないこと続きです。

スイートのお客達に色々と妙なことが起こったりしますが、
その間に豪華客船の旅の日々が丁寧に語られていき、
まるで自分が日常を離れて、楽しく船旅をしているような気分に。
これが浅見シリーズの醍醐味なのです。

やがて事件にまで発展して、浅見の行動が拘束され始めると
次は岡部とのやり取りなどのミステリ部分が進行しはじめます。
うーん、1冊で異なる魅力を楽しめるなんてお得ですね。

最終的には、色々と不満も残しつつ、ある程度の解決はみます。
すべてに決着がつかず、謎を残したのはこれに繋がる次の作品が
あるということでしょうか?まだ世界も一周してないですしね。
(物語のラストは岡部達が下船するムンバイ=ボンベイだった。)

何となく、残された謎が気になりますが、
ラスト的にはまあ、浅見シリーズらしい終わり方だったと思います。


浅見ファンなら是非ご一読下さい!…な1冊です。





菜の花の一押しキャラ…堀田 久代 体力に自信があり、夜道で暴漢に襲われたら投げ飛ばすつもりの彼女、     しかし襲われないどころか男性が近寄ってくること自体、あまりないらしい…。  ま、身長172センチで剣道11年、合気道8年の腕前ですから当然といえば当然? 「ふーん、そうねえ、彼なら悪くないかも…なんてね。    冗談よ、人の恋路の邪魔はしない主義ですの。ははは…」 (江藤 美希) 勿論、「彼」とは浅見光彦。かっこいいですからね。
主人公 : 浅見 光彦
語り口 : 3人称、視点は少し移動
ジャンル : ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : ライト

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★+★★
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152. 「ペルシャ猫の謎」     有栖川 有栖
2005.07.15 短編集 324P 552円 1999年5月初出
2002年6月発行
講談社文庫 ★★★+
推理小説の禁じ手が!?国名シリーズ第5弾

国名シリーズの短編集です。


<100字ブックトーク>
 推理小説の禁じ手!?話題騒然の表題作「ペルシャ猫の謎」。
  血塗られた舞台に愛と憎しみが交錯する「切り裂きジャックを待ちながら」。
  名脇役・森下刑事が主役となり推理を披露する「赤い帽子」
  など7篇収録の短編集 (100字)


うーん、禁じ手です。禁じ手。
本格派の旗手である有栖川氏が使う禁じ手なんて、
一体何だろうなあ?と不安半分、興味半分で読んでみましたが…。

へー。あー、そうかー。確かに有栖川氏の「火村」シリーズでは
これは禁じ手だよねー、と思いました。
詳しく書いてしまうとネタバレしてしまうので伏せましょう。
しかも1つじゃないですね。複数ですよ?

短編集全体を通していえることは、
本作は「火村」シリーズでありながら、本筋ではないということ。
どこか外伝というか、はたまた外道というか…そんな感じです。


●「切り裂きジャックを待ちながら」
 かの有名な「切り裂きジャック」を題材にした演劇で
 ヒロイン役をつとめる女性が拉致され、脅迫ビデオが送られてきた…?
 劇団の中ではいたずらか否かで意見が分かれ、
 その鑑定に推理作家の有栖川が呼ばれる。

 <解説>
 元々はミステリ特集のTV番組で、ミニドラマの脚本として書かれた
  作品を改変したもの。犯人が不可解で、
  すべてが割り切れる有栖川氏の作風からは一線を画す作品。

 評定:★★★★★


●「わらう月」
 「わたし」は子供の頃、月が怖かった。今も好きになれない。
  そんな私を彼は笑う。刑事さんがわたしのもとへやって来た。
  半年前の事件で、容疑者になった彼のアリバイ確認のためだ。

 解説
 1人称ものだが、シリーズものでは珍しく、有栖川の1人称ではない。
  「わたし」は証人である。犯人でも探偵でもない珍しい立場だ。
  本作は「月」をキーワードに「わたし」の思い出をちりばめることで
  不思議な雰囲気の作品に仕上がっている。
  
  評定:★★★+
  

●「暗号を撒く男」
 今日は火村が大人しい。
  どうやらフィールドワークで傷ついたらしい。
  この名探偵が傷つく現場とは…?

 解説
  テーマは暗号。世の中には暗号が満ち満ちている。
  信号機だって「赤が止まれ、青は進め」という
  お約束の有る一種の暗号だ。殺人現場に残された暗号。
  それは必ずしも、犯罪の暗号とは限らない。
  暗号は、日常生活の隅々まで、行き渡っているのだから。
  「謎」の答えが、珍しい作品。
  
  評定:★★★+


●「赤い帽子」
 雨の夜、殺された男は赤い帽子をかぶっていた。
  若手刑事・森下は捜査を続け、真実へと確実に近づいていく。

 解説
 シリーズ中で名脇役?として登場する森下刑事が主役に
  据えられた異色作。刑事らしい、地道な捜査が
  着実に真実への道となっていくのが面白い。
  何と、大阪府警の「社内誌」に掲載されたというのも
  また異色作と呼ぶにふさわしい。
  内容自体はしっかりとした推理小説である。
  
  評定:★★★★+


●「悲劇的」
 担当編集者の片桐と飲んでいた有栖川。
  片桐はふと「いい新人はいないか?」と聞いてくる。
  そこで思い出したのが火村の部屋で見たレポートだった。

 解説
 ストーリーがあるのかないのかも分からない。
  少なくとも、推理小説ではない。
  しかし、興味深い文章である。
  優しい作者の、心の叫びのようなものを感じる。
  勿論、秀逸なのは最後の1行である。

  評定:★★★★★


●「ペルシャ猫の謎」
 別れた恋人が置いていった猫と2人暮らしの一孝。
  ある夜、侵入者に鈍器で殴られ昏倒させられる。
  彼は自分の双子の弟を目撃したと主張するのだが…。
  
  解説
 これ、問題作ですね(笑)。まあ、事件自体は
  大体納得できるのもですしよいのですけれど、
  被害者の主張は割り切れないかもしれません。
  「可能性を否定していって最後に残ったのが
  どんなにありえないことでも真実なのだ」というのを
  実践して見せてくれた作品。たまにはいいよね?

  評定:★★★★★


●「猫と雨と助教授と」
 わたし、アリスが取材旅行先から送った芋羊羹のお礼に
  火村の家主であるばあちゃんから電話がかかってきた。
  その後ろでは猫の声。どうやら火村がまた1匹、
  拾ってきたらしい。

 解説
 他愛もない、アリスとばあちゃんの雑談。
  たった5Pのその話の中で、火村の意外な姿が
  くっきりと浮かび上がってくる。
  そう、意外なのだが、しかしどこか納得できる
  微笑ましい助教授の姿が…。
  
  評定:★★★★★
  
  

ちなみに全編を通じてどこかに必ず「猫」が現れます。
是非、探してみましょう!!





菜の花の一押しキャラ…火村 英生 「姐ちゃんら、どんな関係の仕事をしてんねや?」 「人殺し関係です。」 (飲み屋の客、朝井小夜子) 真顔で答える小夜子さんが素敵すぎ。
主人公 : −
語り口 : 1人称
ジャンル : 本格ミステリ
対 象 : 一般向け
雰囲気 : 問題作多数

文 章 : ★★★+
描 写 : ★★★+
展 開 : ★★★+
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP 有栖川有栖の著作リスト
153. 「犬神奇談」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.07.16 長編 318P 630円 2002年7月発行 講談社X文庫ホワイトハート ★★★★★
首のない犬が深夜に詣でる?悲しい犬の物語


「ペルシャ猫の謎」で猫を読んだら、次は「犬」です。
なんだか、動物大好き!みたいな本の選び方だな…。
単なる偶然ですが。


<100字ブックトーク>
 一仕事終えたご褒美に、琴平温泉旅行にやってきた天本、敏生、龍村。
  そこで偶然にも敏生の寮の同室者であり親友だった弘和に再会する。
  敏生は弘和から、深夜に首のない犬の
  こんぴら参りを目撃するのだと相談を受ける (100字)


四国です。そして何と「琴平温泉」です。
奇談シリーズの読者なら、思わずにやりとせずにはいられない
気になる地名ですね。でもまあ、別に彼がこの温泉と
何か関係がある、というわけでもないのですが。


菜の花、犬神といえば「もののけ姫」でそんなのいたかな?
…くらいしか知識がないので、どんな神秘的な神様が登場するのかと
大きな勘違いをしていました(うーむ、世間知らずなのか?)。
実際には、とても悲しい犬のお話です。


展開は、まあ、特によくも悪くもなく。
お約束どおりのような、まあいいテンポでしょう。


そして今回、敏生の過去を知る人物登場。
敏生の学生時代の話って、実は闇の中だったんですよね。
そんな彼の親友が、色々と
「あー、確かにこれは敏生ですな」
と思うエピソードを紹介してくれます。
それほど予想外のことはないですが。

それにしても一瀬氏、すごいです。
このお人、いい人ですね。しかもタフだし、
非の打ち所のない好人物です。
あー、ちょっと人よすぎで損するかもしれませんが。
そんな彼が一人前のうどん職人となって
再登場するのが楽しみであります。




菜の花の一押しキャラ…一瀬 弘和 「文化人類学者の言う『新しい』は昨日、一昨日の話じゃない。     何しろ、あいつの『古い』は、縄文・弥生時代に遡っちまうからな。 極端なんだ。」                         (龍村 泰彦) すみません、菜の花の「新しい」は数万年前、 「古い」は30億年くらい前です。てへへ。 
主人公 : 天本 森、琴平 敏生
語り口 : 3人称
ジャンル : 恋愛オカルトノベル
対 象 : ヤングアダルト
雰囲気 : ライト

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
154. 「スカイ・クロラ」     森 博嗣
2005.07.17 長編 320P 1000円 2002年10月発行 中央公論新社 ★★★★+
動的、かつ静的な、戦闘機乗りの子供の物語


森氏の小説作品にしては珍しい、人物が表紙にいる装丁です。


<100字ブックトーク>
 僕、カンナミユーヒチは戦闘機のパイロット。
  飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。
  二人の人間の命を消したのと同じ指で
  ボウリングもすればハンバーガも食べる。
  戦争を仕事にしなくては生きられない子供達の物語 (100字)


文章自体は大変、クール。
1人称とは思えないほどのクールさです。
それは主人公がどこか諦めのようなものを持った、「子供」だから。
普通、子供といえば生き生きとした感情に、
むしろ振り回されがちだと考えられるのに、
この物語では「子供」はこういう人々。
何か謎があるな、と序盤から匂わせていますが、
これについては保留のまま物語が進んでいくので
気になっているうちにどんどんページを繰ってしまいます。


文章のクールさと比べて熱いのは飛行中、特に戦闘中の動き。
専門用語多用で、素人の菜の花には相当分かりにくいですが、
逆に何となく自分の専門とは違う世界の雰囲気が感じ取れる気もします。
短い文章、けれど無意味な言葉の配列ではない、この羅列。体言止め多用。
読者が主人公に自分を重ね合わせる場合の常套手段、1人称の省略。
これにより、テンポが大変よくなり、まるで自分が「僕」と一体化して
大空を飛び回っているような爽快感が感じられます。
本作で最も秀逸だったのは、この飛行シーンだったと思います。


キャラたちはどこか、翳を背負っていて色々と秘密がありそう。
徐々にくっきりしていく人々の輪郭。大きな展開。
転がるように雪崩れ込んでいくラスト。
全体の起承転結は、はっきりしています。
特に面白かったのは、比較的平坦なのに
飛行シーンでアクセントのついている「承」の部分ですね。
「結」部分はいきなり、「四季」シリーズで全開している森博嗣らしさが
前面に押し出される感じです。元々、主人公の内面にそういうカラーが
抱え込まれていたのは前半部分で明らかなのでギャップはありません。
中間部分、後半でどちらが好きかは個人の好みの問題ですが、
菜の花としては中間部分の雰囲気の方が好ましいかな…。



森ミステリはちょっと肌にあわない、という方でも
この作品は一度、読んでみると面白いかもしれません。




「また、飛行機に乗れるかな?」(カンナミ ユーヒチ)
主人公 : カンナミ ユーヒチ
語り口 : 1人称
ジャンル : SF?
対 象 : 一般向け
雰囲気 : アクション、退廃的

文 章 : ★★★★+
描 写 : ★★★★+
展 開 : ★★★+
独自性 : ★★★+
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★+
よみもののきろくTOP 森博嗣の著作リスト
155. 「隻手の声」     椹野 道流(ふしのみちる)
2005.07.18 長編 252P 780円 2002年9月発行 講談社 ★★★★+
現実と非現実の中で揺れる、肉親の情の物語


菜の花の中で大好評の「法医学教室オカルトファイル」シリーズ第4作です。


<100字ブックトーク>
 法医学の院生・伊月は、ネットゲームの世界で出会った女性に
  心惹かれる。やがて彼女のことが明らかになり…。
  現実世界では、酒乱の息子に殴殺された老人や
  幼い兄に殺された赤子の解剖。明るい希望はどこにあるのか? (100字)


今回は珍しく、完全オリジナルなブックトークを書いた!
ちょっと嬉しいです(←普段、さぼりすぎ?)。
だって、背表紙の「作品紹介」が気に入らなかったんだもん。
いいんだけど、物語の骨子を書いてないというか…。
まあ、菜の花の書いた紹介では、龍村先生が出てきてない!
とか、ファンなら怒りの声をあげたくなるものもあるのですが…。
いかんせん、100字は少ないよ。やっぱ。それを何とかするのが
本当の筆力というものなのでしょうが…。まだまだ修業が足りません。


さて、内容です。
シリーズの定型どおり、事件(主人公の職種上、殺人事件が主で
かつ、それらはすべて、遺体を通して語られる)が独立して頻発します。
その中で主人公の新米法医学者(の卵)の伊月が学び、
最終的に何か結論を出していく、という形式。
今回は最初から最後まで、ゆるやかなエピソードが横たわっています。
それが「ネットゲームで知り合った女性との交流」。
ひょんなことから始めた「ネットゲーム」。
それは「ドール」と呼ばれる自分の3Dキャラクターを設定し、
中世ヨーロッパをイメージしたネットの中のヴァーチャル世界で
自分の好きなように冒険をする「AW」というゲーム。
ネットゲーム初心者の伊月は、この世界の森の中に迷い込み、
野獣に襲われていきなり大ピンチに陥ります。
それを助けてくれたのが「ブルーズ」という女性ドール。
そこから伊月はネットゲーム、というよりこの「ブルーズ」に
先輩で研究室助手の伏野ミチルや、親友で刑事の筧が心配するほど、
のめりこんでいってしまうのです。
徐々に明らかになる「ブルーズ」のリアルでの姿。
彼女は大きな問題を抱えています。
けれどそれはヴァーチャル世界での告白。
伊月にはどうすることも出来ないのです。
そして、現実世界では次々に遺体が運ばれてきて、
悲しい事件をさばいていかなくてはなりません。
その上、ミチルと都筑教授の計略(!?)により、
兵庫県監察医の龍村先生の下で週1回、修業するはめになったり…。
そこではこれまでの解剖室とは比べ物にならないくらい、
超ハードなお仕事の実態が…。

自分が出来ることって何だろう?
伊月のそんな姿勢が、とてもいい。
そして、そんな張り詰めてもよさそうな伊月を癒してくれる!?
筧の飼い猫・ししゃも。これはうまい配置です。

どんなに辛いこと、やりきれないことが起こっても、
太陽は昇り、毎日は過ぎていく。
そして、日常は容赦なく、人々を巻き込んでいく。
落ち込んで、感傷的になっていたって、
人はご飯は食べるし、ちゃんと眠ってしまう。
そういうのが、とてもリアルで好きです。
リアリティがリアリティとして描かれているのではなく、
淡々とした日常こそがリアルである、という感覚。
事件自体は非現実かもしれませんけどね。
でも今回は、オカルトが入ってなかったですね、そういえば。
入っていたのは現実的なヴァーチャル世界。だけか。

それにしても龍村先生、別人みたいに怖いっすー。
お仕事中毒ですね。そんな気はしてましたが。


「ブルーズ」のエピソードが綺麗に全編を貫いていて
シリーズ中でもなかなかまとまりのあるいい作品に仕上がっていると思います。




菜の花の一押しキャラ…伊月 崇 「教授の特権や。庶民は甘い汁を吸われへん運命なんやで」  「酷ぉい。切ったの、私なのに」              「秘書に必要とされとるのは、美しい奉仕と自己犠牲の心や」 「そんなのいやですにゃー」                (都筑教授&秘書の住岡峯子) 何て楽しそうな研究室なんだ!
主人公 : 伊月 崇
語り口 : 3人称
ジャンル : 法医学ノベル
対 象 : 一般
雰囲気 : ライト、でも深い。法医学

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★+
椹野道流の著作リスト よみもののきろくTOP
156. 「安心して読めるボケの話 頭の老化にまつわる最新医学」     高田 明和
2005.07.22 実用書 224P 1100円 1999年11月発行 青春出版社 ★★★+
ボケに関する情報を、正しく知って生かそう


いきなり、「ボケ」です。
菜の花、最近ボケてきちゃってー。ちょっと心配です。
まだ若いのにねえ。


<100字ブックトーク>
 ボケをいたずらに怖がってはいけない。
  ボケに関する医学は日々進歩している。
  本書は誰でも判断できる様々な兆候から
  介護保険の知識まで平易に解説している。
  信頼のおける情報を正しく知り、対処し生かしていこう。 (99字)


もう、そのままです。上に書いただけですべてです。
あとは本書を実際に手にとってみて下さい。

平易です。誰でも読めます。専門知識は一切不要です。
ただ、ボケを知りたい、という意欲だけが必要なだけです。


本書ではまず、「ボケ」についてどういうものか、
単なる物忘れとはどう違うのか、を明快に記し、
「老化」と「痴呆」についてを明確化します。

その上で、ボケのメカニズムやその原因について
現在(1999年)の時点で分かっているだけの考えを
実際のデータを根拠として提示しながら極めて平易に解説しています。
(ちょっと平易すぎて物足りないくらい!?)
重要なのは、データを挙げてくれることですね。
やはり、学術的には「そう考えられています」だけじゃ弱いです。
データがあるからこそ、人はその話を信頼するのです。


ボケの予測テストを実際に掲載してくれていますので
身近に「もしかして、ボケかも!?」という人がいたら
思わずチェックしてみたくなります。
もちろん、菜の花本人もチェックしましたけど。
さすがに、痴呆じゃなかったみたいです。そりゃまー、そっか。
20代半ばの、身体も健康な大学院生が痴呆じゃ洒落にならないわな。


そして重要なのは、ボケちゃったらどうしたらいいのか!?ということと、
ボケないためにはどうすればいいの!?…ということ。
という訳で、本書をふんふん、と読んだ菜の花は、
これから生活を正そうと思いました。えへへ。
ついでに両親にも、ちょっと進言しようと思ってます。
え?どういうことをかって?それは本書を読んでみて下さい。





主人公 : −
語り口 : −
ジャンル : 医学書
対 象 : 一般
雰囲気 : 極めて平易

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★+
よみもののきろくTOP
157. 「かまいたち」     宮部みゆき
2005.07.29 短編集 274P 520円 1993年新人物往来社、1997年10月発行 新潮文庫 ★★★+
江戸の町の人情物語。宮部みゆき初期短編集


久し振りの宮部みゆき時代物です。


●かまいたち
 夜な夜な出没して江戸市中を騒がす正体不明の辻斬り
  「かまいたち」。人は斬っても懐中は狙わないだけに
  人々の恐怖はいよいよ募っていた。そんなある晩m
  町医者の娘おようは、辻斬りの現場を目撃してしまう…。

 <解説>
 短編ですが、100ページ近いので中編と言ってもいいかも。
  一〜六まで章わけされています。内容は意外に複雑です。
 主人公のおようにとってはそれほど複雑ではなさそうですが
  ときどき挿入される、おようではなく他の人々の動きが、
  一体、誰がどんな役割を果たしているのか?ということを
  明瞭に示唆しているようでもあり、余計に混乱させるようでもあり。
  情報が多い分、読者の方が困惑してしまう可能性があります。
  おようは、彼女が得られる情報で一番分かりやすい結論をもとに
  行動を起こしていきます。しかし読者にはその結論は
  間違っているであろう、ということがきっと分かっているのです。
  その中を駆け抜けていこうとするおようを見ていると
  思わず手に汗握って応援したくなるのです。
  ラストも、宮部みゆきらしく
  綺麗なハッピーエンドにまとめてくれています。
  
 評価:★★★★★



●師走の客
 純朴な宿屋夫婦に旅人から「うまい話」が持ちかけられる。
  最初は半信半疑だった夫婦だったが、いつしかその話に
  のめりこむことに…。

 <解説>
 宿屋夫婦はとても純朴で、決して最初から
  欲にかられた訳ではないのです。
  彼らの「うまい話」への半信半疑さはとても自然で
  私達でもきっと抱く疑いであるのに気付くとずるずると…、
  というのがとてもリアルに描かれています。
  荒涼としてしまいそうな雰囲気をしかし、
  子供の存在が和やかなラストへと導きます。
  

 評価:★★★★



●迷い鳩
 通町の六蔵親分の妹である町娘のお初はある日、
  不思議なものを見てしまった。道行く女性の袂に
  血のようなものがべったりとついているのだ。
  それは他の人間には見ることの出来ないもので…。

 <解説>
 後に「霊験お初捕物控」という長編に続いていくことになる、
  お初シリーズの記念すべき第1作。彼女にとって大切な
  最初の出会いも描かれている短編。
  歴史上の人物あり、超能力あり、しかも時代物で
  ミステリでもある…、という他では見掛けないような
  宮部みゆきらしい作品。勿論、人の心の機微を
  丁寧に描くことも忘れられていない。
  まとまりもよい好作品。

 評価:★★★★



●騒ぐ刀
 気弱な同心がつかまされた脇差は、うめき声をあげる一品だった。
  通町の六蔵親分の元に持ち込まれたその刀、何とお初の耳には
  言葉として聞こえたのだ。六蔵、直次、お初兄妹の活躍。

 <解説>
 「迷い鳩」に続く短編。一言で言えば、動きの多い作品。
  不思議な刀に翻弄され、繰り返される悲劇。
  地道な六蔵親分の、ミステリ的な探索、
  「刀」に導かれて出掛けた直次の、冒険活劇的な道中、
  そして最後は明るいお初というキャラクターが全てをまとめて
  悲劇を打ち破るという様々な色を1つに収めている。
  物語にジャンルはないのだ、ということを実感できる。
  ただ、ラストの動きは少し軽すぎる気も。

 評価:★★★





菜の花の一押しキャラ…直次 あの身の軽さ、実は単なる庭師じゃないっしょ? 「内藤様もお気の毒に、また竹光を差しているそうだ」(六蔵) 「また」ってあなた…涙なしには聞けない、内藤様の悲劇(笑)。
主人公 : −
語り口 : 3人称
ジャンル : 時代ミステリ
対 象 : 一般
雰囲気 : 明暗あるが親しみやすい

文 章 : ★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★+
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★
付録・宮部みゆき著作リスト よみもののきろくTOPへ
158. 「つかぬことをうかがいますが…」     ニュー・サイエンティスト編集部編 / 金子浩訳
2005.07.30 雑学 339P 720円 1999年7月発行 早川文庫 ★★★★★
科学者も思わず苦笑した102の質問


挿絵がちょっと可愛かったので手にとってみました。
何だか親しみやすい絵柄なのです。

<100字ブックトーク>
 イギリスの週刊科学雑誌「ニュー・サイエンティスト」の
  最終ページに連載されているコーナーの翻訳版。
  身近な疑問に片っ端から答えているが、
  質問も答えも両方読者投稿によるという、
  ユニークな科学雑学Q&A集。 (99字)

一番驚いたのはやっぱり、Qが読者投稿、というのはよくあるけれど、
Aの方まで読者投稿だってことですね。
それで1冊の本として成立してしまうのもすごい。
さすがに科学雑誌なので、読者もインテリが多いのか?

真面目にとんでもなく学術的な回答もあり、
中にはすごいイギリスらしさにあふれたジョークもあり。
1つの疑問に対する答えも複数存在するので
あー、そういう考え方もあるのねー、と思うことしばしば。

注意しなくてはいけないのは、回答も読者投稿で、
それは必ずしも正しい情報ではない、ということ。
こういう形式の本では、何となく書いてあることが
みな正しく思えてしまうのは菜の花だけではないはず。
でもどんなことも、無条件で受け入れてはいけないのです。
入ってくる情報をちゃんと自分で吟味して、検証して、
それで納得できるものを信じる、それはサイエンティストとして
持つべき姿勢です。というか、考えることのできる生き物なら
きっとそうあるべきなのではないでしょうか。
この本を読んでいると、普段自分がいかに、
その辺りに転がっている玉石混淆の情報を、
無神経にすべてを正しいと判断してしまっているかということに
気付かされました。本に書いてあるからって何もすべてが正しい訳じゃない。
ちゃんと自分で判断しなくちゃいけないのです。

読書をしていると、ただただ流し読みしていってしまって
短期記憶の部分に一旦しまって、すぐに忘れてしまうことがよくあります。
何も考えていないから、その後何の役にも立たないのですね。
でも本当の読書ってそういうものじゃなくって、
文字を読み取って、自分の中に仕舞っていって、
次のアウトプットのために用意する…、
菜の花は読書とはそういうものだと思っています。

この本は、常に考えながらじゃないと簡単にジョークの答えや
非科学的な答えに騙されてしまいそうな雑学本。
緊張感がなんとも言えないし、単なるインプットに終わらない
何か新しい読み物であると思います。




主人公 : −
語り口 : Q&A
ジャンル : 科学雑学
対 象 : 一般
雰囲気 : 学術的なものから冗談まで

文 章 : ★★★★★
描 写 : ★★★★★
展 開 : ★★★★★
独自性 : ★★★★
読後感 : ★★★★★

総合評価 : ★★★★★
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